SeedheMaut
2024年11月21日
60's〜90's洋楽オマージュ! インドの温故知新アーティスト特集
たびたび書いているように、インドでインディペンデントな音楽シーンが爆発的に発展したのは、インターネット普及した2010年代以降のこと。
20世紀のインドでは、インディーズ系の音楽は、ごく一部の裕福な若者の趣味としてしか存在していなかった。
その頃のインドでは、バンドをやるための楽器や機材はとても高価だったため、今のようにスマホが1台あればビートをダウンロードできて、それに合わせてラップできて…というわけにはいかなかったからだ。(細かく調べればいくつかの例外はあるかもしれないが)
だから、今でもインドのロックシーンには労働者階級のパンク的な荒っぽさよりもミドルクラスの上品な雰囲気が漂うバンドが多いし、そもそもインドのインディーズ音楽シーンではロックよりも圧倒的にヒップホップやエレクトロニックの人気が高い。
インドのインディーズ音楽シーンが盛り上がり始めた2010年代には、ロックはもう過去の音楽だったからだ。
とはいえ、過去のクールな音楽を掘って模倣したがるというのはどこの国でも同じこと。
まだまだインディーズ・シーンの歴史の浅いインドにも、彼らが生まれる前の60年代〜90年代のロックの影響を受け、そのオマージュとも言える楽曲を発表しているアーティストが結構いる。
ここ最近でもっとも衝撃を受けたのは、デリーのアンダーグラウンドヒップホップレーベルAzadi Recordsが最近プッシュしているシンガーGundaがリリースしたこの曲だ。
なんとThe Doorsへのオマージュになっている!
Gunda, Encore ABJ "Ruswai"
サンプリングのネタとして引用するのではなく、Light My Fireっぽい雰囲気をそのまま再現するという方法論は2024年に聴くとめちゃくちゃ新鮮だ。
歌はジム・モリソンほどソウルフルではないが、この気だるいグルーヴで引っ張ってゆく感じ、ものすごく「分かってる」。
口上みたいなフロウから始まるEncore ABJ(デリーのSeedhe Mautのメンバー)のラップも完璧にはまっている。
まさかインドからこういう悪魔合体音楽が生まれてくるとは!
ところで、Prabh DeepやSeedhe Mautといった人気ラッパーが軒並み離れてしまった(専属ではなくなった)Azadi Recordsは、最近では歌モノのリリースがかなり多くなってきており、必ずしもヒップホップレーベルとは言えなくなってきているが、独特の冴えたセンスは相変わらず。
ヒップホップというジャンルの間口は今すごく広がっているから、むしろ現在のヒップホップを体現していると言ってもいいかもしれない。
以前紹介した「現代インドで80年代UKロックを鳴らす男」ことDohnrajが今年リリースしたニューアルバム"Gods & Lowlifes"もやばかった。
前作は80's臭に溢れていたが、今作のタイトルトラックはもろ90'sのブリットポップ!
Dohnraj, Jbabe "Gods & Lowlifes"
このヘタウマな歌の感じ、ドラマチックなアレンジ、そして叙情的なメロディー。
90年代UKの一発屋バンドThe Verveあたりを思い起こさせる…とか言うと年がバレそうだが、当時リリースされていたらミュージックライフとかクロスビートあたりのレビューで結構いい評価がついたんじゃないだろうか。
この曲にはタミルのロックバンドF16sのフロントマンで、ソロでも秀作を発表しているJbabeが参加している。
距離も離れていて言語も文化もまったく違うデリーとチェンナイの2人が、この90's UKロックへのオマージュのためだけにコラボレーションしているというのも痺れる。
このアルバムからミュージックビデオが制作された"Freedom"は、うってかわってブルースっぽいシブい始まり方をする曲だが、歌の感じはミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイを彷彿とさせる、あの英国特有の湿った感じ。
Dohnraj "Freedom"
途中からの展開は若干アイデアの寄せ集めっぽい感じがしないでもないが、メロディーやアレンジがいちいちツボを押さえていて唸らされる。
このアルバムには他にもプログレっぽい曲なんかも収められていて、そもそもロックの人気がそこまで高くないインドで異常にマニアックな音楽世界を構築している。
こういうアーティストばかり紹介していると、せっかくインドの音楽を紹介するんだったら古い洋楽の模倣じゃなくてインドのオリジナルな音を紹介すればいいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。
それも一理あるのだが、そもそも前提として、日本もインドもインディペンデントな音楽シーンに関して言えば、アメリカやイギリスの音楽文化の圧倒的な影響下にある。
良くも悪くもそれは否定のしようがない事実で、結局のところ、こうした過去の音楽的遺産は、ポップカルチャーの共通語として機能する。
それぞれの文化を土壌としたオリジナルな表現や、あるいは世界中の誰もまだ鳴らしていないような尖ったサウンドも素晴らしいが、こんなふうに「あっ!そういうの好きなの?分かる!」みたいな感覚を、日本からも欧米からも遠く離れた南アジアのアーティストに感じたりできることっていうのも、すごく素敵なことなんじゃないだろうか。
90年代から音楽を聴いていた自分としては、インドの若いミュージシャンがリアルタイムで経験したはずのない音を緻密に再現しているのを発見すると、海外旅行中に思いがけず旧友にばったり会ったみたいなたまらないエモーションを感じてしまう。
おっと、つい感傷的になっちまった。
まだもうちょっとこの手の音楽を紹介させてもらう。
次はもうちょっと新しい音楽だ。
デリーのBhargはラッパーとの共演も多い現代的な感覚を併せ持ったアーティストだが、この曲を聴くと過去の音楽も相当聴き込んでいるということが分かる。
イントロのチープなノスタルジーと、後半Weezerみたいな展開がこれまたたまらない。
Bharg "Nithalla"
歌詞がヒンディー語であることがまったく気にならないエヴァーグリーンな洋楽ポップ的メロディーもいい。
自分は洋楽的なメロディーの端々に言語特有の訛りとも言える節回しが出てしまうシンガーが好きなのだが、逆にこうやって自分の言語と洋楽的センスを見事に融合するこだわりもまたかっこいいと思う。
インドでこの手のノスタルジックな洋楽サウンドを鳴らすミュージシャンを紹介するなら、Peter Cat Recording Co.に触れないわけにはいかない。
彼らが今年リリースしたアルバム"Beta"は、すでに日本でも多くのインディーズ系メディアで取り上げられているが、期待を裏切らないクオリティだった。
Peter Car Recording Co. "Suddenly"
これは決してディスっているわけではないのだが、彼らの曲を聴くと「上質な退屈」という言葉が頭に浮かぶ。
インターネットなんか繋がないで、こういう音楽を流しながらコーヒーを飲んだり本を読んだりぼーっとしながら時間を過ごすのが本当の贅沢なんじゃないか、というような感覚だ。
昔(インターネット時代の前の話)、金持ちの友人の別荘に行ったらテレビがなくて驚いたことがあるのだが、そのときに、この人たちは本当の裕福な時間の過ごし方を知っているんだなあと思ったものだった。
このコンテンツ飽和時代に、一瞬でも飽きさせないように一曲に展開を詰め込むのではなく、淡々と上質なメロディーを紡いでいく彼らの音楽にも、そうした「贅沢さとしての退屈」みたいな感覚が込められているように思うのだ。
デジタルネイティブなインドの若い世代にも、おそらくだがインターネット以前の時代や、繋がらない時間の過ごし方に対する憧憬はあるはずで、日本よりも激しい競争社会に生きる彼らのほうが、むしろそうした思いはずっと強いとも考えられる。
彼らが20世紀の洋楽的なロックやポップスに惹かれるのは、そこに今日の音楽には存在し得ない、より豊穣な自由さを感じるからかもしれない。
次の日曜はチャイを入れてPeter Cat Recording Co.を聴く退屈な午後を楽しんでみようかな。
すぐにスマホに手が伸びてしまいそうだけど。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 21:04|Permalink│Comments(0)
2024年09月08日
ディスコ化するインドのヒップホップは新次元に突入したのか
最近インドのヒップホップシーンで、同時多発的にこれまでになかったテイストの曲がリリースされている。
それは何かというと、どこか懐かしさを感じるディスコ風のビートなのである。
2010年代に始まったインドのストリートラップは、2019年の映画『ガリーボーイ』でNasが大きくフィーチャーされていたことからも分かるように、当初90年代のUSヒップホップに大きな影響を受けていた。
以降、インドのラッパー/ビートメーカーたちは、トラップ、ドリル、ローファイ、マンブルラップなどのサブジャンルを次々と自分のものとし、今日のインドのヒップホップには、世界中の他の地域と比べて遅れをとっていると感じられる部分はほとんどなくなった。
インドのストリートラップの幕開けを2013年のDIVINEの"Yeh Mera Bombay"あるいは2014年のNaezyの"Aafat!"だと仮定すると、わずか10年ほどの間に、インドのシーンは90年代から今日までのヒップホップの歴史に駆け足で追いついたということになる。
そして、2024年。
突如としてインドに現れたディスコ・ラップは、インドのヒップホップがあっという間に同時代のヒップホップを捕捉したその勢いのまま到達した、新しい領域(ジャンル)なのかもしれない。
例えばデリー出身の若手人気ラッパーChaar Diwaariが7月にリリースしたこの曲。
(往年のマイケル・ジャクソンばりに曲が始まるまでが長いが、せっかちな方は2:35あたりまで飛ばしてください)
Chaar Diwaari "LOVESEXDHOKA"
タメの効いたブーンバップでも緊張感のあるトラップでもなく、性急で享楽的なエレクトロ的ディスコビートに、80年代ボリウッド(例えば"Disco Dancer")を思わせるコミカルなダサかっこよさを融合した曲だが、半笑いで聴いているとアレンジの妙に唸らされる。
タイトルのDhokaは「裏切り」「偽り」を意味するヒンディー語らしい。
Charli XCXっぽさも感じられるが、それよりももっと生々しくて、インドっぽい。
(そういえば、あまり音楽的ルーツには関係なさそうだが、Charli XCXはお母さんがインド系とのこと)
「インド的であること」とアメリカ生まれのポップミュージックの融合が、また新しい段階に突入したことを感じさせられる。
他のアーティストも聴いてみよう。
たとえばムンバイの新進ラッパーYashrajが7月にリリースしたアルバム"Meri Jaan Pehle Naach"には、全編に渡ってディスコサウンドが散りばめられている。
Yashraj, PUNA "GABBAR"
ダンスミュージックとしての強度、ルーツを感じさせるインド的な要素(ボリウッドのサンプリング?)、ファンク的な洒脱さ。盛りだくさんすぎる要素を持ちつつも、きちんとヒップホップとして聴かせるサウンドに仕上がっている。
かと思えば、こんなソウルっぽい雰囲気を持った曲も収録されていて、これがまたかっこいい。
"Kaayda / Faayda"
こういう16ビートっぽいトラックはインドのヒップホップではこれまでほとんどなかった気がする。
個人的にはこの曲はちょっと日本語ラップっぽい雰囲気があると思っていて、例えば田我流の2012年の名盤『B級映画のように』あたりに近い質感を感じる(たとえば「Straight Outta 138」とか)。
Yashrajのシブい声は、やはりインドではとても珍しかったジャズ/ソウル的なビートの"Takiya Kalaam"(2022)の路線に非常にハマっていたが、まさかこう来るとは思わなかった。
このディスコ・ラップはインド各地にまで浸透していて、ウッタラカンド州ルールキー(Roorkee)出身のラッパーFrappe Ashのこの曲は、もしDJだったらさっきの"Kaayda / Faayda"と繋げてプレイしたいところ。
Frappe Ash "CHAI AUR MEETHA"
