ThatBoyRoby

2021年01月08日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストミュージックビデオ10選!

というわけで、今回はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のインドのミュージックビデオ10選!

(元の記事はこちら↑)

「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!



1. Sanjeeta Bhattacharya  “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
この新曲で、従来のオーガニック・ソウル的な曲調とは異なる違うラップを導入した新しいスタイルを披露した。

共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。


2. Kamakshi Khanna  “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。


3. Prabh Deep  “Chitta” 
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。


4. Shashwat Bulusu  “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
ミュージックビデオに出てくる若者はKunal Chhetriというスケートボーダー。
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。 


5. DIVINE  “Punya Paap”

軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
これまで「ストリートの兄貴」的なイメージで売ってきたDIVINEだが、名実ともにスターとなったことでそのイメージの転換を迫られ、この曲ではキリスト教の信仰や内面的なテーマを打ち出してきた。
一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。



6. That Boy Roby  “Backdrop”

チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。


7. Lifafa  “Laash”

Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。


8. When Chai Met Toast  “When We Feel Young”

ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。



9. Komorebi  “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。




10. Raghav Meattle  “City Life”

軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。

大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。






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goshimasayama18 at 18:53|PermalinkComments(0)

2020年07月05日

インディー音楽の新潮流「レトロ風かつマサラ風」はインドのヴェイパーウェイヴか?

インドのインディー音楽の歴史は、エンターテインメントのメインストリームである「ボリウッド的なもの」への反発の歴史だった。
…とまで言ったら言い過ぎかもしれないが、「ボリウッド的なものを避けてきた」歴史だったことは確かだろう。

かつて日本のインディーズバンドが「歌謡曲」的なベタさを仮想敵としてきたように、インドのインディー音楽も、ドメスティックな大衆文化であるボリウッドとは距離を置いた表現(例えば「洋楽的」なクールさを持つもの)を追求してきた。
例えば、近年成長著しいインドのストリートラップは、早くからボリウッドに取り入れられてきたバングラー・ビート(インド北西部パンジャーブ州をルーツとするバングラーのリズムや歌を取り入れたダンスミュージック)ではなく、よりアメリカのブラックミュージックに近いスタイルを取ることが多い。
新しい表現衝動には、既存の商業音楽とは異なるスタイルが必要なのだ。

ところが、ここ最近、インドのインディーミュージックシーンで、「あえて」ドメスティックど真ん中の往年のボリウッド的なビジュアルやサウンドを取り入れて、「ダサかっこいい」演出をするアーティストが増えてきている。
これは、以前からインドで見られた「古典音楽と西洋音楽のフュージョン」とか、「伝統衣装を現代風におしゃれに着こなす」といったものとは似て非なる、全く新しい風潮だ。
簡単に言うと、古いもののかっこよさの再発見・再評価ではなく、古くてダサいものを、古くてダサいまま愛でよう、という、より高度に屈折した見せ方ということだ。

こうした傾向は、2010年代に爆発的な広がりを見せたヴェイパーウェイヴなどのレトロフューチャー的なムーブメントの、インド的な発展とも言える。
(ヴェイパーウェイヴを定義するならば「80年代的な大量生産/大量消費の大衆文化を、ノスタルジーと皮肉と空虚さを込めて再編集した音楽と映像」。検索するとくわしい解説記事がたくさんヒットします)。
成長著しいインドの若手アーティストにとって、20年以上前の娯楽映画や大衆音楽は、もはや避けるべきダサいものではなく、別の時代、別の世界の作品であり、格好の「ネタにすべき素材」になっているのだ。
インドのポピュラーミュージック市場では、まだまだ映画音楽の市場規模が圧倒的に大きいとはいえ、インディーミュージックも急速に発展を続けており、メインストリームを面白がる余裕が出てきたとも言えるだろう。

