ChaarDiwaari
2025年12月28日
2025年度版 軽刈田凡平's インドのインディー音楽top10 +α
今年はほとんどブログの記事を書かないまま1年が終わってしまった。
渋谷で行われたほとんど在日インド人のディワーリー・パーティーでのカラン・カンチャンのDJが最高だったこととか、ナガランドからやってきたポップパンクバンドのStreet Storiesのライブがエモかったこととか、ちゃんと書いておきたいことはたくさんあったのだけど、連載のほうにほぼ全集中していて、つい母屋であるこのブログをすっぽかしてしまった。
連載というのは、春秋社のウェブマガジン『web春秋 はるとあき』内での「軽刈田凡平の新しいインド音楽の世界」のことで、気合入れて書いてますのでヨロシク。
ともかく、今年も年末恒例の、自分なりのインドのインディー音楽top10を選んでみます。
対象は、アルバムだったり、楽曲だったり、ミュージックビデオだったり、はたまた出来事だったりと何でもあり。
今年は例年になく情報の入力と出力のバランスがアンバランスで、アウトプット過剰だったので、チェックできていない作品がまだまだありそう。
何かおすすめがあったら教えてください。
また、インドの慣例にならって、「インディー音楽」というのは「非メジャーレーベル」という意味ではなく、「非映画音楽」という意味で使っているので、メジャーなアーティストもここには含まれています。
10作品の順位はとくにないです。
Karan Aujla "P-Pop Culture"(アルバム)
いきなり大メジャーで申し訳ないが、カナダを拠点に活躍するパンジャーブ音楽界の大スター、Karan Aujlaのアルバムを筆頭に挙げたい。
数年前からAujlaをはじめとしてAP Dhillon、Diljit Dosanjh、Shubhらのパンジャーブ勢は北インドと在外インド人社会での人気がめちゃくちゃ高く、APとDiljitはコーチェラでもパフォーマンスを披露している。
昨年末にムンバイで見たAujlaのライブもめちゃくちゃ大規模かつド派手で大いに盛り上がっていた。
今作は全曲が盟友Ikkyによるプロデュースで、ゲストはなし。
今の彼の勢いだったら、国内外の人気ラッパーを加えた話題作を作ることもできたはずだが、彼はたった二人だけで新しいパンジャーブのポップスを作ることを引き受けた。
背負うアルファベットはインディアの「I」ではなくパンジャーブの「P」。
これまでのヒップホップ的/ダンスポップ的なアプローチに加えて、今作ではロック的なダイナミズムが大幅に加わっていて、これが昨今のヒップホップ的な取り入れ方とも違うのは、生バンドとのライブを積み重ねてきたからだろうか。
TV Dinner "Non Believer"(楽曲)
今年のインドのインディーミュージック界での残念なニュースといえば、一部で世界的な評価を得ていた(日本だと高橋幸宏が高く評価していたとか)コルカタのドリームポップデュオ、Parekh&Singhの解散だ。
ミュージックビデオのウェス・アンダーソンへのオマージュに満ちた映像、キャッチーさに振り切りすぎない上品なポップネス。
彼らはステレオタイプなインドのイメージを覆すに十分すぎるクオリティのアーティストたちだった。
解散後、さっそくソロ活動を開始したメンバーのひとり、Nischay ParekhのソロプロジェクトがこのTV Dinnerだ。
おおまかな方向性はデュオ時代と大きく変わらないが、ポップな部分はそのままに、過剰なオシャレさを取り払ってメロディーの美しさを際立たせたアレンジは永遠に古くならなさそうだ。
こういう音楽がインドで作られていることはきちんと伝えてゆきたい。
DL91まわりの一連の作品
Ab 17 "Chanel got Work ft. Ikka"
これはちょっとズルい挙げ方かもしれないが、デリーにいつの間にか誕生していたヒップホップ界隈の集団(クルーと呼んで良いのか)DL 91 Eraの関連作品がとにかくやばかった。
インドのヒップホップの魅力には、いかにもインドらしい、各地域の特色や伝統を踏まえた表現(たとえばパンジャーブのバングラー・ラップ)と、逆に世界中のどこの地域でも成立しうる同時代的な表現の両方があるが、彼らは後者の代表格。
日本でいうと、kZmとかtohjiとかに近い、都市生活の虚無感みたいなものを、陶酔というか恍惚感へと昇華した現代的なヒップホップ。
とにかくDL 91 Era界隈の作品は、Hurricaneのプロデュース作品とか、OG Luciferのアルバム"Naala Paar"とか、毎回ハズレのないSeedhe Mautのアルバムまでを含めて、作品の質と量、いずれも特筆すべきものだった。
まったく違う土地や文化のもとに暮らす人々が慣らす音を通して同時代性を感じることができるというのは、ポピュラー音楽を聴く最大の喜びのひとつでもあると思う。
Shauharty "Farookh"(アルバム)
インドにおける2025年のアンダーグラウンド・ヒップホップの到達点と言えるのがこのShauhartyだ。
今年リリースされたアルバム"Farookh"は、シブすぎる音作りや、"Saddam Hussainé"(なぜeにアクセント記号?)、"Keith Haring"、"Earth, Wind & Fire"といった人名シリーズの楽曲、さらには、"Penis Flytrap", "Pitstop 4 Sex"といった下品なリリシズムとでもいうべき楽曲タイトルなど、ワードセンスからサウンドまで、強烈な個性が感じられる作品だった。
今はデリーを拠点にしているそうだが、もともとは北東部出身だというのがほかのデリー勢と一線を画す音作りの秘密か。
グジャラートのDhanjiと並んで、時流に影響されずに自分の音作りを追求するアーティストがきちんと活躍していることにインドのヒップホップシーンの層の厚さを感じる。
Dizlaw, Tienas, Kim the Beloved, Ranj, Jelo, Clifr "BLOODBATH"(楽曲)
かつてPrabh DeepやSeedhe Mautを輩出したことで信頼の厚いデリーのヒップホップレーベルAzadi Recordsは、最近は以前の勢いを失いかけているようにも見えていたけど、この曲を聴く限りまだまだ大丈夫そうだ。
