Mali
2023年01月05日
(前編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 インドのインディー音楽はここまで来た
例年このブログで特集している「Rolling Stone Indiaが選ぶベスト○○Top10」シリーズ。
前回特集したベストアルバム部門が、例年と違って15作品選ばれていてびっくりしたのだが、そのあとに発表されたベストシングル部門はなんと22作品!
例年の倍以上!
もちろんこれはインドのインディー音楽シーンが急成長していることを端的に表しているのだが、いい作品が多かったらその中から厳選して10作品選ぶのではなく、躊躇なく15作品とか22作品とか選んでしまうところがいかにもインドらしい。
というわけで、今年は大盤振る舞い。
2回に分けてその22作品をすべて紹介する。
はじめに結論から言ってしまうと、このランキングに選ばれた曲は、Rolling Stone Indiaという媒体の性格を反映して、洋楽的な意味での「よい曲」が並んでいる。
何も言わずに聴かせたらインドのアーティストだとは思えない曲ばかりで、インドの音楽シーンもここまでグローバルになってきたのかと思うと感慨深い。
いっぽうで、それは海外のアーティストと比較したときに没個性という意味でもあるわけで、今日のポピュラー音楽としての洗練された響きを維持しつつ、インド的な特徴も融合した音楽をどう作るかという点が、今後のインドのインディー音楽の発展のひとつの鍵となるのだろう。
能書きはともかくさっそく紹介に移ります。
22位 BeBhumika, Katoptris “Pareshaan”
Ritvizマナーの男女ヴォーカルのヒンディー語EDM(いわゆる'印DM')。
インド的アイデンティティと現代的なポップサウンドの両立という点では、この曲は上位ランクの楽曲よりもがんばっている。
ただインド国内ではこの手のサウンドは珍しくなくなってきており、インドのシーンの中で今後オリジナリティをどう出してゆくのかというまた別の課題がありそうだ。
Ritvizフォロワーにとどまらない次の展開を期待したい。
21位 The Runway "Find Me, Find You"
このブログでも何度も紹介している、インド北東部のナガランド州から登場したバンド。
聴いての通り80年代リバイバル風のポップなロックだが、北東部のバンドにありがちな80〜90年代趣味が、結果的に今の時代の懐古的エモさ嗜好にばっちりはまっているように思える。
2022年は、ナガランドからこれまた80年代趣味全開なAbout Usというすごいハードロックバンドも登場しており、しばらくナガのシーンから目が離せなくなりそうだ。
20位 Mali “Ashes”
Maliはムンバイ出身のマラヤーリー系(ケーララ系)シンガーソングライター。
彼女のいつものスタイルであるやわらかいアコースティックなサウンドとやさしいヴォーカルの1曲。
そういえば、彼女はコロナ前に日本でミュージックビデオを撮ることを計画していたようだが、その後どうなったのだろうか。
19位 Kenneth Soares “Cigarettes”
イントロのパーカッション使いやレイドバックした雰囲気など、70年代アメリカンロックを思わせるインドでは珍しいタイプの曲。
しいて近い雰囲気を挙げるとしたら13位のTejasだろうか。
ムンバイのシンガーソングライターだそうだ。
18位 Tanmaya Bhatnagar “kyun hota hai?”
ニューデリーのシンガーソングライターによる歌ものヒンディー・エレクトロポップ。
全体的に柔らかめのサウンドが心地よい。
この手のエレクトロポップ勢は本当に増えてきた。
17位 Gaya "Qisse"
品の良いアコースティックなアーバンフォーク。
声質や歌い回しに、北インドっぽい節回しが顔を出すのがチャーミングだ。
ムンバイだろうか、下町を叙情的に撮影したミュージックビデオも美しい。
北インドの人かと思ったら、チェンナイ生まれ、ドバイ育ちとのこと。
16位 Raghav Meattle “Am I Overthinking This?”
2020年にリリースした"City Life"が記憶に新しいムンバイのシンガーソングライターRaghav Meattleの新曲は、こちらもアコースティックなフォークだが、英語詞ということもあり、洋楽的なサウンドが印象的。
しみじみと感じ入る曲だが、ややシンプルすぎるようにも思う。
15位 Anoushka Maskey “So Long, Already. Again.”
インド北東部シッキム州のシンガーソングライターによる、これまたアコースティックな曲。
彼女の歌声にはなんとも形容し難い寂寥感があって、どこか日本のフォークソングを思わせる雰囲気がある。
インドに数多い女性シンガーソングライターのなかでも、声に個性が感じられるアーティストだ。
14位 Kamakshi Khanna and Sanjeeta Bhattacharya “Swimming”
デリーのシンガーソングライター2人によるコラボレーション。
これもおだやかなバラードだが、歌声ひとつで空気を変える力があるKamakshi Khannaと実力派シンガーSanjeeta Bhattacharyaの共演となると、さすがに聴きごたえがある。
ミュージックビデオの「女の園」的な世界観も独特だ。
ところで、さいきんのSanjeetaのミュージックビデオは、一昨年の"Khoya Sa"もそうだったが同性愛的なテーマで作られているときが多くてなんかドギマギする。
13位 Tejas “As I’m Getting Older”
ムンバイのシンガーソングライター(どうでもいいけどこのランキングはムンバイとデリーのSSWばっかりだな)Tejasの新作は、いつも通りのダンサブルなポップチューン。
いつも通りよくできているのだが、ちょっとマンネリ感があるかな。
12位 Aanchal Bordoloi “Whiskey Blues”
北東部アッサム州出身、ベンガルールを拠点に活動しているシンガーソングライターによる曲。
タイトル通りアメリカっぽい曲調のアーバンフォークだが、いかに大都市ベンガルールとはいえ、まだまだ保守的なインドで女性がWhisley Bluesというタイトルの曲を発表するのはどういう受け止められ方をするのだろうか。
リベラルな性質の媒体なので、そのあたりの時代性というか先進性もランキングに影響しているのだろうか。
11位 Aarifah “Now She Knows”
ムンバイ出身の女性シンガーソングライターのデビューシングル。
深みのある声で歌われる洋楽的アコースティックバラード。
歌もメロも後半盛り上がってゆくアレンジも悪くないのだが、ここまでちょっと同系統の曲が多すぎるような気がしないでもない。
選者の好みなのだろうか。
というわけで、ここまで12曲を紹介してみました。
上位10曲はまた次回!
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2022年01月10日
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバムTop10!
前回の記事ではRolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストシングル10曲を紹介したが、今回特集するのは同誌が選んだ2021年のベストアルバム10選!
これがまた想像をはるかに超えていて、我々が知るインドや今日の音楽シーンのイメージを覆す驚くべき作品が選ばれている!
(元記事はこちら)
それではさっそく紹介してみよう。
1. Blackstratblues "Hindsight2020"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバム第1位は、ジェフ・ベックやサンタナを彷彿させる70年代スタイルのロックギタリスト、Warren MendonsaによるBlackstratblues名義のインストゥルメンタル・アルバム"This Will Be My Year".
世界の音楽のトレンドとまったく関係なく、2021年にこのアルバムを選ぶセンスにはただただ吃驚。
彼は派手なテクニックで魅せるタイプのギタリストではなく、チョーキングのトーンコントロールや絶妙なタメで聴かせる通好みなアーティストで、発展著しいインドの音楽シーンのなかでも、なんというか、かなり地味な存在だ。
今作はちょっとスティーヴ・キモックとか、あのへんのジャムバンドっぽい感じもある。
Warrenはじつはこのランキングの常連で、2017年にも前作のアルバム"The Lost Analog Generation"が2位にランクインしている。(単に評者の好みかもしれないが)
このアルバムでは、日本文化からの影響を受けているエレクトロニック・ミュージシャンのKomorebiが2曲に参加している。
ちなみにWarrenはインド映画音楽界のビッグネームである3人組Shankar-Eshaan-Loyの一人、Loy Mendonsaの息子でもある。
2. Prabh Deep "Tabia"
軽刈田も2021年のTop10に選出したデリーのラッパーPrabh Deepの"Tabia"が2位にランクイン。
私からの評はもう十分に書いたのでここでは繰り返さないが、Rolling Stone Indiaは、この作品の多様に解釈できる文学性とストーリーテリングを高く評価しているようだ。
確かに彼のリリックは、英訳で読んでも文豪の詩のような、あるいは宗教的な預言のような深みと味わいがある。
そこに加えてこの声とサウンド(トラックもPrabh Deep自身が手掛けている)。
インドのヒップホップアーティストの中でもただひとり別次元にいる孤高の存在と呼んでいいだろう。
高く評価されないわけがない。
3. Shreyas Iyenagar "Tough Times"
プネー出身のマルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーが、新型コロナウイルスのパンデミックにインスパイアされて制作したジャズ・アルバムが3位にランクイン。
こちらもサウンド面での2021年らしさがある作品ではないが、シングル部門で1位のソウルシンガーVasundhara Veeと同様に、インドには珍しい本格志向のサウンドを評価されたのだろう。
4. Tejas "Outlast"
ムンバイのシンガー・ソングライターTejasのダンスポップアルバム。
優れたポップチューンを作るかたわら、一昨年はコロナウイルスによる全土ロックアウトの期間に、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」を作るなど、アイデアと才能あふれるアーティストである。
今作は、ちょっと80年代っぽかったり、K-Popっぽかったりと、現代インドの音楽シーンのトレンドを押さえた作風になっていて、Tejas曰く昨年解散したDaft Punkの影響も受けているとのこと。
言われてみればたしかにそう感じられるサウンドだ。
5. Second Sight "Coral"
このムンバイ出身の5人組は、個人的に今回のランキングの中で最大のめっけもの。
その音楽性は、ジャズ、プログレ、フォーク、R&B、ラップ、サイケなどの多彩な要素を含んでいる。
全編にわたってハーモニーが美しく、プログレッシブ・ロック的な複雑さはあるが、とっつきにくさはなく、とにかくリラックスした音像の作品だ。
2018年にEP "The Violet Hour"でデビュー(当時は男女2人組だったようだ)した彼らのファーストアルバム。
意図的にインド的な要素は入れない主義のようだが、このユニークなサウンドはインドでも世界でも、もっと聴かれて良いはずだ。
6. Godless "State of Chaos"
70’s風ギターインスト、ヒップホップ、ジャズ、ダンスポップと来て、ここにゴリゴリのデスメタルが入ってくるのがこのランキングの面白いところ。
南インドのハイデラーバードとベンガルールを拠点にしているGodlessは、2016年のデビュー以来、メタルシーンでは高い評価を得ていたバンドだ。
サウンドは若干類型的な印象を受けるものの、演奏力は高いし、リフやアレンジのセンスも良いし、インドのメタルバンドのレベルの高さを改めて思い知らされる。
メンバーの名前を見る限り、メンバーにはヒンドゥーとムスリムが混在しているようで、世界のメタルバンドの情報サイトEncyclopaedia Metallumによると、歌詞のテーマは「死、反宗教、紛争、人間の精神」とのこと。
宗教大国インドで、異なる宗教を持つ家庭に生まれた若者たちが、Godlessという名前で一緒に反宗教を掲げてデスメタルを演奏しているところに、どこかユートピアめいたものを感じてしまうのは感傷的すぎるだろうか。
そういう見方を抜きにしても、インド産メタルバンドとして、Kryptos, Against Evil, Gutslit, Demonic Resurrectionらに次いで、海外でも評価される可能性のあるバンドだと言えるだろう。
7. Arogya "Genesis"
デスメタルの次にこのバンドが来るところがまた面白い!