まず紹介するのは、Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベストミュージックビデオ10選にも選ばれた、チャンディーガル出身のガレージロックバンドThat Boy Robyの"T".
サイケデリックなサウンドに合わせて中途半端に古い映画の画像が繰り返される、無意味かつシュールで中毒性の高い映像になっている。

本来の映画の内容から離れて、インド映画の強烈な映像センスを「サイケデリックなもの」として扱う感覚が、インド国内でも育ってきているのだ。


続いて紹介するのは、ネパール国境にほど近い西ベンガル州の街シリグリー(Siliguri)出身のレトロウェイヴ・アーティストのDreamhourが先ごろリリースしたアルバム"PROPSTVUR"から、"Until She".
このレトロなシンセサウンドも驚愕だが、よくこんなにレトロフューチャー的なインド人女性の画像(時代を感じさせるメイクと衣装のラメ感!)を探してきたなあ、ということに感心した。

ムンバイやバンガロールのような国際的な大都市ではなく、「辺境の片田舎」であるシリグリーでこの音楽をやっているというのも味わい深い。
彼のセンスが地元の人々にはどう受け入れられているのか、若干気になるところではある。
彼のアルバムは全編通してレトロなテイストが満載で、まるで冷凍睡眠から覚めた80年代のダンスミュージックのプロデューサーが作り上げたかのような面白さがある。


ムンバイとバンガロールを拠点とするトラックメーカーのMALFNKTIONとRaka Ashokは、タミル語映画を中心に1970年代から活躍する映画音楽家Illaiyaraaja(イライヤラージャ)の音源をベースミュージックにリミックスした"Raaja Beats"を発表。

イライヤラージャは、電子音楽などを導入して、当時としては非常に斬新なサウンドを作り上げた音楽家だ。
今となってはレトロなそのサウンドを新しいビートで生まれ変わらせたこの試みは、意外性を狙っただけではなく、彼らの音楽的ルーツを振り返るものでもあるのだろう。


同じような試みをしているのは彼だけではない。
このP.N.D.A.というアーティストは、詳細は不明だが、Bollywood LofiとかDesi Waveというジャンル名で、古い映画音楽をヴェイパーウェイヴ的に再編集した作品をたくさんYouTubeにアップしている。

ヴェイパーウェイヴのアーティストたちの音楽的ルーツの深層に80年代の商業音楽があるように、現在インドの音楽シーンで活躍しているミュージシャンたちも、インディーミュージックに目覚める前の原体験として、このような映画音楽が刻み込まれているのだろう。
そうした音楽は、個々のインディペンデントな表現衝動とは何の関係もない、むしろ商業的で空虚なものなのだが、だからこそノスタルジーと自分自身を含めた時代への皮肉を込めた表現として両立するのである。

この「インド版ヴェイパーウェイヴ」は、例えば「インド最古の音楽レーベル」であるHindusthani Recordsの音源をヒップホップのビートに流用したコルカタのSkipster aka DJ SkipとラッパーCizzyのような、自身のルーツへの直接的なリスペクトの表明ともまた違う。

これはこれで、温故知新的なかっこよさがたまらない。

今回紹介したような屈折した表現の登場に、インドの音楽シーンの成熟を改めて感じさせられた。
そして、80年代の日本や欧米のカルチャーと比べても、格段にアクの強いサウンドやビジュアルを、よくもまあクールに再定義したものだと、大いに感心した次第である。

こうした傾向はこれからも続きそうで、まだまだ面白いサウンドが登場しそうなので、要注目です!
それでは!


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goshimasayama18 at 17:29|PermalinkComments(0)

2019年08月10日

今年も日本のバンドが出演!Ziro Festivalのラインナップが面白い!

