FriendsFromMoon

2023年01月08日

(後編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 さらなる多様なポップミュージックたち



前回に続いて、Rolling Stone Indiaが選んだ2022年のベストシングル22選の後編、Top10を一言レビュー付きで紹介する。
22〜11位同様、アコースティック系ポップを基調としつつも、Top10にはさらに多様性にあふれた曲が集まっている。

10位 MS Krsna  “Odathey Oliyathey”

ミズ・クリシュナという女性アーティストかと思ったら男性だった。
デリーのベテランラッパーKR$NAとも関係がない、チェンナイのシンガーソングライターだ。
使っている楽器こそアコースティックギターだが(途中からバスドラの4つ打ちが入る)そのフレーズや歌メロは洋楽的というよりはタミル的。
タミルらしい個性を感じさせる面白いアーティストだ。


9位 The Colour Compound  “Holding On To The Hope” 

アメリカっぽいカントリー系ロックチューンかと思ったら、この曲も4つ打ちのバスドラが入ってくる。
さわやかでポップなメロディーが印象的。
ムンバイの3ピースロックバンドだそうで、海沿いの道をドライブしたら気持ちよさそうな曲だ。
どうでもいいが、colourの綴りにイギリス領だった面影を感じさせられる。


8位 Friends from Moon  “Rebellion Road” 

過去にはあまりにも壮大なオーケストレーションを導入したデス/ブラックメタル(以前の記事で「サウンドトラックメタル」と命名させてもらった)を演奏していたデリーのRitwik ShivamのソロプロジェクトFriends from Moonが、気がついたらプログレメタルっぽい要素のあるポップなロックバンドに様変わりしていた。
もはやデスメタル的なグロウル(いわゆるデス声)は完全に聴かれなくなり、YouTubeの静止画もこのかわいらしさだ。
今っぽい音ではないが、Burrn!で結構いい点数取りそうな感じというか、これはこれで上質な音楽だ。
一昨年のハロウィン(ジャーマンメタルではなく、10月末の)にはビートルズのCome Togetherのインダストリアル的カバーを披露したりもしていて、予想のつかない音楽性で今後も楽しませてくれそうなアーティストだ。


7位 Meba Ofilia  “Feelings” 

インド北東部メガラヤ州の州都シロン(古くから「インドのロックの首都」と言われている街だ)のR&Bシンガー/ラッパーのMeba Ofiliaの新曲は、ヒップホップ的な要素のないR&Bバラードだ。
北東部のミュージシャンはブルースや80年代など、古めの洋楽を好む傾向が強いが、この曲も音楽性としては90年代くらいの感じ。


6位 Vaisakh Somanath  “Death of January”

マラヤーラム語を中心に多言語で楽曲を発表するシンガーソングライターVaisakh Somanathが今は亡き母を偲んで書いた曲。
シンプルだが美しいメロディーで始まり、静かに盛り上がってゆく構成が胸に沁みる。
歌い回しとラップから、マラヤーラム語の響きの心地よさを存分に感じることができる曲だ。
せっかくインドのランキングなのだから、こういう曲がもっと聴きたいよな。


5位 Lucky Ali  “Intezaar” 

Lucky Aliはボリウッド映画の曲なども歌うメインストリーム寄りのシンガーだが、どういうわけかインディペンデント系の音楽を推す傾向が強いRolling Stone Indiaにも取り上げられることが多い。
プレイバックシンガーという出自にふさわしく、この曲もポップな分かりやすさと洋楽的な方向の洗練をうまく融合させたアレンジが素晴らしい。
後半の間奏でウォール・オブ・サウンド的なコーラスが出てきたときには思わず唸ってしまった。
ミュージックビデオも映画的な美しさがある。


4位 Shikhar  “Moonbrain” 

憂を帯びたキャッチーな歌メロと、アルペジオとカッティングを織り交ぜたギターのバッキングが素晴らしい。
インド中部マディヤ・プラデーシュ州の州都ボーパール出身だそうで、こう言ってはなんだが、かなり地味な都市からこれだけの洗練されたシンガーソングライターが出てきたことに驚かされた。
タイトルの意味は、簡単なことも疎かになってしまうようなぼーっとした精神状態を指す言葉だそうだ。


