AnoushkaMaskey

2023年01月05日

(前編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 インドのインディー音楽はここまで来た



例年このブログで特集している「Rolling Stone Indiaが選ぶベスト○○Top10」シリーズ。
前回特集したベストアルバム部門が、例年と違って15作品選ばれていてびっくりしたのだが、そのあとに発表されたベストシングル部門はなんと22作品!
例年の倍以上!
もちろんこれはインドのインディー音楽シーンが急成長していることを端的に表しているのだが、いい作品が多かったらその中から厳選して10作品選ぶのではなく、躊躇なく15作品とか22作品とか選んでしまうところがいかにもインドらしい。

というわけで、今年は大盤振る舞い。
2回に分けてその22作品をすべて紹介する。

はじめに結論から言ってしまうと、このランキングに選ばれた曲は、Rolling Stone Indiaという媒体の性格を反映して、洋楽的な意味での「よい曲」が並んでいる。
何も言わずに聴かせたらインドのアーティストだとは思えない曲ばかりで、インドの音楽シーンもここまでグローバルになってきたのかと思うと感慨深い。
いっぽうで、それは海外のアーティストと比較したときに没個性という意味でもあるわけで、今日のポピュラー音楽としての洗練された響きを維持しつつ、インド的な特徴も融合した音楽をどう作るかという点が、今後のインドのインディー音楽の発展のひとつの鍵となるのだろう。
能書きはともかくさっそく紹介に移ります。


22位 BeBhumika, Katoptris  “Pareshaan” 

Ritvizマナーの男女ヴォーカルのヒンディー語EDM(いわゆる'印DM')。
インド的アイデンティティと現代的なポップサウンドの両立という点では、この曲は上位ランクの楽曲よりもがんばっている。
ただインド国内ではこの手のサウンドは珍しくなくなってきており、インドのシーンの中で今後オリジナリティをどう出してゆくのかというまた別の課題がありそうだ。
Ritvizフォロワーにとどまらない次の展開を期待したい。


21位 The Runway "Find Me, Find You"

このブログでも何度も紹介している、インド北東部のナガランド州から登場したバンド。
聴いての通り80年代リバイバル風のポップなロックだが、北東部のバンドにありがちな80〜90年代趣味が、結果的に今の時代の懐古的エモさ嗜好にばっちりはまっているように思える。
2022年は、ナガランドからこれまた80年代趣味全開なAbout Usというすごいハードロックバンドも登場しており、しばらくナガのシーンから目が離せなくなりそうだ。


20位 Mali  “Ashes” 

Maliはムンバイ出身のマラヤーリー系(ケーララ系)シンガーソングライター。
彼女のいつものスタイルであるやわらかいアコースティックなサウンドとやさしいヴォーカルの1曲。
そういえば、彼女はコロナ前に日本でミュージックビデオを撮ることを計画していたようだが、その後どうなったのだろうか。


19位 Kenneth Soares  “Cigarettes”

イントロのパーカッション使いやレイドバックした雰囲気など、70年代アメリカンロックを思わせるインドでは珍しいタイプの曲。
しいて近い雰囲気を挙げるとしたら13位のTejasだろうか。
ムンバイのシンガーソングライターだそうだ。


18位 Tanmaya Bhatnagar  “kyun hota hai?”

ニューデリーのシンガーソングライターによる歌ものヒンディー・エレクトロポップ。
全体的に柔らかめのサウンドが心地よい。
この手のエレクトロポップ勢は本当に増えてきた。

17位 Gaya "Qisse"

品の良いアコースティックなアーバンフォーク。
声質や歌い回しに、北インドっぽい節回しが顔を出すのがチャーミングだ。
ムンバイだろうか、下町を叙情的に撮影したミュージックビデオも美しい。
北インドの人かと思ったら、チェンナイ生まれ、ドバイ育ちとのこと。


16位 Raghav Meattle  “Am I Overthinking This?” 
2020年にリリースした"City Life"が記憶に新しいムンバイのシンガーソングライターRaghav Meattleの新曲は、こちらもアコースティックなフォークだが、英語詞ということもあり、洋楽的なサウンドが印象的。
しみじみと感じ入る曲だが、ややシンプルすぎるようにも思う。


15位 Anoushka Maskey  “So Long, Already. Again.” 

インド北東部シッキム州のシンガーソングライターによる、これまたアコースティックな曲。
彼女の歌声にはなんとも形容し難い寂寥感があって、どこか日本のフォークソングを思わせる雰囲気がある。
インドに数多い女性シンガーソングライターのなかでも、声に個性が感じられるアーティストだ。


14位 Kamakshi Khanna and Sanjeeta Bhattacharya  “Swimming”

デリーのシンガーソングライター2人によるコラボレーション。
これもおだやかなバラードだが、歌声ひとつで空気を変える力があるKamakshi Khannaと実力派シンガーSanjeeta Bhattacharyaの共演となると、さすがに聴きごたえがある。
ミュージックビデオの「女の園」的な世界観も独特だ。
ところで、さいきんのSanjeetaのミュージックビデオは、一昨年の"Khoya Sa"もそうだったが同性愛的なテーマで作られているときが多くてなんかドギマギする。


13位 Tejas  “As I’m Getting Older”

ムンバイのシンガーソングライター(どうでもいいけどこのランキングはムンバイとデリーのSSWばっかりだな)Tejasの新作は、いつも通りのダンサブルなポップチューン。
いつも通りよくできているのだが、ちょっとマンネリ感があるかな。


12位 Aanchal Bordoloi  “Whiskey Blues” 

北東部アッサム州出身、ベンガルールを拠点に活動しているシンガーソングライターによる曲。
タイトル通りアメリカっぽい曲調のアーバンフォークだが、いかに大都市ベンガルールとはいえ、まだまだ保守的なインドで女性がWhisley Bluesというタイトルの曲を発表するのはどういう受け止められ方をするのだろうか。
リベラルな性質の媒体なので、そのあたりの時代性というか先進性もランキングに影響しているのだろうか。


11位 Aarifah  “Now She Knows”

ムンバイ出身の女性シンガーソングライターのデビューシングル。
深みのある声で歌われる洋楽的アコースティックバラード。
歌もメロも後半盛り上がってゆくアレンジも悪くないのだが、ここまでちょっと同系統の曲が多すぎるような気がしないでもない。
選者の好みなのだろうか。


というわけで、ここまで12曲を紹介してみました。
上位10曲はまた次回!


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goshimasayama18 at 22:53|PermalinkComments(0)

2020年10月29日

秋深し。女性シンガー特集!

日が落ちるのがすっかり早まり、木々の葉っぱも色づき始めてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!

このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。


最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。

彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。

デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。


続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。

歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
このミュージックビデオは、故郷ケーララに暮らす祖父のもとを尋ねるのんびりとしたロードムービー仕立てになっている。
全編にわたって心地よい秋の風が吹いているような1曲だ。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。

記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。



続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。

彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)



見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。

右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。

どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。



最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。

じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。

…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。





 


(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。


改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。

タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。

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