JATAYU

2023年12月28日

2023年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10


今年もインドのインディペンデント音楽シーンがどんどん大きく、面白くなった1年でした。
もはやとても一人の力で掘り続けるのは無理なほどに巨大化してしまったシーンのなかで、これこそが注目すべきトピック(シングル、アルバム、ミュージックビデオ、出来事)だと思ったものを、10個ほど選んで紹介させてもらいます。

10個並べてるけど、順位はとくになし。
ジャンル的にも地理的にも多様化しまくっているインドのシーンから10個トピックを選ぶのはとても難しかったけど、5年後、10年後に振り返った時に、「そうそう!あのときがこのブームのきっかけだったよね」とか「そういえばあんなことあったなあ」と思えそうなものを選んでみたつもり。



Bloodywood来日


まさか去年に続いて今年もBloodywoodの来日を10大トピックの筆頭に挙げることになるとは思わなかった。
彼らが今年6/28に大阪(梅田TRAD)、6/29に渋谷(Spotify O-EAST)で開催したワールドツアーのファイナル公演は凄まじかった。
去年のフジロックの「誰だかよく分からないけど、こいつらスゲエ!」という状態とは異なり、誰もがBloodywoodことを知っていて、高い期待を抱いているという状況の中で、彼らはその予測を軽々と上回るパフォーマンスを披露した。
ギターソロはなく、ドラムセットもバスドラ1つ、タム1つと極めてシンプルな音楽性とステージセットで観客を熱狂させた彼らのスタイルは、新世代ヘヴィミュージックのひとつの雛形としても注目に値するものだった。




JATAYU来日


今年のフジロックでもインドのバンドが優れたパフォーマンスを見せた。
チェンナイのカルナーティック・ジャムバンドJATAYUは前夜祭とField of Heavenに出演。
去年のBloodywoodのような大規模ステージやド派手な音楽性ではなかったこともあり、大きなセンセーションを巻き起こすには至らなかったが、JATAYUは日本のリスナーがこれまで聴いたことがない浮遊感溢れるフレーズとタイトなグルーヴで確かな爪痕を残した。
インタビューによると、彼らはシンガポールのショーケースイベントに出演したときに関係者の目に留まり、フジロックの出演につながったとのこと。
今年リリースした台湾のバンド「漂流出口」との共演曲"The Wild Kids"も、アジア的な混沌をロックで表現した出色の作品だった。
(漂流出口もすごく面白くて良いバンドです)




Sid Sriram "Sidharth"(アルバム)


今年はメインストリームのど真ん中で活躍している映画のプレイバックシンガー(吹き替え歌手)が、相次いで充実したオリジナル(非映画)アルバムを発表した年でもあった。
インドにおいて「インディーズ音楽」とは、「映画音楽ではない音楽」を指す概念だと言っても過言ではない。
メジャーの真ん中で活躍しているアーティストがインディペンデントを志向する時代がインドにやってきたのだ。
カリフォルニア在住のSid Sriramが、現地の(インド系ではない)ミュージシャンと制作した現代的R&Bスタイルのこのアルバムを「インドのインディー音楽」として扱うべきかどうかは悩んだが、こうした背景と内容の素晴らしさを考えれば、この10選から外すわけにはいかないだろう。
カルナーティック音楽をルーツに持つ彼の歌声は信仰に根差した聖性を湛えていて、結果的にゴスペルのような美しさが感じられる。
以前の記事でも紹介したので今回は別の曲をピックアップしたが、アルバム中の"Dear Sahana""Do the Dance"はとくにその傾向が強く、涙が出そうなくらい感動した。


他に今年リリースされたプレイバックシンガーのインディペンデント作品としては、Armaan Malikの"Only Just Begun"も現在進行形のヒンディーポップスのが楽しめる佳作だった。
この作品にはヒップホップビートメイカーKaran Kanchanも参加していて、インディペンデントとメジャーの垣根がますます低くなってきていることを感じさせられた。



KSHMR "Karam"


KSHMRのインドのヒップホップ界への参入は、成長と拡大の一途を辿るシーンへの黒船来航とも言える出来事だった。
世界的に高い評価を得るインド系アメリカ人のEDMプロデューサーである彼は、今作では個々のラッパーの良さを引き出すビートメーカーの役割に徹し、ラテンやインド映画音楽の要素をスパイスとしたトラックの数々に彩られた名作を生み出した。
インドの音楽シーンが国内に閉じているのではなく、グローバルにつながっていることを感じさせるアルバムだ。




