Gutslit
2023年07月07日
Bloodywoodロスを癒せるかもしれないインドの音楽特集!
まだ言うけど、先週のBloodywoodのライブはすごかったなあ。
バンドのパフォーマンスも素晴らしかったが、お客さんもちょっと見たことないくらいの盛り上がっていた。
その熱狂っぷりは、「激しい音楽ジャンルのライブのお約束」というレベルをはるかに超えていた。
東京公演で94ヶ所に及ぶツアーを終えた彼らは、帰国してアルバム制作に入るとのこと。
次作に期待しつつも、しばらくライブや新曲を体験できないことを嘆いているファンも多いことだろう。
というわけで、今回はBloodywoodロスを癒せるかもしれないインドの音楽特集!
まずは彼らと同じメタルバンドから。
…と言いたいのだが、結論から言うと、Bloodywoodのようなやり方でインド音楽(彼らの場合、パンジャーブの伝統音楽バングラー色が強い)とメタルを融合しているバンドは、私の知る限りでは他にはいない。
それでもインドとメタルをクールな形で融合しているバンドを紹介するとしたら、見た目の話になるが、ターバン姿のベーシストを擁するベンガルールのデスメタルバンド、Gutslitが最適なのではないかと思う。
Gutslit "Brodequin"
Bloodywoodとは全く異なり、サウンド面ではインドの要素の全くないオーセンティックなブルータルデスメタルだが、特筆すべきはその演奏力。
ドラムなんてもう人間じゃないみたいだ(もちろん褒め言葉です)。
Gutslit "The Killing Joke"
彼らはじつは小規模会場ながらも来日公演もすでに果たしている。
そのときはドイツのデスメタルバンドのStillbirthとともにフィリピン、台湾、日本と3日連続で別の国でライブを行うという過酷なスケジュールでのツアーだった。
(当初は17日間で10カ国以上の16会場を回るという無謀すぎる計画を立てていた)
Bloodywoodもふだんは完全なインディペンデント体制で自分たちでツアーを回っていると言っていたが、インドのメタルバンドは、みんなこんなふうにタフなのだろうか。
まさかとは思うが、だったらすごいことだ。
ちなみにターバン姿のベーシストGurdip Singh Narangは、なにもインドっぽさを出すためにターバンを巻いているわけではなくて(ビジュアルイメージにターバンを巻いた髑髏を使っていたりするので、狙っている部分もちょっとあるかもしれないが)、リアルなシク教徒。
つまり、彼は宗教上の戒律によってターバンを巻いているのだ。
シク教徒の男性は、その日の服装に合わせてターバンの色もコーディネートすることが多いが、彼の場合、メタルのイメージに合わせてか、いつも黒のターバンでキメている。
続いて紹介するのは、Bloodywoodとは別の方法論でインド音楽とメタルを融合しているPineapple Express.
Gutslit同様にベンガルールのバンドだ。
彼らは、複雑なリズムを持つインドの古典音楽(南インドのカルナーティック音楽)をプログレッシブメタル的に解釈して演奏しているのだが、じつを言うとそういうバンドはインドには結構いる。
Pinepple Expressがすごいのは、古典音楽とメタルを融合したところに、EDMとかラップとかもいろいろぶちこんで、唯一無二のスタイルを確立しているということだ。
もうなんだかわけが分からない。
Pinepple Express "Cloud 8.9"
Pineapple Express "Destiny"
ふつうプログレというと、クラシックとかジャズとか欧州フォークとか、率直に言うとなんかオタクっぽいジャンルをロックに導入したものを指すと思うのだが、彼らの場合はEDMやラップという、まったくプログレらしからぬジャンルを何の躊躇もなく融合してしまっているのがすごい。
気になった方は、2018年のEP"Uplift"あたりから聴いてみることをオススメする。
彼ら独特の浮遊感はBloodywoodとはまったく別物だが、インドとメタルの融合によってのみ実現されるポジティブでエネルギーに満ちた感覚は、どこか共通点があるようにも感じる。
インドっぽさとヘヴィネスを融合しているジャンルはメタルだけではない。
ニューデリーのアーティストSu Realが2016年にリリースした"Twerkistan"は、インド式ベースミュージック/トラップの大傑作!
Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
アルバムには、のちにヒンディー語ポップスとEDMを融合させた独自の作風で人気を博すRitvizも参加しているのだが、今ではすっかりポップになった彼も当時はこの尖りっぷり。
Su Rean & Ritviz "Turn Up"
Su Realはこのブログで最初に取り上げたアーティストで、この"Twerkistan"はインド固有のミュージックシーンの面白さを気づかせてくれた作品でもあった。
当時の記事は今読み返すと稚拙で恥ずかしいが、このアルバムの素晴らしさは今聴いてもまったく色褪せていない。
次はかなり古いアーティストになるが、UKエイジアンによるバンド、Asian Dub Foudationの2003年のアルバム"Enemy of the Enemy"から、"Fortress Europe"を紹介したい。
2000年前後にかなり高い人気と知名度を誇っていた彼らはフジロックの常連でもあったので、知っている、見たことがあるという人も多いことだろう。
Asian Dub Foundation "Fortress Europe"
当時、ドラムンベースやレゲエにインド音楽の要素を導入して、南アジア訛りの英語で社会的かつ強烈なリリックをラップする彼らは、ものすごく新しくて、かっこよかった。
彼らはドール(Dhol. Bloodywoodも使っているパンジャーブの両面太鼓)を中心に据えた楽曲も制作していて、思い返してみれば、私がドールのグルーヴの洗礼を最初に受けたのはAsian Dub Foundationのライブだった。
Asian Dub Foundation "Dhol Rinse"(Live)
インドの伝統的なグルーヴが、最新の音楽のなかにおいてさえ効果的に機能することをイギリスから証明した彼らは、当時インド本国しか知らなかった自分にとって、ちょっと眩しすぎるくらいのかっこいい存在だった。
前回も書いた通り、Bloodywoodの楽曲やステージでは、派手なギターソロや巨大なドラムセットのようなメタルの様式美的な要素は完全に排除されていて、彼らのインド的なグルーヴをいかに最大化するかという、むしろダンスミュージック的な方法論が取られている。
そのお手本となったのは、もしかしたらこのAsian Dub Foundationのスタイルなんじゃないか、とも思っているのだけど、どうだろう。
ところで、Asian Dub Foundationはバンド名にエイジアンという言葉を使っているが、イギリスではエイジアンという単語を南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ等)を指して使うことが多い。
これは、かつてイギリスが支配していたこれらの地域が宗教によって対立し、結果として分離独立したことに配慮して、例えば「インド系」といった国名に依拠した呼び方を避けるためでもあるようだ。
Bloodywoodはラップメタルバンドでもあるので、ラップという観点からインドの熱気と勢いが伝わってくる音楽を挙げるとすれば、やはり2010年代中頃のヒップホップ黎明期の作品がオススメだ。
DIVINE "Yeh Mera Bombay"
このブログで何度も紹介しているが、ムンバイのヒップホップシーンの帝王DIVINEの"Yeh Mera Bombay"は、インド的なストリートラップのスタイルを確立した記念碑的な楽曲。
どんどん洗練されてきている今のインドのヒップホップも素晴らしいのだが、この時代の「地元の路地でいつもの仲間とミュージックビデオ撮ってみた」的な空気感は、やっぱり他の何ものにも代えがたい魅力がある。
Naezyと共演したこの曲は、もはやヒンディー語ラップのクラシックだ。
DIVINE feat. Naezy "Mere Gully Mein"
このへんの曲でシビれた方で映画『ガリーボーイ』をまだ見ていないという方は、今すぐ見てみてください。
『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台としても知られるスラム街ダラヴィ出身のラッパー、MC Altafの初期作品も、2010年代なのに90年代的なノリが素晴らしい。
MC Altaf "Code Mumbai 17" ft. DRJ Sohail
今回紹介したのはムンバイのヒンディー語ラップのみだが、じつはベンガル語(インド東部のコルカタあたりのバングラデシュで話されている言語)のラップが今どんどんかっこよくなってきているのを最近見つけたので、それはまた改めて紹介したい。
というわけで、今回はBloodywoodとはまた別のやり方でインドの要素を取り入れていて、かつ熱さとカタルシスを感じられるアーティストを厳選して紹介してみました。
インドにはこんなふうに他にも素晴らしいアーティストがたくさんいるので、もっともっと世界的に評価されたらいいと思うし、日本にも来てほしい!