3位 Dhruv Visvanath  “Suffocation”

Dhruv VisvanathはアメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという、ニューデリーを拠点に活躍する活動するシンガーソングライター。
この曲もアコースティックギターのパーカッシブな奏法が印象的(こういうのは生演奏を見ないと今ひとつ盛り上がらないんだよな…とも思うが)。
演奏だけでなく、歌メロにはフックがあるし、ファルセットのサビにも色気があるし、曲自体も非常によくできている。
さすがにトップ3の曲になるとクオリティが高い。


2位 Reble x kbjj  “Talk of the Town” 

KbjjというのはヴォーカルのEmma ChallamとプロデューサーのErick Frankyからなるポップデュオ、途中でRableというのはこの曲でコラボレーションしているフィメールラッパー。
全員が北東部メガラヤ州の州都シロン出身のミュージシャンたちだ。
これまでインドのアーティストでは聴いたことがない音楽性で、強いていうならば(ネオ)カワイイの要素を大幅に減じたCHAI(インドの話題だけれども、日本のバンドのほうのね)みたいな感じ?
インド北東部の独自性と、「インドのロックの首都」と言われる当地の面白さの両方が感じられるアーティストだ。


1位 Chirag Todi (ft. Ramya Pothuri & RANJ)  “Love Nobody”

Chirag TodiはHeat Sinkというジャズロックバンドのメンバーで、Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストシングルの1位にも選ばれたアーティスト。
この"Love Nobody"も、2020年に選ばれていた"Desire"で共演していたムンバイの「プログレッシブ・ドリームポップ」ユニットSecond SightのPushkar Srivatsalが今作をプロデュース。
Karan Kanchanはじめさまざまなアーティストとの共演で知られるRamya Pothuri、女性ラッパーのRANJとのコラボレーションによる「ラップ入りシティポップ」的な小洒落たサウンドはいかにもRolling Stone India好みだ。


と、全体的に洋楽的ポップアーティストとしての質の高さを誇示しつつも、随所にインドならではの個性が感じられるシングルTop22でした。
来年はTop23になるのかと思うと今から目眩がするぜ。
全体的にロック/R&B色が強くて、EDM系が少なく、ヒップホップが全くないのが昨今のインドのシーンを考えるとちょっと不思議な選曲ではあったけど、そこは媒体の傾向ってことなのかな。

過去のTop10と聴き比べてみるのも一興です。

昨年いきなり1位にランクインした実力派ジャズ/R&BのVasundhara Veeはその後ボリウッドのプレイバックシンガーとして活躍しているようだ。


2020年はより小洒落た感じで揃えてきていた感じがある。
そう考えると、やはり20曲くらい選んだ方が個性が感じられて良いのかな。


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goshimasayama18 at 14:15|PermalinkComments(0)

2021年04月26日

驚愕のサウンドトラック・メタル! Friends from Moonの壮大すぎる世界!



インドはメタル大国である。
鉱物資源の話ではない。
音楽のヘヴィメタルのことだ。(音楽ブログなんだから当たり前か)

ボリウッド映画や古典音楽やヨガのイメージからは想像しづらいかもしれないが、経済発展とグローバリゼーションの果実のひとつとして、インドでは多くのメタルバンドが結成されている。
そのなかには、GutslitやGirish and the Chroniclesのように、かなりレベルの高いバンドも存在している。




前述の2バンドや、Kryptos, Systemhouse33, Demonic Resurruction, Amorphiaのように、海外ツアーを行うバンドも出てきているものの、単独で(インド国内においても)ホールやアリーナを埋めることができるようなバンドは、まだ登場していない。


その理由は単純だ。
欧米のバンドがリードしてきたヘヴィメタルシーンでは、インドや日本を含めたアジアのバンドのスタイルは、既存のジャンルの模倣になりがちだ。
どれだけ演奏技術が高く、楽曲が良くても、オリジナリティが低ければ、カリスマ的な人気を得ることは難しい。

