ShivamBhatia
2023年02月15日
インドのインディペンデントEDMポップ特集!
またしてもあまり詳しくないジャンルについて書くことになってしまうのだが、という前置きをまずさせてもらうとして…
前回の記事で、「インドでも狭義のEDMは下火になり、云々」と書きましたが、ごめんなさい、ウソでした。
インドではEDMはまだまだ元気です。
(ところで、「狭義のEDM」というのはビッグルーム系と呼べばいいのか、このあたりのサブジャンルの呼称がいまいちよく分からない)
いや、もちろん一時のEDMブームが去ったのは事実で、前回書いた通り、メジャーどころのアーティストは別ジャンルに転向しちゃってるし、かなりEDM色が強かったコマーシャルなラッパーたちも、最近はもうちょっと落ち着いたビートの曲をリリースするようになってきている。
インドでも、EDM人気のピークは確実に過ぎている。
5年くらい前を思い出してみると、パンジャービーのGuru RandhawaからタミルのVandana Voxまで、インドじゅうのポップシンガーがEDMテイストの曲をリリースしていた。
あの頃の狂騒は過去のものになったとはいえ、EDMそのものが死んだわけではない。
というわけで、今回は、巨大フェスでこそ映えそうな華やかな楽曲をベッドルームから発信しているまだまだマイナーなインディペンデント系EDMアーティスト(EDM影響下のダンスポップを含む)たちを紹介してみたい。
Xadrian, AISKA, Julian Black "In The End"
まず1人めは、ハイデラーバード出身のXadrianことVarri Pavan Kumar.
お聴きの通り、これぞビッグルームというサウンドには、インド的な要素はどこにも見当たらない。
共演しているAISKAとJulian Blackはオランダのハウス/EDM系アーティストだそうで、この手のジャンルは海外勢とのコラボレーションが頻繁に行われているのも特徴だ。
Xadrian "Drowning"
ソロ作品のこの曲はちょっと往年のDaft Punkみたいな感じもある。
Shivam Bhatia, Sara Solstice "God In Your Eyes"
Shivam BhatiaはDavid GuettaやChain Smokersらの影響を受けているというデリーのEDM系アーティスト。
彼もまたいろんな国のミュージシャンと共演していて、この曲でコラボレーションしているSara Solsticeはアメリカのシンガーらしい。
曲のテーマはドラッグ。
映画の飲酒シーンにいちいち「アルコールは健康を損ねます」という字幕が出てくるインドでも、クラブミュージック界隈では、ドラッグに関する表現はあまりタブー視されていないのか。
サビでは十字架のモチーフが出てくるが、インドの人たちがこの曲を聴いてどんな'God'をイメージするのか、気になるところではある。
31Stars "Catch A Vybe"
31StarsはAman VanjaniとJay Punjabiの二人組で、どうやらイギリスで音楽活動を始めたのちにインドに拠点を移したようだ。
インドの音楽シーンではよくあることだが、EDMでも、アメリカやイギリス在住のインド系住民や、留学などで欧米生活を経験した者が、欧米の最先端のトレンドを国内に輸入する役割を担っている。
そうして国内に持ち込まれたサウンドが、本場から少し遅れて流行するわけだが、インターネットの普及以降、そのタイムラグはどんどん縮まってきているように思える。
(ちなみにEDMシーンのトップアーティストの一人、KSHMRはインド系アメリカ人)
ここまで読んで分かるとおり、この手のジャンルには国籍や国境というものは基本的に存在しない。
踊れて心地よいサウンドこそが正義というハイパーモダンな価値観が、EDMの面白い部分でもあり、つまらない部分でもあるわけだが、後述の通り、それでもやはりその土地の特徴というものは出てきてしまう。
Judy on the Run ft. Cherish Benhotra "Move To Canada"
これはクラブミュージック的というよりも、もっとぐっとポップな曲調。
サウンドは例によって無国籍EDMマナーだが、注目すべきはその歌詞だ。
男女デュエットになっているこの曲は、カナダへの移住をめぐるカップルの対話という、非常にインド的なテーマの楽曲なのだ。
現実的な理想を追い求める女性と、愛国心の強い楽天家の男性とのやりとりは、まるでインド映画の一場面を見ているようだ。
ミュージックビデオの雰囲気にすごくリアリティを感じるが、この二人はリアルにつきあってるのかなあ、とか下世話なことを勘繰りたくなってしまう。
Rohit Nigam "Baawray"
歌詞がヒンディー語になると、歌の響きが一気にインドっぽい印象になる。
デリーの街並みを舞台に踊りまくるミュージックビデオがいい。
彼は影響を受けたミュージシャンとして、John Mayer, Ed Sheeranにと並んで、インドのシンガーソングライターPrateek Kuhadの名前も挙げている。