Dizlaw, Tienasのムンバイ勢、Ranj(タミル)とClifrのサウスの安定コンビ、Kim the Beloved(ミゾラム)とJelo(メガラヤ)の北東部勢というインド全土のアンダーグラウンド系ラッパーを束ね、このゴリゴリのミクスチャーロック的なビートにほとんど英語のラップを乗せてきたのは、Hanumankindのヒットを意識してのことだろうか。
ちなみにイントロの宗教歌っぽいサンプリングはコメディアンがファシズム的政治を揶揄しているものだそうで、そういうところにもカウンターカルチャーとしてのヒップホップを支持してきたレーベルの主張が見える。
KR$NA "Yours Truly"(アルバム)
デリーのベテランラッパーKR$NAのニューアルバム"Yours Truly"は、RaftaarやBadshahといったデリーのメインストリーム勢、YashrajやSeedhe Mautといったアンダーグラウンド寄りのラッパー、さらにはイギリスのAitch、そして日本のAwichなど、幅広いゲストを招いて制作された意欲作。
アルバム全体のトーンを作っているのはインドのヒップホップシーンの大物プロデューサーPnenom.
KR$NAは20年近いキャリアを持つ重鎮だが、Seedhe Mautが参加した曲ではHurricaneを起用するなど、新しいサウンドへの目配りもできており、まだまだ衰える兆しはなさそうだ。
Awichが参加した"Hello"のプロデュースはKaran Kanchan.
「はじめまして」と「Haan ji, Namaste」のライムも彼の発案で、ビートもさすがのかっこよさ。
今年はAwichがインドのKR$NAや韓国のJay Parkをはじめ、中国、カンボジアのラッパーを招いた"ASIAN STATE OF MIND"を制作するなど、アジアのヒップホップを統合する動きも見られた。
この曲はおそらくその時のスワップ(相互客演でギャラを相殺する)で制作されたものだろうが、AwichはKR$NAとの共演のプロモーションに熱心ではなく、日本ではまったく話題にならなかったのがもったいない。
インド国内外のさまざまな例を見てきた結果、言語に大きく依存するラップに関しては、国や言語を超えたコラボレーションは成功しないのではないか、というのが現時点での私の見立てだ。
Yo Yo Honey Singh "51 GLORIOUS DAYS"(アルバム)
今さらHoney Singhを年間トップ10に入れるのもどうかとは思うのだが、今年リリースされた51曲入りというとんでもないボリュームのアルバムには度肝を抜かれた。
あらためて聴いてみると、ミュージックビデオはあいかわらずダサいが、ビートはかっこいいし(昔よりずっとよくなった)、ラップも技巧的なわけではないがさすがにどっしりとした風格がある。
曲が多すぎて熱心なファンでもまともに全曲聴かないのではないかという心配があるが、余計なお世話というものだろう。
目立つゲストはこの曲のAP DhillonやBohemia("Sawaal Puchdi")といった大御所のみだが、そこも若手とつるみがちな(かつての仲間で仲違いした)BadshahやRaftaarとの差別化だろうか。
ラージャスターンのフォークを導入したり("Bicchudo", "Bhagoliyo")、いろんなことをやっている。
今年はSeedhe Mautの30曲入りアルバム"DL91 FM"のボリュームと質の高さにも驚かされたが、このランキングの常連である彼らについては、単体では選出せず「DL91関連の作品」のなかに含めることとした。
Chaar Diwaari, Raftaar "FAREBI"(楽曲)
若手ラッパーとしての人気をすっかり確立したChaar Diwaariがデリーの大御所の一人Raftaarと共演したこの曲は、性急なビート感やポップセンスに2025年の空気感を感じる一曲だった。
ちゃんとインドっぽいところもポイントが高い。
かなりポップにできている曲だと思うのだが、YouTubeでの再生回数は現時点で530万界程度で、十分多いとも言えるが人気曲ともなるとすぐに数千万再生を超えるインドの状況を考えると少ないようにも思える。
インドもまた、ヒップホップがサブカルチャーとしては確立しているものの、メインストリームには成り得ていないという、日本と同じような状況にある。
ThirumaLi, ThudWiser "Kulasthree"(楽曲)
近年成長著しいケーララ州の言語マラヤーラム語ラップ。
Spotifyによると、2019年から2023年にかけてマラヤーラム語ラップの再生回数は5,300パーセントという驚異的な成長を示したそうで、確かに最近はミュージックビデオや楽曲の出来も加速度的に完成されてきた気がする。
マラヤーラム語ラップシーンの牽引者の一人であるThirumaLiとThudwiserがコラボしたKulasthree"は、他愛のないラブソングながらも、ケーララ的としか言いようのない詩的なリリックと映像美、そしてサウンドがたまらない。
Kukasthreeというのは伝統的な価値観における「理想の女性像」を表す単語だそうで、価値観の古さが気になるところだが、皮肉を込めた表現なのかどうかが気になるところではある。
Aman Sagar, Sanjeeta Bhattacharya "ESWY"(楽曲、ミュージックビデオ)
最近のインドのインディペンデント音楽シーンの密かなトレンドでもあるR&B路線の曲に、これまでRitvizやPrateek Kuhadらの楽曲に数々のセンスの良い映像を作成してきたJugaad Motion PicturesがMVを手がけた。
正直、映像で見るとちょっと演出が楽曲を邪魔してしまっている感じもあるが、楽曲の質の高さはサブスクなどで味わってもらうとして、輪廻転生モノというインドの伝統的なエンタメ文化とインディーズ音楽が融合したここまでセンスの良いミュージックビデオが作られたことをまずは讃えたい。
他に迷ったのは90年代風のエレクトロニック・ポップをセンスよく仕上げたPhilterSoup、デリーのMtoFトランスジェンダーで、性自認がどうこうということよりも佇まいのカッコ良さとリリックの生々しさにやられたKinari、プログレッシブ・サイバーメタルともいうべきAmogh Symphony.