「イノキ・ボンバイエ」みたいなこういうビートもやっぱりインドのヒップホップではこれまであまりなかったように思う。
タイトルの意味は「チャイとスイーツ」(つまりチャイラップでもある)。
この曲が収録されたアルバム"Junkie"はSez on the BeatやSeedhe MautのEncore ABJなどのデリー勢、アーメダーバードの新生Dhanjiなども客演しており、ここまで聴いた中では今年のベストアルバム候補に挙げられるほどの完成度なので、ぜひチェックしてみてほしい。
この手のディスコ・ラップは南インドでも散見されていて、チェンナイの新進ラッパーPaal Dabbaが3月にリリースしたこの曲も、ビートのタイプこそ違うが、ディスコ路線と十分に呼べるものだろう。
(イントロ部分も非常にかっこよくできたミュージックビデオだが、せっかちな方は曲が始まる0:55からどうぞ)
Paal Dabba "OCB"
ミュージックビデオの群舞はインド的とも言えるけど、むしろブルーノ・マーズあたりの影響を受けていそう。
古典舞踊のダンサーとか2Pacのそっくりさんが出てくるなど、見どころ盛りだくさんだ。
ファンキーなギターやサックスの音色が印象的で、インドのラップのディスコ化の一因には、ビートに生楽器が多く使われるようになってきたことも関係しているような気がする。
タイトルの"OCB"はタバコの巻紙のことで、一応One Costly Bandana(高価なバンダナ。ちなみにバンダナはインド由来の言葉)とのダブルミーニングということになっているが、大麻と関係があるのだろう。
このようにインド各地で見られるようになったディスコ・ラップだが、その究極とも言えるのが、ムンバイを拠点にマラーティー語のハウス(!)のプロデューサーとして活動しているKratexとマラーティー語ラッパーのShreyasが共演したこの曲。
なんとダンスミュージックの名門であるオランダのSpinnin' Recordsからリリースされている。
Kratex, Shreyas "Taambdi Chaambdi"
インド風ハウスのビートと、マラーティー語の不思議なフロウのラップ、そして「ラカラカラカラカ…」という耳に残って離れないフレーズにもかかわらず、キワモノと紙一重のところでかっこよく仕上がっている。
冒頭のChaar Diwaariの"LOVESEXDHOKA"と同様に、ステレオタイプのインド人らしさや少しのノスタルジーをコミカルかつクールに描いたミュージックビデオも最高だ。
タイトルの意味はマラーティー語で「茶色い肌」。
つまり、インド人の肌の色を表している。
(余談だが、Yo Yo Honey SinghやSidhu Moose Walaも英語とヒンディー語を混ぜて「茶色」を表す"Brown Rang"という曲をリリースしている。インド人の肌の色はさまざまだが、彼らのアイデンティティを表す言葉なのだろう)
マラーティー語はインド最大の都市ムンバイが位置するマハーラーシュトラ州の公用語だ。
だが、ムンバイの旧名であるボンベイから取られた「ボリウッド」(ハリウッド+ボンベイ)がヒンディー語映画を指すことからも分かるように、この街で作られるエンタメは、映画にしろ音楽にしろ、圧倒的多数の話者を持つヒンディー語の作品がほとんどだった。
そういった事情もあり、「ムンバイの母語」とはいえ、マラーティー語にはなんとなくちょっと垢抜けない印象を持っていたのだが、まさかそこからこんな曲が出てくるとは思わなかった。
というわけで、今回はインドのあらゆる地域に出現したディスコ・ラップを特集してみた。
この傾向は「アメリカで生まれたヒップホップのサブジャンルをインドで実践する」というテーマから解き放たれてきたことを表しているのかもしれない。
この「ディスコ化」は、インドのポピュラーソング(つまり映画音楽)がもともと持っていた「ディスコ性」とも関係がありそうで、そう考えるとKaran KanchanがプロデュースしたDIVINEの"Baazigar"(2023年)あたりから始まった流れと見ることもできそうだ。
と、ここで終わりにしようと思っていたのだけど、デリーのSeedhe Mautが最近リリースしたEP "SHAKTI"のこの曲もボリウッドとエレクトロ・ディスコの融合みたいなビートが導入されていて非常にかっこいいので聴いてみて!
Seedhe Maut "Naksha"
この"SHAKTI"も年間ベストクラスの名盤で、インドのヒップホップシーンはますます多様化し、面白くなりそうだ。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 20:19|Permalink│Comments(0)
2024年05月13日
インドとラテン風ポップ/ヒップホップ 2024年度版
以前も何度か記事にしたことがあるネタだが、インドのポップスやヒップホップを聴いていると、ラテンっぽい要素が目立つ曲がかなりたくさんあることに気がつく。
インドとラテンが共通して持つ独特の濃くてケレン味たっぷりのノリが、地球を半周して共鳴しているんじゃないかと思っているのだが、本当のところはわからない。
インドの音楽シーンは日本よりもはるかにアメリカのシーンの影響を受けているので、いまやアメリカのメインストリームのひとつとなったラテンポップスが、単にインドでも流行しているだけなのかもしれない。
んなことは考えてもしょうがない。今回は、ラテン風のインドのポップス/ヒップホップの最新版を紹介します。
近年のこのテーマでの重要作としては、インド系アメリカ人の大物EDMプロデューサーKSHMRが昨年11月にリリースしたアルバム"Karam"がまず挙げられる。
インド各地のラッパーをフィーチャーしたこのアルバム、ラテンっぽい曲がかなり目立つ内容だった。
今回は南インドのケーララ出身のラッパーDabzeeとVedanをフィーチャーした"La Vida"と、デリーのベテランKR$NAが参加した"Zero After Zero"を紹介したい。
KSHMR, Dabzee, Vedan "La Vida"
KSHMR, KR$NA, Talay Riley "Zero After Zero"
"La Vida"のほうは歌詞にもスペイン語が取り入れられていて、より本格的なラテン風味になっているのがポイント。
2つめの"Zero After Zero"でラップしているKR$NAはソロ作品でもラテンの要素を導入していて、昨年リリースされた"Prarthana"のビートもラテンっぽいベースラインやメロディーがループされている。
KR$NA "Prathana"
この曲はレゲトンっぽい最近のリズムとは違って、もっと古いタイプのラテン音楽を引っ張ってきているのが面白い。
同郷デリーのラップデュオSeedhe Mautをフィーチャーしたこの"Hola Amigo"(分かりやすすぎるタイトル)は、なんでか知らないが格好までメキシコ人に寄せている。
KR$NA ft. Seedhe Maut "Hola Amigo"
メキシコ人の扮装をすることが、インドでどんな意味があるのか、リリックとは関係があるのか、スペイン語はインド人にとってどう響くのか、いろいろと気になるが、いつもながら彼らのラップはかなりかっこよく仕上がっている。
と、こんなふうにラテンっぽいラップが多いインドでも、「とうとうここまで来たか」と感じたのが、デリーのラッパーKarunが若干18歳のシンガーLambo Driveらと共演したこの曲だ。
Karun, Lambo Drive, Arpit Bala & Revo Lekhak "Maharani"
この曲も今風のレゲトンではなく、もっと古いタイプのラテンっぽいリズムやコードが使われているのだが、後半にはサンタナみたいなギターまで入ってくるラテンっぷり。
映像を見る限りは完全にインドだが、音だけ聴いているとプエルトリコなのかメキシコなのかキューバなのか、どこにいるのか分からなくなってくる。
ラテン風味を楽曲に取り入れているのはヒップホップだけではなくて、最近デビューしたインドの4人組女性ダンスポップグループW.I.S.H.のデビュー曲もかなりラテンっぽかった。
W.I.S.H. "Lazeez"
インドでも人気の高いK-Popガールズグループの雰囲気を取り入れつつ、音楽的にはインドで流行っているっぽいラテンポップに仕上げるというのは、インドではまだ珍しいこの手のガールズグループを成功させようと考えた時に必然的に導き出される結論なのだろう。
結果的に郷ひろみとか西城秀樹がカバーしていた90年代のラテンポップっぽく聴こえないでもないが(もしくはSantanaの"Smooth")、このミュージックビデオも含めたちょっとダサい感じが大衆音楽としてはむしろ肝心な部分なのかもしれない。
W.I.S.H.については、その売り出し方も含めてかなり興味深い存在だと思っているので、いずれ詳しく特集してみたい。
インド本国を離れて、在外インド系シンガーたちもラテン的な要素を積極的に導入している。
例えばカナダで活躍するRaghav.
彼に関しては、全英チャートやカナダチャートでのヒット作品も多いので、「ラテン化するインドポップ」の文脈ではなく単に北米のアーティストの傾向として見るべきかもしれないが。
Raghav "Desperado (feat. Tesher)"
共演のTesherもカナダで活躍するインド系のラッパーだ。
イントロのインドっぽいフレーズからシームレスにラテンっぽいメロディー(ここもサビはスペイン語)につながるのが面白い。
このリズムパターンはインドのポップスでよく使われるやつだが、考えてみればラテンポップスともかなり親和性が高いリズムである。
この分野で、いつかインド人による世界的なヒット曲が生まれたりしたら面白いなあ、と思っているのだけど、その日はそんなに遠くないのかもしれない。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 21:40|Permalink│Comments(0)
2023年12月14日
EDMシーンの世界的大物KSHMRがインドのラッパーたちと共演!
ここのところ謎の占い師ヨギ・シンの話ばかり書いていたので、今回は本来の音楽ブログに戻って、個人的に今年のインドの音楽シーンの最大のニュースだと思っている作品について書く。
11月に世界的EDMプロデューサーのKSHMRがインドのラッパーたちを迎えて制作したアルバム"Karam"のことである。
KSHMRことNiles Hollowell-Dharはカシミール生まれのヒンドゥー教徒の父とアメリカ人の母のもと、1988年にカリフォルニア州で生まれた。
ラップデュオCataracsのメンバーとして活動したのち、2014年頃からエレクトロハウスやビッグルームなどのいわゆるEDMに転向。
’10年代後半にはTomorrowlandやUltra Music Festivalなどのビッグフェスで人気を博し、2015年に英国のEDMメディアDJ Magのトップ100DJランキングで23位にランクイン。2016年には同12位に順位を上げ、さらにはベストライブアクトにも選ばれている。
KSHMRというアーティスト名は、日本では一般的にカシミアと読まれているが、ここはインド風にカシミールと読むことにしたい。
彼は1年ほど前からSNSで、Seedhe MautやMC STΔN、KR$NA(彼はクリシュナと読む)といったインドのラッパーたちと制作を進めていることを明らかにしていたが、別ジャンルで活動する彼らのコラボレーションがどんなものになるのか、まったく想像がつかなかった。
いかにインドのヒップホップシーンが急成長を続けているとはいえ、世界的に見ればKSHMRのほうが圧倒的な知名度と成功を手にしており、私はRitviz(デリーの「印DM」プロデューサー)とSeedhe Mautが共演した"Chalo Chalein"のような「ラッパーをフィーチャーしたEDM」に落ち着くと予想していたのだが、ふたを開けてみれば、EDMの要素はほとんどなく、完全にヒップホップに振り切った作品となった。
"Karam"はKSHMRのキャリアを通してみても非常にユニークで意欲的なアルバムと言えるだろう。
先行シングルとしてリリースされたのは、デリーのラップデュオSeedhe Mautと、今年6月に日本滞在を満喫したムンバイのプロデューサーKaran Kanchanが参加したこの"Bhussi".