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2019年12月02日
インド音楽シーンのオシャレターバン史
まずは古いところから、80年代から活躍するパンジャービー・ポップ・シンガー、Malkit Singhの"Chal Hun"のビデオをご覧ください。
オールドスクールなバングラー歌謡といった趣きのサウンドと、コミカルなタッチで民族衣装の人々が集ったパーティーを描いたビデオがレトロで良い。
この時代のシク教徒のポップシンガーは、このMalkit Singhのように赤やピンクや水色などのド派手で大ぶりなターバンを巻いていることが多かった。
現代のド派手系ターバンの代表としては、バングラー・ポップ・シンガーのManjit Singhを挙げてみたい。
彼が先日リリースした、"Top Off"のミュージックビデオは現代的なオシャレターバンの見本市だ。
鮮やかなボルドーカラーのターバンと、額の部分に衣装に合わせた黒い下地をチラ見せする着こなし(かぶりこなし)はじつに粋だ。
同系色が入ったジャージや黒いジャケットにはボルドーのターバン、カジュアルなジーンズには黄色のターバン(ここでも、黒いスタジャンに合わせてターバン下地の色は黒)とかぶり分けているのもポイントが高い。
後半に出て来る派手なシャツに赤いターバンを合わせているのも(よく見るとボルドーとはまた違う色)、最高にキマっている。
最近ではシク系シンガーでも、ターバンをかぶらない人が増えているが(例:バングラー・ラッパーのYo Yo Honey SinghやBadshah)、このManjitを見れば、単純に「ターバンはかぶったほうがかっこいい」ということが分かってもらえるだろう。
Manji Musikは、映画『ガリーボーイ』の審査員役として、Raja Kumariらとともにカメオ出演していた音楽プロデューサーだ。
今回も、Manjit Singhは、黒ターバンに赤の下地チラ見せ(赤いアロハシャツとコーディネート)、黄色いターバンに黒い下地チラ見せ(黄色系統のド派手なシャツと)と、完璧なかぶりこなしを見せているが、ここで注目したいのはもう一人のManj Musikだ。
Manjit Singhのように、ターバンが額で「ハの字」になるかぶり方は、下地とのコーディネートが楽しめるし、ターバンの存在感をアピールできる一方、ターバンが目立ち過ぎてしまい、場合によっては野暮ったく見えてしまう危険性がある。
そこで、在外シク教徒のミュージシャンを中心に、カジュアルかつすっきり見せるために流行している(多分)のが、このManj Musikのように、額でターバンが水平に近い形になるかぶり方だ。
(このかぶり方自体は、パンジャーブの老人がしているのも見たことがあるので以前からあるスタイルのようだが)
このかぶり方だと、ターバンのシルエットがだいぶすっきりとして、ドゥーラグや80年代のアメリカの黒人ミュージシャンがよくかぶっていた円筒形の帽子(これも名前は知らないが、よくドラムやパーカッションの人がかぶっていたアレ)のような雰囲気もある。
彼らはほぼいつもこのかぶり方をしていて、インド系ラッパーのJ.Hindをフィーチャーした"K.I.N.G Singh Is King"(2011年)のミュージックビデオでもその様子が見て取れる。
このかぶり方の場合、ほとんど必ず黒が選ばれているということは抑えておきたい。
楽曲としては、トゥンビ(バングラーで印象的な高音部のシンプルなフレーズを奏でる弦楽器)のビートとラップをごく自然に合わせているのが印象深い。
インド国内でも、2018年にデビューして以来、デリーのヒップホップシーンをリードしているストリートラッパーのPrabh Deepも常に黒いターバンでこの巻き方を堅持している。
かなりタイトフィットな彼のスタイルは、一見ドゥーラグかバンダナのようにも見えるが、上部や後ろ姿が映ると、まぎれもなくターバンであるということが分かる。
(ちなみに彼のファーストアルバムのタイトルは、「歴史的名作」を意味する'Classic'と、シク教の'Sikh'をかけあわせた"Class-Sikh")
リズム的にはバングラーの影響はほぼ消失しており、完全なヒップホップのビートの楽曲だが、彼が見せるダンスは典型的なバングラーのものであるところにも注目したい。
一方で、ムンバイのブルータル・デスメタルバンドGutslitのリーダーでベーシストのGurdip Singhは、ジャンルのイメージに合わせて常に黒のターバンを身につけているが、その「巻き方」には、より伝統的な額が「ハの字型」になるスタイルを採用している。
これは、海外ツアーなども行なっている彼らが、「ターバンを巻いたデスメタラー」という非常にユニークなイメージを最大限に効果的に活用するためだろう。
インドのバンドというアイデンティティーを強く打ち出すためには、ドゥーラグやキャップのように見えるスタイルではなく、伝統的なイメージでターバンを巻くほうが良いに決まっている。
実際、彼らは自分たちのイメージイラストにも積極的に「ターバンを巻いた骸骨」を用いている。
Gutslitはサウンド面でも非常にレベルの高いバンドであるが、もしターバン姿のメンバーがいなかったら、彼らがここまでメタルファンの印象に残ることも、毎年のように海外ツアーに出ることも難しかったかもしれない。
またパンジャーブ地方はインド・パキスタン両国にまたがる地域に位置しているため、分離独立時にイスラーム国家となったパキスタン側から大量の移民が発生し、多くのパンジャービー達が海外に渡った。
やがて、海外在住のパンジャービーたちは、シンプルなリズムを特徴とする故郷の伝統音楽「バングラー(Bhangra)」と欧米のダンスミュージックを融合させた「バングラー・ビート」という音楽を作り出した。
現在では、前回紹介したファンク・ロックのFaridkotや、今回紹介したPrabh Deepのように、典型的なバングラーではなく、さまざまなジャンルで活躍するシクのアーティストたちがいる。
最後に、今回ファッションとターバンについて調べていた中で見つけた、とびきり素敵な画像を紹介したい。
(https://news.yale.edu/2016/11/21/under-turban-film-and-talk-explore-sikh-identityより。A scene from "Under the Turban," about members of the fashion world in Londonとのこと)
イギリスのオシャレなシク教徒たち。
カッコ良すぎるだろ!