2025年のトップ10(および次点となる作品)の紹介は以上となるのだが、いつも迷うのは、在外インド人による作品(とくにインドらしさがほぼない作品)をここに含めるべきかどうかということ。
これから紹介するアーティストは、音楽的にも南アジア的な要素はかなり少ないのだけど、ここで私が書いておかないと、日本において作品がまったくなかったことにされてしまうのではないか、という勝手な責任感もあって、ついでに紹介させてもらう。
Steel Banglez "One Day It Will All Make Sense"
イギリスで活躍しているパンジャーブ系プロデューサーのSteel Banglezが作成した南インド要素ほぼなしのヒップホップ/R&Bアルバムで、この曲はタミル映画のプレイバックシンガーとしても活躍しているSid Sriramとニューヨークの伝説的ラッパーであるNasが共演。
Steel Banglezは2023年にはUKのラッパーを中心に起用したアルバム"The Playlist"を作成しているが、今作ではインド本国やアメリカ、ナイジェリア系のアーティストも起用して、グローバルDesiミュージックとでも呼ぶべきサウンドを作り上げている。(Sid Sriramも拠点はカリフォルニアで、英語のR&Bアルバムも発表している。また両作でイギリスでも人気の高いナイジェリアやガーナなどアフリカ系アーティストが起用されていることも書き添えておきたい)
この曲はラップが入った王道R&B的な曲調ながら、最後に南インドの古典音楽であるカルナーティック由来の歌い回しが入ってくるところに痺れる。
南アジア色が薄い、ある意味で聴きやすい作品でもあるので、日本でももっと幅広く評価されてほしいところ。
Sayak Das "don't let this be the end"(楽曲)
「アジアのヒップホップ/R&Bアーティストをフックアップする」というコンセプトで活動する88risingだが、これまで取り上げてきたアーティストは東アジアや東南アジアにルーツを持つアーティストがほとんどだった。
アジアは広すぎるので、たとえば日本人を含めた東〜東南アジアの人々が、中央アジアや西アジアを同じ地域の人々として認識するかというとなかなか難しい問題だと思うのだが、まあともかく、ここにきて88risingが南アジア系のアーティストにも目を向けるようになったのは大変興味深い。
北米では南アジア系のコミュニティはすでに確立していて、たとえばパンジャーブ系のヒップホップなどは本国とシームレスにつながった揺るぎないディアスポラのシーンが存在しているので、必然的に88rising はよりオルタナティブなアーティストに着目せざるを得ない。
このSayak Dasの今っぽさは皆無だけど、ただただポップで上質なR&Bポップという音楽性は無視されてしまうのはもったいなく、ここできちんと取り上げておきたいと思った次第。
来年はもうちょっとブログの記事書きたい!
