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2020年01月26日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2019年ベストアルバム10選!

毎年紹介しているRolling Stone India誌が選ぶ年間ベストシリーズ、今回は2019年のベストアルバムを紹介します!
(元の記事はこちら)
同誌の編集者が選ぶこのセレクションは、毎年「ボリウッドのようないかにもインドらしい音楽」ではなく「オシャレで洗練された音楽」を選出してくるのが特徴。
日本にもよくある「歌謡曲やアイドルは取り扱わず、作家性が強くてセンスの良いものを紹介するメディア」みたいな傾向があるので、決してインドの主流ではないものの、「インドの先端的なインディーミュージック」と思って読んでみてください
今回は各アルバムを代表する1曲の動画を貼り付けておきます。
Spotifyなんかでも聴けるので、気に入った楽曲があったらぜひアルバムを通して聴いてみてください。

Peter Cat Recording Co. "Bismillah"

Peter Cat Recording Co.はニューデリーで2009年に結成された、インドのインディーミュージックシーンではベテランにあたるバンド。
この"Bismillah"は彼らの久しぶりのアルバムだ(おそらく前作は2012年リリース)。
以前からジプシー・ジャズやボールルームのようなレトロな音楽の影響を強く受けた作風が特徴としているが、今作でもその路線を踏襲。
バート・バカラックみたいに聴こえるところもあれば、曲によってはサイケデリックな要素もある。
過去の優れた音楽をセンスよくまとめるスタイルは、日本でいうと90年代の渋谷系を思わせる。
インドのオシャレ系アーティストの代表格で、フランスのPanache Parisレーベルと契約している。


Parekh & Singh "Science City"

こちらもインドを代表するオシャレアーティストとして有名なコルカタのドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのPeacefrogレーベルと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されたりしている。
今作でもその音楽性は健在で、ウェス・アンダーソン的な世界観ともども確固たる個性を確立している。


The Koniac Net "They Finelly Herd Us"

2011年結成のムンバイのオルタナティブロックバンドで、Stills, Smashing Pumkins, Death Cab For Cutieらに影響を受けているとのこと。
確かに、90年代から2000年ごろのバンドのような質感のあるサウンドで、楽曲も非常によくできている。
Rolling Stone India曰く、「ロックが死んだというやつがいるなら、このアルバムはその復活だ」。


Shubhangi Joshi Collective "Babel Fish"

ギター/ヴォーカルのShubangi Joshi率いるムンバイのインディーポップバンド。
曲はファンクっぽかったりジャズっぽかったり、たまにボサノバっぽかったりする。
ここまで全て英語ヴォーカルの洋楽的サウンドが占めているところがいかにもRolling Stone India的な感じだ。


Blackstratblues "When It's Time"
ムンバイのギタリストWarren Mendonsaが率いるインストゥルメンタルバンド。
2017年のこの企画でもベストアルバム10選に選出されたこのランキングの常連だ。
その時もまったく21世紀らしからぬサウンドで驚かせたが、今作も音楽性は変わらず、ジェフ・ベックのような心地よい音色のフュージョン風サウンドを聴かせてくれている。
ギタリストとしての力量は非常に高いと思うが、音楽の質さえ高ければ、あまり同時代性に関係なく選出されるのがこのランキングの面白いところ。
ちなみにWarren Mendonsaはボリウッド音楽のプロデューサー集団として有名なShankar-Eshaan-LoyのLoy Mendonsaの甥にあたる。


Lifafa "Jaago"

ここにきてようやくインドらしさのあるサウンドが入ってきた。
Lifafaは冒頭で紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリスト、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクトで、バンドとはうってかわって、こちらではエレクトロニカ的なサウンドに取り組んでいる。
無国籍な音になりがちなエレクトロニカ・アーティストのなかでは珍しく、彼はインド的な要素を大胆に導入して、独特の世界観を築き上げている。
そのせいか、不思議な暖かさがあり、妙にクセになるサウンドだ。


Divine "Kohinoor" 