インド北東部シッキム州ガントクで結成されたArogyaは、Dir En Greyやthe GazettEらのビジュアル系アーティストの影響を受けたバンドとして、すでに日本や世界でも(一部で)注目を集めていた。
彼らにアルバム"Genesis"については、例えばこのAsian Rock Risingのレビューですでに日本語で詳しく紹介されている。
これまでネパールやアッサム州グワハティを拠点に、ネパール語の歌詞で活動していたという彼らだが(シッキムあたりにはネパール系の住民も多いので、もともとネイティブ言語だったのだろう)、今作では英語詞を採用し、よりスケールの大きいサウンドに生まれ変わっている。
これまでも、アニメやコスプレや音楽など、インド(とくに北東部)におけるジャパニーズ・カルチャーの影響については紹介してきたが、彼らはインドに何組か存在する日本の影響を受けたバンドの中でも、とくに際立った存在と言える。
小さなライブハウスよりも、巨大なアリーナでこそ映えそうな彼らのバンドサウンドにふさわしい人気と評価を彼らが得られることを、願ってやまない。
(これまでに書いたインドにおける日本文化の記事をいくつかリンクしておきます。ナガランドのコスプレフェス、なぜかJ-Popと呼ばれている北東部ミゾラム州のバンドAvora Records、日本の音楽にやたら詳しいデリーのバンドKraken. どの記事もおすすめです)
8. Mali "Caution to the Wind"
ムンバイ在住のシンガーソングライターMaliが8位にランクインした。
美しいメロディーの英語ポップスを歌うことにかけては以前から高い評価を得ていた彼女のファーストアルバム。
女性シンガーソングライターのなかでは、Sanjeeta Bhattacharyaあたりと並んで、今後もシーンをリードし続ける存在になりそうだ。
アルバム収録曲の"Age of Limbo"のミュージックビデオは、コロナ禍がなければ日本で撮影する予定だったそうで、状況が落ち着いたらぜひ日本にも来てもらいたい。
9. Lifafa "Superpower 2020"
軽刈田による2021年Top10でも選出したLifafaが9位にランクインしている。
Lifafaはヴィンテージなポップスを演奏するデリーのバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物Suryakant Sawhneyによるソロプロジェクト。
そのサウンドのユニークさだけでも十分に評価に値するが、Rolling Stone Indiaは、パスティーシュとウィットに富み、ときに政治的でもある彼の歌詞を高く評していて、Prabh Deep同様、彼についてもその歌詞の内容を詳しく読んでみたいところだ。
(LifafaおよびPeter Cat Recording Co.については、こちらの記事から)
10. Mocaine "The Birth of Billy Munro"
MocaineはデリーのロックアーティストAmrit Mohanによるプロジェクト。
この"The Birth of Billy Munro"は、Nick Cave and the Bad Seeds(80〜90年代にロンドンを拠点に活躍したロックバンド)のオーストラリア人シンガー、ニック・ケイヴによる小説"Death of Bunny Munro"にインスパイアされたコンセプトアルバムとのことで、もはやこの情報だけで面白い。
サウンド的には、ブルース、ハードロック、グランジ等のアメリカン・ロックの影響が強い作風となっている。
2022年には早くもBilly Munroシリーズの続編をリリースする予定とのこと。
というわけで、アルバム10選に関しても、このサブスク全盛、シングル重視の時代にあっても、ジャンルを問わず充実した作品が多くリリースされていたことが分かるだろう。
昨年の10選と比べても、インドの音楽シーンがますます成熟してきていることが一目瞭然。
2022年にはどんな作品に出会えるのか、ますます楽しみだ。
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これがまた想像をはるかに超えていて、我々が知るインドや今日の音楽シーンのイメージを覆す驚くべき作品が選ばれている!
(元記事はこちら)
それではさっそく紹介してみよう。
1. Blackstratblues "Hindsight2020"
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストアルバム第1位は、ジェフ・ベックやサンタナを彷彿させる70年代スタイルのロックギタリスト、Warren MendonsaによるBlackstratblues名義のインストゥルメンタル・アルバム"This Will Be My Year".
世界の音楽のトレンドとまったく関係なく、2021年にこのアルバムを選ぶセンスにはただただ吃驚。
彼は派手なテクニックで魅せるタイプのギタリストではなく、チョーキングのトーンコントロールや絶妙なタメで聴かせる通好みなアーティストで、発展著しいインドの音楽シーンのなかでも、なんというか、かなり地味な存在だ。
今作はちょっとスティーヴ・キモックとか、あのへんのジャムバンドっぽい感じもある。
Warrenはじつはこのランキングの常連で、2017年にも前作のアルバム"The Lost Analog Generation"が2位にランクインしている。(単に評者の好みかもしれないが)
このアルバムでは、日本文化からの影響を受けているエレクトロニック・ミュージシャンのKomorebiが2曲に参加している。
ちなみにWarrenはインド映画音楽界のビッグネームである3人組Shankar-Eshaan-Loyの一人、Loy Mendonsaの息子でもある。
2. Prabh Deep "Tabia"
軽刈田も2021年のTop10に選出したデリーのラッパーPrabh Deepの"Tabia"が2位にランクイン。
私からの評はもう十分に書いたのでここでは繰り返さないが、Rolling Stone Indiaは、この作品の多様に解釈できる文学性とストーリーテリングを高く評価しているようだ。
確かに彼のリリックは、英訳で読んでも文豪の詩のような、あるいは宗教的な預言のような深みと味わいがある。
そこに加えてこの声とサウンド(トラックもPrabh Deep自身が手掛けている)。
インドのヒップホップアーティストの中でもただひとり別次元にいる孤高の存在と呼んでいいだろう。
高く評価されないわけがない。
3. Shreyas Iyenagar "Tough Times"
プネー出身のマルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーが、新型コロナウイルスのパンデミックにインスパイアされて制作したジャズ・アルバムが3位にランクイン。
こちらもサウンド面での2021年らしさがある作品ではないが、シングル部門で1位のソウルシンガーVasundhara Veeと同様に、インドには珍しい本格志向のサウンドを評価されたのだろう。
4. Tejas "Outlast"
ムンバイのシンガー・ソングライターTejasのダンスポップアルバム。
優れたポップチューンを作るかたわら、一昨年はコロナウイルスによる全土ロックアウトの期間に、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」を作るなど、アイデアと才能あふれるアーティストである。
今作は、ちょっと80年代っぽかったり、K-Popっぽかったりと、現代インドの音楽シーンのトレンドを押さえた作風になっていて、Tejas曰く昨年解散したDaft Punkの影響も受けているとのこと。
言われてみればたしかにそう感じられるサウンドだ。
5. Second Sight "Coral"
このムンバイ出身の5人組は、個人的に今回のランキングの中で最大のめっけもの。
その音楽性は、ジャズ、プログレ、フォーク、R&B、ラップ、サイケなどの多彩な要素を含んでいる。
全編にわたってハーモニーが美しく、プログレッシブ・ロック的な複雑さはあるが、とっつきにくさはなく、とにかくリラックスした音像の作品だ。
2018年にEP "The Violet Hour"でデビュー(当時は男女2人組だったようだ)した彼らのファーストアルバム。
意図的にインド的な要素は入れない主義のようだが、このユニークなサウンドはインドでも世界でも、もっと聴かれて良いはずだ。
6. Godless "State of Chaos"
70’s風ギターインスト、ヒップホップ、ジャズ、ダンスポップと来て、ここにゴリゴリのデスメタルが入ってくるのがこのランキングの面白いところ。
南インドのハイデラーバードとベンガルールを拠点にしているGodlessは、2016年のデビュー以来、メタルシーンでは高い評価を得ていたバンドだ。
サウンドは若干類型的な印象を受けるものの、演奏力は高いし、リフやアレンジのセンスも良いし、インドのメタルバンドのレベルの高さを改めて思い知らされる。
メンバーの名前を見る限り、メンバーにはヒンドゥーとムスリムが混在しているようで、世界のメタルバンドの情報サイトEncyclopaedia Metallumによると、歌詞のテーマは「死、反宗教、紛争、人間の精神」とのこと。
宗教大国インドで、異なる宗教を持つ家庭に生まれた若者たちが、Godlessという名前で一緒に反宗教を掲げてデスメタルを演奏しているところに、どこかユートピアめいたものを感じてしまうのは感傷的すぎるだろうか。
そういう見方を抜きにしても、インド産メタルバンドとして、Kryptos, Against Evil, Gutslit, Demonic Resurrectionらに次いで、海外でも評価される可能性のあるバンドだと言えるだろう。
7. Arogya "Genesis"
デスメタルの次にこのバンドが来るところがまた面白い!