みなさんも、ぜひシク教徒たちのオシャレなターバンに注目してみてほしい。
それでは!
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凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
ジャンル別記事一覧!
2019年01月25日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2018年のベストミュージックビデオTop10!
今回はミュージックビデオをお届けします。
(元になった記事はこちら:http://rollingstoneindia.com/10-best-indian-music-videos-2018/)
ご存知の通りインドは映画大国ということもあって、映像人材には事欠かないのか、どのビデオもかなりクオリティーの高いものになっている(そうでないものもあるが)。
いずれもベストシングル、ベストアルバムとは重複無しの選曲になっているが、映像だけでなく楽曲もとても質が高いものが揃っていて、インドの音楽シーンの成熟ぶりを感じさせられる。
中世から現代まであらゆる時代が共存する国インドの、最先端の音楽を体験できる10曲をお楽しみください!
Nuka, "Don't Be Afraid"
ダウンテンポの美しいエレクトロポップに重なる映像は、ヒンドゥーの葬送(火葬、遺灰を海に撒く)を描く場面から始まり、死と再生を幻想的に表現したもの。
この音像・映像で内容がインド哲学的なのがしびれるところだ。
本名Anushka Manchanda.
デリー出身の彼女は、タミル語、テルグ語、カンナダ語、ヒンディー語などの映画のプレイバックシンガー(ミュージカルシーンの俳優の口パクのバックシンガー)やアイドルみたいなガールポップグループを経て、現在ではモデルや音楽プロデューサーなどマルチな分野で活躍。
プレイバックシンガー出身の歌手がよりアーティスティックな音楽を別名義で発表するのはここ数年よく見られる傾向で、映画音楽とインディー音楽(「映画と関係ない作家性の強い音楽」程度の意味に捉えてください)の垣根はどんどん低くなっている。
映像作家はムンバイのNavzar Eranee. 彼もまた若い頃から海外文化の影響を大きく受けて育ったという。
Prateek Kuhad, "Cold/Mess"
2015年にデビューしたジャイプル出身のシンガーソングライター。
アメリカ留学を経て、現在はデリーを拠点に活動している。
ご覧の通りの洗練された音楽性で、MTV Europe Music Awardほか、多くの賞に輝いている評価の高いアーティストだ。
インドらしさを全く感じさせないミュージックビデオは、それもそのはず、ウクライナ人の映像作家Dar Gaiによるもの。
どこかインドの街(ムンバイ?)を舞台に撮影されているようだが、この極めて恣意的に無国籍な雰囲気(俳優もインド人だけどインド人っぽくない感じ!)は、この音楽のリスナーが見たい街並みということなのだろうか。
ところで、俳優さんの若白髪はインド的には「有り」なの?
ブリーチとかオシャレ的なもの?
Tienas, "18th Dec"
Prabh Deepらを擁する話題のヒップホップレーベルAzadi Recordsと契約したムンバイの若手ラッパー(まだ22歳)で、以前紹介した"Fake Adidas"と同様、小慣れた英語ラップを聞かせてくれている。
Tienasという名前は、本名のTanmay Saxenaを縮めてT'n'S(T and S)としたところから取られていて、いうまでもなくEminem(Marshall Mathers→M'n'M)が元ネタと思われる。
EminemにおけるSlim Shadyにあたる別人格としてBobby Boucherというキャラクターを演じることもあるようだ。
このミュージックビデオはムンバイの貧民街やジュエリーショップを舞台に、全編が女優によるリップシンクとなっている。
Tienasは男性にしては声が高いので、以前このビデオを見て勘違いして女性ラッパーだとどこかに書いてしまった記憶があるのだが、どこだったか思い出せない…。
That Boy Roby, "T"
2018年にファーストアルバムをリリースしたチャンディガル出身のスリーピースバンドが奏でるのはサイケデリックなガレージロック!