KSHMR, Seedhe Maut, Karan Kanchan "Bhussi"
2021年の名作「न(Na)」を彷彿とさせるパーカッシブなビートは、完全にSeedhe Mautのスタイルだ。
これはアルバム全体を聴いて分かったことなのだが、どうやらKSHMRは、このアルバムで「自分の楽曲にいろんなラッパーをフィーチャーする」のではなく、「いろんなラッパーに合った多彩なビートをプロデュースする」ということにフォーカスしているようなのである。
華やかな成功を手にしたEDMのソロアーティストではなく、職人気質のヒップホップのビートメーカーに徹しているのだ。
当然ながらKSHMRのビートはクオリティが高く、個性的でスキルフルなラッパー達との化学反応によって、インドのヒップホップ史に新たな1ページを刻むアルバムが完成した。
デリーのベテランラッパーKR$NAを起用した"Zero After Zero"はリラックスしたグルーヴが心地よい。
ラテンのテイストと往年のボリウッドっぽいストリングスが最高だ。
KSHMR, KR$NA, Talay Riley "Zero After Zero"
ラテンの要素はこの作品の特徴のひとつで、この"La Vida"はレゲトンのリズムにEDMっぽいキャッチーなフルートのメロディーとコーラスが印象的。
真夏の夕暮れにコロナビールかモヒートを飲みながら聴きたい曲だ。
KSHMR, Debzee, Vedan "La Vida"
スペイン語混じりのラップを披露しているDabzeeとVedanは南インドのケーララ州出身。
このアルバムにはインドのさまざまな地域のラッパーが起用されており、おそらくKSHMRは特定の都市や地域に偏らない、汎インド的なヒップホップ・アルバムを作るという意図があったのだろう。
アルバムのハイライトのひとつが、ヒップホップシーンでの評価をめきめき上げているYashrajを起用したこの曲。
KSHMR, Yashraj, Rawal "Upar Hi Upar"
Yashrajのシブいラップに90年代的なヒロイズムに溢れた大仰なビートがとても合っている。
終盤のリズムが変わるところもかっこいい。
KSHMRがこれまで手がけたことのないタイプのビートだが、この完成度はさすが。
Yashrajは、ベンガルールの英語ラッパーHanumankindと共演したこの"Enemies"を含めて、3曲に参加している。
KSHMR, Hanumankind, Yashraj "Enemies"
異色作と言えるのが、バングラーのトゥンビ(シンプルなフレーズを奏でる弦楽器)っぽいビートを取り入れたこの曲。
KSHMR, NAZZ "Godfather"
この手のビートはインドには腐るほどあるのだが、やはりKSHMRの手にかかるとめちゃくちゃかっこよくなる。
NAZZ(Nasと紛らわしい)は、ムンバイのラッパー。
初めて聞く名前だが今後要注目だ。
インド全土のラッパーを起用したこのアルバムに、なんと隣国パキスタンのラッパーも参加している。
KSHMR, The PropheC, Talha Anjum "Mere Bina"
この曲では、カナダ出身のパンジャーブ系バングラーシンガー/ラッパーのThe PropheCに加えて、パキスタンのカラチを拠点に活躍しているラッパーデュオYoung StunnersのTalha Anjumがフィーチャーされている。
これは結構すごいことだと思う。
KSHMRがそのステージネームにもしているカシミール地方は、1947年の印パ分離独立以来、両国が領有権を主張し、テロや弾圧によって多くの血が流されてきた。
カシミールをめぐる問題は、長年にわたって印パ両国、そしてヒンドゥー教徒とムスリムの間の対立を激化させている。
ヒンドゥー・ナショナリズム的な傾向の強いインドの現モディ政権は、ムスリムがマジョリティを占めるジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪して政府の直轄領へと再編するなど強硬な手段を取っており、厳しい状況はまだまだ終わりそうにない。
The PropheCのルーツであるパンジャーブ地方もまた、印パ分離独立時に両国に分断された歴史を持つ。
イスラームの国となったパキスタンを離れてインド側へと向かうヒンドゥー教徒、シク教徒と、インド領内からパキスタンへと向うムスリムの大移動によって起きた大混乱のなか、迫害や暴行によって100万人もの人々が命を奪われた。
これもまた、今日まで続く印パ対立の原因のひとつとなっている。
前述の通り、KSHMRはカシミール出身のヒンドゥー教徒の父を持ち、The PropheCはパンジャーブにルーツを持つシク教徒で、Talha Anjumはパキスタンのムスリムのラッパーである。
異国のリスナーの過剰な思い入れかもしれないが、歴史を踏まえると、この3人がこの時代に共演するということに、なんだか大きな意味があるように感じてしまうのである。
仮にそこに深い意味はなく、かっこいい曲を作るために適任なアーティストを集めただけだったとしても、それができるKSHMRの感性ってなんかすごくいいなと思う。
ちなみにYoung Stunnersはコロナ禍の2020年にデリーのKR$NAとの共演も実現させている。
こういう交流はどんどん進めてほしい。
他に参加しているラッパーは、デリーの元Mafia Mundeer勢からIkkaとRaftaar、プネーのマンブルラッパーMC STAN、カリフォルニアのテルグ系フィメールラッパーRaja Kumariら。
音楽的な部分以外で気になる点としては、このアルバムには、インタールードとしてオールドボリウッド風のスキットが数曲おきに収録されている。
それぞれ"The Beginning", "The Plan", "The Money", "The Girl", "The Revenge"といったタイトルが付けられていて、言葉がわからないので何とも言えないが、今作はコンセプトアルバムという一面もあるようだ。
ここまでインド市場に振り切った(インド人と一部のパキスタン人以外は聴かなそうな)アルバムを作ったKSHMRの最新リリースは、"Tears on the Dancefloor"と題したゴリゴリのEDM。
完全にインドのシーンに拠点を移すつもりはなさそうだが、この振れ幅こそが彼の魅力なのだろう。
KSHMR "Tears on the Dancefloor (feat. Hannah Boleyn)"
Ritvizとのコラボレーション"Bombay Dreams"や、インドのスラム街の子どもたちにインスパイアされたという"Invisible Children"など、近年インド寄りの側面をどんどん出してきているKSHMRは、今後ますますインドのシーンでの存在感を増してゆきそうだ。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 22:27|Permalink│Comments(0)
2023年10月14日
インドのヒップホップ事情 2023年版
今年(2023年)は、ムンバイの、いやインドのストリートラップの原点ともいえるDIVINEの"Yeh Mera Bombay"がリリースされてからちょうど10年目。
その6年後、2019年にはそのDIVINEとNaezyをモデルにしたボリウッド初のヒップホップ映画『ガリーボーイ』がヒットを記録し、インドにおけるラップ人気はビッグバンを迎えた。
以降のインドのシーンの進化と深化、そして多様化は凄まじかった。
インドのヒップホップは、今では才能あるアーティストと熱心なファンダムが支える人気ジャンルとして、音楽シーンで確固たる地位を占めている。
2023年10月。
一年を振り返るにはまだ早いが、今年も多くの話題作がリリースされ、シーンを賑わせている。
今回は、その中から注目作をピックアップして紹介したい。
『ガリーボーイ』に若手有望ラッパーとしてカメオ出演していたEmiway Bantaiは、今では最も人気のあるヒンディー語ラッパーへと成長した。
(いやナンバーワンはやっぱりDIVINEだよという声もあるかもしれないが)
6月にリリースしたアルバムのタイトルは"King of the Street".
かつて"Machayenge"シリーズで披露したポップな面は出さずに、タイトルの通りストリートラッパーとしてのルーツに立ち返った作風でまとめている。
その名も"King of the Indian Hip Hop"という7分にもおよぶ大作では、シンプルなビートに乗せて存分にそのスキルを見せつけた。
Emiway Bantai "King of Indian Hip Hop"
字幕をONにするとリリックの英訳が読めるが、全編気持ちいいほどにみごとなボースティング。
このタイトルトラックもミュージックビデオを含めて痺れる出来栄えだ。
Emiway Bantai "King of the Streets"
Emiwayは2021年にBantai Recordsというレーベルを立ち上げて、仲間のフックアップにも熱心に取り組んでいる。
アーティスト名にも付けられたBantaiは、ムンバイのスラングで「ブラザー」という意味だ。
所属アーティストたちによるこの"Indian Hip Hop Cypher"を聞けば、このBantai Recordsにかなりの実力者が集まっていることが分かるだろう。
Emiway Bantai x Baitairecordsofficial (Memax, Shez, Young Galib, Flowbo, Hitzone, Hellac, Minta, Jaxk) "Indian Hip Hop Cypher"
面白いのは、8分を超える楽曲の中にラッパーによるマイクリレーだけでなく、Refix, Memax(彼はラッパーとしても参加), Tony Jamesという3人のビートメーカーによるドロップソロ(!)も組み込まれているということ。
こういう趣向の曲は初めて聴いたが、めちゃくちゃ面白い取り組みだと思う。
ここに参加しているラッパーはEmiwayに比べるとまだまだ無名な存在だ。
ラップ人気が安定しているとはいえ、このレベルのラッパーでも一般的にはほとんど無名というところに、今のインドのヒップホップの限界があるようにも思える。
首都デリーのシーンからも面白い作品がたくさんリリースされている。
このブログでも何度も紹介してきた天才ラップデュオSeedhe Mautは全30曲にも及ぶミックステープ"Lunch Break"を発表。
(「ミックステープ」という言葉の定義は諸説あるが、この作品については彼ら自身がアルバムではなくミックステープと呼んでいる)
Seedhe Maut "I Don't Miss That Life"
このミックステープには、他にも2006年から活動しているデリーの重鎮KR$NAとのコラボ曲など興味深いトラックが収録されている。
徹底的にリズムを追求した2021年の"न(Na)"や、音響と抒情性に舵を切った昨年の"Nayaab"と比べると、ミックステープというだけあって統一感には欠けるが、それもまたヒップホップ的な面白さが感じられて良い。
コラボレーションといえば、思わず胸が熱くなったのが、パキスタンのエレクトロニック系プロデューサーTalal Qureshiの新作アルバム"Turbo"にムンバイのラッパーYashrajが参加していたこと。
Talal Qureshi, Yashraj "Kundi"
このアルバム、記事の趣旨からは外れるので細かくは書かないが、南アジア的要素を含んだエレクトロニック作品としてはかなり良い作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。(例えばこのKali Raat)
ところで、かつてインド風EDMを印DMと名付けてみたけれど、パキスタンの場合はなんて呼んだらいいんだろう?PDM?
Yashraj関連では、ベンガルールの英語ラッパーHanumankindとの共演も良かった。
Yashraj, Hanumankind, Manïn "Thats a Fact"
曲の途中にまったく関係のない音を挟んで(2:09あたり)「ちゃんと曲を聴きたかったらサブスクで聴け」と促す試みは、お金を払って音楽を聴かない人が多いインドならではの面白い取り組みだ。
Yashrajは軽刈田が選ぶ昨年のベストアーティスト(または作品)Top10にも選出したラッパーで、当時はまださほど有名ではなく、実力はあるもののちょっと地味な存在だったのだが、その後も活躍が続いているようで嬉しい限り。
今年は売れ線ラッパーの動向も面白かった。
パンジャービー系パーティーラッパーの第一人者Yo Yo Honey Singhがリリースした新曲は女性ヴォーカルを全面に出した歌モノで、このシブさ。
Yo Yo Honey Singh, Tahmina Arsalan "Ashk"
これまでのド派手さは完全に鳴りをひそめていて、あまりの激変にかなり驚いたが、ファンには好意的に受け入れられているようだ。
後半のラップのちょっとバングラーっぽい歌い回しはルーツ回帰と捉えられなくもない。
10日ほど前にリリースした"Kalaastar"という曲も、ポップではあるが派手さはない曲調で、今後彼がどういう方向性の作品をリリースしてゆくのかちょっと気になる。
Yo Yo Honey Singhと並び称されるパーティーラッパーBadshahは、ここ数年EDM路線や本格ヒップホップ路線の楽曲をリリースしていたが、「オールドスクールなコマーシャルソングに戻ってきたぜ」という宣言とともにこの曲をリリース。
Badshah "Gone Girl"
YouTubeのコメント欄はなぜかYo Yo Honey Singhのファンに荒らされていて「Honey Singhの新曲の予告編だけでお前のキャリア全体に圧勝だ」みたいなコメントであふれている。
かつてMafia Mundeerという同じユニットに所属していた二人は以前から険悪な関係だったようだが、いまだにファンが罵り合っているとはちょっとびっくりした。
ついついヒンディー語作品の紹介が続いてしまったが、インド東部コルカタではベンガル語ラップの雄Cizzyが力作を立て続けにリリースしている。
そのへんの話は以前この記事に書いたのでこちらを参照。
ビートメーカーのAayondaBが手掛ける曲には、日本人好みのエモさに溢れた名作が非常に多い。
続いてはデリーの大御所Raftaar.