この手のミュージシャンが挙げるアーティストは洋楽一辺倒になりがちだが、やはりソングライターとしてもロールモデルとしても、Prateekの存在感は群を抜いているようだ。
Frntflw "Rainaa"
Frntflwはマハーラーシュトラ州内陸部の都市ナーグプル出身の二人組。
古典音楽っぽい女性ヴォーカルをフィーチャーした、いわゆる「印DM」で、過去に戻りたいと願う潜在意識をテーマにしているとのこと。
ムンバイやデリーのような大都市ではなく、大きめの地方都市といった印象のナーグプルからこの手のサウンドが出てくるのは意外だが、それだけEDMがインドじゅうに浸透しているということなのだろう。
Cyrus Berne "Lorna"
こちらは珍しいコンカニ語(ゴア地方の言語)のEDMポップ。
都市部のミドルクラスとはまた違う、ちょっとラテンっぽさの入った解放的なローカル感がこの地域の魅力だ。
かつてはトランスの聖地として海外のトラベラーを惹きつけたゴアは、今ではインドのダンスミュージックの一大拠点である。
"Hide and Seek"という曲ではポルトガルのEDMアーティストTh3 Darpeと共演しているが、かつてゴアがポルトガル領だったことと何か関係があるのだろうか。
Nurav "Get The Vibe"
こちらはコルカタのアーティストによる曲。
ビッグルーム的EDMというよりは、印DMベースといった印象だが、東部のコルカタにもEDMの波が到達して、しっかりローカル化している一例として挙げてみた。
Priyanx, Hellish & Someone Else "Nothing But Time"
Priyanxはまだ二十歳を過ぎたばかりの新進プロデューサー。
共演しているHellishは、インドでは珍しいちょっとゴスな要素もあるダークポップっぽい音楽をやっているまだ10代の女性シンガーで、もうひとりのSomeone Elseはダークなベースミュージックをスタイルとする若手アーティスト。
若干単調ではあるが、きらびやかな中にもちょっと影のあるサウンドは、インドの新世代ダンスポップと言えるかもしれない。
というわけで、今回はインド各地のインディペンデント系EDMアーティストを紹介してみた。
今後もEDMは、世界でもインドでも、トランスのように一部のパーティーフリークから愛され続けるジャンルとして生き延びていくのだろう。
若干ステレオタイプな言い方になるが、ダンスが大好きで派手なサウンドに人気が集まるインドでは、EDMはまだまだ一定の人気を保ってゆきそうだ。
インドのEDMシーンについては、今後もちょくちょく取り上げてみたい。
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goshimasayama18 at 21:31|Permalink│Comments(0)
2022年09月09日
いまひとつインド国内で人気のない今風かつ欧米風のポップス・アーティストたち
そんなに意識しているわけではないのだけど、考えてみるとこのブログで取り上げる音楽にはだいたい3パターンくらいあって、
- インドのインディペンデント・シーンで人気があるアーティスト
- いかにもインドらしいサウンドや社会的背景のあるアーティスト
- インドらしからぬ欧米的なサウンドや感性を持ったアーティスト
取り上げる対象がこの分類のどれかひとつにしか当てはまらないケースは少なくて、ほとんどの場合、この3つがユニークな形で組み合わさっている。
とくに記事にしやすいのが1と2の混合タイプで、人気があるアーティストであれば、媒体で取り上げられる回数も多いのでネタを集めやすいし、そこにインドならではの要素が入っていればさらに紹介する価値がある、というわけだ。
ヒップホップにしろロックにしろ電子音楽にしろ、欧米で生まれたカルチャーがインドでどう需要・解釈され、実践されているかというテーマは、インドのアーティストが奏でているサウンドと同じくらい刺激的で面白い。
で、問題は3だ。
最近のインドでは、洗練された欧米風ポップスを奏でるインディーズ・アーティストは本当に多い。
ブログを始めた2017年頃はいちいち「インドにもこんなアーティストがいた!」と記事にしていたものだが、今ではそのあまりの多さに、感動のハードルが大幅に上がってしまっている。
その結果、ブログのネタ帳には、ひたすら3のタイプのアーティストが溜まっていってしまうのである。
インドのリスナーはいまだに映画音楽をはじめとするドメスティックなサウンドを好む傾向が強い。
こうしたアーティストのほとんどが、ごく一部の音楽ファンに評価されるのみで、成功とは程遠い状況にいる。
つまり、彼らは音楽的にはなかなか質が高いのだけど、音以外、記事にするようなネタがほとんどないのだ。
今回は、そんな不憫な、しかしサウンド面ではけっこういい線行ってるアーティストたちをまとめて紹介したい。
まずは、EDMアーティストのShivam Bhatia.
