Rocazaurus

2018年10月08日

ケーララ州のロック・シーン特集!

Kerala_map
先日ケーララ州出身の英国風フォークロックバンド、When Chai Met Toastを紹介したが、ケーララといえば、他にもこのブログで紹介してきたスラッシュメタルバンドのChaosや、ハードロックバンドRocazaurusを生んだ、インドでも有数の「ロックどころ」だ。

有名なバンドの数ではデリーやムンバイ、バンガロールのような大都市のほうが多いかもしれないが、前回も書いたように、人口や都市の規模と比較すると、相当多くのロックバンドがケララにいるということになる。
(ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州の人口1.1億人、バンガロールを擁するカルナータカ州の6,500万人に対し、ケーララ州は3,500万人。デリーは州ではなく連邦直轄領だが、限られた都市部にケララの半分以上の2,000万人もの人口を抱えている)
今回はそんなケララ州のロックシーンを紹介することにします。
州や街ごとの音楽シーン特集は前々からやりたかった企画。
例によって情報過多ぎみかもしれないけど、じっくりお楽しみください。

ケーララ州のロック史で最初に語られるべきバンドは13AD.
その結成はなんと1977年にまでさかのぼる。
Glen La Rive(ヴォーカル)、Eloy Isaacs(ギター)、Paul KJ(ベース)、Jackson Aruja(キーボード)、Pinson Correia(ドラム)の5人からなる彼らが1990に発表したデビューアルバム、'Ground Zero'のタイトルトラックがこちら。

ヨーロッパのバンドを思わせる翳りあるメロディーのメタルサウンドは結構日本人好みなんじゃないだろうか。
当時のBurrn!の輸入版コーナーで80点くらいを獲得しそうな印象。
彼らは以前紹介したムンバイのRock MachineIndus Creed)やカルカッタのShivaらと並んでインドのロック創成期を作ってきたバンドとされている。
1995年に一度解散したのち、2008年にこの代表曲のタイトルであるGround Zeroという名前で再結成し、今ではドバイを拠点に活動している。
ドバイは人口の半分が出稼ぎによるインド系で、その多くをケーララ人が占めている。

現在も国内で活躍するケーララ出身の大御所バンドとしては、Motherjaneが挙げられる。
彼らは1996年にClyde Rozario(ベース)、John Thomas(ドラム)、Mithun Raju(ギター)らで結成。
やがてMithunが脱退し、古典音楽的なフレーズを得意とし、インドロックシーンの名ギタリストとして名を馳せるBaiju Dharmajanが加入。
ヴォーカリストとしてSuraj Maniを加えた体制で、2001年にデビューアルバムInsane Biographyをリリースした。
2008年に発表したアルバム'Maktub'からの曲、'Chasing the Sun'.

コナッコル(声でリズムを取る南インドの唱法)で始まり、かの有名な北インドの聖地ヴァラナシの映像を取り入れたビデオはいかにもインドのバンドといった印象。
変拍子の入った演奏とハイトーンヴォーカルはDream Theaterのようなプログレッシブ・メタルを想起させる曲調だ。

よりヘヴィーなバンドとしては、2009年結成のThe Down Troddenceがいる。
彼らはツインギターにキーボードを要する6人組で、スラッシュメタルやグルーヴメタルにケーララの伝統音楽を取り入れた音楽性を特徴としている。
英語で歌うことが多い彼らがマラヤラム語で歌っている、'Shiva'.

この曲でもギターがときどきラーガ的なフレーズを奏でている。
ビデオはもうなにがなんだか分からない。

以前紹介したバンドもおさらい。
社会派スラッシュメタルバンドのChaosの'Game'.


3ピースのロックンロール系ヘヴィーメタルバンドの'Rocazaurus'.



ここまで紹介してきたバンドは、主に英語で歌うヘヴィーメタル系のバンドたち。
メタル以外のジャンルで英語で歌うケーララのバンドとしては、先日紹介したWhen Chai Met Toastのほかには、ポストロックのBlack Lettersがいる。
Rolling Stone誌が選ぶ2017年のベストミュージックビデオの第8位に選ばれた曲'Falter'.