この曲は今インドで開催されているクリケットのワールドカップのためにインド代表のスポンサーよAdidasが作ったテーマソングで、プロデュースは6月に来日して日本を満喫していたKaran Kanchanだ。
歌詞では、Adidasの3本線になぞらえて、過去2回の優勝を果たしているインド代表の3回目の優勝を目指す気持ちがラップされている。
クリケットは言うまでもなくインドでもっとも人気のあるスポーツだが、そのテーマ曲にラップが選ばれるほど、インドではヒップホップ人気が定着しているということにちょっと感動してしまった。
日本ならこういうスポーツイベントにはロック系が定番だろう。
Karan Kanchanのビートは非常にドラマチックに作られていて、これまでいろいろなタイプのビートを手がけてきた彼の新境地と言えそうだ。
シンプルなラップはヒップホップファン以外のリスナーも想定してのものだろう。
もしかしたらスタジアムでのシンガロングが想定されているのかもしれない。
そういえばこのRaftaarもHoney SinghやBadshahと同様にMafia Mundeer出身。
その後のキャリアではメインストリームの映画音楽も手がけながら、わりと本格的なスタイルのラッパーとして活躍している。
Karan Kanchanが今注目すべきラッパーとして名前を挙げていたのがこのChaar DiwaariとVijay DKだ。
Chaar Diwaariは結構エクスペリメンタルなスタイルで、Vijay DKはMC STΔNにも通じるエモっぽいスタイルを特徴としている。
Chaar Diwaari x Gravity "Violence"
Vijay DK "Goosebumps"
Chaar Diwaariはニューデリー、GravityとVijay DKはムンバイを拠点に活動している、いずれもヒンディー語ラッパー。
Gravityもかなりかっこいいので1曲貼っておく。
Gravityは2018年にTre Essの曲"New Religion"に参加していたのを覚えていて、つまり結構キャリアの長いラッパーのようだが、最近名前を聞く機会が急激に増えてきている。
Gravity x Outfly "Indian Gun"
このへんの新進ラッパーについては改めて特集する機会を設けたい。
というわけで、今回は今年リリースされたインドの面白いヒップホップをまとめて紹介してみました。
南部の作品にほとんど触れられておらず申し訳ない。
11月には、インド系アメリカ人でEDM界のビッグネームであるKSHMRがインド各地のラッパーを客演に迎えた作品のリリースを控えている。
まだまだインドのヒップホップシーンは熱く、面白くなりそうだ。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 20:39|Permalink│Comments(0)
2023年08月16日
なぜか今頃発表! The Indies Awards 2022
インドの優れたインディペンデント音楽のアーティストや作品に対して、2020年から表彰を行なっているThe Indies Awardsの2022年版が、先日唐突に発表された。
すでに2023年の8月後半にさしかかったこのタイミングでいったい何故?
もしかしてインドには日本でいうところの「年度」みたいな考え方があるの?(例えば2022年の8月から翌年の7月までを2022年度として扱うとか)
…と不思議に思ったものの、どうやらそういったことはいっさいなく、純粋に2022年以前にリリースされた作品のみが対象とされているようだし、単に選考に時間がかかっていたか、忘れていただけの模様。
インドのインディーズシーンは、まだまだみんなが手弁当で盛り上げているといった感じなので、おそらく選考委員のみなさんも本業を別に持っていたりして、きっと忙しくてこのタイミングになるまで手がつけられなかったんだろう。
なにしろ、ジャンル別アルバム・楽曲、パート別プレイヤー部門など全部で27部門もある本格的な賞なので、選考に時間がかかるのも分かる。
(…かと思ったら、後述の通り、どう考えても2021年にリリースされた作品がたくさん入っていたりして、なんだか訳がわからない)
個別の受賞者は上記のリンクを辿ってもらうとして、主要部門と気になる部門について、いくつか紹介してみたいと思います。
Artist of the Year: Seedhe Maut
アーティスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのはこのブログでも何度も紹介しているデリーのSeedhe Maut.
確かに2022年のSeedhe Mautはインドを代表するヒップホッププロデューサーSez on the Beatと久しぶりに共作した傑作アルバム"Nayaab"をリリースし、インドのヒップホップの新境地を切り開く大活躍をしていた。
さらに彼らはHiphop/ Rap Song of the Year部門もこの"Namastute"で受賞している。
アレ?この曲、もう1作前のアルバムの曲だけど、リリースいつだっけ?と思って調べてみたら、2021年の2月。
なにがなんだかよくわからなくなって来たけど、名作なのは間違いないのでまあ良しとしよう。
Song of the Year: Sunflower Tape Machine "Sophomore Sweetheart"
やはり2021年の6月にリリースされているこの曲がなぜ2022年のベストソングに選ばれているのかは謎だが、洋楽的なインディーミュージックとしてよくできた曲なことに異論はない。
Sunflower Tape MachineはチェンナイのアーティストAryaman Singhのソロプロジェクトで、この曲は2021年のRolling Stone Indiaが選ぶベストシングルの2位にもランクインされていた。
Sunflower Tape MachineはThe Indies AwardsでもEmerging Artist of the Yearとのダブル受賞。
リリースする楽曲ごとに作風が変わる彼らの魅力は、近々特集して紹介したいところだ。
Album of the Year: Saptak Chatarjee "Aaina"
彼はこれまで知らなかったアーティストだった。
どうもこのThe Indiesは、Rolling Stone Indiaあたりと比べると、いわゆるフュージョン的な、インドの要素を多く含んだ音楽を評価する傾向があるようで、彼も本格的な古典音楽を歌ったりもするシンガーソングライター。
Saptak Chatarjeeはデリーとムンバイを拠点にしているようで、YouTubeでチェックする限り、その実力は間違いなさそうだ。
Music Video of the Year: The F16s "Easy Bake, Easy Wake"
F16sはチェンナイ出身のロックバンド。
ふざけた名前のLendrick Kumar(説明するのも野暮だが、たぶんインドによくいるKumarという名前を、Kendrick Lanarのアナグラム風にしている)によるミュージックビデオは、独特のユーモアと世界観が魅力的。
この曲が収録された"Is It Time to Eat the Rich Yet?"は、Rock / Blues / Alternative Album Of The Yearも受賞している。
ちなみにこのアルバムもやはり2021年の11月にリリースされたもの。
前回のThe Indies Awardsは2022年の12月に発表されているので、ぎりぎりのタイミングだったのかもしれないが、たまに2021年前半の作品が含まれているのが解せない。
他のチェンナイ勢では、フジロックでの来日も記憶に新しいJATAYUの"Moodswings"がInstrumental Music Album Of The Yearを受賞している。
Artwork Of The Year: Midhaven "Of The Lotus & The Thunderbolt"
Metal/Hardcore Song of the Year: Midhaven "Zhitro"アートワーク部門とメタル・ハードコア部門の楽曲賞を両方を受賞したのが、このMidhavenというムンバイのアーティストだった。
不勉強ながらこれまで知らなかったバンドで、先日出版された『デスメタル・インディア』にも掲載されていない新鋭バンドのようだ。
アートワーク部門での受賞となったのがこのサムネイルのイラストで、やはりこの媒体がインド的な要素を嗜好していることを感じさせられるセレクトだ。
楽曲はミドルテンポのよくあるメタルで、それなりにレベルの高いインドのメタルシーンでこれといって特筆すべき部分は感じられなかった。
Electronic/Dance Album of the Year: MojoJojo "AnderRated"
伝統音楽をポップな感覚でダンスミュージックと融合するムンバイのプロデューサーMojoJojoが2021年の10月のリリースしたアルバム。
RitvizやLost Storiesなど、いわゆる印DM(インド的EDM)ではいろんなスタイルで活躍しているアーティストがいるが、彼はちょっとラテンポップっぽい要素があるところが独特だろうか。
ちなみに楽曲部門(Electronic / Dance Song Of The Year)では、ラージャスターンの民謡とエレクトロニックを融合するというコンセプトで活動するBODMASの"Camel Culture"(やっぱり2021年のリリース)が選出されている。
インドのエレクトロニックシーンの評価基準をフュージョンという点に置いているのだとしたら、なかなか興味深いセレクトである。
Folk-Fusion Song Of The Year: Abhay Nayampally "Celebration (feat. Bakithi Kumalo, Hector Moreno Guerrero & King Robinson Jr)"
このAbhay Nayampallyというギタリストもこれまで聴いたことがなかったが、やっている音楽はかなり面白くて、ラテン・カルナーティック・フュージョンとでも呼ぶべき音楽性の一曲。
南アフリカのベーシスト、アメリカのドラマー、ドミニカのキーボーディストが参加しているようで、まさに大陸をまたいだ興味深いコラボレーションを実現している。
もっと多くの音楽ファンに聴かれてほしい曲である。
Pop Song Of The Year: Ranj "Attached"
英語で歌うベンガルールの女性シンガーの作品で、センスよくまとまったポップスとしての完成度はインド基準ではかなり高い。
Rolling Stone Indiaが好みそうな音楽性だと思ったが、Rolling Stone Indiaの2021年のベストシングルには選ばれていなかった。
以前も書いたことがあるが、この手のミドルクラス的ポップスで良質な作品をリリースしているアーティストはインドにそれなりにいるのだが、彼らがターゲットにしているリスナー層は主に洋楽を聴いており、そんなに聴かれていないのが、ちょっともったいない。
他にこのブログで紹介したことがあるアーティストでは、やはりどちらも2021年の作品だが、Easy Wanderlingsの"Enemy"がRock / Blues / Alternative Song Of The Yearに、Prabh Deepの"Tabia"がHip-Hop / Rap Album Of The Yearに選出されている。
それにしてもこんなに2021年の作品が多く選ばれている理由はなんでだろう。
前回(第2回)の選出は2021年の12月に行われているようなので、ほとんどの作品が前回の対象にもなっているんじゃないかと思うのだが…。
なんにせよ、こうして新しいアーティストを知ることができたり、自分が取り上げて来たアーティストがインド国内でも高く評価されていることを知れたりするのはいい機会だった。
来年の発表はいつになるのかさっぱり分からないが、今後も注目してゆきたい音楽賞ではある。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 01:34|Permalink│Comments(0)
2023年01月31日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のミュージックビデオTop10
1月も終わりかけの時期に去年の話をするのもバカみたいだが、毎年定点観測していることなので一応書いておくことにする。
この「Rolling Stone Indiaが選ぶその年のTop10」シリーズ、急成長が続くインドのインディー音楽シーンを反映したのか、2022年はベストシングルが22曲、ベストアルバムが15枚(アルバムの数え方は今も「枚」でいいのか)も選ばれていたのだが、今回お届けするミュージックビデオ編はきっちり10作品だった。
単に選者が適当なのか、それともそこまで名作が多くなかったのか。(元記事)
10作全部チェックするヒマな人もあんまりいないと思うので、そうだな、3曲挙げるとしたら、音的にも映像的にも、6位と3位と2位がオススメかと思います。
それではさっそく10位から見てみましょう。
10. Disco Puppet "Speak Low"
ベンガルールのドラマーでシンガーソングライターのShoumik Biswasによるプロジェクト。
かつては前衛的な電子音楽だったが、気がついたらアコースティックな弾き語り風の音楽になっていた。
インドではローバジェットなアニメのミュージックビデオが多いが、影絵風というのはこれまでありそうでなかった。
音も映像も後半で不思議な展開を見せる。
映像もDisco PuppetことShoumikの手によるもの。
多才な人だな。
9. Rono "Lost & Lonely"
ムンバイのシンガーソングライターによる、日常を描いたリラクシングな作品。
なんかこういう自室で踊り狂うミュージックビデオは、洋楽や邦楽で何度か見たことがあるような気がする。
8. Aarifah "Now She Knows"
ベストシングル部門でも11位にランクインしていたムンバイのシンガーソングライター。
これまた日常や自然の中でのどうってことのない映像。
インドはこの手の「ワンランク上の日常」みたいな作風が多いような気がするが、よく考えたら日本を含めてどこの国でもそんなものかもしれない。
7. Parekh & Singh
コルカタが誇るドリームポップデュオのSNSをテーマにしたミュージックビデオ。
ウェス・アンダーソン趣味丸出しだった以前ほど手が込んだ作品ではないが、それでも色調の美しさは相変わらず。
6. Kanishk Seth, Kavita Seth & Jave Bashir "Saacha Sahib"
いかにもインド的な「悟り」を表現したようなモノクロームのアニメーションが美しい。
Rolling Stone Indiaの記事によると「グルーヴィーなエレクトロニック・フュージョン」とのこと。
インド的なヴォーカルの歌い回し、音使いと抑制されたグルーヴの組み合わせが面白い(と思っていたら終盤に怒涛の展開)。
クレジットによると、歌われているのは15〜16世紀の宗教家カビール(カーストを否定し、イスラームやヒンドゥーといった宗教の差異を超えて信仰の本質を希求した)による詩だそうだ。
都市部の若者の「インド観」に、欧米目線のスピリチュアリズムっぽいものが多分に含まれていることを感じさせる作品でもある。
5. Serpents of Pakhangba "Pathoibi"
インド北東部のミャンマーに程近い場所に位置するマニプル州のメイテイ族の文化を前面に打ち出したフォーク/アヴァンギャルド・メタルバンド(活動拠点はムンバイ)。
少数民族の伝統音楽の素朴さとヘヴィな音圧の融合が、呪術的な雰囲気を醸し出している。
ミュージックビデオのテーマは呪術というよりも社会問題としての児童虐待?
