HanuMankind
2024年12月23日
2024年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10
インドのシーンを長くチェックしていると、あまりの急成長っぷりに、今後どんなに面白い曲がリリースされても、もう以前みたいに驚かないかな、なんていう勝手な心配をしてしまうときがある。
幸運なことに、今年もそれは完全な杞憂に終わった。
2024年もインドのインディーズ音楽シーンは大豊作。
例によって、シングルだったりアルバムだったりミュージックビデオだったりいろいろ取り混ぜて、今年のインドのインディーズ・シーンを象徴していると思える10作品を紹介する。
Hanumankind “Big Dawg”(シングル)
今年のインドのインディーズ音楽シーンの話題のひとつだけ選ぶとしたら、どう考えてもこの曲をおいて他にない。
マラヤーリー系(ケーララ州にルーツを持つ)でテキサス育ち、ベンガルールを拠点に活動しているHanumankindは、インドでは少なくない英語でラップをするラッパーの一人だ。
ヒップホップをアメリカの音楽として捉えれば英語ラップこそが正統派ということになるのだが、今更いうまでもなくヒップホップのグローバル化はとっくに完了しいて、このジャンルは世界中でローカル化のフェーズに入っている。
インドでも人気が高いのはヒンディー語やパンジャーブ語などのローカル言語のラップで(ベンガルールならカンナダ語)、インドの英語ラップはローカル言語の人気ラッパーと比べるとYouTubeの再生回数が2ケタくらい低い通好みな存在にとどまっていた。
そこから一気に世界的ヒットへと躍り出てしまったというところにHanumankindのミラクルがある。
今では“Big Dawgs”の再生回数は、彼がリリックの中でリスペクトを込めてネームドロップしたProject Patすらはるかに上回っている。
Kalmiの強烈なビート、ふてぶてしい本格的な英語ラップ、インド人という意外性、そしてCGなしで撮影されたミュージックビデオ(「死の井戸」を意味する'maut ka kuan'というインドの見世物)など、全ての条件がこの奇跡を呼び起こした。
Kalmiの強烈なビート、ふてぶてしい本格的な英語ラップ、インド人という意外性、そしてCGなしで撮影されたミュージックビデオ(「死の井戸」を意味する'maut ka kuan'というインドの見世物)など、全ての条件がこの奇跡を呼び起こした。
年末にはNetflixの"Squid Game2"(イカゲーム2)の楽曲も手がけ、Habumankindはますます波に乗っている。
今後、彼は一発屋以上の成功を手に入れることはできるのか。
他のインドのラッパーたちは彼の成功に続くことができるのか。
1年後に彼が、インドのヒップホップシーンがどういう状況になっているのか今から楽しみだ。Paal Dabba “OCB”(シングル)
インドのヒップホップのビートを時代別に見ていくと、黎明期とも言える2010年代前半は、90年台USラップの影響が強いブーンバップ的なビートが多く、2020年前後からはいわゆる「トラップ以降」のビートが目立つようになってきた。(超大雑把かつ独断によるくくりで、例外はいくらでもあります)
それが、ここにきてディスコっぽいファンキーなビートが目立つようになってきた。
その代表格として、このタミルの新進ラッパーを挙げたい。
ラップ良し、ダンス良し。
タミル語らしい響きのフロウやいかにもタミルっぽいケレン味たっぷりのセンスと、世界中のどこの国でも通用する現代的なクールさを兼ね備えた彼は、この地域の人気ラッパーの常として、映画音楽でも引っ張りだこだ。
タミル語らしい響きのフロウやいかにもタミルっぽいケレン味たっぷりのセンスと、世界中のどこの国でも通用する現代的なクールさを兼ね備えた彼は、この地域の人気ラッパーの常として、映画音楽でも引っ張りだこだ。
インドのヒップホップのトレンドが、ディスコ化といういかにもインド的なフェーズに入ってきたということ、そしてそれがカッコいいということが最高だ。
ミュージックビデオもタミルらしさとヒップホップっぽさ(2Pacみたいな人物が出て来たりする)、ブルーノ・マーズ以降っぽい感覚が共存していて今のインドって感じで痺れる。
Frappe Ash “Junkie”(アルバム)
Frappe Ashはデリーから北に250キロ、ウッタラカンド州デヘラードゥーンという音楽シーンではあまり存在感のない街出身のラッパー。
(以前はデラドゥンと書かれることが多かったと思うが、都市名は言語に忠実な表記をするのがスタンダードになってきているので、ここではデヘラードゥーンとしておく)
調べてみると学園都市であるデヘラードゥーンにはそれなりにラッパーがいるみたいで、若者が多い街には若者文化が栄えているという法則はここでもあてはまるようだ。
彼が今年6月にリリースしたアルバム“Junkie”が素晴らしかった。
このアルバムはディスコ調ありポップなトラックありと、スタイル的にも多様で、かつセンスの良いアルバムなのだが、その1曲目にこのフュージョントラックを入れてきたのにはめちゃくちゃしびれた。
新人ラッパーかと思ったら、音源のリリース時期をチェックしてみると2016年には活動を始めているそこそこのベテラン。
インドの地方都市の音楽シーンも本当にあなどれなくなってきた。
Sez on the Beat、Seedhe Mautらのデリーの人脈やアーメダーバードのDhanjiなど、北インドのかっこいいラッパーとは軒並み繋がっているようで、今作にはゲスト陣も多数参加。
Spotify Indiaによると、インドのヒップホップでもっとも成長が著しい言語はハリヤーンウィー語(デリーにほど近いハリヤーナー州に話者が多い)だそうだが、これまでヒンディー語の音楽シーンに回収されてしまっていた北インド各地の音楽シーンが、自らの言語をビートに乗せる術を得て目覚め始めているのかもしれない。
ハリヤーナーのフュージョンラップでは年末にデリーの名匠Sez on the BeatプロデュースによるRed Bull 64 Barsで衝撃的な"Kakori Kaand"を発表したMC SQUAREもやばかった。
ハリヤーナーのフュージョンラップでは年末にデリーの名匠Sez on the BeatプロデュースによるRed Bull 64 Barsで衝撃的な"Kakori Kaand"を発表したMC SQUAREもやばかった。
Kratex, Shreyas “Taambdi Chaamdi”
マラーティー語は大都市ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州の公用語だが、ムンバイで作られる「ボリウッド映画」がヒンディー語映画を指すことからも分かるように、この街のエンタメはインド最大の市場を持つヒンディー語作品に偏りがちで、音楽シーンでもマラーティー語はそこまで存在感がない。
そんな中で「マラーティー語のハウス」というかなりニッチなジャンルに特化して取り組んできたのがムンバイ出身のDJ/プロデューサーのKratexだ。
そのセンスとクオリティには以前から注目していたが、彼とプネー出身のマラーティー語ラッパーShreyasと共演したこの曲でついに大きな注目を得るに至った。
オランダの名門Spinnin Recordsからリリースされたこの曲は、ユーモアと洒脱さを兼ね備えた音楽性でこれまでにYouTubeで2,000万回に迫る再生回数を叩き出している。
Kratexの曲はBPM130くらいで揃えられていて、サブスクで流しっぱなしにしておくのも楽しい。
Prabh Deep “DSP”(アルバム)
デリーのストリートを代表するラッパーとして彗星のように現れたPrabh Deepだが、じつは数年前に首都から引っ越しており、現在はゴアを拠点に活動している。
街のイメージそのままに、デリー時代は苛立ちを感じさせる殺伐とした曲が多かったが、陽光が降り注ぐ海辺のゴアに越してからの彼はなんか吹っ切れたような印象がある。
日本で言うと、ちょうどKOHHが千葉雄喜になった感じと似ている。
もうひとつKOHHと共通しているのが、Prabh Deepもまたリリックよりも声の良さだけで聴かせる力を持っているということ。
この“Zum”なんて、ほとんど中身がなさそうなリリックだが(超深いことを言っている可能性もなくはないが)、力を抜いた発声でもここまで聴かせる緊張感がある。
タイ在住のアメリカ人ラッパーとの共演というわけがわからない意外性も彼らしい。
タイ在住のアメリカ人ラッパーとの共演というわけがわからない意外性も彼らしい。
バングラーかギャングスタ的なスタイルに偏りがちな他のパンジャービー・シクのラッパーとは一線を画し、自由なヒップホップを追求する姿勢は拠点を移しても変わらない。
Prabh Deepはこれまでも年間ベストで選んでいるので、よほどの作品でなければ選出しないつもりでいたのだが、2021年の"Tabia"とはまったく別の方向性でこれだけのアルバムを作られたら選ばないわけにはいかない。
しかも彼は今年、よりリラックスした作風の"KING Returns"というアルバムもリリースしている。
あいかわらずすごい創作意欲だ。
しかも彼は今年、よりリラックスした作風の"KING Returns"というアルバムもリリースしている。
あいかわらずすごい創作意欲だ。
Wazir Patar “Barks(feat. Azaad 4L)”他(楽曲)
定点観測している、パンジャーブ系のバングラー・ラッパーのヒップホップ化について、今年しびれたのはこの曲。
このジャンルではオンビートで朗々と歌うバングラーのフロウからタメの効いたヒップホップ的なリズムへの以降が進みつつあるが、その2024年的スタイルを聴かせてくれるのがWazir Patarだ。
“Barks”のバングラー的な張りのある発声とラップのスピットの融合に、ギャングスタ的アティテュードをバングラーでどう表現するかという問いに対するひとつの答えが出ている。(そんな問いは俺以外だれもしてないが)
ビートがトラップ系ではなくブーンバップなのも良くて、パンジャービーでシクでギャングスタという彼の個性(いささかありふれていると思わなくもないが)が存分に感じられる。
Sidhu Moose Wala亡き後のシーンはKaran AujlaやShubhらの人気ラッパーがしのぎを削っているが、Wazir Patarもその中で存在感を増しつつある一人だ。
Sambata “Hood Life”(楽曲)
国籍を問わずラッパーの進化というのは割と似たような過程を辿るのかもしれない。
ムンバイ、プネーあたり(マハーラーシュトラ州西側)のストリート系ラッパーのわずか10年あまりの歴史の教科書があるとしたら、DIVINEが1ページ目に載るはずだろう。
彼はハスキーな声で歯切れの良いラップをスピットする、日本で言うとZeebraみたいなスタイルで「ストリートの声」となった。
彼はハスキーな声で歯切れの良いラップをスピットする、日本で言うとZeebraみたいなスタイルで「ストリートの声」となった。
その後に進化系として的確なラップ技術と”Firse Macheyange”に象徴されるポップさなどを兼ね備えたEmiway Bantaiが登場。他のラッパーをディスりまくって名を挙げた。
続いてシーンを賑わせたのは、エモ/マンブル系のMC STANだ。
そこからさらに進化して、2024年の雰囲気を感じさせてくれるラッパーがこのSAMBATAだ。
続いてシーンを賑わせたのは、エモ/マンブル系のMC STANだ。
そこからさらに進化して、2024年の雰囲気を感じさせてくれるラッパーがこのSAMBATAだ。
SAMBATAのラップには、日本でいうとWATSONとかDADAと通じるような雰囲気がある。
ちょっとやさぐれたような、
ちょっとやさぐれたような、
彼もまたマラーティー語ラッパー。まさかこのトップ10にマラーティー語の曲を2曲も選ぶ日が来るとは思わなかったな。
パンジャービー語ラッパー(バングラーではない)のRiar Saabとの共演という視野の広さも良い。
プロデュースはKaran Kanchan. 今回もいい仕事をしている。
パンジャービー語ラッパー(バングラーではない)のRiar Saabとの共演という視野の広さも良い。
プロデュースはKaran Kanchan. 今回もいい仕事をしている。
Raman “Dekho Na”(シングル)
新世代R&Bアーティストもどんどんかっこいい人が出てきている。
その中でもとくに印象に残ったのがこのRaman.