Chaar Diwaari X Gravity "Violence"


6月に旅行で来日していたビートメーカーのKaran Kanchanが注目アーティストとして名前を挙げていたのがこのChaar Diwaariだった。
ニューデリー出身のこのラッパーはまだ20歳(!)。
アンダーグラウンドの空気感を濃厚にまとった"Barood""Garam"といった個性的なトラックだけでなく、ギタリスト/ソングライターのBhargと共演したポップな"Roshini"など、アクの強さだけではない豊かな才能を示す楽曲を2023年に多数リリースした。
今後の活躍がもっとも期待されるアーティストの一人である。
KSHMRの"Karam"のような話題作から、彼のような超新星の出現まで、今年もインドのヒップホップシーンは非常に豊作だったと言える。



Ikka Ft.MC STAN "Urvashi"


Ikkaはパンジャービー系パーティーラップシーンで一世を風靡したYo Yo Honey SinghとBadshahを擁したデリーの伝説的ヒップホップクルーMafia Mundeer出身のラッパー。
ド派手で商業的なスタイルで人気を博したHoney SinghやBadshahとは異なり、ヒップホップのルーツに忠実な活動を重ねているIkkaが、マンブルラップ的な新世代フロウをインドに持ち込んだMC STANと共演したのがこの曲。
サウンドの印象としてはIkkaがかなりMC STANに寄せているように聴こえるが、ミュージックビデオを見るとMC STANがパーティーラップ的なスタイルに接近しているようにも見える。
プロデュースはアメリカで活躍するバングラデシュ出身のプロデューサーのSanjoy.
ボリウッドソングのマッシュアップをきっかけに在外南アジア系コミュニティから人気に火がついた彼の起用は、メジャー/インディー、国内/国外の垣根が意味を失いつつあるインドのシーンを象徴する人選だ。

そういえば、今年はHoney Singhがムンバイのストリート出身のスターEmiway Bantaiのプロデュースした楽曲もリリースされた(曲としてはイマイチ)。
ますますボーダレス化が進むインドのヒップホップシーンの今後がますます楽しみだ。



Diljit Dosanjh X SIA "Hass Hass"(シングル) "Ghost"(アルバム)


最近ずっと思っているのが、そろそろバングラーというジャンルを再評価すべき時期が来ているのではないか、ということ。
バングラーは、世界的にはPanjabi MCらが活躍した'00年代前半にブームを迎え、ほどなく下火になったジャンルかもしれないが、北インドでは今日に至るまで継続的に高い人気を誇っている。
インドのみならず、パンジャーブ系住民の多いオーストラリアや北米では、昨今バングラーシンガーがアリーナ規模のライブを成功させている(ただし観客はほぼ南アジア系だが)。
ジャマイカンにとってのレゲエやアフリカ系アメリカ人にとってのヒップホップのように、バングラーはパンジャービーたちの魂の音楽として愛され続けているのだ。
バングラーの特筆すべきところは、愛され続けているだけではなく進化しつづけていることで、Diljit Dosanjhがオーストラリア出身の人気シンガーSIAをフィーチャーしたこの曲は2023年度版バングラーを象徴する楽曲と言えるだろう。
Diljitが今年リリースしたアルバム"Ghost"も23曲入りというとんでもないボリュームで、現代型バングラーラップの理想系を示した作品だった。
昨年Sidhu Moose Walaの死という悲劇を迎えたバングラー界だが、それでもシーンは希望と意欲に満ちており、明るい未来が期待できる。



The Yellow Diary "Mann"


上質なヒンディー語のインディーポップを作り続けているムンバイのバンドThe Yellow Diaryは、この新曲"Mann"で変わらぬセンスの良さを見せつけた。
ボリウッド映画に使われても良さそうなキャッチーなヒンディー語ポップスだが、ジャジーなピアノやギターに彼ら独自の個性が光る。
音楽スタイル的にメジャーとインディーズの中間に位置するバンドであり、洋楽志向に偏りがちなインドのインディーポップシーンでインドらしさ溢れるサウンドを作る彼らは稀有な存在だ。