昨年も紹介したインド北東部の最果ての地、アルナーチャル・プラデーシュ州で行われる究極の音楽フェスZiro Festival of Musicが今年も面白そうだ。

(昨年の記事↓)

インド北東部の玄関口アッサム州のグワハティから8時間近く鉄道に揺られ、最寄駅からジープで3時間半かけてやっと到着するアルナーチャル・プラデーシュ州のZiro Valleyで行われるこのフェスには、インド北東部を中心に、インド全土、そして世界中の先鋭的なミュージシャンが毎年出演することで知られている。
この辺境の地で行われるイベントがどれだけピースフルで素晴らしいものなのかは、昨年のアフタームービーを見れば分かるはずだ。

大自然のなかで行われるこのフェスティバルは、いまや数々の音楽フェスが開催されるようになったインドでも、究極の音楽好きが集うイベントとして一目置かれている。

先日、今年のラインナップが発表され、日本のサイケデリック・ロックバンドAcid Mothers Templeが出演することが明らかになった。
zirofestival2019

アルファベット順に記載されているようなので、彼らがヘッドライナーかどうかは分からないが、一昨年はジャーマンロックバンドCanのヴォーカリストとして有名なダモ鈴木、昨年はポストロックのMONOがトリを務めており、いずれにしても3年連続で日本人アーティストが出演することになる。


インドからの出演者も非常にユニークで、いずれもインディーズシーンでも知る人ぞ知る存在のアーティストばかりだが、知名度よりもサウンドの面白さを追求して選んでいるようだ。
西ベンガル州北部シリグリー出身のDreamhourは80年代サウンドを追求するエレクトロニックアーティスト。

この楽曲にはKrakenのギター/ヴォーカルのMoses Koulが参加している。

パンジャーブ州のThat Boy RobyはRolling Stone India誌が選ぶ2018年のミュージックビデオ10選にも選ばれたガレージロックバンド。


New DelhiのZokovaはスリーピースのインストゥルメンタル・ポストロックバンド。


ウッタラカンド州のKarmaは歯切れの良いラップを聴かせるラッパー。


エレクトロニック、ロック、ヒップホップといった現代音楽でインドじゅうから個性的なラインナップを揃えたかと思えば、伝統音楽にも目配りが効いており、カルナータカ州のJyoti Hegdeは古典楽器ヴィーナの奏者だ。

HarmoNOniumは、こちらも伝統音楽で使われる鍵盤楽器ハーモニウム奏者兼ヴォーカリストのOmkar Patilが率いるフュージョンロックバンド。


出演者のなかでもっとも知名度が高いのは、カルナータカ出身で、映画音楽なども歌うシンガーのLucky Aliだろう。

地元のインド北東部からは、今年はシッキム州ガントクのベテランハードロックバンドStill Waters(2001年結成)や、ナガランドのポップロックバンドTrance Effectらが出演する。

この曲はAC/DCを彷彿させるナンバー。



海外から招聘しているアーティストも、国際的スターではなくても、面白そうなバンドばかりだ。
リトアニアのAntikvariniai Kašpirovskio Dantysはジプシー的な要素も入ったローカル歌謡ロック。