彼は日本でいうと藤井風みたいな雰囲気がある。
ヴォーカリストとしてもソングライターとしても資質があって、声にも色気がある。
このままインディーズでやり続けていても良いし、映画音楽方面に進出しても面白そうだ。
この手のシンガーについては以前この記事で特集している。
Karun, Lambo Drive, Arpit Bala & Revo Lekhak “Maharani”
以前から注目していたインドでたびたび見られるラテン風ラップ/ポップスの一つの到達点とも言える曲。
このテーマで書くなら、よりビッグネームなYo Yo Honey Singhの"Bonita"とか、Badshahが参加した"Bailamos"を挙げてもよかったのだが、彼らは以前からレゲトンなどのラテンの要素を取り入れていたことを知っていたので、今回はサンタナみたいな伝統的ラテンなこの曲をセレクトしてみた。
独特の歌い回しのどこまでがインド要素でどこからがラテン要素なのかが分からなく
ラテン風の楽曲ではタミルのAasamyも良かった。
Dohnraj “Gods & Lowlife”(アルバム)
ロックアーティストとしては唯一の選出となったDohnrajは、デリーを拠点に80年代的なロックサウンドを奏でているシンガーソングライター。
ジャンルの多様性を確保するためにロックから選ぶようなことはしたくなかったし、彼にことは2022年にも年間Top10に選出しているのでそんなに推すつもりはなかったのだが、 9月にリリースされた“Gods & Lowlife”の充実度を考えたら、リストに入れないという選択肢はなかった。
そう来たか!のプログレ風の”If That Don’t Please Ya (Nothing Ever Will)”に始まり、80〜90年代の洋楽的要素をふんだんに取り入れた万華鏡的音世界は、世代のせいかもしれないがとても魅力的だった。
先日の記事にも書いたが、インドのアーティストの過去の洋楽オマージュっぷりはかなり面白く、今後も注目していきたい分野だ。
というわけで、いつも年末ぎりぎりに発表していた年間ベスト10を今年はちょっと早めに発表してみました。
今ムンバイにいて、その様子はとある媒体で書きますが、とても刺激的な出会いと経験を重ねています。
みなさんも良いお年を!
先日の記事にも書いたが、インドのアーティストの過去の洋楽オマージュっぷりはかなり面白く、今後も注目していきたい分野だ。
というわけで、いつも年末ぎりぎりに発表していた年間ベスト10を今年はちょっと早めに発表してみました。
今ムンバイにいて、その様子はとある媒体で書きますが、とても刺激的な出会いと経験を重ねています。
みなさんも良いお年を!
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goshimasayama18 at 13:58|Permalink│Comments(0)
2024年08月15日
インドのヒップホップが世界に知られる日が来たのか? "Big Dawgs"大ヒット中のHanumankindを紹介!
まさかの事態が起きている。
Def Jam India所属のラッパーHanumankindが7月9日にリリースしたシングル"Big Dawgs"が、SpotifyやApple Musicなどの大手サブスクのグローバルチャートで軒並みTop20に入る世界的にヒットを記録しているのだ。
Hanumankind "Big Dawgs" ft. Kalmi
この曲がリリースされてすぐに、私もその異様なかっこよさにシビれて「そろそろインドのラップは世界で聴かれるべき」とツイートしたのだが、まさか本当にこんなビッグヒットになるとは思わなかった。
やばいなー!
— 軽刈田 凡平 (@Calcutta_Bombay) July 10, 2024
その名もHanumankind、インドの英語ラップはそろそろ世界で聴かれるべき。
頭蓋骨を内側から引っ掻くようなビート、インドらしさとヤバさを両立させたMV、冒頭の老人の肖像はヨギ・シンが写真を見せてくることもある初代サイババ。見どころ聴きどころ多すぎる!https://t.co/OxYdnWcnOb
"Big Dawg"は8月14日現在、SpotifyのグローバルTop50で7位にランクインしている。
インド人は人口が多いので、インドでだけ盛り上がっているのが数の論理でチャート上位に食い込んでいるだけなんじゃないのか、と思う人もいるかもしれないが、この曲はUSトップ50でも現在13位。
本物の世界的バイラルを巻き起こしているのだ。
HanumankindことSooraj Cherukatはインド最南部の西側、ケーララ州にルーツを持つ両親のもとに生まれた。
幼い頃に父の仕事の都合で米国に引っ越し、20歳までをテキサス州で過ごしたのち、帰国してタミルナードゥ州の大学に入学。
ゴールドマン・サックスでインターンシップを経験するなど、エリートのキャリアを歩んでいたようだが、その後ITシティとして有名なベンガルールを拠点にラッパーとしての本格的な活動を始めた。
ベンガルールのシーンにはBrodha VやSmokey the Ghost, SIRIなど他にも英語でラップするラッパーが多く、英語でラップするHanumankindにとっても好都合だったのかもしれない。
彼のような帰国子女アーティストはインドのインディーズシーンでたびたび見かけることがある。
とくにインターネットが普及する以前、彼らは海外の最新のサウンドをインド国内に紹介する役割を担っていた。
メインストリームの映画産業を含めて、サウンドに関しては欧米の流行への目配りが効いているインドの音楽シーンだが、いっぽうで歌詞については保守的で、英語の曲がヒットすることは稀だ。
日本のヒット曲が日本語のポップスばかりなのと同様に、インドでも売れるのは地元言語の曲ばかり。
もっぱら英語でラップするHanumankindは、DIVINEやEmiway Bantaiのようなヒンディー語でラップして数千万から数億回の再生回数を叩き出すラッパーと比べると、コアなヒップホップファンに支えられた通好みなラッパーという印象だった。
つまり、「英語でラップする」という彼の(本場っぽく聞こえると言う意味では)強みでもあり、(地元をレペゼンする音楽として受け入れられにくいという)弱みでもある点は、国内でのセールスという点では圧倒的不利に働いていたのだ。
それが、ここにきて世界的マーケットでのまさかの大逆転というわけである。
"Big Dawgs"の印象的なビートはKalmiによるプロデュース。
Kalmiはアーンドラ・プラデーシュ州の海辺の街ヴィシャーカパトナム出身で、現在はテランガナ州のハイデラーバードを拠点に活動している。
いろんな地名が出てきて分かりづらいと思うが、Hanumankindの生まれ故郷ケーララやタミルナードゥ、活動拠点のベンガルールを含めて、ここまで出てきた地名は全て南インドだということだけ覚えてもらえればOKだ。
インドという国は、人口規模や経済規模から、ムンバイやデリーといった北インドの文化・人々が幅を利かせている傾向があるのだが、サウスの人々は総じてそうした状況への反発心が強く、自分たちの文化に誇りを持っている。
"Big Dawgs"のリリックに'The Southern Family gon' carry me to way beyond'というラインがあるが、これは彼が育ったアメリカ南部のことではなく、南インドのことを言っているのである(ダブルミーニングかもしれない)。
まあともかく、同じサウス仲間のKalmiはこれまでもHanumankindと何度も共演していて、この"Rush Hour"のブルースっぽいビートなんて、かなりかっこいい。
Hanumankind "Rush Hour" (Prod. By Kalmi)
この曲のリリックにはWWEの名レスラー、ミック・フォーリーの名前が出てくる。
HanumankindというMCネームは、猿の姿をしたヒンドゥー教の神ハヌマーンとMankind(人類)という英単語を合わせたものだが、マンカインドはミック・フォーリーの別名(別キャラクターとしてのリングネーム)でもあり、おそらく彼が意図したのはこのリングネームのほうだろう。
インドでは総じてプロレス(というかアメリカのWWE)の人気が高い。
だいぶ前にインドでのプロレス人気について記事を書いているので、興味のある方はこちらをどうぞ。(この記事に書いたインドのプロレス団体Ring Ka Kingはその後あえなく消滅)
