TabaChake
2023年06月26日
インドには結構いいシンガーソングライターがたくさんいる、という話
いつも書いている話だが、インドでもあらゆる街にラッパーが存在する時代になった。
ストリート発の表現手段としてのラップは、すでにインドの津々浦々にまで浸透しているのだ。
もし疑問に思うなら、YouTubeで「都市名(スペース)rapper」と検索してみるとよい。
田舎のほうに行けば行くほど、結構な確率でダサかったりカッコ悪かったりするが、下手で垢抜けないラッパーでも、数万回くらい再生されていたりするから、インドのラップ人気は侮れない。
何が言いたいのかというと、インターネットの普及によって、インドのインディペンデントな音楽シーンは爆発的に発展したわけだが、それはもちろんヒップホップだけの話ではない。
ラッパーだけではなく、ギターを抱えて歌う(ときにウクレレだったり、あるいは鍵盤を弾きながらだったり)シンガーソングライターも、インドではあらゆる街に存在しているのだ。
かなり一般化した話になるが、ストリート的な表現を志す若者がラッパーを志すように、より内省的で情緒的な表現を志す若者は、シンガーソングライターを目指すと言ってもいいだろう。
というわけで、今回はインド各地で活躍するシンガーソングライターを紹介してみます。
まずは評価の高いビッグネームから。
Anuv Jain "Baarishein"
Anuv Jainは2022〜23年の冬のフェス(夏が暑すぎるインドは冬がフェスのシーズン)に最も多く出演した、人気のシンガーソングライター。
ムンバイで生まれ、パンジャーブ州ルディヤーナーで育った彼が2018年にリリースしたこの"Baarishein"は、非常に低予算な(動かない)ミュージックビデオにも関わらず、これまでに6,000万回以上も再生されている。
映像の力にいっさい頼らず、単純に楽曲の良さだけでここまで評価されている例はインドの音楽シーンで他に知らない。
タイトルの意味はヒンディー語で「雨降り」だそうで、こちらのサイトの英訳によると、恋人同士の心の機微を描いた曲のようだ。
Anuv Jain "Ocean"
英語で歌われているこの曲は、ヒンディー語に馴染みのない人にも良質な洋楽ポップスとして受け入れられるクオリティ。
現状ではリスナーのほとんどがインド人であるためか、ヒンディー語の曲の再生回数のほうが圧倒的に多いが、彼の楽曲は世界中でもっと多くの人に聴かれるべきだろう。
彼はエレピにしろウクレレにしろ、楽曲のバッキングは最小限にこだわるという信念を持っているようで、その美学に確固たるインディーズ魂を感じる。
Taba Chake "Shaayad"
Taba Chakeという不思議な名前の彼は、少数民族が数多く暮らすインド北東部の最果てアルナーチャル・プラデーシュ州の出身。
ニシという部族に生まれ、パプム・パレ郡のロノという鄙びた村に育ったという。
両親は学校に通ったことがなく、1992年生まれの彼がビルや車や電話のある暮らしをした最初の世代だというから、彼の故郷は相当な田舎だったのだろう。
ベンガルールで音楽を学んだのち、今ではムンバイに拠点を移して、ウクレレの弾き語りで歌うスタイルで活動している。
彼はインドに多いマルチリンガルなシンガーで、英語、ヒンディー語、ニシ語、ネパール語、アッサム語などで歌っている。
Taba Chake "Walk with Me"
英語の曲はこのレイドバック感。
山奥出身なのにちょっとサーフ系アコースティックみたいな雰囲気もあるのが面白い。
Suzonn "Sun Lo Na"
SuzonnことSujan Sinhaもまた北東部生まれのシンガーソングライターで、アッサム州出身。
北東部はインドでは例外的に早くからロックが普及していた地域で、人口のわりに優れたミュージシャンを多く輩出している。
彼もTaba Chake同様にアコースティックな響きを大事にしているようで、このウクレレ弾き語りの"Sun Lo Na"はYouTubeで 再生もされている人気曲だ。
