ThirumaLi

2025年12月28日

2025年度版 軽刈田凡平's インドのインディー音楽top10 +α


今年はほとんどブログの記事を書かないまま1年が終わってしまった。
渋谷で行われたほとんど在日インド人のディワーリー・パーティーでのカラン・カンチャンのDJが最高だったこととか、ナガランドからやってきたポップパンクバンドのStreet Storiesのライブがエモかったこととか、ちゃんと書いておきたいことはたくさんあったのだけど、連載のほうにほぼ全集中していて、つい母屋であるこのブログをすっぽかしてしまった。

連載というのは、春秋社のウェブマガジン『web春秋 はるとあき』内での「軽刈田凡平の新しいインド音楽の世界」のことで、気合入れて書いてますのでヨロシク。



ともかく、今年も年末恒例の、自分なりのインドのインディー音楽top10を選んでみます。
対象は、アルバムだったり、楽曲だったり、ミュージックビデオだったり、はたまた出来事だったりと何でもあり。
今年は例年になく情報の入力と出力のバランスがアンバランスで、アウトプット過剰だったので、チェックできていない作品がまだまだありそう。
何かおすすめがあったら教えてください。

また、インドの慣例にならって、「インディー音楽」というのは「非メジャーレーベル」という意味ではなく、「非映画音楽」という意味で使っているので、メジャーなアーティストもここには含まれています。
10作品の順位はとくにないです。


Karan Aujla "P-Pop Culture"(アルバム)


いきなり大メジャーで申し訳ないが、カナダを拠点に活躍するパンジャーブ音楽界の大スター、Karan Aujlaのアルバムを筆頭に挙げたい。
数年前からAujlaをはじめとしてAP Dhillon、Diljit Dosanjh、Shubhらのパンジャーブ勢は北インドと在外インド人社会での人気がめちゃくちゃ高く、APとDiljitはコーチェラでもパフォーマンスを披露している。
昨年末にムンバイで見たAujlaのライブもめちゃくちゃ大規模かつド派手で大いに盛り上がっていた。
今作は全曲が盟友Ikkyによるプロデュースで、ゲストはなし。
今の彼の勢いだったら、国内外の人気ラッパーを加えた話題作を作ることもできたはずだが、彼はたった二人だけで新しいパンジャーブのポップスを作ることを引き受けた。
背負うアルファベットはインディアの「I」ではなくパンジャーブの「P」。
これまでのヒップホップ的/ダンスポップ的なアプローチに加えて、今作ではロック的なダイナミズムが大幅に加わっていて、これが昨今のヒップホップ的な取り入れ方とも違うのは、生バンドとのライブを積み重ねてきたからだろうか。



TV Dinner "Non Believer"(楽曲)


今年のインドのインディーミュージック界での残念なニュースといえば、一部で世界的な評価を得ていた(日本だと高橋幸宏が高く評価していたとか)コルカタのドリームポップデュオ、Parekh&Singhの解散だ。
ミュージックビデオのウェス・アンダーソンへのオマージュに満ちた映像、キャッチーさに振り切りすぎない上品なポップネス。
彼らはステレオタイプなインドのイメージを覆すに十分すぎるクオリティのアーティストたちだった。
解散後、さっそくソロ活動を開始したメンバーのひとり、Nischay ParekhのソロプロジェクトがこのTV Dinnerだ。
おおまかな方向性はデュオ時代と大きく変わらないが、ポップな部分はそのままに、過剰なオシャレさを取り払ってメロディーの美しさを際立たせたアレンジは永遠に古くならなさそうだ。
こういう音楽がインドで作られていることはきちんと伝えてゆきたい。



DL91まわりの一連の作品
Ab 17 "Chanel got Work ft. Ikka"