ビデオはただひたすらに90年代のインド映画の映像のコラージュで、インド映画好きなら若き日のアーミル・カーンやシャー・ルクを見つけることができるはず。
なんだろうこれは。我々が昔の刑事ドラマとかバブル期のトレンディードラマをキッチュなものとして再発見するみたいな感覚なんだろうか。
Rolling Stone India誌によると「ハイクオリティーな4分間の時間の無駄」。
全くその通りで、それ以上のものではないが、こういうメタ的な楽しみ方をするものがここにランクインすることにインドの変化を感じる。
Gutslit, "From One Ear To Another"
出た!
昨年来日公演も果たした黒ターバンのベーシスト、Gurdip Singh Narang率いるムンバイのブルータル・デスメタルバンド。
フランク・ミラーのアメリカンコミック"Sin City"を思わせる黒白赤のハードボイルド調アニメーションは、バンドのドラマーのAaron Pintoが手がけたもの。
残虐で悪趣味でありつつ非常にスタイリッシュという、稀有な作品に仕上がっている。
カッコイイ!
Kavya Trehan, "Underscore"
ドリーミーなエレクトロポップを歌うKavya Trehanは女優、モデル、宝石デザイナーとしても活躍するマルチな才能を持った女性で、ダンス/エレクトロニックバンドMoskoのヴォーカリストでもある。
(Moskoには以前紹介したジャパニーズカルチャーに影響を受けたバンドKrakenの中心メンバーMoses Koulも在籍している)
ノスタルジックかつ無国籍な雰囲気のビデオはDivineとRaja Kumariのビデオも手がけたアメリカ人Shawn Thomasが LAで撮影したものだそうな。
Avora Records, "Sunday"
先日紹介した「インド北東部のベストミュージックビデオ」にも選ばれていたミゾラム州アイゾウルのポップロックバンドがこの全国版にも選出された。
アート的で意味深なミュージックビデオが多く選ばれている中で、同郷の映像作家Dammy Murrayによるポップなかわいさを全面に出した映像が個性的。
Mali, "Play"
チェンナイ出身のケララ系シンガーソングライターMaliことMaalavika Manojは、映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeでの活動を経て、今ではムンバイで活躍している。
幼い頃に音楽を教えてくれたという、彼女の実の祖父と共演したあたたかい雰囲気のビデオはムンバイの映像作家Krish Makhijaによるもの。
彼女の深みのある美しい声(少しNorah Jonesを思わせる)と、確かなソングライティング力が分かる一曲だ。
あと最後に、誰もが気づいたことと思うけど、このMaliさん、かなりの美人だと思う。
まいっちゃうなあ。
Chidakasha, "Tigress"
ケララ州コチ出身のロックバンド。
聞きなれないバンド名はインド哲学やヨガで使われるなんか難しい意味の言葉らしい。
インスピレーションを求めてメンバーがMarshmelloみたいな箱男になったビデオは、いかにもローバジェットだがなかなか愛嬌がある。
3:50あたりからのフュージョン・ロック的な展開も聴きどころ。
Ritviz, "Jeet"
インド音楽の要素を取り入れたプネーのエレクトロニック/ダンス系アーティスト。
下町、オートリクシャー、ビーチ、映画館(そこで見るのは前年のRitvizヒット曲"Udd Gaye")、垢抜けないダンスといったローカル色満載の映像はこのランキングの中でも異色の存在だ。
この「美化されていないローカル感」をB級感覚やミスマッチとして扱うのではなく、そのままフォーキーなダンスミュージックと癒合させるセンスは、とにかくお洒落な方向を目指しがちなインドの音楽シーンではとても珍しく、またその試みは見事に成功している。
この素晴らしいビデオはムンバイの映像作家Bibartan Ghoshによるもの。
以上、全10曲を紹介しました。
