WhenChaiMetToast
2023年02月21日
2022〜23インド冬フェスシーズン 最も多くの出演したのは?
夏フェスがポピュラーな日本とは異なり、インドの音楽フェスティバルのシーズンは冬。
インドのインディペンデント系音楽メディアSkillboxに、2022〜23年のシーズンに最も多くフェスに出演したインディーアーティスト・トップ10を紹介する記事がアップされていた。
これがなかなか面白かったので紹介したい。
(元記事はこちら)
この記事によると、1位に輝いたのは、プネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsで、8つのフェスに出演したとのこと。
出演したフェスの内訳は、Bacardi NH7 Weekender (プネー), Bloom In Green (クリシュナギリ), Echoes Of Earth (ベンガルール), Idli Soda (チェンナイ), India Bike Week (ゴア), Lollapalooza India (ムンバイ), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ)。
南インドのチェンナイやベンガルールから、北東部の最果てアルナーチャル・プラデーシュ州のジロまで、まさにインド全土を股にかけたということになる。
クリシュナギリという地名は初めて聴いたが、南インドタミルナードゥ州(州都はチェンナイ)の地方都市だ。
その郊外で行われたBloom in Greenは、人力トランスバンドや無国籍風ワールドミュージックアーティストが出演したオーガニック系の自然派フェスティバルだったようだ。
これまで南インドのフェスはあまり取り上げていなかったが、改めて調べてみると、結構面白そうなイベントが開催されている。
今シーズンのフェス出演映像は見つからなかったので、2017年のNH7 Weekender出演時の様子をご覧いただきたい。
このブログでも何度も取り上げてきたEasy Wanderlingsは、曲良し、歌良し、演奏良しの素晴らしいバンドで、彼らが1位というのは納得できる。
野外で彼らのオーガニックなサウンドを聴けたら最高だろう。
日本でもフジロックか朝霧JAMあたりで見てみたい。
冬フェス出演回数2位には、6組のアーティストが該当している。
それぞれの出演フェスティバルも合わせて紹介すると、
- Anuv Jain
Bacardi NH7 Weekender (プネー), Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Vh1 Supersonic (プネー), Zomaland (ハイデラーバード), Zomato Feeding India (ムンバイ) - Bloodywood
Bacardi NH7 Weekender (プネー), Indiegaga (コチ), Lollapalooza India (ムンバイ), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Oddball Festival (ベンガルール、デリー), Rider Mania (ゴア), The Hills Festival (シロン) - Peter Cat Recording Co.
Gin Explorers Club (ベンガルール), India Cocktail Week (ムンバイ), Jaipur Music Stage (ジャイプル), LiveBox Festival (ベンガルール), Rider Mania (ゴア), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ) - Thaikkudam Bridge
GIFLIF Indiestaan (ボーパール), Idli Soda (チェンナイ), Indiegaga (ベンガルール、コーリコード), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Rider Mania (ゴア), Signature Green Vibes (ハイデラーバード), South Side Story (ニューデリー) - The Yellow Diary
Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), LiveBox Festival (ムンバイ), Lollapalooza India (ムンバイ), Oktoberfest (ムンバイ), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Zomaland (アーメダーバード、ハイデラーバード、ニューデリー) - When Chai Met Toast
India Cocktail Week (ベンガルール), Indiegaga (コチ), International Indie Music Festival (コヴァーラム), North East Festival (New Delhi), Parx Music Fiesta (Mumbai), SpokenFest (Mumbai), Toast Wine and Beer Fest (Pune)
詳細はアーティスト名のところからリンクを辿っていただくとして、ここではこれまでこのブログで取り上げたことがない人たちを紹介したい。
Anuv Jainはパンジャーブ出身の主にヒンディー語で歌うアーバン・フォーク系シンガー。
2018年のデビュー曲の"Baarishein"で一気に注目を集め、この曲、まったく絵が動かないシンプルなリリックビデオにもかかわらず、YouTubeで5,000万回以上も再生されている。
歌詞はわからなくても、彼の非凡なメロディーセンスが理解できるだろう。
ヒンディー語がとっつきにくいという人は、こちらの英語曲"Ocean"をどうぞ。
アレンジに関しては、弾き語りというか、最小限のバッキング以外は入れない方針っぽいのが潔くもあるし、少しもったいない気もする。
The Yellow Diaryはムンバイ出身のインド・フュージョンっぽいポップバンドで、2021年にリリースしたこの"Roz Roz"という曲のYouTubeでの再生回数は1,000万回を超えている。
ちなみにこの後には8位タイとして、6つのフェスに出演したParvaaz(ベンガルール出身のヒンディー語で歌うインディーロックバンド)、Taba Chake(北東部アルナーチャル・プラデーシュ出身のウクレレ・シンガーソングライター)、The F16s(チェンナイ出身のロックバンド)、T.ill Apes(ベンガルール出身のファンク/ヒップホップバンド)の4組が名を連ねている。
元記事を書いたAmit Gurbaxaniは、この統計を取るために50以上のフェスティバルを調べたとのこと。
そのうち2つ以上のフェスにラインナップされていたアーティストは70組以上。
オーガナイザーの話では、出演者選定の理由は、
- 人気があること
- ストリーム数、動員、ソーシャルメディアの活躍
- 開催地が地元の場合、しっかりとしたファン基盤があること
- ヘッドライナーのアーティストとの相性を考慮
典型的なメタルバンドはラインナップしづらいけど、Bloodywoodみたいな個性のある面白いバンドは例外とのことで、なるほど、彼らは日本でいうところのマキシマム・ザ・ホルモンみたいな存在なのだろう。
それにしてもBloodywoodは欧米でも日本でも母国でも、フェス人気がかなり高いようだ。
DIVINE、Prateek Kuhad、Ritvizといった人気アーティストの出演が少ないのは、独自のツアーが忙しいからだそうで、これも世界共通の傾向だろう。
最後に今シーズンのフェスの映像をいくつか紹介してみたい。
まずは、南インド各地で行われた巡回型フェスティバルIndiegagaから、ケーララ州コチ会場のBloodywoodのライブのアフタームービー。
続いて同じIndiegagaでも、こちらはコーリコード会場から、地元ケーララのThaikkudam Bridgeのライブの模様。
ベンガルールで行われたOddball Festivalのアフタームービー。
プネーの大型フェスNH7 Weekenderから、When Chai Met Toastのライブの様子。
今回紹介したのはロック系のフェスが中心になってしまったが、EDMやヒップホップが優勢に感じられるインドで、ロックも根強い人気を保っていることが確認できた。
インドのフェス、ほんとそろそろ遊びに行きたいんだよなあ。
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2022年05月05日
インドのアニメーション・ミュージックビデオ特集!(その1)
いつ頃からか、インドのインディペンデント音楽シーンで、面白いアニメのミュージックビデオが作られていることに気づいた。
その傾向は、密になっての撮影が困難となったコロナ禍以降、さらに加速している。
考えてみれば、もともと巨大な映画産業をバックボーンとした映像文化があり、近年ではIT人材でも世界を席巻しているインドで面白いアニメが作られるのは、必然とも言える。
インディーの映像作家の作品ゆえ、ローバジェットで荒削りなものも多いが、同様に限られた予算で音楽を作り、なんとかして印象に残るミュージックビデオを作りたいというインディーミュージシャンたちと意気投合してコラボレーションしているのだろう。ユニークな発想や感覚の作品が多く、どれもまるで短編映画を見るかのように楽しめる。
というわけで、今回はインドのインディー音楽シーンで見つけた、アニメーションのミュージックビデオ特集をお届けします。
Takar Nabam "Good Night"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストミュージックビデオ部門の3位に選ばれたのがこの作品。
インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガーソングライターTakar Nabamの曲に、新進アニメーション作家のHage Nobin(名前と見た目を見る限り、彼もまた北東部出身者のようだ)が映像をつけた。
1954年に、ソ連による宇宙開発実験でスプートニク2号に乗せられて宇宙に打ち上げられ、そのまま命を絶った「はじめて宇宙空間に到達した地球の動物」である犬のライカをテーマにしたストーリーが胸を打つ。
初期ピクサー作品のような質感のCGアニメーションは、無国籍な雰囲気で「インドのアーティストが英語でソ連の犬のことを歌う」というこの曲によく似合っている。
Smoke Screen "Chiku"