また話がそれた。
このKalmi、8ビットっぽいサウンドの曲をリリースしていたり、Karan KanchanとJ-Trapの曲でコラボしていたりと、ヒップホップのビートメーカーだけがやりたいタイプではなくて、どちらかというとエレクトロニック畑のアーティストらしい。
Karan Kanchan然り、こうした出自のアーティストがヒップホップのビートを数多く手掛けているところが、インドのヒップホップをビートの面から見た時の面白さと言えるかもしれない。
せっかくなのでHanumankindの他の曲もいくつか紹介してみる。
個人的に非常に好きなのが、タイトルからして最高なこの曲。
Hanumankind x Primal Shais "Beer and Biriyani"
ヘヴィなビートに合わせて、「ビールとビリヤニは最高」というリリック、そしてただビールを飲んでビリヤニを食べるだけのミュージックビデオ、本当に最高じゃないか。
(ちなみに彼が食べているのは故郷のケーララ風のビリヤニ)
この曲をプロデュースしているPrimal Shaisもサウスのケーララ出身。
彼もまたHanumankindとよくコラボレーションしていて、KalmiとともにHanumankindのシグネチャースタイルともいえるミドルテンポのヘヴィなビートを作り上げた一人である。
Hanumankind "Go To Sleep" ft. Primal Shais
HanumankindとPrimal ShaisはベンガルールでのBoiler Roomセッションもやっていて、こちらもかなりかっこいいので、興味がある方はこちらのリンクからぜひどうぞ。
Boiler Roomパフォーマンスを見る限り、Primal Shaisもヒップホップのビートメーカーというよりはエレクトロニックをルーツとして持つプロデューサーのようだ。
HanumankindはBoilerroomでも「南インド最高!」みたいなMCを繰り返していて、やっぱりサウス独特のプライドというかレペゼン意識があるんだなあと再認識。
こちらはまた別の曲。
Hanumankind "Skyline"
彼には珍しいメロウなビートに乗せたラップもなかなかかっこいい。
ところで、Hanumankindのことを最初に知ったのは6年前のこのミュージックビデオだった。
若き日のHanumankindがスーパーマリオの曲に合わせてラップしている。
この曲を見つけた時は、ビートルズのTシャツを着たちょっとナードな雰囲気のラッパーがこんなに変わるとは思わなかった。
このスーパーマリオラップもキュートで最高だけどね。
Hanumankindをきっかけにインドのラッパーが世界で聴かれる時代が来るのか?
国籍の壁の次に、言語の壁が破られる時代は来るのか?
インドだけじゃない、世界の音楽シーンもどんどん面白くなっている。
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goshimasayama18 at 01:54|Permalink│Comments(3)
2022年06月12日
Karan Kanchan大活躍! インド版Red Bull 64 Barsをチェック
Red Bullが世界各地で展開している64 Barsのインド版が面白い。
この企画は「1人のラッパーが、シンプルなビートに乗せて64小節のラップを1発録りで披露する」というもの。
詳しくは書かないが、日本でもZeebra, ANARCHY, Tiji Jojo (BAD HOP)など世代を超えた人気ラッパーがそのスキルを披露しているのでチェックしてみてほしい。
全部見たわけじゃないけど鎮座Dopenessやばかった。
インド版もそうそうたる顔ぶれで、デリー、ムンバイ、ベンガルールなどインド各地から、MC Altaf, Shah Rule(この2人は映画『ガリーボーイ』にもカメオ出演していた), Tienas, Hanumankind, Sikander Kahlonらが参加している。
さらに特筆すべきは、インドではまだまだ少ないフィメール・ラッパーも数多く起用されていること。
日本のRedbull 64 barsがほとんど男性ラッパーなのに対して、インド版がジェンダーバランスにも配慮しているのだとしたら、コンシャスな傾向が強いインドのシーンらしい取り組みだと言える。
(フィメール・ラッパーを女性であるという理由で別枠扱いすることに賛否があることは知りつつも、インドのシーンの現状に鑑みて、あえてこういう書き方とした。ご理解いただきたい)
だが、この企画でラッパー以上に大活躍しているのが、このブログでも何度も紹介してきたビートメーカーのKaran Kanchanだ。
「シンプルなビートと1本のマイク」「10人のラッパーと次々コラボする」というコンセプトゆえ、時間と予算をかけまくった作品を作っているわけではないのだが、それだけに、彼がラッパーの個性や要求に合わせて多様なスタイルのビートを即座に作り上げる能力が際立っている。
最初にリリースされたのは、旧知のMC Altafと共作したこの曲。
"AWW!"
Altafからの最初のリクエストは、2 Chainzが42 Duggと共演した曲("Million Dollars Worth of Game"のことだろう)をレファレンスとして、「インドっぽいサウンドをサンプリングしたハードコアなトラップビート」ということだったらしい。
ブースでリズムをとっている長髪の男性がKaran Kanchanだ。
MC Altafはムンバイ最大のスラム街、ダラヴィ出身の22歳の若手ラッパー。
最近ではトラップ的なビートの曲もリリースしているが、年齢に似合わずルーツはオールドスクールなスタイルで、TBSラジオの『アフター6ジャンクション』で彼の代表曲"Code Mumbai 17"を紹介したときの宇多丸さんのリアクションは「古い!」
これ、2019年の曲なんだけど、かっこいいけど確かにどう聴いても90年代後半サウンド。
今作"AWW!"が、Altafの90'sっぽいスタイルに合ったトラップビートとして見事に仕上がっていることがお分かりいただけるだろう。
インドっぽい要素とKaran Kanchanらしいヘヴィなベースも良いスパイスになっている。
TienasもMC Altaf同様にムンバイのシーンで活躍してきたラッパーのひとり。
彼はガリーラップ(2019年公開の映画『ガリーボーイ』公開以降注目を集めたムンバイのストリートラップ)や商業的なシーンからは距離を置き、ローファイやエクスペリメンタルなビートに英語ラップを乗せるというスタイルを貫いている。
Karan Kanchanと同じムンバイを拠点にしているが、この2人がタッグを組むのは意外にも今回が初めて。
"Demigods"
Tienasのリクエストは「なんでもいいから送ってくれ」だったそうで、Kanchanはかつて二人でPost Maloneのスタイルの多様性についてやりとりしたときのことを思い出してこのビートを作ったそう。
レファレンス にしたのはWill Smithの"Wild Wild West"だそうで、ロックンロールっぽいファンキーな原曲をTienasにぴったりのローファイっぽいビートに仕上げた。
Tienasについては以前この記事で特集している。
この記事以降で聴くべき曲といえば、超強烈な"A Song To Die"をおすすめする。
ベンガルールを拠点に活躍するHanumankindは、かつてはマンガやゲームなどのジャパニーズ・カルチャーの影響を前面に出したアンダーグラウンドな楽曲をリリースしていた個性派。
(この頃の楽曲では、"Super Mario"や"Kamehameha"あたりが衝撃的だ)
最近はよりシリアスなスタイルの楽曲を数多くリリースしており、英語ラッパーではTienasと並ぶ注目株となっている。
HanumankindとKaran Kanchanのコラボレーションも今回が初めてで、両者の良さが余すことなく感じられる佳作に仕上がっている。
"Third Eye Freeverse"
Hanumankindが「ゴスペルっぽい雰囲気がある」と表現するビートは、Karan Kanchanはカニエ・ウエストを意識して作ったもの。
64小節という長いヴァースを聴かせるために入れたというビートチェンジも効いている。
今回初めて知ったラッパーの一人が、インド北部ハリヤーナー州のフィメール・ラッパーAgsy.
"Mother O.G."
