JaisalmerBeats

2022年10月14日

Hiroko Sarahの新曲紹介! 日印コラボとラージャスターニー・フュージョン!



これまでも取り上げてきたムンバイ在住のマルチリンガルシンガー/ダンサーのHiroko Sarahが、6月以降、2曲のオリジナル曲を発表している。
インドのアーティストとコラボレーションした楽曲としては、昨年4月の"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"以来のリリースとなる。

6月に発表した「Shiki No Monogatari 四季の物語」は、2019年の「Mystic Jounetsu ミスティック情熱」以来となるミュージックプロデューサーKushmirとラッパーIbexとの共作による「和」の要素を打ち出した歌ものチル・ヒップホップ。
10月14日にリリースしたばかりの"Mehbooba"はラージャスターン州の伝統芸能コミュニティであるマンガニヤールと共演したフュージョン(インドでは伝統音楽や古典音楽と現代的なサウンドの融合をこう呼ぶ)作品だ。
どちらも非常に興味深いコラボレーションとなっている。


「Shiki No Monogatari 四季の物語」


タブラやインド古典舞踊カタックダンスを大胆に取り入れた"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"とはうってかわって、日本の四季の要素がふんだんに盛り込まれている曲で、ミュージックビデオの色彩も前作のインド的極彩色ではなく、今の日本っぽいポップな雰囲気を心がけたとのこと。


"Mehbooba"


こちらは「Shiki No Monogatari 四季の物語」とはまったく異なるヒンディー語ヴォーカルのフォーク音楽風のダンスチューン。
現時点で公開されているのはリリックビデオのみだが、ミュージックビデオも年明けには公開となるようだ。
この2曲について、そしてインドでの音楽活動について、Hiroko Sarahにインタビューした様子をお届けする。




ーまずは少し前になりますが、6月30日にリリースした「Shiki No Monogatari ー四季の物語ー」について聞かせてください。
タブラやカタックダンスの要素を取り入れていた前作とは対照的に和の雰囲気を前面に出していますが、制作のきっかけや内容について教えてください。

「『Shiki No Monogatari 四季の物語』は、『ミスティック情熱』と同じメンバーの 'チーム・ミスティック情熱'(インド人ラッパー Ibex、インド人ミュージックプロデューサー Kushmir、日本人シンガー Hiroko)のセカンドシングルです。
前回同様チル・ヒップホップをベースに、日本の箏の旋律を取り入れたインストゥルメンタル、日本の四季 '春夏秋冬' をテーマにした歌詞、Hirokoの日本語の歌、そして今作でもIbexは日本語でラップしてます」


ーラッパーのIbexは、第一作の「ミスティック情熱」以来、久しぶりに日本語ラップを披露していますが、ますます上達しているようですね。

「Ibexとは"Mystic Jounetsu", "Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"に続き3曲目のコラボになります。『四季の物語』でのIbexの日本語ラップの発音は前作からさらに上達して、日本のファンや友人たちも驚いていました。Ibex本人の努力の賜物ですね。
作詞にとりかかる前にまず、日本の春夏秋冬それぞれのイメージをIbexに説明しました。インドにも一応季節はありますが、日本とはまた違うイメージなので。日本の四季の美しさや趣をどう表現するかが『四季の物語』のテーマでした」

ー他の参加ミュージシャンについても教えてください。

「ミュージックプロデューサーのKushmirが作る楽曲は、エレクトロニック、ダウンテンポ、チルホップなどのジャンルに大きく影響されていて、ドリーミーでトリッピーな楽曲が彼のシグネチャースタイルです。
彼は"10th Dada Saheb Phalke Film Festival-2020"で 'ベスト・ミュージックビデオ・アワード' も受賞した、才能あふれるミュージックプロデューサーなんですよ」


これがその受賞作品。
Hirokoさんとの共演のイメージを覆す、トランスっぽいエレクトロニック・ミュージックに驚かされる。



クラブミュージックにインドの要素が取り入れられることは珍しくないが、欧米や東アジアのトランス・アーティストの場合、インド的な味付けは、スピリチュアルな雰囲気を出すための道具として使われる場合が多い。
それに比べると、この作品が持つ、インド的でありながらも日常と地続きのサイケデリアは非常に新鮮だ。
インドから新しいセンスと才能が着実に育っていることを感じさせられる。



ー今回は、日本の四季がテーマですが、ムンバイに暮らしていて季節の移り変わりを感じるのはどんなときですか?

