SofiaAshraf

2020年05月13日

インドで相次ぐグローバル企業による災害にラップで抗議!社会派フィーメイル・ラッパー Sofia Ashraf


ここ日本でも報じられているとおり、アーンドラ・プラデーシュ州にあるLGポリマーの工場で猛毒ガスが漏れる事故が発生した。
報道によると、これまでに13人が亡くなり、800人近くが体調不良を訴えているという。
この事故は、ロックダウンで無人状態となった工場で起きたものとされ、現地では抗議運動が繰り広げられているようだ。


悲しいことに、インドでこうした事故が起きるのは初めてではない。
インドでは、これまでも多くのグローバル企業によって、自国では認められていない危険な原料を扱う工場が建設され、何度も重大な事故が起きている。
これまでに起きたもっとも悲惨な事故は、1984年にマディヤ・プラデーシュ州のボパールで起きたユニオン・カーバイド社の農薬工場のガス漏れ事故だ。
この事故は、工場のずさんな運営によって猛毒のイソシアン酸メチルが市街地に漏れ出したというもので、その犠牲者数は8,000人以上とも25,000人以上とも言われており、健康被害を受けた住民は30万人にも上る大惨事となった。
ユニオン・カーバイド社の最高経営責任者だったウォーレン・アンダーソンは、この事故の責任を問われたものの、インドでの裁判に一度も出席しないまま、2014年に亡くなってる。

またタミルナードゥ州の避暑地コダイカナルでは、ユニリーバ社が建てた温度計工場が行った18年にもわたる水銀の不適切な廃棄によって周辺の土壌や湖が汚染され、労働者や住民に深刻な健康被害をもたらした。(57人が死亡したとの情報もある)
ユニリーバは2001年にこの工場を閉鎖したが、同社による被害者の救済や汚染された土地の復旧に関しては、地元住民の要求との隔たりが大きく、解決には程遠い状況が続いていた。
途上国の小さな街で起きた事故に対する世界からの関心は少なく、地元の人々は、一部の環境保護団体によるわずかな支援のみで巨大なグローバル企業と争わなければならなかった。
こうして状況に対して、極めて効果的な方法でメッセージを発信したアーティストがいる。
同州出身の女性ラッパーのSofia Ashrafは、"Kodaikanal Won't"という曲を2015年にYouTubeにアップし、世界中の注目を集めることに成功したのだ。

気づいた方もいるかもしれないが、この曲は、Nicki Minajの"Anaconda"の替え歌である。
「アーティスト」としてのオリジナリティーはともかく、このパフォーマンスは、コダイカナルで起きた問題を世界中にアピールするために計算された、とても効果的なものだった。 
インド人女性には珍しいショートヘアのSofiaは、おそらく普段はサリーではなく洋装で過している現代的な女性のはずだ。
だが、インド人女性が、典型的なラッパーの格好をして、さほど高くないラップのスキルで(失礼)オリジナルの楽曲をリリースしても、大きな注目を得ることは難しい。
そこで、Sofiaは誰もが知るヒット曲を、いかにもインド人らしいサリー姿でラップするという奇策に出た(しかも、ヒップホップには似合わない古典舞踊のダンサーたちも参加している)。
この一見奇妙なミスマッチによって、"Kodaikanal Won't"のミュージックビデオは大きな話題となり、またたく間にYouTubeで100万再生を突破すると、ニッキー・ミナージュ本人もこの曲についてツイートした。
Sofiaはユニリーバが起こした問題を世界中に知らしめることに成功したのだ。
こうした状況を受けて、とうとうユニリーバ社の代表は、一刻も早い償いをすることを約束する声明を発表した。
この動画は現在までに420万回も再生されている。

Sofia Ashrafは、ストリートのリアルな生活を表現する典型的なラッパーというよりも、社会活動家的な視点を持ったアーティストのようで、翌2016年には、前述のユニオン・カーバイド社(2001年にダウ・ケミカル社に吸収合併された)によるボパールでの汚染事故に対するメッセージ・ソングとして"Dow vs. Bhopal Toxic Rap Battle"を発表した。

賠償はユニオン・カーバイド社の時代に終わっているとするダウに対する痛烈なメッセージソングだ。
こうした活動は大きな注目を集め、インドでは彼女をラッパーとactivist(活動家)を合わせた'raptivist'と呼んでいるメディアさえある。

彼女はコダイカナルの問題にも関心を寄せ続けており、ユニリーバが問題となった工場を閉鎖したのちも有毒物質を漏洩し続け、さらにヨーロッパで定められているのと同じレベルの土壌回復を拒否していることに対して、"Kodaikanal Won't"の続編にあたる"Kodaikanal Still Won't"を2018年に発表した。

ヘヴィロック風の曲調となった今作は、チェンナイのフュージョン・ロックバンドMadrascalsのヴォーカリストAmrit Raoと古典音楽であるカルナーティック歌手のT.M. Krishna(彼もまた社会活動家としての顔を持っている)とのコラボレーションとなっている。

Sofia Ashrafはかつては広告会社に勤務していたようだが、"Kodaikanal Won't"の発表以降はラッパー/社会活動家としてのキャリアを追求し、様々な活動を展開している。
2016年以降は、ムンバイのデジタルメディア企業Culture Machineが開設したYouTubeチャンネル'BLUSH'のなかで、'Sista from the South'と称してインドの女性やカルチャーを題材にした風刺的なビデオを発表しており、インドの進歩的な女性の代弁者のような役割を担っている。

'Sista from the South'のなかから、インドの女性が置かれた立場を扱った曲を2曲紹介する。



こうした社会的なテーマの活動とは別に、彼女は映画音楽のリリックを書いたり、近年では映画『ガリーボーイ』のサウンドトラックにも参加するなど、幅広いフィールドで活躍しているようだ。

インドのフィーメイル・ラッパーたちには、女性の地位をテーマにしているアーティストが多く、他にもムンバイのDee MCやバンガロールのSiriが保守的なインド社会に暮らす女性をエンパワーするラップを発表している。
(ところで、ここに名前を挙げたラッパーたちは全員南インド系〔Siriはカンナダ系、他の2人はケーララ系〕なのは偶然だろうか)



というわけで、今回はLGの有毒ガス漏洩事故から、グローバル企業によるインドでの環境汚染や健康被害の話題と、注目の女性ラッパーSofia Ashrafを紹介した。

途上国におけるグローバル企業のあり方というテーマは、いつもこのブログで紹介しているストリート系のヒップホップとは異なり、直接的に我々の生活にも関わってくるものだ。
(ストリートヒップホップにもある種の普遍性があるのは確かだが)
私はインドにばかり注目しているが、同様の問題はおそらく世界中で起きているはず。
そのメッセージに気づいたのであれば、どの企業の、どんな商品やサービスを選ぶべきなのか、日本に暮らす我々も、今まで以上に意識するべきだろう。


参考サイト:
https://greenz.jp/2016/04/17/kodaikanal_wont/
https://www.thehindu.com/features/metroplus/Sista-Sofia’s-new-venture/article14485057.ece


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goshimasayama18 at 23:53|PermalinkComments(0)