見ていただいて分かる通り、Nukaの"Don't be Afraid"やThat Boy Robyの"T"、Maliの"Play"、Ritvizの"Jeet"のように、インド的なものを美しく詩的に(あるいはおもしろおかしく)映したビデオもあれば、逆にPrateek Kuhadの"Cold/Mess"やGutslitの"From One Ear To Another"、Kavya Trehanの"Underscore"のように無国籍でオシャレなものこそを美とするものもあり、「かっこよさ」と「インド的」なものとの距離感の取り方がいろいろあるのが面白いところ。
ところで、いつも気になっているのは、この映像を撮るお金はどこから出ているのかということ。
例えばNukaやPrateek KuhadはYoutubeの再生回数が120万回を超えているが、LAロケのKavya Trehanでさえ再生回数6,000回足らず、That Boy Robyに至っては3,200回に過ぎない。
(それにあのビデオ、著作権関係とか、大丈夫なんだろうか)
映画音楽・古典音楽以外のほとんどの楽曲が大手レコード会社ではなくインディーズレーベル(もしくは完全な自主制作)からのリリースであるインド。
100万を超える再生回数のものは別として、他は制作費用が回収できていなさそうなものばかりだ。
いったいどこからこれだけの映像を撮るお金が出てくるのだろうか。
おそらくだが、その答えのひとつは「家がお金持ち」ということだと思う。
インドのインディーズシーンで活躍しているミュージシャンは、幼い頃から楽器に触れて欧米への留学経験を持つなど、端的に言うと実家が裕福そうな人が多い。
音楽コンテンツ販売のプロモーションのためにミュージックビデオを作るのではなく、もともと金持ちで、良い作品のために惜しげも無くお金と労力をつぎ込むという、千葉のジャガーさん的なアーティストも多いのではないかと思う。
そんな彼らが発展途上のシーンを底上げしてくれているのも確かなので、もしそうだとしてもそれはそれで有りだと思うのだけど、次回はそんなアーティストたちとは全く真逆のインドならではの音楽を紹介したいと思います!
それでは、サヨナラ、サヨナラ。
★1月27日(日)ユジク阿佐ヶ谷にて「あまねき旋律」上映後にインド北東部ナガランド州の音楽シーンを語るトークイベントを行います
★凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
2018年10月10日
インドのデスメタルバンド、Gutslit初来日!超ハードなツアーの感想は?
以前書いたように私は見に行けなかった訳だが、twitterを見る限りだと、「すげえ良かった」とか「くそかっこよかった」といった賛辞が並んでいたので、素晴らしいライブだったものと思う。
メンバーがテレビの「Youは何しにニッポンに?」の取材を受けていたという情報もあり、インドのデスメタルバンドの初来日公演にしてTVデビューなんてことにもなるのかもしれない。
そして、ご覧のように毎日のように国境を越えたこの過酷なツアーも10月7日(日)のタイ・バンコク公演で無事終了!
彼らのFacebookにツアーを終えての感想が投稿されていた。
一緒にツアーしていたドイツのブルータルデスメタルバンド、Stillbirthとの1枚。ベーシストのGurdipはやっぱりターバン姿!
「やったぜ!ついにやり遂げた!
バンコクはこの容赦無く最高で肉体的にはメチャクチャ消耗するツアーの最終地として完璧だ。地球の向こう側からやってきた最高の仲間、Stillbirthと一緒じゃなかたらできなかったかもしれない。
俺たちは泣いているんじゃない。お前たちが泣いているんだ。
16日間で、11の国で13回のショー。
俺たちはやってきて、ぶちかまして、成し遂げた!ライブに来てくれたり、グッズを買ってくれたりしたみんなにお礼を言うよ。」
(その後、肉屋がどうしたとか書いてあるけど、タイマッサージ以外は何言ってるんだか分かんねえ)
とのこと。
よくもまあこんなに激しい音楽なのにこんなにタイトなスケジュールでツアーを組んだものだと思っていたけど、やっぱりキツかったのね。
インドのデスメタルのレベルの高さは何度も書いている通り。
次に来日するとしたら、キャッチーでインド的な要素も多く、ヨーロッパツアーの経験もあるDemonic Ressurectionあたりか。
北東部にもレベルの高いバンドが多く、以前インタビューに協力してくれたThird SovereignやSacred Secrecyもぜひ見てみたい。
引き続きインドのエクストリーム・メタルには注目していきたいと思います!