コチ出身の彼らは、今では活動の拠点をバンガロールに移している。
When Chai Met Toast同様、国籍を感じさせないセンスのバンドだ。

こういった主に英語で歌うバンドたちとは別に、地元の言語マラヤーラム語で歌うロックバンドというのもたくさんいて、彼らの多くがケーララの伝統音楽とのフュージョン的な音楽性で人気を博している。
彼らのパイオニアかつ代表格と言えるバンドが2003年に結成されたAvial.
Avialとはヨーグルトとココナッツで野菜を煮込んだケララ州の郷土料理で、バンド名からも彼らの強い地元愛が伺える。
彼らはDJを含んだ5人組で、モダンな演奏にケーララ民謡風のヴォーカルがかなり個性的。
'Nada Nada'

ステージ衣装としてルンギー(男性用巻きスカートとも言えるインドの民族衣装)を着用するなど、見た目の面でも地元の要素を強く打ち出している。

2013年に結成されたThaikkudam Bridgeは、こちらも地元の食文化からとった'Fish Rock'を標榜している。
この'Navarasam'はケーララの伝統舞踊のカタカリ・ダンスをフィーチャーしたビデオだ。
インドのバンドがインド要素をロックに取り入れるとき、演奏ではなくヴォーカルによりインドの要素を取り入れる傾向があるというのは以前分析してみた通り
彼らのテーマ曲とも言える'Fish Rock'のライブはすごい盛り上がりだ。


より伝統文化の影響の強いバンドとしては、この'Masala Coffee'がいる。
これは「自分自身のために生きる女性を讃える」というテーマの曲。
2014年に結成された彼らは、ソニーミュージックと契約し、映画の楽曲も手がけるなどメジャーに活躍の場を移している。

今回は便宜的に英語で歌うバンドと、マラヤーラム語で歌う地元の伝統音楽の要素が強いバンドに分けて紹介したが、多くのバンドが英語と地元言語の両方を取り入れているし、ロック色の強いバンドでもケーララの伝統要素が顔を出すことが少なからずある。
ケーララの音楽シーンでは「伝統/ローカル」から「モダン/西洋」までがグラデーションのように分け目なく繋がっているといった印象。
ここまで強いローカル文化の影響というのは、デリーやムンバイやバンガロールのような都市部では見ることのできないケーララならではの特徴だ。

なぜここまでケーララでロックが盛んなのかという疑問を持つ人は他にもいるようで、質問サイトのQuoraでも、同じような質問をしている人がいた。
「なぜケーララには都市文化がないのに、バンドがたくさんいるのか?」
その回答がなかなか興味深かったので、以下にまとめてみたい。

1.ケーララには地元のバンドがたくさんいるし、高い識字率(93%)、インターネット普及率から、海外の音楽に接する機会も多いから。

2.インドに都市文化がないなんてことはなくて、ケーララはインドの中でも発展している州だから(ナイトライフが充実していないとしても、コンサートなんて夜9時に終われば十分)。

3.ケーララ州から海外に出稼ぎにいっている人が多いので、彼らが海外の音楽や文化を持って帰ってくるから。

4.若者たちが新しい文化を取り入れることに積極的だから。

5.インターネットだけでなく、テレビの普及率も高く、地元メディアで音楽が取り上げられることも多いから(Youtubeでもケーララのテレビ局、Kappa TVのMusic Mojoという番組が見られるが、相当な数の個性的なミュージシャンを紹介している)。

6.他の州に比べて、ダンスよりも音楽(歌手とか)に注目する傾向があるから。

いずれもなるほどと頷けるものばかりだ。
ほとんどが現地のインド人による回答なので、おそらく正しい答えと言ってよいのだろう。

3について補足すると、ケーララ州は教育に力を入れ優秀な人材を多く輩出しているものの、週内に大きな都市や産業がないため、他の州や海外に出稼ぎに行く人が多いという背景があることを表している。
今回紹介した13AD(Ground Zero)がドバイに、Black Lettersがバンガロールに拠点を移したのも、より大きなマーケットを求めてのことだろう。

また、個人的に気になったのが1.
高い識字率やインターネット普及率から、海外のバンドに接する機会が多いというのも、地元にすでに多くのバンドがいるので、ローカルのシーンに接する機会が多いというのも分かる。
では、そのもとからいる地元のバンドたちは、どうして音楽を始めることになったのか。
パイオニアとなったバンドが結成された時点では、地元のバンドはいなかったはずだし、インターネットもなかったはずだ。