後半のヴォーカルにびっくりする。
4. Ritviz "Aaj Na"
インド的EDM(勝手に印DMと命名)の代表的アーティスト、Ritvizが2022年にリリースしたアルバムMimmiからの1曲。
テーマはメンタルヘルスとのことで、心の問題を乗り越える親子の絆が描かれている。
アルバムにはKaran Kanchanとの共作曲も含まれている。
3. Seedhe Maut x Sez on the Beat "Maina"
Seedhe Mautが久しぶりにSez on the Beatと共作したアルバムNayaabの収録曲。
インドNo.1ビートメーカー(と私が思っている)、Sezの繊細なビートが素晴らしい。
これまで攻撃的でテクニカルなラップのスキルを見せつけることが多かったSeedhe Mautにとっても新境地を開拓した作品。
ミュージックビデオのストーリーも美しく、タイトルの意味は「九官鳥」。
昨年急逝された麻田豊先生(インドの言語が分からない私にいつもいろいろ教えてくれた)に歌詞の意味を教えてもらったのも、個人的には忘れ難い思い出だ。
2. F16s "Sucks To Be Human"
チェンナイを拠点に活動するロックバンドのポップな作品で、宇宙空間でメンバーが踊る映像が面白い。
どこかで見たことがあるような感じがしないでもないが、年間トップ10なんだから全作品これくらいのクオリティが欲しいよな。
ミュージックビデオの制作は、いつも印象的な作品を作るふざけた名前の映像作家、Lendrick Kumar.
1. Sahirah (feat. NEMY) "Juicy"
ムンバイを拠点に活動するシンガーソングライターの、これまたオシャレな日常系の作品。
ラップになったところでアニメーションになるのが若干目新しい気がしないでもないが、このミュージックビデオが本当に2022年の年間ベストでいいんだろうか。
そこまで特別な作品であるようには思えないのだが…。
印象的なアニメーションは、以前F16sの作品なども手がけたDeepti Sharmaによるもの。
というわけで、全10作品を見てみました。
毎年ここにランキングされている作品を見ると、「上質な日常系」「現代感覚の伝統フュージョン系」「ポップな色彩のアニメーション系」といった大まかな系統に分けられることに気づく。
インドのインディー音楽シーンが急速に拡大すると同時に、少なくとも映像においては、その表現様式が類型化するという傾向も出てきているようだ。
もはやインディー音楽もミュージックビデオも、「インドにしてはレベルが高い」という評価をありがたがる時代はとっくに過ぎている。
この壁を突き破る作品が出てくるのか、といった部分が今後の注目ポイントだろう。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 19:07|Permalink│Comments(0)
2022年12月27日
2022年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10
このブログを書き始めてあっという間に5年の月日が流れた。
始めた頃、どうせ読んでくれる人は数えるほどだろうから、せめて印象に残る名前にしよう思って「かるかった・ぼんべい」と名乗ってみたのだが、どういうわけかまあまあ上手く行ってしまい、この5年の間に雑誌に寄稿させてもらったり、ラジオで喋らせてもらったり、あろうことか本職の研究者の方々の集まりに呼んでいただいたりと、想像以上に注目してもらうことができた。
みなさん本当にありがとうございます。
こんなことになるなら、もうちょっとちゃんとした名前を付けておけばよかった。
「飽きたらやめればいいや」という始めた頃のいい加減な気持ちは今もまったく変わらないものの、幸いにもインドの音楽シーンは面白くなる一方で、まったくやめられそうにない。
これからも自分が面白いと思ったものを自分なりに書いていきますんで、よろしくお願いします。
というわけで、今年も去りゆく1年を振り返りつつ、今年のインドのインディー音楽界で印象に残った作品や出来事を、10個選ばせてもらいました。
Bloodywood (フジロック・フェスティバル出演)
日本におけるインド音楽の分野での今年最大のトピックは、フジロックフェスティバルでのBloodywoodの来日公演だろう。
朝イチという決して恵まれていない出演順だったにもかかわらず、彼らは一瞬でフジロックのオーディエンスを虜にした。
映像では彼らの熱烈なファンが大勢詰めかけているように見えるが、おそらく観客のほとんどは、それまでBloodywoodの音楽を一度も聴いたことがなかったはずだ。
現地にいた人の話によると、ステージが始まった頃にはまばらだった観客が、彼らの演奏でみるみるうちに膨らんでいったという。
これはメタル系のオーディエンスが決して多くはないフジロックでは極めて異例のことだ。
Bloodywoodは一瞬だが日本のTwitterのトレンドの1位にまでなり、おかげで私のブログで彼らを紹介した記事も、ずいぶん読んでもらえた。
(もうちょっとちゃんと書いとけばよかった)
メタル・ミーツ・バングラーという、意外だけど激しくてキャッチーでチャーミングなスタイルは、日本のリスナーに音楽版『バーフバリ』みたいなインパクトを与えたものと思う。
日本だけではない。
BloodywoodのSNSを見ると、彼らがメタル系のフェスを中心に、その後も世界各地を荒らし続けている様子が見てとれる。
一方で、いまやセンスの良いインド系アーティストがいくらでもいる中で、ステレオタイプ的な見せ方を意図的に行った彼らが最も注目を集めているという事実は、現時点での世界の音楽シーンの中での南アジアのアーティストの限界点を示しているとも言えるだろう。
Sidhu Moose Wala 死去
去年まで、この年末のランキングはその年にリリースされた作品のみを対象としてきたのだが、今年はシーンに大きなインパクトを与えた「出来事」も入れることとした。
その大きな理由となったのが、あまりにも衝撃的だった5月のSidhu Moose Wala射殺事件だ。
バングラーラップにリアルなギャングスタ的要素を導入し、絶大な人気を誇っていたSidhuは、演出ではなく実際にギャングと関わるリアルすぎるギャングスタ・ラッパーだった。
彼はインドとカナダを股にかけて暗躍するパンジャーブ系ギャングの抗争に巻き込まれ、28歳の若さでその命を落とした。
音楽的には、バングラーに本格的なヒップホップビートを導入したスタイルでパンジャービー・ラップシーンをリードした第一人者でもあった。
彼の音楽、死、そして生き様は、今後もインドの音楽シーンで永遠に語りつがれてゆくだろう。
彼が憧れて続けていた2Pacのように。
Prateek Kuhad "The Way That Lovers Do"(アルバム)
インド随一のメロディーメイカー、Prateek Kuhadがアメリカの名門レーベルElektraからリリースした全編英語のアルバム(EP?)、"The Way That Lovers Do"は、派手さこそないものの、全編叙情的なムードに満ちた素晴らしいアルバムだった。
彼が敬愛するというエリオット・スミスを彷彿させる今作は、インドのシンガーソングライターの実力を見せつけるに十分だった。
彼のメロディーセンスの良さは群を抜いており、贔屓目で見るつもりはないが、このままだと彼が作品をリリースするたびに、毎年このTop10に選ぶことになってしまうんじゃないかと思うと悩ましい。
リリース後にヨーロッパやアメリカ各地を回るツアーを行うなど、インドのアーティストにしてはグローバルな活躍をしているPrateekだが、観客はインド系の移住者が中心のようで、彼がその才能に見合った評価を受けているとはまだまだ言えない。
要は、私はそれだけ彼に期待しているのだ。
すでに何度も紹介しているが、彼のヒンディー語の楽曲も、言語の壁を超えて素晴らしいことを書き添えておく。
MC STAN "Insaan"(アルバム)他
このアルバムが出たのはもうずいぶん昔のことのように思えるが、リリースは今年の2月だった。
もともとマンブルラップ的なスタイルだったMC STΔNだが、この作品ではオートチューンをこれでもかと言うほど導入して、インドにおけるエモラップのあり方を完成させた。
マチズモ的な傾向が強いインドのヒップホップシーンでは異色の作品だ。
彼の他にも同様のスタイルを取り入れていたラッパーはいたが、彼ほどサマになっていたのは一人もいなかった。
「弱々しいほどに痩せたカッコイイ不良」という、インドでは不可能とも思われたアンチヒーロー像を確立させたというだけでも、彼の功績はシーンに名を残すにふさわしい。
最近では、リアリティーショー番組のBigg Bossに出演するなど、活躍の場をますます広げている。
今インドでもっとも勢いのあるラッパーである。
Emiway Bantai "8 Saal"(アルバム)他
インドでもっとも勢いのあるラッパーがMC STΔNだとしたら、人気と実力の面でインドNo.1ラッパーと呼べるのがEmiway Bantaiだろう。
今年も彼はアルバム"8 Saal"をはじめとする数多くの楽曲をリリースした。
アグレッシブなディス・トラック(今年もデリーのKR$NAとのビーフは継続中)、ルーツ回帰のストリート・ラップ、チャラいパーティーソング、lo-fiなど、Emiwayはヒップホップのあらゆるスタイルに取り組んでいて、それが全てサマになっている。
かと思えば、インドのヒップホップ史を振り返って、各地のラッパーたちをたたえるツイートをしてみたりもしていて、Emiwayはもはやかつての誰彼構わず噛み付くバッドボーイのイメージを完全に脱却して、大御所の風格すら漂わせている。
『ガリーボーイ』にチョイ役(若手の有望株という位置付け)でカメオ出演していたのがほんの4年前とは思えない化けっぷりだ。
もはや彼は『ガリーボーイ』のモデルとなったNaezyとDIVINEを、人気でも実力でも完全に凌駕した。
Seedhe Maut, Sez on the Beat "Nayaab"(アルバム)
昨年も選出したSeedhe Mautを今年も入れるかどうか悩んだのだが、インドNo.1ビートメーカーのSe on the Beatと組んだこのアルバムを、やはり選ばずにはいられなかった。
セルフプロデュースによる昨年の『न』(Na)が、ラッパーとしてのリズム面での卓越性を見せつけた作品だとしたら、今作は音響面を含めた叙情的なアプローチを評価すべき作品だ。
Seedhe Mautというよりも、Sezの力量をこそ評価すべき作品かもしれない。
インドのヒップホップをサウンドの面で革新し続けているのは、間違いなくSezとPrabh Deep(後述の理由により今年は選外)だろう。
インドのヒップホップは、2022年もひたすら豊作だった。
Yashraj "Takiya Kalaam"(EP)
悩みに悩んだこのTop10に、またラッパーを選んでしまった。
ここまでに選出したSidhu Moose Wala, MC STΔN、Emiway Bantai, Seedhe Maut&Sezに関しては、インドのヒップホップファンにとってもまず納得のセレクトだと思うが、この作品に関しては、インド国内でどのような評価及びセールスなのか今ひとつわからない。
YouTubeの再生回数でいうと、他のラッパーたちの楽曲が数百万から数千万回なのに比べて、この"Doob Raha"はたったの45,000回に満たない(2022年12月16日現在)。
だが、過去のUSヒップホップの遺産を存分に引用したインド的ブーンバップのひとつの到達点とも言えるこの作品を、無視するわけにはいかなかった。
自分の世代的なものもあるのかもしれないが、単純に彼のラップもサウンドも、ものすごく好きだ。
若干22歳の彼がこのサウンドを堂々と作り上げたことに、インドのヒップホップシーンの成熟を改めて実感した。
Parekh & Singh "The Night is Clear"(アルバム)
インドのインディーポップシーンでも群を抜くセンスの良さを誇るParekh & Singhのニューアルバムは、その格の違いを見せつけるに足るものだった。
イギリスの名門インディーレーベルPeacdfrogに所属し、日本では高橋幸宏からプッシュされている彼らは、もはや「インドのアーティスト」というくくりで考えるべき段階を超えているのかもしれない。
Prateek KuhadやEasy Wanderlingsら、多士済々のインディーポップ勢のなかで、国際的な評価では頭ひとつ抜けている彼らが今後どんな活躍を見せるのか、ますます目が離せなくなりそうだ。
Blu Attic