では。
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2018年05月17日
紹介したアーティストの近況!海外公演など
ムンバイのラッパー、DIVINEはカナダのトロントで行われるDesi Festへの出演が決まった模様。
ヒンディー語のラッパーが海外公演というのは興味深いが、これはどうやら現地在住のインド人やインド系移民を主なターゲットとしたイベントのようだ。
過去の映像を見るとインド系でないお客さんもそれなりにいるようなので、日本でいうと代々木公園で行われている「ナマステ・インディア」とか「タイフェスティバル」みたいな要素もあるのかもしれない。
デシ・ヒップホップすなわちインド系ヒップホップは、もともと海外在住の南アジア系アーティスト(例えばパキスタン系アメリカ人のBohimia)によって勃興したムーブメント。
このイベントでも、他の出演者はカナダやアメリカ在住の南アジア系であるThe PropheC(バングラ)、Roach Killa(ヒップホップ)、Parichay(ボリウッド)、Amar Sandhu(ヒップホップ)、Haji Springer(ヒップホップ)らが中心。
ここ数年で急速に発展したインド国内のヒップホップを代表するアーティストであるDIVINEは、カナダではまだまだ「未知のアーティスト」だと思うが、その彼にオーディエンスがどんな反応を示すのか、ちょっと気になるところではある。
グジャラート州アーメダーバード出身のポストロックバンド、aswekeepsearchingは現在ヨーロッパツアー中。
こちらはドイツや東欧中心で、これはおそらくはインド系移民向けというよりも現地のポストロックファン向けのものなのではないかと思う。
ヒンディー語で歌っているバンドでも、こういう音響至上主義的なバンドの場合、海外のファンもツアーができる程にいるということなのだろう。
(実際、aswekeepsearchingはロシアのレーベルと契約している)
先日お伝えしたムンバイのデスメタルバンド、Gutslitのアジア弾丸ツアーに向けたクラウドファウンディングは遅々として進まず、$5,000に対して5月16日現在でまだ$710。
先日Facebookで「ドバイまでのチケットを買ったぜ」という報告があったが、ドバイは最初の公演地。
果たしてツアーの最後から2番目の日本へは無事たどり着けるのか。
また続報をお届けします。
日本公演に向けてぜひサポートがしたい!という方はこちらからどうぞ。
ところで彼らのツアータイトルの下にある"Bobs and Vegene Edition"という謎の言葉。
これは調べてみたら、ネット上のネタにされている"Boobs and V◯◯◯◯◯"(つまり「オッパイと◯◯◯◯」)のミススペリング。
マヌケなインド人の男性たちが、SNSやネット上のニュースで女性に対して卑猥なことを言おうとして、思いっきり間違って書いてしまったものがネタにされているということらしい。
デス/グラインド系のバンドらしく悪趣味で下品なツアー名をつけたかったのだろうけど、あんまり性差別的な言葉はこのご時世マズいし、そこでちょっとアホを揶揄したようなツアータイトルにした、ってところだろうか。
予算もないのに17日間で16公演の弾丸ツアーを企画するバンドにしてはよく考えられているなあ、という気もする。
というわけで、本日はインドのミュージシャンの海外での展開の例をいくつか紹介してみました。
考えてみれば、日本のミュージシャンでも、海外在住の日本人・日系人向けに海外公演を行う演歌歌手なんかもいれば、コーネリアスとかギターウルフみたいにコアな音楽性で海外でも音楽ファンに受け入れられているアーティストもいる。
インドのアーティストも同じようなもので、一部のアーティストは人種や国境を越えて評価されるだけのクオリティーがあるということなのだろう。
最近ではBabymetalみたいに日本のガラパゴス的な音楽がそのまま海外でも人気を博す例もあるわけで、インドのミュージシャンもこれからますますグローバルな評価を受けてゆくことと思う。(というか、そうあって欲しい)
そのときに、「ああ、あのアーティストなら昔から知ってたよ」みたいな謎の優越感に、インド人たちといっしょに浸りたいものである。
三者三様、今日紹介したそれぞれのアーティストの代表曲はこちらから。
それではまた!
2018年04月30日
なんと!インドのデスメタルバンドが来日!
そのツアーには、なんとここ日本も含まれている!
インドのメタルバンドとしては、いや、ひょっとしたらロックバンドとしても初の来日公演ではないだろうか?
"Amputheatre"収録の彼らの曲を改めて紹介します。"Scaphism"
わりと古典的なデスメタルのスタイルだけど、演奏もタイトでめちゃくちゃレベル高い!
あとベーシストがシク教徒なのだろうが、しっかりとターバンをかぶっているのだけど、音楽性に合わせて色は黒!というところもかっこいい。
今回の来日はドイツのデスメタルバンドStillbirthとのスプリットツアーとなるようで、その名も"Gutted at Birth"ツアー!(Cannibal Corpseの名盤"Butchered at Birth"のパロディか?いずれにしてもジャンルに違わない悪趣味さ!)
ツアー先は、ドバイ、母国インド、ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、そして日本と韓国での公演が予定されている!