インド北東部シッキム州ガントクで結成されたArogyaは、Dir En Greyやthe GazettEらのビジュアル系アーティストの影響を受けたバンドとして、すでに日本や世界でも(一部で)注目を集めていた。
彼らにアルバム"Genesis"については、例えばこのAsian Rock Risingのレビューですでに日本語で詳しく紹介されている。
これまでネパールやアッサム州グワハティを拠点に、ネパール語の歌詞で活動していたという彼らだが(シッキムあたりにはネパール系の住民も多いので、もともとネイティブ言語だったのだろう)、今作では英語詞を採用し、よりスケールの大きいサウンドに生まれ変わっている。
これまでも、アニメやコスプレや音楽など、インド(とくに北東部)におけるジャパニーズ・カルチャーの影響については紹介してきたが、彼らはインドに何組か存在する日本の影響を受けたバンドの中でも、とくに際立った存在と言える。
小さなライブハウスよりも、巨大なアリーナでこそ映えそうな彼らのバンドサウンドにふさわしい人気と評価を彼らが得られることを、願ってやまない。
(これまでに書いたインドにおける日本文化の記事をいくつかリンクしておきます。ナガランドのコスプレフェス、なぜかJ-Popと呼ばれている北東部ミゾラム州のバンドAvora Records、日本の音楽にやたら詳しいデリーのバンドKraken. どの記事もおすすめです)
8. Mali "Caution to the Wind"
ムンバイ在住のシンガーソングライターMaliが8位にランクインした。
美しいメロディーの英語ポップスを歌うことにかけては以前から高い評価を得ていた彼女のファーストアルバム。
女性シンガーソングライターのなかでは、Sanjeeta Bhattacharyaあたりと並んで、今後もシーンをリードし続ける存在になりそうだ。
アルバム収録曲の"Age of Limbo"のミュージックビデオは、コロナ禍がなければ日本で撮影する予定だったそうで、状況が落ち着いたらぜひ日本にも来てもらいたい。
9. Lifafa "Superpower 2020"
軽刈田による2021年Top10でも選出したLifafaが9位にランクインしている。
Lifafaはヴィンテージなポップスを演奏するデリーのバンドPeter Cat Recording Co.の中心人物Suryakant Sawhneyによるソロプロジェクト。
そのサウンドのユニークさだけでも十分に評価に値するが、Rolling Stone Indiaは、パスティーシュとウィットに富み、ときに政治的でもある彼の歌詞を高く評していて、Prabh Deep同様、彼についてもその歌詞の内容を詳しく読んでみたいところだ。
(LifafaおよびPeter Cat Recording Co.については、こちらの記事から)
10. Mocaine "The Birth of Billy Munro"
MocaineはデリーのロックアーティストAmrit Mohanによるプロジェクト。
この"The Birth of Billy Munro"は、Nick Cave and the Bad Seeds(80〜90年代にロンドンを拠点に活躍したロックバンド)のオーストラリア人シンガー、ニック・ケイヴによる小説"Death of Bunny Munro"にインスパイアされたコンセプトアルバムとのことで、もはやこの情報だけで面白い。
サウンド的には、ブルース、ハードロック、グランジ等のアメリカン・ロックの影響が強い作風となっている。
2022年には早くもBilly Munroシリーズの続編をリリースする予定とのこと。
というわけで、アルバム10選に関しても、このサブスク全盛、シングル重視の時代にあっても、ジャンルを問わず充実した作品が多くリリースされていたことが分かるだろう。
昨年の10選と比べても、インドの音楽シーンがますます成熟してきていることが一目瞭然。
2022年にはどんな作品に出会えるのか、ますます楽しみだ。
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2021年11月07日
インドからビートルズへの53年越しの回答! "Songs Inspired by The Film the Beatles and India"
ビートルズファンならご存知のとおり、インドは彼らに少なからぬ影響を与えた国でもある。
1960年代、若者たちの間では、ベトナム戦争への反対の機運が高まり、西洋の物質主義的な文化に疑問が持たれ始めていた。
インドの文化は、欧米の既存の価値観に変わるカウンターカルチャーとして注目され、ビートルズのメンバーたちも、1968年にヒンドゥー教の聖地リシケーシュにあるヨガ行者にして精神的指導者のマハリシ・マヘシュ・ヨギのアシュラム(修業場)に滞在して過ごした。
(その経緯と顛末は、このRolling Stone Japanの記事に詳しい)
インドに影響を受けたのはビートルズだけではなかった。
当時、The Rolling Stonesは"Paint It, Black"でシタールを導入しているし、インドの服をヒッピー・ファッションに取り入れるミュージシャンも多かった。
当時、ヨガや東洋的な神秘思想は、LSDなどのドラッグと並んで、新しい感覚を覚醒させ、悟りの境地に至るための手段として見られていたのだ。
その後も、90年代のKula Shakerのようなロックバンドや、ゴアトランスなどのダンスミュージックが、サイケデリックやエキゾチックやスピリチュアルを表現する手段として、インド音楽の要素を導入している。
ただ、その多くが、雰囲気づくりのための表面的な引用にとどまっているのもまた事実。
90年代、インドの旅から帰ってきた私は、彼らのサウンドに以前ほど夢中になれなくなってしまい、今でいうところの「文化の盗用」のようなもやもやした感覚を抱いていた。
時は流れて2021年。
いつもこのブログで紹介しているように、インドの音楽シーンもずいぶん進化・変貌した。
経済成長とインターネットの発展により、ヒップホップやEDMやロックといった欧米の音楽の受容が進み、今ではインド国内にもこうしたジャンルの優れたアーティストがたくさんいる。
そのなかには、きわめて優れたポピュラーミュージックを作っている人もいるし、西洋の音楽にインドの伝統的な要素を取り入れた独自の「フュージョン」を作り上げている人もいる。
つまり、20世紀にはインドから欧米への一方通行だった音楽的影響は、今では完全に双方向的なものとなっているのだ。
ビートルズのインド滞在に焦点をあてたドキュメンタリー映画"The Beatles and India"の公開にともなってリリースされた、インドのミュージシャンたちによるトリビュートアルバム"Songs Inspired by the Film the Beatles and India"は、いわばインドからビートルズへの、そして、インド音楽の要素をポピュラーミュージックのスパイスとして使ってきた西洋音楽リスナーへの、53年越しの回答なのである。
これが非常に面白く、そして素晴らしかった。
収録曲は以下の通り。
1. "Tomorrow Never Knows" Kiss Nuka
2. "Mother Nature's Son" Karsh Kale, Benny Dayal
3. "Gimme Some Truth" Soulmate
4. "Across the Universe" Tejas, Maalavika Manoj
5. "Everybody's Got Something to Hide (Except Me and My Monkey)" Rohan Rajadhyaksha, Warren Mendonsa
6. "I will" Shibani Dandekar, Neil Mukherjee
7. "Julia" Dhruv Ghanekar
8. "Child of Nature" Anupam Roy
9. "The Inner Light" Anoushka Shankar, Karsh Kale
10. "The Continuing Story of Bungalow Bill" Raaga Trippin
11. "Back in the USSR" Karsh Kale, Farhan Akhtar
12. "I'm so Tired" Lisa Mishra, Warren Mendonsa
13. "Sexy Sadie" Siddharth Basrur, Neil Mukherjee
14. "Martha My Dear" Nikhil D'Souza
15. "Norwegian Wood (This Bird Has Flown)" Parekh & Singh
16. "Revolution" Vishal Dadlani, Warren Mendonsa
17. "Love You To" Dhruv Ghanekar
18. "Dear Prudence" Karsh Kale, Monica Dogra
19. "India, India" Nikhil D'souza
ビートルズの曲(一部ジョンのソロ作品)としては、ややシブめの選曲で、なかにはよほどのファンでないと知られていないような曲も入っているが、これらはいずれもインドと何らかのつながりのある楽曲たちである。
そして、いつもクソ長いブログを書いている身としては申し訳ないのだけど、インドとロック好きにとっては、語らずにはいられない要素が満載だ。
というわけで、蛇足とは思いながらも、"Songs Inspired by the Beatles and India"から何曲かをピックアップしてレビューさせていただきます!
1. "Tomorrow Never Knows" Kiss Nuka
オリジナルは1966年発表の"Revolver"の最後に収録されている、ジョン・レノンによる曲。
ジョンの「数千人ものチベットの僧侶が経典と唱えているような感じにしたい」という意図のもと、ワンコードで同じメロディーを繰り返したこの曲は、結果的にサイケデリックなクラブ・ミュージック的なサウンドをあまりにも早く完成させた楽曲となった。
その"Tommorow Never Knows"を、インドのアーティストが、コード進行のあるエレクトロニック・ポップとしてカバーしているということに、何よりも面白さを感じる。
このような、インド人アーティストによるビートルズの楽曲の「脱インド化」はこのアルバムの聴きどころの一つだ。
この曲をカバーしているKiss Nukaはデリー出身のエレクトロニックポップアーティスト。
映画音楽のプレイバック・シンガーとしてデビューしたのち、アイドル的な雰囲気のヴォーカルヴループ'Viva!'の一員としての活動を経て、ソロの電子音楽ミュージシャンとなった彼女の経歴は、現代インドの音楽シーンの変遷を体現していると言ってもよいだろう。
ビートルズがこの曲を発表した30年後の90年代には、イギリスのテクノユニットのケミカル・ブラザーズが"Setting Sun"や"Let Forever Be"といった曲でオマージュを捧げたが、そのさらに30年後の2020年代にインドのアーティストがこういうカバーを発表したということがこのバージョンの肝であって、アレンジがあざといとかサウンドがちょっと古臭いとかいうことは重要ではない。
優れたポップミュージックは輪廻する。
2. "Mother Nature's Son" Karsh Kale, Benny Dayal
このアルバムの序盤最大の目玉といっても過言ではないのがこの曲。
原曲は"The Beatles"(ホワイトアルバム)に収録されたポール・マッカートニーによるマハリシ・マヘシュ・ヨギの影響を受けた曲。
カバーしているのはイギリス出身のインド系電子音楽アーティスト兼タブラ奏者で、クラブミュージックから映画音楽まで幅広く活躍しているKarsh Kaleと、インド古典音楽とR&Bという両方のルーツを持つBenny Dayal.
ビートルズのカバーをするならこれ以上ない組み合わせのこの二人は、これまでもKarshのソロアルバムなどで共演している。
インド的な要素とビートルズ的な要素が徐々に融合してゆく様が美しい。
このアルバムの聴きどころは、「脱インド化」だけではなく、こうした本場のアーティストならではの「インド化」でもあるということは言うまでもない。
4. "Across the Universe" Tejas, Maalavika Manoj
1969年に発売されたアルバム"Let It Be"に収録されている楽曲だが、はジョン・レノンによって67年には書かれていたという。
カバーしているのはムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターTejasとMali(この曲では本名のMaalavika Manoj名義でクレジット)。
インドの思想に傾倒していたジョンによる'Jai Guru Deve Om'という導師(または神)を讃えるサビのフレーズゆえに、このアルバムの収録曲に選ばれたのだろう。
ふだんは洋楽ポップス的な楽曲を発表しているTejasとMaliが、ここではニューエイジ的な音使いが目立つ、いかにもスピリチュアルなアレンジを披露している。
欧米や日本のアーティストがやったらこっぱずかしくなるようなアレンジだが、インド人である彼らがやるとなんだかありがたいような気もする。
これを、インド人が欧米目線のエキゾチシズムに取り込まれたと見るか、インド人である彼らがステレオタイプをしたたかに利用していると見るか。
6. "I will" Shibani Dandekar, Neil Mukherjee
ホワイトアルバム収録のポール・マッカートニーによる佳曲。
インドと関係なさそうなのになぜ選ばれたのかと思ったら、これもリシケーシュ滞在時に書かれた曲だそうだ。
プネー出身のシンガーShibani Dandekar(現在はオーストラリア国籍)とコルカタ出身のギタリストNeil Mukherjeeによるカバーで、バーンスリー(竹笛)とタブラが印象的。
これもいかにもインド的なアレンジだが、センス良く聴こえるのはアコースティックなサウンドと原曲の良さゆえか。
おいしいチャイを出す日あたりの良いカフェでかかっていたら素敵だと思う。
8. "Child of Nature" Anupam Roy
これは知らない曲だと思ったら、ジョン・レノンの名作"Imagine"(1971年)収録の名曲"Jelous Guy"の初期バージョンだそうで、これもやはりリシケーシュ滞在中に書かれた曲とのこと。
のちにオノ・ヨーコへの思いをつづった歌詞に改作されるが、当初の歌詞は、ポールの"Mother Nature's Son"と同様に、マハリシ・マヘシュ・ヨギの説法にインスパイアされて書かれたものだろう。
ビートルズのインド趣味は、ビートルズファンに必ずしも好意的に捉えられているわけではないが、こうした一見インドには無関係な楽曲の制作にも影響を与えていると考えると、やはりマハリシの存在は大きかったのだろうなと感じる。
カバーしているのは、映画音楽でも活躍しているコルカタ出身のシンガーソングライターAnupam Roy.
