GullyGang

2024年10月31日

2024年秋〜冬 インドの音楽フェス事情


日本ではフェスといえば夏の印象が強いけれど、インドではおもに秋〜冬が音楽フェスの季節。
12月から1月にかけてチェンナイで行われる古典音楽の祭典「チェンナイ・ミュージック・シーズン」のようなインドならではのフェスももちろんあるが、このブログでは今回も近年ますます盛り上がりを見せているヒップホップ/エレクトロニック/ロックなどのフェスを特集する。

この週末には、DIVINE率いるムンバイのクルー/レーベルのGully Gangが主催するその名もGULLY FESTが開催された。
ムンバイを中心にインドのヒップホップ全体に目配せしたかなり面白いラインナップが出演している。

Gully Fest


初日の10月26日のヘッドライナーは、DIVINEとNetflix映画『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌"Jungle Mantra"で共演したアメリカのPusha T.
USの人気ラッパーの一人ではあるが、2日間を通じて唯一の非インド系出演者となる。
インドで国内とUSのヒップホップリスナーがどれくらい重なるのか、興味深いところではあるが、なにしろインドなのでそのへんはあまり関係なく盛り上がるような気がする。

デリーのPrabh Deepはアーティスティックな音作りと深い声が特徴的なパンジャービー・シクのラッパー。
9月にリリースしたアルバム"DSP"も優れた作品だった。

Prabh Deep "8-FIGGAAH!"(feat. GD47)



Lisa Mishraはインド東部のオディア州にルーツを持つアメリカ人のシンガーソングライターで、映画のプレイバックシンガーとしても活躍するかたわら、BadshahやDIVINE、KR$NAらラッパーとの共演も多い。
男性ラッパー中心の出演者のなか、ヒップホップに近い部分を持ちつつもかなりポップな存在で、こういうアーティストをちゃんと入れてくるところに主催者のセンスを感じる。
他には地元ムンバイのGravityやThe Siege、ケーララのVedanといったラッパーが出演し、初日はインドのヒップホップの地域的多様性が感じられるラインナップとなっている。


一方で、2日目は地元ムンバイ(あるいは広くマハーラーシュトラ州)出身者を中心に固めたラインナップだ。
トリはもちろんDIVINE.
ヘッドライナーの次に名前が挙がっているSambataはプネー出身。昨年Gully Gangとも関わりの深いDef Jam Indiaからデビューアルバムをリリースした注目のマラーティー語/ヒンディー語ラッパーだ。

DIVINE feat. Armani White "Baazigar"


Sambata & Riar Saab "Hoodlife"


ターバンを巻いてないほうがSambata.
Public Enemy、2Pac、Kendrick Lamerらをフェイバリットに挙げているブーンバップ的なセンスと現代的な感覚をあわせ持ったラッパー。
ここにめきめき人気を上げつつあるYashraj、ケニア出身のBobkat率いるレゲエバンドBombay Bassment、ビートボクサーBeatrawとD-Cypherなどの地元勢が集結し、北東部出身のフィメール・ラッパーRebleが新鮮な風を吹き込んでいる。
インドそしてムンバイのヒップホップの層の厚さが存分に感じられるフェスと言えるだろう。


9月にはDIVINEはじめGully Gang勢との共演も多いビートメーカー/DJのKaran Kanchanが主宰するビートメーカー集団Neckwreck CrewによるフェスWreckfest '24が開催されている。

Wreckfest24

ヘヴィなトラップ/ベースミュージックをルーツに持ちながらも多様なサウンドをプロデュースするKaran Kanchanとポップなインド風EDM(印DM)のRitvizのB2Bがヘッドライナーに据えられ、デリーの若手注目ラッパーChaar Diwaariらが出演。

