FarOutLeftElectronicMusicFestival

2018年12月17日

インドの音楽シーンと企業文化! 酒とダンスとスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock!

これまでこのブログでいくつかのインドのフェスを取り上げてきて、ひとつ気づいたことがある。
それは、様々なイベントで、お酒を扱うグローバル企業がスポンサーになっているケースがやたらと多いということ。

以前記事にした'Badardi NH7 Weekender'は、ラムで有名なバカルディが冠スポンサーについているし、先日紹介した超巨大EDMフェス'Sunburn'については、2007年の第1回はスミノフ、2008年はカールスバーグ、2009年にはインドのキングフィッシャー、2010年にはデンマークのビール会社Tuborgと、毎年酒造メーカーのスポンサーがついて実施されている。
BacardiNH7Weekender

他にも大規模フェスのVH1 Supersonicはバドワイザー、先日紹介したDJ NOBUが出演したムンバイの'Far Out Left'はスミノフとハイネケンがスポンサーについている。
BudweiserVh1supersonic
faroutleftmumbai

というわけで、今回は酒造メーカーをはじめとするいろんな企業とインドの音楽シーンとの関わりについて紹介してみたいと思います。

今日ではいろんなアルコール飲料の会社が音楽フェスをサポートするようになっているのだけれど、飲酒という行為はインド文化の中では長らく悪徳とされてきた。
長らくインドを支配していたイスラム教ではもちろんアルコールはご法度だし、人口の8割を占めるヒンドゥー教でも、飲酒は戒めるべきものという扱いだ。
今日でも、グジャラート州のような保守的な州(Dry Stateと呼ばれる)では公の場での飲酒が禁止されているし、それ以外の州でもヒンドゥー教の祝日などには酒類の提供が禁止されていたりもする(Dry Dayという)。
インドの保守的な社会では、飲酒は後ろめたいことであり、「酒好き」は不名誉な称号。
インドの酒飲みたちにとって、酒は味わうものではなく、手っ取り早く酔っ払って憂さを忘れるためのものであり、味はともかく度数の高い強い酒ほどありがたがられてきた。
そんなだからよけい酒飲みのイメージが悪くなるっていう悪循環とも言える状況がインド社会のアルコール事情だ。

ところがそんなインドでも、ここにきて少しずつアルコールのイメージが変わりつつある。
経済成長や欧米文化からの影響で、飲酒が肯定的でお洒落な文化に変わりつつあるのだ。
13億の人口(例え富裕層がそのうちの1割程度だとしても)を抱え、発展を続けるインドを世界の酒造会社が放っておくはずがない。

「酔うためのお酒」ではなく「飲むことがかっこいいお酒」へ。
新しい音楽を楽しめるセンスと経済的余裕のある若者たちが集まる音楽フェスは、お洒落で現代的な、新しいアルコールのイメージにぴったりなのだろう。
インドの音楽フェスへの酒造メーカーの手厚いサポートは、こうした背景が大きく影響している。

インド国内の酒造産業もこうした流れと無関係ではなく、日本のインド料理屋でもよく見かけるインド産ワインメーカーの'Sula'は、自分たちのワイナリーで独自のフェスティバル、その名も'Sula Fest'を開催している。

ご覧の通り、かなり本格的なフェスで、2018年はインドのエミネムことBrodha V、インディアン・ロックの大御所Indian Ocean、インド音楽とダンスミュージックの融合の第一人者Nucleyaなどの国内の人気アーティストに加え、海外のバンドも招聘して開催しており、相当な力の入れようであることが分かる。

お酒の会社以外で音楽シーンとの関わりが目立つのは、スポーツ関連の会社だ。
例えばこちらの'Suede Gully'という曲。

ムンバイのDivine、デリーのPrabh Deep、北東部メガラヤ州のKhasi Bloodz、タミルのMadurai Souljourと、まさにインドじゅうのヒップホップの実力派アーティストが集まったこの曲は、ご覧のようにPumaが全面的なバックアップをしている。
白シャツのボタンを上まで留めて、ターバン姿でアグレッシブなパフォーマンスを見せるPrabh Deepがかっこいい!
ラップ、ダンス、グラフィティとヒップホップの様々な要素が詰まったこのビデオは、Pumaのスニーカーを新しいカルチャーの象徴として印象づけるに十分なものだ。