マハーラーシュトラ州の学園都市プネーを拠点に活動するロックバンドSmokeScreenとニューデリーのアニメーション作家Ishan Srivastavaのコラボレーション。
カートゥーンのようなかわいらしい映像だが、ストーリーはかなり不憫なもの。
彼らによると「超ダークな喜劇」または「超こっけいな悲劇」というこの作品は、「聖書風であると同時に究極にニヒリスティックなショートムービー」だそうだ。
主人公の男の子は「神の子」を表しているのだろうか、あまりにも衝撃的な結末に開いた口がふさがらない。
Antariksh "Quest"
ニューデリーのギタリスト/ヴォーカリストのVarun Rajputを中心としたヒンディーロックバンドAntarikshの"Quest"は、シタールのソロを取り入れたプログレッシブ・メタル。
インドにはこの手のバンドが多いが、それはプログレッシブ・ロックとインド古典音楽が「リズムの複雑さ」という点で共通しているからなんじゃないか、と常々感じている。
このビデオはラッパーのPrabh Deepの作品も手掛けたことがあるビジュアル・アーティストのPratik Deyが監督を務めている。
インディペンデント制作にしてはかなりしっかりとした体制で作られた作品のようで、コンセプトとヴィジュアライゼーションにはPratikのほかにBalaram JとShreya Menonという人物が名を連ね、さらにバックグラウンド・アーティストとして3人、アニメーション担当として9人がクレジットされている。
時間が止まったディストピア的な世界(しかしそれは現代インドとよく似た世界でもある)を舞台とした物語に、メンバーの演奏シーンや不思議な世界を旅する男の映像が融合され、存在理由を問いかける哲学的な歌詞とあいまって、こちらも非常に印象的な作品。
ギターソロには、元メガデスで日本語が達者なことでも知られるマーティ・フリードマンが参加していて、彼もまたアニメーションで描かれている。
When Chai Met Toast "When We Feel Young"
ここまで、文学的だったり哲学的だったりする作品を紹介してきたが、日常やノスタルジーを上手に描いているアーティストも(アニメーションと音楽の両方に)存在する。
南インド・ケーララ州のバンドWhen Chai Met Toastのフォーク・ポップに、西インド・グジャラート州のAnjali Kamatによる独特のタッチのイラストがよく似合っていて、両者のコラボレーションは相性抜群だ。
彼女のアニメーションはアコースティックなサウンドを志向するアーティストによく取り上げられていて、例えば他にはこんな作品がある。
Taba Chake "Walk With Me"
Taba Chakeは最初に紹介したTakar Nabamと同じ北東部アルナーチャル・プラデーシュ出身のシンガーソングライターで、今ではムンバイを拠点に活動している。
彼もフォーキーなスタイルを特徴としていて、その世界観はAnjali Kamatのアニメーションと良く合う。
スマホが手放せない現代生活も、彼女の手にかかると、どこか優しくてあたたかみのある雰囲気に仕上がるのがさすがだ。
彼女は他にもPrateek Kuhadのリリックビデオなども手掛けていて、インドのインディーポップシーンに欠かせないアーティストになりつつある。
…と、今回はすでに5つもの作品を紹介してしまったので、ここまでにするけれど、ご覧の通り、作風もさまざまな映像作家たちが、インドのミュージシャンの音楽をアニメで彩っている。
インドには他にもまだまだ面白いアニメーションのミュージックビデオが存在しているので、続きは近いうちにまた書きたいと思います!
それでは!
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2022年04月18日
インドに音楽フェスが帰ってきた!
思えば二年前の今頃、インドは新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ最中だった。
長かったコロナ禍は昨年5月ごろにピークに達し、多くの人が亡くなった。
とくにデリーの状況は深刻で、現地に家族が暮らしているインド人の知人も、何人もの親類を失ったと嘆いていた。
そして2022年、春。
世界はまだまだ新型コロナウイルスを克服したとは言えないが、それでもインドに音楽フェスが戻ってきた。
2022年3月2日にインド政府が新型コロナウイルス流行にともなう規制を全面的に撤廃。
春の訪れを告げる「色彩の祭」ホーリーでは、コロナ禍前から近年の定番となっているEDMに合わせて色のついた粉をぶっかけあうスタイルのフェスティバルがいくつも開催された。
その中でもっとも華やかだったのが、インド系アメリカ人のEDM界のスーパースター、KSHMRを招聘してバンガロール、デリー、ゴア、プネーの4都市で行われたSunburn Festivalだろう。
Throwback to colorful and flavorful Holi celebrations at @SunburnFestival with @KSHMRmusic across Bangalore, Delhi, Goa and Pune.#MakePlayWithFlavors pic.twitter.com/xZ4DyY7pFG
— Bira 91 (@bira91) March 31, 2022
(2022年4月24日追記。Sunburn Holiのオフィシャル・アフタームービーがYouTubeにアップされたので貼っておく。この映像ではKSHMRがインド人シンガーArmaan MalikとK-PopシンガーのErik Namと共作した"Echo"が使われている)
ワクチン接種や健康状態の確認など、一応の感染防止対策は行われていたようだが、会場の様子は完全にコロナ前同様!
ゴアのステージには、3月にリリースした"Lion Heart"でコラボレーションしたDIVINEとの共演も実現して、大いに盛り上がったようだ。
そして、都市巡回型フェスティバルNH7 WEEKENDERも、この春から各地で再開。
プネー、ゴア、ハイデラーバード、ジャイプル、ベンガルール、チャンディーガル、チェンナイ、シロン、グワハティ、コルカタ、ムンバイの各地で久しぶりの音楽フェスが行なわれた(いくつかの会場は、これからの開催)。
下の動画は、プネー会場のアフタームービー。
こちらもすっげえ楽しそう。
出演は、Prateek Kuhad, Raja Kumari, Ritviz, Seedhe Maut, When Chai Met Toast, Kayan, Lifafaら、インドのインディーズ・シーンを代表するアーティストたち。
このNH7 Weekenderは、コロナ禍前なら海外のビッグネームも招聘されていたフェスだが、昨今の状況から、今年は2021年の日本のフジロック同様、国内のアーティストのみで開催された。
やむを得ない事情とはいえ、インドでも国内のインディーズ系アクトだけでこの規模のフェスが開催できるようになったと思うと感慨深いものがある。
(インドにおける「インディペンデント」の定義は難しいが、ひとまずは映画音楽を主戦場にしていないという意味に捉えてほしい)
2日間にわたって開催されたプネー会場は5つのステージで構成され、うち1つはコメディアンが出演するステージなので、音楽系は4つ。
両日ともトリの時間帯には2つのステージが同時並行で行われ、初日のトリはシンガーソングライターのPrateek KuhadとデリーのラップデュオSeedhe Maut, 2日目のトリは「印DM」のRitvizとシンガーのAnkur Tewari(彼だけはボリウッドでの活躍も目立つアーティストだが)が努めた。
Last Saturday was a fun night at @NH7 . Thanks for singing along and making the night special ♥️ pic.twitter.com/pQ92dFl66S
— Prateek Kuhad (@prateekkuhad) April 2, 2022
初日のトリのPrateek Kuhadはオーディエンスも大合唱。
映画音楽じゃない歌でここまで盛り上がっているインド人を見るのは意外かもしれないが、インドの音楽マーケットは確実に新しい時代に突入しつつあることを感じさせられる。
ケーララのフォークポップバンド、When Chai Met Toastのステージも大いに盛り上がっている
渋いところでは、ムンバイMahindra Blues Festivalも今年は国内のアーティストのみで開催。
かつてはバディ・ガイやジョス・ストーンらのビッグネームが出演したこのフェスも今年は国内勢のみでの開催で、メガラヤ州シロンのSoulmateやコルカタのArinjoy Sarkarらがインドのブルース・シーンの底力を見せつけた。
インドのブルースシーンについては、この記事で詳しく紹介している。
最近のインドのいろいろな映像を見る限り、フェスだけでなく、コロナ前の日常が完全に戻ってきているようだ。
日本みたいにまだまだマスクをして気を遣いながら生活をするのが正しいのか、それともインドみたいに割り切って何事もなかったように暮らすのが正解なのか、絶対的な答えは誰にも出すことができないが、二年前の状況を思うと、インドの人たちがここまで思いっきり楽しめるようになったということになんだかぐっと来てしまう。
命を大事に、というが、英語のLifeは命だけじゃなくて人生や生活という意味もある。
感染防止ばかりに気を取られて、生活を楽しむことや一度きりの人生の貴重な時間を無為に過ごすのも考えものだと思う。
(ところで、インドの諸言語だと命と人生と生命は同じ言葉なのだろうか、違うのだろうか)
ここまで振り切って楽しむことができるインド人が正直ちょっとうらやましく思えてしまうのは私だけではないだろう。
ああー、余計なこと考えずに、音楽を思いっきり楽しみてえなあー。
インドの音楽フェス事情はこちらの記事もご参照ください。
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2021年12月29日
2021年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10
というわけで、昨年に続いて今年も2021年にリリースされた作品の中から、売り上げでもチャートでもなく、あくまで私的な感覚で今年のトップ10を選んでみました。
対象は、ミュージックビデオまたはアルバムまたは楽曲。
10曲のなかの順位はとくにありません。
例によって広すぎるインド、とてもじゃないけど全てをチェックしているとは言えないので、ここに入っていない傑作もあるはずですが、それでもこの10曲を聴いてもらえれば、今のインドのシーンの雰囲気が分かるんじゃないかと思います。
それではさっそく!