これはちょっとズルい挙げ方かもしれないが、デリーにいつの間にか誕生していたヒップホップ界隈の集団(クルーと呼んで良いのか)DL 91 Eraの関連作品がとにかくやばかった。
インドのヒップホップの魅力には、いかにもインドらしい、各地域の特色や伝統を踏まえた表現(たとえばパンジャーブのバングラー・ラップ)と、逆に世界中のどこの地域でも成立しうる同時代的な表現の両方があるが、彼らは後者の代表格。
日本でいうと、kZmとかtohjiとかに近い、都市生活の虚無感みたいなものを、陶酔というか恍惚感へと昇華した現代的なヒップホップ。
とにかくDL 91 Era界隈の作品は、Hurricaneのプロデュース作品とか、OG Luciferのアルバム"Naala Paar"とか、毎回ハズレのないSeedhe Mautのアルバムまでを含めて、作品の質と量、いずれも特筆すべきものだった。
まったく違う土地や文化のもとに暮らす人々が慣らす音を通して同時代性を感じることができるというのは、ポピュラー音楽を聴く最大の喜びのひとつでもあると思う。



Shauharty "Farookh"(アルバム)


インドにおける2025年のアンダーグラウンド・ヒップホップの到達点と言えるのがこのShauhartyだ。
今年リリースされたアルバム"Farookh"は、シブすぎる音作りや、"Saddam Hussainé"(なぜeにアクセント記号?)、"Keith Haring"、"Earth, Wind & Fire"といった人名シリーズの楽曲、さらには、"Penis Flytrap", "Pitstop 4 Sex"といった下品なリリシズムとでもいうべき楽曲タイトルなど、ワードセンスからサウンドまで、強烈な個性が感じられる作品だった。
今はデリーを拠点にしているそうだが、もともとは北東部出身だというのがほかのデリー勢と一線を画す音作りの秘密か。
グジャラートのDhanjiと並んで、時流に影響されずに自分の音作りを追求するアーティストがきちんと活躍していることにインドのヒップホップシーンの層の厚さを感じる。



Dizlaw, Tienas, Kim the Beloved, Ranj, Jelo, Clifr "BLOODBATH"(楽曲)


かつてPrabh DeepやSeedhe Mautを輩出したことで信頼の厚いデリーのヒップホップレーベルAzadi Recordsは、最近は以前の勢いを失いかけているようにも見えていたけど、この曲を聴く限りまだまだ大丈夫そうだ。
Dizlaw, Tienasのムンバイ勢、Ranj(タミル)とClifrのサウスの安定コンビ、Kim the Beloved(ミゾラム)とJelo(メガラヤ)の北東部勢というインド全土のアンダーグラウンド系ラッパーを束ね、このゴリゴリのミクスチャーロック的なビートにほとんど英語のラップを乗せてきたのは、Hanumankindのヒットを意識してのことだろうか。
ちなみにイントロの宗教歌っぽいサンプリングはコメディアンがファシズム的政治を揶揄しているものだそうで、そういうところにもカウンターカルチャーとしてのヒップホップを支持してきたレーベルの主張が見える。



KR$NA "Yours Truly"(アルバム)


デリーのベテランラッパーKR$NAのニューアルバム"Yours Truly"は、RaftaarやBadshahといったデリーのメインストリーム勢、YashrajやSeedhe Mautといったアンダーグラウンド寄りのラッパー、さらにはイギリスのAitch、そして日本のAwichなど、幅広いゲストを招いて制作された意欲作。
アルバム全体のトーンを作っているのはインドのヒップホップシーンの大物プロデューサーPnenom.
KR$NAは20年近いキャリアを持つ重鎮だが、Seedhe Mautが参加した曲ではHurricaneを起用するなど、新しいサウンドへの目配りもできており、まだまだ衰える兆しはなさそうだ。

Awichが参加した"Hello"のプロデュースはKaran Kanchan.
「はじめまして」と「Haan ji, Namaste」のライムも彼の発案で、ビートもさすがのかっこよさ。
今年はAwichがインドのKR$NAや韓国のJay Parkをはじめ、中国、カンボジアのラッパーを招いた"ASIAN STATE OF MIND"を制作するなど、アジアのヒップホップを統合する動きも見られた。
この曲はおそらくその時のスワップ(相互客演でギャラを相殺する)で制作されたものだろうが、AwichはKR$NAとの共演のプロモーションに熱心ではなく、日本ではまったく話題にならなかったのがもったいない。