過去5年にわたってクラブ(antiSOCIALあたり)で開催されていたパーティーを今年は大会場のNESCO Hallで行い、めちゃくちゃ盛り上がったようだ。



12月14〜15日にプネーで行われるインド屈指の大規模音楽フェスNH WeekenderはイギリスのR&B系シンガーソングライターJorja Smithがヘッドライナー。
「洋楽勢」としては、他にアメリカのヒップホップDJのCraze、多彩な楽器やサンプリングを駆使してダンスミュージックを作り上げるイギリスのYoungrが出演する。

NH7WeelenderPune2024

かつてはラム酒のバカルディが冠スポンサーについていたが、今はインドのウイスキーブランドMr. Dwell'sがスポンサーを務めているようで、やはり音楽フェスはインドの若い客層を取り入れたい酒造メーカーの格好のプロモーションの場にもなっているようだ。


今年のNH7 Weekenderで面白いのは、インディーズ的趣味の洋楽や国内勢に加えて、Amit Trivediや、超ベテランプレイバックシンガーのUsha Uthup(今76歳!)らの映画音楽勢がラインナップということ。
Amit Trivediは映画音楽とは別にCoke Studio Indiaで洋楽的センスと伝統音楽の融合を試みていたりもするし、Usha Uthupはかなり早くからロックやディスコやラテンポップ風の曲を歌っていたシンガーということで、インディーズ的な感覚でもクールな存在なのだろう。

他には、インドでは珍しいK-POPにインスパイアされたようなスタイルのガールズヴォーカルグループのW.I.S.H.もフォントは小さめだがラインナップされていて、インドでもジャンルの壁がどんどん低くなってきていることを感じる。

世界的に見ても、もともとオルタナティブ系のフェスとして始まったコーチェラやロラパルーザやボナルーなども今では軒並みメインストリーム化してきているし、日本のサマソニやRock In Japanは完全にポピュラー音楽全般を扱うフェスになってきている。
遠く離れたインドの音楽シーンも、こうした世界的なフェスの潮流と無縁ではないようだ。


NH7 Weekenderで日本人としてもうひとつ押さえておきたいのは、日本のインストメタルバンドASTERISMが出演するということ。
私が知る限りではこのフェスへの日本人アーティストの出演は初めてで、どんな爪あとを残してくれるのか楽しみだ。

ASTERISM "unravel"


ヒップホップ勢では、若手人気ラッパー/シンガーのKINGとRAFTARと若手注目株のChaar Diwaariが出演。
それぞれフォントの大きさは「中」と「小」で、音楽シーン全体で見た時の注目度が分かって興味深い。


NH7 Weekenderのような多彩なアーティストが出演するフェスが注目を集めている一方で、ジャンルを絞ったシブいフェスも行われている。
ブルース系のフェスティバルなども開催しているMahindra(自動車メーカー)主宰のMahindra Independence Rockはインドのハードロック/ヘヴィメタル系バンドが勢揃いしている。

MahindraIndependent

エクストリーム系のメタルではなく、古式ゆかしいハードロック系の、それもかなりベテランのバンドが多数出演しているのがこのフェスの特徴で、トップに名前が書かれている13ADはなんと1977年から活動しているケーララ州のバンドだ(このフライヤーはアルファベット順なのでヘッドライナーというわけではないようだが)。
他にも、北東部ナガランド出身で日本でも根強いファンを持つメロディック・ハードロックのAbout Usや、昨年の単独来日公演も大盛況だったBloodywoodといった最近のバンドと並んで、Indus Creed(前身バンドRock Machineは1984年結成)、Motherjane(1996年結成)、Skrat(2006年結成)、Girish and the Chronicles(2009年結成)といった大御所も健在。
こういう年齢層高めのフェスも開かれるようになったところに、インドの音楽シーンの成熟を感じる。


他にジャンルを絞ったフェスとしては、ムンバイとベンガルールで先日開催されたK-Wave Festivalが挙げられる。
Image2-KWave-Poster-960x961