Sunflower Tape Machine "Rosemary"


インディーロック勢ではチェンナイを拠点に活動するAryaman SinghのソロプロジェクトSunflower Tape Machineがリリースした"Rosemary"の繊細な美しさも素晴らしかった。
楽曲ごとにアンビエント、シューゲイザー、80’s風ポップと作風を変えながら、1年に1、2曲のみリリースするという非常にマイペースな活動を続けている彼の最新作は、アコースティックギター1本で聴かせるフォークポップ。
シンプルこの上ない楽曲をメロディーとハーモニーで聴かせるセンスに痺れた。
日本からインドの音楽シーンをチェックしていて、彼のような完全にインディペンデントな才能に出会えたときの感動はひとしおだ。



Komorebi "The Fall"(アルバム)


デリーを拠点に活動しているKomorebiは、アニメなど日本の文化の影響を受けているTarana Marwahによるソロプロジェクト。
以前からポップなエレクトロニカを聴かせてくれていたが、今作ではぐっとスケール感を増してノルウェーのAURORAのような幻想的で美しい作品を作り上げた。
Easy Wanderlings, Dhruv Visvanath, Blackstratbluesといったインドのインディーズシーンを代表するアーティストのコラボレーションも作品に華を添えている。
こうした無国籍で高品質な楽曲がリリースされているということもインドの音楽シーンの誇るべき部分であり、もっと世界が注目してくれたらいいのにといつも思っている。




というわけで2023年の10選はこんな感じでした。
今年は秋以降のヨギ・シン来日騒動(騒いでいたのは自分だけだが)もあり、シーンをあまり細かくチェックできていなかったので、きっとここに挙げた以外の素晴らしい作品や出来事もたくさんあったことと思う。
次点はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explodeのアルバム"Suburban Prose".
80’s〜90年代前半の雰囲気のあるポップでキャッチーな曲がたくさん入ったアルバムなので、興味がある人はぜひチェックしてみてほしい。
あとコルカタのラッパーCizzyは今年クラシック級の名曲を何曲もドロップしていた。
(例えば"Number One Fan", "Baad De Bhai"
注目されることが少ないベンガル語ラップに正当な評価を与えるためにも選びたかったのだが、ジャンルのバランスを考えて泣く泣く選外とした。


過去2年分の軽刈田セレクトによる年間トップ10もいちおう貼っておきます。
毎年面白くなり続けているインドの音楽シーン、来年はどんな作品がリリースされるのか、ますます楽しみだ。









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goshimasayama18 at 15:03|PermalinkComments(0)

2023年07月21日

今年のフジロックで来日するインドのバンドJATAYUを紹介! メンバーへのインタビュー



先月インドのヘヴィメタルバンドBloodywoodが大盛況の単独来日公演を成し遂げたが、彼らがここ日本で大きな注目を集めたきっかけは言うまでもなく昨年のフジロックフェスティバルだった。
あれから1年。
Foo FightersやLizzoといった大物アーティストの影に隠れてあまり話題になっていないが、今年のフジロックにもインドのバンドが出演する。

2日目の7月29日にオーガニック/ジャムバンド/ワールドミュージックなどの色彩が強いField of Heavenのステージに3番手として出演するJATAYUである。


JATAYU "Sundowner By The Beach"



インドの大叙事詩ラーマーヤナに登場する鳥の王からバンド名をとったJATAYUは、インド南部タミルナードゥ州チェンナイ出身のインストゥルメンタルバンド。
メンバーは、ギターとカンジーラ/ムリダンガム(後2つはどちらも南インドの伝統的な打楽器)を演奏するShylu Ravindran, ギターとアレンジを手がけるSahib Singh, ベースのKashyap Jaishankar, ドラムス担当で、ときに南インドのカルナーティック古典声楽も披露するManu Krishnanの4人で構成されている。
彼らの音楽は、南インドの古典音楽であるカルナーティック音楽を大胆に導入したギター主体のインストゥルメンタルロックで、一般的にはジャズロックバンドと紹介されることが多いようだ。
確かにジャズっぽい要素もあるし、カルナーティック由来の複雑なリズムはプログレッシブロック的でもあるが、柔らかくて芯のあるギターサウンドとリラックスしたグルーヴは、Steve Kimockのようなギター主体のジャムバンドのようにも感じられる。