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goshimasayama18 at 14:43|Permalink│Comments(0)
2024年09月08日
ディスコ化するインドのヒップホップは新次元に突入したのか
最近インドのヒップホップシーンで、同時多発的にこれまでになかったテイストの曲がリリースされている。
それは何かというと、どこか懐かしさを感じるディスコ風のビートなのである。
2010年代に始まったインドのストリートラップは、2019年の映画『ガリーボーイ』でNasが大きくフィーチャーされていたことからも分かるように、当初90年代のUSヒップホップに大きな影響を受けていた。
以降、インドのラッパー/ビートメーカーたちは、トラップ、ドリル、ローファイ、マンブルラップなどのサブジャンルを次々と自分のものとし、今日のインドのヒップホップには、世界中の他の地域と比べて遅れをとっていると感じられる部分はほとんどなくなった。
インドのストリートラップの幕開けを2013年のDIVINEの"Yeh Mera Bombay"あるいは2014年のNaezyの"Aafat!"だと仮定すると、わずか10年ほどの間に、インドのシーンは90年代から今日までのヒップホップの歴史に駆け足で追いついたということになる。
そして、2024年。
突如としてインドに現れたディスコ・ラップは、インドのヒップホップがあっという間に同時代のヒップホップを捕捉したその勢いのまま到達した、新しい領域(ジャンル)なのかもしれない。
例えばデリー出身の若手人気ラッパーChaar Diwaariが7月にリリースしたこの曲。
(往年のマイケル・ジャクソンばりに曲が始まるまでが長いが、せっかちな方は2:35あたりまで飛ばしてください)
Chaar Diwaari "LOVESEXDHOKA"
タメの効いたブーンバップでも緊張感のあるトラップでもなく、性急で享楽的なエレクトロ的ディスコビートに、80年代ボリウッド(例えば"Disco Dancer")を思わせるコミカルなダサかっこよさを融合した曲だが、半笑いで聴いているとアレンジの妙に唸らされる。
タイトルのDhokaは「裏切り」「偽り」を意味するヒンディー語らしい。
Charli XCXっぽさも感じられるが、それよりももっと生々しくて、インドっぽい。
(そういえば、あまり音楽的ルーツには関係なさそうだが、Charli XCXはお母さんがインド系とのこと)
「インド的であること」とアメリカ生まれのポップミュージックの融合が、また新しい段階に突入したことを感じさせられる。
他のアーティストも聴いてみよう。
たとえばムンバイの新進ラッパーYashrajが7月にリリースしたアルバム"Meri Jaan Pehle Naach"には、全編に渡ってディスコサウンドが散りばめられている。
Yashraj, PUNA "GABBAR"
ダンスミュージックとしての強度、ルーツを感じさせるインド的な要素(ボリウッドのサンプリング?)、ファンク的な洒脱さ。盛りだくさんすぎる要素を持ちつつも、きちんとヒップホップとして聴かせるサウンドに仕上がっている。
かと思えば、こんなソウルっぽい雰囲気を持った曲も収録されていて、これがまたかっこいい。
"Kaayda / Faayda"
こういう16ビートっぽいトラックはインドのヒップホップではこれまでほとんどなかった気がする。
個人的にはこの曲はちょっと日本語ラップっぽい雰囲気があると思っていて、例えば田我流の2012年の名盤『B級映画のように』あたりに近い質感を感じる(たとえば「Straight Outta 138」とか)。
Yashrajのシブい声は、やはりインドではとても珍しかったジャズ/ソウル的なビートの"Takiya Kalaam"(2022)の路線に非常にハマっていたが、まさかこう来るとは思わなかった。
このディスコ・ラップはインド各地にまで浸透していて、ウッタラカンド州ルールキー(Roorkee)出身のラッパーFrappe Ashのこの曲は、もしDJだったらさっきの"Kaayda / Faayda"と繋げてプレイしたいところ。
Frappe Ash "CHAI AUR MEETHA"
「イノキ・ボンバイエ」みたいなこういうビートもやっぱりインドのヒップホップではこれまであまりなかったように思う。
タイトルの意味は「チャイとスイーツ」(つまりチャイラップでもある)。
この曲が収録されたアルバム"Junkie"はSez on the BeatやSeedhe MautのEncore ABJなどのデリー勢、アーメダーバードの新生Dhanjiなども客演しており、ここまで聴いた中では今年のベストアルバム候補に挙げられるほどの完成度なので、ぜひチェックしてみてほしい。
この手のディスコ・ラップは南インドでも散見されていて、チェンナイの新進ラッパーPaal Dabbaが3月にリリースしたこの曲も、ビートのタイプこそ違うが、ディスコ路線と十分に呼べるものだろう。
(イントロ部分も非常にかっこよくできたミュージックビデオだが、せっかちな方は曲が始まる0:55からどうぞ)
Paal Dabba "OCB"
ミュージックビデオの群舞はインド的とも言えるけど、むしろブルーノ・マーズあたりの影響を受けていそう。
古典舞踊のダンサーとか2Pacのそっくりさんが出てくるなど、見どころ盛りだくさんだ。
ファンキーなギターやサックスの音色が印象的で、インドのラップのディスコ化の一因には、ビートに生楽器が多く使われるようになってきたことも関係しているような気がする。
タイトルの"OCB"はタバコの巻紙のことで、一応One Costly Bandana(高価なバンダナ。ちなみにバンダナはインド由来の言葉)とのダブルミーニングということになっているが、大麻と関係があるのだろう。
このようにインド各地で見られるようになったディスコ・ラップだが、その究極とも言えるのが、ムンバイを拠点にマラーティー語のハウス(!)のプロデューサーとして活動しているKratexとマラーティー語ラッパーのShreyasが共演したこの曲。
なんとダンスミュージックの名門であるオランダのSpinnin' Recordsからリリースされている。
Kratex, Shreyas "Taambdi Chaambdi"
インド風ハウスのビートと、マラーティー語の不思議なフロウのラップ、そして「ラカラカラカラカ…」という耳に残って離れないフレーズにもかかわらず、キワモノと紙一重のところでかっこよく仕上がっている。
冒頭のChaar Diwaariの"LOVESEXDHOKA"と同様に、ステレオタイプのインド人らしさや少しのノスタルジーをコミカルかつクールに描いたミュージックビデオも最高だ。
タイトルの意味はマラーティー語で「茶色い肌」。
つまり、インド人の肌の色を表している。
(余談だが、Yo Yo Honey SinghやSidhu Moose Walaも英語とヒンディー語を混ぜて「茶色」を表す"Brown Rang"という曲をリリースしている。インド人の肌の色はさまざまだが、彼らのアイデンティティを表す言葉なのだろう)
マラーティー語はインド最大の都市ムンバイが位置するマハーラーシュトラ州の公用語だ。
だが、ムンバイの旧名であるボンベイから取られた「ボリウッド」(ハリウッド+ボンベイ)がヒンディー語映画を指すことからも分かるように、この街で作られるエンタメは、映画にしろ音楽にしろ、圧倒的多数の話者を持つヒンディー語の作品がほとんどだった。
そういった事情もあり、「ムンバイの母語」とはいえ、マラーティー語にはなんとなくちょっと垢抜けない印象を持っていたのだが、まさかそこからこんな曲が出てくるとは思わなかった。
というわけで、今回はインドのあらゆる地域に出現したディスコ・ラップを特集してみた。
この傾向は「アメリカで生まれたヒップホップのサブジャンルをインドで実践する」というテーマから解き放たれてきたことを表しているのかもしれない。
この「ディスコ化」は、インドのポピュラーソング(つまり映画音楽)がもともと持っていた「ディスコ性」とも関係がありそうで、そう考えるとKaran KanchanがプロデュースしたDIVINEの"Baazigar"(2023年)あたりから始まった流れと見ることもできそうだ。
と、ここで終わりにしようと思っていたのだけど、デリーのSeedhe Mautが最近リリースしたEP "SHAKTI"のこの曲もボリウッドとエレクトロ・ディスコの融合みたいなビートが導入されていて非常にかっこいいので聴いてみて!
