ArunachalPradesh
2019年08月10日
今年も日本のバンドが出演!Ziro Festivalのラインナップが面白い!
(昨年の記事↓)
インド北東部の玄関口アッサム州のグワハティから8時間近く鉄道に揺られ、最寄駅からジープで3時間半かけてやっと到着するアルナーチャル・プラデーシュ州のZiro Valleyで行われるこのフェスには、インド北東部を中心に、インド全土、そして世界中の先鋭的なミュージシャンが毎年出演することで知られている。
この辺境の地で行われるイベントがどれだけピースフルで素晴らしいものなのかは、昨年のアフタームービーを見れば分かるはずだ。
大自然のなかで行われるこのフェスティバルは、いまや数々の音楽フェスが開催されるようになったインドでも、究極の音楽好きが集うイベントとして一目置かれている。
先日、今年のラインナップが発表され、日本のサイケデリック・ロックバンドAcid Mothers Templeが出演することが明らかになった。
アルファベット順に記載されているようなので、彼らがヘッドライナーかどうかは分からないが、一昨年はジャーマンロックバンドCanのヴォーカリストとして有名なダモ鈴木、昨年はポストロックのMONOがトリを務めており、いずれにしても3年連続で日本人アーティストが出演することになる。
インドからの出演者も非常にユニークで、いずれもインディーズシーンでも知る人ぞ知る存在のアーティストばかりだが、知名度よりもサウンドの面白さを追求して選んでいるようだ。
西ベンガル州北部シリグリー出身のDreamhourは80年代サウンドを追求するエレクトロニックアーティスト。
この楽曲にはKrakenのギター/ヴォーカルのMoses Koulが参加している。
パンジャーブ州のThat Boy RobyはRolling Stone India誌が選ぶ2018年のミュージックビデオ10選にも選ばれたガレージロックバンド。
New DelhiのZokovaはスリーピースのインストゥルメンタル・ポストロックバンド。
ウッタラカンド州のKarmaは歯切れの良いラップを聴かせるラッパー。
エレクトロニック、ロック、ヒップホップといった現代音楽でインドじゅうから個性的なラインナップを揃えたかと思えば、伝統音楽にも目配りが効いており、カルナータカ州のJyoti Hegdeは古典楽器ヴィーナの奏者だ。
HarmoNOniumは、こちらも伝統音楽で使われる鍵盤楽器ハーモニウム奏者兼ヴォーカリストのOmkar Patilが率いるフュージョンロックバンド。
出演者のなかでもっとも知名度が高いのは、カルナータカ出身で、映画音楽なども歌うシンガーのLucky Aliだろう。
地元のインド北東部からは、今年はシッキム州ガントクのベテランハードロックバンドStill Waters(2001年結成)や、ナガランドのポップロックバンドTrance Effectらが出演する。
この曲はAC/DCを彷彿させるナンバー。
海外から招聘しているアーティストも、国際的スターではなくても、面白そうなバンドばかりだ。
リトアニアのAntikvariniai Kašpirovskio Dantysはジプシー的な要素も入ったローカル歌謡ロック。
イスラエルのOuzo Bazookaは、来日経験があり、サラーム海上さんも推している中東サイケデリックロックバンド。
日本から参加するAcid Mothers Temple
いったいZiro Valleyの地でどんなライブを見せてくれるのだろうか。
昨年のZiro FestivalでのMONOのライブを見てみよう。
都会を遠く離れ、インドの山奥の大自然のなかでこの美しい轟音に身を委ねることができたらどんなに素晴らしい体験だろう。
この個性的すぎるラインナップのフェスを主催しているのは、アルナーチャルのプロモーターBobby Hanoと、首都デリーのロックバンドMenwhopauseのギタリストで、かつてはジャーナリストとしても活躍していたAnup Kutty.
