RagavMeattle
2021年01月08日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストミュージックビデオ10選!
というわけで、今回はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のインドのミュージックビデオ10選!
(元の記事はこちら↑)
「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!
1. Sanjeeta Bhattacharya “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
(元の記事はこちら↑)
「コレを選んできたか!」というのもあれば、「コレかあ?」というのもあり、また「コレは素晴らしかったのにすっかり忘れてた!」というセレクトもあったりして、こちらもまた興味深いランキングになっています。
時代性はともかく「洋楽っぽさ」を重視していたベストアルバム10選(こちら)とはうってかわって、ミュージックビデオのほうはインドならではの映像が選ばれているのも見どころ。
それではさっそく見てみましょう!
1. Sanjeeta Bhattacharya “Red”
Sanjeeta Bhattacharyaは、アメリカの名門バークリー音楽大学を卒業したシンガーソングライター。
日本語タイトルの"Natsukashii"など、これまでも興味深い楽曲を数多く発表している。
この新曲で、従来のオーガニック・ソウル的な曲調とは異なる違うラップを導入した新しいスタイルを披露した。
共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。
2. Kamakshi Khanna “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。
3. Prabh Deep “Chitta”
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。
4. Shashwat Bulusu “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
共演しているシンガー/ラッパーのNiu Razaはマダガスカル出身だそうで、バークリーの人脈だろうか。
音楽性の変化に合わせて、見た目的にも、これまでの自然体で可愛らしいビジュアルイメージから、大人っぽい雰囲気への脱却を図っているようだ。
ミュージックビデオはインドのインディー音楽によくある無国籍風の映像。
楽曲はあいかわらず上質だが、ミュージックビデオとして年間ナンバーワンかと言われると、ちょっと疑問ではある。
2. Kamakshi Khanna “Qareeb”
昨年は新型コロナウイルスの影響で通常の撮影が困難だったせいか、アニメーションを活かしたミュージックビデオが目立った一年だった。
この作品はフェルトの質感を活かしたコマ撮りアニメ。
インドのアニメのミュージックビデオは、ほとんど絵が動かない低予算のものから凝ったものまで、センスを感じられるものが多く、今後、日本のアーティストが制作を依頼したりしても面白いんじゃないかなと思う。
この曲のタイトルの"Qareeb"は「接触すること、そばにいること」を意味するウルドゥー語のようだ。
Kamakshi Khannaはデリーを拠点に活動しているシンガーソングライターで、出会いと孤独感を描いた映像が、憂いを帯びた歌声と切ないメロディーによく合っている。
3. Prabh Deep “Chitta”
デリーのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを代表するラッパー、Prabh Deepの"Chitta"もまた、実写とアニメーションを融合した作風。
前半の実写部分に見られる手書き風のエフェクトも最近のインドのミュージックビデオでよく見られる表現だ。
いつもどおりタイトなターバンにストリートファッションを合わせた彼のスタイルに、カートゥーン調の映像がマッチしている。
曲調は、メロウなビートのいつものPrabh Deepスタイル。
4. Shashwat Bulusu “Sunset by the Vembanad”
インド西部グジャラート州バローダのシンガーソングライターShashwat Bulusuの"Sunset by the Vembanad"は、彼のホームタウンを遠く離れた北東部のメガラヤ州、トリプラ州、アッサム州で撮影されたもの。
このミュージックビデオを制作したのはBoyer Debbarmaという映像作家で、自身もスケートボーダーであり、スケートボードを専門に撮影するHuckoというメディアの運営もしているという。
BoyerがShashwatの音楽に興味を持ってコンタクトしたところ、ShashwatもBoyerの映像をチェックしており、今回のコラボレーションにつながったそうだ。
個人的にもかなり印象に残った作品で、リリース当時、このミュージックビデオと絡めてインドのスケートボードシーンについての記事を書こうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
ミュージックビデオに出てくる若者はKunal Chhetriというスケートボーダー。
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。
5. DIVINE “Punya Paap”
軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
人気の少ない街中や、トリプラの自然の中で、大して面白くもなさそうにスケートボードを走らせる彼の姿には、不思議と惹きつけられるものを感じる。
例えば大都市の公園で得意げに次々にトリックを披露するような映像だったら、こんなに心に引っかかるミュージックビデオにはならなかっただろう。
彼の退屈そうな表情やたたずまいに、強烈なリアルさを感じる。
情熱的なようにも投げやりなようにも聴こえるShashwatの歌声も印象的。
5. DIVINE “Punya Paap”
軽刈田セレクトによる2020年のベスト10(こちら)にも選出したムンバイのラッパーDIVINEの"Punya Paap".