Seedhe Maut "Naksha"
この"SHAKTI"も年間ベストクラスの名盤で、インドのヒップホップシーンはますます多様化し、面白くなりそうだ。
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goshimasayama18 at 20:19|Permalink│Comments(0)
2023年12月28日
2023年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10
今年もインドのインディペンデント音楽シーンがどんどん大きく、面白くなった1年でした。
もはやとても一人の力で掘り続けるのは無理なほどに巨大化してしまったシーンのなかで、これこそが注目すべきトピック(シングル、アルバム、ミュージックビデオ、出来事)だと思ったものを、10個ほど選んで紹介させてもらいます。
10個並べてるけど、順位はとくになし。
ジャンル的にも地理的にも多様化しまくっているインドのシーンから10個トピックを選ぶのはとても難しかったけど、5年後、10年後に振り返った時に、「そうそう!あのときがこのブームのきっかけだったよね」とか「そういえばあんなことあったなあ」と思えそうなものを選んでみたつもり。
Bloodywood来日
まさか去年に続いて今年もBloodywoodの来日を10大トピックの筆頭に挙げることになるとは思わなかった。
彼らが今年6/28に大阪(梅田TRAD)、6/29に渋谷(Spotify O-EAST)で開催したワールドツアーのファイナル公演は凄まじかった。
去年のフジロックの「誰だかよく分からないけど、こいつらスゲエ!」という状態とは異なり、誰もがBloodywoodことを知っていて、高い期待を抱いているという状況の中で、彼らはその予測を軽々と上回るパフォーマンスを披露した。
ギターソロはなく、ドラムセットもバスドラ1つ、タム1つと極めてシンプルな音楽性とステージセットで観客を熱狂させた彼らのスタイルは、新世代ヘヴィミュージックのひとつの雛形としても注目に値するものだった。
JATAYU来日
今年のフジロックでもインドのバンドが優れたパフォーマンスを見せた。
チェンナイのカルナーティック・ジャムバンドJATAYUは前夜祭とField of Heavenに出演。
去年のBloodywoodのような大規模ステージやド派手な音楽性ではなかったこともあり、大きなセンセーションを巻き起こすには至らなかったが、JATAYUは日本のリスナーがこれまで聴いたことがない浮遊感溢れるフレーズとタイトなグルーヴで確かな爪痕を残した。
インタビューによると、彼らはシンガポールのショーケースイベントに出演したときに関係者の目に留まり、フジロックの出演につながったとのこと。
今年リリースした台湾のバンド「漂流出口」との共演曲"The Wild Kids"も、アジア的な混沌をロックで表現した出色の作品だった。
(漂流出口もすごく面白くて良いバンドです)
Sid Sriram "Sidharth"(アルバム)
今年はメインストリームのど真ん中で活躍している映画のプレイバックシンガー(吹き替え歌手)が、相次いで充実したオリジナル(非映画)アルバムを発表した年でもあった。
インドにおいて「インディーズ音楽」とは、「映画音楽ではない音楽」を指す概念だと言っても過言ではない。
メジャーの真ん中で活躍しているアーティストがインディペンデントを志向する時代がインドにやってきたのだ。
カリフォルニア在住のSid Sriramが、現地の(インド系ではない)ミュージシャンと制作した現代的R&Bスタイルのこのアルバムを「インドのインディー音楽」として扱うべきかどうかは悩んだが、こうした背景と内容の素晴らしさを考えれば、この10選から外すわけにはいかないだろう。
カルナーティック音楽をルーツに持つ彼の歌声は信仰に根差した聖性を湛えていて、結果的にゴスペルのような美しさが感じられる。
以前の記事でも紹介したので今回は別の曲をピックアップしたが、アルバム中の"Dear Sahana"と"Do the Dance"はとくにその傾向が強く、涙が出そうなくらい感動した。
他に今年リリースされたプレイバックシンガーのインディペンデント作品としては、Armaan Malikの"Only Just Begun"も現在進行形のヒンディーポップスのが楽しめる佳作だった。
この作品にはヒップホップビートメイカーKaran Kanchanも参加していて、インディペンデントとメジャーの垣根がますます低くなってきていることを感じさせられた。
KSHMR "Karam"
KSHMRのインドのヒップホップ界への参入は、成長と拡大の一途を辿るシーンへの黒船来航とも言える出来事だった。
世界的に高い評価を得るインド系アメリカ人のEDMプロデューサーである彼は、今作では個々のラッパーの良さを引き出すビートメーカーの役割に徹し、ラテンやインド映画音楽の要素をスパイスとしたトラックの数々に彩られた名作を生み出した。
インドの音楽シーンが国内に閉じているのではなく、グローバルにつながっていることを感じさせるアルバムだ。
Chaar Diwaari X Gravity "Violence"
6月に旅行で来日していたビートメーカーのKaran Kanchanが注目アーティストとして名前を挙げていたのがこのChaar Diwaariだった。
ニューデリー出身のこのラッパーはまだ20歳(!)。
アンダーグラウンドの空気感を濃厚にまとった"Barood"や"Garam"といった個性的なトラックだけでなく、ギタリスト/ソングライターのBhargと共演したポップな"Roshini"など、アクの強さだけではない豊かな才能を示す楽曲を2023年に多数リリースした。