イスラエルのOuzo Bazookaは、来日経験があり、サラーム海上さんも推している中東サイケデリックロックバンド。


日本から参加するAcid Mothers Temple

いったいZiro Valleyの地でどんなライブを見せてくれるのだろうか。

昨年のZiro FestivalでのMONOのライブを見てみよう。


都会を遠く離れ、インドの山奥の大自然のなかでこの美しい轟音に身を委ねることができたらどんなに素晴らしい体験だろう。

この個性的すぎるラインナップのフェスを主催しているのは、アルナーチャルのプロモーターBobby Hanoと、首都デリーのロックバンドMenwhopauseのギタリストで、かつてはジャーナリストとしても活躍していたAnup Kutty.
きっかけは、Anupがバンドでインド北東部をツアーしたとき、プロモーターをしていたBobby Hanoが故郷のZiro ValleyにAnupを招待したことだった。
自然に囲まれ、独自の文化を保っているこの地に惹かれたAnupは、滞在中にBobbyとZiroで音楽フェスティバルを開催する構想を話し合った。
デリーに戻ってもそのアイデアが頭を離れなかったAnupは、アルナーチャル・プラデーシュ州の観光局に企画を持ち込んだところ、州は全面的なサポートを彼に約束し、この世界でも稀な辺境の地での先進的音楽フェスティバルが開催されることとなった。
(参考記事:https://rollingstoneindia.com/menwhopause-guitarist-anup-kutty-on-setting-up-ziro-festival/) 
第1回Ziro Festival of Musicの開催はは2012年。
当初から全国的な人気を誇るインディーアクトと、開催地に近い北東部諸州のミュージシャンの両方を出演させる方針が取られ、フェスが軌道に乗ってからは、海外のアーティストも招聘されるようになった。
これまでに前述のMONOやダモ鈴木に加え、Sonic YouthのLee RanaldやSteve Shelleyなども出演したことがある。

Anupが所属するMenwhopauseは2001年に結成されたベテランバンドで、これまでに2007年に米国でのSXSW(South by South West)出演や、複数のヨーロッパツアーの経験がある、インドで最も早く国際的に評価されたバンドのひとつだ。




彼らのSNSはここ1年ほどSNSの更新もなく、目立った活動はしていないようだが、彼ら功績は後続のアーティストたちにとって、確かな道標となっている。

Ziro Festival of Musicは、今年は9月26日から29日にかけて開催。
美しい自然の中にすばらしいラインナップのアーティストたちを集めるだけではなく、プラスチックを極力排除し、環境への配慮も意識するなど、様々な面で理想的な音楽フェスティバルだ。
フェスティバルが単なる音楽鑑賞ではなく、特別なエクスペリエンスであることを最大限に重視した、私が今、世界で一番行きたいフェスである。

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goshimasayama18 at 16:14|PermalinkComments(0)

2019年01月25日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベストミュージックビデオTop10!

ベストシングルベストアルバムと続いた'Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベスト○○'シリーズ、ひとまず今回でラスト!
今回はミュージックビデオをお届けします。
(元になった記事はこちらhttp://rollingstoneindia.com/10-best-indian-music-videos-2018/

ご存知の通りインドは映画大国ということもあって、映像人材には事欠かないのか、どのビデオもかなりクオリティーの高いものになっている(そうでないものもあるが)。
いずれもベストシングル、ベストアルバムとは重複無しの選曲になっているが、映像だけでなく楽曲もとても質が高いものが揃っていて、インドの音楽シーンの成熟ぶりを感じさせられる。
中世から現代まであらゆる時代が共存する国インドの、最先端の音楽を体験できる10曲をお楽しみください!


Nuka, "Don't Be Afraid"

ダウンテンポの美しいエレクトロポップに重なる映像は、ヒンドゥーの葬送(火葬、遺灰を海に撒く)を描く場面から始まり、死と再生を幻想的に表現したもの。
この音像・映像で内容がインド哲学的なのがしびれるところだ。
本名Anushka Manchanda.
デリー出身の彼女は、タミル語、テルグ語、カンナダ語、ヒンディー語などの映画のプレイバックシンガー(ミュージカルシーンの俳優の口パクのバックシンガー)やアイドルみたいなガールポップグループを経て、現在ではモデルや音楽プロデューサーなどマルチな分野で活躍。
プレイバックシンガー出身の歌手がよりアーティスティックな音楽を別名義で発表するのはここ数年よく見られる傾向で、映画音楽とインディー音楽(「映画と関係ない作家性の強い音楽」程度の意味に捉えてください)の垣根はどんどん低くなっている。
映像作家はムンバイのNavzar Eranee. 彼もまた若い頃から海外文化の影響を大きく受けて育ったという。


Prateek Kuhad, "Cold/Mess"

