PagalHaina
2021年11月21日
サウスのロックバンドが相次いでアルバムをリリース! クールかつシュールなF16s
(前回の記事)
When Chai Met Toastに続いて紹介するのは、タミルナードゥ州出身のF16s.
以前から注目していたバンドだが、ここに来て充実したアルバム(というかEP)をリリースしたので、この機会に特集したい。
F16sは2012年に、チェンナイの異なるカレッジバンドのメンバーだった4人によって結成された。
影響を受けたバンドとしてThe Arctic MonkeysやThe Strokesの名前を挙げているが、彼らの近年の作風は、ストレートなロックというよりも、シティポップの現代的解釈と言えるものになってきている。
このたびリリースした"Is It Time To Eat The Rich Yet?"のオープニングトラック"I'm On Holiday"は、ポップな曲調ながらも、ヴェイパーウェイヴ的などこかシニカルな雰囲気が印象的だ。
前回紹介したWhen Chai Met Toastと同様に、目を閉じて聞けばまったくインドらしさのないサウンドだ。
同作収録曲の"Easy Bake Easy Wake"もセンスの良いポップソングだが、それよりもミュージックビデオのクセが強すぎる!
歌詞もシュールというかシニカルというか、独特の世界観で、サウンドとのギャップが激しい怪作。
映像監督はLendrick Kumarというふざけた名前の人物で、彼は独特のセンスのミュージックビデオをいくつも手掛けているようなので、いつかきちんと掘り下げてみたい。
タミルというと、ヒップホップ界隈では独特の郷土愛が強く感じられるアーティストが多い印象があったが、F16sに関しては、まったくタミル的な要素が見当たらないのが面白い。
過去作も同様で、以前インドの寿司の記事で紹介したこの"Amber"は、インターネットと自己愛がテーマのミュージックビデオ。
オシャレながらもどこか虚無感を感じさせる音楽性がどことなくデリーのPeter Cat Recording Co.を思わせるなあ、と思ったら、今回の"Is It Time To Eat The Rich Yet?"にもPCRCのメンバーが参加しているらしく、またレーベルもPCRCと同じデリーのPagal Hainaに所属している。
Pagal Hainaは渋谷系的なオシャレ音楽を中心にリリースしているレーベル。
日本で今聴いて新しく感じられる音楽ではないが、インドという国にもこういうサウンドの愛好者がいると思うと、なかなか感慨深いものがある。
PCRCのヴォーカリストSuryakant Sawhneyは、ソロではLifafa名義でバンドとは全く異なるフォークトロニカ的な楽曲を発表しているが、F16sのヴォーカリスト兼ギタリストのJosh Fernandezも、ソロ活動ではJBABE名義でストレートなロックチューンを発表している。
方法論こそ違うが、現代社会へのシニカルな目線はF16s同様。
この作品では親子の価値観の断絶や現代インドのお見合いをネタにしている。
このミュージックビデオも監督はLendrick Kumar.
今回、F16sについて書いてみて改めて感じたのは、音響的な面だけ気にして聴いていた時には優等生的なバンドかと思っていたけれど、彼らの本質はサウンドではなく、むしろそのアティテュードだということだ。
インドの豊かな伝統と、繋がりつつも分断されたインドの新しい世代の美学とシニシズムが、彼らの音楽には満ち満ちている。
これからますます変わりゆくインド社会の中で、彼らがどんな音楽を発信してゆくのか、興味は尽きない。
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goshimasayama18 at 22:40|Permalink│Comments(0)
2021年06月29日
デリーの渋谷系ポップとインディアン・フォークトロニカの話 Peter Cat Recording Co.のフロントマン Suryakant Sawhney a.k.a. Lifafa
Peter Cat Recording Co.(以下PCRC)は、2009年にヴォーカル/ギターのSuryakant Sawhneyを中心に結成されたバンドだ。
どこか懐かしさを感じさせる彼らのサウンドからは、ジャズ、サイケ、ソウル、ディスコ、ジプシー音楽など、多岐にわたる音楽の影響が感じられる。
彼らは2018年にはパリのレーベルPanacheと契約しており、インドのインディー・アーティストのなかでは、世界的にもそのセンスが評価されているバンドのひとつである。
この"Floated By"と"Where the Money Flows"は、バカラック・マナーのノスタルジックなバラード。
かと思えば、この"Memory Box"はクラシックなディスコ・サウンドだ。
(曲は32秒頃からリズムイン。それにしても8分を超える楽曲は長すぎるけど)
この3曲はいずれも2019年に発表されたアルバム"Bismillah"の収録曲で、このアルバムはRolling Stone Indiaによる年間ベストアルバムのひとつに選出されるなど、高い評価を得た。
もう少し前の時代の彼らの音楽性も興味深い。
この"Portrait of a Time"はオールディーズ・ジャズを思わせる曲だし…
"Love Demons"のように、独特のサイケデリック感覚をたたえた楽曲もある。
