AnuvJain

2023年06月26日

インドには結構いいシンガーソングライターがたくさんいる、という話


いつも書いている話だが、インドでもあらゆる街にラッパーが存在する時代になった。
ストリート発の表現手段としてのラップは、すでにインドの津々浦々にまで浸透しているのだ。
もし疑問に思うなら、YouTubeで「都市名(スペース)rapper」と検索してみるとよい。
田舎のほうに行けば行くほど、結構な確率でダサかったりカッコ悪かったりするが、下手で垢抜けないラッパーでも、数万回くらい再生されていたりするから、インドのラップ人気は侮れない。

何が言いたいのかというと、インターネットの普及によって、インドのインディペンデントな音楽シーンは爆発的に発展したわけだが、それはもちろんヒップホップだけの話ではない。
ラッパーだけではなく、ギターを抱えて歌う(ときにウクレレだったり、あるいは鍵盤を弾きながらだったり)シンガーソングライターも、インドではあらゆる街に存在しているのだ。
かなり一般化した話になるが、ストリート的な表現を志す若者がラッパーを志すように、より内省的で情緒的な表現を志す若者は、シンガーソングライターを目指すと言ってもいいだろう。

というわけで、今回はインド各地で活躍するシンガーソングライターを紹介してみます。
まずは評価の高いビッグネームから。


Anuv Jain "Baarishein"


Anuv Jainは2022〜23年の冬のフェス(夏が暑すぎるインドは冬がフェスのシーズン)に最も多く出演した、人気のシンガーソングライター。
ムンバイで生まれ、パンジャーブ州ルディヤーナーで育った彼が2018年にリリースしたこの"Baarishein"は、非常に低予算な(動かない)ミュージックビデオにも関わらず、これまでに6,000万回以上も再生されている。
映像の力にいっさい頼らず、単純に楽曲の良さだけでここまで評価されている例はインドの音楽シーンで他に知らない。
タイトルの意味はヒンディー語で「雨降り」だそうで、こちらのサイトの英訳によると、恋人同士の心の機微を描いた曲のようだ。

Anuv Jain "Ocean"


英語で歌われているこの曲は、ヒンディー語に馴染みのない人にも良質な洋楽ポップスとして受け入れられるクオリティ。
現状ではリスナーのほとんどがインド人であるためか、ヒンディー語の曲の再生回数のほうが圧倒的に多いが、彼の楽曲は世界中でもっと多くの人に聴かれるべきだろう。
彼はエレピにしろウクレレにしろ、楽曲のバッキングは最小限にこだわるという信念を持っているようで、その美学に確固たるインディーズ魂を感じる。



Taba Chake "Shaayad"


Taba Chakeという不思議な名前の彼は、少数民族が数多く暮らすインド北東部の最果てアルナーチャル・プラデーシュ州の出身。 
ニシという部族に生まれ、パプム・パレ郡のロノという鄙びた村に育ったという。
両親は学校に通ったことがなく、1992年生まれの彼がビルや車や電話のある暮らしをした最初の世代だというから、彼の故郷は相当な田舎だったのだろう。
ベンガルールで音楽を学んだのち、今ではムンバイに拠点を移して、ウクレレの弾き語りで歌うスタイルで活動している。
彼はインドに多いマルチリンガルなシンガーで、英語、ヒンディー語、ニシ語、ネパール語、アッサム語などで歌っている。

Taba Chake "Walk with Me"


英語の曲はこのレイドバック感。
山奥出身なのにちょっとサーフ系アコースティックみたいな雰囲気もあるのが面白い。


Suzonn "Sun Lo Na"


SuzonnことSujan Sinhaもまた北東部生まれのシンガーソングライターで、アッサム州出身。
北東部はインドでは例外的に早くからロックが普及していた地域で、人口のわりに優れたミュージシャンを多く輩出している。
彼もTaba Chake同様にアコースティックな響きを大事にしているようで、このウクレレ弾き語りの"Sun Lo Na"はYouTubeで 再生もされている人気曲だ。
ミュージックビデオも歌同様にシンプルながら印象的だが、どことなく憂鬱なアニメーションに反して、ヒンディー語の歌詞は一途なラブソングのようだ。(いちおうこちらのサイトを参考にした。)