Seedhe Maut "न"(Na) (アルバム)
デリーのSeedhe Mautが、同じくデリーを拠点とするレーベルAzadi Recordsからリリースしたこのアルバムは、インドのヒップホップのひとつの到達点と言っても過言ではないだろう。
ビートとラップによるリズムの応酬に次ぐ応酬。
かつて天才タブラ奏者ザキール・フセインのソロ作品を聴いて「パーカッションだけで音楽が成立するのか!」と感じたのと同種の衝撃を、このアルバムは感じさせてくれた。
トラックのかっこよさとラップのスキル、サウンドやフロウの現代性とインドらしさ、そしていかにもヒップホップらしい不穏な空気感が、ここには融合している。
これまで、DIVINEにしろEmiwayにしろ、インドのラッパーを語るときには、ラッパーたちののライフストーリーを合わせて紹介することで記事を成立させていたけれど、この作品に関しては、単純に音と雰囲気だけで語ることができる。
掛け値なしに名作と呼ぶことができる作品。
Prabh Deep "Tabia" (アルバム)
こちらもデリー出身のPrabh Deepによる、やはりAzadi Recordsからリリースされた作品。
2017年、インドのヒップホップシーンに彗星のように現れたPrabh Deepは、デリーのストリートの危険な雰囲気を漂わせ、パンジャービー・シクながらもバングラーらしさの全くないラップをドープなビートに乗せて一躍時代の寵児となった。
サウンド面での核を担っていたプロデューサーのSez on the Beatと袂を分かってからは、(ムンバイにおけるDIVINEのような)デリー版ストリートラッパーとしての道を歩むのだろうなあと思っていたのだが、その予想はいい意味で裏切られた。
自身がビートを手掛けたこの"Tabia"では、生楽器や伝統音楽的な要素も取り入れて、彼がもともと持っていた耽美的な要素をさらに研ぎ澄ませた、オルタナティブ・ヒップホップの傑作を作り上げたのだ。
ダリの作品を思わせるシュールリアリスティックなカバーアートにふさわしい浮遊感のある音色。
独特の存在感はますます先鋭化し、その音の質感は、他のヒップホップ作品よりも、むしろこの後紹介するLifafa "Superpower2020"(フォークトロニカ)にも近いものとなっている。
バングラー的な要素は皆無でも、やはりパンジャーブの伝統を感じさせる深みのある声も美しい。
昨年まではDIVINE、Emiway、MC STANらムンバイ勢の活躍が目立ったインドのヒップホップシーンだが、今年はデリーのアーティストたちがそのユニークな存在感を示した一年となった。
Lifafa "Superpower2020"(アルバム)
こちらもデリー勢。
意識して選んだわけではないが、今年はデリーのアーティストたちの個性が開花した一年だったのかもしれない。
Lifafaは、ビンテージなポップサウンドを奏でるバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクト。
ヨーロッパ的な英語ポップスのPCRCに対して、このLifafaでは、伝統音楽と電子音楽を融合させたトラックにヒンディー語ヴォーカルを乗せた独特のサウンドを追求している。
シンプルで素朴な音像ながら、センスの良さとインド以外ではありえない質感を同時に感じさせる才能は唯一無二。
「足し算的」な手法が目立つインドのポピュラーミュージックのなかで、「引き算」の美学で名作を作り上げた。
そういえば、ここまで紹介してきたデリーの3作品はいずれも「引き算的」な手法が際立っている。
これまでデリーといえばYo Yo Honey Singhらの「盛り盛り、増し増し」なスタイルの派手なパーティーラッパーが存在感を示していたが、サブカルチャー的な音楽シーンでは、新しい動きが始まっているのかもしれない。
"Wahin Ka Wahin"の冒頭と間奏で印象的なメロディーはパンジャーブの伝統歌"Bhabo Kehndi Eh"で、パキスタン系カナダ人の電子音楽アーティストKhanvictが今年リリースした"Closer"(こちらも名曲!)でも使われていたもの。
南アジア系アーティストのルーツからの引用の仕方はいつもながら趣味が良い。
Armaan Malik, Eric Nam with KSHMR "Echo"(シングル)
代々映画音楽に携わってきた家系に生まれたインドポピュラー音楽界のサラブレッド、Armaan Malikが、韓国系アメリカ人のEric Nam, インド系アメリカ人のEDMアーティストKSHMRとコラボレーションした1曲。
Armaan Malikは幼い頃から古典音楽を学んだのち、ここがいかにも現代ボリウッドのシンガーらしいのだが、アメリカの名門バークリー音楽大学に進学し、西洋ポピュラー音楽も修めている。
その彼が、インドでも高い人気を誇るK-Popに接近したのがこの"Echo"だ。
典型的なインドらしさを封印し、K-Popの定番である無国籍なEDMポップススタイルを導入したこの曲は、それゆえに印象に残らなかったのか、インド以外ではあまり話題にならなかったようではある。
(2021年12月25日現在、YouTubeの再生回数は2680万回ほど。映画音楽のヒット曲ともなれば一億再生を超えることもあるインドでは「まあまあ」の数字だ)
リリースされた当初、この曲をK-PopならぬI-Popと呼ぶメディアもあったが、その後I-Popという言葉はぱったり聞かなくなってしまった。
Sidhu Moose Wala "Moosedrilla"他
もともとパンジャーブの伝統音楽だったバングラーは、ヒップホップや欧米のダンスミュージックとの融合を繰り返しながら、進化を続けてきた。
その最新の人気アーティストがこのSidhu Moose Wala.
パンジャーブ州の小さな村で生まれた彼は、確かな実力と現代的なビート、そしてギャングスタ的な危険なキャラクターで、一気に人気アーティストに上り詰めた。
彼のリリースは非常に多く、今年だけで数十曲に及ぶのだが、強いて1曲挙げるとしたら、この"Moosedrilla".