ここから先は完全に筆者の想像だが、ケーララ州がキリスト教文化の強い土地であるということが影響しているのではないだろうか。
以前も紹介した通り、キリスト教徒の割合は、インド全体では2%程度だが、ケーララ州では20%にものぼる。
しかも、ケーララ州は大航海時代にポルトガルやスペインによって伝えらえるはるか以前、1世紀に聖トマスによってキリスト教が伝えられたとされるほどにキリスト教の伝統の根強い土地だ。
ケーララ同様に、大都市を擁さないにもかかわらず、ロックやメタルが盛んな北東部も、クリスチャンの割合が高い地域だというのは何度も書いている通り。
セブン・シスターズ・ステイトと呼ばれる北東部7州のキリスト教徒の割合は、ケーララ同様20%を占め、ナガランド州やミゾラム州ではキリスト教徒の割合は9割にも達する。
(ただし、インド北東部ではカトリックが多いケーララとは異なり、プロテスタントの割合が高いという特徴がある)

こうした背景から、同じキリスト教文化圏である欧米の文化への親和性がより高くても不思議はない。
現に、名前を見る限り、ケーララのロックのパイオニア13ADはメンバー全員がクリスチャンのようだし、ベテランのMotherjaneも4人中2人がクリスチャンだ。
キリスト教文化のバックグラウンドや、高い教育水準や識字率、インターネット環境、リベラルな意識といった複合的な要素がケーララ州でこれだけ多くのロックバンドを育んでいるのだろう。

最後に、そんなケーララの多様性を美しく歌ったThaikkudam Bridgeの楽曲"One"を。
ケララの自然や文化を美しくとらえたビデオがとても印象的だ。

素朴な漁村、屈託のない笑顔、手つかずの自然、さまざまな信仰と豊かな文化。
これを見たらケーララに行きたくなること請け合いの素晴らしいビデオだ。

というわけで、今回はケーララのロックシーンを特集してみました。
またいずれ同じように地域ごとのシーンを切り取った記事も書いてみたいと思います。

それでは! 

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goshimasayama18 at 21:16|PermalinkComments(0)

2018年04月14日

ついに発見!ロックンロールバンド!Girish and the Chronicles! Rocazaurus

何度も書いてきた通り、インドでロックバンドができる層は人口全体から見るとまだまだごく一部。
エレキギター、ベース、アンプ、ドラムセットと買い集めて、インドに練習用のスタジオがあるのか自宅のガレージでやるのかしらないけど、バンドでリハーサルするだけで結構な出費になることだろう。
そんなことができる彼らは必然的にいわゆる富と教養がある層ということになるので、インドではロックバンドといえばメタルやプログレハードのようなジャンルで技巧を競ったり、ポストロックでセンスと音響を磨いたりというのが主流になっている。
逆に、メタル/ハードロック系で言えばAC/DCやガンズアンドローゼス、パンクで言えばラモーンズのような、愚直こそが美学というような、直球のロックンロール系のバンドというのは極めて少ない。
パンク系のバンドでも、社会風刺的なやつだったりするしね(それはそれで良いのだけど)。

ところで、小生は愚直なロックが大好きだ。
そりゃあ、難しいことも深遠なことも表現できるのがロックの素晴らしさではあるけれども、本質的なことを言えばスリーコード、エイトビート、それさえあれば十分じゃねえか。
インド人はなぜそれが分からないのか!と歯がゆく思っていたところ、ついに見つけました。ロックンロール系のバンドを。

どちらかというとメタル寄りのバンドではあるけれども、こまっしゃくれた変拍子とか早弾きや早叩き(って言わないけど)なんてしない。彼らの目指すところは間違いなくロックンロール。
インド北東部シッキム州のバンド、Girish and the Chronicles、略称GATC!
まずは1曲聴いてください。じゃなくて聴きやがれ!その名も"Born with a Big Attitude"


GATCは2009年にヴォーカリスト兼ギタリストでソングライターのGirish Pradhanを中心にインド北東部のシッキム州結成された(シッキムは以前紹介したラッパーのUNBの故郷です)。
シッキム州で最初にして唯一の全インドツアーと海外でのライブ(調べた限り、香港や韓国、ヨーロッパのモンテネグロのイベントに参加したようだ)を成功させたバンドだという。
バンド名の頭にGirishの名前が入っていることからも分かる通り、とにかく強烈なのはそのヴォーカル!
この曲ではかなりガンズのアクセルっぽく聴こえるが、他の曲も聴いてみてもらおう。
80年代のアメリカのバンドを思わせるスケールの大きい””The Endless Road"


トラックの荷台で演奏するメンバー、バイクで旅する長髪の若者、壮大なコーラス。
インドらしからぬ非常にアメリカンな世界観。
砂漠から手を振るとそこにはオート三輪のトラックに乗ったインドの人々が!アメリカンロックとインドの遭遇といった感じのこのビデオ、好きだなあ。
こういうビデオが撮れる場所があるっていうのも、インドの広さを改めて感じる。

続いてアップテンポなナンバーはどうだ!その名も"Ride to Hell".
前奏が長いぞ。歌は2分あたりからだ!