Redbullの記事によると、彼女はこれまでレゲエっぽいスタイルで活動してきたそうだが、今回のコラボレーションでは初めてドリル/トラップに挑戦したとのこと。
英語まじりのヒンディーがときに語りっぽくも変化するフロウでラップされているのは、レイプ、音楽業界の政治的問題、レゲエ、愛、そしてヒンディーラッパーとしての彼女の自信だそう。
インド初のフィメールドリルラップを自認している楽曲とのことだ。
ベンガルールのRANJに提供したビートもなかなか小粋だ。
効果的に使われているサックスのループは、KanchanのアドバイスによってRANJ自身が演奏しているものだそうで、ジャジーなスタイルにより深みを与えている。
RanjのパフォーマンスもR&Bっぽい歌唱がアクセントになっていてかっこいい。
"T.G.I.F."のタイトルの通り、金曜日の夜に聴くのにぴったりなサウンドだと思っていたら、タイトルは"The Great Indian Family"の略だそうで(映画"The Great Indian Kitchen"同様にもちろん皮肉だ)、リリックの内容はインドの家庭の保守性や貧困のなかで、自由なく育つ子どもや若者をテーマにしたものだった。
あんまり長くなってもいけないので、今回は全部で10人のラッパーが参加しているこの企画のうち5人のみを紹介させてもらった。
他のアーティストの楽曲も、それぞれ興味深い仕上がりなので、ぜひチェックしてみてほしい。
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この企画は「1人のラッパーが、シンプルなビートに乗せて64小節のラップを1発録りで披露する」というもの。
詳しくは書かないが、日本でもZeebra, ANARCHY, Tiji Jojo (BAD HOP)など世代を超えた人気ラッパーがそのスキルを披露しているのでチェックしてみてほしい。
全部見たわけじゃないけど鎮座Dopenessやばかった。
インド版もそうそうたる顔ぶれで、デリー、ムンバイ、ベンガルールなどインド各地から、MC Altaf, Shah Rule(この2人は映画『ガリーボーイ』にもカメオ出演していた), Tienas, Hanumankind, Sikander Kahlonらが参加している。
さらに特筆すべきは、インドではまだまだ少ないフィメール・ラッパーも数多く起用されていること。
日本のRedbull 64 barsがほとんど男性ラッパーなのに対して、インド版がジェンダーバランスにも配慮しているのだとしたら、コンシャスな傾向が強いインドのシーンらしい取り組みだと言える。
(フィメール・ラッパーを女性であるという理由で別枠扱いすることに賛否があることは知りつつも、インドのシーンの現状に鑑みて、あえてこういう書き方とした。ご理解いただきたい)
だが、この企画でラッパー以上に大活躍しているのが、このブログでも何度も紹介してきたビートメーカーのKaran Kanchanだ。
「シンプルなビートと1本のマイク」「10人のラッパーと次々コラボする」というコンセプトゆえ、時間と予算をかけまくった作品を作っているわけではないのだが、それだけに、彼がラッパーの個性や要求に合わせて多様なスタイルのビートを即座に作り上げる能力が際立っている。
最初にリリースされたのは、旧知のMC Altafと共作したこの曲。
"AWW!"
Altafからの最初のリクエストは、2 Chainzが42 Duggと共演した曲("Million Dollars Worth of Game"のことだろう)をレファレンスとして、「インドっぽいサウンドをサンプリングしたハードコアなトラップビート」ということだったらしい。
ブースでリズムをとっている長髪の男性がKaran Kanchanだ。
MC Altafはムンバイ最大のスラム街、ダラヴィ出身の22歳の若手ラッパー。
最近ではトラップ的なビートの曲もリリースしているが、年齢に似合わずルーツはオールドスクールなスタイルで、TBSラジオの『アフター6ジャンクション』で彼の代表曲"Code Mumbai 17"を紹介したときの宇多丸さんのリアクションは「古い!」
これ、2019年の曲なんだけど、かっこいいけど確かにどう聴いても90年代後半サウンド。
今作"AWW!"が、Altafの90'sっぽいスタイルに合ったトラップビートとして見事に仕上がっていることがお分かりいただけるだろう。
インドっぽい要素とKaran Kanchanらしいヘヴィなベースも良いスパイスになっている。
TienasもMC Altaf同様にムンバイのシーンで活躍してきたラッパーのひとり。
彼はガリーラップ(2019年公開の映画『ガリーボーイ』公開以降注目を集めたムンバイのストリートラップ)や商業的なシーンからは距離を置き、ローファイやエクスペリメンタルなビートに英語ラップを乗せるというスタイルを貫いている。
Karan Kanchanと同じムンバイを拠点にしているが、この2人がタッグを組むのは意外にも今回が初めて。
"Demigods"
Tienasのリクエストは「なんでもいいから送ってくれ」だったそうで、Kanchanはかつて二人でPost Maloneのスタイルの多様性についてやりとりしたときのことを思い出してこのビートを作ったそう。
レファレンス にしたのはWill Smithの"Wild Wild West"だそうで、ロックンロールっぽいファンキーな原曲をTienasにぴったりのローファイっぽいビートに仕上げた。
Tienasについては以前この記事で特集している。
この記事以降で聴くべき曲といえば、超強烈な"A Song To Die"をおすすめする。
ベンガルールを拠点に活躍するHanumankindは、かつてはマンガやゲームなどのジャパニーズ・カルチャーの影響を前面に出したアンダーグラウンドな楽曲をリリースしていた個性派。
(この頃の楽曲では、"Super Mario"や"Kamehameha"あたりが衝撃的だ)
最近はよりシリアスなスタイルの楽曲を数多くリリースしており、英語ラッパーではTienasと並ぶ注目株となっている。
HanumankindとKaran Kanchanのコラボレーションも今回が初めてで、両者の良さが余すことなく感じられる佳作に仕上がっている。
"Third Eye Freeverse"
Hanumankindが「ゴスペルっぽい雰囲気がある」と表現するビートは、Karan Kanchanはカニエ・ウエストを意識して作ったもの。
64小節という長いヴァースを聴かせるために入れたというビートチェンジも効いている。
今回初めて知ったラッパーの一人が、インド北部ハリヤーナー州のフィメール・ラッパーAgsy.
"Mother O.G."
Redbullの記事によると、彼女はこれまでレゲエっぽいスタイルで活動してきたそうだが、今回のコラボレーションでは初めてドリル/トラップに挑戦したとのこと。
英語まじりのヒンディーがときに語りっぽくも変化するフロウでラップされているのは、レイプ、音楽業界の政治的問題、レゲエ、愛、そしてヒンディーラッパーとしての彼女の自信だそう。
インド初のフィメールドリルラップを自認している楽曲とのことだ。
ベンガルールのRANJに提供したビートもなかなか小粋だ。
効果的に使われているサックスのループは、KanchanのアドバイスによってRANJ自身が演奏しているものだそうで、ジャジーなスタイルにより深みを与えている。
RanjのパフォーマンスもR&Bっぽい歌唱がアクセントになっていてかっこいい。
"T.G.I.F."のタイトルの通り、金曜日の夜に聴くのにぴったりなサウンドだと思っていたら、タイトルは"The Great Indian Family"の略だそうで(映画"The Great Indian Kitchen"同様にもちろん皮肉だ)、リリックの内容はインドの家庭の保守性や貧困のなかで、自由なく育つ子どもや若者をテーマにしたものだった。
あんまり長くなってもいけないので、今回は全部で10人のラッパーが参加しているこの企画のうち5人のみを紹介させてもらった。
他のアーティストの楽曲も、それぞれ興味深い仕上がりなので、ぜひチェックしてみてほしい。
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goshimasayama18 at 20:35|Permalink│Comments(0)
2022年01月27日
インディアン・ナード・カルチャーを考えてみる
少し前に読んだ「ブラック・ナード・カルチャー:それは現実逃避(escape)ではない」という記事がめっぽう面白かったので、インドにおけるナード・カルチャー(nerd culture≒オタク文化)について考えてみた。
詳細は(本当に面白いので)各自読んでもらうとして、この「ブラック・ナード論」を自分なりの観点で要約すると、「マジョリティである白人からも、黒人コミュニティの内部からも、マッチョあるいはセクシーな存在であることを強いられていた黒人にとって、ナード(≒オタク)であることは、逃避的な性格を持つものではなく、むしろクリエイティブな姿勢である」ということになる。
記事では、ブラック・ナード・カルチャーの代表者として、ドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)、タイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャンらを挙げている。(記事にも触れられているが、最近では女性ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンもアニメ好きで有名だ)
20年前だったら、ナードな黒人セレブリティーがここまで大勢活躍している状況はまったく想像できなかった。
確かにナード・カルチャーは、アメリカの黒人文化を変えつつあるのだろう。
さて、それではいつもこのブログで紹介しているインドの音楽シーンの場合はどうだろう。
インドのインディーミュージックシーンにも「オタク趣味」を持つアーティストは多い。
例えば、デリーを中心に活動するマスロック/プログレッシヴ・メタルバンドのKrakenは、曲名やビジュアルイメージにも日本の要素を取り入れており、さらにインタビューでは驚くほど日本文化(音楽・映画)に詳しい一面を見せてくれた。
同じくデリーのエレクトロニカ・アーティストのTarana Marwahは、宮崎アニメなどの日本の作品からの影響を公言しており、日本語のKomorebiというアーティスト名で活動している。
ベンガルールのラッパーHanumankindは、最近はシリアス路線に転向しているものの、かつてはゲームやアニメなどのオタクカルチャーをテーマにしたラップを数多く発表していた。
そこまで前面にナード的なルーツを出していないアーティストでも、例えばプネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsは、宮崎駿や久石譲のファンだと語っており、ミュージックビデオにさりげなくトトロのぬいぐるみを登場させている。
日本文化からの影響という意味で言えば、「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tはその究極系とも言える存在だろう。
ムンバイを拠点にインドをマーケットとして活動しながら、彼女は行ったことがない日本のコンビニをイメージした曲を日本語でリリースしている。
