WWE
2018年08月05日
インドのプロレス事情 続報!
2012年の旗揚げ戦の模様を見てみると、アメリカのWWEをモデルにしたショーアップされたエンターテインメント・プロレスでインド人たちを大いに熱狂させていた。
その後、RKKはどうなったのか?
そして他にもインド独自のプロレス団体はあるのか?
今回はそのへんを探ってみました。
まずはRKKについて。
すでに紹介した通り、 スコット・スタイナー(元新日本プロレス、WWE等)、チャボ・ゲレロ(元WWE)、アメリカン・アドニス(元WWEのザ・マスターピース)、マット・モーガン(元WWE)、Dr.ニコラス(元WWEのユージーン)といった超豪華なメンバーにインド人レスラーを加えた顔ぶれでの賑々しい旗揚げ戦の後もエンタメ路線のプロレスを続け、なんと賭博問題で大相撲を解雇された元大相撲の最重量力士、山本山を登場させたりもしていたらしい。
ただしどうやら山本山はレスラーとして試合をするのはイヤだったらしく、この登場はレスラーとしてのものではなく、WWE的連続ドラマのゲストという扱いだった模様。
気になって山本山のことも調べてみたら、廃業後、どんな紆余曲折があったのかは知らないが、インドのリアリティーショー番組、"Big Boss"に出演して折り紙を教えたり(!)していたようだ。
そもそもそこからして意味がわからないが、インド人、よく山本山を見つけてきたなあ。
さて、その後、そのRKKはどうなったんじゃい、と思ってしらべてみたら、なんとびっくり、2017年にRKKは活動を終了していた。
あんなに派手にやっていたのに、やはりインドでは時期尚早だったんだろうか。
RKKの仕掛け人はアメリカのプロレス界で海千山千のジェフ・ジャレットだったが、お金をずいぶんかけていただけに、撤退の決断も早かったのかもしれない。
少し前までYoutubeで見られた動画もほとんど消されてしまったようだ。
山本山の入場シーンなんかも見られたのに、紹介できずに残念だ。
ではインドではプロレスの灯は消えてしまったのか?
いや、そんなことはない。
このサイト(www.wrestling.org.in)や英語版ヤフー知恵袋とも言えるQuoraによると、いままでに存在していたいくつもの団体のほとんどが活動を休止し、死屍累々たる状況のようだが、どうやら現在でも活動している団体が少なくとも2つはあるようだ。
それが、これから紹介するWrestle SquareとCWEだ。
Wrestle Squareの試合の様子はこちら。
これはBaliyan Akki とZorroというレスラーたちの試合。
うーん、けっこうグダグダ。
ちなみにこの試合に出ているBaliyan Akki (バリアン・アッキ)という選手は、現在日本のプロレス団体であるDDT傘下の「ガンバレプロレス」という団体に参戦している模様。
日本のデスメタルバンドがインドツアーをしたり、インドのレスラーが日本で活躍したりと、ジャンルを問わずインディーシーンのグローバル化はどんどん進んでいるというわけだ。
もう一方のCWEという団体は、かつてWWEに参戦しヘビー級王座にも輝いたグレート・カリことダリップ・シンが旗揚げした団体のようだ。
ダリップ・シンは、身長216cmのいわゆる巨人レスラー。
日本のプロレスファンには、むしろチーム2000時代の蝶野がブラジル出身のジャイアント・シルバとともに連れてきたジャイアント・シンとしてのほうが有名かもしれない。
この団体の試合の模様がこちら。
試合は2:00頃から始まるが、こちらも小さな会場ながらもなかなかの熱戦を見せている。
ここで強調したいのは、たとえ小さな会場であろうと、技術が稚拙であろうとも、「俺たちはプロレスがやりたいんじゃー!」という、彼らの学生プロレスにも似た情熱だ。
以前、コンゴのプロレスが日本のプロレスファンの間で局地的に話題になったことがあったが、おそらくは世界中に、こうした「プロレスがやりたい!」「あわよくば大スターになりたい!」という情熱だけに支えられた小さな団体があるのだろう。
しかしながら、そもそもインドにこうしたプロレス団体があることすら、地元のファンに知られていないようで、前述のQuoraに寄せられた、「どうしてインドで誰もプロレス団体を立ち上げないのか」という質問に対して、回答者は、「インドのプロレスファンは、結局のところほとんどが"WWEファン"で、本当の意味での"プロレス"のファンはかなり少ない、だからインドでのプロレス団体の成功については非常に懐疑的」と答えている。