この曲はヴォーカルも含めてMr.Bigみたいな雰囲気!

元ネタになってるバンドが分かってしまうところがちょっと微笑ましくて、次はツェッペリン風の"Revolving Barrel"


こういうバンドに欠かせないバラードもちゃんとある。"Yesteryears"


なんだろう、このまるでインドを感じさせない、中高生のころに聴いてたバンドみたいな感覚は。
彼らはカヴァー曲のセンスも最高で、AC/DC、エアロスミス、ガンズなんかを完コピしている。

全部貼ってるときりがないので、ここはアタクシが敬愛してやまないAC/DCのマルコム・ヤングに捧げるメドレーを。


ヴォーカルを含めて完コピ!
リズムでちょっとオリジナルとの違和感を感じるところもあって、それはそれで本家の偉大さを感じる。
インタビュー記事によると、影響を受けたバンドとしてLed Zappelin, Deep Purple, Black Sabbath, Iron Maiden, Judas Priest, Aerosmith, Guns and Roses, AC/DCといった70年代〜80年代のハードロックやメタル系のバンドの名前を挙げていた。(ちなみにインド国内のバンドではParikrama、Soulmateとのこと)

インド北東部の最果ての地、シッキムにこんなロックンロールバンドがいるなんてなあ、と感激していたら、おや、Youtubeの右側んとこにまた別のロックンロールっぽいインドのバンドが出てきているではないか。

彼らの名前はRocazaurus.
さっそく聴いてみようじゃないか。"The Punk". 曲はメタルだけど。


おお!これはまたゴキゲンな。
さっそく調べてみたら、彼らのFacebook のページにはこんなことが書かれていたよ。

Rocazaurus is a unique rock band. Just like dinosaurs, the genre pure rock is also getting extinct. We are not going to stand aside watch it turn into fossil. So Rocazaurus is the few among the last to keep up the spirit of rock. Musically upfront with hard rock and general metal. The band is enjoying the good times of music wonders and rediscovering process of rocking out. 
Rocazaurusはユニークなロックバンドだ。恐竜のように、ピュアなロックもまた絶滅しかけている。俺たちはロックが化石になってゆくのをただ黙って見ているつもりはない。そう、Rocazaurusはロックの魂を伝えるために選ばれし者たちなのだ。音楽的にいうと、俺たちはストレートなハードロックや王道のメタルだ。俺たちは音楽に奇跡があった良き時代とロックンロールの素晴らしさを再発見して楽しんでいるぜ。

いいなあ!なんて暑苦しい所信表明なんだ!
次は、すばらしすぎるタイトルの曲"All I Want Is Rock And Roll".


Rocazaurusはインド南部のケララ州出身のバンド。
メンバーの名前(Vocals/Lead guitar - Fredy JohnBass/Vocals - Lesley Rodriguez, Drums - Alfred Noel)を見ると全員クリスチャンのようでもある。
そうした彼らの出自がこのアメリカンなサウンドと何か関係があるのだろうか。

余談だが、ケララは大航海時代から栄えた港町のコチン(コチ)を擁する州ではあるが、この土地のキリスト教の歴史はザビエルら大航海時代の伝道師の来訪よりもはるかに古く、なんと12使徒の1人、聖トマスが西暦52年ごろにキリスト教を伝えたと言われている。
india_map州都入り
それ故に、ケララのキリスト教はもはやインド文化の一つといった様相を体していて、北東部のように特段西洋文化の受け入れに積極的といったイメージも無い土地なんだけど。
ただ、古くから教育に力を入れていた州であり、これといった産業が無いにもかかわらず安定した成長を続けた州の体制は「ケララ・モデル」として知られており、ある種の文化的近代化が(とくに人口は多いが保守的な北部の州に比べて)なされていると言えるのかもしれない。

それにしても、遠く離れたインドの北の果て(ネパールの西側)のシッキムと南の果て(最南部の西側)のケララで、インドでは珍しいロックンロール系のバンドが見つかるっていうのが面白い。
北東部の音楽的な先進性はメタルやヒップホップを通して見てきたけれども、南部ではケララにもこの手のインドらしからぬバンドがいるというのは注目に値する。
ケララは先日紹介したスラッシュメタルバンドのChaosとか、他にも気になるバンドが満載の地で、ちょっと深掘りしてみたいところだ。 

それはまたいずれ書きたいと思います。
では! 

goshimasayama18 at 21:39|PermalinkComments(0)