タブラとバーンスリーを使ったアレンジは、やや安易だが、原曲の良さが映えている。
9. "The Inner Light" Anoushka Shankar, Karsh Kale
原曲はビートルズのメンバーでもっともインドに傾倒していたジョージ・ハリスンによる曲で、インドの楽器のみで演奏されており、歌詞は老子の言葉からとられているという、東洋趣味丸出しの楽曲。
それでもジョンもポールもこの曲の美しさを絶賛しており、ビートルズによる「インド音楽」の最高峰と言っても良いだろう。
ジョージのシタールの師匠でもあるラヴィ・シャンカルの娘アヌーシュカとKarsh Kaleによるカバーは、「こういうことがやりたかったんだろ?まかしときな」という声が聴こえてきそうなアレンジだ。
11. "Back in the USSR" Karsh Kale, Farhan Akhtar
ホワイト・アルバム収録の原曲は、ポールによるビーチボーイズに対するオマージュというかパロディ。
どうしてこのアルバムに選曲されたのだろうと思ったら、どうやらこの曲もリシケーシュ滞在中に書かれたものだったからだそうだ。
当時のリシケーシュにはビートルズのメンバーのみならず、ビーチボーイズのマイク・ラヴも滞在しており、この曲の歌詞には彼の意見も取り入れられているという。
Karshによるドラムンベース的なアレンジは、'00年代のエイジアン・マッシヴ全盛期風で少々古臭くも感じるが、ここはイギリス人がインドでアメリカのバンドにオマージュを捧げて書いたソビエト連邦に関する曲を、タブラ奏者でエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーでもあるKarsh Kaleとボリウッド一家に生まれたFarhan Akhtar(『ガリーボーイ』の監督ゾーヤー・アクタルの弟)がクラブミュージック風にアレンジしているということの妙を味わうべきだろう。
90年代、インドの旅から帰ってきた私は、彼らのサウンドに以前ほど夢中になれなくなってしまい、今でいうところの「文化の盗用」のようなもやもやした感覚を抱いていた。
時は流れて2021年。
いつもこのブログで紹介しているように、インドの音楽シーンもずいぶん進化・変貌した。
経済成長とインターネットの発展により、ヒップホップやEDMやロックといった欧米の音楽の受容が進み、今ではインド国内にもこうしたジャンルの優れたアーティストがたくさんいる。
そのなかには、きわめて優れたポピュラーミュージックを作っている人もいるし、西洋の音楽にインドの伝統的な要素を取り入れた独自の「フュージョン」を作り上げている人もいる。
つまり、20世紀にはインドから欧米への一方通行だった音楽的影響は、今では完全に双方向的なものとなっているのだ。
ビートルズのインド滞在に焦点をあてたドキュメンタリー映画"The Beatles and India"の公開にともなってリリースされた、インドのミュージシャンたちによるトリビュートアルバム"Songs Inspired by the Film the Beatles and India"は、いわばインドからビートルズへの、そして、インド音楽の要素をポピュラーミュージックのスパイスとして使ってきた西洋音楽リスナーへの、53年越しの回答なのである。
これが非常に面白く、そして素晴らしかった。
収録曲は以下の通り。
1. "Tomorrow Never Knows" Kiss Nuka
2. "Mother Nature's Son" Karsh Kale, Benny Dayal
3. "Gimme Some Truth" Soulmate
4. "Across the Universe" Tejas, Maalavika Manoj
5. "Everybody's Got Something to Hide (Except Me and My Monkey)" Rohan Rajadhyaksha, Warren Mendonsa
6. "I will" Shibani Dandekar, Neil Mukherjee
7. "Julia" Dhruv Ghanekar
8. "Child of Nature" Anupam Roy
9. "The Inner Light" Anoushka Shankar, Karsh Kale
10. "The Continuing Story of Bungalow Bill" Raaga Trippin
11. "Back in the USSR" Karsh Kale, Farhan Akhtar
12. "I'm so Tired" Lisa Mishra, Warren Mendonsa
13. "Sexy Sadie" Siddharth Basrur, Neil Mukherjee
14. "Martha My Dear" Nikhil D'Souza
15. "Norwegian Wood (This Bird Has Flown)" Parekh & Singh
16. "Revolution" Vishal Dadlani, Warren Mendonsa
17. "Love You To" Dhruv Ghanekar
18. "Dear Prudence" Karsh Kale, Monica Dogra
19. "India, India" Nikhil D'souza
ビートルズの曲(一部ジョンのソロ作品)としては、ややシブめの選曲で、なかにはよほどのファンでないと知られていないような曲も入っているが、これらはいずれもインドと何らかのつながりのある楽曲たちである。
そして、いつもクソ長いブログを書いている身としては申し訳ないのだけど、インドとロック好きにとっては、語らずにはいられない要素が満載だ。
というわけで、蛇足とは思いながらも、"Songs Inspired by the Beatles and India"から何曲かをピックアップしてレビューさせていただきます!
1. "Tomorrow Never Knows" Kiss Nuka
オリジナルは1966年発表の"Revolver"の最後に収録されている、ジョン・レノンによる曲。
ジョンの「数千人ものチベットの僧侶が経典と唱えているような感じにしたい」という意図のもと、ワンコードで同じメロディーを繰り返したこの曲は、結果的にサイケデリックなクラブ・ミュージック的なサウンドをあまりにも早く完成させた楽曲となった。
その"Tommorow Never Knows"を、インドのアーティストが、コード進行のあるエレクトロニック・ポップとしてカバーしているということに、何よりも面白さを感じる。
このような、インド人アーティストによるビートルズの楽曲の「脱インド化」はこのアルバムの聴きどころの一つだ。
この曲をカバーしているKiss Nukaはデリー出身のエレクトロニックポップアーティスト。
映画音楽のプレイバック・シンガーとしてデビューしたのち、アイドル的な雰囲気のヴォーカルヴループ'Viva!'の一員としての活動を経て、ソロの電子音楽ミュージシャンとなった彼女の経歴は、現代インドの音楽シーンの変遷を体現していると言ってもよいだろう。
ビートルズがこの曲を発表した30年後の90年代には、イギリスのテクノユニットのケミカル・ブラザーズが"Setting Sun"や"Let Forever Be"といった曲でオマージュを捧げたが、そのさらに30年後の2020年代にインドのアーティストがこういうカバーを発表したということがこのバージョンの肝であって、アレンジがあざといとかサウンドがちょっと古臭いとかいうことは重要ではない。
優れたポップミュージックは輪廻する。
2. "Mother Nature's Son" Karsh Kale, Benny Dayal
このアルバムの序盤最大の目玉といっても過言ではないのがこの曲。
原曲は"The Beatles"(ホワイトアルバム)に収録されたポール・マッカートニーによるマハリシ・マヘシュ・ヨギの影響を受けた曲。
カバーしているのはイギリス出身のインド系電子音楽アーティスト兼タブラ奏者で、クラブミュージックから映画音楽まで幅広く活躍しているKarsh Kaleと、インド古典音楽とR&Bという両方のルーツを持つBenny Dayal.
ビートルズのカバーをするならこれ以上ない組み合わせのこの二人は、これまでもKarshのソロアルバムなどで共演している。
インド的な要素とビートルズ的な要素が徐々に融合してゆく様が美しい。
このアルバムの聴きどころは、「脱インド化」だけではなく、こうした本場のアーティストならではの「インド化」でもあるということは言うまでもない。
4. "Across the Universe" Tejas, Maalavika Manoj
1969年に発売されたアルバム"Let It Be"に収録されている楽曲だが、はジョン・レノンによって67年には書かれていたという。
カバーしているのはムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターTejasとMali(この曲では本名のMaalavika Manoj名義でクレジット)。
インドの思想に傾倒していたジョンによる'Jai Guru Deve Om'という導師(または神)を讃えるサビのフレーズゆえに、このアルバムの収録曲に選ばれたのだろう。
ふだんは洋楽ポップス的な楽曲を発表しているTejasとMaliが、ここではニューエイジ的な音使いが目立つ、いかにもスピリチュアルなアレンジを披露している。
欧米や日本のアーティストがやったらこっぱずかしくなるようなアレンジだが、インド人である彼らがやるとなんだかありがたいような気もする。
これを、インド人が欧米目線のエキゾチシズムに取り込まれたと見るか、インド人である彼らがステレオタイプをしたたかに利用していると見るか。
6. "I will" Shibani Dandekar, Neil Mukherjee
ホワイトアルバム収録のポール・マッカートニーによる佳曲。
インドと関係なさそうなのになぜ選ばれたのかと思ったら、これもリシケーシュ滞在時に書かれた曲だそうだ。
プネー出身のシンガーShibani Dandekar(現在はオーストラリア国籍)とコルカタ出身のギタリストNeil Mukherjeeによるカバーで、バーンスリー(竹笛)とタブラが印象的。
これもいかにもインド的なアレンジだが、センス良く聴こえるのはアコースティックなサウンドと原曲の良さゆえか。
おいしいチャイを出す日あたりの良いカフェでかかっていたら素敵だと思う。
8. "Child of Nature" Anupam Roy
これは知らない曲だと思ったら、ジョン・レノンの名作"Imagine"(1971年)収録の名曲"Jelous Guy"の初期バージョンだそうで、これもやはりリシケーシュ滞在中に書かれた曲とのこと。
のちにオノ・ヨーコへの思いをつづった歌詞に改作されるが、当初の歌詞は、ポールの"Mother Nature's Son"と同様に、マハリシ・マヘシュ・ヨギの説法にインスパイアされて書かれたものだろう。
ビートルズのインド趣味は、ビートルズファンに必ずしも好意的に捉えられているわけではないが、こうした一見インドには無関係な楽曲の制作にも影響を与えていると考えると、やはりマハリシの存在は大きかったのだろうなと感じる。
カバーしているのは、映画音楽でも活躍しているコルカタ出身のシンガーソングライターAnupam Roy.