このギターのチューニングのゆらぎっぷり!(狂っているとはあえて言わない)
お聴きいただいて分かる通り、彼らのサウンドは、往年のポピュラーミュージックを現代的なセンスで再構築したもので、そこには、物質的には豊かだが退屈な日常への諦念や、その虚無感への対抗手段としての遊び心が存在している。
こうしたスタイルや精神は、日本のインディー音楽史で言えば、「渋谷系」的なアプローチと呼ぶことができるだろう。(音楽性に反して、ビジュアル面では毎回かなり濃いインド色を出しているのが面白い)
それでは、PCRCの中心人物Suryakant Sawhneyという人物は、例えば大滝詠一的なポップミュージック職人なのかというと、ことはそんなに単純ではない。
Suryakantは、自身のソロプロジェクトである'Lifafa'名義で、PCRCとは全く異なる、なんとも形容し難い音楽を発表しているのだ。
2019年にリリースしたファーストアルバムの"Jaago"の冒頭を飾るタイトルチューンでは、宗教音楽を思わせるハルモニウムとヒンディー語のヴォーカルから始まる。
だが、長いイントロが終わると、インド的なサウンドがループされ、有機的ながらも独特なグルーヴが形成されてゆく。
同アルバム収録のNikammaも、インド的な音色のビートの上を漂う気怠げなヒンディー語のヴォーカルが印象的だ。
これはいったい、新しい音楽なのか、懐かしい音楽なのか。
デジタルに反復するビートと、ローカル色の濃い音色とヒンディー語の響き。
あえてLifafaのジャンルに名前をつけるとしたら、「インディアン・フォークトロニカ」ということになるだろうか。
つい先日、Suryakantはコロナ禍のなかLifafa名義のセカンドアルバム"Superpower 2020"をリリース。
あいかわらずインドっぽい要素と現代的な要素が混在した、独特の音楽世界を表現している。
Suryakant曰く、PCRCがギターで作曲したヨーロッパ音楽なのに対して、Lifafaはコンピューターで作曲したヒンディー・オリエンテッドな電子音楽で、さらには政治的・社会的なテーマも扱っているとのこと。
ある記事によると、Lifafaのトラックはボリウッドのクラシックな音源をサンプリングして作られたものだという。
PCRCで欧米のポップミュージックを再構築したように、彼はインドの過去の音楽遺産を再構築して、現代に通じるアートを作ろうとしているのだろうか。
PCRCの中心人物にしてLifafaの張本人であるSuryakant Sawhneyは、そのサウンド同様に、なんとも不思議な経歴の持ち主だ。
船乗りの父を持つ彼は、子供時代の大部分を、地中海を航行する商用船の上で過ごしたという。
父はディーン・マーティンのような古風なポップスのファン、母はヒンドゥーの賛美歌バジャンの歌手だったというから、彼の音楽に見られるヨーロッパ的憂愁や、洋楽ポップスとインドの伝統音楽の影響といった要素は、幼い時期に全て揃っていたのだ。
Suryakantが10代の頃に父が亡くなり、彼は母と共にデリー近郊のグルガオンで暮らすこととなった。
音楽的に恵まれた環境に育ったとはいえ、彼は最初からミュージシャンを目指していたわけではなく、その頃の彼の興味は映像製作の分野に向いていた。
父を亡くしてもなお彼の家庭は裕福だったようで、大学時代は米サンフランシスコに留学し、アニメーションを学んだ。
だが、資金面から映画制作を断念した彼は、次なる表現の手段として、インドに帰国してPeter Cat Recording Co.を結成する。
海外経験のあるアーティストが欧米の音楽ジャンルをインドに導入し、国内のシーンの第一人者になるという現象は、インドでは珍しくない。(例えばレゲエ/スカのSka Vengers, ドリームポップのEasy Wanderlings, シンガーソングライターのSanjeeta Bhattacharya, トラップのSu Realなど)
だが、PCRCにしろLifafaにしろ、Suryakantの音楽に対するアプローチは、単に海外の音楽ジャンルの導入にとどまらないセンスを感じる。
そのスタイルの向こう側に、お手本となったジャンルの模倣に留まらないオリジナリティと精神性が感じられるのだ。
欧米のポピュラー音楽の伝統を踏まえたクールネスと、インドならではのサウンドが、Suryakantという触媒を通して、様々な形象で溢れ出している。
決してメインストリームで聴かれる音楽ではないかもしれないが、彼の音楽がもっと様々な場面で評価されるようになることを願ってやまない。
例えば、PCRCが落ち着いた喫茶店で流れていたり、Lifafaがチャイとインドスイーツが美味しいカフェで流れていたりしたら、すごくハマると思うのだけど。
参考サイト:
https://www.platform-mag.com/music/lifafa-aka-suryakant-sawhney.html
https://www.thestrandmagazine.com/single-post/2020/09/25/in-conversation-suryakant-sawhney-doesnt-fit-in-a-box
https://www.rediff.com/getahead/report/have-you-heard-suryakant-sawhney-sing/20200311.htm
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