ミュージックビデオも歌同様にシンプルながら印象的だが、どことなく憂鬱なアニメーションに反して、ヒンディー語の歌詞は一途なラブソングのようだ。(いちおうこちらのサイトを参考にした。)
偶然にも今回はウクレレを使った曲ばかりになってしまった。
本当はもっとマイナーなシンガーソングライターを紹介しようと思っていたのだが、今回はここまで。
また改めて、ギターとかピアノで歌うアーティストも紹介してみたい。
ところで、彼については何度も書いているが、インドで最も成功しているインディーズ系シンガーソングライターはといえば、やはりこのPrateek Kuhadということになるだろう。
つい先日、彼が昨年アメリカのElektra Recordsから発表した英語詞のアルバム"The Way That Lovers Do"に、別バージョンが加えられたデラックス・エディションがリリースされた。
このデラックス版には、同作収録曲のアコースティックバージョンが収められているのだが、それが大変素晴らしい。
もとのアルバムではエレクトロニックな要素を大胆に取り入れた楽曲が多かったが、やはり彼の歌声やメロディーにはアコースティックのほうが合う。
例えばこの"All I Need"のアコースティックバージョンなんて、涙が出そうなほどに美しい。
少し前にリリースされたこの"Hopelessly"では、よくわからない変拍子なのにものすごくいいバラードでもあるという矛盾した要素を両立させていて、やはり彼の才能は他のアーティストより頭ひとつ抜けている。
インドのシンガーソングライターの話を書いていると結局いつも最終的にはPrateek Kuhadの話になってしまう。
改めて、近いうちに他のもっとマイナーなシンガーソングライターも紹介する機会を持ちたい。
本当にいい曲がたくさんあるから。
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goshimasayama18 at 21:42|Permalink│Comments(0)
2022年05月08日
インドのアニメーション・ミュージックビデオ特集!(その2・コマ撮り編)
前回お届けしたインドのアニメーション・ミュージックビデオ特集。
これまでブログで紹介していなかった作品を中心に、5つの動画を紹介したけれど、まだまだ紹介しきれなかった作品がある。
ということで、今回は、インドのインディー音楽シーンのアニメーション・ミュージックビデオ特集第2弾。
「コマ撮りアニメ編」をお届けします!
デリーを拠点にするヒンディー・ロックバンドThe Local Trainの"Gustaakh"は、ネオン輝く近未来都市を舞台にした「怪獣もの」という意表を突く設定。
ハリウッドのSFか日本の特撮を思わせるインドらしからぬセンスだが、映像も非常に凝っていてこれがなかなか面白い。
(そのわりに、曲によっては1,000万から2,000万回再生されている彼らの楽曲のなかでは少なめな72万回再生なのがもったいない…)
2018年にリリースされた彼らのセカンドアルバム"Vaaqif"の収録曲で、ミュージックビデオは映画監督Vijesh RajanのシナリオをMosambi Juice Productionsなるスタジオが制作している。
彼らは毎回映画を思わせる凝ったミュージックビデオを作っているが、この作品も30人以上ものスタッフが関わって作られている。
ちなみに曲のタイトルはヒンディー語/ウルドゥー語で「傲慢」を意味しているようだ。
こちらもニューデリーのシンガーソングライターKamakshi Khannaの"Qareeb"(アラビア語由来の言葉で「近く」を意味しているらしい)は、フェルトを使ったやわらかな雰囲気が印象的なミュージックビデオだ。
ストーリーは、恋愛に拠り所をもとめていた孤独な若い女性が、音楽を通して自分に自信を取り戻すまでを描いたもの。
監督は実写作品も手掛けている映像作家のArsh Grewal.