インド国内外のさまざまな例を見てきた結果、言語に大きく依存するラップに関しては、国や言語を超えたコラボレーションは成功しないのではないか、というのが現時点での私の見立てだ。



Yo Yo Honey Singh "51 GLORIOUS DAYS"(アルバム)


今さらHoney Singhを年間トップ10に入れるのもどうかとは思うのだが、今年リリースされた51曲入りというとんでもないボリュームのアルバムには度肝を抜かれた。
あらためて聴いてみると、ミュージックビデオはあいかわらずダサいが、ビートはかっこいいし(昔よりずっとよくなった)、ラップも技巧的なわけではないがさすがにどっしりとした風格がある。
曲が多すぎて熱心なファンでもまともに全曲聴かないのではないかという心配があるが、余計なお世話というものだろう。
目立つゲストはこの曲のAP DhillonやBohemia("Sawaal Puchdi")といった大御所のみだが、そこも若手とつるみがちな(かつての仲間で仲違いした)BadshahやRaftaarとの差別化だろうか。
ラージャスターンのフォークを導入したり("Bicchudo", "Bhagoliyo")、いろんなことをやっている。

今年はSeedhe Mautの30曲入りアルバム"DL91 FM"のボリュームと質の高さにも驚かされたが、このランキングの常連である彼らについては、単体では選出せず「DL91関連の作品」のなかに含めることとした。



Chaar Diwaari, Raftaar "FAREBI"(楽曲)


若手ラッパーとしての人気をすっかり確立したChaar Diwaariがデリーの大御所の一人Raftaarと共演したこの曲は、性急なビート感やポップセンスに2025年の空気感を感じる一曲だった。
ちゃんとインドっぽいところもポイントが高い。
かなりポップにできている曲だと思うのだが、YouTubeでの再生回数は現時点で530万界程度で、十分多いとも言えるが人気曲ともなるとすぐに数千万再生を超えるインドの状況を考えると少ないようにも思える。
インドもまた、ヒップホップがサブカルチャーとしては確立しているものの、メインストリームには成り得ていないという、日本と同じような状況にある。



ThirumaLi, ThudWiser "Kulasthree"(楽曲)


近年成長著しいケーララ州の言語マラヤーラム語ラップ。
Spotifyによると、2019年から2023年にかけてマラヤーラム語ラップの再生回数は5,300パーセントという驚異的な成長を示したそうで、確かに最近はミュージックビデオや楽曲の出来も加速度的に完成されてきた気がする。
マラヤーラム語ラップシーンの牽引者の一人であるThirumaLiとThudwiserがコラボしたKulasthree"は、他愛のないラブソングながらも、ケーララ的としか言いようのない詩的なリリックと映像美、そしてサウンドがたまらない。
Kukasthreeというのは伝統的な価値観における「理想の女性像」を表す単語だそうで、価値観の古さが気になるところだが、皮肉を込めた表現なのかどうかが気になるところではある。




Aman Sagar, Sanjeeta Bhattacharya "ESWY"(楽曲、ミュージックビデオ)


最近のインドのインディペンデント音楽シーンの密かなトレンドでもあるR&B路線の曲に、これまでRitvizやPrateek Kuhadらの楽曲に数々のセンスの良い映像を作成してきたJugaad Motion PicturesがMVを手がけた。
正直、映像で見るとちょっと演出が楽曲を邪魔してしまっている感じもあるが、楽曲の質の高さはサブスクなどで味わってもらうとして、輪廻転生モノというインドの伝統的なエンタメ文化とインディーズ音楽が融合したここまでセンスの良いミュージックビデオが作られたことをまずは讃えたい。



他に迷ったのは90年代風のエレクトロニック・ポップをセンスよく仕上げたPhilterSoup、デリーのMtoFトランスジェンダーで、性自認がどうこうということよりも佇まいのカッコ良さとリリックの生々しさにやられたKinari、プログレッシブ・サイバーメタルともいうべきAmogh Symphony.