Shivam Bhatia "God In Our Eyes"
今となっては古典的にすら感じられるポップ系EDMサウンドに乗せて、ものすごく直接的にドラッグのことを歌った曲。
歌っているのはSarah Solsticeなる白人女性シンガーで、おそらくはインターネットを介したコラボレーションと思われるが、インド国内のソングライターと欧米のシンガーの共演は、最近ちょくちょく見かける組み合わせだ。
この曲はYouTubeで12万回近く再生されている。
Shivam Bhatiaについて調べてみると、他にSpotifyで90万回以上再生されている曲もあるので、彼のことを無名アーティスト扱いするのはちょっと失礼かもしれないが、このサウンドの無個性さが一層の泡沫感(≒バブルガム・ポップ感)を掻き立てる。
印DM(勝手に命名したインド風EDM)っぽい路線に転向したりすると面白いと思うが、さて、今後どうなるだろう。
Chrmng, x milo, "DOSHTI"
続いての人たちも詳細不明。
Chrming,(カンマまでがアーティスト名)という人とmilo.という人(こちらもたぶんピリオドまでがアーティスト名)のコラボレーションで、全く情報がないのだけど、見た目的におそらくインド北東部の人だろうか。
Chrming,のインスタのアカウント名にバングラデシュの国旗があったので、バングラデシュのアーティストかもしれない。
インドのウェブメディアで国内アーティストと並んで紹介されていたので、おそらくはインドか、少なくとも南アジアとは関連がある人のはずだが、映像監督は韓国の人のようで、よく分からない。
8月27日に公開されたこのミュージックビデオの再生回数はまだ1,000回未満。
YouTubeのクレジットを見ると、撮影監督はエド・シーランで、主演女優はエマ・ワトソンとのこと。
ふざけてんのか。
サウンド的にはアコースティックギターを取り入れたメロウなポップスで、これまたどこかで聴いたことがありそうなスタイルだ。
ここまで無個性な音楽をやってるのだから、せめて誰がやってるのかくらいはっきりさせようぜ、と思わなくもないが、ヴェイパーウェイヴみたいな匿名的なコンセプチュアル・アートなのか。
謎が多い。
次のアーティストは正体がはっきりしている。
ハイデラバードの女性シンガー、PeekayことPranati Khannaが、ムンバイを拠点に活動しているAndrea Tariangと共演したこの"Sunshine On The Street"は、ソウルフルなヴォーカルが印象的なポップソング。
Peekay & Andrea Tariang "Sunshine On The Street"
昼下がりのカフェやFMラジオに映えそうなさわやかな音楽。
今年2月に発表されたこの曲の再生回数は7万回くらいとそれなりだが、インドの人口の多さを考えると、ヒット曲と呼ぶにはちょっと無理がある。
ちなみにAndrea Tariangは、メガラヤ州出身のベテラン・ブルースロック・バンドSoulmateのギタリストの娘だそう。
Unluv "Tera Jadoo"
メロウかつダンサブルな音楽を奏でるUnluvは、やはり情報が少ないアーティストで、インドを拠点に活動しているが、もしかしたらネパール系?のようでもある。
(彼の場合もインスタグラムにネパール国旗と「今はインドを拠点に活動」の記述があった)
この洋楽っぽい音楽性でヒンディー語詞というのは珍しい(部分的に英語)。
公開5ヶ月でYouTubeの再生回数は19,000回ほど。
インドでは英語詞の曲に比べてヒンディーなど現地語の曲のほうが人気が高い傾向があるが、それを考えるともっと評価されても良い曲なのだが。
最後に紹介するのはロック。
ムンバイ在住、弱冠20歳のDev Makes Musicが演奏するのは、ひねくれてないティーン向けっぽい、極めてポップなロックだ。
Dev Makes Music "Concert Tickets"
ところで、冒頭のシーンで左腕の内側に見えるのは、リストカットの跡?タトゥー?
曲を聞く限りは爽快でポップなロックで、ダークな要素はどこにも見当たらないのだけど。
ふと思い出したのが、以前同様の趣旨で書いた記事で取り上げたAnimeshのことで、彼の"Pressure on It"のジャケット(というか今ではサムネイルというべきか)にもリストカットをした腕が描かれていた。
一時停止して見ると、Devの場合はタトゥーでもリストカットでもなさそうで、なんだかよく分からない。
というわけで、やっぱり全体的によく分からない記事になってしまった。
今回書いた彼らの場合、そもそも人気アーティストではないので、インド国内で紹介されている記事なども見当たらず、SNSでの発信がインスタの画像ばっかりだったりすると、ほとんど書ける内容がないのだ。
率直に言って、今回紹介したアーティストたちの音楽は、ポップミュージックとしてのクオリティこそそれなりに高いものの、オリジナリティには欠けているとしか言いようがない。
知名度もそんなになさそうだし、セールスの面で楽観できるアーティストは一人もいないだろう。
だが、それでも、というか、だからこそ、欧米ポップス的目線で見るとバブルガムでコマーシャルな音楽を、彼らは本気で愛して演奏しているに違いない。
今回は全体的にちょっとナメた感じで書いてしまったが、彼らがもうちょっとたくさんの人に聴かれて「けっこういいじゃん」くらいの評価を得てもいいように思う。
実際、けっこういいと思うし。
また折を見てこのタイプのミュージシャンについても書いてみたい。
なにしろたくさんいるから。
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