ド派手なEDMが多いインドの電子音楽シーンの中で、Blu Atticが示した硬質なテクノと古典声楽との融合は、Ritvizらによるインド的EDM(いわゆる印DM)とも違う、懐かしくて新鮮な方法論だった。
どちらかというと地味な音楽性だからか、このデリー出身の若手アーティストへの注目は、インド国内では必ずしも高くはないようだが、だからこそ当ブログではきちんと評価してゆきたい。
彼がYouTubeで公開している古いボリウッド曲のリミックスもなかなかセンスが良い。
インドのアーティストは、古典音楽と現代音楽を、躊躇なく融合してかっこいい音を作るのが得意だが、Blu Atticによってそのことをあらためて思い知らされた。
Dohnraj
インドのインディー音楽シーンが急速に盛り上がりを見せたのは2010年台以降になってからだが、それはすなわち、あらゆる年代のポピュラー音楽を、インターネットを通して自在に聴くことができる時代になってからシーンが発展したことを意味している。
まだ若いシーンにもかかわらず、インドにはさまざまな時代の音楽スタイルで活動するアーティストが存在しているが、このDohnrajは80年代のUKロックのサウンドをほぼ忠実に再現している、驚くべきスタイルのアーティストだ。
気になる点は彼のオリジナリティだが、あらゆる音楽が先人の遺産の上に築かれていることを考えれば、インドで80年代のUKサウンドを再現するという試み自体が、むしろ非常にオリジナルな表現方法でもあるように思う。
彼の音楽遍歴(以下の記事リンク参照)を含めてグッとくるものがあった。
インドのシーンの拡大と深化をあらためて感じさせてくれる作品だった。
というわけで、今年の10作品を選出してみました。
気がつけばヒップホップが5作品(というか、5話題)。
ヒップホップを中心に選ぶつもりはなかったのだけど、インドのヒップホップは今年も名作揃いで、他にもPrabh Deepの"Bhram"(これまでの作風から大きく変わったわけではないので今年は選出しなかった)や、Karan KanchanがRed Bull 64 Barsで見せた仕事っぷりも素晴らしかった。
やはりインドのシーンのもっともクリエイティブな部分はヒップホップにこそあるような気がしてならないが、とんでもなく広く、才能にあふれたインドのシーンのこと、来年の今頃は、「やっぱりロックだ」とか「エレクトロニックだ」とか言っているかもしれない。
今年はありがたいことに、仕事のご依頼をいただくことも多く、本業(?)のブログが滞り気味なことが多かったですが、来年もこれまで同様続けて参ります。
今後ともよろしくです。
--------------------------------------
始めた頃、どうせ読んでくれる人は数えるほどだろうから、せめて印象に残る名前にしよう思って「かるかった・ぼんべい」と名乗ってみたのだが、どういうわけかまあまあ上手く行ってしまい、この5年の間に雑誌に寄稿させてもらったり、ラジオで喋らせてもらったり、あろうことか本職の研究者の方々の集まりに呼んでいただいたりと、想像以上に注目してもらうことができた。
みなさん本当にありがとうございます。
こんなことになるなら、もうちょっとちゃんとした名前を付けておけばよかった。
「飽きたらやめればいいや」という始めた頃のいい加減な気持ちは今もまったく変わらないものの、幸いにもインドの音楽シーンは面白くなる一方で、まったくやめられそうにない。
これからも自分が面白いと思ったものを自分なりに書いていきますんで、よろしくお願いします。
というわけで、今年も去りゆく1年を振り返りつつ、今年のインドのインディー音楽界で印象に残った作品や出来事を、10個選ばせてもらいました。
Bloodywood (フジロック・フェスティバル出演)
日本におけるインド音楽の分野での今年最大のトピックは、フジロックフェスティバルでのBloodywoodの来日公演だろう。
朝イチという決して恵まれていない出演順だったにもかかわらず、彼らは一瞬でフジロックのオーディエンスを虜にした。
映像では彼らの熱烈なファンが大勢詰めかけているように見えるが、おそらく観客のほとんどは、それまでBloodywoodの音楽を一度も聴いたことがなかったはずだ。
現地にいた人の話によると、ステージが始まった頃にはまばらだった観客が、彼らの演奏でみるみるうちに膨らんでいったという。
これはメタル系のオーディエンスが決して多くはないフジロックでは極めて異例のことだ。
Bloodywoodは一瞬だが日本のTwitterのトレンドの1位にまでなり、おかげで私のブログで彼らを紹介した記事も、ずいぶん読んでもらえた。
(もうちょっとちゃんと書いとけばよかった)
メタル・ミーツ・バングラーという、意外だけど激しくてキャッチーでチャーミングなスタイルは、日本のリスナーに音楽版『バーフバリ』みたいなインパクトを与えたものと思う。
日本だけではない。
BloodywoodのSNSを見ると、彼らがメタル系のフェスを中心に、その後も世界各地を荒らし続けている様子が見てとれる。
一方で、いまやセンスの良いインド系アーティストがいくらでもいる中で、ステレオタイプ的な見せ方を意図的に行った彼らが最も注目を集めているという事実は、現時点での世界の音楽シーンの中での南アジアのアーティストの限界点を示しているとも言えるだろう。
Sidhu Moose Wala 死去
去年まで、この年末のランキングはその年にリリースされた作品のみを対象としてきたのだが、今年はシーンに大きなインパクトを与えた「出来事」も入れることとした。
その大きな理由となったのが、あまりにも衝撃的だった5月のSidhu Moose Wala射殺事件だ。
バングラーラップにリアルなギャングスタ的要素を導入し、絶大な人気を誇っていたSidhuは、演出ではなく実際にギャングと関わるリアルすぎるギャングスタ・ラッパーだった。
彼はインドとカナダを股にかけて暗躍するパンジャーブ系ギャングの抗争に巻き込まれ、28歳の若さでその命を落とした。
音楽的には、バングラーに本格的なヒップホップビートを導入したスタイルでパンジャービー・ラップシーンをリードした第一人者でもあった。
彼の音楽、死、そして生き様は、今後もインドの音楽シーンで永遠に語りつがれてゆくだろう。
彼が憧れて続けていた2Pacのように。
Prateek Kuhad "The Way That Lovers Do"(アルバム)
インド随一のメロディーメイカー、Prateek Kuhadがアメリカの名門レーベルElektraからリリースした全編英語のアルバム(EP?)、"The Way That Lovers Do"は、派手さこそないものの、全編叙情的なムードに満ちた素晴らしいアルバムだった。
彼が敬愛するというエリオット・スミスを彷彿させる今作は、インドのシンガーソングライターの実力を見せつけるに十分だった。
彼のメロディーセンスの良さは群を抜いており、贔屓目で見るつもりはないが、このままだと彼が作品をリリースするたびに、毎年このTop10に選ぶことになってしまうんじゃないかと思うと悩ましい。
リリース後にヨーロッパやアメリカ各地を回るツアーを行うなど、インドのアーティストにしてはグローバルな活躍をしているPrateekだが、観客はインド系の移住者が中心のようで、彼がその才能に見合った評価を受けているとはまだまだ言えない。
要は、私はそれだけ彼に期待しているのだ。
すでに何度も紹介しているが、彼のヒンディー語の楽曲も、言語の壁を超えて素晴らしいことを書き添えておく。
MC STAN "Insaan"(アルバム)他
このアルバムが出たのはもうずいぶん昔のことのように思えるが、リリースは今年の2月だった。
もともとマンブルラップ的なスタイルだったMC STΔNだが、この作品ではオートチューンをこれでもかと言うほど導入して、インドにおけるエモラップのあり方を完成させた。
マチズモ的な傾向が強いインドのヒップホップシーンでは異色の作品だ。
彼の他にも同様のスタイルを取り入れていたラッパーはいたが、彼ほどサマになっていたのは一人もいなかった。
「弱々しいほどに痩せたカッコイイ不良」という、インドでは不可能とも思われたアンチヒーロー像を確立させたというだけでも、彼の功績はシーンに名を残すにふさわしい。
最近では、リアリティーショー番組のBigg Bossに出演するなど、活躍の場をますます広げている。
今インドでもっとも勢いのあるラッパーである。
Emiway Bantai "8 Saal"(アルバム)他
インドでもっとも勢いのあるラッパーがMC STΔNだとしたら、人気と実力の面でインドNo.1ラッパーと呼べるのがEmiway Bantaiだろう。
今年も彼はアルバム"8 Saal"をはじめとする数多くの楽曲をリリースした。
アグレッシブなディス・トラック(今年もデリーのKR$NAとのビーフは継続中)、ルーツ回帰のストリート・ラップ、チャラいパーティーソング、lo-fiなど、Emiwayはヒップホップのあらゆるスタイルに取り組んでいて、それが全てサマになっている。
かと思えば、インドのヒップホップ史を振り返って、各地のラッパーたちをたたえるツイートをしてみたりもしていて、Emiwayはもはやかつての誰彼構わず噛み付くバッドボーイのイメージを完全に脱却して、大御所の風格すら漂わせている。
『ガリーボーイ』にチョイ役(若手の有望株という位置付け)でカメオ出演していたのがほんの4年前とは思えない化けっぷりだ。
もはや彼は『ガリーボーイ』のモデルとなったNaezyとDIVINEを、人気でも実力でも完全に凌駕した。
Seedhe Maut, Sez on the Beat "Nayaab"(アルバム)
昨年も選出したSeedhe Mautを今年も入れるかどうか悩んだのだが、インドNo.1ビートメーカーのSe on the Beatと組んだこのアルバムを、やはり選ばずにはいられなかった。
セルフプロデュースによる昨年の『न』(Na)が、ラッパーとしてのリズム面での卓越性を見せつけた作品だとしたら、今作は音響面を含めた叙情的なアプローチを評価すべき作品だ。
Seedhe Mautというよりも、Sezの力量をこそ評価すべき作品かもしれない。
インドのヒップホップをサウンドの面で革新し続けているのは、間違いなくSezとPrabh Deep(後述の理由により今年は選外)だろう。
インドのヒップホップは、2022年もひたすら豊作だった。
Yashraj "Takiya Kalaam"(EP)
悩みに悩んだこのTop10に、またラッパーを選んでしまった。
ここまでに選出したSidhu Moose Wala, MC STΔN、Emiway Bantai, Seedhe Maut&Sezに関しては、インドのヒップホップファンにとってもまず納得のセレクトだと思うが、この作品に関しては、インド国内でどのような評価及びセールスなのか今ひとつわからない。
YouTubeの再生回数でいうと、他のラッパーたちの楽曲が数百万から数千万回なのに比べて、この"Doob Raha"はたったの45,000回に満たない(2022年12月16日現在)。
だが、過去のUSヒップホップの遺産を存分に引用したインド的ブーンバップのひとつの到達点とも言えるこの作品を、無視するわけにはいかなかった。
自分の世代的なものもあるのかもしれないが、単純に彼のラップもサウンドも、ものすごく好きだ。
若干22歳の彼がこのサウンドを堂々と作り上げたことに、インドのヒップホップシーンの成熟を改めて実感した。
Parekh & Singh "The Night is Clear"(アルバム)
インドのインディーポップシーンでも群を抜くセンスの良さを誇るParekh & Singhのニューアルバムは、その格の違いを見せつけるに足るものだった。
イギリスの名門インディーレーベルPeacdfrogに所属し、日本では高橋幸宏からプッシュされている彼らは、もはや「インドのアーティスト」というくくりで考えるべき段階を超えているのかもしれない。
Prateek KuhadやEasy Wanderlingsら、多士済々のインディーポップ勢のなかで、国際的な評価では頭ひとつ抜けている彼らが今後どんな活躍を見せるのか、ますます目が離せなくなりそうだ。
Blu Attic
ド派手なEDMが多いインドの電子音楽シーンの中で、Blu Atticが示した硬質なテクノと古典声楽との融合は、Ritvizらによるインド的EDM(いわゆる印DM)とも違う、懐かしくて新鮮な方法論だった。
どちらかというと地味な音楽性だからか、このデリー出身の若手アーティストへの注目は、インド国内では必ずしも高くはないようだが、だからこそ当ブログではきちんと評価してゆきたい。
彼がYouTubeで公開している古いボリウッド曲のリミックスもなかなかセンスが良い。