大胆にドリルビートを導入し、ガリーラップ(ムンバイ発のストリートラップ)の帝王DIVINEをゲストに迎えたこの曲は、インドのヒップホップの第一波である「バングラー」の新鋭アーティストと、いまやすっかり定着したストリート系ラップが地続きであることを示したもの。
エリアやスタイルを超えたコラボレーションは、年々増え続けており、今後も面白い作品が期待できそうだ。
Songs Inspired by the Film the Beatles and India(アルバム/Various Artists)
欧米のポピュラー音楽とインドとの接点を紐解いてゆけば、そのルーツは1960年代のカウンターカルチャーとしてのロック、とくにビートルズにたどりつく。
リバプール出身の4人の若者は、エイトビートのダンスミュージックだったロックにシタールやタブラなどのインドの楽器を導入し、サイケデリアやノスタルジックな感覚を表現した。
しかしその後長く、インド音楽と欧米のポピュラーミュージックとの関係は、欧米側が一方的に影響を受けるという一方通行な状態が続いていた。
ビートルズの時代から50余年。
経済成長やインターネットの普及を経て、インディペンデントな音楽シーンが急速に拡大しつつあるインドから、ようやくビートルズへの返信が届けられた。
このアルバムは、現代インドの音楽シーンで活躍するロック、電子音楽、伝統音楽などのミュージシャンが、ビートルズの楽曲(主にインドの聖地リシケーシュ滞在時に書かれたもの)を彼らならではの手法でカバーしたもの。
インドのアーティストの素晴らしいところは、単純に欧米の音楽を模倣するだけでなく、彼らの伝統や独自の感覚をそこに加えていることだ。
そんな現代インドのアーティストたちによるカバーとなれば、絶対に面白いに決まっている。
つまり、ビートルズが行おうとしていたロックへのインド音楽の導入を、「本家」が行っているというわけである。
ビートルズのインド的解釈だけではなく、ビートルズがインドっぽいアレンジで演奏していた楽曲を、あえてクラブミュージック的なスタイルで再現しているものもある。
インドからビートルズへの53年越しの回答によって、西洋ポップスとインドをつなぐ輪は、完全な円環を描くに至った。
Shashwat Bulusu "Winter Winter"(シングル、ミュージックいビデオ)
アーメダーバード出身のシンガーソングライター、Shashwat Bulusuについては、この記事で紹介した"Sunset by the Vembanad"、そして"Playground"が強く印象に残っていた。
つまり、歪んだギターサウンドを基調とした、情熱と憂鬱が入り混じったオルタナティブ・ロックを演奏するアーティストとして認識していたということだ。
その彼が今年9月にリリースした"Winter Winter"には驚かされた。
叙情的なピアノのアルペジオに、全編オートチューンのヴォーカル、そしてゴーギャンの絵と現代アートが融合したようなミュージックビデオ。
Shashwatの新曲は、完全に新しいスタイルに舵を切りつつも、それでもなお情熱とメランコリーを同時に感じさせる質感を保っていた。
このセンスには驚かされたし、唸らされた。
ポストロックのaswekeepsearching然り、アーメダーバードはユニークなアーティストを生み出す都市として、今後も注目すべきエリアとなるだろう。
When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"(シングル、ミュージックビデオ)
ケーララ州の英国風フォークポップバンド、When Chai Met Toastは、これまでも良質な楽曲を数多く発表してきたが、2021年はとくに充実した年となった。
(これは2018年に書いた記事)
今年はニューアルバム"When We Feel Young"をはじめ、多くの楽曲をリリースしたが、その中でも出色の出来だったのが、この"Yellow Paper Daisy"だ。
叙情的かつエモーショナルな楽曲の素晴らしさはいつもどおりだが、ここで注目したいのは、フォーキーなサウンドに全く似つかわしくないSF調のミュージックビデオだ。
セラピーのために未来から現代のケーララに送り込まれてきたカップルを演じているのは、それぞれインド北東部とチベットにルーツを持つ俳優たちだ。
バンドの故郷ケーララを相対化する存在としての、地理的な距離感と時間的な設定が、じつに絶妙。
彼らの西洋フォーク的な曲調は、世界的には懐かしさを感じさせるサウンドだが、インドの音楽シーンではまだ新しいものだ。
「未来から現代を過去として振り返る」という設定で新しさとノスタルジーを両立させるという離れ技をやってのけたこの作品のアイデアはじつに素晴らしい。
まあそんな理屈をこねなくても、十分に素晴らしい作品なのは言うまでもなく、この楽曲・映像をJ-WAVEのSONAR MUSICに出演した際に紹介したところ、ナビゲーターのあっこゴリラさんもかなり面白がってくれていた。
Karan Kanchan "Marzi", "Houdini"他(シングル)
名実ともにインドを代表するビートメーカーとなったKaran Kanchanにとっても、2021年はますます飛躍した年となった。
インド各地のラッパーのプロデュースや、Netflixを通して全世界に配信された映画『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌(ラップはムンバイのDIVINEとUSのVince Staples)を手がけたのみならず、ソロ作品でも非常に充実した楽曲をリリースしていたからだ。
近年インドで目立っているローファイ・ヒップホップに挑戦したこの"Marzi"は、ローファイ・ガールへのオマージュであるミュージックビデオも含めて最高。
さらっと作ったように見えるが、Kanchanがこのスタイルのトラックを発表するのは初めてであるということを考えると、彼の適応力の高さに驚かされる。
テレビ画面に映るDVDのロゴは、21世紀の新しいノスタルジーを象徴するナイスな目の付け所。
この"Houdini"ではうって変わって超ヘヴィなスタイルを披露した。
ラッパーのRawalとBhargも派手さこそないものの確かなスキルでサウンドを支えている。
Karan Kanchanは、次にどんなスタイルを披露するのか、どこまで高みに上り詰めるのか。
ますます楽しみなアーティストになってきた。
Pasha Bhai "Kumbakharna"(ミュージックビデオ)
インドのミュージックビデオがストリートや食文化をどう描いているか、という点は、個人的にずっと注目しているテーマなのだが、そういった観点で、これまでに見てきた中での最高傑作と呼べるのがこの作品だ。
Pasha Bhaiはベンガルールのローカルラッパー。
以前ブログで紹介した時は、NEXというアーティスト名で活動していたようだが、気がついたら改名していた。
Shivaj Nagarなる地区の濃厚な空気感を、スパイスや肉を焼く煙や体臭や排気ガスの匂いまで漂ってきそうなほどリアルに映しきっている。
とくに夜の闇の濃さが素晴らしい。
高層ビルでもIT企業でもない、ベンガルールの下町の雰囲気が伝わってくるこのミュージックビデオは、気軽に旅ができない時代に、擬似インド体験としても何度もリピート再生した。
ドープなビートもレイドバックしたラップも秀逸だ。
おそらく現地でもさほど有名でないであろうアーティストからも、こんなふうに注目すべき作品が出てくるあたり、本当にインドのシーンは油断できない。
と、ごくごく私的なセンスで10作品を選ばせてもらいました。
今年の全体的な印象を語るとすれば、何度も書いたように、とくにデリーのアーティストの活躍が目立つ一年だった。
また、Top10に選んだ"Echo"や"Moosedrilla"のように、エリアを(ときに国籍も)超えたコラボレーションや、ビートルズのトリビュートアルバムのように、時代をも超えた傑作が多く生み出され、よりボーダレスな新しいインド音楽が生まれようとしている胎動を感じることもできた。
"Aatmavishwas"はフュージョンとしての完成度が非常に高かったし、Drish Tもインドでの日本のカルチャーの浸透を新しい次元で感じさせてくれる存在だったが、インドのシーンを見渡すにあたって、冷静に見られない日本関連のものを無意識に避けてしまったところがあったのかもしれない。
でもどちらも非常に素晴らしかった。
またSmokey the Ghostの"Hip Hop is Indian"も、インドのヒップホップシーン全体を見渡したスケール感とインドらしさのあるビートが強く印象に残っている。
個人的なことを言わせてもらうと、今年はブログ4年目にして、なぜか急にラジオから声がかかるようになり、TBSラジオの宇多丸さんのアトロク(アフター6ジャンクション)、J-WAVEのあっこゴリラさんの
SONAR MUSICとSKY-HIさんのIMASIA(ACROSS THE SKY内のコーナー)、InterFMのDave Fromm Showなど、いろんな番組でインドの音楽を紹介させてもらった。
映画『ジャッリカットゥ』やベンガル関連のイベントで話をさせてもらったり、文章を書かせてもらう機会もあって、自分が面白いと思っているものを面白いと思ってくれている人が、少しずつでも増えてきていることを、とてもうれしく感じた1年だった。
毎回書いているように、インドの音楽シーンは年々すさまじい勢いで発展しており、面白いものを面白く伝えなければ、といういい意味でのプレッシャーは増すばかり。
今年もご愛読、ありがとうございました!