その名の通りK-POPのフェスで、もしJ-POPのフェスが行われたらJ-WAVEという名前になるんだろうか。
ExoのメンバーのSuhoとシンガーソングライターのHyeolyn(元SISTARというグループの一員)が出演し、こちらもY大いに盛り上がったようだ。


このブログでも何度も書いている通り、インド北東部もかなり面白いフェス(例えばZiro Festival )がたくさん開催されている要注目エリアだ。

北東部はインドの大部分とは異なる文化を持ち、欧米の宣教師が持ち込んだキリスト教の信者が多いためか、古くからロックなどの欧米の音楽が受容されてきた土地で、80年代や90年代の懐かしいアーティストがトリを務めるフェスがいくつも開催されている。


メガラヤ州のシロンで行われる「晩秋の桜祭り」Cherry Blossom Festivalでは、なんとあのBoney M.がヘッドライナーを務めている。

CherryBlossom

「あのBonny M.」と言って今どれくらいの人に伝わるのかちょっと不安だが、彼らは"Rasputin"などのヒット曲を持つドイツ出身のディスコポップバンドで、70〜80年代に世界的な人気を博した。
2日目のヘッドライナーには、かつてボリウッドのサウンドトラックにも参加していたことがあるR&BシンガーのAkonで、これもまたシブいところ呼ぶなあー、というラインナップだ。
QueenとKornのカバーバンドが出演するのも盛り上がりそうだし、日本のポップカルチャーの人気が高いインド北東部らしく、コスプレのイベントも行われる。
これはこれでかなり面白そうなフェスだ。

ちなみに同じメガラヤ州で11月末に行われるMe:Gong Festivalのトリは、あの"Final Countdown"のEuropeで、これまたシブすぎるラインナップだ。


まだだいぶ先の話になるが、来年3月にはインドで3回めとなるLollapaloozaが開催されることが発表されている。

lollapalooza-india-2025-2-2024-9-16-t-10-38-36

トリはインドでは初めてのパフォーマンスとなるGreen Dayと、ポップシンガーのShawn Mendes.
他にもオルタナからダンス系までセンスの良いラインナップが並んでいて、インド人でもっともフォントが大きいのはHanumankind.
彼はベンガルールの通好みなラッパーだったが、"Big Dawgs"の世界的ヒットで一躍人気者となった。
デリーのベテランRaftaarとKR$NAよりも大きく名前が出ているのは、Lollapaloozaという洋楽系のフェスならではだろう。
他にインド国内からは、パンジャービーの覆面ラッパーTalwiinder, グジャラート語ラップのDhanji、元The Local TrainのフロントマンRaman Negi、シンガーソングライターのRaghav Meattleらが出演する。


各フェスのオーガナイザーたちはそれぞれにセンスが良くアンテナが高いので、フェスの出演者を片っ端からチェックすると、かなり効率よく面白いアーティストを探すことができたりもする。
今回の記事はかなり盛りだくさんな内容になってしまったが、じつはこれでも結構厳選した情報を載せているつもりで、書ききれていないフェスがまだたくさんある。
ジャンル、国籍、世代といった障壁や、メジャーとインディーの垣根を乗り越えてますます盛り上がっているインドのフェス事情については、また改めて紹介する機会を持ちたい。



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2021年07月07日

Karan Kanchanの活躍が止まらない!(ビートメーカーで聴くインドのヒップホップ その2)


うれしいことに、ここ最近、俺たちのKaran Kanchanの快進撃が止まらない。
Karan Kanchanはムンバイを拠点に活躍しているビートメーカー。

なぜ「俺たちの」なのかというと、彼はジャパニーズ・カルチャーに大きな影響を受け、その結果、日本にも存在していない'J-Trap'というジャンルを「発明」してしまったという、愛すべきアーティストなのである。

(彼について紹介した記事)


J-Trapはトラップのダークでヘヴィなビートに、三味線っぽい音色や和風の旋律をちりばめた、極めてオリジナルな音楽だ。
この"Tokyo Grime"のラッパーはXenon Phoenix.
外国人の目線から見た不穏なイメージの東京がめちゃくちゃクール!