2025年のトップ10(および次点となる作品)の紹介は以上となるのだが、いつも迷うのは、在外インド人による作品(とくにインドらしさがほぼない作品)をここに含めるべきかどうかということ。
これから紹介するアーティストは、音楽的にも南アジア的な要素はかなり少ないのだけど、ここで私が書いておかないと、日本において作品がまったくなかったことにされてしまうのではないか、という勝手な責任感もあって、ついでに紹介させてもらう。


Steel Banglez "One Day It Will All Make Sense"


イギリスで活躍しているパンジャーブ系プロデューサーのSteel Banglezが作成した南インド要素ほぼなしのヒップホップ/R&Bアルバムで、この曲はタミル映画のプレイバックシンガーとしても活躍しているSid Sriramとニューヨークの伝説的ラッパーであるNasが共演。
Steel Banglezは2023年にはUKのラッパーを中心に起用したアルバム"The Playlist"を作成しているが、今作ではインド本国やアメリカ、ナイジェリア系のアーティストも起用して、グローバルDesiミュージックとでも呼ぶべきサウンドを作り上げている。(Sid Sriramも拠点はカリフォルニアで、英語のR&Bアルバムも発表している。また両作でイギリスでも人気の高いナイジェリアやガーナなどアフリカ系アーティストが起用されていることも書き添えておきたい)
この曲はラップが入った王道R&B的な曲調ながら、最後に南インドの古典音楽であるカルナーティック由来の歌い回しが入ってくるところに痺れる。
南アジア色が薄い、ある意味で聴きやすい作品でもあるので、日本でももっと幅広く評価されてほしいところ。



Sayak Das "don't let this be the end"(楽曲)


「アジアのヒップホップ/R&Bアーティストをフックアップする」というコンセプトで活動する88risingだが、これまで取り上げてきたアーティストは東アジアや東南アジアにルーツを持つアーティストがほとんどだった。
アジアは広すぎるので、たとえば日本人を含めた東〜東南アジアの人々が、中央アジアや西アジアを同じ地域の人々として認識するかというとなかなか難しい問題だと思うのだが、まあともかく、ここにきて88risingが南アジア系のアーティストにも目を向けるようになったのは大変興味深い。
北米では南アジア系のコミュニティはすでに確立していて、たとえばパンジャーブ系のヒップホップなどは本国とシームレスにつながった揺るぎないディアスポラのシーンが存在しているので、必然的に88rising はよりオルタナティブなアーティストに着目せざるを得ない。
このSayak Dasの今っぽさは皆無だけど、ただただポップで上質なR&Bポップという音楽性は無視されてしまうのはもったいなく、ここできちんと取り上げておきたいと思った次第。


来年はもうちょっとブログの記事書きたい!



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goshimasayama18 at 14:43|PermalinkComments(0)

2024年03月10日

どこにでもラッパーがいるインド 地方都市のヒップホップシーン(南インド編)



前回に続いて、今回は南インドの地方都市のラッパーを紹介する。
YouTubeでひたすら「都市名 rapper」で検索して気がついたことがひとつあって、それは南インドには北インドほどラッパーがいないということだ。

その理由は複数考えられるのだが、まず第一に南インドには北インドほど大きな都市がないということ。
前回の記事で、「YouTubeで、英語で『インドの都市名(スペース)rapper』で検索すると、人口規模100位くらいまでの街であれば確実にラッパーを見つけることができる」と書いたが、インドの人口規模100位までの都市に、南インド5州(アーンドラ・プラデーシュ、テランガーナ、カルナータカ、タミルナードゥ、ケーララ)が占める割合は20ほどしかない。

二つ目の理由は、北インドのヒップホップ受容で大きな役割を果たしたパンジャーブ系のような人々が、南インドには存在しないということだ。
もう何度も書いたことなのでざっくりと書くが、インド北西部に位置するパンジャーブ地方は、イギリスや北米への移住者が多く、彼らはヒップホップや欧米のダンスミュージックを、郷土の伝統音楽のバングラーと融合し、母国へと輸入する役割を果たした。
南インドからも海外への移住した人々は多いが、伝統的にタミル人はマレーシアやシンガポールへの移民が多く、ケーララからはUAEなどのペルシア湾岸諸国に渡る人が多い。
こうした理由から「本場のヒップホップに衝撃を受けて逆輸入する」という事象が北インドに比べて少なかった可能性はあると思う。