これまで「ストリートの兄貴」的なイメージで売ってきたDIVINEだが、名実ともにスターとなったことでそのイメージの転換を迫られ、この曲ではキリスト教の信仰や内面的なテーマを打ち出してきた。
一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。
6. That Boy Roby “Backdrop”
チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。
7. Lifafa “Laash”
Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。
8. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。
9. Komorebi “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。
10. Raghav Meattle “City Life”
軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。
というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。
大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。
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一方で、まったく真逆のメインストリーム/エンターテインメント路線の曲にも取り組んでいて、彼の方向性の模索はまだまだ続きそうだ。
6. That Boy Roby “Backdrop”
チャンディーガル出身のロック・バンドThat Boy Robyはこのランキングの常連で、2018年には、サイケデリックなロックに古いボリウッドの映像を再編集したB級レトロ感覚あふれるミュージックビデオがランクインしていた(こちらを参照)。
その時は、「インドもいよいよドメスティックな『ダサさ』を逆説的にクールなものとして受け入れられるようになったのか」としみじみと感じたものだったが、今作では大幅に方向転換し、環境音楽的な静かなサウンドに、ドキュメンタリー風の映像を合わせたミュージックビデオを披露している。
あまりの変貌っぷりに、どうしちゃったの?と思ってしまうが、映像のクオリティは非常に高い。
インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州スピティ・ヴァレーの人々の冬の暮らしを詩情豊かに描いた映像は、同地で活躍する写真家Himanshu Khagtaによるものだそうだ。
7. Lifafa “Laash”
Lifafaは、バート・バカラック風のノスタルジックなポップスを演奏する「デリーの渋谷系バンド」Peter Cat Recording Co.のヴォーカリストSuryakant Sawhneyによるエレクトロニック・フォーク・プロジェクト。
Lifafa名義のソロ作品では、PCRCとはうってかわって、インドっぽさと現代らしさ、伝統音楽と電子音楽の不思議な融合を聴かせてくれる。
6分43秒もあるミュージックビデオは、ハンディカメラで撮られたロードムービー風だが、最後の最後で予想外の展開を見せる。
8. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州出身のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"も、やはりアニメーションによるミュージックビデオだった。
夜の道をドライブしながら過去を振り返る初老の夫婦を主人公とした映像は、彼らの音楽同様に、心温まる色合いとストーリーが印象に残る。
9. Komorebi “Rebirth”
宮崎駿などのジャパニーズ・カルチャーの影響を受けているデリーのエレクトロニカ・アーティストKomorebiの"Rebirth"は、CGと化した彼女がインドと日本を行き来する興味深い作品。
軽刈田による2020年のベスト10(こちら)ではコルカタのSayantika Ghoshをセレクトしたが、インドでは電子音楽とジャパニーズ・カルチャーの融合がひとつの様式となっているようだ。
10. Raghav Meattle “City Life”
軽刈田も注目しているムンバイのシンガー・ソングライターRaghav Meattleの"City Life".