JATAYU "Salad Days"


フジロックでは彼らの音楽を初めて聴くオーディエンスも多いと思うが、あたたかみのあるギターと人懐っこいグルーヴに、すぐに体を揺らしたくなることだろう。
じつは彼らは昨年9月に関西地方の4か所での来日公演を行なっていて、日本人ピアニスト矢吹卓との共演も果たしている。

JATAYU "No Visa Needed (feat Taku Yabuki)"



彼らの独特の音楽はどこから生まれたのか?
来日公演やフジロックに出演することになった経緯は?
まだまだ謎が多い彼らにインタビューを申し込んだところ、ギターとアレンジを手がけるSahibから二つ返事で快諾の回答があった。
というわけで、フジロックの隠れた目玉アーティスト、JATAYUに、音楽のこと、地元の音楽シーンのこと、フジロック出演のきっかけなど、たっぷりと聞いてみました。



ーまず、バンドについて紹介してもらえますか?

「JATAYUはShylu(ギター/カンジーラ/ムリダンガム)と僕のベッドルーム・プロジェクトとして始まった。2017年に今のラインナップになるまでに、いろいろな変化を経てきたよ。
バンドメンバーは、リードギターのShylu Ravindran、リズムギターのSahib Singh、ベースのKashyap Jaishankar、ドラムのManukrishnan Uだ。」


ーとてもユニークな音楽性ですが、どんなミュージシャンやジャンルから影響を受けたのでしょうか?
ジャズやカルナーティック音楽はもちろん、Grateful Deadのようなジャムバンドやトランスの影響を感じる部分もあるように感じます。


「JATAYUの音楽は、メンバーの多様な背景や音楽的経験の影響が、魅力的に融合したものだと言える。Shyluはカルナーティック音楽に深く根ざした家族の出身で、Mahavishnu Orchestra, John Scofield, そして伝説的なU Shrinivas(カルナーティック音楽のマンドリン奏者)からインスピレーションを受けている。
彼のギターはカルナーティックの深遠さとモダンジャズの要素のユニークな融合を聴かせてくれる。
Mark Knopfler, Red Hot Chili Peppers, Tom Mischに影響を受けた僕(Sahib)は、ファンクやロックやモダンなインディー音楽のスタイルを融合して、ギターにダイナミックでエネルギッシュなアプローチをもたらしている。
ベースのKashyapの音楽的影響にはThe Beatles, Hyatus Kaiyote、そしてRobert Glasperの革新的なジャズのスタイルが含まれている。彼のグルーヴィーなベースラインは、JATAYUの音楽にスムースでメロディックな感触を加えているね。
Manukrishnanの音楽経歴には、カルナーティックのヴォーカルとムリダンガムの鍛錬が含まれていて、最終的にドラマーになったんだ。彼は、Meshuggahのような偉大なプログレッシブメタルバンドや、ムリダンガム奏者のPalghat TS Mani Iyer, そしてアヴァンギャルド・ジャズのPeter Brotzmannから影響を受けているよ。
こうした個人的な影響が合わさって、ジャンルやスタイルの調和がとれた融合が達成されているんだ。」



JATAYUを育んだチェンナイは、古典音楽の都としても知られているが、彼らのようなインディー音楽のシーンはどのようになっているのだろうか。


ーみなさんの地元であるチェンナイの音楽シーンはどんな感じですか?
F16sSkratのようなバンドや、Arivuのようなラッパーなど、才能あるアーティストがいるようですが。

「チェンナイのインディペンデント音楽シーンは活気に満ちていて、多くの才能あるアーティストがオリジナリティのあるサウンドで活動しているよ。でも、僕らが直面している課題のひとつは、自分たちの音楽をプロモーションしたり、演奏したりする場が限られているってことなんだ。ムンバイやベンガルール、ハイデラバードみたいなコンサート会場や演奏機会の多い都市に行くこともよくある。
こういった困難な状況だけど、チェンナイのインディー音楽コミュニティの絆は固くて、アーティストたちは互いに支え合って、協力し合っている。
僕とマヌ(ドラムのManukrishnan)は、ArivuとCasteless Collectiveというバンドでコラボレーションしているし、ManuはF16s(4人編成だがドラマーはいない)のアルバムでドラムを披露しているよ。」