きっかけは、Anupがバンドでインド北東部をツアーしたとき、プロモーターをしていたBobby Hanoが故郷のZiro ValleyにAnupを招待したことだった。
デリーに戻ってもそのアイデアが頭を離れなかったAnupは、アルナーチャル・プラデーシュ州の観光局に企画を持ち込んだところ、州は全面的なサポートを彼に約束し、この世界でも稀な辺境の地での先進的音楽フェスティバルが開催されることとなった。
(参考記事:https://rollingstoneindia.com/menwhopause-guitarist-anup-kutty-on-setting-up-ziro-festival/)
第1回Ziro Festival of Musicの開催はは2012年。
当初から全国的な人気を誇るインディーアクトと、開催地に近い北東部諸州のミュージシャンの両方を出演させる方針が取られ、フェスが軌道に乗ってからは、海外のアーティストも招聘されるようになった。
これまでに前述のMONOやダモ鈴木に加え、Sonic YouthのLee RanaldやSteve Shelleyなども出演したことがある。
Anupが所属するMenwhopauseは2001年に結成されたベテランバンドで、これまでに2007年に米国でのSXSW(South by South West)出演や、複数のヨーロッパツアーの経験がある、インドで最も早く国際的に評価されたバンドのひとつだ。
彼らのSNSはここ1年ほどSNSの更新もなく、目立った活動はしていないようだが、彼ら功績は後続のアーティストたちにとって、確かな道標となっている。
Ziro Festival of Musicは、今年は9月26日から29日にかけて開催。
美しい自然の中にすばらしいラインナップのアーティストたちを集めるだけではなく、プラスチックを極力排除し、環境への配慮も意識するなど、様々な面で理想的な音楽フェスティバルだ。
フェスティバルが単なる音楽鑑賞ではなく、特別なエクスペリエンスであることを最大限に重視した、私が今、世界で一番行きたいフェスである。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
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2018年08月20日
日本や海外のアーティストも出演!Ziro Festival!
ご存知の通り、フジロック、サマソニ、ロックインジャパン、ライジングサンなどの大きいものから、地方色の強いかなり小規模なものまで、あらゆるフェスが毎週のように行われている。
海外でも、それぞれフジロックやサマソニの原型になったとされるイギリスのグラストンベリーやレディング/リーズなどは毎年夏に開催されているし、暑い時期に(今年はちょっと暑すぎだけど)外で音楽を聴く気持ちよさは万国共通ってことなんだろう。
さて、インドに音楽フェスがあるのかと聞かれたなら、答えはYes.
インドの大都市をツアーするロックフェスNH7 Weekenderや、リゾート地ゴアで行われるEDMのSunburn Festivalなど、かなり規模の大きいものがいくつもの都市でたくさん行われている。
大都市以外でも、独特の文化を持つ北東部(7 Sisters States)はフェス文化が盛んだし、砂漠が広がるラージャスタン州でも地域色の強い音楽フェスが開催されている。
これらのフェスにはインドの音楽ソフトの売り上げの大部分を占める映画音楽のシンガーは参加しておらず、海外のアーティストやこのブログで紹介しているようなインディーミュージシャンのみが出演しているのだが(ひと昔前まで日本のフェスにアイドル系が出なかったようなものだろう)、それでも多くのイベントが万単位の観客を集めており、インドの音楽カルチャーの成長ぶりが分かろうというものだ。
また、デリーではジャズの、ムンバイではブルースのフェスなどもあり、インドのフェス文化は我々が思っている以上に成熟している。
そんな中で、今回紹介するのは、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州で毎年開催されているZiro Festival of Music.