お気に入りの曲が選ばれているとやはりうれしい。
フィルムカメラを使って撮られた映像は、コロナウイルス禍以降に見ると、もう戻れない過去のようにも見えて切なさが募る。
というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のミュージックビデオ10選を紹介してみました。
ベストアルバム同様、このミュージックビデオ10選も、音楽的にはこれといってインドっぽさのない、無国籍なサウンドが並んでいるのだが、やはり映像が入るとぐっとインドらしさが感じられる。
大手レーベルと契約しているDIVINE以外は、コロナウイルスの影響を受けたと思われるアニメーションやドキュメンタリー調(少人数での撮影を余儀なくされたのだろう)の映像が目立つのが印象的だ。
過去のランキングと比べてみるのも一興です。
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goshimasayama18 at 18:53|Permalink│Comments(0)
2020年09月05日
ムンバイの'First Class'シンガーソングライター、Raghav Meattle
インド人がよく使う英語のフレーズに、'First Class'という言葉がある。
要は「一流」という意味で、例えば、「生のタブラを聴いたことがある?」「ザキール・フセインのライブを見たことがあるよ」「彼はファースト・クラスね」みたいな使い方をする。
(実際に、この通りの会話をインド人としたことがある。)
同じようにインドで使われる言葉で、'World Class'という言葉もある。
「このような条件を満たして初めて、インド人はワールド・クラスの市民になれたと言えるだろう」とか「果たして彼はワールド・クラスな政治家だろうか?」なんていう文章を、インド人作家が書いているのを読んだことがある。
本日紹介するRaghav Meattleは、「ファースト・クラス」なシンガーソングライターだ。
ことと場合によっては、今後「ワールド・クラス」な評価を得ることもあるかもしれない。
これまで、インドのインディー音楽シーンを評して「インドにはあらゆる都市にラッパーがいる」と何度も書いてきたが、じつはインドには、相当な数のシンガーソングライターも存在している。
ラッパーたちが自分の生き様や社会的主張を吐き出しているように、シンガーソングライターたちは、都市の暮らしの孤独や、恋愛の喜びや悲しみを、自分の言葉とメロディーで歌っている。
率直に言って、「なかなかいい音楽」を作っているアーティストもいるのだが、この「なかなかいい」というのがくせ者で、要は「すごくいい」アーティストは少ないのだ。
彼らの音楽が居心地の良いカフェやショップで流れていたら、けっこう似合うだろうし、少なくとも雰囲気をぶち壊したりはしない。
メロディーは洗練されているし、英語の発音もこなれている。
でも、一度聴いて「いいな」と思ったとしても、何度も繰り返して聴きたいと思うほどの楽曲やアーティストはほとんどいない。
インドのシンガーソングライターは、率直に言うとそれくらいの微妙なレベルなのだ。
それでも、例えばレディー・ガガみたいにド派手だったりとか、歌詞のテーマやビジュアルにいかにもインドっぽい要素があったりとかすれば、それを切り口に記事にもしやすいのだが、困ったことに、インドのシンガーソングライターたちは、そろいもそろって、地味で無国籍な雰囲気なのである。
西洋的な都市生活をしている彼らが、自分の表現を追求すると、どうしてもそういう感じになってしまうのだろう。
そんななかで、この音楽なら紹介する価値があるだろう、と思わせてくれたのが、以前紹介したPrateek Khuhadや、本日の主役であるRaghav Maetlleである。