「ムンバイはインドの中では比較的穏やかで温暖な気候ですが、やはり季節の移り変わりはあります。短い春、酷暑の夏、雨季、セカンドサマー、冬といった感じですね。
道端で売られている野菜やフルーツで、新しい季節が来たことを感じられます。マンゴーやリーチ(ライチ)、グアバ、イチゴ、赤いにんじんなどを見かけると、もうこの季節が来たかー!と思います。
モンスーンシーズン(雨季)が始まる前の空気のにおい、モンスーンシーズンが終わる頃の雷、気温が下がる冬の夜に街で皆がニット帽をかぶったりたき火で暖を取っていたりと、こういったところでも季節の移り変わりを感じます」


ーさて、今回リリースした"Mehbooba"ですが、こちらはうってかわってラージャスターン音楽とのコラボレーションですね。
こちらの制作の経緯は?
それから、今回共演している「マンガニヤール」の方たちについて教えてください。

「"Aatmavishwas ーBelieve In Yourselfー"では北インド古典音楽とのフュージョンでタブラー奏者とコラボしましたが、次はラージャスターン音楽とのフュージョンが良いなと考えていました。
2011年から、私はラージャスターニーダンスを学ぶため、ジャイサルメールの師匠 故・Queen Harish jiのもとに通っていて、ジャイサルメールやムンバイでのHarish jiのコンサートに出演させていただき、その時に現地のアーティストコミュニティであるマンガニヤールのミュージシャン達とも共演しました。
"Mehbooba"でコラボしたSalim Khan率いるJaisalmer Beatsも、ジャイサルメールを拠点に活動するマンガニヤールのミュージシャン達です。
SailmとJaisalmer Beatsメンバーは、日本でもパフォーマンスをしたことがあるんですよ。
しかし、インドもコロナでコンサートができなくなり、音楽で生計をたてている彼らにとっては厳しい時期が続き、私や日本の友人たちで彼らを支援しました。
コロナが落ち着いてきた昨年、Salimとコラボ楽曲を作ろうという話が盛り上がり、ジャイサルメールから3人のミュージシャンをムンバイに招いて、レコーディングと撮影を行いました」


Hiroko曰く、「"Mehbooba"は、Jaisalmer Beatsが奏でるラージャスターニー・フォークとエレクトロニックなサウンドが融合したフォークトロニカ」。ハルモニウム(鍵盤楽器)、ドーラク(打楽器)、ラージャスターンの伝統楽器モルチャング(口琴)、バパング(弦楽器)、カルタール(打楽器)といったインド楽器がとても印象的に使われている。
当初はもっとEDM寄りのアレンジがされていたようだが、生楽器の良さを活かすために、このアレンジに落ち着いたという。
 
Hirokoが敬称のjiをつけて呼んでいるQueen Harishは、2019年に交通事故で急逝したラージャスターニー・ダンスの名ダンサー。
男性として生まれた彼(彼女)が、女型のダンサーとして活躍するようになった経緯は、パロミタさんの翻訳によるこの生前最後のインタビューに詳しい。


これは彼女がボリウッド映画にダンサーとして出演したシーンの映像だ。

Jaisalmer Beatsの活動は、メンバーのSalimのYouTubeチャンネルで見ることができる。



ー歌詞の内容はどういったものですか?