続いて、彼らの音楽を特徴づけている南インドの古典であるカルナーティック音楽について聞いてみた。

ーロックとカルナーティックを融合したミュージシャンといえば、元MotherjaneのBaiju Dharmajanがいますね。カルナーティック・プログレッシブ・ロックのAgamも良いバンドです。
カルナーティックとロックの融合にもいろいろなスタイルがあるようですが、インドには他にもカルナーティックとロックを融合したバンドはいるのでしょうか?
「Baiju DharmajanとAgamはロックとカルナーティック音楽の融合に影響を与えた。彼らのユニークなスタイルは、このジャンルの発展に貢献しているね。彼らの他にも、Karnatriixや、Project Mishramのようなアーティストも、カルナーティックとロックを独自のアプローチで融合している。
他に注目すべき存在としては、ヴォーカリストのShankar Mahadevanと古典楽器ヴィーナの奏者Rajesh Vaidhyaもカルナーティック・フュージョンを実践しているミュージシャンだ。」


JATAYUの音楽が気に入った人は、リンク先からぜひそれぞれのアーティストの音楽を聴いてみてほしい。
めくるめくカルナーティック・フュージョンの世界が広がっている。
ちなみにSahibが名前を挙げたShankar Mahadevanはボリウッド映画の作曲家トリオShankar-Ehsaan-Loyの一人としても知られている。
古典音楽からインドのメインストリーム・ポップスである映画音楽、そして実験的なフュージョン(インドでは、古典音楽と西洋音楽や現代音楽を融合したものをこう呼ぶ)をひとりのアーティストの中で共存しているというのもインドならではである。


ーカルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するとしたら、どのように紹介しますか?
おすすめのミュージシャンがいたら教えてください。
「カルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するなら、M.S. Subbulakshmi(声楽), D.K. Pattammal(声楽), K.V. Narayanaswamy(声楽), M.D. Ramanathan(声楽), Lalgudi Jayaraman(ヴァイオリン)、Palghat T.S. Mani Iyer(ムリダンガム)といった伝説的なアーティストの作品を探求することをお勧めするよ。
こうしたアイコニックな音楽家たちは、カルナーティック音楽の伝統に多大な貢献をしてきたんだ。現代の音楽シーンでも、T.M. Krishna(声楽)がソウルフルな演奏でカルナーティック音楽の真髄を見事に表現している。彼らの音楽は、カルナーティックの豊かな伝統と美しさを垣間見せてくれるはずだよ」


先ほどのフュージョン音楽と比べると、ガチの古典音楽なのでとっつきにくいところもあるかもしれないが、彼らが歌い奏でる音ひとつひとつの深みや、技巧に満ちたリズムとフレーズが織りなす美しさをぜひ味わってみてほしい。


ーすでに2022年に来日公演をしていますが、これはどういった経緯で決まったことなのでしょうか?

「COVID-19によるロックダウンで、最初は打ちひしがれていたんだけど、僕らは自分たちの音楽を国境を超えて広めてみようと決意した。僕らは積極的に機会を探していて、日本の関西ミュージックカンファレンス(2009年から続く、日本と海外のミュージシャンをつなぐための企画)を見つけたときは興奮したよ。
僕らはそこに応募して、フェスティバルに参加することが決まったんだ。僕らは日本でのパフォーマンスに合わせて、タイでのツアーも計画した。ちょうどそのときに、シンガポールからASEAN Music Showcase Festivalへの出演オファーを受けたんだよ。このイベントへの参加を通じて築いた人々とのつながりが、僕らに新しい扉を開いてくれた。」


ー"No Visa Needed"で共演している矢吹卓と知り合ったきっかけは?

「彼とはオンラインで知り合って、プログレッシブ・ジャズが大好きだっていう共通点から、この曲でコラボレーションすることを決めた。彼とこの曲を作るのはとても簡単だったから、"No Visa Needed"と名付けた。来週、東京で彼と初めて直接会う予定なんだ。フジロックでこの曲を初披露できることを楽しみにしているよ。


ーフジロックへの出演はどのように決まったのでしょうか?