つまり、彼らが作っている音楽そのものの魅力が相当高いということだ。
現在はムンバイを拠点に活動しているRaghav Meattleは、なかなかの苦労人だ。
彼はもともとデリー出身で、名門St.Stephen's Collegeで歴史学を専攻しながら、音楽活動を始めたという。
彼はこれまで、プログレッシブロックバンドThe Uncertainty Principle(2013年に脱退)やMeattle and Malikというポップデュオで活動したり、ハイデラバードやバンガロールの企業で働いたりと、音楽活動のみならずさまざまな経験を重ねてきた。
2016年にインドのミュージシャン発掘番組"The Stage"に出演し、準決勝にまで進出したことで、音楽で生きていこうという決心をしたという。
ソロデビューは2018年。
現時点での彼の最新作は、今年4月にリリースされたこの"City Life"だ。
ムンバイの日常をアナログカメラで撮影した映像は、ロックダウン前に制作されたものと思われるが、コロナウイルスですっかり暮らしが変わってしまった今見ると、胸にぐっと迫ってくる。
この曲は、街での暮らしの中で、少しずつ自分を見失ってしまい、居場所を探すのに苦労している人のための曲とのこと。
彼のメロディーや歌声には、そっと心に寄り添ってくれるような優しさがある。
映画音楽以外の音楽シーンがまだまだ発展途上のインドでは、インディーミュージシャンが音楽だけで暮らしてゆくことは難しい。
まして、イベントにお客の集まりやすいダンスミュージックではなく、ギター1本で歌うシンガーソングライターであればなおさらだ。
それでもRaghavはこう語っている。
「他の選択肢はなかったんだ。ギターを弾くのを覚えて、詩を音楽に乗せる。それだけさ。(電子音楽ではなくて)ずっとバンドが演奏する音楽を聴いてきたし、今でも生のサウンドに夢中なんだよ」
実際、彼は今もソニーが立ち上げた非映画音楽のためのレーベル'Big Bang Music'で働いており、映画『ガリーボーイ』のモデルになったストリートラッパー、Naezyのマネジメントなどを手掛けているようだ。
彼のファーストアルバムは、2018年にリリースされたこの"Songs from Matchbox".
このアルバムは、インドの新進アーティストの常套手段であるクラウドファンディングによって集めた資金によって、ロンドンのアビーロードスタジオでマスタリングが施されている。
このアルバムのなかで個人的に気に入っているのは、妹の結婚式のために書かれたというこの"She Can"だ.
穏やかに始まり、美しいメロディーが次々にたたみかけてくるフォークポップの佳曲。
"I'm Always Right"は、アーティストを目指すインドの若者がいつも感じる不安を歌ったものだという。
RaghavはJohn MayerやGeorge Ezra、Damien Riceといった現代のシンガーソングライターの影響を受けていると語っているが、この曲ではポール・マッカートニーのようなメロディーラインが印象的だ。
エンジニアのような手堅い仕事につくようにというプレッシャーや、男女交際に反対する親たちに対するメッセージが込められている。
"Songs from the Matchbox"に収録された"Bar Talk"は、インドの同性愛カップルを描いたミュージックビデオが先日発表されたばかり。
彼はこのミュージックビデオに「これは(単に)ビタースウィートな関係にある2組のカップルの物語。今こそ、ずっと前から受け入れるべきだったストーリーから、センセーショナリズムのベールを取り払う時だ」というコメントを寄せている。
最近ではNetflix制作のドラマに楽曲を提供したり、またナイキのキャンペーンに起用されるなど、活躍の場をますます広げつつあるRaghav Meattle.