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2021年11月16日
サウスのロックバンドが相次いでアルバムをリリース! When Chai Met Toast
南インドを代表する2組のポップロックバンドが、立て続けにアルバムとEPをリリースした。
まず1組目は、このブログで以前にも紹介したことがあるケーララ州のWhen Chai Met Toast.
When Chai Met Toastは2016年にコチで結成されたロックバンドで、これまでも数々の優れたフォークポップ調の楽曲を発表してきたが、10月29日に発表した"When We Feel Young"が意外にも彼らのファーストアルバムとなる。
ケーララ州は、古くからキリスト教の信仰がさかんで、教育政策に力を入れてきた州だからか(つまり英語を自由に操れる人が多い)、ロックなどの欧米のポピュラーミュージックが古くから根付いていた土地である。
今作では、彼らはEDM的な四つ打ちのビートを取り入れた曲にも挑戦しているが、やはり彼らの魅力が最も感じられるのは、どこか懐かしいフォーク風の曲である。
例えば、タイトルトラックのWhen We Feel Young.
"Ocean Tide"はバンジョーの響きに、90年代のイギリスのバンドTravisの"Sing"という曲を思い出した。(褒め言葉のつもり)
When Chai Met Toastという個性的なバンド名は、「インドが西洋に出会った時」を意味しているとのこと。
もちろん、チャイがインドを、トーストが西洋を表しているわけだが、インドの国民的な飲み物であるスパイスの入りミルクティー「チャイ」の歴史はじつはかなり新しく、広まったのはイギリス統治時代である19世紀のことだと言われている。
つまり、トーストと出会うまでもなく、チャイの中にも西洋(紅茶文化)とインド(スパイス文化)が混在しているのだ。
考えてみれば、インド料理にかかせない唐辛子(チリ)も原産は中南米で、大航海時代に海を渡ってインドに伝えられている。
インドの文化は、大昔から世界中のさまざまな文化を受け入れて発展してきたのだ。
When Chai Met Toastというバンド名は、はからずも、そうして発展してきたインド文化が、さらに新しく西洋の文化(例えば、ロックや英国フォーク)を受け入れたことを意味していると捉えることもできる。
彼らのサウンドを聴くと、「西洋の文化を導入しすぎちゃって、すっかりインド的な要素がなくなっちゃったんじゃないの?」と言いたくもなるかもしれないが、例えばこんなふうに洋楽的なメロディーを取り入れながらも、美しいヒンディー語の響きを活かした曲も演奏している。
故郷ケーララ州の言語であるマラヤーラム語ではなく、北インドを中心にインド全体に話者数の多いヒンディー語を選んだのは、やはりマーケットの規模が理由だろう。
(マラヤーラム語の話者数が3,500万人ほどなのに対し、ヒンディー語は5億人以上が話すことができる)
こちらの"Break Free"は英語とタミル語のバイリンガル。
タミル語の話者数は約7,000万人。
南インドでもっとも話者数の多い言語である。
彼らが歌詞に使う言語をどのように決めているのかは分からないが、インドのマルチリンガル・ミュージシャンの言語選択事情というのは、ちょっと気になるテーマではある。
彼らは"When We Feel Young"発表後も積極的にリリースを続けていて、このYellow Paper Daisyは、Prateek Kuhadを感じさせるキャッチーかつ切ないメロディーが素晴らしい佳曲。
冒頭に出てくるタイトルに"Yellow Paper Daisy feat. Kerala"とあるが、このKeralaとはもちろん彼らの故郷ケーララ州のこと。
フィーチャリングのあとにアーティスト名でなく地名が出てくるのは初めて見た。
ここから始まるストーリーがまた独特で、2071年のカップルが、セラピーの最後のセッションのために2016年のケーララの田舎にタイムスリップしてくるところから物語が始まる。
豊かな自然と素朴で優しい人々に触れた二人は、やがて愛情を取り戻してゆく…という、フォーキーなサウンドに似合わないSF仕立てのストーリーで、先月出演した J-WAVEの"SONAR MUSIC"でオンエアした際に、ナビゲーターのあっこゴリラさんも「このサウンドにこの映像!」とかなり面白がってくれていた。
イギリス的なフォークロックとSF的な世界観、そして故郷の大自然という相反する要素があたりまえのように融合しているのが2021年のインドのロックバンドのセンスである。
主人公の二人を演じているのは、それぞれインド北東部とチベットにルーツを持つ俳優たちで、「インドの外ではないけれど、マジョリティとは全く別」という微妙な距離感を表現するために選ばれたのだろう。
彼らはNature Tapesと称して、ケーララの自然の中でアンプラグド・スタイルで楽曲を披露する映像も公開していて、こちらもまた彼らの音楽とケーララの魅力が存分に楽しめる内容になっている。
"Yellow Paper Daisy"のロケ地はケーララ特有の汽水地帯に位置するMunroe Island.
"Ocean Tide"のロケ地は美しい海辺の街Varkalaだ。
気軽に旅に出られるようになるにはもうしばらくかかりそうだが、このNature Tapesは、そんな日々の中でちょっとした非日常が感じられるシリーズになっている。
続いてお隣タミルナードゥのF16sについて書こうと思っていたのだけど、もう十分長くなったので、また次回!
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2021年09月29日
J-WAVE 'SONAR MUSIC'出演! オンエアした曲、紹介したかったけどやめた曲など
9月29日(水)J-WAVEであっこゴリラさんがナビゲートする「SONAR MUSIC」にて、たっぷりとインドの音楽を紹介させていただきました!
めちゃくちゃ楽しかったー!
1時間近く、時間はたっぷりあったはずなのに、伝えたいことがあって、ちょっと喋りすぎちゃったかな…と少し反省もしてますが、自分の好きな音楽(そしてほとんどの人が知らないであろう音楽)をラジオを通してたくさんの人に伝えられるというのは何度経験してもすごくうれしいもの。
当日オンエアした曲をあらためて紹介します!
Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
デリーのEDM/トラップ系プロデューサー!
Ritviz "Chalo Charlein feat. Seedhe Maut"
プネーのインド的EDM(印DM)プロデューサーとデリーのラップデュオの共演!
When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"
ケーララ州のフォークロックバンド!
Pineapple Express "Cloud 8.9"
ベンガルールのプログレッシブ・メタルバンド、インドの古典音楽との融合!
Drish T "Convenience Store(コンビニ)"
ムンバイ出身の日本語で歌う(!)シンガーソングライター!
Siri "Gold"
ベンガルールの女性ラッパー!
Seedhe Maut "Nanchaku ft. MC STAN"
デリーのラップデュオにプネーの気鋭の存在MC STANがゲスト参加!
MC STAN "Ek Din Pyaar"
プネーのラッパー!