これだけ多くのフェスが開催されるインドにおいて、最高とも究極とも評価されているフェスティバルだ。
まずは、アルナーチャル・プラデーシュ州の場所をおさらいしてみましょう。
西をブータン、北を中国、東をミャンマーと接するインド北東部で最も北に位置するのがこのアルナーチャル・プラデーシュ州で、今回紹介するフェスの舞台となる村、Ziro Valleyはこんな感じのところだ。
(出典:https://www.beyondindiatravels.com/blog/ziro-town-travel-guide/より引用)
山あいのなんとものどかな農村地帯。
緑豊かな日本を思わせる風景は、インドでは北東部独特のものと言える。
(出典:http://www.dailymail.co.uk/news/article-3164012/The-worst-place-world-catch-cold-Indian-tribe-woman-nose-plugs-fitted-mark-adults.htmlより引用)
Ziro Valleyは少数民族「アパタニ」の人々が暮らす土地としても知られている。
アパタニの女性達は、美しさゆえに他の部族にさらわれてしまうことを防ぐために、あえて醜くするために「ノーズプラグ」を嵌める習慣があった(今ではお年寄りのみしかしていないようだが)。
なんだか凄いところでしょう。
このZiro Valley、行くまでが大変で、飛行機で行けるのはお隣アッサム州の州都グワハティまで。
そこから鉄道に7時間40分揺られると、アルナーチャル・プラデーシュ州のヒマラヤのふもとの町、Naharlagunに到着する。
そこからジープで山道を3時間半かけて、ようやくフェスの会場であるZiro Valleyに到着することができる(とwikipediaには書かれているが、実際にはもっと近くの空港を利用する方法もあるようだ)。
その前に、3カ国と国境を接したアルナーチャル・プラデーシュ州に行くためにはinner line permmitという特別な許可を得ることも必要だ。
そこまでして行く価値があるのかどうか、と思う向きも多いと思うが、映像を見れば、究極の大自然型フェス、Ziro Festivalの良さが必ず分かってもらえるはずだ。
まずはZiro Festival of Music 2018のプロモーション動画
2015年のフェスをまとめた動画
こちらは2017年のフェスの様子のドキュメンタリー
ね?行きたくなったでしょう。
単なる野外コンサートではなく、大自然の中の会場の雰囲気や地元の文化を含めて、そこでの体験全てが特別なものになるようなフェスティバルだということがお分かりいただけると思う。
自然の中のピースフルな雰囲気は、日本のフェスだとちょっと朝霧jamに似ていると言えるかもしれない。
主催者によると、4日間にわたり、2つのステージに40組のアーティストが出演し、6000人の観客を集めるという。
来場者はキャンプサイトのテントに泊まりながら、24時間フェスの環境を楽しむことができ、フェスの音楽だけでなく、この地域の文化や自然が楽しめるプログラムも用意されているようだ。
この酔狂の極みとも言える究極の辺境系フェスの主催者は、地元アルナーチャルのプロモーターBobby HanoとデリーのベテランインディーロックバンドMenwhopauseのメンバー。
2012年から国内外のアーティストを招聘してこのZiro Festival of Musicを開催しており、今ではインド随一のフェスとの評価を得ることも多くなっている。
出演者のラインナップはインド各地のインディーミュージシャンが中心だが、ロック、ラップ、レゲエなどのジャンルを問わず優れたアーティストが名を連ねている。
シーンの大御所もいれば、まだ無名ながらも先鋭的な音楽をプレイしているバンド、はたまた伝統音楽や民謡の歌手やプレイヤーまで、非常に多岐にわたるのが特長だ。
海外から招聘するアーティストもセンスが良く、いままでSonic YouthのLee Ranald and Steve Shelley、元Canのダモ鈴木らが出演している。
(ダモ鈴木については、ジャーマンロックバンドCanに在籍していた奇人ヴォーカリストというくらいの知識しかなかったのだが、改めて調べてみたら今更ながらすごく面白かった。 wikipediaの記載が充実しているので興味のある方は是非ご一読を)
今年は9月27日〜30日までの4日間にわたって開催され、先ごろ出演アーティスト第一弾が発表された。
なんと、日本のポストロックバンドのmonoがヘッドライナーとして出演することが発表された。
monoについてよく知らない人もいるかもしれないが、日本より海外での評価の高いバンドで、その活動についてはこちらのサイトに詳しい。