「この曲はヒンディー語のラブソングで、タイトルの"Mehbooba"はヒンディー語で『最愛の人』という意味です。インド映画の楽曲のように、互いを想い合う男女の掛け合いの歌詞になっています。まずSalimが男性パートを作詞して、男性パートの歌詞にアンサーするような形で女性パートの歌詞を私が作詞しました。古き良きインド映画からヒントを得た歌詞も入れています。
ジャイサルメールを拠点とするイスラム教徒であるSalimは、ウルドゥー語やパンジャーブ語交じりのヒンディー語で作詞し、歌うので、私もそれに合わせてウルドゥー語の言葉を多用しています。ウルドゥー語は言葉の響きが美しく、愛の詩に相応しい言語のひとつです。
YouTubeの字幕で日本語歌詞も見られますので、チェックしてみてください。
今回はまずオーディオとリリックビデオをリリースしましたが、ジャイサルメールのシーズンが始まったら、現地に行って映像・ダンスありのミュージックビデオを撮影してきます。お楽しみに!」


ーこれまでの曲と違って、歌い回しがかなりインド風というか、独特ですが、作曲したり、歌ったりするにあたって難しかった部分はありましたか?


「そうなんです。Salimがこぶしの効いたフォークシンガーなので、曲の流れで違和感が出ないように気を付けたのと、ヒンディー語の先生と一緒に歌詞の発音を何度も練習したおかげかなと思っています。長く練習していた甲斐あって、先生には 'Hirokoの発音パーフェクト' のお墨付きをいただきました!」


ー最近ではパフォーマンスの機会も増えているそうですね。

「はい、日印国交樹立70周年の今年は、たくさんの日印文化交流イベントや日印ジョイント・ベンチャーの企業イベントに呼んでいただいて、Ibexと一緒にステージパフォーマンスをしています。今後も来年までパフォーマンスの予定がいくつか入っています。
2019年に『ミスティック情熱』をリリースした頃には、インドでは英語や日本語ラップよりヒンディー語の歌やラップの方が断然ニーズが高かったのですが、日印文化交流・日印JVの企業イベントでは日本語か英語の歌を求められることが多く、中には 'ヒンディー語やパンジャーブ語の歌は無しで' というリクエストまであるんです。
これまで世間のニーズを気にせず、自分たちの作りたいように日本語・英語ソングを作ってきて良かったなぁと思いました。
もちろん、クライアントさんからヒンディー語ソングのリクエストがあれば対応できます。
今後も、日本語・英語・ヒンディー語と、あらゆる場面でパフォーマンスできるようなバラエティーに富んだ楽曲を作っていきます」


ームンバイのローカルのラッパーたちのプロデュースも続けていますね。

「ムンバイのWadala、Chembur、Govandiのスラムエリアの子供たちの支援を日本のNGO『光の音符』さんとともに以前から支援していますが、その中でラップ好きな男の子たち(Street Sheikh、Revelほか)がラッパーとしてデビューし、楽曲・MVを制作するプロジェクトのサポートもしています。彼らと一緒に結成したストリートヒップホップクルー「Hikari Geet」(Geetはヒンディー語で歌)のYouTubeチャンネルでは、彼らのミュージックビデオを公開しています。
彼らもどんどんラップが上達してアーティストらしくなってきていて、これからますます楽しみです」




ー今後の活動の予定などを聞かせてください。

「今後も、日印文化交流イベントやカレッジフェスティバルなどでのステージパフォーマンスの予定がいくつか入っています。
また、新曲プロジェクトも複数進行中です。マンガニヤールのSalim達とのコラボ第二弾、Ibexとの日印コラボ楽曲2曲(うち1曲はヒンディー語・日本語ミックス)、Hirokoソロのヒンディー語楽曲、Hikari Geetラッパーたちとのコラボなどなど。ソーシャルメディアやYouTubeなどでも最新情報をアップしますので、これからもチェックしてくださいね!」 


Hirokoの楽曲を通して、インドの様々な文化やアーティストの様子が垣間見える。
IbexやKushmirのような現代的なアーティストからJaisalmer Beatsのような伝統音楽の演奏家まで、時代も地域もさまざまなスタイルが混ざり合っているのが、いかにも今のインドらしい。(前作の"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"では古典音楽のタブラ・プレイヤーとも共演している)
彼女自身も「日本人カタックダンサー」という越境アーティストだが、「Shiki No Monogatari 四季の物語」では、Ibexが日本語でラップすることで、逆に日本的な要素を表現しているのも面白い。
音楽には、時代も地域も言語も、さえぎるものはなにもないのだということを改めて感じさせられる。


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goshimasayama18 at 21:55|PermalinkComments(0)