今回の選曲は、インドでの人気や知名度よりも、純粋にサウンド的にかっこよかったり面白かったりするアーティストを集めたという印象。
この"SONAR MUSIC"は毎回かなり面白い特集を組んでいる音楽番組なだけに、リスナーの皆さんの反応が気になるところでしたが、気に入ってもらえたらうれしいです。
(ここからはちょっと余談)
6月の宇多丸さんのTBS「アフター6ジャンクション」、先月のSKY-HIさんの"IMASIA"に続いて、3本目のラジオ出演(全部ラッパーの番組!)となったわけだけど、ラジオで紹介する曲を選ぶのって、毎回かなり悩む。
インドの音楽やインドという国にとくに興味のないリスナーのみなさんにも「インドの音楽って面白い!」と思ってもらいたいし、できれば楽曲だけじゃなくて、興味深いエピソードなんかも話したい。
いかにもインドっぽい音がいいのか、インドらしからぬ欧米のポップスみたいな曲がいいのかも悩みどころだ(結局、毎回両方を選曲している)。
ラジオでは、私が出演するコーナーの前後に、当然ながら日本やアメリカやイギリスの完成度の高いポピュラーミュージックが流されているわけで、いずれにしてもそこに埋もれない曲を選びたい。
さらに欲を言えば、番組やパーソナリティーのカラーにあった曲が紹介できると、なお良い。
SONAR MUSICのナビゲーターのあっこゴリラさんの曲は以前から聴いていて、"DON'T PUSH ME feat.Moment Joon" みたいな曲で、女性やマイノリティが社会で感じている生きづらさを、きちんと表現しているのがかっこいいと思っていた。
日本語のリリックでは表現が難しいこういう社会的なテーマを、ヒップホップのフォーマットのなかでかっこよく表現するというのは、センスも勇気も必要なことだ。
だから、このブログでも度々話題にしているような、日本とはまた違う形で保守性や排他性が残るインドの社会の中で女性としての意見を表明しているフィメール・ラッパーのことを紹介したかったし、それに対するあっこゴリラさんの意見を聞いてみたかった。
ところが、「コレ!」という曲がなかなか見つからない。
インドにもフィメール・ラッパーはそれなりにいるのだが、ブログで文章を添えてミュージックビデオを紹介するぶんには良くても、ラジオでオンエアするとなると、曲としてはちょっと弱かったりするのだ。
メッセージは最高なのだけど、ラップのスキルがいまいちだったり、インドのアーティストにしては完成度の高いトラックでも、もしアメリカのトップアーティストの曲が流れた後だったら、そこまで魅力的に響かなかったりする。
できればインドらしいインパクトがあり、かつラップのスキルも十分で、メッセージも強烈な曲があれば良いのだが…と思っていたら、ぴったりの曲があった。
インド系アメリカ人で最近はインド国内での活躍がめざましいRaja Kumariをリーダーとして、ベンガルールのSiri, メガラヤのMeba Ofilia, ムンバイのDee MC,といったインドじゅうのフィメールラッパーが共演した"Rani Cypher"だ。
いかにもインド的なコーラスも耳を惹きつけるし、サビの女性に対する「忘れないで、あなたはクイーン(タイトルの'Rani'は女王の意)」というメッセージも素晴らしい。
ラップが英語でいわゆる洋楽リスナーにも聴きやすいのも良いし、冒頭で'As a woman in this industry, we have to work harder, we have to be better, we have to do so much more'という語りが入っているのでコンセプトが分かりやすい。
在外インド人であるRaja Kumariとインド各地の異なるバックグラウンドのフィメール・ラッパーのコラボレーションというのもぜひ触れたいポイントだ。
これは紹介したい楽曲の最右翼。さあリリックを細かくチェックしようと思ったら。
冒頭のヴァースで、ヘイターたちへのメッセージとして、こんなリリックをラップしていたのでびっくりした。
'I Nagasaki on them haters, ground zero'
マジか…。
これって明確に「ヘイターどもはナガサキのグラウンド・ゼロみたいにぶっ潰してやる」って意味だよね。
ラップの中で語呂のいい言葉を選んだのだろうが、さすがにこれはない。
(このリリックをラップしているのはSiriで、彼女に対しては、きちんと抗議しておきます。返事が来たらまたご報告します)
この曲に関して言えば、この部分のリリック以外はコンセプトもサウンドも最高だし、こうしたリリックが含まれていることを注釈したうえで紹介しようかとも思ったのだけど、せっかく大勢の音楽ファンにとって未知のインド音楽を紹介するのに、ネガティブな話はしたくないので、残念だがこの"Rani"はリストから外すことになった。
インド社会の悪い意味での保守性のもとで女性たちが苦しんでいる現状に対して、ラップという新しい手段で声を上げることは、とても素晴らしいことだと思う。
問題は、虐げられている人々を鼓舞するために、別の虐げられた人たちが傷つくような表現をするっていうのはそもそもどうなのか、という話だ。
彼女の他の曲もたくさん聴いたが、彼女は決して露悪的な表現を好むラッパーではないと認識している。
(ヒップホップ的な範囲での強がりやディスりはもちろんあるが)
おそらく彼女にとって原爆投下は遠い国の歴史上の出来事で、いまだに犠牲者やその家族が、直接的、間接的に苦しんでいることを単純に知らないのだろう。
もちろん、彼女のしたような表現がインドで一般的に許容されているわけではなく、同じくベンガルールを拠点に活動するラッパーのSmokey The Ghostはこんなふうにフォローしてくれている。
While we empower certain culture we must be careful not to be insensitive to other cultures. Otherwise it will be oppression. Please translate below tweets from @Calcutta_Bombay and understand that we must be inclusive. https://t.co/5csKNCpFDc
— Smokey The Ghost (@thisissmokey) September 25, 2021
(Smokeyはこの後、今回の一件について「原爆の悲劇はインドでもよく知られているし、これは単なる『特権的な無知』に過ぎない」との解釈を伝えてくれた)
いろいろ考えた結果、結局、フィメール・ラッパーの曲はSiriの"Gold"という曲を選んだ。
彼女の無知は責めるべきだし、この"Raani"のリリックは論外だが、彼女が本来伝えようとしているメッセージの価値はゆるぎないし、インドの女性ラッパーのなかでも音楽的にとくに秀でていると考えてのことだ。
まあとにかく、こうやって誤解や失敗を繰り返しながら国と国との関係とか、人と人との関係ってのは良くなっていくものだと信じている。
言いたいのは、リスペクトを大事にしよう、ってこと。
最後に、今回紹介したアーティストについて、これまでに書いた記事を貼り付けておきます。
Su Real
Ritviz
When Chai Met Toast
Pineapple Express
Drish T
Seedhe MautとSiriが所属しているAzadi Records.
MC STANについては、書こう書こうと思ってまだ書いてない!
近々特集したいと思ってます。
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2020年を振り返る独断で選んだ10曲はこちらから!
2021年06月14日
Always Listening by Audio-Technicaに記事を書きました!
記事はコチラ↓
Always Listeningでインドの音楽シーンに興味をもってくださった方のために、紹介した音楽をさらに深掘りできるブログ記事のリンク一覧をご用意しました。
最新型パンジャービー・ラッパーのSidhu Moose Walaについてはこちらから!
じつはかなりハードコアな一面も持っている男です。
彼と共演しているRaja KumariやDIVINEについても深く紹介しています。
DIVINEについては記事では触れていませんでしたが、Sidhu Moose Walaの"Moosedrilla"の後半で熱いラップを披露しているラッパーで、映画『ガリーボーイ』の登場人物のモデルの一人でもあります。
Always-Listeningで紹介したRitvizのようなインド風エレクトロニック・ダンスミュージックは、勝手に印DMと呼んで親しんでいます。
バンド名も面白い南部ケーララ州出身の英国風フォークロックバンドWhen Chai Met Toastは、じつはチャイよりもコーヒー好き。
(インド南部はコーヒー文化圏なんです)
インドには、彼らのようにインドらしさ皆無なサウンドのアーティストもたくさんいるのです。
英語ヴォーカルのシンガーソングライターはとくに優れた才能が多く、注目しているシーンです。
記事で触れたDitty, Nida, Prateek Kuhadに加えて、Raghav Meattleもお気に入りの一人。
ブログ『アッチャー ・インディア 読んだり聴いたり考えたり』には、他にもいろんな記事を書いていますので(全部で300本以上!)、ぜひ他にも読んでみてください。
今回の'Always-Listening'みたいに、ヒットチャートをもとに記事を書くというのは、これまでありそうでなかったのだけど、とても良い経験でした!
Always Listeningには他にも世界中の音楽に関する興味深い記事がたくさん載っているので、ぜひいろいろとお楽しみください!
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2021年01月12日
Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のシングル10選!