彼女のインスタグラムを見ると、Parekh & SinghやSanjeeta Bhattacharya, Lifafaらのインディミュージシャンも数多くフォローしており、次なるコラボレーションに期待がかかる。
Kamakshi Khannaは最近リリースしたSanjeeta Bhattacharyaとのコラボレーション"Swimming"も女性たちだけの幻想的な世界観を美しく描いたミュージックビデオが秀逸だった。
コルカタ出身のシンガーソングライターTajdar Junaidの"Ekta Golpo"は、ベンガル民謡っぽい素朴なメロディーをカントリー的なアレンジで歌った曲。
Tajdar JunaidはWhale in the Pondと並んで、コルカタらしい詩的なサウンドのベンガリ・フォークポップを代表するアーティストだ。
楽曲のリリース数は少なく、マイペースに活動しているアーティストのようだが、昨年はムンバイのギタリストBlackstratbluesとのコラボレーションを発表している。
「雲の王国」を舞台にかわいらしい馬たちが繰り広げる民話的ストーリーのアニメーションは、Pigeon and Co.なるプロダクションが手掛けたもの。
こちらも素朴なサウンドに似合う幻想的な作風だ。
前回のアニメーション・ミュージックビデオ特集でも取り上げたTaba Chakeの"Morning Sun"は、身近なものを活かした、カジュアルながらもアイディアが光っている。
インド北東部シッキム州出身の映像作家Tribeny Raiが完全に予算ゼロで作った作品とのこと。
アコースティックかつポップな楽曲とよく合った映像作品に仕上がっている。
インドを代表するメロディーメイカー、Prateek Kuhadの"With You/For You"は、コマ撮りならではの実写を交えた映像が効果的。
ミュージックビデオを手掛けたのは、グラフィックデザイナーのKaran Kumar.
こちらもローバジェットながらも、カラフルでポップな色彩が曲調に合っている。
予算があるならあるなりに、無いなら無いなりに、楽曲に合わせた素敵な作品を作ってくるところにインドの映像作家たちの底力を感じる。
アニメーションのミュージックビデオ、じつはまだまだ紹介したい作品がたくさんあるのだけど、きりがないので今回はいったんここまで。
続きはまたいつか書いてみたいと思います。
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goshimasayama18 at 16:03|Permalink│Comments(0)
2022年05月05日
インドのアニメーション・ミュージックビデオ特集!(その1)
いつ頃からか、インドのインディペンデント音楽シーンで、面白いアニメのミュージックビデオが作られていることに気づいた。
その傾向は、密になっての撮影が困難となったコロナ禍以降、さらに加速している。
考えてみれば、もともと巨大な映画産業をバックボーンとした映像文化があり、近年ではIT人材でも世界を席巻しているインドで面白いアニメが作られるのは、必然とも言える。
インディーの映像作家の作品ゆえ、ローバジェットで荒削りなものも多いが、同様に限られた予算で音楽を作り、なんとかして印象に残るミュージックビデオを作りたいというインディーミュージシャンたちと意気投合してコラボレーションしているのだろう。ユニークな発想や感覚の作品が多く、どれもまるで短編映画を見るかのように楽しめる。
というわけで、今回はインドのインディー音楽シーンで見つけた、アニメーションのミュージックビデオ特集をお届けします。
Takar Nabam "Good Night"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストミュージックビデオ部門の3位に選ばれたのがこの作品。
インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガーソングライターTakar Nabamの曲に、新進アニメーション作家のHage Nobin(名前と見た目を見る限り、彼もまた北東部出身者のようだ)が映像をつけた。
1954年に、ソ連による宇宙開発実験でスプートニク2号に乗せられて宇宙に打ち上げられ、そのまま命を絶った「はじめて宇宙空間に到達した地球の動物」である犬のライカをテーマにしたストーリーが胸を打つ。