ヘヴィメタルシーンにおいてアジアのバンドが注目を集めるためには、欧米のバンドにはない個性を打ち出すことも有効だ。
つまり、自国のユニークな文化をサウンドに持ち込むことで、オリジナルなスタイルを打ち出すことができるのだ。
日本で言えばBabymetal、インドでもSitar MetalやBloodywoodが、その手法で注目を集めることに成功している。


そんな世界とアジアのヘヴィメタルを取り巻く状況のなかで、インドから、ステレオタイプなインドらしさをまったく打ち出すことなく、完全に新しいジャンルを生み出すことに成功したバンドが登場した。

その名は、つい先頃デビューEP "The Spectator"をリリースしたFriends from Moon.
「バンド」と書いたが、Friends from Moonの実態はデリーのヒンディー・メタルバンド(英語ではなくヒンディー語で歌うメタルバンド)AarlonのギタリストRitwik Shivamのソロプロジェクトである。

Friends from Moonの音楽的特徴を一言で表すなら、まるで映画音楽のような壮大なサウンドをヘヴィメタルに取り入れた「シネマティック・メタル」もしくは「サウンドトラック・メタル」と呼ぶのがふさわしいだろう。
これまでも、シンフォニックな要素を効果的に取り入れたメタルバンドは少なからずいたが、それでもFriends from Moonのサウンドが前例のないものであることは、デビューEP"The Spectator"のオープニングトラック、"A Hope Forever"を聴けば簡単に分かるはずだ。


ストリングス、ブラス・セクション、ピアノが織りなすドラマティックなサウンドは、まるでSF映画かファンタジー映画のサウンドトラックを思わせる。
ネタばらしをしてしまうと、この8分にわたる大曲は、なんと最後までメタルの要素が一切ないまま終わってしまう。
これまでもアルバムの1曲目にSE的な「序曲」を入れるバンドは珍しくなかったが、ここまで大仰かつ本格的な「序曲」は50年に迫るヘヴィメタルの歴史上、初めてのことだろう。

満を辞して、2曲めの"Saruman the Black"で怒涛のメタルサウンドが披露される。

シネマティックなイントロに続いて、怒涛のメタルパートに雪崩れ込むが、1曲めからの流れで聴くと、この凶暴なメタルサウンドも、激しさを表現する音楽的演出のひとつとしてすんなりと受け入れられるのではないだろうか。
デス声ではなくクリーンな声で歌われるパートが、典型的なメタルのスクリームではないことも、彼らの音楽の聴きやすさにつながっている。
"Saruman the Black"はトールキンの『指輪物語』("The Lord of the Rings")の登場人物にちなんだタイトルとのこと。
この曲にはイタリアのGabriele Paolo Marraによる一人ブラックメタルプロジェクトHowling in the Fogが参加している。

3曲目の"Salton Sea"はプログレッシブ・メタル的な変拍子を導入した曲。
この曲にはAarlonを含む複数のバンドで活動していたヴォーカリストのPritam Goswami Adhikaryが参加。
Salton Seaとはカリフォルニア州に位置する塩湖の名前のようだ。


EPの最後を飾る"We are the Drifters"は静かなピアノの響きから始まる。

再びヘヴィメタル的の要素を排したこの曲で、彼らのデビューEP、"The Spectator"は幕を閉じる。
4曲のみながら、28分のボリューム。
Spectator(観客/目撃者)というタイトルの通り、リスナーはFriends from Moonのサウンドが紡ぐ物語的な世界にただただ身を浸し、圧倒されることになる。

このあまりにも特異な作品が登場したことに、世界はまだほとんど気付いていないようだが、このアルバムは今後いったいどのような評価を受けるのだろうか(それとも気づかれないまま終わってしまうのか)。
いずれにしても、Ritwik Shivamがこれまでにないジャンルの扉を開いたことは間違いない。
彼らが今後どんなサウンドを展開してゆくのか、興味は尽きない。


参考サイト:
https://www.rsjonline.com/reviews/friends-from-moon-is-excitingly-cinematic-on-debut-ep.html

https://rollingstoneindia.com/reviewrundown-march-2021-project-malabaricus-drastic-naman-winterchild/


 

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