彼らのFacebookページによると、日程は以下のとおり。
21st September Friday - DUBAI
22nd September Saturday - TBA
23rd September Sunday - MUMBAI, INDIA
24th September Monday - DELHI, INDIA
25th September Tuesday - NEPAL
27th September Thursday - CAMBODIA
28th September Friday - Ho Chi Minh, VIETNAM
29th September Saturday - TBA
30th September Sunday - TBA
1st October Monday - TBA
2nd October Tuesday - Manila, THE PHILIPPINES
3rd October Wednesday - Cebu, THE PHILIPPINES
4th October Thursday - TAIWAN
5th October Friday - Tokyo, JAPAN
6th October Saturday - SOUTH KOREA
7th October Sunday - Bangkok, THAILAND日本公演は10月5日、東京のみ。
それはそれとして、おいおい、いくらなんでも日程、タイト過ぎないか?
現時点で未定のところを含めて、17日間で16公演!
これ、演奏無しで移動だけでも結構きついスケジュールだと思うが、さらに各地で激しいライヴを繰り広げるって、なんだかほとんど自殺行為って気が…。
彼ら自身もそれは分かっているようで、バンド創設メンバーのベーシスト、Gurdip Singh Narang(黒ターバンでキメていた彼だ!)はRolling Stone Indiaのインタビューに、
「こんなにタイトな日程でスケジュールを組むなんて、俺たちはキンタマがすわってるだろ。ちゃんと全ての国に機材と一緒に降り立ってプレイできるように、いろんな国の航空会社を信頼するってことさ」
と語っている。
どうやらヨーロッパツアーを終えて自信をつけたようで、Gurdip曰く、
「なぜって、俺はプロモーターを信用してるし、俺は100%有言実行だ。いつもと同じように、考えに考えて計画した通りにやるだけさ」とのこと。
自信満々、頼もしい。かっこいい。
と思ったら、このツアーはクラウドファンディングで成り立っていて、見てみたらまだ予定の金額の10%くらいしか集まっていないみたい…。
大丈夫か?とちょっと心配になるところだが、正直に言うと、超過密なツアースケジュールといい、資金面での見切り発車といい、こういう行き当たりばったりな感じ、理屈抜きでもう最高!って思ったよ。
海外にツアーするようなバンドになると、万が一の間違いもないように綿密に計画されたスケジュールで動きそうなものだけど、本来、ロックンロールバンド(彼らはデスメタルだけど、あえてこう言わせてもらう)のツアーなんてこういうものでもいいんじゃないだろうか。
自分の大好きな音楽をいろんな場所で演奏するために、楽器をバンに詰めてひたすらドサ回り。
海外ツアーだからって姿勢は変わらない、そのバンが飛行機になっただけ。
やるほうは大変だろうけど、なんていうか、こう、夢があるよな。
ボロボロになるかもしれないけど、これがやりたいんだ!っていう熱さがびんびん伝わってくる。
もちろん「そんなのはきれいごと。各地で待つファンをがっかりさせないよう、最高のパフォーマンスをするためには無理は禁物!」っていう意見もあるだろう。
でもさあ、これだけいろんなことがきっちりしちゃってる世の中で、こういう行き当たりばったり&気合で乗り切る!みたいなツアーをするバンドがいるって、ものすごく素晴らしいことなんじゃないだろうか。
いつもインドのロックバンドのことを「インドじゃ楽器買えるのは富裕層だけ」みたいに書いているけど、生半可な根性じゃこんなツアーできないよね。
確かに彼らは裕福な家庭に生まれたのかもしれないけど、その環境に甘えて音楽をやっているような連中じゃない(演奏レベルを見てもそれは一目瞭然)。
彼らの音楽へのハンパない情熱に最大限の敬意を表したいよ。
彼らのことを意気に感じて、ぜひ応援したい!という方はこちらから!
Gutslitのみなさんにコンタクトしてみたところ、あとちょっとでライブ会場やなんかがはっきりするので、インタビューにも応じてくれるとのこと。
乞うご期待!
(このブログ、インタビューの告知ばっかでなかなか掲載されないけど、どうなってんの?とお思いの方もいるかもしれないけど、気長に待って頂きたく。そんなもんよ。インドも人生も…)
インドの今までにインタビューしてきたインドのメタルアーティストのThird SovereignのVedantも、Alien Nation(Sacred Secrecy)のTanaも、日本でのライブが夢だと語ってくれていた。
何度も書いているように、こういったコアな音楽ほど国境は無い。
今回のGutslitの来日でインドのメタルバンドのレベルの高さが知れ渡り、彼らにも道が開けたら良いなと思います。