ムンバイで活躍する日本人シンガーHiroko Sarahと共演しているラッパーのIbexやKushmirも、インタビューで日本のカルチャーに親しんできたことを語っている。
インドでも、ナード/オタク的カルチャーをインスピレーションの源として、オリジナルな表現に昇華しているアーティストがたくさんいることに間違いはなさそうだ。
その背景を考える前提としてまず理解しなければならないのは、インド社会では、インディーミュージシャンがマッチョさやセクシーさを求められる風潮は、おそらくそこまで強くはないということだ。(一部ヒップホップ勢を除く)
欧米社会では「労働者階級の音楽」「被抑圧者の音楽」であるロックやヒップホップは、インドにおいては、むしろ「欧米の先進国からやってきたハイカルチャー的な音楽」だ。
アニメやゲーム、あるいはマーベルやDCのようなアメリカのコミックを原作とした作品のようなナード/オタクカルチャーも、外来の(ときにクールな)文化という意味では同様である。
インドのインディーミュージシャンは、こうした外来文化に敏感な、インテリ的なアッパーミドル層が中心であり(一部ヒップホップ勢を除く)、その点でアメリカのストリート発祥のブラック・カルチャーとは分けて考えるべきだろう。(もちろんアメリカの黒人アーティストにも富裕層出身者やインテリは多いが…)
じゃあ、インドのナード・カルチャーは、ただの金持ちのオタク趣味なのか。
というと、そうとも言い切れない部分があるはずだ。
インドの大都市に暮らす進歩的な人々が、日本人の平均よりもはるかに欧米的な感覚を持っていることは間違いないが、それでもインド社会の保守性はまだまだ根強い。
親世代と若者の価値観のギャップはインドの映画や文学の永遠のテーマだし、インディー音楽シーンでも、社会の保守性の生きづらさや世代間のすれ違いを扱った曲は多い。
(前回の記事↓で紹介した1位、2位の曲とかね)
ほかにも過剰な格差社会、競争社会であるとか、政治や行政の腐敗や機能不全、コミュニティの対立など、インド社会にはさまざまな問題が山積している。
そうした社会に疲れた若者たちにとって、物語の中に憂き世とはまったく別の小宇宙を見せてくれるオタク/ナードカルチャーは、ある種の避難所的な役割を果たしているのも確かだろう。
それを言ったら、オタク/ナードカルチャーの元になった作品を生み出した日本やアメリカだって、それぞれ固有の社会問題には事欠かないわけで、結局のところ、どこの文化でもオタク/ナード的な異世界が人々を惹きつけることに変わりはないのだけど。
いずれにしても、インド+ナードの組み合わせが、なんだか面白いものを生み出しているってことは間違いない。
例えばこのインドのアニメファンによるYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'の強烈な二次創作は、他の国ではありえないオリジナルっぷりを見せてくれている。
「ガンジャ(大麻)がキマってるみたいなアニメのシーンのコンピレーション」とか、「もしアニメがボリウッドで作られていたら」とか、アニメとインドのインディーミュージックの融合とか、我々の想像を超えたセンスを見せつけてくれる。
例えば、その豪腕を評価されながらもヒンドゥー・ナショナリズム的な姿勢を非難されてもいるモディ首相をネタにしたエヴァンゲリオンのオープニングのパロディなんて、批判的風刺なのだろうけどもう訳がわからない。
とにかく言えるのは、このブログでは「インド+欧米由来のコンテンポラリー音楽」の面白さを追求しているけれど、「インド+オタク/ナードカルチャー」もものすごく面白いってこと。
この混沌のなかから、世界をあっと言わせるようなものすごい作品が生まれてくるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。
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詳細は(本当に面白いので)各自読んでもらうとして、この「ブラック・ナード論」を自分なりの観点で要約すると、「マジョリティである白人からも、黒人コミュニティの内部からも、マッチョあるいはセクシーな存在であることを強いられていた黒人にとって、ナード(≒オタク)であることは、逃避的な性格を持つものではなく、むしろクリエイティブな姿勢である」ということになる。
記事では、ブラック・ナード・カルチャーの代表者として、ドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)、タイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャンらを挙げている。(記事にも触れられているが、最近では女性ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンもアニメ好きで有名だ)
20年前だったら、ナードな黒人セレブリティーがここまで大勢活躍している状況はまったく想像できなかった。
確かにナード・カルチャーは、アメリカの黒人文化を変えつつあるのだろう。
さて、それではいつもこのブログで紹介しているインドの音楽シーンの場合はどうだろう。
インドのインディーミュージックシーンにも「オタク趣味」を持つアーティストは多い。
例えば、デリーを中心に活動するマスロック/プログレッシヴ・メタルバンドのKrakenは、曲名やビジュアルイメージにも日本の要素を取り入れており、さらにインタビューでは驚くほど日本文化(音楽・映画)に詳しい一面を見せてくれた。
同じくデリーのエレクトロニカ・アーティストのTarana Marwahは、宮崎アニメなどの日本の作品からの影響を公言しており、日本語のKomorebiというアーティスト名で活動している。
ベンガルールのラッパーHanumankindは、最近はシリアス路線に転向しているものの、かつてはゲームやアニメなどのオタクカルチャーをテーマにしたラップを数多く発表していた。
そこまで前面にナード的なルーツを出していないアーティストでも、例えばプネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsは、宮崎駿や久石譲のファンだと語っており、ミュージックビデオにさりげなくトトロのぬいぐるみを登場させている。
日本文化からの影響という意味で言えば、「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tはその究極系とも言える存在だろう。
ムンバイを拠点にインドをマーケットとして活動しながら、彼女は行ったことがない日本のコンビニをイメージした曲を日本語でリリースしている。
ムンバイで活躍する日本人シンガーHiroko Sarahと共演しているラッパーのIbexやKushmirも、インタビューで日本のカルチャーに親しんできたことを語っている。
インドでも、ナード/オタク的カルチャーをインスピレーションの源として、オリジナルな表現に昇華しているアーティストがたくさんいることに間違いはなさそうだ。
その背景を考える前提としてまず理解しなければならないのは、インド社会では、インディーミュージシャンがマッチョさやセクシーさを求められる風潮は、おそらくそこまで強くはないということだ。(一部ヒップホップ勢を除く)
欧米社会では「労働者階級の音楽」「被抑圧者の音楽」であるロックやヒップホップは、インドにおいては、むしろ「欧米の先進国からやってきたハイカルチャー的な音楽」だ。
アニメやゲーム、あるいはマーベルやDCのようなアメリカのコミックを原作とした作品のようなナード/オタクカルチャーも、外来の(ときにクールな)文化という意味では同様である。
インドのインディーミュージシャンは、こうした外来文化に敏感な、インテリ的なアッパーミドル層が中心であり(一部ヒップホップ勢を除く)、その点でアメリカのストリート発祥のブラック・カルチャーとは分けて考えるべきだろう。(もちろんアメリカの黒人アーティストにも富裕層出身者やインテリは多いが…)
じゃあ、インドのナード・カルチャーは、ただの金持ちのオタク趣味なのか。
というと、そうとも言い切れない部分があるはずだ。
インドの大都市に暮らす進歩的な人々が、日本人の平均よりもはるかに欧米的な感覚を持っていることは間違いないが、それでもインド社会の保守性はまだまだ根強い。
親世代と若者の価値観のギャップはインドの映画や文学の永遠のテーマだし、インディー音楽シーンでも、社会の保守性の生きづらさや世代間のすれ違いを扱った曲は多い。
(前回の記事↓で紹介した1位、2位の曲とかね)
ほかにも過剰な格差社会、競争社会であるとか、政治や行政の腐敗や機能不全、コミュニティの対立など、インド社会にはさまざまな問題が山積している。
そうした社会に疲れた若者たちにとって、物語の中に憂き世とはまったく別の小宇宙を見せてくれるオタク/ナードカルチャーは、ある種の避難所的な役割を果たしているのも確かだろう。
それを言ったら、オタク/ナードカルチャーの元になった作品を生み出した日本やアメリカだって、それぞれ固有の社会問題には事欠かないわけで、結局のところ、どこの文化でもオタク/ナード的な異世界が人々を惹きつけることに変わりはないのだけど。
いずれにしても、インド+ナードの組み合わせが、なんだか面白いものを生み出しているってことは間違いない。
例えばこのインドのアニメファンによるYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'の強烈な二次創作は、他の国ではありえないオリジナルっぷりを見せてくれている。
「ガンジャ(大麻)がキマってるみたいなアニメのシーンのコンピレーション」とか、「もしアニメがボリウッドで作られていたら」とか、アニメとインドのインディーミュージックの融合とか、我々の想像を超えたセンスを見せつけてくれる。
例えば、その豪腕を評価されながらもヒンドゥー・ナショナリズム的な姿勢を非難されてもいるモディ首相をネタにしたエヴァンゲリオンのオープニングのパロディなんて、批判的風刺なのだろうけどもう訳がわからない。
とにかく言えるのは、このブログでは「インド+欧米由来のコンテンポラリー音楽」の面白さを追求しているけれど、「インド+オタク/ナードカルチャー」もものすごく面白いってこと。
この混沌のなかから、世界をあっと言わせるようなものすごい作品が生まれてくるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。
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goshimasayama18 at 18:07|Permalink│Comments(0)
2022年01月07日
Rolling Stone Indiaが選んだ2021年のベストシングル10曲!
あけましておめでとうございます。
気がつけば2021年も終わり、2022年が始まってしまいましたが、例によって、昨年末、Rolling Stone Indiaによるインドの音楽シーンの年間ベストシングル10曲が発表されたので、今年も紹介してみたいと思います。
前回は、わたくし軽刈田が選出した年間10選をお届けしているので、外国人目線の10選と、インドの都市の若者向けカルチャー誌の10曲を聴き比べてみるのも面白いはず。
いつもながら、Rolling Stone India誌のセレクトは洋楽的な洗練を志向した楽曲が多く、インドの都市の若者文化を牽引するメディアならではのセンスが楽しめます。
それではさっそくチェックしてみましょう!