いくら海外でも人気とはいっても、インドでも知られてるの?と正直私もちょっと疑問に思っていたのだが、以前このサイトでもインタビューさせてもらったアルナーチャル在住のデスメタルバンドのメンバーは「畜生!あのmonoが地元に来るのにその時ケララに行ってて見れないんだ!なんてこった!」というコメントをしていたので、インドでもコアなロック好きの間では評価が高いようだ。
他の国外アーティストは、Madou Sidiki Diabateはマリのコラ奏者、MALOXはイスラエルのエクスペリメンタルなジャズ/ファンクバンド。
極上のナチュラル・チルアウトからスリリングなジャムまで、よくもまあ世界中の面白いアーティストを探してくるものだ。
インド国内のアーティストも、Prabh Deepのような今をときめくラッパーから、まだまだ無名だが面白い音楽性のバンド、伝統音楽のミュージシャンまで、インディーズシーンを網羅したラインナップだ。
なかでも、インド北東部からは、7sisters statesのうちトリプラ州を除く6つの州から1バンドずつが出演する充実ぶり。
ウエストベンガル州カリンポン出身の伝統音楽アーティストGauley Bhaiも北東部に極めて近いエリアの出身であることを考えると、さながら伝統音楽から現代音楽まで、北東部の音楽カルチャーの見本市のようなフェスでもあるというわけだ。
彼らの中でとくに興味深いアーティストをいくつか見てみると、こんな感じ。
アッサム州グワハティ出身のONE OK ROCKならぬWINE O'CLOCKはシンセ・ファンクとでも呼べばいいのか、なんとも形容不能なバンド。
メガラヤ州のBlue Temptationは外で聴いたら絶対に気持ちよさそうなレニー・クラヴィッツみたいなアメリカン・ロック。
ミゾラム州のAvora Recordsはオシャレなポップロック。
北東部なので顔立ちやファッションが日本人そっくりな女の子が出てくるので、聴いているうちにどこの国の音楽か分からなくなってくる。
いずれもインドらしからぬサウンドを鳴らしているバンドだが、ここに各地の伝統音楽のミュージシャンや海外のバンドたちが彩りを加えるというわけだ。
ヒッピー系ジャムバンドやEDMのようなフェスにつきもののジャンルをあえて呼ばず、面白さや多様性を重視したラインナップに主催者の心意気を感じる。
このZiro Festival、参加者した人の声を聞いても、時代や地理的な差異を超えてユニークなアーティストを大自然の中で聴ける、天国のようなフェスであるとのこと。
いつか行ってみたいんだよなあ。
どなたか行ったことがある方がいたらぜひ話を聴かせてください。
それでは今日はこのへんで!
2018年06月09日
アルナーチャルのメタル・ブラザー、Tana Doniの新曲!
当時はAlien Godsというバンドのギタリストとしてインタビューに答えてくれたが、現在は自らがギターとヴォーカルを務めるこのSacred Secrecyというバンドでライブを重ねており、Sacred Secrecyのスタジオレコーディング音源としてはどうやらこれが最初のリリースとなる模様。
今回リリースした曲は、"Leech" (見慣れない単語なので調べてみたら、意味は"蛭")と"Shitanagar".
どちらもブルータルでグルーヴィーなデスメタル!
速さやテクニカルに走るバンドが多い中で、このスタイルは逆に新鮮に響くのではないだろうか。
"Shitanagar"
曲はこちらのサイトReverbNationから視聴&無料ダウンロード可能なので、メタルヘッズのみなさんはぜひ聴いてみてください。
"Shitanagar"は、彼のホームタウンのイタナガル(Itanagar)にクソのShitを合わせたタイトルで、無理やり訳せば「クソナガル」か。
辺境の田舎町で暮らさざるを得ない彼の気持ちが歌われており(というか咆哮されており)、以前聞いたところによると、
俺たちはクソの川から水を飲む…
気づかないままクソまみれの穴の中で暮らす…
クソの上で転がっているのに幸せだと思っている連中…
ブタのほうがまだ清潔なくらいだ…
クソナガル…
といった歌詞。
ワタクシからはさすがに行ったこともない街をここまでディスるのは憚られるが、閉鎖的な田舎の小さな街でデスメタルみたいなコアな音楽を演奏する彼の焦燥感やある種の絶望感は想像に難くなく、むしろパンク的なアティテュードの曲だと言える。
厭世的な歌詞を極端に激しいサウンドに乗せることで憂鬱をぶっとばす、というのはパンクロック以降に発明された退屈への特効薬だ。
こういうタイプの(まあ表現はずいぶん過激だが)屈折した故郷への感情は、かえって国や地域を問わない普遍的なものなんじゃないだろうか。
ところで手前味噌でなんだけど、Tanaへのインタビューに至る、インド北東部のメタル事情を巡る一連の記事は結構面白いと思うので、改めてリンクを貼っておきます。
まずはイントロダクション。インド固有?の神話メタル、ヴェーディック・メタルについてはこちらから
インド北東部はもしやメタルが盛んなのでは?という疑惑と推論の記事はこちらから
記念すべき当ブログインタビュー第一弾、Tanaへのインタビューはこちらから