こちらは"Daruma Dub"
インド人仏教僧Bodhidharma(サンスクリット語)を語源とするおなじみのダルマが、日本のポップカルチャーの影響を受けた最新のダンスミュージックとしてインドに帰還したと思うと、なんだか不思議な縁を感じる。

インドでは、K-Popがメインカルチャーとして受け入れられている一方で、アニメやマンガを中心とした日本文化は、コアなファンを持つサブカルチャーとして確固たる位置を占めている。
K-Popのグループがインドの雑誌の表紙を飾ったり、ボリウッドの人気歌手がK-Popシンガーと共演して多くの耳目を集めている一方で、インディーミュージックシーンでは、日本語名のアーティストや、日本語タイトルの楽曲が数多く存在しているのだ。
こうした日韓のカルチャーの受け入れられ方の違いは、東アジアの一員として非常に興味深い。

(関連記事をいくつか貼り付けます)






シーンを見渡せば、他にも、ジブリの映画や久石譲の音楽をフェイバリットに挙げ、ミュージックビデオにトトロの人形を登場させたドリームポップバンドのEasy Wanderlingsや、80年代の日本のアニメをモチーフにしたミュージックビデオ(楽曲のタイトルは"Samurai")をリリースしたSayantika Ghoshなど、日本文化の影響を受けたインディーミュージシャンは枚挙にいとまがない。
Karan Kanchanは、そのなかでも、非常に強く日本のカルチャーの影響を感じさせるアーティストの一人なのである。


この"Monogatari"のイントロの語りは、三味線奏者の寂空-JACK-によるもの。
じつは、この二人を引き合わせたのは私、軽刈田。
Kanchanの「コラボレーションしてくれる三味線奏者を探してほしい」というリクエストをSNSで拡散したところ、寂空が手をあげてくれたのだ。
この曲では、三味線とトラップのコラボレーションに先駆けて、語りでの共演となった。
寂空が所属するバンド'Shamisenist'は、今後アメリカのレーベルColor Redからのデビューが予定されており、ひとまわり大きくなった日印のアーティスト同士の新たなコラボレーションにも期待したい。

J-Trapという類まれなるスタイルを確立したKaran Kanchanは、前回の記事で紹介した「ムンバイのストリートラップシーンの帝王」DIVINEとの共演を皮切りに、瞬く間にインドのヒップホップ・シーンを代表するビートメーカーとなった。

Karan Kanchanは、ソロ名義でJ-Trapの作品を制作するかたわら、DIVINEを中心としたムンバイのストリートラップ集団Gully Gangのビートを数多く手掛け、次々に注目作をリリースしていった。

DIVINEのニューアルバムでは、ストリート路線から脱却し、内面的なテーマを扱うようになった彼に合わせてディープでメロウなビートを提供。
かと思えば、DIVINE同様にMass Appeal Indiaからのデビューを決めたGully GangのD'Evilには、初期ガリーラップを思わせるパーカッシブなビートを用意し、ムンバイの個性を巧みに表現した。

近年のKanchanの活躍の舞台はムンバイを飛び越え、デリーのラッパーと共演する機会も広がっている。
この"Dum Pistaach"ではデリーのラップデュオSeedhe Mautと共演し、ヘヴィ・ロックの要素を導入した新境地を開いた。
アメコミとインド神話とジャパニーズ・カルチャーが融合したようなビジュアルもクール!
デリーを拠点に活躍するメジャー寄りの人気ラッパーRaftaarの楽曲にも制作陣として名を連ねている。
2019年にリリースされたこの曲の再生回数は4,500万回を超えている。

彼の活躍は国境すら超えはじめており、最近では、Netflixで全世界に配信された『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌の"Jungle Mantra"で、盟友のDIVINE、そしてアメリカの人気ラッパーVince Staples、Pusha Tとの共演を実現させている。