タブラとバーンスリーを使ったアレンジは、やや安易だが、原曲の良さが映えている。
9. "The Inner Light" Anoushka Shankar, Karsh Kale
原曲はビートルズのメンバーでもっともインドに傾倒していたジョージ・ハリスンによる曲で、インドの楽器のみで演奏されており、歌詞は老子の言葉からとられているという、東洋趣味丸出しの楽曲。
それでもジョンもポールもこの曲の美しさを絶賛しており、ビートルズによる「インド音楽」の最高峰と言っても良いだろう。
ジョージのシタールの師匠でもあるラヴィ・シャンカルの娘アヌーシュカとKarsh Kaleによるカバーは、「こういうことがやりたかったんだろ?まかしときな」という声が聴こえてきそうなアレンジだ。
11. "Back in the USSR" Karsh Kale, Farhan Akhtar
ホワイト・アルバム収録の原曲は、ポールによるビーチボーイズに対するオマージュというかパロディ。
どうしてこのアルバムに選曲されたのだろうと思ったら、どうやらこの曲もリシケーシュ滞在中に書かれたものだったからだそうだ。
当時のリシケーシュにはビートルズのメンバーのみならず、ビーチボーイズのマイク・ラヴも滞在しており、この曲の歌詞には彼の意見も取り入れられているという。
Karshによるドラムンベース的なアレンジは、'00年代のエイジアン・マッシヴ全盛期風で少々古臭くも感じるが、ここはイギリス人がインドでアメリカのバンドにオマージュを捧げて書いたソビエト連邦に関する曲を、タブラ奏者でエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーでもあるKarsh Kaleとボリウッド一家に生まれたFarhan Akhtar(『ガリーボーイ』の監督ゾーヤー・アクタルの弟)がクラブミュージック風にアレンジしているということの妙を味わうべきだろう。
15. "Norwegian Wood (This Bird Has Flown)" Parekh & Singh
1965年のアルバム『ラバーソウル』収録のシタールの響きが印象的な曲(主にジョンが書いたとされている)を、コルカタ出身で世界的な評価の高いドリームポップデュオ、Parekh &Singhがカバー。
シタールが使われていてたメロディーをギターに置き換えて「脱インド化」し、いつもの彼ららしい上品なポップスに仕上げている。
前述の通り、このアルバムの面白いところは、典型的なビートルズ・ソングをインド的なアレンジでカバーするだけではなく、インドっぽい曲をあえて非インド的なアレンジにしている楽曲も収録されているところ。
都市部で現代的な暮らしをしているインド人ミュージシャンたちにとっては、むしろこうした欧米的なポップスやダンスミュージックのほうが親しみのある音像なのだろう。
17. "Love You To" Dhruv Ghanekar
ジョージ・ハリスンがビートルズにはじめてインド伝統音楽の全面的な影響を持ち込んだ曲で、原曲は1966年のアルバム『リボルバー』に収録されている。
オリジナルではシタールやタブラといった楽器のみで演奏されていたこの曲を、ムンバイのギタリストDhruv Ghanekarは、ある程度のインドの要素を残しつつ、ギターやベースやドラムが入ったアレンジで「脱インド化」。
結果的にちょっとツェッペリンっぽく聴こえるのも面白い。
19. "India, India" Nikhil D'souza
これも知らない曲だったが、どうやら晩年(1980年)にジョンが書いた未発表曲で、2010年になってデモ音源がようやくリリースされた曲らしい。
よく知られているように、ジョンはリシケーシュ滞在中にマハリシ・マヘシュ・ヨギの俗物的なふるまいに嫌気がさして訣別し、その後"Sexy Sadie"(このアルバムでもカバーされている)で痛烈に批判している。
ソロ転向後の"God"でも「マントラ(神への賛歌)もギーター(聖典)もヨガも信じない」と、インドの影響を明確に否定しており、私は70年代以降のジョンは、すっかりインド的なものには興味がなくなったものと思っていた。
だが、この曲を聴けば、ジョンが、その後もインドという国に、若干ナイーヴな愛情を持ち続けていたことが分かる。
ラフなデモ音源しか残されていなかったこの曲を、ムンバイのシンガーソングライターNikhil D'Souzaが完成品に仕上げた。
ジョンらしいメロディーが生きた、素敵なアレンジで、インド好きのビートルズファンとしてはうれしくなってしまう。
他にも聴きどころは満載だが、(例えば、ジョン・レノンのソロ作品をパーカッシブなマントラ風に解釈したSoulmateによる"Gimme Some Truth"も、「ジョンってこういうアレンジの曲も書くよね!」と膝を打ちたなる)いつまで経っても終わらなくなってしまうのでこのへんにしておく。
インドのミュージシャンによる欧米ロックのカバーは、70年代にもシタール奏者のAnanda Shankarによるものなどがあったが、いかにもキッチュなエキゾチシズムを売りにしたものだった。
ロックをきちんと理解したアーティストによるロックの名曲をインド的に解釈したカバー・バージョンは、実は私がずっと聴きたかったものでもあった。
(その話はこの記事に詳しく書いてあります)
ビートルズへの53年越しの回答であると同時に、私の23年越しの願望にも答えてくれたこのアルバムを愛聴する日々が、しばらく続きそうだ。
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goshimasayama18 at 22:55|Permalink│Comments(2)
2021年01月12日
Rolling Stone Indiaが選んだ2020年のシングル10選!
Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年の10選シリーズ、今回はベストシングルを紹介します!
(もとの記事はこちら)
このTop 10はこれまでのアルバムやミュージックビデオと比べて、かなりカラーがはっきりしていて、いわゆる洋楽ポップス的なものが中心に選ばれている様子。
ご存知の通り、インドのメインストリーム音楽は映画音楽なので、欧米風のキャッチーなポップスは、インドではインディーミュージックということになる。
そのあたりの音楽ジャンルの「捻れ」も面白いのだが、前置きはこれくらいにして、それではさっそく見てみよう。
1. Chirag Todi feat. Tanya Nambiar, Pushkar Srivatsal “Desire”
インド西部グジャラート州アーメダーバード出身のギタリスト/ヴォーカリストのChirag Todiは、ジャズロックバンドHeat Sinkのメンバーとしても活動している。
この"Desire"はスムースなファンクネスが心地よい一曲で、例によってこれが2020年のインドで最良のシングル曲かと言われると首を傾げたくなる部分もあるが、きっとこのさりげない感じがセンスの良さと評されて選出されたのだろう。
それにしても、aswekeepsearchingといいShashwat Bulusuといい、アーメダーバードはけっこういいミュージシャンを輩出する街だ。
いちどしっかりこの街のシーンを掘ってみないといけない。
共演のPushkar Srivatsalはムンバイの男女ポップデュオSecond Sightの一員、Tanya Nambiarはデリーの女性ヴォーカリストで、ソロでも客演でも活躍している。
2. Tejas “The Bombay Doors”
コロナウイルスによるロックダウンをという逆境を活かして製作された「オンライン・ミュージカル」"Conference Call: The Musicall!"も記憶に新しいムンバイのシンガーソングライター、Tejas Menonの"The Bombay Doors"はファンキーなシンセポップ。
1位のChirag Todiもそうだが、この手のファンキーなポップスを手掛けるインディーアーティストはインドにも結構いて、Justin Bieberあたりの影響(有名過ぎてだれも名前を挙げないが)が結構あるんじゃないかと思う。
3. Dhruv Visvanath “Dear Madeline”
ニューデリーのシンガーソングライターDhruv Visvanathは、パーカッシブなフィンガースタイルギターでも知られるミュージシャン。
アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという。
2018年には"The Lost Cause"がRolling Stone Indiaによるベストアルバム10選にも選出されており、国内外で高く評価されている。
4. Mali “Age of Limbo”
ムンバイのマラヤーリー(ケーララ)系シンガーソングライターMaliの"The Age of Limbo"は、コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中に発表された作品。
5. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"は、Rolling Stone Indiaによる2020年のベストミュージックビデオ(こちら)の第8位にも選ばれていた楽曲。
私の知る限り、ここ数年でベストシングルとベストミュージックビデオの両方に選出されていた楽曲は初めてのはず。
彼らはいつも質の高い楽曲を届けてくれる、安心して聴くことができるバンドのひとつ。
6. Nishu “Pardo”
言わずと知れたコルカタのドリームポップデュオParekh & Singhの一人、Nischay Parekhのソロプロジェクト。
Parekh & Singhは英語のアコースティック・ポップだが、ソロではメロディーセンスはそのままに、ヒンディー語のシンセポップを聴かせてくれている。
7. Kalika “Made Up”
KalikaはプネーのシンガーソングライターPrannay Sastryのソロプロジェクト。
ベストミュージックビデオ部門の1位にも選ばれた女性ソウルシンガーのSanjeeta Bhattacharyaと、マルチプレイヤーJay Kshirsagarをヴォーカルに迎えた"Made Up"は、南インドの古典音楽カルナーティックを思わせるギターリフが印象的な曲。
8. Seedhe Maut x Karan Kanchan “Dum Pishaach”
インドNo.1アンダーグラウンド・ヒップホップレーベルAzadi Records所属のデリーの二人組Seedhe MautがムンバイのビートメイカーKaran Kanchanと組んだ"Dum Pistaach"は、ヘヴィロックっぽいギターを大胆に取り入れた意欲作。
Karan Kanchanはジャパニーズカルチャー好きが高じて、日本にも存在しない「和風トラップミュージック」のJ-Trapを生み出したことでも知られているが、昨今ではヒップホップシーンでも引っ張りだこの人気となっている。
インドとアメコミと日本風の要素が融合したようなビジュアルイメージも面白い。
9. The Lightyears Explode “Satire”
ムンバイのロックバンドThe Light Years Explodeの"Satire"は、エレクトロファンクっぽい要素を取り入れたサウンド。
タイトルは「風刺」という意味だが、風刺の効いた社会的なリリックの曲も多い彼らはパンクバンドと見なされることもあるようで、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドも彼らのことを優れたパンクロックバンドと評していた。
10. Runt – “Last Breath”
RuntはムンバイのシンガーソングライターSiddharth Basrurによるプロジェクトらしい。
彼はこれまでレゲエっぽい楽曲などをリリースしているが、この曲はインストゥルメンタルのヘヴィロック。
これといって特筆すべきところのない曲で、個人的にはトップ10に選ぶべき楽曲とは思わないが、まあそこは選者の好みなのだろう。
全体的にヒップホップ色が薄く、ロック/ポップスが強いのは媒体の性質によるのかもしれない。
英語詞の曲が目立つ(10曲中7曲)のもあいかわらずで、英語以外ではヒンディー語の楽曲しか選ばれていないのも、Rolling Stone Indiaの拠点がムンバイであることと無関係ではないだろう(ムンバイがあるマハーラーシュトラ州はマラーティー語圏だが、ヒンディー語で制作されるエンターテインメントの中心地でもある)。
全体的に、「ソツなく洋楽っぽい」感じの曲が選ばれがちなのは、日本で言う渋谷系っぽい価値観だと見ることもできそうだ。
いずれにしても、今年もなかなか興味深いラインナップではあった。
それでは今回はこのへんで!