やはりインドの北東部はメタルが盛んみたいだ、という統計と分析はこちらから
忘れた頃に返事が来た、ミゾラム州のメタルブラザーVedantのバンド、Third Sovereignについてはこちらから
Third SovereignのVedantへのインタビューはこちらから
デスメタルばっかりじゃないぜ。シッキム州のハードロックバンド、Girish and the Chroniclesの紹介はこちらから
そのGirishへのインタビューはこちらから
うわ、こんなに書いてたのか。
たぶん、インド北東部のメタル事情に関しては、俺が日本でいちばん詳しいんじゃないかと思うよ。
これからも、こんなもの好きなこのブログをヨロシクお願いします。
2018年02月18日
以前紹介したアーティストの近況
トリプラ州のアイデンティティーとポジティブなメッセージを英語でラップするBorkung Hrankhawl(BK)は地元のラッパーやシンガーと共演した新曲をYoutubeにアップ。
共演はポップシンガーのParmita Reang、ロックバンドLadybirdのヴォーカリストのNuai、ポップロックシンガーのAben、ラッパーのZwing Lee。
この曲は州議会選挙の前にトリプラ人の意識を高めるためにジャンルを超えたアーティストが集まって作った作品とのことで、今回もメッセージ色の強い曲になっているようだ。
BKのいつものパートナー、Inaによるロック/EDM色の強いトラックは相変わらずだが、歌の部分がちょっと弱いかな。
共演のZwing LeeはBKと同じような北東部出身者への人種差別反対の主張をラップしているようで、メッセージ色の強い"Mere Geet"のミュージックビデオは一見の価値がある。
同じく英語ラッパーではインドNo.1とも称されることの多いバンガロールのBrodha Vも新曲をYoutubeにアップ。
今回はインド音楽が入ってくるのは最後の方のみで、全体的にEminemっぽいフロウが印象的に仕上がっている。
以前インタビューを行ったアルナーチャル・プラデーシュ州のデスメタルギタリスト、Tanaは、自身のバンドSacred Secrecyのニューアルバムのレコーディングを終えたところとのこと。
現在ミキシング中でリリースは夏頃だそうなので、完成したらまたみなさんに紹介できると思います。
ところで、先日のインタビューの結論として、インド北東部でもデスメタルはやっぱりアングラな音楽だった、という話になっていたけれど、彼のFacebook を見ていたら、非常に気になるものを見つけた。
それがこれ。
Feestival of Arunachalっていう、かなりちゃんとした地元のお祭りっていうか公式行事にタナのデスメタルバンドSacred Secrecyが出演するという。
他の出演者は地元のオーディション番組の優勝者、伝統音楽や映画音楽のシンガー、政治家など。
午後7:40からのわりといい時間に出してもらえるみたいだけど、日本だとこういうイベントに地元のデスメタルバンドが出演ってないよね。
やっぱりインド北東部、デスメタルが市民権を得てるんじゃないだろうか。
と思って本人に確認してみたら、「運営スタッフと知り合いで出演させてもらったんだよ。主催のお役人にはただの地元のロックバンドって言ってあるんだ。連中は演奏するまでどんな音楽か知らないんだよ。いつもこんなふうに騙してるんだけど、オーディエンスには楽しんでもらってるよ。騒音だって思う奴も、俺たちの音楽のパワーを感じてくれてるはずだね」とのこと。
なんだよそれ、最高じゃないか。
2018年01月28日
デスメタルバンドから返事が来た!Alien Godsのギタリストが語るインド北東部の音楽シーン
こないだのブログで、インド北東部7州「セブン・シスターズ」にどうやら多くのデスメタルバンドがいるらしい、ということを取り上げた。
インドの中でも辺境とされ、自然豊かなこの地域で、どうしてそんなに激しい音楽が流行っているのか。
探ってみるためにいくつかのバンドにメッセージを送ってみたところ、Top 10 Indian Death Metal Bandで第9位の、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsからさっそく返事が来た!
メッセージをくれたのはギタリストのTana Doni.
「俺たちに興味を持ってくれてありがとう。どんな方法でも喜んで協力するよ」
と、なんかいい奴っぽい。
ではさっそく、インタビューの様子をお届けします。
凡「まず最初に、Youtubeやなんかを見ていて、インド北東部にたくさんのメタルバンドがいることに驚いたんだけど」
Tana「アルナーチャルには他にもいいバンドがたくさんいるよ。よかったら紹介するよ」
と教えてくれたバンドは、
プログレッシブ・ブラックメタルとのふれこみのLunatic Fringe
マスロックバンドのSky Level.