「フジロックのオーガナイザーが、シンガポールで開催されたASEAN Music Showcase Festivalでのパフォーマンスを見て、僕らの音楽を見つけてくれたのがきっかけだった。僕らは自分たちの音楽をより多くのオーディエンスと共有して、世界の音楽シーンのアイコニックなイベントに参加できるチャンスだと思った。フジロック出演を決めたのは、新しいオーディエンスを獲得して、日本の活気ある音楽カルチャーを体験したいっていう僕らの情熱によるものだよ」


ーフジロックでは、昨年デリーのメタルバンドのBloodywoodが大人気を博しました。彼らについてはどう思っていますか?

「インドで彼らの衝撃的なライブパフォーマンスを目撃する機会があった。彼らのエネルギッシュなショーは見るべきだね。彼らのようなインドのインディーズ・バンドが世界で旋風を巻き起こしていることに、僕らは興奮している。インドの音楽シーンが成長して知られてゆく過程を目の当たりにできるのは刺激的だし、僕らもこのエキサイティングなシーンの一部でいられることを光栄に思っている。」



ーあなた方のライブについて伺います。即興演奏の要素は多いのでしょうか?
スタジオバージョンとは異なるものになるのでしょうか?


「スタジオ録音では、それぞれの曲のエッセンスと形式をとらえて、まとまりのある形で表現することを目指している。でもライブパフォーマンスでは、曲の全体像はそのままに、メンバーそれぞれの表現や、曲を進化させる余地を作るようにしているんだ。即興的な部分やソロを取り入れて、演奏に個性的なフレイバーを加えているよ。
さらに、会場の雰囲気や環境も僕らのセットのダイナミズムに大きな影響を与える。僕らはテンポやエネルギーの出し方を調整して、さまざまな雰囲気を作ってオーディエンスにいろんな体験をさせるんだ」


ーフジロックで見ることを楽しみにしているアーティストはいますか?

「フジロックの信じられないようなラインナップを見て興奮は高まる一方だよ。Cory WongやCory Henryみたいな、僕らのバンド全員が尊敬している有名ミュージシャンのパフォーマンスを心待ちにしている。
Foo Fighters, GoGo Penguin, Black Midi, Ginger Root, 他にも数えきれないほどの才能あるアーティストたちの魅力的なパフォーマンスがこのフェスを彩ることに感激しているよ。多様なジャンルと素晴らしい才能が見られるフジロックは、参加した人全員にとって忘れられない音楽の旅になるだろうね」


ーJATAYUが出演するField of Heavenはフジロックで最も美しいステージだと思います。
フジロックであなた方のライブを見る観客に何かメッセージをください。
「Field of Heavenの音楽ファンのみんな、この素晴らしいフェスティバルに参加できて光栄です。才能豊かな日本人アーティストの矢吹卓とのコラボレーション"No Visa Needed"を含む特別なパフォーマンスができることにワクワクしている。みんなと音楽を分かち合うのが待ちきれないよ。See you soon!」


現在彼らは来日前に台湾をツアー中。
それにもかかわらず、全ての質問にたっぷりと丁寧に答えてくれた。

彼らのファンキーなグルーヴに乗せたカルナーティックギターサウンドが、Field of Heavenのステージから苗場の大空に響き渡ったら、最高に気持ちいいことだろう。
去年のBloodywood同様に、JATAYUもインドのインディペンデント音楽シーンの素晴らしさとユニークさを、日本のオーディエンスに存分に知らしめてくれるに違いない。
個人的にも、彼らの柔らかいグルーヴとGoGo Penguinの機械的で硬質なグルーヴが続く2日目のヘヴンは、今年のフジロックの見どころのひとつだと思う。

フジロックのオーディエンスには、まだ見ぬ素晴らしい音楽を体験することを楽しみにしている人が多いことと思うが、それならばこのJATAYUは絶対に見逃せないバンドである。



JATAYU "Marugelara"









追記:

カルナーティック音楽の魅力と世界観を味わうには、ムリダンガム奏者を主人公としたタミル語映画"Sarvam Thaala Mayam"もおすすめだが、今のところ日本語字幕版は配信プラットフォームに入っていないようなので、本文中では触れなかった。
同作は、2018年の東京国際映画祭で『世界はリズムで満ちている』というタイトルで公開されたのち、『響け!情熱のムリダンガム』というタイトルで劇場公開されている。
機会があったら是非見てみてほしい。


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