(もとの記事はこちら)
このTop 10はこれまでのアルバムやミュージックビデオと比べて、かなりカラーがはっきりしていて、いわゆる洋楽ポップス的なものが中心に選ばれている様子。
ご存知の通り、インドのメインストリーム音楽は映画音楽なので、欧米風のキャッチーなポップスは、インドではインディーミュージックということになる。
そのあたりの音楽ジャンルの「捻れ」も面白いのだが、前置きはこれくらいにして、それではさっそく見てみよう。
1. Chirag Todi feat. Tanya Nambiar, Pushkar Srivatsal “Desire”
インド西部グジャラート州アーメダーバード出身のギタリスト/ヴォーカリストのChirag Todiは、ジャズロックバンドHeat Sinkのメンバーとしても活動している。
この"Desire"はスムースなファンクネスが心地よい一曲で、例によってこれが2020年のインドで最良のシングル曲かと言われると首を傾げたくなる部分もあるが、きっとこのさりげない感じがセンスの良さと評されて選出されたのだろう。
それにしても、aswekeepsearchingといいShashwat Bulusuといい、アーメダーバードはけっこういいミュージシャンを輩出する街だ。
いちどしっかりこの街のシーンを掘ってみないといけない。
共演のPushkar Srivatsalはムンバイの男女ポップデュオSecond Sightの一員、Tanya Nambiarはデリーの女性ヴォーカリストで、ソロでも客演でも活躍している。
2. Tejas “The Bombay Doors”
コロナウイルスによるロックダウンをという逆境を活かして製作された「オンライン・ミュージカル」"Conference Call: The Musicall!"も記憶に新しいムンバイのシンガーソングライター、Tejas Menonの"The Bombay Doors"はファンキーなシンセポップ。
1位のChirag Todiもそうだが、この手のファンキーなポップスを手掛けるインディーアーティストはインドにも結構いて、Justin Bieberあたりの影響(有名過ぎてだれも名前を挙げないが)が結構あるんじゃないかと思う。
3. Dhruv Visvanath “Dear Madeline”
ニューデリーのシンガーソングライターDhruv Visvanathは、パーカッシブなフィンガースタイルギターでも知られるミュージシャン。
アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという。
2018年には"The Lost Cause"がRolling Stone Indiaによるベストアルバム10選にも選出されており、国内外で高く評価されている。
4. Mali “Age of Limbo”
ムンバイのマラヤーリー(ケーララ)系シンガーソングライターMaliの"The Age of Limbo"は、コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中に発表された作品。
5. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"は、Rolling Stone Indiaによる2020年のベストミュージックビデオ(こちら)の第8位にも選ばれていた楽曲。
私の知る限り、ここ数年でベストシングルとベストミュージックビデオの両方に選出されていた楽曲は初めてのはず。
彼らはいつも質の高い楽曲を届けてくれる、安心して聴くことができるバンドのひとつ。
6. Nishu “Pardo”
言わずと知れたコルカタのドリームポップデュオParekh & Singhの一人、Nischay Parekhのソロプロジェクト。
Parekh & Singhは英語のアコースティック・ポップだが、ソロではメロディーセンスはそのままに、ヒンディー語のシンセポップを聴かせてくれている。
7. Kalika “Made Up”
KalikaはプネーのシンガーソングライターPrannay Sastryのソロプロジェクト。
ベストミュージックビデオ部門の1位にも選ばれた女性ソウルシンガーのSanjeeta Bhattacharyaと、マルチプレイヤーJay Kshirsagarをヴォーカルに迎えた"Made Up"は、南インドの古典音楽カルナーティックを思わせるギターリフが印象的な曲。
8. Seedhe Maut x Karan Kanchan “Dum Pishaach”
インドNo.1アンダーグラウンド・ヒップホップレーベルAzadi Records所属のデリーの二人組Seedhe MautがムンバイのビートメイカーKaran Kanchanと組んだ"Dum Pistaach"は、ヘヴィロックっぽいギターを大胆に取り入れた意欲作。
Karan Kanchanはジャパニーズカルチャー好きが高じて、日本にも存在しない「和風トラップミュージック」のJ-Trapを生み出したことでも知られているが、昨今ではヒップホップシーンでも引っ張りだこの人気となっている。
インドとアメコミと日本風の要素が融合したようなビジュアルイメージも面白い。
9. The Lightyears Explode “Satire”
ムンバイのロックバンドThe Light Years Explodeの"Satire"は、エレクトロファンクっぽい要素を取り入れたサウンド。
タイトルは「風刺」という意味だが、風刺の効いた社会的なリリックの曲も多い彼らはパンクバンドと見なされることもあるようで、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドも彼らのことを優れたパンクロックバンドと評していた。
10. Runt – “Last Breath”
RuntはムンバイのシンガーソングライターSiddharth Basrurによるプロジェクトらしい。
彼はこれまでレゲエっぽい楽曲などをリリースしているが、この曲はインストゥルメンタルのヘヴィロック。
これといって特筆すべきところのない曲で、個人的にはトップ10に選ぶべき楽曲とは思わないが、まあそこは選者の好みなのだろう。
全体的にヒップホップ色が薄く、ロック/ポップスが強いのは媒体の性質によるのかもしれない。
英語詞の曲が目立つ(10曲中7曲)のもあいかわらずで、英語以外ではヒンディー語の楽曲しか選ばれていないのも、Rolling Stone Indiaの拠点がムンバイであることと無関係ではないだろう(ムンバイがあるマハーラーシュトラ州はマラーティー語圏だが、ヒンディー語で制作されるエンターテインメントの中心地でもある)。
全体的に、「ソツなく洋楽っぽい」感じの曲が選ばれがちなのは、日本で言う渋谷系っぽい価値観だと見ることもできそうだ。
いずれにしても、今年もなかなか興味深いラインナップではあった。
それでは今回はこのへんで!
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2021年01月08日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストミュージックビデオ10選!
(元の記事はこちら↑)
「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!
1. Sanjeeta Bhattacharya “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。
2. Kamakshi Khanna “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。
3. Prabh Deep “Chitta”
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。
4. Shashwat Bulusu “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。
5. DIVINE “Punya Paap”
軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。
6. That Boy Roby “Backdrop”
チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。
7. Lifafa “Laash”
Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。
8. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。
9. Komorebi “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。
10. Raghav Meattle “City Life”
軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。
というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。
大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。
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2018年10月08日
ケーララ州のロック・シーン特集!
先日ケーララ州出身の英国風フォークロックバンド、When Chai Met Toastを紹介したが、ケーララといえば、他にもこのブログで紹介してきたスラッシュメタルバンドのChaosや、ハードロックバンドRocazaurusを生んだ、インドでも有数の「ロックどころ」だ。
有名なバンドの数ではデリーやムンバイ、バンガロールのような大都市のほうが多いかもしれないが、前回も書いたように、人口や都市の規模と比較すると、相当多くのロックバンドがケララにいるということになる。
(ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州の人口1.1億人、バンガロールを擁するカルナータカ州の6,500万人に対し、ケーララ州は3,500万人。デリーは州ではなく連邦直轄領だが、限られた都市部にケララの半分以上の2,000万人もの人口を抱えている)
今回はそんなケララ州のロックシーンを紹介することにします。
州や街ごとの音楽シーン特集は前々からやりたかった企画。
例によって情報過多ぎみかもしれないけど、じっくりお楽しみください。
ケーララ州のロック史で最初に語られるべきバンドは13AD.
その結成はなんと1977年にまでさかのぼる。
Glen La Rive(ヴォーカル)、Eloy Isaacs(ギター)、Paul KJ(ベース)、Jackson Aruja(キーボード)、Pinson Correia(ドラム)の5人からなる彼らが1990に発表したデビューアルバム、'Ground Zero'のタイトルトラックがこちら。
ヨーロッパのバンドを思わせる翳りあるメロディーのメタルサウンドは結構日本人好みなんじゃないだろうか。
当時のBurrn!の輸入版コーナーで80点くらいを獲得しそうな印象。
彼らは以前紹介したムンバイのRock Machine(Indus Creed)やカルカッタのShivaらと並んでインドのロック創成期を作ってきたバンドとされている。
1995年に一度解散したのち、2008年にこの代表曲のタイトルであるGround Zeroという名前で再結成し、今ではドバイを拠点に活動している。
ドバイは人口の半分が出稼ぎによるインド系で、その多くをケーララ人が占めている。
現在も国内で活躍するケーララ出身の大御所バンドとしては、Motherjaneが挙げられる。
彼らは1996年にClyde Rozario(ベース)、John Thomas(ドラム)、Mithun Raju(ギター)らで結成。
やがてMithunが脱退し、古典音楽的なフレーズを得意とし、インドロックシーンの名ギタリストとして名を馳せるBaiju Dharmajanが加入。
ヴォーカリストとしてSuraj Maniを加えた体制で、2001年にデビューアルバムInsane Biographyをリリースした。
2008年に発表したアルバム'Maktub'からの曲、'Chasing the Sun'.