またInstagramなどのソーシャルメディアをうまく活用して、より多くの人にアプローチできるよう取り組んでいるという。
彼は、Parekh & Singhや、F16s, Peter Cat Recording Co.といった国内アーティストや、Lucy RoseやBen Howardなどの海外のアーティストとのコラボレーションを夢見ているそうだが、彼の才能を持ってすれば、国内のアーティストとの共演はすぐにでも実現しそうだ。
きっかけさえあれば、世界的に高い評価を得ることも夢ではないだろう。
インターネットによって世界中がつながった今も、音楽シーンの「地元主義」は根強く、またそれが地域ごとに個性あふれるシーンを作り出しているのも事実だが、彼のように普遍的な優れたポップミュージックを作り出す才能を、インドのインディーシーンだけにとどめておくのはあまりにも惜しい。
彼の音楽がワールド・クラスの評価を受ける日がくることを願うばかりだ。
参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-recording-new-album-musician-ive-grown-100-times/
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-captures-mumbai-of-yesteryear-in-city-life-music-video/
https://queenmobs.com/2019/08/interview-raghav-meattle/
https://www.indulgexpress.com/culture/music/2020/apr/10/raghav-meattle-speaks-about-his-soulful-new-song-city-life-and-the-music-video-shot-entirely-on-reel-23949.html
https://ahummingheart.com/features/interviews/raghav-meattle-on-city-life-day-job-and-music-marketing/
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要は「一流」という意味で、例えば、「生のタブラを聴いたことがある?」「ザキール・フセインのライブを見たことがあるよ」「彼はファースト・クラスね」みたいな使い方をする。
(実際に、この通りの会話をインド人としたことがある。)
同じようにインドで使われる言葉で、'World Class'という言葉もある。
「このような条件を満たして初めて、インド人はワールド・クラスの市民になれたと言えるだろう」とか「果たして彼はワールド・クラスな政治家だろうか?」なんていう文章を、インド人作家が書いているのを読んだことがある。
本日紹介するRaghav Meattleは、「ファースト・クラス」なシンガーソングライターだ。
ことと場合によっては、今後「ワールド・クラス」な評価を得ることもあるかもしれない。
これまで、インドのインディー音楽シーンを評して「インドにはあらゆる都市にラッパーがいる」と何度も書いてきたが、じつはインドには、相当な数のシンガーソングライターも存在している。
ラッパーたちが自分の生き様や社会的主張を吐き出しているように、シンガーソングライターたちは、都市の暮らしの孤独や、恋愛の喜びや悲しみを、自分の言葉とメロディーで歌っている。
率直に言って、「なかなかいい音楽」を作っているアーティストもいるのだが、この「なかなかいい」というのがくせ者で、要は「すごくいい」アーティストは少ないのだ。
彼らの音楽が居心地の良いカフェやショップで流れていたら、けっこう似合うだろうし、少なくとも雰囲気をぶち壊したりはしない。
メロディーは洗練されているし、英語の発音もこなれている。
でも、一度聴いて「いいな」と思ったとしても、何度も繰り返して聴きたいと思うほどの楽曲やアーティストはほとんどいない。
インドのシンガーソングライターは、率直に言うとそれくらいの微妙なレベルなのだ。
それでも、例えばレディー・ガガみたいにド派手だったりとか、歌詞のテーマやビジュアルにいかにもインドっぽい要素があったりとかすれば、それを切り口に記事にもしやすいのだが、困ったことに、インドのシンガーソングライターたちは、そろいもそろって、地味で無国籍な雰囲気なのである。
西洋的な都市生活をしている彼らが、自分の表現を追求すると、どうしてもそういう感じになってしまうのだろう。
そんななかで、この音楽なら紹介する価値があるだろう、と思わせてくれたのが、以前紹介したPrateek Khuhadや、本日の主役であるRaghav Maetlleである。
つまり、彼らが作っている音楽そのものの魅力が相当高いということだ。
現在はムンバイを拠点に活動しているRaghav Meattleは、なかなかの苦労人だ。
彼はもともとデリー出身で、名門St.Stephen's Collegeで歴史学を専攻しながら、音楽活動を始めたという。
彼はこれまで、プログレッシブロックバンドThe Uncertainty Principle(2013年に脱退)やMeattle and Malikというポップデュオで活動したり、ハイデラバードやバンガロールの企業で働いたりと、音楽活動のみならずさまざまな経験を重ねてきた。
2016年にインドのミュージシャン発掘番組"The Stage"に出演し、準決勝にまで進出したことで、音楽で生きていこうという決心をしたという。
ソロデビューは2018年。
現時点での彼の最新作は、今年4月にリリースされたこの"City Life"だ。
ムンバイの日常をアナログカメラで撮影した映像は、ロックダウン前に制作されたものと思われるが、コロナウイルスですっかり暮らしが変わってしまった今見ると、胸にぐっと迫ってくる。
この曲は、街での暮らしの中で、少しずつ自分を見失ってしまい、居場所を探すのに苦労している人のための曲とのこと。
彼のメロディーや歌声には、そっと心に寄り添ってくれるような優しさがある。
映画音楽以外の音楽シーンがまだまだ発展途上のインドでは、インディーミュージシャンが音楽だけで暮らしてゆくことは難しい。
まして、イベントにお客の集まりやすいダンスミュージックではなく、ギター1本で歌うシンガーソングライターであればなおさらだ。
それでもRaghavはこう語っている。
「他の選択肢はなかったんだ。ギターを弾くのを覚えて、詩を音楽に乗せる。それだけさ。(電子音楽ではなくて)ずっとバンドが演奏する音楽を聴いてきたし、今でも生のサウンドに夢中なんだよ」
実際、彼は今もソニーが立ち上げた非映画音楽のためのレーベル'Big Bang Music'で働いており、映画『ガリーボーイ』のモデルになったストリートラッパー、Naezyのマネジメントなどを手掛けているようだ。
彼のファーストアルバムは、2018年にリリースされたこの"Songs from Matchbox".