インドのアーティストは、古典音楽と現代音楽を、躊躇なく融合してかっこいい音を作るのが得意だが、Blu Atticによってそのことをあらためて思い知らされた。
Dohnraj
インドのインディー音楽シーンが急速に盛り上がりを見せたのは2010年台以降になってからだが、それはすなわち、あらゆる年代のポピュラー音楽を、インターネットを通して自在に聴くことができる時代になってからシーンが発展したことを意味している。
まだ若いシーンにもかかわらず、インドにはさまざまな時代の音楽スタイルで活動するアーティストが存在しているが、このDohnrajは80年代のUKロックのサウンドをほぼ忠実に再現している、驚くべきスタイルのアーティストだ。
気になる点は彼のオリジナリティだが、あらゆる音楽が先人の遺産の上に築かれていることを考えれば、インドで80年代のUKサウンドを再現するという試み自体が、むしろ非常にオリジナルな表現方法でもあるように思う。
彼の音楽遍歴(以下の記事リンク参照)を含めてグッとくるものがあった。
インドのシーンの拡大と深化をあらためて感じさせてくれる作品だった。
というわけで、今年の10作品を選出してみました。
気がつけばヒップホップが5作品(というか、5話題)。
ヒップホップを中心に選ぶつもりはなかったのだけど、インドのヒップホップは今年も名作揃いで、他にもPrabh Deepの"Bhram"(これまでの作風から大きく変わったわけではないので今年は選出しなかった)や、Karan KanchanがRed Bull 64 Barsで見せた仕事っぷりも素晴らしかった。
やはりインドのシーンのもっともクリエイティブな部分はヒップホップにこそあるような気がしてならないが、とんでもなく広く、才能にあふれたインドのシーンのこと、来年の今頃は、「やっぱりロックだ」とか「エレクトロニックだ」とか言っているかもしれない。
今年はありがたいことに、仕事のご依頼をいただくことも多く、本業(?)のブログが滞り気味なことが多かったですが、来年もこれまで同様続けて参ります。
今後ともよろしくです。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 00:09|Permalink│Comments(0)
2022年06月19日
デリーを代表するラッパーとビートメーカー Seedhe MautとSez on the Beatが再タッグでアルバムをリリース!
昨年インドのヒップホップ史に残る傑作アルバム『न』(Na)をリリースしたデリーのラップデュオSeedhe Mautが、先月早くもニューアルバムをリリースした。
しかも今回では、2年前にAzadi Records(デリーを、いやインドを代表するヒップホップレーベル)と袂を分かった名ビートメーカー、Sez on the Beatと全曲で再びコラボレーションしているというから驚いた。
Sezとは前作でも1曲で共演していたので、完全に縁が切れたわけではないとは思っていたが、Azadi Recordsからの脱退は待遇をめぐっての後味の悪いものだったみたいだし、Azadi側もTienasがSezへの痛烈なdisを表明するなど、かなり関係がこじれていたようだった(詳細は上記のリンク参照)から、今作がAzadiからのリリースと聞いて、本当にびっくりした。
Sezは脱退後、MVMNTというレーベルを作って順調に楽曲をリリースしていたし、Sezも自身のプロデュースで唯一無二の世界観を表現したアルバムを出したばかりだったから、彼らの再タッグはまったく予想していなかったのだ。
ニューアルバム"Nayaab"のアートワークは、ストリート色の強かった前作とはうって変わって、寓話的で神秘的なものになっていて、ここからも、この作品がSeedhe Mautにとってまた新しい扉を開いたものであることが分かる。

手前の人物がさしている傘には、首都デリーの地図の形をした穴が開いていて、そこから光がさしている。
これはこのアルバムの社会性を表すとともに、「暗闇の中での気づき」を象徴していると書いているメディアもある。
ヒンディー語のリリックが分からないのが残念だが、今作でも政治的・社会的なテーマを含んだ内容がラップされているようだ。
サウンド面では、パーカッシブなビートとラップの応酬だった前作とはまったく異なり、よりメロディが強調され、ときにアンビエント的なビートやドラマチックな構成が目立つ作風へと大きく舵を切っている。
Seedhe MautとSezは2018年のアルバム"Bayaan"でも共演しているのだが、その時からの成長やスタイルの変化に注目して聴いてみるのも面白いだろう。
新作を聴く前に、前作をもう1回おさらいしてみよう。
これが昨年リリースされた『न』(Na)の1曲め、"Namastute".
トラップビートとラップ、めくるめくリズムの応酬。
『न』(Na)は一枚通してそのスリリングさが楽しめるアルバムだった。
それが、今作"Nayaab"の冒頭を飾るタイトルトラックではこうなる。
たたみかけるようなラップは鳴りをひそめて、穏やかな語りから滑らかにリズムが始まり、ドラマティックなストリングスで締められるこの曲は、SezのリリシズムとSeedhe Mautの二人の表現力が、新たな傑作を生み出したことを感じさせるものだ。
新作の世界観をもっとも端的に表している曲は、この"Maina"だろう。
この曲で歌声を披露しているのは、Seedhe Mautの一人Abhijay Negi a.k.a. Encore.
いつもの苛立ちを含んだラップとは全く異なる、こんな美しい歌も歌えるのかと軽い衝撃を覚えた。
ミュージックビデオの滑稽で悲しく、そして優しいストーリーも素晴らしい。
こちらの"Teen Dost"では、もう一人のラッパーであるSiddhant Sharma a.k.a. Calmがメロディアスなフロウを披露している。
鬼気迫るテクニカルなラップの印象が強かったSeedhe Mautの2人が、Sezの世界観に合わせてここまで叙情的なアルバムを作るとは、いい意味で完全に予想を裏切られた。
もちろん今作でも、例えばこの"Toh Kya"のように、トラップ的なビートに乗せてSeedhe Mautが切れ味鋭いラップを披露している曲もあるのだが、そこにもやはりSezの美学が感じられるサウンドとなっている。
この"Batti"は、Sez, Seedhe Mautに加えてデリーの鬼才ラッパー Prabh Deepと共演した"Class-Sikh Maut Vol.II"以来のタブラを導入したビートが強烈だ。
リリックが分からないという前提をことわったうえでの話となるが、今作でもっとも社会性が高く、そして個人的でもある楽曲が、この"GODKODE"だろう。
この曲に関しては、少々解説が必要だ。
昨年5月、デリーを拠点に活動するMC Kodeというラッパーが、自殺をほのめかす言葉をinstagramに残して消息を絶った。
失踪する少し前、彼が2016年に行われたラップバトルでヒンドゥー教を口汚く罵っていた映像が発掘され、インターネット上で拡散されていたのだ。
動画の中で、彼はここに書くことすら憚られるような言葉で、性的な表現を交えて、ヒンドゥーの聖典マハーバーラタやバガヴァット・ギーターを侮辱していた。
この動画は当然ながら多くのヒンドゥー教徒の怒りを買い、彼は個人情報を晒され、殺害予告を受けるなど悪質な脅迫を受けることになった。
彼はただちにインターネット上で謝罪と後悔を表明したが、彼への中傷は止まなかった。
そして「自分以外の誰を責めるつもりもない。俺の存在から解放されることが、この国全体が罰として望んでいることなんだろう」という言葉を残して姿を消したのだ。
捜索の結果、彼は数週間後に別の州にいたところを無事発見されたのだが、彼が完全に精神を病んでいたのは明白だった。
インドの文化にリスペクトを持つ外国人の我々の目から見れば、彼の宗教へのディスは完全に一線を超えているし、人々が生きるよりどころにしている信仰を侮辱したのであれば、度を超えた非難を受けて当然だとも思える。
ヒップホップコミュニティではタブーに踏み込んだディスが日常茶飯事とはいえ、そのカルチャーを知らない大多数のヒンドゥー教徒たちにとっては、彼の言動はとうてい容認できるものではないはずだ。
欧米文化にかぶれた不道徳な若者が、自分たちが大事にしている伝統を口汚く罵ったのだから、相応の怒りを買うのはあたりまえだ。
だが同時に、インド社会に生きるラッパーであり、MC Kodeの友人でもあったSeedhe Mautにとっては、また別の見方や感じ方があるということも理解できる。
近年インドでは、ヒンドゥー教社会の右傾化が強まっており、マイノリティであるイスラームへ圧力や保守的な価値観が強化されつつある。
現政権与党であるインド人民党(BJP)も、ヒンドゥー・ナショナリズム的な思想を強く指摘されている政党だ。
ナショナリズムと宗教が結びついた時、仮にそれがインドの人口の8割を占めるヒンドゥー教徒の大部分にとっては歓迎できる(あるいは、少なくとも実害のない)ものであったとしても、インドが本来持っていた宗教や文化の多様性という観点から見たときにはどうだろうか。
本質的に自由を標榜するカウンターカルチャーであるヒップホップを信奉する彼らにとってみれば、これは決して無視できない状況のはずだ。
そこに来て、今回のMC Kodeへのバッシングである。
ラップにおけるビーフでは、どんなに口汚く罵ってもそれはあくまで言葉の上でのことなのに、本来は心の平安を与えるはずの宗教が、5年も前の動画を引っ張り出してきて、謝罪と反省を表明しているにもかかわらず、精神が崩壊するまで追い詰めているのだ。
その現実に、Seedhe MautとSezが少なからぬ疑問と怒りを感じるのも理解できる。
リリックの詳細が分からないのがもどかしいが、Seedhe MautとSezは、この曲で明確にMC Kodeの側に立つことを表明しているそうだ。
リリックビデオに出てくる「51」という数字は、MC Kodeを支え続けた熱心なファンの数であり、彼らもともにいるという意味なのだろう。
楽曲の後半では、彼らが所有していたというMC Kodeが語っている音声が使われている。
インドの伝統と欧米から来た新しい文化は、その化学反応から素晴らしいフュージョン作品を生み出すこともあるが、今回の例のように、その摩擦から悲痛な断末魔を生み出すこともある。
だが、その断末魔のなかからも、こうしたインドのリアルを映し出す作品を作り出してしまうということに、彼らのヒップホップアーティストとしての覚悟の大きさが感じられる、
ちなみに本名を見る限り、MC Kode自身もヒンドゥーの家庭に生まれているようだ(もちろん彼は信仰心が篤いタイプではないのだろうが)。
もし彼がムスリムだったら、彼への非難はこの程度では到底おさまらなかっただろう。
と、今回は彼らの楽曲の背景も詳しく紹介させてもらったが、お聴きいただいて分かる通り、このアルバムは、言葉の意味をもって補完しなければ鑑賞に値しない音楽ではまったくない。
ヒップホップにおけるリリックを軽視するつもりはないが、優れたラップのアルバムが全てそうであるように、言葉とビートの音とリズム(そして今作ではメロディー)だけでも、十分に楽しむことができる作品だ。
長くなったが、インドのヒップホップシーンにまたひとつ名盤が誕生した。
こうした優れた作品が、日本でも、多くの人に聴かれることを願ってやまない。
参考サイト:
https://theindianmusicdiaries.com/10-things-you-did-not-know-about-seedhe-mauts-nayaab
https://ahummingheart.com/reviews/nayaab-by-seedhe-maut/
https://livewire.thewire.in/out-and-about/music/the-disappearance-of-rapper-mc-kode-the-story-so-far/
https://www.freepressjournal.in/viral/rapper-mc-kode-under-fire-for-abusing-hinduism-in-old-rap-battle-video-issues-apology
https://www.reddit.com/r/IndianHipHopHeads/comments/uytt9w/godkode_51/
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 17:45|Permalink│Comments(0)
2022年04月18日
インドに音楽フェスが帰ってきた!