理屈はこれくらいにして、まずは南インドの西岸側からヒップホップの旅を始めてみたい。
古くはヒッピーたちの楽園として知られ、現在はインド人ミドルクラスのイケてるリゾート地となっている旧ポルトガル領の街、ゴアのラッパーを紹介する。


Tsumyoki x Bharg "Pink Blue"



この楽園っぽいポップさはまさにゴアのイメージにぴったり。
TsumyokiことNathan Joseph Mendesは若干23歳の若手ラッパーで、影響を受けたアーティストにXXXTentacionやJuice WRLDの名前も挙げている現代派。
ラッパーといいながらもラップじゃない(歌モノ)だっていうところも今っぽい。
彼はソロアーティストとしてムンバイのDIVINEのGully Gangレーベルと契約しており、また地元のラッパーたちと結成したGoa Trap Cultureというユニットでも活動をしている。
Tsumyokiという不思議なMCネームは日本文化の影響があるそうで、2019年にリリースしたThe Art Of Flexingには"Tokyo Drift!"(Teriyaki Boyzの曲とは無関係っぽい)とか"Super Saiyan!"という曲もやっている(SoundCloudで聴ける)。
この"Pink Blue"で共演しているBhargは北インドのデリー出身の同世代のラッパーで、Tsumyoki同様にポップなスタイルで人気を博している。
こうした地域を超えた新世代のコラボレーションは今後も増えて行きそうだ。


続いては、インド西岸を南に進み、カルナータカ州のマンガロール(現在の正式な名称はマンガルール)に行ってみよう。
マンガロールといえば銀座にあるマンガロール料理店「バンゲラズ・キッチン」がけっこう有名だが、料理だけじゃなくてラップもなかなかウマい街だった!

D.O.C "Coast Guards"


ユニット名のD.O.CというのはDepartment of Cultureの略だそうで、"Coast Guard"というタイトルはいかにも港湾都市マンガロールにふさわしい。
古い映画音楽をサンプリングしたらしいビートは地元のVernon Tauroなるプロデューサーによるもので、やはり彼が作ったビートに乗せたこの地元ラッパーたちのサイファーもなかなかかっこいい(最初に出てくる髭のラッパーがシブい!)。
マンガロールはD.O.Cのメンバーをはじめとして結構いいラッパーがいそうだが、YouTubeでの再生回数はいずれも数万回程度。
彼らがどの言語でラップしているのかは分からないが、この地域の母語はトゥル語という話者数200万人程度の比較的マイナーな言語であるため、もしかしたらあまり聴かれていないのは彼らが話者数の少ないトゥル語でラップしているからなのかもしれない。


さらにインド西岸を南下し、ケーララ州に突入。
タイトルは南インドの野菜スープカレー"Sambar"だ!

ThirumaLi x Thudwiser x Fejo x Dabzee "Sambar" 


以前も書いたことがあるが、インドのラッパーはやたらと食べ物のことをラップする。

この映像はヒップホップのミュージックビデオと料理番組の融合みたいになっていて、英語字幕をオンにするとひたすら料理のことをラップしているのが分かる。
ふざけた曲だがDef Jam Indiaからのリリース。
やはりインドでは食とヒップホップは切り離せない、のだろうか。
途中で聖書に関するリリックも出てくるのがキリスト教徒が多いケーララらしい。
最初にクレジットされているThirumaLiは、識字率100%を達成したことでも知られる汽水性の入江の街コッタヤムの出身、共演のラッパーFejoとDabzeeはさらに南の海辺の都市コチの出身だ。
ビートメーカーのThudwiserもケーララ出身のようだが、どこの街かは分からなかった。


続いて、インド最南端のカニャクマリを通ってインド南部の東側、タミルナードゥ州に入ろう。
ここでは中小都市のかっこいいラッパーが見つけられなかったので、州都チェンナイのいかにもタミルらしいラッパーを紹介する。

Paal Dabba "170CM"


昔のマイケル・ジャクソンかってくらい曲が始まるまでが長いが(曲は2:30から)、映像の色彩や雰囲気が急にタミル映画っぽくなったのが面白い!
タミル語らしさを活かしたフロウと今っぽい重いベースとホーンセクションのビートの組み合わせがかっこよく、ゲームっぽい世界から最後はルンギー(腰布)&サリーのダンスになるのが最高だ。