1. Vasundhara Vee “Run”
ムンバイのR&B/ソウル/ジャズシンガー。
オリジナル曲はまだこの"Run"しかリリースしていないようだが、彼女の実力を示すには、
この一曲で十分だったようだ。
イントロのアカペラの堂々たる歌いっぷりを聴けば、高い評価の理由は簡単に理解できるだろう。
こういうタイプの本格的なジャズやソウルが歌えるシンガーはこれまでインドにいなかった。
決して派手な音楽性ではなく、トレンドを追うようなタイプでも無さそうだが、これから先インド国内や海外でどのような受け入れられ方をしてゆくのだろうか。
例えばエイミー・ワインハウスみたいな「危なっかしい魅力」があれば、大きな注目を集めることもできそうだが、どちらかというと彼女は堅実なタイプのようだ。
いずれにしても、今後非常に気になる存在である。
2. Sunflower Tape Machine “Sophomore Sweetheart”
Sunflower Tape MachineはチェンナイのアーティストAryaman Singhのソロプロジェクト。
基本的には電子音楽アーティストとして活動しつつ、この曲のようにバンドを交えた形態で楽曲をリリースすることもあるようだ。
サイケデリックでレトロな質感のエレクトロニック・ポップは、こちらもまた別の意味でインドらしからぬ音楽性。
ミュージックビデオを見る限り、彼の音楽性と同様に、無国籍的な都会生活をしている人物のようだ。(ビデオの最初の方に、寿司を食べる様子も出てくる)
それにしても、近年インドのインディーミュージックシーンで80年代的な映像をやたらと目にするようになった。
80年代のインドは経済解放政策を取り入れる前で、例えば家庭用ビデオカメラなどは極めて入手しづらい時代だった。
実際は、こうした懐古的な映像で表されるような80年代はインドにはほとんど存在しなかったと言っていい。
だからこそというべきか、持ち得なかった過去への架空のノスタルジーとしての80年代ブームが来ているのかもしれない。
日本でも90年代に、60年代や70年代の洋楽的なサウンドがもてはやされたりしたことがあったが、それと同じような現象とも言えるだろうか。
3. Hanumankind “Genghis”
ベンガルールのアンダーグラウンド・ラッパーが3位にランクイン。
これまで、日本のアニメを題材にするなど、かなりサブカル寄りなラップをリリースしていたHanumankindが化けた。
(過去のHanumankindについてはこちらから)
ソリッドなビートに、確実に言葉をビートに乗せてゆくラップ。
技巧にも音響にも走らずに、まるで詩人のようにリリックを紡いでゆくその姿勢は、インドの英語ラッパーではかなり珍しい部類に入る。
今年は同郷のSmokey the Ghostも充実した作品を数多くリリースしていた。
これまで、インドのヒップホップシーンはムンバイやデリーのヒンディー語(あるいはパンジャービー語)ラッパーが牽引してきたように思うが、ここに来てベンガルールの英語ラップシーンも燃え上がりつつあるようだ。
4. The Lightyears Explode – “Nostalgia 99”
4位はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explode.
かつてはパンク的なアティテュードを感じさせる楽曲が多かったが、ここ最近は明確にレトロ調のダンスポップを意識した曲作りを行っている。
それが単に懐古趣味によるものなのか、ヴェイパーウェイヴのようなある種の批評性を持ったものなのかは今ひとつ分かりづらいが、いずれにしてもこうしたサウンドが今のインドで「クールなもの」として受け入れられているというのは確かなようだ。
この曲も1999年頃を懐かしむ内容の歌詞に反して、サウンドはかなり80's的。
5. Swarathma “Dus Minute Aur”
5位にようやく英語以外のインドの言語で歌う楽曲がランクイン。
Swarathmaはベンガルールのフォークロックバンド。
インドには、自国の伝統音楽と西洋のロックを融合した「フュージョン・ロック」バンドが数多くいるが、彼らがユニークなのは、いわゆる宮廷音楽的な古典音楽ではなく、より土着的な民謡をロックと融合しているところ。
70年代のイギリスのロックで例えると、クラシックの影響を受けたリッチー・ブラックモア(Deep Purple, Rainbow)や、オペラとロックの融合を試みたQueenではなく、イギリスやアイルランドの民謡を現代風に演奏したPentangleやFairport Conventionに近いと言えるかもしれない(と書いても一部のおっさんしか分からないが)。
他の古典音楽系のフュージョンロックバンド(例えばこの記事を参照)と比べると、その歌い回しは実に独特で、正直に言うと、日本人のロックリスナーの耳で聴いて、かっこいいと思えるかどうかは微妙なところだ。
この曲はオリジナル曲で、睡眠の大切さを訴える内容だという。
なんだかますます分からなくなってきたが、Rolling Stone Indiaからの評価は高く、2018年にも彼らのアルバム"Raah e Fakira"がベストアルバムの一枚に選ばれている。
なんにせよ、都会の若者向けの媒体で、欧米風の音楽だけでなく、伝統文化の要素を色濃く残した音楽がきちんと評価されているっていうのは喜ばしいことだと思う。
改めて聴くと、ポストロック的に始まってハードロック的に展開し、美しいハーモニーも入って来るアレンジがなかなかに秀逸。
ちなみに彼らがカバーする伝統音楽はインド各地におよび、ベンガルの大詩人タゴールの曲もカバーしている。
6. Jaden Maskie “Rhythm Of My Heart”
ゴアを拠点に活動するシンガーソングライターによるR&B風味の楽曲。
5位のSwarathmaとはうってかわって、いかにもRolling Stone Indiaが選びそうな曲だ。
キャッチーなメロディーとダンサブルなアレンジはいかにも現代のグローバルなポップミュージックで、ちょっとK-Popっぽくもあるけれどそう聞こえないのは、憂いを帯びた彼の声のせいだろう。
それにしても、こう言ってはなんだが、冴えない理系の大学生みたいな見た目の彼がこんな気の利いたポップスを歌うなんて、インドも変わったものだとつくづく思わされる。
7. Karshni “daddy hates second place”
Karshniはプネーのシンガーソングライター。
ピアノの伴奏で美しく歌う内容は、子どもに期待しすぎるあまり、一位以外は認めなくなってしまっている父親についてとのこと。
今のインドに、英語で歌う弾き語り系のシンガーソングライターは本当に多いが、リスナー層が厚いジャンルではないので、一部を除いてそこまで多くのリスナーを獲得しているとは言い難い状況だ。
だが、彼ら/彼女たちの多くは、商業的な成功よりもアーティストとしての表現を重視しているようで、彼女のように優れた才能も少なからず存在するので見逃せない。
8. Adrian D’souza, Neuman Pinto “Never Let it Go”
ムンバイのドラマーとシンガーソングライターのコラボレーションによる、さわやかなシティポップ風の楽曲。
名前を見る限り、どちらもクリスチャンのようだ。
D'souzaもPintoもインドのクリスチャンに多い姓で、音楽界では、やはりムンバイを拠点にセンスの良い楽曲を作っているNikhil D'souzaというシンガーもいる。
インド洋を望むマリン・ドライブあたりを運転しながら聴いたら最高の気分が味わえるだろう。
9. Albatross "Neptune Murder"
ムンバイのAlbatrossは、かなりドラマティックな構成の楽曲を特徴とするメタルバンド。
2008年結成というから、インドではなかなか古株のバンドということになる。
プログレッシブ・メタル的な部分もあるが、過剰なテクニカルさはなく、芝居がかったクセの強いヴォーカルの印象が強い。
全体的な雰囲気は、欧米のバンドで言うとデンマーク出身のKing Diamondに似ている。
2021年にこういうサウンドを奏でるバンドも、2021年にこの曲をベスト9に選出するRolling Stone Indiaも、個人的には決して嫌いではない。
10. Krishna.K, AKR "Butterflies"
チェンナイのシンガーソングライターKrishna.KとプロデューサーのAKRのコラボレーション。
アコースティックで軽やかなサウンドに絡むサイケデリックなシンセが印象的なドリームポップ的な曲。
Rolling Stone Indiaによると、「今なお求められている、そよ風のように心地よいオールドスクールなポップのアレンジによる現実逃避」とのこと。
“A thousand butterflies could fly us away on a chariot of gold through the mystic galaxy.”という歌い出しのフレーズがインド的(神話的)に聞こえるような気がしなくもない。
というわけで、今回はいかにもRolling Stone Indiaっぽい英語ポップスを中心に、インドのインディペンデント・シーンに特徴的な80年代テイストを感じさせる楽曲が目立つ結果となった。
Swarathma以外は、言われなければインドのアーティストだと分からない楽曲ばかりで、いわゆる洋楽ポップス的なセンスの良さが年々進化していることが一目瞭然だ。
Albatross以外は、オシャレな服屋とかカフェでかかっていても違和感なく聴けるレベルに達していると思うが、それは同時にグローバルな市場で圧倒的な差別化ができる個性の欠如ということでもあり、その殻をどこまで破れるかが、今後のインドのアーティストの課題となってくるのかもしれない。
いずれにしても、変わり続けるインドの都市部のカルチャーがリアルに伝わってくる面白い選曲であることは確かで、こうしたインドのステレオタイプから大きく外れた音楽シーンはますます拡大してゆくことになるだろう。
一昨年2020年のRolling Stone Indiaが選んだベストシングル10選はこちら
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goshimasayama18 at 21:35|Permalink│Comments(0)
2021年09月05日
あらためて、インドのヒップホップの話(その3 ベンガルール編 洗練された英語ラップとカンナダ・マシンガンラップ)

インドのヒップホップを都市別に紹介するこのシリーズの3回目は、インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール。
(日本では 「バンガロール」という旧称のほうがまだなじみがあるが、2014年に州の公用語カンナダ語の呼称である「ベンガルール」に正式に改称された)
デカン高原に位置する都市ベンガルールは、インドでは珍しく年間を通じて安定したおだやかな気候であり、イギリス統治時代には支配階級の英国人たちの保養地として愛された。
かつては「インドの庭園都市」という別名にふさわしい落ち着いた街だったようだが、20世紀末から始まったIT産業の急速な発展は、この街の様子を一変させてしまった。
1990年に400万人ほどだった人口は、今では1,300万人に迫るほどに急増。
世界的なソフトウェア企業のビルが立ち並ぶベンガルールは、ムンバイとデリーに次ぐインド第3の巨大都市となった。
国際的な大都市にふさわしく、この街のヒップホップシーンには、英語ラップを得意とするラッパーが数多く存在している。
例えば、Eminemによく似たフロウでヒンドゥー教のラーマ神への信仰をラップするBrodha V.