2019年はインドのヒップホップ界にとっては飛躍の年だった。
その最大の理由は、映画『ガリーボーイ』のヒットによって、それまでアンダーグラウンドなカルチャーだったヒップホップが広く知られるようになったこと。
Divineはインドのストリートヒップホップ創成期から活躍するムンバイのラッパーで、『ガリーボーイ』の主人公の兄貴分的なキャラクターであるMCシェールのモデルとしても注目された。
今作は自身のレーベル'Gully Gang Entertainment'からのリリースで、同レーベルのShah RuleやD'evilらが参加している。
『ガリーボーイ』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたNasによるインタールードも収録されており、「メジャー感」で他のアーティストと一線を画す内容。
表題曲のイントロや、Chal Bombayのビートなど、レゲエっぽい要素が入ってきているところにも注目したい。
個人的にはダンスホール・レゲエやレゲトンはもっとインドで流行る可能性のある音楽だと思っている。
最近のボリウッド系の曲ではかなりレゲトン的なビートが使われていて、それゆえにアンダーグラウンド・ヒップホップ界隈では敬遠されていたのかもしれないが、今後どうなるだろうか。
このDivine、ムンバイのヒップホップシーンのアニキ的な立ち位置を確立しており、日本でいうとZeebra的な存在、のような気がする。


Arivu x ofRo "Therukaral"


日本語で「浴びる、お風呂」みたいな名前の二人組は、インド南部タミルナードゥ州のヒップホップユニット。
今作は、日本でも映画祭で公開された『カーラ 黒い砦の闘い(原題"Kaala")』の監督パー・ランジットによる音楽プロジェクト、その名もCasteless Collectiveの一員でもあるラッパーArivuと、プロデューサーのofRoによるプロジェクトによるファーストアルバムにあたる。
Casteless Collectiveではカースト制度に反対するメッセージを、タミルの伝統音楽Gaanaとラップを融合した音楽に乗せて発信していたが、このユニットでは、政治的なメッセージはそのままに、よりヒップホップ色の強いスタイルに取り組んでいる。
この"Anti-Indian"は、「タミル人としてのアイデンティティを持っていることが、北インドのヒンドゥー的な価値観のナショナリストにとっては『反インド的』になるのか?」という痛烈なメッセージの曲のようだ。


Taba Chake "Bombay Dreams"

「茶畑」みたいな変わった名前の彼は、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガー・ソングライターで、現在ではムンバイを拠点に活動をしている。
ギターやウクレレの音色が心地よいアコースティックな質感のアルバムで、ちょっとジャック・ジョンソンみたいな雰囲気もある。
いわゆる「インドの山奥」であるインド北東部には、この手の南国っぽいアコースティック・サウンドのアーティストが結構いるのだが、地元の伝統音楽との親和性があるのだろうか。
このアルバムは曲によって英語、ヒンディー語、そしてアルナーチャルの言語であるニシ語の3つの言語で歌われており、自身のルーツに対する彼のこだわりも感じられる。


Winit Tikoo "Tamasha" 

カシミールのフュージョン・ロック(伝統音楽とロックの融合)バンド。
以前紹介したベストミュージックビデオに続いて、混乱が続くカシミールのアーティストがここにもランクインした。
以前Anand Bhaskar Collectiveを紹介したときにも感じたことだが、北インドの伝統音楽風の歌い方は、グランジ風の演奏に非常に合うようだ。
Pearl JamのEddie Vedderのような声の揺らぎがあるのだ。
そう考えると、かつて映画『デッドマン・ウォーキング』のサウンドトラックでEddy VedderとNusrat Fateh Ali Khanを共演させた人は、ずいぶん早くこのことに気づいていたのだなあ、と思う。


と、ざっと10枚のアルバムを紹介してみた。
「今のインドでかっこいい音」であるのと同時に、地域の多様性やアクチュアルなメッセージ性にも配慮したラインナップであると言えるだろう。
欧米の音楽への憧れが具現化したようなものもあれば、「インド人としてのルーツ」が入っているものもあるのが、いつもながらインドの音楽シーンの面白いところ。

昨年、一昨年のベスト10と比べてみるのも一興です。





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goshimasayama18 at 14:19|PermalinkComments(0)