次はチェンナイから北に向かい、南インド内陸部のテランガーナ州の州都ハイデラバードへ。
ここから『バーフバリ』や『RRR』で日本でも知られるようになったテルグ語圏に入る。

MC Hari "Khadahhar"


このミュージックビデオは、ハイデラバードの下町エリアのラッパーのライフスタイルを表現しているとのことで、ギャングスタ的な内容なのかと思って見てみたら、ひたすらフライヤーを撒いてサイファーをするという健全なものだった。
2:17に「選手権」という謎の日本語がプリントされたTシャツを着た男が出てくるが、ラップのチャンピオンシップっていうことなのか、偶然なのか。

面白いのはたまに映像の雰囲気がテルグ語映画っぽくなることで、例えばこのNiteeshというシンガーをフィーチャーした"Raaglani"のミュージックビデオなんて、かなりテルグ語映画っぽい雰囲気になっていると思う。

MC Hari "Raagalani(Ft. Niteesh)"



ハイデラバードから東南東に150キロほど行ったところにあるテランガーナ州の小さな街、ミリャラグダ(Miryalaguda)という街にもかっこいいラッパーを見つけた。

Karthee "Miryalaguda Rap"


タイトルからして地元レペゼンがテーマのようで、いかにも田舎町って感じの市場とか空き地とかでラップしているのがたまらない。
そして彼のビートもまた伝統とヒップホップのミクスチャー加減がいい具合で、テルグ語の響きを活かしたフロウも多彩で、かなり実力のあるラッパーと見た。
YouTubeでの再生回数は約2ヶ月で10万回弱。
この街の規模ではかなり健闘していると言えるだろう。
Kartheeという名前をインド全国区の音楽メディアで見る日が遠からず来るかもしれない。


最後はテランガーナ州から東へ。
インド海軍の拠点都市でもあるアーンドラ・プラデーシュ州のヴィシャーカパトナムのラッパーを紹介する。

Choppy Da Prophet "Voice of the Street"


いきなり出てくるタバコ咥えたバアさんが超シブい。
若者がスリやひったくりといったセコい犯罪を繰り返すミュージックビデオは演出なのかリアルなのか。
ラップはちょっと単調だが、ビートの勢いとミュージックビデオの下町の雰囲気が良い。



というわけで、南インドの地方都市のラッパーたち(一部チェンナイやハイデラバードといった大都市を含むが)を紹介してきた。
北インド同様に、というかそれ以上に各都市の特徴や地元レペゼン意識(≒郷土愛)が強く感じられるラッパーが多く、またそれぞれにラップのスキルも高くて、改めてインドのヒップホップシーンの広さと深さを感じた。

今回はかっこいいと思えるラッパーを中心に紹介したのだが(あたりまえか)、中には垢抜けなくてヘタだけど、2周くらい回って結果的に面白いことになっているこんなラッパーもいたりして、インドのヒップホップシーンは本当に底辺が広がってきている。

Royal Telugu "Bhai"



テランガナ州のオンゴールという街のラッパー。
ラップにトランスみたいなビートを取り入れていたり、時代と共鳴している部分もあるのだが、狙ってやったというよりは、たまたまそうなってしまったような面白さがある。
いい意味でのガラパゴス状態のまま、彼が成長していったらどんな魅力的な音楽が生まれるのだろうか。

今後も地方都市のシーンはちょくちょくチェックして紹介してゆきたいと思います。




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2023年08月31日

2023年秋 インドのフェス事情!