初期ピクサー作品のような質感のCGアニメーションは、無国籍な雰囲気で「インドのアーティストが英語でソ連の犬のことを歌う」というこの曲によく似合っている。
Smoke Screen "Chiku"
マハーラーシュトラ州の学園都市プネーを拠点に活動するロックバンドSmokeScreenとニューデリーのアニメーション作家Ishan Srivastavaのコラボレーション。
カートゥーンのようなかわいらしい映像だが、ストーリーはかなり不憫なもの。
彼らによると「超ダークな喜劇」または「超こっけいな悲劇」というこの作品は、「聖書風であると同時に究極にニヒリスティックなショートムービー」だそうだ。
主人公の男の子は「神の子」を表しているのだろうか、あまりにも衝撃的な結末に開いた口がふさがらない。
Antariksh "Quest"
ニューデリーのギタリスト/ヴォーカリストのVarun Rajputを中心としたヒンディーロックバンドAntarikshの"Quest"は、シタールのソロを取り入れたプログレッシブ・メタル。
インドにはこの手のバンドが多いが、それはプログレッシブ・ロックとインド古典音楽が「リズムの複雑さ」という点で共通しているからなんじゃないか、と常々感じている。
このビデオはラッパーのPrabh Deepの作品も手掛けたことがあるビジュアル・アーティストのPratik Deyが監督を務めている。
インディペンデント制作にしてはかなりしっかりとした体制で作られた作品のようで、コンセプトとヴィジュアライゼーションにはPratikのほかにBalaram JとShreya Menonという人物が名を連ね、さらにバックグラウンド・アーティストとして3人、アニメーション担当として9人がクレジットされている。
時間が止まったディストピア的な世界(しかしそれは現代インドとよく似た世界でもある)を舞台とした物語に、メンバーの演奏シーンや不思議な世界を旅する男の映像が融合され、存在理由を問いかける哲学的な歌詞とあいまって、こちらも非常に印象的な作品。
ギターソロには、元メガデスで日本語が達者なことでも知られるマーティ・フリードマンが参加していて、彼もまたアニメーションで描かれている。
When Chai Met Toast "When We Feel Young"
ここまで、文学的だったり哲学的だったりする作品を紹介してきたが、日常やノスタルジーを上手に描いているアーティストも(アニメーションと音楽の両方に)存在する。
南インド・ケーララ州のバンドWhen Chai Met Toastのフォーク・ポップに、西インド・グジャラート州のAnjali Kamatによる独特のタッチのイラストがよく似合っていて、両者のコラボレーションは相性抜群だ。
彼女のアニメーションはアコースティックなサウンドを志向するアーティストによく取り上げられていて、例えば他にはこんな作品がある。
Taba Chake "Walk With Me"
Taba Chakeは最初に紹介したTakar Nabamと同じ北東部アルナーチャル・プラデーシュ出身のシンガーソングライターで、今ではムンバイを拠点に活動している。
彼もフォーキーなスタイルを特徴としていて、その世界観はAnjali Kamatのアニメーションと良く合う。
スマホが手放せない現代生活も、彼女の手にかかると、どこか優しくてあたたかみのある雰囲気に仕上がるのがさすがだ。
彼女は他にもPrateek Kuhadのリリックビデオなども手掛けていて、インドのインディーポップシーンに欠かせないアーティストになりつつある。
…と、今回はすでに5つもの作品を紹介してしまったので、ここまでにするけれど、ご覧の通り、作風もさまざまな映像作家たちが、インドのミュージシャンの音楽をアニメで彩っている。
インドには他にもまだまだ面白いアニメーションのミュージックビデオが存在しているので、続きは近いうちにまた書きたいと思います!
それでは!
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goshimasayama18 at 13:59|Permalink│Comments(0)
2020年01月26日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2019年ベストアルバム10選!
毎年紹介しているRolling Stone India誌が選ぶ年間ベストシリーズ、今回は2019年のベストアルバムを紹介します!