今後の活躍がもっとも期待されるアーティストの一人である。
KSHMRの"Karam"のような話題作から、彼のような超新星の出現まで、今年もインドのヒップホップシーンは非常に豊作だったと言える。
Ikka Ft.MC STAN "Urvashi"
Ikkaはパンジャービー系パーティーラップシーンで一世を風靡したYo Yo Honey SinghとBadshahを擁したデリーの伝説的ヒップホップクルーMafia Mundeer出身のラッパー。
ド派手で商業的なスタイルで人気を博したHoney SinghやBadshahとは異なり、ヒップホップのルーツに忠実な活動を重ねているIkkaが、マンブルラップ的な新世代フロウをインドに持ち込んだMC STANと共演したのがこの曲。
サウンドの印象としてはIkkaがかなりMC STANに寄せているように聴こえるが、ミュージックビデオを見るとMC STANがパーティーラップ的なスタイルに接近しているようにも見える。
プロデュースはアメリカで活躍するバングラデシュ出身のプロデューサーのSanjoy.
ボリウッドソングのマッシュアップをきっかけに在外南アジア系コミュニティから人気に火がついた彼の起用は、メジャー/インディー、国内/国外の垣根が意味を失いつつあるインドのシーンを象徴する人選だ。
そういえば、今年はHoney Singhがムンバイのストリート出身のスターEmiway Bantaiのプロデュースした楽曲もリリースされた(曲としてはイマイチ)。
ますますボーダレス化が進むインドのヒップホップシーンの今後がますます楽しみだ。
Diljit Dosanjh X SIA "Hass Hass"(シングル) "Ghost"(アルバム)
最近ずっと思っているのが、そろそろバングラーというジャンルを再評価すべき時期が来ているのではないか、ということ。
バングラーは、世界的にはPanjabi MCらが活躍した'00年代前半にブームを迎え、ほどなく下火になったジャンルかもしれないが、北インドでは今日に至るまで継続的に高い人気を誇っている。
インドのみならず、パンジャーブ系住民の多いオーストラリアや北米では、昨今バングラーシンガーがアリーナ規模のライブを成功させている(ただし観客はほぼ南アジア系だが)。
ジャマイカンにとってのレゲエやアフリカ系アメリカ人にとってのヒップホップのように、バングラーはパンジャービーたちの魂の音楽として愛され続けているのだ。
バングラーの特筆すべきところは、愛され続けているだけではなく進化しつづけていることで、Diljit Dosanjhがオーストラリア出身の人気シンガーSIAをフィーチャーしたこの曲は2023年度版バングラーを象徴する楽曲と言えるだろう。
Diljitが今年リリースしたアルバム"Ghost"も23曲入りというとんでもないボリュームで、現代型バングラーラップの理想系を示した作品だった。
昨年Sidhu Moose Walaの死という悲劇を迎えたバングラー界だが、それでもシーンは希望と意欲に満ちており、明るい未来が期待できる。
The Yellow Diary "Mann"
上質なヒンディー語のインディーポップを作り続けているムンバイのバンドThe Yellow Diaryは、この新曲"Mann"で変わらぬセンスの良さを見せつけた。
ボリウッド映画に使われても良さそうなキャッチーなヒンディー語ポップスだが、ジャジーなピアノやギターに彼ら独自の個性が光る。
音楽スタイル的にメジャーとインディーズの中間に位置するバンドであり、洋楽志向に偏りがちなインドのインディーポップシーンでインドらしさ溢れるサウンドを作る彼らは稀有な存在だ。
Sunflower Tape Machine "Rosemary"
インディーロック勢ではチェンナイを拠点に活動するAryaman SinghのソロプロジェクトSunflower Tape Machineがリリースした"Rosemary"の繊細な美しさも素晴らしかった。
楽曲ごとにアンビエント、シューゲイザー、80’s風ポップと作風を変えながら、1年に1、2曲のみリリースするという非常にマイペースな活動を続けている彼の最新作は、アコースティックギター1本で聴かせるフォークポップ。
シンプルこの上ない楽曲をメロディーとハーモニーで聴かせるセンスに痺れた。
日本からインドの音楽シーンをチェックしていて、彼のような完全にインディペンデントな才能に出会えたときの感動はひとしおだ。
Komorebi "The Fall"(アルバム)
デリーを拠点に活動しているKomorebiは、アニメなど日本の文化の影響を受けているTarana Marwahによるソロプロジェクト。
以前からポップなエレクトロニカを聴かせてくれていたが、今作ではぐっとスケール感を増してノルウェーのAURORAのような幻想的で美しい作品を作り上げた。
Easy Wanderlings, Dhruv Visvanath, Blackstratbluesといったインドのインディーズシーンを代表するアーティストのコラボレーションも作品に華を添えている。
こうした無国籍で高品質な楽曲がリリースされているということもインドの音楽シーンの誇るべき部分であり、もっと世界が注目してくれたらいいのにといつも思っている。
というわけで2023年の10選はこんな感じでした。
今年は秋以降のヨギ・シン来日騒動(騒いでいたのは自分だけだが)もあり、シーンをあまり細かくチェックできていなかったので、きっとここに挙げた以外の素晴らしい作品や出来事もたくさんあったことと思う。
次点はムンバイのロックバンドThe Lightyear Explodeのアルバム"Suburban Prose".