春の訪れとともに、インドに音楽フェスが帰ってきた。
思えば二年前の今頃、インドは新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ最中だった。
長かったコロナ禍は昨年5月ごろにピークに達し、多くの人が亡くなった。
とくにデリーの状況は深刻で、現地に家族が暮らしているインド人の知人も、何人もの親類を失ったと嘆いていた。
そして2022年、春。
世界はまだまだ新型コロナウイルスを克服したとは言えないが、それでもインドに音楽フェスが戻ってきた。
2022年3月2日にインド政府が新型コロナウイルス流行にともなう規制を全面的に撤廃。
春の訪れを告げる「色彩の祭」ホーリーでは、コロナ禍前から近年の定番となっているEDMに合わせて色のついた粉をぶっかけあうスタイルのフェスティバルがいくつも開催された。
その中でもっとも華やかだったのが、インド系アメリカ人のEDM界のスーパースター、KSHMRを招聘してバンガロール、デリー、ゴア、プネーの4都市で行われたSunburn Festivalだろう。
(2022年4月24日追記。Sunburn Holiのオフィシャル・アフタームービーがYouTubeにアップされたので貼っておく。この映像ではKSHMRがインド人シンガーArmaan MalikとK-PopシンガーのErik Namと共作した"Echo"が使われている)
ワクチン接種や健康状態の確認など、一応の感染防止対策は行われていたようだが、会場の様子は完全にコロナ前同様!
ゴアのステージには、3月にリリースした"Lion Heart"でコラボレーションしたDIVINEとの共演も実現して、大いに盛り上がったようだ。
そして、都市巡回型フェスティバルNH7 WEEKENDERも、この春から各地で再開。
プネー、ゴア、ハイデラーバード、ジャイプル、ベンガルール、チャンディーガル、チェンナイ、シロン、グワハティ、コルカタ、ムンバイの各地で久しぶりの音楽フェスが行なわれた(いくつかの会場は、これからの開催)。
下の動画は、プネー会場のアフタームービー。
こちらもすっげえ楽しそう。
出演は、Prateek Kuhad, Raja Kumari, Ritviz, Seedhe Maut, When Chai Met Toast, Kayan, Lifafaら、インドのインディーズ・シーンを代表するアーティストたち。
このNH7 Weekenderは、コロナ禍前なら海外のビッグネームも招聘されていたフェスだが、昨今の状況から、今年は2021年の日本のフジロック同様、国内のアーティストのみで開催された。
やむを得ない事情とはいえ、インドでも国内のインディーズ系アクトだけでこの規模のフェスが開催できるようになったと思うと感慨深いものがある。
(インドにおける「インディペンデント」の定義は難しいが、ひとまずは映画音楽を主戦場にしていないという意味に捉えてほしい)
2日間にわたって開催されたプネー会場は5つのステージで構成され、うち1つはコメディアンが出演するステージなので、音楽系は4つ。
両日ともトリの時間帯には2つのステージが同時並行で行われ、初日のトリはシンガーソングライターのPrateek KuhadとデリーのラップデュオSeedhe Maut, 2日目のトリは「印DM」のRitvizとシンガーのAnkur Tewari(彼だけはボリウッドでの活躍も目立つアーティストだが)が努めた。
初日のトリのPrateek Kuhadはオーディエンスも大合唱。
映画音楽じゃない歌でここまで盛り上がっているインド人を見るのは意外かもしれないが、インドの音楽マーケットは確実に新しい時代に突入しつつあることを感じさせられる。
ケーララのフォークポップバンド、When Chai Met Toastのステージも大いに盛り上がっている
渋いところでは、ムンバイMahindra Blues Festivalも今年は国内のアーティストのみで開催。
かつてはバディ・ガイやジョス・ストーンらのビッグネームが出演したこのフェスも今年は国内勢のみでの開催で、メガラヤ州シロンのSoulmateやコルカタのArinjoy Sarkarらがインドのブルース・シーンの底力を見せつけた。
インドのブルースシーンについては、この記事で詳しく紹介している。
最近のインドのいろいろな映像を見る限り、フェスだけでなく、コロナ前の日常が完全に戻ってきているようだ。
日本みたいにまだまだマスクをして気を遣いながら生活をするのが正しいのか、それともインドみたいに割り切って何事もなかったように暮らすのが正解なのか、絶対的な答えは誰にも出すことができないが、二年前の状況を思うと、インドの人たちがここまで思いっきり楽しめるようになったということになんだかぐっと来てしまう。
命を大事に、というが、英語のLifeは命だけじゃなくて人生や生活という意味もある。
感染防止ばかりに気を取られて、生活を楽しむことや一度きりの人生の貴重な時間を無為に過ごすのも考えものだと思う。
(ところで、インドの諸言語だと命と人生と生命は同じ言葉なのだろうか、違うのだろうか)
ここまで振り切って楽しむことができるインド人が正直ちょっとうらやましく思えてしまうのは私だけではないだろう。
ああー、余計なこと考えずに、音楽を思いっきり楽しみてえなあー。
インドの音楽フェス事情はこちらの記事もご参照ください。
--------------------------------------
思えば二年前の今頃、インドは新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ最中だった。
長かったコロナ禍は昨年5月ごろにピークに達し、多くの人が亡くなった。
とくにデリーの状況は深刻で、現地に家族が暮らしているインド人の知人も、何人もの親類を失ったと嘆いていた。
そして2022年、春。
世界はまだまだ新型コロナウイルスを克服したとは言えないが、それでもインドに音楽フェスが戻ってきた。
2022年3月2日にインド政府が新型コロナウイルス流行にともなう規制を全面的に撤廃。
春の訪れを告げる「色彩の祭」ホーリーでは、コロナ禍前から近年の定番となっているEDMに合わせて色のついた粉をぶっかけあうスタイルのフェスティバルがいくつも開催された。
その中でもっとも華やかだったのが、インド系アメリカ人のEDM界のスーパースター、KSHMRを招聘してバンガロール、デリー、ゴア、プネーの4都市で行われたSunburn Festivalだろう。
Throwback to colorful and flavorful Holi celebrations at @SunburnFestival with @KSHMRmusic across Bangalore, Delhi, Goa and Pune.#MakePlayWithFlavors pic.twitter.com/xZ4DyY7pFG
— Bira 91 (@bira91) March 31, 2022
(2022年4月24日追記。Sunburn Holiのオフィシャル・アフタームービーがYouTubeにアップされたので貼っておく。この映像ではKSHMRがインド人シンガーArmaan MalikとK-PopシンガーのErik Namと共作した"Echo"が使われている)
ワクチン接種や健康状態の確認など、一応の感染防止対策は行われていたようだが、会場の様子は完全にコロナ前同様!
ゴアのステージには、3月にリリースした"Lion Heart"でコラボレーションしたDIVINEとの共演も実現して、大いに盛り上がったようだ。
そして、都市巡回型フェスティバルNH7 WEEKENDERも、この春から各地で再開。
プネー、ゴア、ハイデラーバード、ジャイプル、ベンガルール、チャンディーガル、チェンナイ、シロン、グワハティ、コルカタ、ムンバイの各地で久しぶりの音楽フェスが行なわれた(いくつかの会場は、これからの開催)。
下の動画は、プネー会場のアフタームービー。
こちらもすっげえ楽しそう。
出演は、Prateek Kuhad, Raja Kumari, Ritviz, Seedhe Maut, When Chai Met Toast, Kayan, Lifafaら、インドのインディーズ・シーンを代表するアーティストたち。
このNH7 Weekenderは、コロナ禍前なら海外のビッグネームも招聘されていたフェスだが、昨今の状況から、今年は2021年の日本のフジロック同様、国内のアーティストのみで開催された。
やむを得ない事情とはいえ、インドでも国内のインディーズ系アクトだけでこの規模のフェスが開催できるようになったと思うと感慨深いものがある。
(インドにおける「インディペンデント」の定義は難しいが、ひとまずは映画音楽を主戦場にしていないという意味に捉えてほしい)
2日間にわたって開催されたプネー会場は5つのステージで構成され、うち1つはコメディアンが出演するステージなので、音楽系は4つ。
両日ともトリの時間帯には2つのステージが同時並行で行われ、初日のトリはシンガーソングライターのPrateek KuhadとデリーのラップデュオSeedhe Maut, 2日目のトリは「印DM」のRitvizとシンガーのAnkur Tewari(彼だけはボリウッドでの活躍も目立つアーティストだが)が努めた。
Last Saturday was a fun night at @NH7 . Thanks for singing along and making the night special ♥️ pic.twitter.com/pQ92dFl66S
— Prateek Kuhad (@prateekkuhad) April 2, 2022
初日のトリのPrateek Kuhadはオーディエンスも大合唱。
映画音楽じゃない歌でここまで盛り上がっているインド人を見るのは意外かもしれないが、インドの音楽マーケットは確実に新しい時代に突入しつつあることを感じさせられる。
ケーララのフォークポップバンド、When Chai Met Toastのステージも大いに盛り上がっている
渋いところでは、ムンバイMahindra Blues Festivalも今年は国内のアーティストのみで開催。
かつてはバディ・ガイやジョス・ストーンらのビッグネームが出演したこのフェスも今年は国内勢のみでの開催で、メガラヤ州シロンのSoulmateやコルカタのArinjoy Sarkarらがインドのブルース・シーンの底力を見せつけた。
インドのブルースシーンについては、この記事で詳しく紹介している。
最近のインドのいろいろな映像を見る限り、フェスだけでなく、コロナ前の日常が完全に戻ってきているようだ。
日本みたいにまだまだマスクをして気を遣いながら生活をするのが正しいのか、それともインドみたいに割り切って何事もなかったように暮らすのが正解なのか、絶対的な答えは誰にも出すことができないが、二年前の状況を思うと、インドの人たちがここまで思いっきり楽しめるようになったということになんだかぐっと来てしまう。
命を大事に、というが、英語のLifeは命だけじゃなくて人生や生活という意味もある。
感染防止ばかりに気を取られて、生活を楽しむことや一度きりの人生の貴重な時間を無為に過ごすのも考えものだと思う。
(ところで、インドの諸言語だと命と人生と生命は同じ言葉なのだろうか、違うのだろうか)
ここまで振り切って楽しむことができるインド人が正直ちょっとうらやましく思えてしまうのは私だけではないだろう。
ああー、余計なこと考えずに、音楽を思いっきり楽しみてえなあー。
インドの音楽フェス事情はこちらの記事もご参照ください。
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay
Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
goshimasayama18 at 21:36|Permalink│Comments(0)