ではインド人はプロレスで成功できないのかというと、そんなことはなくて、以前も書いたように、ジンダー・マハル、シン・ブラザーズといったインド系レスラーは今もWWEで活躍している。
またガンバレ・プロレスに参戦中のバリアン・アッキは、HEAT-UPユニバーサル選手権という超マイナーな王座ではあるが、日本でタイトルマッチを戦うまでになった。
つまり、インド国内でプロレスラーとしての活躍の場が整っていないがゆえに、テクノロジーや企業経営や医療などの面で起きている「頭脳流出」と同様に、プロレスラーの「肉体流出」が起こっているというわけだ。
自国での活躍が望めない以上、才能あるレスラーは、世界最大のプロレス大国にして英語が通じるアメリカ(WWE)を目指すのは当然のことと言える。
なんだか今回の記事はインドのプロレスの先行きに非常に暗澹たる予感を残すものになってしまったけど、レスラーを持ち上げるのもクビにするのも早いWWEのこと、ダリップ・シンのようにインドに戻ってくる選手が増えれば、インド国内のマット界も盛り上がってくるかもしれない。
世界的に、有能なプロレスラーというのは有力なプロレス団体の数に比べて供給過剰な状況が続いているので、以前紹介したインドのサッカーリーグのように、世界中の名レスラーたちがインドに集まってくる日が来ないと誰が言えるだろうか。
最近めっきりプロレスから離れていたワタクシですが、インドのマット界についてはまたときどき注目してみたいな、と思います。
ところで、先日読者の方からメッセージをいただき、取り上げて欲しいアーティストのリクエストをいただいたので、 次回かその次あたりで、そのリクエストいただいたバンドを紹介できればなあと考えています。
ほいじゃ、また。
2018年05月07日
ここまで熱狂するか!インドのプロレス団体Ring Ka King!
今まで、このブログではインドと音楽をテーマにいろいろなことを書いてきたわけだが、アタクシの幼少期から学生時代にかけて、音楽以外で大きな影響を受けてきたものといえば、それはプロレス。
「超獣」「不沈艦」「黒い呪術師」「皇帝戦士」「人間魚雷」「殺人医師」。
…大仰な異名のガイジンレスラーが暴れまわっていたあの頃、リングはまさに戦いのワンダーランドだった(遠い目)。
インドとプロレスといえば、まず思い出すのはもちろん「インドの狂える虎」タイガー・ジェット・シン。
新宿伊勢丹前猪木夫妻襲撃事件、ザ・ファンクスとの流血マッチ等、数々の伝説を残し、ブッチャー、シークと並んで昭和の3大ヒールと称されることはみなさんご存知だろう(ご存知でなくても別にいいけど)。
今でも新宿伊勢丹と聞くと、オシャレでハイソなイメージよりも、シンの襲撃事件を思い出してしまう40代以上の男性は多いと聞く。
まあとにかく、インドとプロレスを結びつけるものはタイガー・ジェット・シンくらいしか無かったアタクシは、長らくインドとプロレスを脳の別々の場所に記憶して生きてきた。
ところが数年前、この2つの記憶に新たな接点が生じる出来事があった。
それは、「スラムドッグ$ミリオネア」の原作者でもあるインド人作家、ヴィカス・スワループの「6人の容疑者」という小説を読んでいたときのこと。
登場人物の一人で、無教養でお人好しのアメリカ人観光客「ラリー・ペイジ」が、インド人女性との結婚詐欺に引っかかったときに、いきなりこんなことを言い出したのだ。
「俺は泣き虫じゃない。最後に泣いたのはずっと昔、1998年のことだ。WWEの有名な“ヘル・イン・ア・セル”の試合で、マンカインド(またの名をミック・フォーリー)がジ・アンダーテイカーに負けたときだ。あのときは胸がしめつけられたみたいに苦しくて、母さんの膝に抱きついて思いっきり泣いた。」
WWEは、ご存知の方も多いと思うが、世界最大の規模を誇るアメリカのプロレス団体。ストーリーやキャラクター重視の「スポーツ・エンターテインメント(ショーとしてのプロレス)」を掲げ、世界中で人気を博している。
著者のスワループは外交官で、大阪のインド領事館の総領事を務めたこともあるエリート中のエリートだ。
そんな彼の著作に、アメリカ市民の中では無教養な庶民の娯楽とされるアメリカン・プロレスについてのずいぶん具体的な記述が出てきたので、非常に驚いたものだった。
確かに「マヌケなアメリカの貧乏白人」の独白としては良くできたセリフだが、このやたらと具体的な記述のニュアンスをインドの読者は理解できるのだろうか?スワループはWWEマニアなのか?