続いて、ミュージックビデオではないがNikeのインド向けプロモーション動画。

インドのトップアスリート達が出演しているこのビデオからは、スポーツを単なる競技以上のカルチャーというかライフスタイルとして定着させようという意図が感じられる。
インドは人口のわりにオリンピックのような国際大会でめったに名前を聞かないことからも分かる通り、スポーツ文化の未成熟な国だが、ここにもまた伸びしろがあるということなのだろう。
'Da Da Ding'というこの楽曲は、インド人ではなくフランス人プロデューサーのGener8ionとアメリカ人ラッパーGizzleによるものだが、スポーツにもとづく新しいライフスタイルの一部として、音楽もまた印象的な使われ方をしているのが分かるだろう。

続いて紹介するのは、Prabh Deepと同じAzadi Recordsに所属するムンバイのラッパー、Tienasの曲、その名も'Fake Adidas'.

偽物のアディダスと安物の服しかないとラップするこの曲は、逆説的に本物のヒップホップのフィーリングを間違いなく持っている。
インドらしからぬセンスのトラックからも新しい世代のラッパーの矜持がうかがえるというものだ。
スニーカーがヒップホップの象徴的なファッションアイテムとしてインドでも浸透していることがよく分かる楽曲だ。
このRaja Kumariのビデオでも、彼女がAdidasを履きこなしているのが分かる(1:40あたりから)。
本場カリフォルニア育ちの彼女が履いているのはフェイクではなくもちろん本物。


ここまでヒップホップとスニーカーの関係を紹介してきたが、スニーカーメーカーがサポートしているのはヒップホップだけではない。
先日の記事で紹介した少年ナイフが出演したゴアのインディーロックフェスはVansが冠スポンサーとなったものだった。
VansNewWaveMusicFest 

インドで靴といえば、伝統的なもの以外は、長らくビジネススーツと合わせるドレスシューズかサンダルかという状況だった。
それが、ごらんの通り、ヒップホップなどの人気が高まってきたことに合わせて、スニーカーは単なる機能的な運動靴からお洒落アイテムとしての地位を獲得することになった。
ここでも、インドの経済成長と市場規模を見越したグローバル企業の戦略が働いていることは言うまでもないだろう。

フェスに酒造会社、ヒップホップにスニーカーの会社と、ここまではまあ想像の通りかもしれないが、個人的にすごく気に入っているのがコレ。
G-Shock
このブログでも紹介したDemonic Resurrectionや、先日来日公演を行ったGutslitも出演するエクストリームメタル系のフェス、Fireballの冠スポンサーは、なんと我らがカシオのG-Shock!

フェスに酒、ヒップホップにスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock.
G-Shockの不必要なほどの頑丈さをファッションとして受け入れてもらうために選んだのがデスメタルというのがなかなかに味わい深い。
どんなに激しくモッシュしても壊れないってことだろうか。
このFireball、共演のZygnemaも2006年結成のムンバイのベテランバンドで、出演バンド数こそ少ないものの、北東部以外の実力派バンドが揃ったイベントだ。

そういえば、インドの航空会社のJet Airwaysが「シンガポールでのJudas Priestのライブのチケットが当たる!」という謎のキャンペーンをやっていたこともあった(ちなみのそのライブの前座はBabymetal)。
JudasPriestJetAirwaysSingapore
日本や欧米では邪悪で悪趣味なイメージのヘヴィーメタルが企業のキャンペーンに使われることはほとんどないが、インドではメタルもクールで先鋭的な音楽のひとつ、ということのようだ。

というわけで、今回はインドの音楽シーンと企業との関係についてざっと紹介してみました。
映画音楽に比べるとまだまだ非主流のロックやヒップホップとはいえ、これだけのサポートが各企業から得られているというのは、こうした音楽の愛好家がそれだけの経済力・購買力のある層と重なっているということの証左でもあるのだろう。

それでは!