2015年にデビューしたジャイプル出身のシンガーソングライター。
アメリカ留学を経て、現在はデリーを拠点に活動している。
ご覧の通りの洗練された音楽性で、MTV Europe Music Awardほか、多くの賞に輝いている評価の高いアーティストだ。
インドらしさを全く感じさせないミュージックビデオは、それもそのはず、ウクライナ人の映像作家Dar Gaiによるもの。
どこかインドの街(ムンバイ?)を舞台に撮影されているようだが、この極めて恣意的に無国籍な雰囲気(俳優もインド人だけどインド人っぽくない感じ!)は、この音楽のリスナーが見たい街並みということなのだろうか。
ところで、俳優さんの若白髪はインド的には「有り」なの?
ブリーチとかオシャレ的なもの?


Tienas, "18th Dec"

Prabh Deepらを擁する話題のヒップホップレーベルAzadi Recordsと契約したムンバイの若手ラッパー(まだ22歳)で、以前紹介した"Fake Adidas"と同様、小慣れた英語ラップを聞かせてくれている。
Tienasという名前は、本名のTanmay Saxenaを縮めてT'n'S(T and S)としたところから取られていて、いうまでもなくEminem(Marshall Mathers→M'n'M)が元ネタと思われる。
EminemにおけるSlim Shadyにあたる別人格としてBobby Boucherというキャラクターを演じることもあるようだ。
このミュージックビデオはムンバイの貧民街やジュエリーショップを舞台に、全編が女優によるリップシンクとなっている。
Tienasは男性にしては声が高いので、以前このビデオを見て勘違いして女性ラッパーだとどこかに書いてしまった記憶があるのだが、どこだったか思い出せない…。


That Boy Roby, "T"

2018年にファーストアルバムをリリースしたチャンディガル出身のスリーピースバンドが奏でるのはサイケデリックなガレージロック!
ビデオはただひたすらに90年代のインド映画の映像のコラージュで、インド映画好きなら若き日のアーミル・カーンやシャー・ルクを見つけることができるはず。
なんだろうこれは。我々が昔の刑事ドラマとかバブル期のトレンディードラマをキッチュなものとして再発見するみたいな感覚なんだろうか。
Rolling Stone India誌によると「ハイクオリティーな4分間の時間の無駄」。
全くその通りで、それ以上のものではないが、こういうメタ的な楽しみ方をするものがここにランクインすることにインドの変化を感じる。


Gutslit, "From One Ear To Another"

出た!
昨年来日公演も果たした黒ターバンのベーシスト、Gurdip Singh Narang率いるムンバイのブルータル・デスメタルバンド。
フランク・ミラーのアメリカンコミック"Sin City"を思わせる黒白赤のハードボイルド調アニメーションは、バンドのドラマーのAaron Pintoが手がけたもの。
残虐で悪趣味でありつつ非常にスタイリッシュという、稀有な作品に仕上がっている。
カッコイイ!


Kavya Trehan, "Underscore"

ドリーミーなエレクトロポップを歌うKavya Trehanは女優、モデル、宝石デザイナーとしても活躍するマルチな才能を持った女性で、ダンス/エレクトロニックバンドMoskoのヴォーカリストでもある。
(Moskoには以前紹介したジャパニーズカルチャーに影響を受けたバンドKrakenの中心メンバーMoses Koulも在籍している)
ノスタルジックかつ無国籍な雰囲気のビデオはDivineRaja Kumariのビデオも手がけたアメリカ人Shawn Thomasが LAで撮影したものだそうな。
お分かりの通り、インド人はインドが好きなのと同じくらい、インドらしくないものが好き。
日本人も同じだよね。


Avora Records, "Sunday"

先日紹介した「インド北東部のベストミュージックビデオ」にも選ばれていたミゾラム州アイゾウルのポップロックバンドがこの全国版にも選出された。
アート的で意味深なミュージックビデオが多く選ばれている中で、同郷の映像作家Dammy Murrayによるポップなかわいさを全面に出した映像が個性的。


Mali, "Play"