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このTop 10はこれまでのアルバムやミュージックビデオと比べて、かなりカラーがはっきりしていて、いわゆる洋楽ポップス的なものが中心に選ばれている様子。
ご存知の通り、インドのメインストリーム音楽は映画音楽なので、欧米風のキャッチーなポップスは、インドではインディーミュージックということになる。
そのあたりの音楽ジャンルの「捻れ」も面白いのだが、前置きはこれくらいにして、それではさっそく見てみよう。
1. Chirag Todi feat. Tanya Nambiar, Pushkar Srivatsal “Desire”
インド西部グジャラート州アーメダーバード出身のギタリスト/ヴォーカリストのChirag Todiは、ジャズロックバンドHeat Sinkのメンバーとしても活動している。
この"Desire"はスムースなファンクネスが心地よい一曲で、例によってこれが2020年のインドで最良のシングル曲かと言われると首を傾げたくなる部分もあるが、きっとこのさりげない感じがセンスの良さと評されて選出されたのだろう。
それにしても、aswekeepsearchingといいShashwat Bulusuといい、アーメダーバードはけっこういいミュージシャンを輩出する街だ。
いちどしっかりこの街のシーンを掘ってみないといけない。
共演のPushkar Srivatsalはムンバイの男女ポップデュオSecond Sightの一員、Tanya Nambiarはデリーの女性ヴォーカリストで、ソロでも客演でも活躍している。
2. Tejas “The Bombay Doors”
コロナウイルスによるロックダウンをという逆境を活かして製作された「オンライン・ミュージカル」"Conference Call: The Musicall!"も記憶に新しいムンバイのシンガーソングライター、Tejas Menonの"The Bombay Doors"はファンキーなシンセポップ。
1位のChirag Todiもそうだが、この手のファンキーなポップスを手掛けるインディーアーティストはインドにも結構いて、Justin Bieberあたりの影響(有名過ぎてだれも名前を挙げないが)が結構あるんじゃないかと思う。
3. Dhruv Visvanath “Dear Madeline”
ニューデリーのシンガーソングライターDhruv Visvanathは、パーカッシブなフィンガースタイルギターでも知られるミュージシャン。
アメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという。
2018年には"The Lost Cause"がRolling Stone Indiaによるベストアルバム10選にも選出されており、国内外で高く評価されている。
4. Mali “Age of Limbo”
ムンバイのマラヤーリー(ケーララ)系シンガーソングライターMaliの"The Age of Limbo"は、コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中に発表された作品。
タイトルの'limbo'の元々の意味は、キリスト教の「辺獄」。
洗礼を受けずに死んだ人が死後にゆく場所という意味だが、そこから転じて忘却や無視された状態、あるいは宙ぶらりんの不確定な状態を表している。
この曲自体はコロナウイルス流行の前に作られたもので、本来は紛争をテーマにした曲だそうだが、期せずして歌詞の内容が現在の状況と一致したことから、このようなミュージックビデオを製作することにしたという。
ちなみにもしロックダウンが起きなければ、Maliは別の楽曲のミュージックビデオを日本で撮影する予定だったとのこと。
状況が落ち着いたら、ぜひ日本にも来て欲しいところだ。
5. When Chai Met Toast “When We Feel Young”
ケーララ州のフォークロックバンドWhen Chai Met Toastの"When We Feel Young"は、Rolling Stone Indiaによる2020年のベストミュージックビデオ(こちら)の第8位にも選ばれていた楽曲。
私の知る限り、ここ数年でベストシングルとベストミュージックビデオの両方に選出されていた楽曲は初めてのはず。
彼らはいつも質の高い楽曲を届けてくれる、安心して聴くことができるバンドのひとつ。
6. Nishu “Pardo”
言わずと知れたコルカタのドリームポップデュオParekh & Singhの一人、Nischay Parekhのソロプロジェクト。
Parekh & Singhは英語のアコースティック・ポップだが、ソロではメロディーセンスはそのままに、ヒンディー語のシンセポップを聴かせてくれている。
7. Kalika “Made Up”
KalikaはプネーのシンガーソングライターPrannay Sastryのソロプロジェクト。
ベストミュージックビデオ部門の1位にも選ばれた女性ソウルシンガーのSanjeeta Bhattacharyaと、マルチプレイヤーJay Kshirsagarをヴォーカルに迎えた"Made Up"は、南インドの古典音楽カルナーティックを思わせるギターリフが印象的な曲。
8. Seedhe Maut x Karan Kanchan “Dum Pishaach”
インドNo.1アンダーグラウンド・ヒップホップレーベルAzadi Records所属のデリーの二人組Seedhe MautがムンバイのビートメイカーKaran Kanchanと組んだ"Dum Pistaach"は、ヘヴィロックっぽいギターを大胆に取り入れた意欲作。
Karan Kanchanはジャパニーズカルチャー好きが高じて、日本にも存在しない「和風トラップミュージック」のJ-Trapを生み出したことでも知られているが、昨今ではヒップホップシーンでも引っ張りだこの人気となっている。
インドとアメコミと日本風の要素が融合したようなビジュアルイメージも面白い。
9. The Lightyears Explode “Satire”
ムンバイのロックバンドThe Light Years Explodeの"Satire"は、エレクトロファンクっぽい要素を取り入れたサウンド。
タイトルは「風刺」という意味だが、風刺の効いた社会的なリリックの曲も多い彼らはパンクバンドと見なされることもあるようで、かつてインタビューしたインド北東部のデスメタルバンドも彼らのことを優れたパンクロックバンドと評していた。
10. Runt – “Last Breath”
RuntはムンバイのシンガーソングライターSiddharth Basrurによるプロジェクトらしい。
彼はこれまでレゲエっぽい楽曲などをリリースしているが、この曲はインストゥルメンタルのヘヴィロック。
これといって特筆すべきところのない曲で、個人的にはトップ10に選ぶべき楽曲とは思わないが、まあそこは選者の好みなのだろう。
全体的にヒップホップ色が薄く、ロック/ポップスが強いのは媒体の性質によるのかもしれない。
英語詞の曲が目立つ(10曲中7曲)のもあいかわらずで、英語以外ではヒンディー語の楽曲しか選ばれていないのも、Rolling Stone Indiaの拠点がムンバイであることと無関係ではないだろう(ムンバイがあるマハーラーシュトラ州はマラーティー語圏だが、ヒンディー語で制作されるエンターテインメントの中心地でもある)。
全体的に、「ソツなく洋楽っぽい」感じの曲が選ばれがちなのは、日本で言う渋谷系っぽい価値観だと見ることもできそうだ。
いずれにしても、今年もなかなか興味深いラインナップではあった。
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goshimasayama18 at 20:39|Permalink│Comments(0)
2020年10月29日
秋深し。女性シンガー特集!
日が落ちるのがすっかり早まり、木々の葉っぱも色づき始めてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!
このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。
最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。
彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。
デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。
続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。
歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!
このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。
最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。
彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。
デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。
続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。
歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
このミュージックビデオは、故郷ケーララに暮らす祖父のもとを尋ねるのんびりとしたロードムービー仕立てになっている。
右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。
どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。
最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。
じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。
…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。
(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。
改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。
タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。
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全編にわたって心地よい秋の風が吹いているような1曲だ。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。
記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。
続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。
彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)
見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。
記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。
続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。
彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)
見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。
右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。
どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。
最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。
じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。
…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。
(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。
こんにちは
— Yosh (U.Owl / Vogmir) (@Yosh_U_owl) October 30, 2020
NidaとMali初めて聴きました。
いいですねー。
インドの女性シンガーソングライターほんとすごい人たち多いですね。それでいて自然体
DITTYのPoetry Ceylonも秋にオススメです。https://t.co/D0u24Ow2vB
改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。
タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。
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goshimasayama18 at 21:25|Permalink│Comments(0)
2020年05月17日
ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その1) ヒップホップから『負けないで』まで
今回の世界的な新型コロナウイルス禍に対して、インドは3月25日から全土のロックダウン(必需品購入等の必要最低限の用事以外での外出禁止)に踏み切った。
これは、日本のような「要請」ではなく、罰則も伴う法的な措置である。
インド政府はかなり早い時期から厳しい方策を取ったのだ。
当初、モディ首相によるこの速やかな判断は高く評価されたものの、都市部で出稼ぎ労働者が大量に職を失い、故郷に帰るために何百キロもの距離を徒歩で移動したり、バスに乗るために大混雑を引き起こしたりといった混乱も起きている。
貧富の差の激しいインドでは、ロックダウンや経済への影響が弱者を直撃しており、多様な社会における対応策の困難さを露呈している。
こうした状況に対し、政府は28兆円規模の経済対策を発表し、民間でもこの国ならではの相互扶助がいたるところで見られているが、なにしろインドは広く、13億もの人口のすみずみまで支援が行き渡るのは非常に難しいのが現実だ。
当初3週間の予定だったインドのロックダウンは、その後2度の延長の発表があり、現時点での一応の終了予定は5月17日となっているが、おそらくこれで解除にはならず、もうじき3度目の延長が発表される見込みである。
インド政府は感染者数によって全インドをレッド、グリーン、オレンジの3つのゾーンに分け、それぞれ異なる制限を行なっているが、ムンバイ最大のスラム街ダラヴィ(『スラムドッグ$ミリオネア』や『ガリーボーイ』の舞台になった場所だ)などの貧困地帯・過密地帯でもコロナウイルスの蔓延が確認されており、日本同様に収束のめどは立っていない。
このような状況下で、インドのミュージシャンたちもライブや外部でのスタジオワーク等の活動が全面的に制限されてしまっているわけだが、それでも多くのアーティストが積極的に音楽を通してメッセージを発表している。
デリーを代表するラッパーPrabh Deepの動きはかなり早く、3月26日にこの "Pandemic"をリリースした。
デリーに暮らすシク教徒の若者のリアリティーをラップしてきた彼は、これまでもストリートの話題だけではなく、カシミール問題などについてタイムリーな楽曲を発表してきた。
彼の特徴である、どこか達観したような醒めた雰囲気を感じさせるリリックとフロウはこの曲でも健在。
ロックダウン同様の戒厳令が続いているカシミールに想いを馳せるラインがとくに印象に残る。
以前は名トラックメーカーのSez on the Beatとコラボレーションすることが多かったPrabh Deepだが、Sezがレーベル(Azadi Records)を離れたため、今作は自身の手によるビートに乗せてラップしている。
Prabh Deepはラッパーとしてだけではなく、トラックメーカーとしての才能も証明しつつあるようだ。
ムンバイの老舗ヒップホップクルーMumbai's FinestのラッパーAceは、"Stay Home Stay Safe"というタイトルの楽曲をリリースし、簡潔にメッセージを伝えている。
かなり具体的に手洗いやマスクの重要性を訴えているこのビデオは、ストリートに根ざしたムンバイのヒップホップシーンらしい率直なメッセージソングだ。
シーンの重鎮である彼が若いファン相手にこうした発信をする意味は大きいだろう。
バンガロールを拠点に活動している日印ハーフのラッパーBig Dealは、また異なる視点の楽曲をリリースしている。
彼はこれまでも、少数民族として非差別的な扱いを受けることが多いインド北東部出身者に共感を寄せる楽曲を発表していたが、今回も北東部の人々がコロナ呼ばわりされていること(このウイルスが同じモンゴロイド系の中国起源だからだろう)に対して強く抗議する内容となっている。
Big Dealは東部のオディシャ州出身。
小さい頃から、その東アジア人的な見た目ゆえに差別を受け、高校ではインド北東部にほど近いダージリンに進学した。
しかし、彼とよく似た見た目の北東部出身者が多いダージリンでも、地元出身者ではないことを理由に、また差別を経験してしまう。
こうした幼少期〜若者時代を過ごしたことから、偏見や差別は彼のリリックの重要なテーマとなっているのだ。
インドでの(そして世界での)COVID-19の蔓延はいっこうに先が見えないが、こうした状況下でも、インドのヒップホップシーンでは、言うべき人が言うべきことをきちんと発言しているということに、少しだけ安心した次第である。
ヒップホップ界以外でも、パンデミックやロックダウンという未曾有の状況は、良かれ悪しかれ多くのアーティストにインスピレーションを与えているようだ。
ムンバイのシンガーソングライターMaliは、"Age of Limbo"のミュージックビデオでロックダウンされた都市の様子をディストピア的に描いている。
タイトルの'limbo'の元々の意味は、キリスト教の「辺獄」。
洗礼を受けずに死んだ人が死後にゆく場所という意味だが、そこから転じて忘却や無視された状態、あるいは宙ぶらりんの不確定な状態を表している。
この曲自体はコロナウイルス流行の前に作られたもので、本来は紛争をテーマにした曲だそうだが、期せずして歌詞の内容が現在の状況と一致したことから、このようなミュージックビデオを製作することにしたという。
ちなみにもしロックダウンが起きなければ、Maliは別の楽曲のミュージックビデオを日本で撮影する予定だったとのこと。
状況が落ち着いたら、ぜひ日本にも来て欲しいところだ。
ロックダウンのもとで、オンライン上でのコラボレーションも盛んに行われている。
インドの古典音楽と西洋音楽の融合をテーマにした男女デュオのMaati Baaniは、9カ国17人のミュージシャンと共演した楽曲Karpur Gauramを発表した。
インド音楽界の大御所中の大御所、A.R.Rahmanもインドを代表する17名のミュージシャンの共演による楽曲"Hum Haar Nahin Maanenge"をリリース。
古典音楽や映画音楽で活躍するシンガーから、B'zのツアーメンバーに起用されたことでも有名な凄腕女性ベーシストのMohini Deyまで、多彩なミュージシャンが安定感のあるパフォーマンスを見せてくれている。
以前このブログで紹介した日印コラボレーションのチルホップ"Mystic Jounetsu"(『ミスティック情熱』)を発表したムンバイ在住の日本人ダンサー/シンガーのHiroko Sarahさんも、以前共演したビートメーカーのKushmirやデリーのタブラ奏者のGaurav Chowdharyとの共演によるZARDのカバー曲『負けないで』を発表した。
インドでも、できる人ができる範囲で、また今だからこそできる形で表現を続けているということが、なんとも心強い限り。
次回は、Hirokoさんにこのコラボレーションに至った経緯やインドのロックダウン事情などを聞いたインタビューを中心に、第2弾をお届けします!