(元の記事はこちら)
同誌の編集者が選ぶこのセレクションは、毎年「ボリウッドのようないかにもインドらしい音楽」ではなく「オシャレで洗練された音楽」を選出してくるのが特徴。
日本にもよくある「歌謡曲やアイドルは取り扱わず、作家性が強くてセンスの良いものを紹介するメディア」みたいな傾向があるので、決してインドの主流ではないものの、「インドの先端的なインディーミュージック」と思って読んでみてください。
(元の記事はこちら)
同誌の編集者が選ぶこのセレクションは、毎年「ボリウッドのようないかにもインドらしい音楽」ではなく「オシャレで洗練された音楽」を選出してくるのが特徴。
日本にもよくある「歌謡曲やアイドルは取り扱わず、作家性が強くてセンスの良いものを紹介するメディア」みたいな傾向があるので、決してインドの主流ではないものの、「インドの先端的なインディーミュージック」と思って読んでみてください。
今回は各アルバムを代表する1曲の動画を貼り付けておきます。
Spotifyなんかでも聴けるので、気に入った楽曲があったらぜひアルバムを通して聴いてみてください。
Peter Cat Recording Co. "Bismillah"
Peter Cat Recording Co.はニューデリーで2009年に結成された、インドのインディーミュージックシーンではベテランにあたるバンド。
この"Bismillah"は彼らの久しぶりのアルバムだ(おそらく前作は2012年リリース)。
以前からジプシー・ジャズやボールルームのようなレトロな音楽の影響を強く受けた作風が特徴としているが、今作でもその路線を踏襲。
Spotifyなんかでも聴けるので、気に入った楽曲があったらぜひアルバムを通して聴いてみてください。
Peter Cat Recording Co. "Bismillah"
Peter Cat Recording Co.はニューデリーで2009年に結成された、インドのインディーミュージックシーンではベテランにあたるバンド。
この"Bismillah"は彼らの久しぶりのアルバムだ(おそらく前作は2012年リリース)。
以前からジプシー・ジャズやボールルームのようなレトロな音楽の影響を強く受けた作風が特徴としているが、今作でもその路線を踏襲。
バート・バカラックみたいに聴こえるところもあれば、曲によってはサイケデリックな要素もある。
過去の優れた音楽をセンスよくまとめるスタイルは、日本でいうと90年代の渋谷系を思わせる。
インドのオシャレ系アーティストの代表格で、フランスのPanache Parisレーベルと契約している。
Parekh & Singh "Science City"
こちらもインドを代表するオシャレアーティストとして有名なコルカタのドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのPeacefrogレーベルと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されたりしている。
今作でもその音楽性は健在で、ウェス・アンダーソン的な世界観ともども確固たる個性を確立している。
The Koniac Net "They Finelly Herd Us"
2011年結成のムンバイのオルタナティブロックバンドで、Stills, Smashing Pumkins, Death Cab For Cutieらに影響を受けているとのこと。
確かに、90年代から2000年ごろのバンドのような質感のあるサウンドで、楽曲も非常によくできている。
Rolling Stone India曰く、「ロックが死んだというやつがいるなら、このアルバムはその復活だ」。
Shubhangi Joshi Collective "Babel Fish"
ギター/ヴォーカルのShubangi Joshi率いるムンバイのインディーポップバンド。
曲はファンクっぽかったりジャズっぽかったり、たまにボサノバっぽかったりする。
ここまで全て英語ヴォーカルの洋楽的サウンドが占めているところがいかにもRolling Stone India的な感じだ。
Blackstratblues "When It's Time"
ムンバイのギタリストWarren Mendonsaが率いるインストゥルメンタルバンド。
2017年のこの企画でもベストアルバム10選に選出されたこのランキングの常連だ。
その時もまったく21世紀らしからぬサウンドで驚かせたが、今作も音楽性は変わらず、ジェフ・ベックのような心地よい音色のフュージョン風サウンドを聴かせてくれている。