80’s〜90年代前半の雰囲気のあるポップでキャッチーな曲がたくさん入ったアルバムなので、興味がある人はぜひチェックしてみてほしい。
あとコルカタのラッパーCizzyは今年クラシック級の名曲を何曲もドロップしていた。
(例えば"Number One Fan", "Baad De Bhai")
注目されることが少ないベンガル語ラップに正当な評価を与えるためにも選びたかったのだが、ジャンルのバランスを考えて泣く泣く選外とした。
過去2年分の軽刈田セレクトによる年間トップ10もいちおう貼っておきます。
毎年面白くなり続けているインドの音楽シーン、来年はどんな作品がリリースされるのか、ますます楽しみだ。
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goshimasayama18 at 15:03|Permalink│Comments(0)
2023年10月14日
インドのヒップホップ事情 2023年版
今年(2023年)は、ムンバイの、いやインドのストリートラップの原点ともいえるDIVINEの"Yeh Mera Bombay"がリリースされてからちょうど10年目。
その6年後、2019年にはそのDIVINEとNaezyをモデルにしたボリウッド初のヒップホップ映画『ガリーボーイ』がヒットを記録し、インドにおけるラップ人気はビッグバンを迎えた。
以降のインドのシーンの進化と深化、そして多様化は凄まじかった。
インドのヒップホップは、今では才能あるアーティストと熱心なファンダムが支える人気ジャンルとして、音楽シーンで確固たる地位を占めている。
2023年10月。
一年を振り返るにはまだ早いが、今年も多くの話題作がリリースされ、シーンを賑わせている。
今回は、その中から注目作をピックアップして紹介したい。
『ガリーボーイ』に若手有望ラッパーとしてカメオ出演していたEmiway Bantaiは、今では最も人気のあるヒンディー語ラッパーへと成長した。
(いやナンバーワンはやっぱりDIVINEだよという声もあるかもしれないが)
6月にリリースしたアルバムのタイトルは"King of the Street".
かつて"Machayenge"シリーズで披露したポップな面は出さずに、タイトルの通りストリートラッパーとしてのルーツに立ち返った作風でまとめている。
その名も"King of the Indian Hip Hop"という7分にもおよぶ大作では、シンプルなビートに乗せて存分にそのスキルを見せつけた。
Emiway Bantai "King of Indian Hip Hop"
字幕をONにするとリリックの英訳が読めるが、全編気持ちいいほどにみごとなボースティング。
このタイトルトラックもミュージックビデオを含めて痺れる出来栄えだ。
Emiway Bantai "King of the Streets"
Emiwayは2021年にBantai Recordsというレーベルを立ち上げて、仲間のフックアップにも熱心に取り組んでいる。
アーティスト名にも付けられたBantaiは、ムンバイのスラングで「ブラザー」という意味だ。
所属アーティストたちによるこの"Indian Hip Hop Cypher"を聞けば、このBantai Recordsにかなりの実力者が集まっていることが分かるだろう。
Emiway Bantai x Baitairecordsofficial (Memax, Shez, Young Galib, Flowbo, Hitzone, Hellac, Minta, Jaxk) "Indian Hip Hop Cypher"
面白いのは、8分を超える楽曲の中にラッパーによるマイクリレーだけでなく、Refix, Memax(彼はラッパーとしても参加), Tony Jamesという3人のビートメーカーによるドロップソロ(!)も組み込まれているということ。
こういう趣向の曲は初めて聴いたが、めちゃくちゃ面白い取り組みだと思う。
ここに参加しているラッパーはEmiwayに比べるとまだまだ無名な存在だ。
ラップ人気が安定しているとはいえ、このレベルのラッパーでも一般的にはほとんど無名というところに、今のインドのヒップホップの限界があるようにも思える。
首都デリーのシーンからも面白い作品がたくさんリリースされている。
このブログでも何度も紹介してきた天才ラップデュオSeedhe Mautは全30曲にも及ぶミックステープ"Lunch Break"を発表。
(「ミックステープ」という言葉の定義は諸説あるが、この作品については彼ら自身がアルバムではなくミックステープと呼んでいる)
Seedhe Maut "I Don't Miss That Life"
このミックステープには、他にも2006年から活動しているデリーの重鎮KR$NAとのコラボ曲など興味深いトラックが収録されている。
徹底的にリズムを追求した2021年の"न(Na)"や、音響と抒情性に舵を切った昨年の"Nayaab"と比べると、ミックステープというだけあって統一感には欠けるが、それもまたヒップホップ的な面白さが感じられて良い。
コラボレーションといえば、思わず胸が熱くなったのが、パキスタンのエレクトロニック系プロデューサーTalal Qureshiの新作アルバム"Turbo"にムンバイのラッパーYashrajが参加していたこと。
Talal Qureshi, Yashraj "Kundi"
このアルバム、記事の趣旨からは外れるので細かくは書かないが、南アジア的要素を含んだエレクトロニック作品としてはかなり良い作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。(例えばこのKali Raat)
ところで、かつてインド風EDMを印DMと名付けてみたけれど、パキスタンの場合はなんて呼んだらいいんだろう?PDM?