コナッコル(声でリズムを取る南インドの唱法)で始まり、かの有名な北インドの聖地ヴァラナシの映像を取り入れたビデオはいかにもインドのバンドといった印象。
変拍子の入った演奏とハイトーンヴォーカルはDream Theaterのようなプログレッシブ・メタルを想起させる曲調だ。
よりヘヴィーなバンドとしては、2009年結成のThe Down Troddenceがいる。
彼らはツインギターにキーボードを要する6人組で、スラッシュメタルやグルーヴメタルにケーララの伝統音楽を取り入れた音楽性を特徴としている。
英語で歌うことが多い彼らがマラヤラム語で歌っている、'Shiva'.
この曲でもギターがときどきラーガ的なフレーズを奏でている。
ビデオはもうなにがなんだか分からない。
以前紹介したバンドもおさらい。
社会派スラッシュメタルバンドのChaosの'Game'.
3ピースのロックンロール系ヘヴィーメタルバンドの'Rocazaurus'.
ここまで紹介してきたバンドは、主に英語で歌うヘヴィーメタル系のバンドたち。
メタル以外のジャンルで英語で歌うケーララのバンドとしては、先日紹介したWhen Chai Met Toastのほかには、ポストロックのBlack Lettersがいる。
Rolling Stone誌が選ぶ2017年のベストミュージックビデオの第8位に選ばれた曲'Falter'.
コチ出身の彼らは、今では活動の拠点をバンガロールに移している。
When Chai Met Toast同様、国籍を感じさせないセンスのバンドだ。
こういった主に英語で歌うバンドたちとは別に、地元の言語マラヤーラム語で歌うロックバンドというのもたくさんいて、彼らの多くがケーララの伝統音楽とのフュージョン的な音楽性で人気を博している。
彼らのパイオニアかつ代表格と言えるバンドが2003年に結成されたAvial.
Avialとはヨーグルトとココナッツで野菜を煮込んだケララ州の郷土料理で、バンド名からも彼らの強い地元愛が伺える。
彼らはDJを含んだ5人組で、モダンな演奏にケーララ民謡風のヴォーカルがかなり個性的。
'Nada Nada'
ステージ衣装としてルンギー(男性用巻きスカートとも言えるインドの民族衣装)を着用するなど、見た目の面でも地元の要素を強く打ち出している。
2013年に結成されたThaikkudam Bridgeは、こちらも地元の食文化からとった'Fish Rock'を標榜している。
この'Navarasam'はケーララの伝統舞踊のカタカリ・ダンスをフィーチャーしたビデオだ。
インドのバンドがインド要素をロックに取り入れるとき、演奏ではなくヴォーカルによりインドの要素を取り入れる傾向があるというのは以前分析してみた通り。
彼らのテーマ曲とも言える'Fish Rock'のライブはすごい盛り上がりだ。
より伝統文化の影響の強いバンドとしては、この'Masala Coffee'がいる。
これは「自分自身のために生きる女性を讃える」というテーマの曲。
2014年に結成された彼らは、ソニーミュージックと契約し、映画の楽曲も手がけるなどメジャーに活躍の場を移している。
今回は便宜的に英語で歌うバンドと、マラヤーラム語で歌う地元の伝統音楽の要素が強いバンドに分けて紹介したが、多くのバンドが英語と地元言語の両方を取り入れているし、ロック色の強いバンドでもケーララの伝統要素が顔を出すことが少なからずある。
ケーララの音楽シーンでは「伝統/ローカル」から「モダン/西洋」までがグラデーションのように分け目なく繋がっているといった印象。
ここまで強いローカル文化の影響というのは、デリーやムンバイやバンガロールのような都市部では見ることのできないケーララならではの特徴だ。
なぜここまでケーララでロックが盛んなのかという疑問を持つ人は他にもいるようで、質問サイトのQuoraでも、同じような質問をしている人がいた。
「なぜケーララには都市文化がないのに、バンドがたくさんいるのか?」
その回答がなかなか興味深かったので、以下にまとめてみたい。
1.ケーララには地元のバンドがたくさんいるし、高い識字率(93%)、インターネット普及率から、海外の音楽に接する機会も多いから。
2.インドに都市文化がないなんてことはなくて、ケーララはインドの中でも発展している州だから(ナイトライフが充実していないとしても、コンサートなんて夜9時に終われば十分)。
3.ケーララ州から海外に出稼ぎにいっている人が多いので、彼らが海外の音楽や文化を持って帰ってくるから。
4.若者たちが新しい文化を取り入れることに積極的だから。
5.インターネットだけでなく、テレビの普及率も高く、地元メディアで音楽が取り上げられることも多いから(Youtubeでもケーララのテレビ局、Kappa TVのMusic Mojoという番組が見られるが、相当な数の個性的なミュージシャンを紹介している)。
6.他の州に比べて、ダンスよりも音楽(歌手とか)に注目する傾向があるから。
いずれもなるほどと頷けるものばかりだ。
ほとんどが現地のインド人による回答なので、おそらく正しい答えと言ってよいのだろう。
3について補足すると、ケーララ州は教育に力を入れ優秀な人材を多く輩出しているものの、週内に大きな都市や産業がないため、他の州や海外に出稼ぎに行く人が多いという背景があることを表している。
今回紹介した13AD(Ground Zero)がドバイに、Black Lettersがバンガロールに拠点を移したのも、より大きなマーケットを求めてのことだろう。
また、個人的に気になったのが1.
高い識字率やインターネット普及率から、海外のバンドに接する機会が多いというのも、地元にすでに多くのバンドがいるので、ローカルのシーンに接する機会が多いというのも分かる。
では、そのもとからいる地元のバンドたちは、どうして音楽を始めることになったのか。
パイオニアとなったバンドが結成された時点では、地元のバンドはいなかったはずだし、インターネットもなかったはずだ。
ここから先は完全に筆者の想像だが、ケーララ州がキリスト教文化の強い土地であるということが影響しているのではないだろうか。
以前も紹介した通り、キリスト教徒の割合は、インド全体では2%程度だが、ケーララ州では20%にものぼる。
しかも、ケーララ州は大航海時代にポルトガルやスペインによって伝えらえるはるか以前、1世紀に聖トマスによってキリスト教が伝えられたとされるほどにキリスト教の伝統の根強い土地だ。
ケーララ同様に、大都市を擁さないにもかかわらず、ロックやメタルが盛んな北東部も、クリスチャンの割合が高い地域だというのは何度も書いている通り。
セブン・シスターズ・ステイトと呼ばれる北東部7州のキリスト教徒の割合は、ケーララ同様20%を占め、ナガランド州やミゾラム州ではキリスト教徒の割合は9割にも達する。
(ただし、インド北東部ではカトリックが多いケーララとは異なり、プロテスタントの割合が高いという特徴がある)
こうした背景から、同じキリスト教文化圏である欧米の文化への親和性がより高くても不思議はない。
現に、名前を見る限り、ケーララのロックのパイオニア13ADはメンバー全員がクリスチャンのようだし、ベテランのMotherjaneも4人中2人がクリスチャンだ。
キリスト教文化のバックグラウンドや、高い教育水準や識字率、インターネット環境、リベラルな意識といった複合的な要素がケーララ州でこれだけ多くのロックバンドを育んでいるのだろう。
最後に、そんなケーララの多様性を美しく歌ったThaikkudam Bridgeの楽曲"One"を。
ケララの自然や文化を美しくとらえたビデオがとても印象的だ。
素朴な漁村、屈託のない笑顔、手つかずの自然、さまざまな信仰と豊かな文化。
これを見たらケーララに行きたくなること請け合いの素晴らしいビデオだ。
というわけで、今回はケーララのロックシーンを特集してみました。
またいずれ同じように地域ごとのシーンを切り取った記事も書いてみたいと思います。
それでは!
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