ここ最近の彼の活動で特筆すべきは、活躍の場を広げているだけではなく、ビートのスタイルも多様化させていることだろう。
以前はトラップ系のヘヴィなビートをシグネチャー・スタイルとしていたKanchanだが、最近ではよりコードやメロディーを重視したサウンドにも挑戦している。
Pothuriと共演した"Wonder"では、Daft Punkを思わせるようなポップでエレクトロニックなR&Bのビートを披露。


Gully Gang一味の出身で、やはりMass Appeal Indiaの所属となったShah Ruleの"Clap Clap"では、印象的なピアノのメロディーと、ドリル的に上下にうねるベースが印象的。


とにかく活躍が止まらないKaran Kanchan、売れてくるにつれて彼は日本のカルチャーを忘れてしまったのか?と少々寂しい気持ちにもなるが、最新曲の"Marzi"は、新境地のChill/Lo-Fi系のビートを大胆に導入した最高に心地よいサウンドを届けてくれた。

Lo-Fi/Chill Hop系のビートは、日本のビートメーカーNujabesやアニメ作品との関わりから、日本のカルチャーとの関わりが深い。
(この話題についてはこの記事に詳しい。beipana「Lo-fi Hip Hop〔ローファイ・ヒップホップ〕はどうやって拡大したか」

言うまでもなくこのミュージックビデオはあの有名なLo-Fi Study Girlのオマージュ(正面から映しているのは珍しい!)で、机の上のチャイがインドらしさを感じさせるが、窓の外の景色や室内の様子は、日本のようにも、どこか他の国のようにも感じられるのが今っぽい。
ヘヴィはトラップ・サウンドから出発したKaran Kanchanが、メロウなLo-Fiビートでジャパニーズ・カルチャー的な世界に帰ってきてくれたと思うと、なんとも感慨深い。

(関連記事。インドのYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'が作ったインド風Lo-Fi Study Girlにも注目)



ここでこの記事を終わりにしてもよいのだけど、せっかくなのでKaran Kanchan本人に、ここ数年の大活躍とスタイルの深化、そしてパンデミック下での生活についてインタビューをしてみた。
その様子は次回!
お楽しみに!

(Karan Kanchanインタビュー)


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2020年06月06日

ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その3) 驚異の「オンライン会議ミュージカル」ほか





先日、「ロックダウン中に発表されたインドの楽曲(その1)」と「その2」という記事を書いたが、その後もいろんなミュージシャンが、この未曾有の状況に音楽を通してメッセージを発信したり、今だからこそできる表現に挑戦したりしている。
今回は、さらなるロックダウンソングス(そんな言葉はないけど)を紹介します!
(面白いものを見つけたら、今後も随時追加してゆくつもり)

まず紹介したいのは、政治的・社会的なトピックを取り上げてきたムンバイのラップグループSwadesiによる"Mahamaari".

パンデミックへの対応に失敗したモディ政権への批判と、それでも政権に従わざるを得ない一般大衆についてラップしたものだという。
MC Mawaliのヴァースには「資本主義こそ本当のパンデミック」というリリックが含まれているようだ。
これまでも積極的に伝統音楽の要素を導入してきた彼ららしく、このトラックでも非常にインド的なメロディーのサビが印象的。

ムンバイのシンガーソングライターTejas Menonは、仲間のミュージシャンたちとロックダウン中ならではのオンライン会議をテーマにした「ロック・オペラ」を発表した。

これはすごいアイデア!
オンライン会議アプリを利用したライブや演劇は聞いたことがあるが、ミュージカルというのは世界的に見ても極めて珍しいんじゃないだろうか。
アーティスト活動をしながら在宅でオフィスワークをしている登場人物たちが、会議中に突然心のうちを発散させるという内容は、定職につきながら音楽活動に励むミュージシャンが多いインドのインディーシーンならではのもの。
この状況ならではのトピックを、若干の批評性をともなうエンターテインメントに昇華させるセンスには唸らされる。
恋人役として出演している美しい女性シンガーは、「その1」でも紹介したMaliだ。