Yashraj関連では、ベンガルールの英語ラッパーHanumankindとの共演も良かった。
Yashraj, Hanumankind, Manïn "Thats a Fact"
曲の途中にまったく関係のない音を挟んで(2:09あたり)「ちゃんと曲を聴きたかったらサブスクで聴け」と促す試みは、お金を払って音楽を聴かない人が多いインドならではの面白い取り組みだ。
Yashrajは軽刈田が選ぶ昨年のベストアーティスト(または作品)Top10にも選出したラッパーで、当時はまださほど有名ではなく、実力はあるもののちょっと地味な存在だったのだが、その後も活躍が続いているようで嬉しい限り。
今年は売れ線ラッパーの動向も面白かった。
パンジャービー系パーティーラッパーの第一人者Yo Yo Honey Singhがリリースした新曲は女性ヴォーカルを全面に出した歌モノで、このシブさ。
Yo Yo Honey Singh, Tahmina Arsalan "Ashk"
これまでのド派手さは完全に鳴りをひそめていて、あまりの激変にかなり驚いたが、ファンには好意的に受け入れられているようだ。
後半のラップのちょっとバングラーっぽい歌い回しはルーツ回帰と捉えられなくもない。
10日ほど前にリリースした"Kalaastar"という曲も、ポップではあるが派手さはない曲調で、今後彼がどういう方向性の作品をリリースしてゆくのかちょっと気になる。
Yo Yo Honey Singhと並び称されるパーティーラッパーBadshahは、ここ数年EDM路線や本格ヒップホップ路線の楽曲をリリースしていたが、「オールドスクールなコマーシャルソングに戻ってきたぜ」という宣言とともにこの曲をリリース。
Badshah "Gone Girl"
YouTubeのコメント欄はなぜかYo Yo Honey Singhのファンに荒らされていて「Honey Singhの新曲の予告編だけでお前のキャリア全体に圧勝だ」みたいなコメントであふれている。
かつてMafia Mundeerという同じユニットに所属していた二人は以前から険悪な関係だったようだが、いまだにファンが罵り合っているとはちょっとびっくりした。
ついついヒンディー語作品の紹介が続いてしまったが、インド東部コルカタではベンガル語ラップの雄Cizzyが力作を立て続けにリリースしている。
そのへんの話は以前この記事に書いたのでこちらを参照。
ビートメーカーのAayondaBが手掛ける曲には、日本人好みのエモさに溢れた名作が非常に多い。
続いてはデリーの大御所Raftaar.
この曲は今インドで開催されているクリケットのワールドカップのためにインド代表のスポンサーよAdidasが作ったテーマソングで、プロデュースは6月に来日して日本を満喫していたKaran Kanchanだ。
歌詞では、Adidasの3本線になぞらえて、過去2回の優勝を果たしているインド代表の3回目の優勝を目指す気持ちがラップされている。
クリケットは言うまでもなくインドでもっとも人気のあるスポーツだが、そのテーマ曲にラップが選ばれるほど、インドではヒップホップ人気が定着しているということにちょっと感動してしまった。
日本ならこういうスポーツイベントにはロック系が定番だろう。
Karan Kanchanのビートは非常にドラマチックに作られていて、これまでいろいろなタイプのビートを手がけてきた彼の新境地と言えそうだ。
シンプルなラップはヒップホップファン以外のリスナーも想定してのものだろう。
もしかしたらスタジアムでのシンガロングが想定されているのかもしれない。
そういえばこのRaftaarもHoney SinghやBadshahと同様にMafia Mundeer出身。
その後のキャリアではメインストリームの映画音楽も手がけながら、わりと本格的なスタイルのラッパーとして活躍している。
Karan Kanchanが今注目すべきラッパーとして名前を挙げていたのがこのChaar DiwaariとVijay DKだ。
Chaar Diwaariは結構エクスペリメンタルなスタイルで、Vijay DKはMC STΔNにも通じるエモっぽいスタイルを特徴としている。
Chaar Diwaari x Gravity "Violence"
Vijay DK "Goosebumps"
Chaar Diwaariはニューデリー、GravityとVijay DKはムンバイを拠点に活動している、いずれもヒンディー語ラッパー。
Gravityもかなりかっこいいので1曲貼っておく。
Gravityは2018年にTre Essの曲"New Religion"に参加していたのを覚えていて、つまり結構キャリアの長いラッパーのようだが、最近名前を聞く機会が急激に増えてきている。
Gravity x Outfly "Indian Gun"
このへんの新進ラッパーについては改めて特集する機会を設けたい。
というわけで、今回は今年リリースされたインドの面白いヒップホップをまとめて紹介してみました。
南部の作品にほとんど触れられておらず申し訳ない。
11月には、インド系アメリカ人でEDM界のビッグネームであるKSHMRがインド各地のラッパーを客演に迎えた作品のリリースを控えている。
まだまだインドのヒップホップシーンは熱く、面白くなりそうだ。
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