ギタリストとしての力量は非常に高いと思うが、音楽の質さえ高ければ、あまり同時代性に関係なく選出されるのがこのランキングの面白いところ。
ちなみにWarren Mendonsaはボリウッド音楽のプロデューサー集団として有名なShankar-Eshaan-LoyのLoy Mendonsaの甥にあたる。
Lifafa "Jaago"
ここにきてようやくインドらしさのあるサウンドが入ってきた。
Lifafaは冒頭で紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリスト、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクトで、バンドとはうってかわって、こちらではエレクトロニカ的なサウンドに取り組んでいる。
無国籍な音になりがちなエレクトロニカ・アーティストのなかでは珍しく、彼はインド的な要素を大胆に導入して、独特の世界観を築き上げている。
インドのオシャレ系アーティストの代表格で、フランスのPanache Parisレーベルと契約している。
Parekh & Singh "Science City"
こちらもインドを代表するオシャレアーティストとして有名なコルカタのドリームポップデュオ。
彼らはイギリスのPeacefrogレーベルと契約しており、日本でも高橋幸宏に紹介されたりしている。
今作でもその音楽性は健在で、ウェス・アンダーソン的な世界観ともども確固たる個性を確立している。
The Koniac Net "They Finelly Herd Us"
2011年結成のムンバイのオルタナティブロックバンドで、Stills, Smashing Pumkins, Death Cab For Cutieらに影響を受けているとのこと。
確かに、90年代から2000年ごろのバンドのような質感のあるサウンドで、楽曲も非常によくできている。
Rolling Stone India曰く、「ロックが死んだというやつがいるなら、このアルバムはその復活だ」。
Shubhangi Joshi Collective "Babel Fish"
ギター/ヴォーカルのShubangi Joshi率いるムンバイのインディーポップバンド。
曲はファンクっぽかったりジャズっぽかったり、たまにボサノバっぽかったりする。
ここまで全て英語ヴォーカルの洋楽的サウンドが占めているところがいかにもRolling Stone India的な感じだ。
Blackstratblues "When It's Time"
ムンバイのギタリストWarren Mendonsaが率いるインストゥルメンタルバンド。
2017年のこの企画でもベストアルバム10選に選出されたこのランキングの常連だ。
その時もまったく21世紀らしからぬサウンドで驚かせたが、今作も音楽性は変わらず、ジェフ・ベックのような心地よい音色のフュージョン風サウンドを聴かせてくれている。
ギタリストとしての力量は非常に高いと思うが、音楽の質さえ高ければ、あまり同時代性に関係なく選出されるのがこのランキングの面白いところ。
ちなみにWarren Mendonsaはボリウッド音楽のプロデューサー集団として有名なShankar-Eshaan-LoyのLoy Mendonsaの甥にあたる。
Lifafa "Jaago"
ここにきてようやくインドらしさのあるサウンドが入ってきた。
Lifafaは冒頭で紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリスト、Suryakant Sawhneyのソロプロジェクトで、バンドとはうってかわって、こちらではエレクトロニカ的なサウンドに取り組んでいる。
無国籍な音になりがちなエレクトロニカ・アーティストのなかでは珍しく、彼はインド的な要素を大胆に導入して、独特の世界観を築き上げている。
そのせいか、不思議な暖かさがあり、妙にクセになるサウンドだ。
Divine "Kohinoor"
2019年はインドのヒップホップ界にとっては飛躍の年だった。
その最大の理由は、映画『ガリーボーイ』のヒットによって、それまでアンダーグラウンドなカルチャーだったヒップホップが広く知られるようになったこと。
Divineはインドのストリートヒップホップ創成期から活躍するムンバイのラッパーで、『ガリーボーイ』の主人公の兄貴分的なキャラクターであるMCシェールのモデルとしても注目された。