大いに違和感を感じたのを覚えている。
とはいえそんなことはまた忘れたまま月日は流れ、つい数ヶ月前にこのブログでも取り上げた、インド北東部トリプラ州出身のラッパー、Borkung Hrangkawl(BK)のスポークンワードを聴いたとき、またしてもびっくりした。
この中で確かにBKはこう言っている。
“Don't mind me saying this but is this is some kinda freak show. Its' like we are Rey Mysterio and you're the Big Show.”
このラップはインドの主要地域(メインランド)に差別され続ける北東部諸州の状況を訴えるためのものだ。
ここで取り上げられているレイ・ミステリオは90年代から00年代にかけてWWEで活躍したメキシコ系の小柄なレスラーで、体格的には軽量級ながらも、華麗な跳び技を活かしてヘビー級のチャンピオンベルトを巻いたこともある人気選手だ。
一方のビッグ・ショーも同時期にWWEで活躍した213cm、200kgの巨漢レスラー。
このラインは「人口も少なく権力も弱いトリプラ州の俺たちがインドの主要地域にモノ申すのはまるでレイ・ミステリオvsビッグ・ショーの試合みたいだ」という文脈ということになる。
これは「規模は小さくても見くびるな。お前を倒す力はある」という意味なのか、それとも「筋書きのあるWWEの試合ならともかく、現実の社会では弱者が強者に勝つことはできない。それなのにこんな残酷ショーを続けるのか」という意味なのか。
いずれにしてもとても印象的なリリックだ。
とは言うものの、果たしてこのラップの主なリスナーであるインドの人たちは、こうしたWWEのレスラーのキャラクターまで理解して、リリックの意味を咀嚼することができるのだろうか。
分かる人にだけ分かればいい、ということだとしても、それなりの割合で「分かる人」がいなければこんな表現はしないだろうし、そもそもBK本人が相当なWWEファンでなければこんな表現は思いつかないはずだ。
BKもまた、WWEマニアなのか?
これまた驚きと違和感を感じたものだった。
そしてその驚きと違和感は、徐々に疑問に変わっていった。
「ひょっとすると、インド人はプロレスが大好きなのではないだろうか?」
そう考えてみると、確かにいろいろと思い当たるふしがある。
インドの男性俳優ってみんな無駄にマッチョだし、少し前まではほとんどの娯楽映画に必ずアクションシーンが入っていた。
キャラの立ったマッチョマンがリング上で戦いとドラマを繰り広げるアメリカン・スタイルのプロレスを、インド人が好きにならないはずがない。
問題は、そのWWEをインド人がどれくらい見ることができるかということだが、インドでも中流階級へのケーブルテレビの普及は凄まじいというし、今やWWEはインターネットで視聴することも可能だ。
インドでプロレス熱が高まっているとしても不思議ではない。
さらに、最近のWWEでは「ジンダー・マハル」や「グレート・カリ」といったインド系レスラーが活躍していると聞く。
世界中をマーケットとするWWEでこれだけインド人レスラーがプッシュされているということは、それだけインドの市場(もしくは在米インド系移民。アメリカのプロレスはイタリア系、メキシコ系などの移民社会を代表するレスラーが活躍してきた歴史を持つ)が意識されているということだ。
これはもしかしたらインドにもプロレス団体があるのかもしれない。
例えばメキシコという国は、先住民の伝説をもとに幾多のマスクマンを生み出し、独創的なプロレス「ルチャ・リブレ」を生み出したが、インドも独自のアクの強い文化には事欠かない。
インド人が本気でプロレスを始めたら、すごいことになるのではないか。
そう思って探してみたら、驚くべき団体を発見!
マハーラーシュトラ州、プネーを本拠地とする団体、その名もRing Ka King!
完全なWWEスタイルのエンタメ・プロレスで、とにかく観客の熱狂が凄い!