日本では音楽フェスのシーズンといえば夏だが、インドでは過ごしやすい気候の冬に多くの音楽フェスが開催されている。

インドはいまやアジアを代表するフェス大国で、アメリカ発祥の世界的ロックフェスLollapaloozaがアジアで初めて行われたり、世界で3番目の規模のEDMフェスティバルSunburnが開催されるなど、海外の大物アーティストが参加するものから、国内アーティスト中心のものまで、フェスの数は年々増える一方。
(これまでに紹介したインドの注目フェス情報は最後にまとめてリンクを貼っておきます)
今回は、本格的なシーズン到来を前に、2023年の秋に行われる面白いフェスを2つほど紹介させてもらいます。

まず紹介するのは、ノルウェーのハウス/EDMプロデューサー、Kygo(カイゴ)が主催するPalm Tree Music Festival.
去年Lollapaloozaの会場にもなったムンバイの競馬場Mahalakshmi Race Courseで、11月3日から5日にかけて開催される。

Palm Tree Music Festivalはこれまでヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどで開催されていて、アジアではバリ島で開催されたことがある。

南アジアでの開催は初めてで、ムンバイの1週間前には、エジプトのカイロでの開催も発表されている。
カイロ会場は500名限定の超VIP向けフェスとして開催されるようで、販売されるチケットはもっとも安い入場券でも1,111米ドル。
このチケットには、4つ星ホテルへの1泊と、ピラミッドやスフィンクス散策、ピラミッド周辺でのキャメルライド、ビールとワイン飲み放題などが含まれている。
もっとも高い個人向けチケットは7,777米ドルで、これには5つ星ホテルへの3泊、24時間の執事サービス、シャンパンボトル、出演アーティストとのウェルカムディナー、ピラミッド内の「王の間」ツアー(!)、空港への送迎などが含まれていて、さらに豪華な4名分34,998ドルのチケットもある。

おそらくカイロでのフェスは、このバリ会場のような雰囲気で行われるのだろう。



より大規模な会場で行われるムンバイでのフェスは、おそらくこのニューヨーク郊外のハンプトンズで行われたような形になるものと思われる。


インドでもEDM系のフェスティバルは非常にさかんで、例えばラージャスターン州の宮殿で行われるMagnetic Fields Festivalは、カイロのPalm Tree同様にかなりセレブっぽい路線で行われている。
てっきりムンバイのPalm Treeも同じようなスタイルで行われるものだと思っていたら、チケット代は1,500ルピー(2,660円)からとのことで、結構リーズナブルな価格に抑えられているようだ。
(ただし、2万ルピーの高級チケットもある)

出演者には、KygoのほかKungs(フランス)、Sam Feldt(オランダ)、Kidnap(イギリス)、Edward Maya(ルーマニア)、Forester(アメリカ)らの欧米のEDM系DJのみ。
インドで開催されるのにインド人アーティストが一人もいないのがちょっと感じ悪い気もするが(他の国内のEDM系フェスには、少なからずインド人のDJも出演している)、インドではかつての日本のように、「洋楽のほうが進んでいてカッコイイ」という価値観がまだ根強いので、要はそういうオーディエンスを対象にしたフェスということなのだろう。
(あるいは、オーガナイザーのKygoが、単にインドのDJ/プロデューサーを知らなかったのかもしれない)



Palm Tree Music Festivalとは逆に、インド国内のアーティストに特化したフェスも行われる。
9月2日にムンバイ、9月16日にデリーで開催されるSouth Side Storyは、出演者を南インドのアーティストに限定しているという、非常に面白いイベントだ。


このイベントの特異さを説明するために、一応地図をのっけておきます。
india-map
(出典:https://www.mapsofindia.com/my-india/india/the-new-india-28-states-and-9-union-territories-maps-and-facts


一般的に南インドと言われるのは、タミルナードゥ(タミル語圏)、ケーララ(マラヤーラム語圏)、カルナータカ(カンナダ語圏)、アーンドラ・プラデーシュとテランガーナ(テルグ語圏)の5つの州のこと。
South Side Storyが行われるデリーとムンバイは、同じ国内でも文化や言語体系がまったく異なる北インド文化圏の大都市だ。
いずれもインディーミュージシャンがたくさんいる地域なので、あえて地元アーティストを出さずに、地理的にも文化的にも遠く離れたサウスにこだわった音楽フェスが開催されるというのは非常に珍しい。
古典音楽とかだとあるのかもしれないが、少なくともインディーズ系の音楽では聞いたことがない。
South Side Storyは昨年に続いて2回目の開催だそうで、昨年の様子を見る限り、単なる音楽フェスティバルではなく、伝統芸能や食文化体験(バナナの葉に盛り付ける南インドの定食ミールス)などを含めたイベントらしく、さらに面白そうだ。