現代的なヘヴィーロックで、なかなか面白いギターを弾いている。
ロック系ギターインストのAttam. 彼は近々アルバムを出すという。
凡「イーターナガルとかアルナーチャル・プラデーシュ州のメタルシーンについて教えてくれる?」
Tana「正直言って、シーンはアンダーグラウンドなものだよ。北東部にはいろんなジャンルが好きな人がいるから。でもマニプル州は他の北東部の州よりシーンが発展しているかな」
凡「どんなところで演奏してるの?」
Tana「Govermental hall(公民館のようなところか)とか、Community Ground(屋外の公共の場所か)とか」
なんと。田舎ながらもシーンがあって、愛好家が集うライブハウスみたいなものがあるのかと思ったら、本当に好きな人たちがなんとか場所を借りて続けている状況のようだ。
凡「Alien Godsはブルータルなサウンドが印象的だけど、どんなバンドに影響を受けたの?」
Tana「実は俺は3枚目のアルバムができてから加入したから、よく分からないんだよね。今のメンバーでオリジナルメンバーはボーカルだけなんだ」
またしてもびっくり。でもそれって代わりになるレベルのプレイヤーが身近にいるってことだよね。アングラとはいえそれなりにプレイヤー人口はいる様子。
凡「じゃあ、あなた自身はどう?いつ、どんなふうにこういう音楽と出会ったの?」
Tana「最初はパンクロッカーだった。2007年、高校生の頃のことさ。Blink182やSum41が好きだった。それからハードコア・パンクに興味を持つようになったんだ」
凡「へえー!でもインドってあんまりパンクが盛んじゃないように思うけど」
Tana「インドにもいい感じのアンダーグラウンドのパンクシーンがある。”The Lightyears Explode”はチェックすべきだよ。彼らとは地元のフェスで共演したんだ」
The Lightyears Explodeはこんなバンド。
ポップなサウンドに内向的な歌詞。なかなかいいじゃないですか。
インドだと、メタルバンドはだいたいがとことんヘヴィーなデスメタル系なのに、パンクになるとポップになる傾向があるのかな。
凡「じゃあ、ポップ・パンクからハードコア・パンク、そこからデスメタルって感じなんだね」
Tana「デスメタルの前はブラックメタルだったよ。これが俺の最初のバンドなんだ」
ギターがメロディアスで、日本のメタル好きにも人気が出そうなサウンドだ。
Tana「それからAlien Godsに加入して、今ではSacred Sacrecyっていうバンドもやっている」
Sacred Secrecyはよりブルータルかつテクニカルな感じのバンドのようだ。
凡「好きなバンドとか、好きなギタリストは?」
Tana「いくつか挙げるなら、Cradle of Filth, Dimmu Borgir, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Cattle Description, Strapping Young Ladかな」
凡「どれもデスメタルとかブラックメタルの大御所だね。実は僕、Strapping Young Ladのデヴィン(ヴォーカル/ギター。Steve VaiのSex & Religionというアルバムでヴォーカリストを務めた)はヴァイと一緒のツアーで見たことがあるよ」
Tana「へえ!それはすごくラッキーだね!俺、Strapping Young Ladのコンサートを見るためだったら何でもするよ。彼はまさにレジェンドだね。ところで、マキシマム・ザ・ホルモンってバンドは知ってる?」
凡「もちろん、日本のバンドだよね。日本じゃヘヴィーな音楽はアンダーグラウンドだけど、彼らはすごく人気があるよ」
Tana「だろうね。だからこそ俺が住む北東インドまで彼らの音楽が届いてるんだと思う。彼らのスタイルは好きなんだ。すごく興味をそそるよ。いくつか日本のバンドでお勧めを教えてくれたらうれしいんだけど」
さて、困った。最近のこの手のジャンルは全然知らない。
凡「日本じゃメタルだともっとメロディアスなやつが人気なんだよ。X Japanとか、知ってる?」
Tana「うん。ってか知らない奴いる?」
あ、そうなの。日本の皆さん、インド北東部でもXは有名です。