今作は自身のレーベル'Gully Gang Entertainment'からのリリースで、同レーベルのShah RuleやD'evilらが参加している。
『ガリーボーイ』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたNasによるインタールードも収録されており、「メジャー感」で他のアーティストと一線を画す内容。
表題曲のイントロや、Chal Bombayのビートなど、レゲエっぽい要素が入ってきているところにも注目したい。
個人的にはダンスホール・レゲエやレゲトンはもっとインドで流行る可能性のある音楽だと思っている。
最近のボリウッド系の曲ではかなりレゲトン的なビートが使われていて、それゆえにアンダーグラウンド・ヒップホップ界隈では敬遠されていたのかもしれないが、今後どうなるだろうか。
このDivine、ムンバイのヒップホップシーンのアニキ的な立ち位置を確立しており、日本でいうとZeebra的な存在、のような気がする。
Arivu x ofRo "Therukaral"
日本語で「浴びる、お風呂」みたいな名前の二人組は、インド南部タミルナードゥ州のヒップホップユニット。
今作は、日本でも映画祭で公開された『カーラ 黒い砦の闘い(原題"Kaala")』の監督パー・ランジットによる音楽プロジェクト、その名もCasteless Collectiveの一員でもあるラッパーArivuと、プロデューサーのofRoによるプロジェクトによるファーストアルバムにあたる。
Casteless Collectiveではカースト制度に反対するメッセージを、タミルの伝統音楽Gaanaとラップを融合した音楽に乗せて発信していたが、このユニットでは、政治的なメッセージはそのままに、よりヒップホップ色の強いスタイルに取り組んでいる。
この"Anti-Indian"は、「タミル人としてのアイデンティティを持っていることが、北インドのヒンドゥー的な価値観のナショナリストにとっては『反インド的』になるのか?」という痛烈なメッセージの曲のようだ。
Taba Chake "Bombay Dreams"
「茶畑」みたいな変わった名前の彼は、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガー・ソングライターで、現在ではムンバイを拠点に活動をしている。
ギターやウクレレの音色が心地よいアコースティックな質感のアルバムで、ちょっとジャック・ジョンソンみたいな雰囲気もある。
いわゆる「インドの山奥」であるインド北東部には、この手の南国っぽいアコースティック・サウンドのアーティストが結構いるのだが、地元の伝統音楽との親和性があるのだろうか。
このアルバムは曲によって英語、ヒンディー語、そしてアルナーチャルの言語であるニシ語の3つの言語で歌われており、自身のルーツに対する彼のこだわりも感じられる。
Winit Tikoo "Tamasha"
カシミールのフュージョン・ロック(伝統音楽とロックの融合)バンド。
以前紹介したベストミュージックビデオに続いて、混乱が続くカシミールのアーティストがここにもランクインした。
以前Anand Bhaskar Collectiveを紹介したときにも感じたことだが、北インドの伝統音楽風の歌い方は、グランジ風の演奏に非常に合うようだ。
Pearl JamのEddie Vedderのような声の揺らぎがあるのだ。
そう考えると、かつて映画『デッドマン・ウォーキング』のサウンドトラックでEddy VedderとNusrat Fateh Ali Khanを共演させた人は、ずいぶん早くこのことに気づいていたのだなあ、と思う。
と、ざっと10枚のアルバムを紹介してみた。
「今のインドでかっこいい音」であるのと同時に、地域の多様性やアクチュアルなメッセージ性にも配慮したラインナップであると言えるだろう。
欧米の音楽への憧れが具現化したようなものもあれば、「インド人としてのルーツ」が入っているものもあるのが、いつもながらインドの音楽シーンの面白いところ。
昨年、一昨年のベスト10と比べてみるのも一興です。
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Divine "Kohinoor"
2019年はインドのヒップホップ界にとっては飛躍の年だった。
その最大の理由は、映画『ガリーボーイ』のヒットによって、それまでアンダーグラウンドなカルチャーだったヒップホップが広く知られるようになったこと。