チェンナイ出身のケララ系シンガーソングライターMaliことMaalavika Manojは、映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeでの活動を経て、今ではムンバイで活躍している。
幼い頃に音楽を教えてくれたという、彼女の実の祖父と共演したあたたかい雰囲気のビデオはムンバイの映像作家Krish Makhijaによるもの。
彼女の深みのある美しい声(少しNorah Jonesを思わせる)と、確かなソングライティング力が分かる一曲だ。
あと最後に、誰もが気づいたことと思うけど、このMaliさん、かなりの美人だと思う。
まいっちゃうなあ。

Chidakasha, "Tigress"

ケララ州コチ出身のロックバンド。
聞きなれないバンド名はインド哲学やヨガで使われるなんか難しい意味の言葉らしい。
インスピレーションを求めてメンバーがMarshmelloみたいな箱男になったビデオは、いかにもローバジェットだがなかなか愛嬌がある。
3:50あたりからのフュージョン・ロック的な展開も聴きどころ。

Ritviz, "Jeet"

インド音楽の要素を取り入れたプネーのエレクトロニック/ダンス系アーティスト。
下町、オートリクシャー、ビーチ、映画館(そこで見るのは前年のRitvizヒット曲"Udd Gaye")、垢抜けないダンスといったローカル色満載の映像はこのランキングの中でも異色の存在だ。
この「美化されていないローカル感」をB級感覚やミスマッチとして扱うのではなく、そのままフォーキーなダンスミュージックと癒合させるセンスは、とにかくお洒落な方向を目指しがちなインドの音楽シーンではとても珍しく、またその試みは見事に成功している。
この素晴らしいビデオはムンバイの映像作家Bibartan Ghoshによるもの。


以上、全10曲を紹介しました。
見ていただいて分かる通り、Nukaの"Don't be Afraid"やThat Boy Robyの"T"、Maliの"Play"、Ritvizの"Jeet"のように、インド的なものを美しく詩的に(あるいはおもしろおかしく)映したビデオもあれば、逆にPrateek Kuhadの"Cold/Mess"やGutslitの"From One Ear To Another"、Kavya Trehanの"Underscore"のように無国籍でオシャレなものこそを美とするものもあり、「かっこよさ」と「インド的」なものとの距離感の取り方がいろいろあるのが面白いところ。

ところで、いつも気になっているのは、この映像を撮るお金はどこから出ているのかということ。
例えばNukaやPrateek KuhadはYoutubeの再生回数が120万回を超えているが、LAロケのKavya Trehanでさえ再生回数6,000回足らず、That Boy Robyに至っては3,200回に過ぎない。
(それにあのビデオ、著作権関係とか、大丈夫なんだろうか)

映画音楽・古典音楽以外のほとんどの楽曲が大手レコード会社ではなくインディーズレーベル(もしくは完全な自主制作)からのリリースであるインド。
100万を超える再生回数のものは別として、他は制作費用が回収できていなさそうなものばかりだ。
いったいどこからこれだけの映像を撮るお金が出てくるのだろうか。

おそらくだが、その答えのひとつは「家がお金持ち」ということだと思う。
インドのインディーズシーンで活躍しているミュージシャンは、幼い頃から楽器に触れて欧米への留学経験を持つなど、端的に言うと実家が裕福そうな人が多い。
音楽コンテンツ販売のプロモーションのためにミュージックビデオを作るのではなく、もともと金持ちで、良い作品のために惜しげも無くお金と労力をつぎ込むという、千葉のジャガーさん的なアーティストも多いのではないかと思う。 

そんな彼らが発展途上のシーンを底上げしてくれているのも確かなので、もしそうだとしてもそれはそれで有りだと思うのだけど、次回はそんなアーティストたちとは全く真逆のインドならではの音楽を紹介したいと思います!

それでは、サヨナラ、サヨナラ。



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★1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後にインド北東部ナガランド州の音楽シーンを語るトークイベントを行います

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