彼にいくつか日本のバンドを教えてあげる。タナはかなりコアなメタルファンのようで、たとえば日本の老舗ブラックメタルバンドのSighも聴いたことがあると言っていた。
凡「それじゃあ、最後の質問。ミュージシャンとしての夢を教えてくれる?」
Tana「ワールドツアーだよ。俺はステージプレイヤーなんだ。スタジオに座ってるより、ツアーをしていたい」
凡「ありがとう。いつか日本でライブが見られたらうれしいな。またニュースがあったらぜひ教えて」
と、かいつまんで書くとこんな感じのインタビューだった。
インタビューを終えて、いくつかのことについて分かったし、いくつかのことについて反省もした。
まず分かったのは、セブン・シスターズ諸州では、けっしてデスメタルが盛んなわけではなく、世界中の他のあらゆる地域と同じように、メタルはアングラな音楽で、でも根強いファンがいるということ。
それから、ポップなパンクからハードコア・パンクに進み、そこからだんだんよりヘヴィーでテクニカルな音楽が好きになっていったという彼の音楽キャリアは、日本でも欧米でも、世界中のどこにでもあり得るようなものだということ。
反省したというのは、自分の中のどこかに、こんなに辺鄙なところで(失礼)デスメタルをやってるなんて、なにかすごく面白い秘密があるんじゃないだろうか、と無意識に思ってたということだ。
そもそもデスメタルのミュージシャンにインタビューすること自体初めてだったけど、彼とやり取りをしていて、アルナーチャル・プラデーシュという、自分が全く行ったことがない場所の人と話しているという気が全然しなかった。
っていうか、まるでこの手の音楽が好きな日本の後輩と話しているような気さえした。
インターネットで世界中が繋がったこのご時世、ネットがつながる環境さえあれば、世界中のどこにでも、同じようなものに惹かれる人たちがいる。
流行っているポップミュージックは国によって違っても、コアな音楽には国境はない。彼と話をしていて、改めてそう認識した。
また、以前書いたように、インド北東部の人々は、インドのマジョリティーと文化的なバックグラウンドを共有しないがゆえに、よりダイレクトに欧米のカルチャーの影響を受けるのだろう。おそらくはそれがこの地域でデスメタルが盛んなように見える理由だ。
それから、「Strapping Young Ladのライブを見るためだったら何でもするよ」という彼の言葉と、ライブハウスが無いから公民館みたいな施設を借りてライブをやっているということにも、なんというかこう、ぐっと来た。
セブン・シスターズ出身の別のデスメタルバンドが、デリーでライブをやったときのインタビューでこんなふうに答えていた。
(地元でのライブとデリーでのライブの違いはどう?という質問に対して)「地元じゃ誰もヘッドバンギングなんかしないで、みんな座ってじっと見ているんだ。こっちだと音楽に合わせて体を動かしてくれて、デリーのほうがずっといいよ」
おそらく彼らは本当にこういう音楽が好きで、観客が盛り上がってくれなくても、演奏をすること自体の喜びを糧にして演奏を続けているのだろう。
もちろん自分だって、こういうブログをやるくらいだから、音楽は好きなつもりだ。でも「彼らのライブを見るためだったら何でもする」とまで言えるほど好きなミュージシャンがいるだろうか。
ミュージシャン目線で見ても、日本にはいくらでも演奏する場所がある。もし無かったら、自分たちでどこか場所を借りてまで演奏したい、自分たちでシーンを作りたい、自分たちのやっている音楽が理解されなくても、ずっと演奏を続けていたい、そこまで思っているバンドマンが日本にどれくらいいるだろう。
「ぼくが今生きてるのが世界の片隅なのか どこを探したってそんなところはない」と歌ったのはブルーハーツだったが、まさしくその通り。
音楽の世界に中心も片隅もなく、あるのは演奏する人、聴く人の心だけだ。セブン・シスターズのメタルバンドたちは、間違いなくヘヴィーミュージックのど真ん中で演奏を続けている。
Alien GodsのフロントマンSaidはこう語る。
「俺たちはただ音楽が好きなだけなんだ。俺たちは名誉や金のために音楽をやっているわけじゃない。すぐれた音楽を演奏する喜びを感じたくてやっているんだ…」
彼らの音楽が好みじゃないって人たちも、この言葉には感じるところがあるんじゃないかな。