コーラスのメロディーはラーマを称える宗教歌で、アメリカにクリスチャン・ラップがあるように、インドならではのヒンドゥー・ラップになっている。
Brodha V "Aatma Raama"
彼はこのブログでいちばん最初に紹介したラッパーでもある。
Siriは前回紹介したデリーのAzadi Records所属。
ムンバイのDee MCや北東部のMeba Ofiliaと並んで、インドを代表するフィメール・ラッパーだ。
Siri "Live It"
かつてはBodha Vと同じM.W.Aというユニットに所属していたSmokey the Ghostは、わりと売れ線の曲も手がけるBrodha Vとは対照的に、アンダーグラウンド・ラッパーとしての姿勢を堅持している。
彼はかつてマンブル・ラッパーたちを激しくディスったこともあり、90年代スタイルのラップにこだわりを持っているようだ。
Smokey the Ghost & Akrti "YeYeYe"
この"Hip Hop is Indian"は、インド全土のラッパーの名前やヒップホップ・クラシックのタイトルを、北から南まで、コマーシャルからアンダーグラウンドまでリリックに織り込んだ、インドのシーン全体を讃える楽曲だ。
Smokey the Ghost "Hip Hop is Indian"
ちなみに彼が所属していたM.W.Aは、言うまでもなくカリフォルニアの伝説的ラップグループN.W.A(Niggaz with Attitude)から取られたユニット名で、'Machas with Attitude'の略だという。
'Macha'はベンガルールのスラングで、「南部の野郎ども」といった意味だそうだ。
ベンガルールで活躍している英語ラッパーには、他の地域にルーツを持つラッパーも多い。
インド東部のオディシャ州出身の日印ハーフのラッパーBig Dealもその一人だ。
この"One Kid"では、彼が生まれ故郷のプリーではその見た目ゆえに差別され、ダージリンの寄宿学校にもなじめず、ベンガルールでラッパーとなってようやく自分の生きる道を見出した半生をそれぞれの街を舞台にラップしている。
Big Deal "One Kid"
インド南西部のケーララ州出身、テキサス育ちのHanumankindもベンガルールを拠点として活動する英語ラッパーだ。
Hanumankind "DAMNSON"
彼はジャパニーズ・カルチャー好きという一面もあり、この曲ではスーパーマリオブラザーズのあの曲に乗せて、Super Saiyan(スーパーサイヤ人)とか「昇竜拳」といった単語が散りばめられたラップを披露している。
Hanumankind "Super Mario"
ベンガルールで英語ラップが盛んな理由を挙げるとすれば、
- 世界中から人々が集まり、英語が日常的に話されている国際都市であるということ
- ベンガルールが位置するカルナータカ州の言語であるカンナダ語は、インドの中では比較的話者数の少ない言語であるということ(カンナダ語の話者数は4,000万人を超えるが、それでもインドの人口の3.6%に過ぎず、最大言語ヒンディー語の5億人を超える話者数と比べると、かなりローカルな言語である)
- 他地域から移り住んできたラッパーも多く、彼らは自身の母語でラップしてもベンガルールで支持を受けることは難しく、またローカル言語のカンナダ語もラップできるほどのスキルも持ち合わせていないと思われること
もちろん、ここに紹介したラッパーの全員が常に英語ラップをしているわけではなく、Siriは"My Jam"のコーラスでカンナダ語を披露しているし(全曲カンナダ語の曲もリリースしている)、Brodha Vもカンナダ語やヒンディー語でラップすることがある。
またBig Dealはオディシャ出身者としての誇りから母語のオディア語を選んでラップすることもあり、史上初のオディア語ラッパーでもある。
さて、ここまで見てきたような英語ラップのシーンは、じつはベンガルールのヒップホップのごく一面でしかない。
話者数の比較的少ないローカル言語とはいえ、もちろんベンガルールにはカンナダ語のラッパーも存在している。
そして、どういうわけかその多くが、リリックをひたすらたたみかけるマシンガンラップを得意としているのだ。
例えばこんな感じ。
MC BIJJU "GUESS WHO'S BACK"
RAHUL DIT-O, S.I.D, MC BIJJU "LIT"
カンナダ・マシンガンラップの代表格MC BIJJU、そして、この曲で共演しているRAHUL DIT-O、S.I.Dもこれでもかという勢いのマシンガン・ラップ。
冒頭の寸劇で、コマーシャルな曲をやれば金になるが、コンシャス・ラップをしてもほとんど稼ぎにならない現状が皮肉たっぷりに描かれているのも面白い。
ぐっとポップな雰囲気のこの曲でも、フロウは少し落ち着いているものの、どこかしら言葉を詰め込んだようなラップが目立つ。
EmmJee and Gubbi "Hongirana"
ラッパーはGubbi.
南インドの言語(カンナダ語、タミル語、テルグー語、マラヤーラム語)はアルファベット表記したときにひとつの単語がやたらと長くなる印象があるが、おそらくそうした言語の特質上、カンナダ語のラップはマシンガンラップ的なフロウになってしまうのだろう。
変わり種としては、ちょっとレゲエっぽいフロウと、絶妙に垢抜けないミュージックビデオが印象的なこんな曲もある。
Viraj Kannadiga ft.Ba55ck "Juice Kudithiya"
この曲はカンナダ語のレゲトンとして作られたようで、リリックの内容は「これは酒じゃなくてジュースだ」という意味らしい。
カンナダ語ラップといっても、ハードコアな印象のものから、ポップなもの、コミカルなものと多様なスタイルが存在している。
いわゆるストリート発信のヒップホップとは異なるが、北インドにおけるバングラー・ポップ的な、カンナダ語のエンターテインメント的ダンスミュージックというのも人気があるようだ。
Chandan Shetty "Party Freak"
この曲の再生回数が4,000万回だというから、やはりRAHUL DIT-O, S.I.D, MC BIJJUの"LIT"のミュージックビデオのように、インドじゅう(というか世界中)どこに行ってもコンシャスな内容のものよりコマーシャルなものが人気なのは変わらない。
今回紹介した英語ラップのシーンとカンナダ語ラップのシーンは、別に対立しているわけではなく、それぞれのラッパーが共演することもあるし、またラッパーが曲によって言語を使い分けることもある。
IT産業で急速に発展した国際都市という顔と、カルナータカ州の地方都市という2つの顔を持つベンガルールは、これからも面白いラッパーが登場しそうな要注目エリアである。
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goshimasayama18 at 20:14|Permalink│Comments(0)
2019年06月08日
ロックバンドKrakenがアンダーグラウンドラッパーを従えて初の(?)コスプレツアーを実施!
22年前に南米を旅行していた時のこと。
確かアルゼンチンだったと記憶しているが、私が乗っていたバスに、いかにもハードコア・パンクとかをやっていそうな、革ジャンを着てタトゥーの入った、いかつくてコワモテの男が乗車してきた。
絡まれたら嫌だなあと思いながら彼の様子を伺っていると、彼はおもむろにカバンの中から、ローマ字で"Otaku"と書かれた日本のアニメの絵が表紙の雑誌を取り出し、夢中になって読み始めた。
当時(今もかもしれないが)、日本ではアニメなどのオタクカルチャーは、ハードコア・パンクや不良文化とは真逆のイメージだったので、彼の好みの振れ幅の大きさに、ものすごく驚かされたものだ。
そういえば、ニューヨークのハードコア・バンドSick Of It Allが、インタビューで、自分たちがいかにドラゴンボールが好きか、どれだけドラゴンボールに衝撃を受け、夢中になったかを熱く語っているのを読んだのも同じ頃だったように思う。
硬派で激しいハードコア・パンクと、小学生のときに読んでいたマンガの印象がどうしても重ならなくて、やはり強烈な違和感を感じたものだった。
何が言いたいのかというと、アニメに代表される日本のオタクカルチャーは、じつは海外ではサブカルチャーのひとつとして、コアな音楽ジャンルと結びついて、面白い受容のされ方をしているのではないか、ということである。
さて、話をいつも通りインドに戻すと、今回の記事のタイトルは「ロックバンドKrakenがアンダーグラウンドラッパーを従えて初の(?)コスプレツアーを実施」というもの。
何を言っているのか、わけが分からないという方も多いのではないかと思う。
解説するとこういうことだ。
かつてこのブログでも紹介した、デリーを拠点に活動するマスロック/プログレッシブメタルバンドKrakenは、ジャパニーズ・カルチャーに大きな影響を受けたグループである。
彼らのファーストアルバム"Lush"では、複雑でテクニカルなロックサウンドに日本文化の影響をミックスしたユニークな世界観を披露しており、Rolling Stone India誌で2017年のベストアルバム第7位に選ばれるなど、音楽的にも高い評価を受けている。
そんな彼らがインド各都市で行う今回のツアーは「コスプレツアー」というかなりユニークなもの。
彼らのTwitter曰く、「初のミュージック&コスプレツアー!最高のパーティーを開くために、音楽ファンとコスプレファンに橋渡しをする!」とのことだそうだ。
The First Ever Music and Cosplay Tour! We are bridging the Music and Cosplay communities, all for the great cause of putting up the greatest party! Ticket Links, start planning your outfit. pic.twitter.com/qG7ZUZboAB
— Kraken (@krakenfam) 2019年6月3日
こうした「コスプレライブツアー」が世界初なのかどうかは分からないが、もしコスプレ発祥の地であるここ日本で前例があったとしても、アニソン歌手とか、声優のコンサートなのではないかと思う。
Krakenの音楽は直接アニメと関連しているわけではなく、サウンドもプログレッシブかつマスロック的なもので、このコスプレライブがいったいどのような雰囲気になるのか、想像もつかない。
しかも、今回彼らがツアーのサポートに起用したのは、ロックバンドではなく、ヒップホップアーティストのEnkoreとHanuMankind.