アメリカのペンシルバニア大学出身のインド系アカペラグループ、Penn MasalaはJohn Mayerの"Waiting on the World to Change"と映画『きっと、うまくいく』("3 Idiots")の挿入歌"Give Me Some Sunshine"のカバー曲をオンライン上のコラボレーションで披露。

しばらく見なかったうちになんかメンバーが増えているような気がする…。
(追記:詳しい方に伺ったところ、Penn Masalaはペンシルバニア大学に在籍している学生たちで結成されているため、卒業や入学にともなって、メンバーが脱退・加入する仕組みになっているとのこと。歌の上手い南アジア系の人って、たくさんいるんだなあ)


以前このブログでも取り上げたグジャラート州アーメダーバード出身のポストロックバンドAswekeepsearchingは、アンビエントアルバム"Sleep"を発表。

以前の記事で紹介したアルバム"Zia"に続く"Rooh"がロック色の強い作品だったが、今回はうって変わって静謐な音像の作品となっている。
制作自体はロックダウン以前に行われていたそうだが、家の中で穏やかに過ごすのにぴったりのアルバムとなっている。
音色ひとつひとつの美しさや存在感はあいかわらず素晴らしく、夜ランニングしながらイヤホンで聴いていたら、まったく激しさのない音楽にもかかわらず脳内麻薬が分泌されまくった。

ムンバイのヒップホップシーンの兄貴的存在であるDivineのレーベル'Gully Gang'からは、コロナウイルスの蔓延が報じられたインド最大のスラム、ダラヴィ出身のラッパーたち(MC Altaf, 7Bantaiz, Dopeadelicz)による"Stay Home Stay Safe"がリリースされた。
このタイトルは、奇しくも「その1」で紹介したやはりムンバイのベテランラッパーAceによる楽曲と同じものだが、いずれも同胞たちに向けて率直にメッセージを届けたいという気持ちがそのまま現れた結果なのだろう。
アクチュアルな社会問題に対して、即座に音楽を通したメッセージを発表するインドのラッパーたちの姿勢からは、学ぶべきところが多いように思う。
タミル系が多いダラヴィの住民に向けたメッセージだからか、最後のヴァースをラップするDopeadeliczのStony Psykoはタミル語でラップしており、ムンバイらしいマルチリンガル・ラップとなっている。


ムンバイのヒップホップシーンからもう1曲。
昨年リリースしたファーストアルバム"O"が高い評価を受けたムンバイのラッパーTienasは、早くもセカンドアルバムの"Season Pass"を発表。
彼が「ディストピア的悪夢」と呼ぶ社会的かつ内省的なリリックは、コロナウイルスによるロックダウン下の状況にふさわしい内容のものだ。

この"Fubu"は、歪んだトラックに、オールドスクールっぽいラップが乗るTienasの新しいスタイルを示したもの。
トラックはGhzi Purなる人物によるもので、リリックには、かつてAzadi Recordsに所属していた名トラックメーカーSez on the Beatへの訣別とも取れる'I made it without Sez Beat, Bitch'というラインも含まれている。
直後に'I don't do beef'(争うつもりはない)というリリックが来るが、その真意はいかに。
今作も非常に聞き応えがあり、インドの音楽情報サイトWild Cityでは「Kendrick LamarやVince Staples, Nujabesが好きなら、間違いなく気にいる作品」と評されている。


ムンバイのエレクトロニック系トラックメーカーMalfnktionは、地元民に捧げる曲として"Rani"を発表。

いかにもスマホで取り急ぎ撮影したような縦長画面の動画にDIY感覚を感じる。


世界的にも厳しい状況が続きそうですが、インドの音楽シーンからはまだまだこの時期ならではの面白い作品が出てきそうな予感。
引き続き、注目作を紹介してゆきたいと思います!



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