デリーやムンバイの人たちにとってはエキゾチックな体験ができて、サウスの出身者にとっては懐かしというところを狙っているのだろう。
参加アーティストもいかにも南インドらしい濃いメンツが揃っているので、何組か動画で紹介したい。


Thaikkudam Bridge "One"


ムンバイでのヘッドライナーは、昨年も出演してアフタームービーにも曲が使われているケーララ州のThaikkudam Bridge.
このケーララ州の観光プロモーションのようなミュージックビデオを見ていただければ分かる通り、彼らは地元の文化を非常に誇りしていて、魚をよく食べる食文化から自分たちの音楽を'fish rock'と称している。


ThirumaLi "Rap Money"

デリーのヘッドライナーは、ケーララのラッパーThirumaLi.
ヒンディー語圏のデリーで、しかもリリックが重要な意味を持つラップで、全く異なる言語系統のマラヤーラム語のラッパーがヘッドライナーを飾ることは、このコンセプトのフェス以外ではまずない。
ほとんどのデリー出身者にとって、マラヤーラム語は理解できないはずで、これはかなり画期的なことだ。
ミュージックビデオを見る限り、ラップのスキルもしっかりしていて、音もかっこいいので、これでパフォーマンスが良ければきっと大いに盛り上がることだろう。
デリー会場は他にもラッパーが多くて、チェンナイ(タミルナードゥ州の州都)のArivuやベンガルールのHanumankindなどが出演する。




Agam "Mist of Capricorn (Manavyalakincharadate) "

ムンバイに出演するベンガルールで2003年に結成されたAgamは、南インドの古典であるカルナーティック音楽を導入したカルナーティック・プログレッシブロックを標榜するバンド。
この曲は18〜19世紀の音楽家でカルナーティックの楽聖の一人とされているティヤーガラージャをもとにしているとのこと。
フジロックで来日したJATAYUでカルナーティック・フュージョンを知った人も多いと思うが、変拍子や複雑なリズムを含んだカルナーティック音楽はプログレッシブ・ロックとの相性も抜群で、その先駆け的な存在であるAgamは、JATAYUのメンバーもインタビューで「カルナーティックとロックの融合に大きな貢献を果たしたバンド」と高く評価している。



AATTAM KALASAMITHI & THEKKINKAADU BAND "Deva Shree Ganesha"



AATAM KALASAMITHI & THEKKINKAADU BANDはケーララの大所帯パーカッション・グループで、同郷ケーララの人力トランスバンド、Shanka Tribeにも似た感じの音像だが、こちらはぐっとインドっぽい要素が強いで、この曲は象頭の神ガネーシャを讃えるタイトルが付けられている。
人数が多すぎて難しいかもしれないが、フジロックとかで来日したら盛り上がるだろうなあ。


ムンバイ、デリーに住んでいる方、この時期に行かれる予定の方、どちらのフェスも、もし参加されたら感想など教えてください。



記事中にもいくつかリンクを貼りましたが、インドのフェス充実ぶりがわかる他の記事も改めてここに貼っておきます。


今年は記事を書かなかったが、いかにもインド的なフェスとしては、色のついた水や粉をぶっかけあいながら春の訪れを祝うお祭り「ホーリー」と一体とフェスなんかも充実している。
これはコロナ禍の真っ只中の2021年に書いた記事(下の方に正常時のフェスを紹介した記事へのリンクもあります)。


バンガロール(ベンガルール)のEchoes of Earthもかなり雰囲気の良さそうな行ってみたいフェスだ。


かと思えば、辺境の地インド北東部にはメタル好きの血が騒いでしまうフェスもある。


インドのなかでもインディーミュージックが盛んな北東部には、かなり奥地でのこんな超インディペンデントなフェスも行われている。
これ、毎年ラインナップも良くてめちゃくちゃ行ってみたいんだよなあ。



国内と海外のアーティストがどちらも出演するNH7 Weekender.




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goshimasayama18 at 00:16|PermalinkComments(0)