このRing Ka King(「リングの王」という意味のようだ)は、元プロレスラーにして、アメリカで2番手のプロレス団体「TNA(現Impact Wrestling)」の創設者としても知られるジェフ・ジャレットが設立した団体らしい。
WWEに代表されるアメリカン・スタイルのプロレスを完全に踏襲して披露している。
この動画は2012年の団体立ち上げ時のもの。
選手はインドのレスラーに加えて、WWEやTNAでかつて一線級の人気を博していた錚々たるレスラーが名を連ねており、ジェフの力の入れようが伺える。
アタクシも新日でも活躍していたスコット・スタイナーが入場してきたときはちょっと興奮してしまった。
セクシーな女性達のボリウッド・ダンスから始まり、国民的スポーツであるクリケットのスター選手が出てくるオープニングは、WWE的エンタメ・プロレスの見事なインドへの翻案。
実況が英語ではなくヒンディー語なのは、アメリカでプロレスが「無教養な層の大衆娯楽」であるという位置付けをインドでも獲得しようとしているものと考えられる。
試合(23:48から!)を見ると、まだまだインド人レスラーはレスリングが下手だし、試合自体も非常に大味で、下手なアメリカン・プロレスといった内容だが、観客は大いに盛り上がっている。
仕掛け人のジェフ・ジャレットは、GFW(Global Force Wrestling)という団体も創設し、数年前に新日本プロレスとも提携してリングにも上がっていたので(その後、この団体は消滅した模様)最近のプロレスファンでもご存知の方がいるかもしれない。
WWEの独占状況が続くアメリカのプロレス界に対抗して、ジェフがインドや日本といった魅力ある市場を開拓しようとしているようにも見える。
(一方で、業界トップのWWEは成長する中国市場を見越して中国人レスラー王彬(ワン・ビン)を獲得している)
この熱狂ぶりと潜在的な市場規模(人口)から考えたら、インドはアメリカ、日本、メキシコに次ぐ第4のレスリング大国になるポテンシャルも十分にあるのではないかと思う。
インドの文化的多様性を考えると、例えばコルカタのリクシャー引きとか、ヒンドゥー原理主義者とか、イスラムのテロリストとかいろんな面白いレスラーが出てきても良さそうなものだけど、出てくるレスラーはせいぜいパンジャーブ出身とかアピールする程度。
さすがに政治や差別や宗教が関わる問題はタブーなのだろう。
WWEでは湾岸戦争のときに悪役レスラーとしてフセインのそっくりさんが出てきていたけど、インドのプロレスでパキスタン系レスラーが悪役として出てきたらやだな。
このRKKはインド西部マハーラーシュトラ州(ムンバイと同じ州)の大学都市プネーを拠点にしている団体だが、なにしろ国土が広く言語や文化も多様なインドのこと、いずれインドも、かつてのアメリカのように各地にプロレス団体が乱立するようなことになるのかもしれない。
…今日もついつい熱くなってしまったけど、本や音楽をきっかけにインドのプロレス界を覗いてみたという話でした。
最後にもうひとつだけ。
小説の中にプロレスが出てきた話といえば、インドとはまったく関係のないけど、インドネシアの小説「虹の少年たち」を読んでいたら、こんな文章に出くわして驚いたことがある。
びっくり度合いで言ったら、こっちのほうが衝撃は大きかったな。
ようやく、僕の後ろにスペースができ、身動きが取れるようになった。僕はこの一瞬を逃さず、残っているすべての力を振り絞ってサムソンの股間のところに一直線にキックを繰り出した。それはまるで、一九七六年に日本のプロレスラーであるアントニオ猪木がモハメド・アリと対戦した時に見せたあの必殺のキックのようだった。
なんの前振りもなく、猪木の「アリ・キック」が比喩として使われている!
インドネシア人は「あの必殺のキック」と言われて、「ああ、あれのことね」と分かるのだろうか。
この小説の中で、唐突にプロレスに関する記述が出てきたのはこの1箇所だけ。
あの「世紀の凡戦」と言われた一戦を、インドネシアの人たちはどのように捉えたのだろうか。
だんだん何を話しているのか分からなくなってきたけど、RKKとインドプロレス事情、音楽じゃないけど面白そうなので、今後も注目してゆきたいと思います。
それからT.J.シンや、馬場の生涯唯一の異種格闘技戦の相手ラジャ・ライオン、グレート・カリ(ジャイアント・シン)、ジンダー・マハルといったインド系レスラーたちについても、いつかは掘り下げて取り上げてみたいと思います。
それではまた!

渋谷でやってた「インド映画祭」で飾られてた、ムダにマッチョなインド人俳優たちの写真。