このアルバムは、インドの新進アーティストの常套手段であるクラウドファンディングによって集めた資金によって、ロンドンのアビーロードスタジオでマスタリングが施されている。
このアルバムのなかで個人的に気に入っているのは、妹の結婚式のために書かれたというこの"She Can"だ.
穏やかに始まり、美しいメロディーが次々にたたみかけてくるフォークポップの佳曲。
"I'm Always Right"は、アーティストを目指すインドの若者がいつも感じる不安を歌ったものだという。
RaghavはJohn MayerやGeorge Ezra、Damien Riceといった現代のシンガーソングライターの影響を受けていると語っているが、この曲ではポール・マッカートニーのようなメロディーラインが印象的だ。
エンジニアのような手堅い仕事につくようにというプレッシャーや、男女交際に反対する親たちに対するメッセージが込められている。
"Songs from the Matchbox"に収録された"Bar Talk"は、インドの同性愛カップルを描いたミュージックビデオが先日発表されたばかり。
彼はこのミュージックビデオに「これは(単に)ビタースウィートな関係にある2組のカップルの物語。今こそ、ずっと前から受け入れるべきだったストーリーから、センセーショナリズムのベールを取り払う時だ」というコメントを寄せている。
最近ではNetflix制作のドラマに楽曲を提供したり、またナイキのキャンペーンに起用されるなど、活躍の場をますます広げつつあるRaghav Meattle.
またInstagramなどのソーシャルメディアをうまく活用して、より多くの人にアプローチできるよう取り組んでいるという。
彼は、Parekh & Singhや、F16s, Peter Cat Recording Co.といった国内アーティストや、Lucy RoseやBen Howardなどの海外のアーティストとのコラボレーションを夢見ているそうだが、彼の才能を持ってすれば、国内のアーティストとの共演はすぐにでも実現しそうだ。
きっかけさえあれば、世界的に高い評価を得ることも夢ではないだろう。
インターネットによって世界中がつながった今も、音楽シーンの「地元主義」は根強く、またそれが地域ごとに個性あふれるシーンを作り出しているのも事実だが、彼のように普遍的な優れたポップミュージックを作り出す才能を、インドのインディーシーンだけにとどめておくのはあまりにも惜しい。
彼の音楽がワールド・クラスの評価を受ける日がくることを願うばかりだ。
参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-recording-new-album-musician-ive-grown-100-times/
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-captures-mumbai-of-yesteryear-in-city-life-music-video/
https://queenmobs.com/2019/08/interview-raghav-meattle/
https://www.indulgexpress.com/culture/music/2020/apr/10/raghav-meattle-speaks-about-his-soulful-new-song-city-life-and-the-music-video-shot-entirely-on-reel-23949.html
https://ahummingheart.com/features/interviews/raghav-meattle-on-city-life-day-job-and-music-marketing/
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