ラッパーのパフォーマンスにコスプレをした観客がいるというのはもはやシュールでさえある。
インディーシーンが発展途上のインドでは、異なるジャンルのアーティスト同士の共演も珍しくはないが、プログレッシブ・メタルとコスプレとヒップホップの融合と言われると、もう全然わけがわからない。
(ちなみに前回のKrakenのツアーのサポートは、このブログでも紹介したマスロックバンドのHaiku-Like Imagination. 音楽的にはかなり近いバンドだった)
サポートアクトの一人、Enkoreはムンバイのラッパーで、2018年に発表した"Bombay Soul"がRolling Stone Indiaの2018年ベストアルバムTop10に選ばれるなど、批評家からの評価も高いアーティストだ。
インディーシーンが発展途上のインドでは、異なるジャンルのアーティスト同士の共演も珍しくはないが、プログレッシブ・メタルとコスプレとヒップホップの融合と言われると、もう全然わけがわからない。
(ちなみに前回のKrakenのツアーのサポートは、このブログでも紹介したマスロックバンドのHaiku-Like Imagination. 音楽的にはかなり近いバンドだった)
サポートアクトの一人、Enkoreはムンバイのラッパーで、2018年に発表した"Bombay Soul"がRolling Stone Indiaの2018年ベストアルバムTop10に選ばれるなど、批評家からの評価も高いアーティストだ。
その音楽性は、昨今インドで流行しているGully Rap(インド版ストリートラップ)のような前のめりなリズムを強調したものではなく、メロウでジャジーな雰囲気のあるものだ。
(インド各地でこの傾向のアーティストは少しづつ増えてきており、代表的なところでは、ムンバイのTienas, バンガロールのSmokey the Ghost, ジャールカンドのTre Essなど。デリーの人気トラックメイカーSezのサウンドも同様の質感を強調していることがある)
彼のようなアンダーグラウンド・ヒップホップは、音楽的にはKrakenが演奏するプログレッシブ・メタルとは1ミリも重ならないように思えるが、ここにジャパニーズ・カルチャーからの影響という補助線を引くと、意外な共通点が見えてくる。
メロウで心地よいビートを特徴とするチルホップ/ローファイ・ヒップホップ(ローファイ・ビーツ)は、日本のトラックメーカーである故Nujabesが創始者とされている。
彼の楽曲は深夜アニメ『サムライ・チャンプルー』で大々的にフィーチャーされ、ケーブルテレビのアニメ専門チャンネルを通して世界中に広まった。
その影響もあって、今でもチルホップのミックス音源を動画サイトにアップしたときには日本のアニメ風の映像を合わせるのがひとつの様式美になっている。
例えばこんなふうに。
例えばこんなふうに。
意外なところで、ヒップホップはアニメカルチャーと繋がっているのだ。
そしてもう一方のサポートアクトであるHanuMankindがまた強烈だ。
ヒンドゥー教の猿の神ハヌマーンと人類を意味するhumankindを合わせたアーティスト名からして人を食っているが、彼のラップの世界感はさらに驚くべきもの。
メロウでローファイな質感のこの曲のタイトルは、なんと"Kamehameha".
そう、我々にも馴染深いあの「ドラゴンボール」の「かめはめ波」である。
メロウでローファイな質感のこの曲のタイトルは、なんと"Kamehameha".
そう、我々にも馴染深いあの「ドラゴンボール」の「かめはめ波」である。
ビートが入ってきた瞬間に、「孫悟空」という単語からフロウが始まり、続いてSuper Sasiyan(スーパーサイヤ人)という言葉も耳に入ってくるという衝撃的なリリック。
とはいえ彼のサウンドにはドラゴンボール的なヒロイズムや派手さではなく、あくまでチルなビートに乗せて「カメ!ハメ!ハ!」のコーラスが吐き出される。
いったいこれは何なのだ。
とはいえ彼のサウンドにはドラゴンボール的なヒロイズムや派手さではなく、あくまでチルなビートに乗せて「カメ!ハメ!ハ!」のコーラスが吐き出される。
いったいこれは何なのだ。
さらにはこんな楽曲も。
その名も"Super Mario". トラックはそのまんまだ!
この曲も、リリックにはゲーム、ドラゴンボール、クリケットなどのヒップホップらしからぬネタが盛りだくさん。
"Samurai Jack"と名付けられたこの曲はジャジーなビートが心地よい。
ここでもリリックではギークっぽい単語とインドっぽい単語が共存している不思議な世界。これは、インドで実を結んだナードコア・ヒップホップのひとつの結晶という理解で良いのだろうか?
それにしても、KrakenとHanuMankindとEnkore、いくら日本のサブカルチャーという共通点があるとはいえ、そもそもプログレッシブ・メタルバンドがラッパー2人とツアーをするというところからして意外というか想像不能だし、しかもコスプレの要素も入ってくるとなると、もうなんだかわけがわからない。
わけがわからないとはいえ、まるで日本のバンドブームの初期のように、インディーミュージックシーン全体がジャンルにこだわらず盛り上がっている様子はなんだかとっても楽しそうだ。
そういえば、いまやインドNo.1ラッパーとなったDivineがインドの「ロックの首都」と言われている北東部メガラヤ州の州都シロンで行なったライブのサポートは地元のデスメタルバンドPlague Throatだった。
そういえば、いまやインドNo.1ラッパーとなったDivineがインドの「ロックの首都」と言われている北東部メガラヤ州の州都シロンで行なったライブのサポートは地元のデスメタルバンドPlague Throatだった。
バンガロールでは先日ラッパーのBig Dealとやはりブルータル・デスメタルバンドのGutSlitのジョイントライブがあったばかりだ。
なんだかAnthraxがPublic Enemyと共演し、映画"Judgement Night"のサントラでオルタナティブロックとヒップホップのアーティストたちがコラボレーションした90年代前半のアメリカを思い起こさせるようでもある。 (古い例えで恐縮ですが)
特定のジャンルのファンではなく、インディーミュージック/オルタナティブミュージックのファンとしての連帯感が、インドには存在しているのだろうか。
この混沌とした熱気は、ジャンルが細分化されてしまった日本から見ると、正直少々うらやましくもある。
以前行ったインタビューでは、Krakenのメンバーは日本のヒップホップにも影響を受けたことを公言しており、Nujabes、Ken the 390、Gomessらの名前をフェイバリットとして挙げている。
ギター/ヴォーカルのMoses Koul曰く、次のアルバムは前作"Lush"とは大きく異なり、ヒップホップの要素が大きいものになるとのことで、いったいどうなるのか今から非常に楽しみだ。
それにしても、インドの音楽シーンにおける「ジャパニーズ・カルチャー」の面白さは、いつも想像を超えてくる。
先日、「インドで生まれた日本音楽」J-Trapの紹介をしたときにも感じたことだが、もはや日本文化は日本だけのものではないのだ。
この混沌とした熱気は、ジャンルが細分化されてしまった日本から見ると、正直少々うらやましくもある。
以前行ったインタビューでは、Krakenのメンバーは日本のヒップホップにも影響を受けたことを公言しており、Nujabes、Ken the 390、Gomessらの名前をフェイバリットとして挙げている。
ギター/ヴォーカルのMoses Koul曰く、次のアルバムは前作"Lush"とは大きく異なり、ヒップホップの要素が大きいものになるとのことで、いったいどうなるのか今から非常に楽しみだ。
それにしても、インドの音楽シーンにおける「ジャパニーズ・カルチャー」の面白さは、いつも想像を超えてくる。
先日、「インドで生まれた日本音楽」J-Trapの紹介をしたときにも感じたことだが、もはや日本文化は日本だけのものではないのだ。
また、インドでのK-Popブームと比較すると、韓流カルチャーがポップカルチャー(大衆文化)として受容されているのに対して、日本のカルチャーはサブカルチャー(マニア文化)として受け入れられているというのも面白い。
(参考:「インドで盛り上がるK-Pop旋風!」)
今後、日本で生まれた要素が、インドでどんな花を咲かせ、実を結ぶのだろうか。
ジャパニーズ・カルチャーをマサラの一つとして、全く新しいものがインドで生まれるってことに、ワクワクする気持ちを抑えられない。
これからも「インドの日本文化」紹介していきます!
(インドのコスプレ文化といえば、ムンバイなどの大都市だけでなく、北東部ナガランド州でも異常に盛り上がっているようだ。「特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?」)
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goshimasayama18 at 17:24|Permalink│Comments(0)