偶然にも今回はウクレレを使った曲ばかりになってしまった。
本当はもっとマイナーなシンガーソングライターを紹介しようと思っていたのだが、今回はここまで。
また改めて、ギターとかピアノで歌うアーティストも紹介してみたい。


ところで、彼については何度も書いているが、インドで最も成功しているインディーズ系シンガーソングライターはといえば、やはりこのPrateek Kuhadということになるだろう。
つい先日、彼が昨年アメリカのElektra Recordsから発表した英語詞のアルバム"The Way That Lovers Do"に、別バージョンが加えられたデラックス・エディションがリリースされた。



このデラックス版には、同作収録曲のアコースティックバージョンが収められているのだが、それが大変素晴らしい。
もとのアルバムではエレクトロニックな要素を大胆に取り入れた楽曲が多かったが、やはり彼の歌声やメロディーにはアコースティックのほうが合う。
例えばこの"All I Need"のアコースティックバージョンなんて、涙が出そうなほどに美しい。



少し前にリリースされたこの"Hopelessly"では、よくわからない変拍子なのにものすごくいいバラードでもあるという矛盾した要素を両立させていて、やはり彼の才能は他のアーティストより頭ひとつ抜けている。



インドのシンガーソングライターの話を書いていると結局いつも最終的にはPrateek Kuhadの話になってしまう。
改めて、近いうちに他のもっとマイナーなシンガーソングライターも紹介する機会を持ちたい。
本当にいい曲がたくさんあるから。



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goshimasayama18 at 21:42|PermalinkComments(0)

2023年02月21日

2022〜23インド冬フェスシーズン 最も多くの出演したのは?


夏フェスがポピュラーな日本とは異なり、インドの音楽フェスティバルのシーズンは冬。


インドのインディペンデント系音楽メディアSkillboxに、2022〜23年のシーズンに最も多くフェスに出演したインディーアーティスト・トップ10を紹介する記事がアップされていた。
これがなかなか面白かったので紹介したい。
(元記事はこちら

この記事によると、1位に輝いたのは、プネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsで、8つのフェスに出演したとのこと。

出演したフェスの内訳は、Bacardi NH7 Weekender (プネー), Bloom In Green (クリシュナギリ), Echoes Of Earth (ベンガルール), Idli Soda (チェンナイ), India Bike Week (ゴア), Lollapalooza India (ムンバイ), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ)。

南インドのチェンナイやベンガルールから、北東部の最果てアルナーチャル・プラデーシュ州のジロまで、まさにインド全土を股にかけたということになる。
クリシュナギリという地名は初めて聴いたが、南インドタミルナードゥ州(州都はチェンナイ)の地方都市だ。
その郊外で行われたBloom in Greenは、人力トランスバンドや無国籍風ワールドミュージックアーティストが出演したオーガニック系の自然派フェスティバルだったようだ。
これまで南インドのフェスはあまり取り上げていなかったが、改めて調べてみると、結構面白そうなイベントが開催されている。

今シーズンのフェス出演映像は見つからなかったので、2017年のNH7 Weekender出演時の様子をご覧いただきたい。


このブログでも何度も取り上げてきたEasy Wanderlingsは、曲良し、歌良し、演奏良しの素晴らしいバンドで、彼らが1位というのは納得できる。
野外で彼らのオーガニックなサウンドを聴けたら最高だろう。
日本でもフジロックか朝霧JAMあたりで見てみたい。