Divineはインドのストリートヒップホップ創成期から活躍するムンバイのラッパーで、『ガリーボーイ』の主人公の兄貴分的なキャラクターであるMCシェールのモデルとしても注目された。
今作は自身のレーベル'Gully Gang Entertainment'からのリリースで、同レーベルのShah RuleやD'evilらが参加している。
『ガリーボーイ』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたNasによるインタールードも収録されており、「メジャー感」で他のアーティストと一線を画す内容。
表題曲のイントロや、Chal Bombayのビートなど、レゲエっぽい要素が入ってきているところにも注目したい。
個人的にはダンスホール・レゲエやレゲトンはもっとインドで流行る可能性のある音楽だと思っている。
最近のボリウッド系の曲ではかなりレゲトン的なビートが使われていて、それゆえにアンダーグラウンド・ヒップホップ界隈では敬遠されていたのかもしれないが、今後どうなるだろうか。
このDivine、ムンバイのヒップホップシーンのアニキ的な立ち位置を確立しており、日本でいうとZeebra的な存在、のような気がする。
Arivu x ofRo "Therukaral"
日本語で「浴びる、お風呂」みたいな名前の二人組は、インド南部タミルナードゥ州のヒップホップユニット。
今作は、日本でも映画祭で公開された『カーラ 黒い砦の闘い(原題"Kaala")』の監督パー・ランジットによる音楽プロジェクト、その名もCasteless Collectiveの一員でもあるラッパーArivuと、プロデューサーのofRoによるプロジェクトによるファーストアルバムにあたる。
Casteless Collectiveではカースト制度に反対するメッセージを、タミルの伝統音楽Gaanaとラップを融合した音楽に乗せて発信していたが、このユニットでは、政治的なメッセージはそのままに、よりヒップホップ色の強いスタイルに取り組んでいる。
この"Anti-Indian"は、「タミル人としてのアイデンティティを持っていることが、北インドのヒンドゥー的な価値観のナショナリストにとっては『反インド的』になるのか?」という痛烈なメッセージの曲のようだ。
Taba Chake "Bombay Dreams"
「茶畑」みたいな変わった名前の彼は、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガー・ソングライターで、現在ではムンバイを拠点に活動をしている。
ギターやウクレレの音色が心地よいアコースティックな質感のアルバムで、ちょっとジャック・ジョンソンみたいな雰囲気もある。
いわゆる「インドの山奥」であるインド北東部には、この手の南国っぽいアコースティック・サウンドのアーティストが結構いるのだが、地元の伝統音楽との親和性があるのだろうか。
このアルバムは曲によって英語、ヒンディー語、そしてアルナーチャルの言語であるニシ語の3つの言語で歌われており、自身のルーツに対する彼のこだわりも感じられる。
Winit Tikoo "Tamasha"
カシミールのフュージョン・ロック(伝統音楽とロックの融合)バンド。
以前紹介したベストミュージックビデオに続いて、混乱が続くカシミールのアーティストがここにもランクインした。
以前Anand Bhaskar Collectiveを紹介したときにも感じたことだが、北インドの伝統音楽風の歌い方は、グランジ風の演奏に非常に合うようだ。
Pearl JamのEddie Vedderのような声の揺らぎがあるのだ。
そう考えると、かつて映画『デッドマン・ウォーキング』のサウンドトラックでEddy VedderとNusrat Fateh Ali Khanを共演させた人は、ずいぶん早くこのことに気づいていたのだなあ、と思う。
と、ざっと10枚のアルバムを紹介してみた。
「今のインドでかっこいい音」であるのと同時に、地域の多様性やアクチュアルなメッセージ性にも配慮したラインナップであると言えるだろう。
欧米の音楽への憧れが具現化したようなものもあれば、「インド人としてのルーツ」が入っているものもあるのが、いつもながらインドの音楽シーンの面白いところ。
昨年、一昨年のベスト10と比べてみるのも一興です。
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