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goshimasayama18 at 15:14|Permalink│Comments(0)
2019年01月25日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベストミュージックビデオTop10!
ベストシングル、ベストアルバムと続いた'Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベスト○○'シリーズ、ひとまず今回でラスト!
今回はミュージックビデオをお届けします。
(元になった記事はこちら:http://rollingstoneindia.com/10-best-indian-music-videos-2018/)
ご存知の通りインドは映画大国ということもあって、映像人材には事欠かないのか、どのビデオもかなりクオリティーの高いものになっている(そうでないものもあるが)。
いずれもベストシングル、ベストアルバムとは重複無しの選曲になっているが、映像だけでなく楽曲もとても質が高いものが揃っていて、インドの音楽シーンの成熟ぶりを感じさせられる。
中世から現代まであらゆる時代が共存する国インドの、最先端の音楽を体験できる10曲をお楽しみください!
Nuka, "Don't Be Afraid"
ダウンテンポの美しいエレクトロポップに重なる映像は、ヒンドゥーの葬送(火葬、遺灰を海に撒く)を描く場面から始まり、死と再生を幻想的に表現したもの。
この音像・映像で内容がインド哲学的なのがしびれるところだ。
本名Anushka Manchanda.
デリー出身の彼女は、タミル語、テルグ語、カンナダ語、ヒンディー語などの映画のプレイバックシンガー(ミュージカルシーンの俳優の口パクのバックシンガー)やアイドルみたいなガールポップグループを経て、現在ではモデルや音楽プロデューサーなどマルチな分野で活躍。
プレイバックシンガー出身の歌手がよりアーティスティックな音楽を別名義で発表するのはここ数年よく見られる傾向で、映画音楽とインディー音楽(「映画と関係ない作家性の強い音楽」程度の意味に捉えてください)の垣根はどんどん低くなっている。
映像作家はムンバイのNavzar Eranee. 彼もまた若い頃から海外文化の影響を大きく受けて育ったという。
Prateek Kuhad, "Cold/Mess"
2015年にデビューしたジャイプル出身のシンガーソングライター。
アメリカ留学を経て、現在はデリーを拠点に活動している。
ご覧の通りの洗練された音楽性で、MTV Europe Music Awardほか、多くの賞に輝いている評価の高いアーティストだ。
インドらしさを全く感じさせないミュージックビデオは、それもそのはず、ウクライナ人の映像作家Dar Gaiによるもの。
どこかインドの街(ムンバイ?)を舞台に撮影されているようだが、この極めて恣意的に無国籍な雰囲気(俳優もインド人だけどインド人っぽくない感じ!)は、この音楽のリスナーが見たい街並みということなのだろうか。
ところで、俳優さんの若白髪はインド的には「有り」なの?
ブリーチとかオシャレ的なもの?
Tienas, "18th Dec"
Prabh Deepらを擁する話題のヒップホップレーベルAzadi Recordsと契約したムンバイの若手ラッパー(まだ22歳)で、以前紹介した"Fake Adidas"と同様、小慣れた英語ラップを聞かせてくれている。
Tienasという名前は、本名のTanmay Saxenaを縮めてT'n'S(T and S)としたところから取られていて、いうまでもなくEminem(Marshall Mathers→M'n'M)が元ネタと思われる。
EminemにおけるSlim Shadyにあたる別人格としてBobby Boucherというキャラクターを演じることもあるようだ。
このミュージックビデオはムンバイの貧民街やジュエリーショップを舞台に、全編が女優によるリップシンクとなっている。
Tienasは男性にしては声が高いので、以前このビデオを見て勘違いして女性ラッパーだとどこかに書いてしまった記憶があるのだが、どこだったか思い出せない…。
That Boy Roby, "T"
2018年にファーストアルバムをリリースしたチャンディガル出身のスリーピースバンドが奏でるのはサイケデリックなガレージロック!
ビデオはただひたすらに90年代のインド映画の映像のコラージュで、インド映画好きなら若き日のアーミル・カーンやシャー・ルクを見つけることができるはず。
なんだろうこれは。我々が昔の刑事ドラマとかバブル期のトレンディードラマをキッチュなものとして再発見するみたいな感覚なんだろうか。
Rolling Stone India誌によると「ハイクオリティーな4分間の時間の無駄」。
全くその通りで、それ以上のものではないが、こういうメタ的な楽しみ方をするものがここにランクインすることにインドの変化を感じる。
Gutslit, "From One Ear To Another"
出た!
昨年来日公演も果たした黒ターバンのベーシスト、Gurdip Singh Narang率いるムンバイのブルータル・デスメタルバンド。
フランク・ミラーのアメリカンコミック"Sin City"を思わせる黒白赤のハードボイルド調アニメーションは、バンドのドラマーのAaron Pintoが手がけたもの。
残虐で悪趣味でありつつ非常にスタイリッシュという、稀有な作品に仕上がっている。
カッコイイ!
Kavya Trehan, "Underscore"
ドリーミーなエレクトロポップを歌うKavya Trehanは女優、モデル、宝石デザイナーとしても活躍するマルチな才能を持った女性で、ダンス/エレクトロニックバンドMoskoのヴォーカリストでもある。
(Moskoには以前紹介したジャパニーズカルチャーに影響を受けたバンドKrakenの中心メンバーMoses Koulも在籍している)
ノスタルジックかつ無国籍な雰囲気のビデオはDivineとRaja Kumariのビデオも手がけたアメリカ人Shawn Thomasが LAで撮影したものだそうな。
今回はミュージックビデオをお届けします。
(元になった記事はこちら:http://rollingstoneindia.com/10-best-indian-music-videos-2018/)
ご存知の通りインドは映画大国ということもあって、映像人材には事欠かないのか、どのビデオもかなりクオリティーの高いものになっている(そうでないものもあるが)。
いずれもベストシングル、ベストアルバムとは重複無しの選曲になっているが、映像だけでなく楽曲もとても質が高いものが揃っていて、インドの音楽シーンの成熟ぶりを感じさせられる。
中世から現代まであらゆる時代が共存する国インドの、最先端の音楽を体験できる10曲をお楽しみください!
Nuka, "Don't Be Afraid"
ダウンテンポの美しいエレクトロポップに重なる映像は、ヒンドゥーの葬送(火葬、遺灰を海に撒く)を描く場面から始まり、死と再生を幻想的に表現したもの。
この音像・映像で内容がインド哲学的なのがしびれるところだ。
本名Anushka Manchanda.
デリー出身の彼女は、タミル語、テルグ語、カンナダ語、ヒンディー語などの映画のプレイバックシンガー(ミュージカルシーンの俳優の口パクのバックシンガー)やアイドルみたいなガールポップグループを経て、現在ではモデルや音楽プロデューサーなどマルチな分野で活躍。
プレイバックシンガー出身の歌手がよりアーティスティックな音楽を別名義で発表するのはここ数年よく見られる傾向で、映画音楽とインディー音楽(「映画と関係ない作家性の強い音楽」程度の意味に捉えてください)の垣根はどんどん低くなっている。
映像作家はムンバイのNavzar Eranee. 彼もまた若い頃から海外文化の影響を大きく受けて育ったという。
Prateek Kuhad, "Cold/Mess"
2015年にデビューしたジャイプル出身のシンガーソングライター。
アメリカ留学を経て、現在はデリーを拠点に活動している。
ご覧の通りの洗練された音楽性で、MTV Europe Music Awardほか、多くの賞に輝いている評価の高いアーティストだ。
インドらしさを全く感じさせないミュージックビデオは、それもそのはず、ウクライナ人の映像作家Dar Gaiによるもの。
どこかインドの街(ムンバイ?)を舞台に撮影されているようだが、この極めて恣意的に無国籍な雰囲気(俳優もインド人だけどインド人っぽくない感じ!)は、この音楽のリスナーが見たい街並みということなのだろうか。
ところで、俳優さんの若白髪はインド的には「有り」なの?
ブリーチとかオシャレ的なもの?