冬フェス出演回数2位には、6組のアーティストが該当している。
それぞれの出演フェスティバルも合わせて紹介すると、
  • Anuv Jain
    Bacardi NH7 Weekender (プネー), Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Vh1 Supersonic (プネー), Zomaland (ハイデラーバード), Zomato Feeding India (ムンバイ)
  • Bloodywood
    Bacardi NH7 Weekender (プネー), Indiegaga (コチ), Lollapalooza India (ムンバイ), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Oddball Festival (ベンガルール、デリー), Rider Mania (ゴア), The Hills Festival (シロン)
  • Peter Cat Recording Co.
    Gin Explorers Club (ベンガルール), India Cocktail Week (ムンバイ), Jaipur Music Stage (ジャイプル), LiveBox Festival (ベンガルール), Rider Mania (ゴア), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ)
  • Thaikkudam Bridge
    GIFLIF Indiestaan (ボーパール), Idli Soda (チェンナイ), Indiegaga (ベンガルール、コーリコード), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Rider Mania (ゴア), Signature Green Vibes (ハイデラーバード), South Side Story (ニューデリー)
  • The Yellow Diary
    Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), LiveBox Festival (ムンバイ), Lollapalooza India (ムンバイ), Oktoberfest (ムンバイ), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Zomaland (アーメダーバード、ハイデラーバード、ニューデリー)
  • When Chai Met Toast
    India Cocktail Week (ベンガルール), Indiegaga (コチ), International Indie Music Festival (コヴァーラム), North East Festival (New Delhi), Parx Music Fiesta (Mumbai), SpokenFest (Mumbai), Toast Wine and Beer Fest (Pune)

詳細はアーティスト名のところからリンクを辿っていただくとして、ここではこれまでこのブログで取り上げたことがない人たちを紹介したい。
Anuv Jainはパンジャーブ出身の主にヒンディー語で歌うアーバン・フォーク系シンガー。
2018年のデビュー曲の"Baarishein"で一気に注目を集め、この曲、まったく絵が動かないシンプルなリリックビデオにもかかわらず、YouTubeで5,000万回以上も再生されている。


歌詞はわからなくても、彼の非凡なメロディーセンスが理解できるだろう。
ヒンディー語がとっつきにくいという人は、こちらの英語曲"Ocean"をどうぞ。

アレンジに関しては、弾き語りというか、最小限のバッキング以外は入れない方針っぽいのが潔くもあるし、少しもったいない気もする。

The Yellow Diaryはムンバイ出身のインド・フュージョンっぽいポップバンドで、2021年にリリースしたこの"Roz Roz"という曲のYouTubeでの再生回数は1,000万回を超えている。



ちなみにこの後には8位タイとして、6つのフェスに出演したParvaaz(ベンガルール出身のヒンディー語で歌うインディーロックバンド)、Taba Chake(北東部アルナーチャル・プラデーシュ出身のウクレレ・シンガーソングライター)、The F16s(チェンナイ出身のロックバンド)、T.ill Apes(ベンガルール出身のファンク/ヒップホップバンド)の4組が名を連ねている。

元記事を書いたAmit Gurbaxaniは、この統計を取るために50以上のフェスティバルを調べたとのこと。
そのうち2つ以上のフェスにラインナップされていたアーティストは70組以上。
オーガナイザーの話では、出演者選定の理由は、
  • 人気があること
  • ストリーム数、動員、ソーシャルメディアの活躍
  • 開催地が地元の場合、しっかりとしたファン基盤があること
  • ヘッドライナーのアーティストとの相性を考慮
だそうで、まあこれは世界中共通だろう。
典型的なメタルバンドはラインナップしづらいけど、Bloodywoodみたいな個性のある面白いバンドは例外とのことで、なるほど、彼らは日本でいうところのマキシマム・ザ・ホルモンみたいな存在なのだろう。
それにしてもBloodywoodは欧米でも日本でも母国でも、フェス人気がかなり高いようだ。

DIVINEPrateek KuhadRitvizといった人気アーティストの出演が少ないのは、独自のツアーが忙しいからだそうで、これも世界共通の傾向だろう。

最後に今シーズンのフェスの映像をいくつか紹介してみたい。

まずは、南インド各地で行われた巡回型フェスティバルIndiegagaから、ケーララ州コチ会場のBloodywoodのライブのアフタームービー。


続いて同じIndiegagaでも、こちらはコーリコード会場から、地元ケーララのThaikkudam Bridgeのライブの模様。


ベンガルールで行われたOddball Festivalのアフタームービー。


プネーの大型フェスNH7 Weekenderから、When Chai Met Toastのライブの様子。



今回紹介したのはロック系のフェスが中心になってしまったが、EDMやヒップホップが優勢に感じられるインドで、ロックも根強い人気を保っていることが確認できた。
インドのフェス、ほんとそろそろ遊びに行きたいんだよなあ。



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