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2018年11月02日

デカン高原から宮殿まで インドのフェス事情


日本のテクノDJであるDJ NOBUが11月10日にムンバイで開催されるFar Out Left Electronic Music Festivalに出演する。
faroutleftmumbai
このイベントはニューヨークのAurora Halal、DAUWDら海外のアーティストも多数出演するテクノ系のフェスティバル。
DJ Nobuはヨーロッパをはじめ海外でのプレイ経験も豊富なテクノDJで、つい先日も中国でのイベントに出演してきたばかり。
このフェスの会場はGreat Eastern Homeという英国植民地時代の雰囲気を色濃く残す高級家具ギャラリーだそうで、どんなイベントになるのかかなり興味がある。
Boiler Roomのアーカイブから、DJ Nobuの韓国ソウルでのDJセットを紹介します。


日本人アーティストのインド公演としては、今年に入ってから、8月にはWata Igarashi(五十嵐渉)が、9月にはDaisuke Tanabe(ともにダンス/エレクトロニカ系のアーティスト)がニューデリー、ムンバイ、バンガロールなどの都市を回るツアーを行ったばかり。
Daisuke Tanabeに関しては、2016年にもラージャスタン州のダンス系フェスティバルMagnetic FIeldへの出演を含むインドツアーを成功させており、さらにはインドの新興レーベルKnowmad Recordsからのリリースも行っている。

また、ロックバンドでは、2014年にはあの少年ナイフがゴアで行われたVans New Wave Music Festというパンク/インディーズ系のフェスに出演しており、デスメタルバンドではDefiledが2015年に、兀突骨(Gotsu-Totsu Kotsu)が2017年にそれぞれインドツアーを敢行していて、何度も書いていることだが、コアなジャンルの音楽のボーダレス化は、インドにも確実に及んでいることが感じられる。

インドで公演した日本人アーティストの共通点をあえて探すとしたら、もとから国内だけでなく世界を舞台に活動している(そして高い評価を得ている)アーティストであるということ。
つまり、もはやインドで演奏するということは特別なことではなく、世界的に活躍しているミュージシャンにしてみたら、欧米ツアーをするのと同じように、普通にインドでパフォーマンスを行う時代になったということだ。

それにしても、五十嵐渉、Daisuke Tanabe、DJ Nobuという人選をしたインドのオーガナイザーたちの慧眼ぶりはどういうことなんだろう。
日本からmonoが出演したZiro Festival然り、インドのフェスが招聘する海外アーティストのユニークさやセンスの良さにはいつも驚かされっぱなしだ。

例えば、10月27〜28日にバンガロール郊外でAsian Dub Foundationをヘッドライナーに行われた The Beantown Backyard Festival.
バンガロールのイベントADFから中国まで
 UKインディアンのADFはともかくとして、他の海外アーティストの無名&個性的っぷりったらない。
果たして全員知っているって人はいるだろうか?

漢字がひときわ目をひく中国・内モンゴル出身のTulegurは口琴やギターを使ってモダンなフォークミュージックを演奏するアーティスト。


[dunkelbunt]はオーストリアのバルカンビート/ジャズ/レゲエ/ダブバンド(なんだかもうわからない)。


イスラエルのMalabi Tropicalはまさかのスペイン語で歌うラテンバンド。


Ms.Mohammedはトリニダード・トバゴ出身の女性アーティストだが、以前紹介したようにトリニダードはインド系住民が多い国なので、もともとのルーツはインド系なのかもしれない。


デカン高原の自然の中で行われる会場の雰囲気も素晴らしく、ぜひ一度足を伸ばしてみたいフェスのひとつだ。

2つのステージで30を超えるアーティスト、20を超える屋台、20種類以上のビール、早朝のヨガセッションに熱気球などのアクティビティーと非常に充実した内容で、チケットは1,279ルピー(約2,000円)から8,960ルピー(約15,000円)とのこと。行きたい!

Daisuke Tanabeが出演していたMagnetic Fieldは砂漠の州ラージャスタンで行われるダンス系のアーティストを中心としたフェスティバルで、17世紀に建てられた宮殿Alsisar Mahalを会場にして行われる。
昨年は海外からBen UFOやFour Tetらのビッグネームを招聘し、インドからは痛烈な社会批判で知られるBFR Soundsystemらが出演。

ラージャスタンならではの会場の様子が素晴らしい!
こちらはテント持参で1名12,000ルピー(約19,000円)のチケットから、ツインルームの宿泊付きで2名で92,000ルピー(約14万円!)までとかなり強気の価格設定だが、それでもほとんどのプランがソールドアウトになっているようだ。
インドの新しい富裕層の最新かつ最高に贅沢な遊び場ということなのだろうね。

インドのフェスは本当に素晴らしい雰囲気のものが多く、まだまだ紹介したいのだけれども、今日のところはこのへんで!



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goshimasayama18 at 12:20|PermalinkComments(0)