Tienas, "18th Dec"
Prabh Deepらを擁する話題のヒップホップレーベルAzadi Recordsと契約したムンバイの若手ラッパー(まだ22歳)で、以前紹介した"Fake Adidas"と同様、小慣れた英語ラップを聞かせてくれている。
Tienasという名前は、本名のTanmay Saxenaを縮めてT'n'S(T and S)としたところから取られていて、いうまでもなくEminem(Marshall Mathers→M'n'M)が元ネタと思われる。
EminemにおけるSlim Shadyにあたる別人格としてBobby Boucherというキャラクターを演じることもあるようだ。
このミュージックビデオはムンバイの貧民街やジュエリーショップを舞台に、全編が女優によるリップシンクとなっている。
Tienasは男性にしては声が高いので、以前このビデオを見て勘違いして女性ラッパーだとどこかに書いてしまった記憶があるのだが、どこだったか思い出せない…。
That Boy Roby, "T"
2018年にファーストアルバムをリリースしたチャンディガル出身のスリーピースバンドが奏でるのはサイケデリックなガレージロック!
ビデオはただひたすらに90年代のインド映画の映像のコラージュで、インド映画好きなら若き日のアーミル・カーンやシャー・ルクを見つけることができるはず。
なんだろうこれは。我々が昔の刑事ドラマとかバブル期のトレンディードラマをキッチュなものとして再発見するみたいな感覚なんだろうか。
Rolling Stone India誌によると「ハイクオリティーな4分間の時間の無駄」。
全くその通りで、それ以上のものではないが、こういうメタ的な楽しみ方をするものがここにランクインすることにインドの変化を感じる。
Gutslit, "From One Ear To Another"
出た!
昨年来日公演も果たした黒ターバンのベーシスト、Gurdip Singh Narang率いるムンバイのブルータル・デスメタルバンド。
フランク・ミラーのアメリカンコミック"Sin City"を思わせる黒白赤のハードボイルド調アニメーションは、バンドのドラマーのAaron Pintoが手がけたもの。
残虐で悪趣味でありつつ非常にスタイリッシュという、稀有な作品に仕上がっている。
カッコイイ!
Kavya Trehan, "Underscore"
ドリーミーなエレクトロポップを歌うKavya Trehanは女優、モデル、宝石デザイナーとしても活躍するマルチな才能を持った女性で、ダンス/エレクトロニックバンドMoskoのヴォーカリストでもある。
(Moskoには以前紹介したジャパニーズカルチャーに影響を受けたバンドKrakenの中心メンバーMoses Koulも在籍している)
ノスタルジックかつ無国籍な雰囲気のビデオはDivineとRaja Kumariのビデオも手がけたアメリカ人Shawn Thomasが LAで撮影したものだそうな。
お分かりの通り、インド人はインドが好きなのと同じくらい、インドらしくないものが好き。
日本人も同じだよね。
Avora Records, "Sunday"
先日紹介した「インド北東部のベストミュージックビデオ」にも選ばれていたミゾラム州アイゾウルのポップロックバンドがこの全国版にも選出された。
アート的で意味深なミュージックビデオが多く選ばれている中で、同郷の映像作家Dammy Murrayによるポップなかわいさを全面に出した映像が個性的。
Mali, "Play"
チェンナイ出身のケララ系シンガーソングライターMaliことMaalavika Manojは、映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeでの活動を経て、今ではムンバイで活躍している。
幼い頃に音楽を教えてくれたという、彼女の実の祖父と共演したあたたかい雰囲気のビデオはムンバイの映像作家Krish Makhijaによるもの。
彼女の深みのある美しい声(少しNorah Jonesを思わせる)と、確かなソングライティング力が分かる一曲だ。
あと最後に、誰もが気づいたことと思うけど、このMaliさん、かなりの美人だと思う。
まいっちゃうなあ。
Chidakasha, "Tigress"
ケララ州コチ出身のロックバンド。
聞きなれないバンド名はインド哲学やヨガで使われるなんか難しい意味の言葉らしい。
インスピレーションを求めてメンバーがMarshmelloみたいな箱男になったビデオは、いかにもローバジェットだがなかなか愛嬌がある。
3:50あたりからのフュージョン・ロック的な展開も聴きどころ。
Ritviz, "Jeet"
インド音楽の要素を取り入れたプネーのエレクトロニック/ダンス系アーティスト。
下町、オートリクシャー、ビーチ、映画館(そこで見るのは前年のRitvizヒット曲"Udd Gaye")、垢抜けないダンスといったローカル色満載の映像はこのランキングの中でも異色の存在だ。
この「美化されていないローカル感」をB級感覚やミスマッチとして扱うのではなく、そのままフォーキーなダンスミュージックと癒合させるセンスは、とにかくお洒落な方向を目指しがちなインドの音楽シーンではとても珍しく、またその試みは見事に成功している。
この素晴らしいビデオはムンバイの映像作家Bibartan Ghoshによるもの。
以上、全10曲を紹介しました。
見ていただいて分かる通り、Nukaの"Don't be Afraid"やThat Boy Robyの"T"、Maliの"Play"、Ritvizの"Jeet"のように、インド的なものを美しく詩的に(あるいはおもしろおかしく)映したビデオもあれば、逆にPrateek Kuhadの"Cold/Mess"やGutslitの"From One Ear To Another"、Kavya Trehanの"Underscore"のように無国籍でオシャレなものこそを美とするものもあり、「かっこよさ」と「インド的」なものとの距離感の取り方がいろいろあるのが面白いところ。
ところで、いつも気になっているのは、この映像を撮るお金はどこから出ているのかということ。
例えばNukaやPrateek KuhadはYoutubeの再生回数が120万回を超えているが、LAロケのKavya Trehanでさえ再生回数6,000回足らず、That Boy Robyに至っては3,200回に過ぎない。
(それにあのビデオ、著作権関係とか、大丈夫なんだろうか)
映画音楽・古典音楽以外のほとんどの楽曲が大手レコード会社ではなくインディーズレーベル(もしくは完全な自主制作)からのリリースであるインド。
100万を超える再生回数のものは別として、他は制作費用が回収できていなさそうなものばかりだ。
いったいどこからこれだけの映像を撮るお金が出てくるのだろうか。
おそらくだが、その答えのひとつは「家がお金持ち」ということだと思う。
インドのインディーズシーンで活躍しているミュージシャンは、幼い頃から楽器に触れて欧米への留学経験を持つなど、端的に言うと実家が裕福そうな人が多い。
音楽コンテンツ販売のプロモーションのためにミュージックビデオを作るのではなく、もともと金持ちで、良い作品のために惜しげも無くお金と労力をつぎ込むという、千葉のジャガーさん的なアーティストも多いのではないかと思う。
そんな彼らが発展途上のシーンを底上げしてくれているのも確かなので、もしそうだとしてもそれはそれで有りだと思うのだけど、次回はそんなアーティストたちとは全く真逆のインドならではの音楽を紹介したいと思います!
それでは、サヨナラ、サヨナラ。
★1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後にインド北東部ナガランド州の音楽シーンを語るトークイベントを行います
★凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
Avora Records, "Sunday"
先日紹介した「インド北東部のベストミュージックビデオ」にも選ばれていたミゾラム州アイゾウルのポップロックバンドがこの全国版にも選出された。
アート的で意味深なミュージックビデオが多く選ばれている中で、同郷の映像作家Dammy Murrayによるポップなかわいさを全面に出した映像が個性的。
Mali, "Play"
チェンナイ出身のケララ系シンガーソングライターMaliことMaalavika Manojは、映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeでの活動を経て、今ではムンバイで活躍している。
幼い頃に音楽を教えてくれたという、彼女の実の祖父と共演したあたたかい雰囲気のビデオはムンバイの映像作家Krish Makhijaによるもの。
彼女の深みのある美しい声(少しNorah Jonesを思わせる)と、確かなソングライティング力が分かる一曲だ。
あと最後に、誰もが気づいたことと思うけど、このMaliさん、かなりの美人だと思う。
まいっちゃうなあ。
Chidakasha, "Tigress"
ケララ州コチ出身のロックバンド。
聞きなれないバンド名はインド哲学やヨガで使われるなんか難しい意味の言葉らしい。
インスピレーションを求めてメンバーがMarshmelloみたいな箱男になったビデオは、いかにもローバジェットだがなかなか愛嬌がある。
3:50あたりからのフュージョン・ロック的な展開も聴きどころ。
Ritviz, "Jeet"
インド音楽の要素を取り入れたプネーのエレクトロニック/ダンス系アーティスト。
下町、オートリクシャー、ビーチ、映画館(そこで見るのは前年のRitvizヒット曲"Udd Gaye")、垢抜けないダンスといったローカル色満載の映像はこのランキングの中でも異色の存在だ。
この「美化されていないローカル感」をB級感覚やミスマッチとして扱うのではなく、そのままフォーキーなダンスミュージックと癒合させるセンスは、とにかくお洒落な方向を目指しがちなインドの音楽シーンではとても珍しく、またその試みは見事に成功している。
この素晴らしいビデオはムンバイの映像作家Bibartan Ghoshによるもの。
以上、全10曲を紹介しました。
見ていただいて分かる通り、Nukaの"Don't be Afraid"やThat Boy Robyの"T"、Maliの"Play"、Ritvizの"Jeet"のように、インド的なものを美しく詩的に(あるいはおもしろおかしく)映したビデオもあれば、逆にPrateek Kuhadの"Cold/Mess"やGutslitの"From One Ear To Another"、Kavya Trehanの"Underscore"のように無国籍でオシャレなものこそを美とするものもあり、「かっこよさ」と「インド的」なものとの距離感の取り方がいろいろあるのが面白いところ。
ところで、いつも気になっているのは、この映像を撮るお金はどこから出ているのかということ。
例えばNukaやPrateek KuhadはYoutubeの再生回数が120万回を超えているが、LAロケのKavya Trehanでさえ再生回数6,000回足らず、That Boy Robyに至っては3,200回に過ぎない。
(それにあのビデオ、著作権関係とか、大丈夫なんだろうか)
映画音楽・古典音楽以外のほとんどの楽曲が大手レコード会社ではなくインディーズレーベル(もしくは完全な自主制作)からのリリースであるインド。
100万を超える再生回数のものは別として、他は制作費用が回収できていなさそうなものばかりだ。
いったいどこからこれだけの映像を撮るお金が出てくるのだろうか。
おそらくだが、その答えのひとつは「家がお金持ち」ということだと思う。
インドのインディーズシーンで活躍しているミュージシャンは、幼い頃から楽器に触れて欧米への留学経験を持つなど、端的に言うと実家が裕福そうな人が多い。
音楽コンテンツ販売のプロモーションのためにミュージックビデオを作るのではなく、もともと金持ちで、良い作品のために惜しげも無くお金と労力をつぎ込むという、千葉のジャガーさん的なアーティストも多いのではないかと思う。
そんな彼らが発展途上のシーンを底上げしてくれているのも確かなので、もしそうだとしてもそれはそれで有りだと思うのだけど、次回はそんなアーティストたちとは全く真逆のインドならではの音楽を紹介したいと思います!
それでは、サヨナラ、サヨナラ。
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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★1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後にインド北東部ナガランド州の音楽シーンを語るトークイベントを行います
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goshimasayama18 at 21:03|Permalink│Comments(0)