AnkurTewari

2019年10月23日

『ガリーボーイ』ラップ翻訳"Kab Se Kab Tak"(いつからいつまで)by麻田豊、餡子、Natsume


大好評の『ガリーボーイ』ラップのリリック翻訳シリーズ、今回は主人公ムラードの不安な恋心を綴った曲、"Kab Se Kab Tak"を紹介。
厳しいスラムの環境や、社会の格差をラップした曲が多いこの映画の中では異色のラブソングだ。

この曲でラップを聴かせているのは(劇中でムラードがラップしているという設定なので)例によって主演のランヴィール。
女性ヴォーカルはカシミール出身のシンガーソングライター/プレイバックシンガーのVibha Saraf.
リリックは映画にカメオ出演もしているラッパーのKaam Bhari、楽曲はインド系イギリス人のタブラ奏者で、映画音楽も多数手がけているKarsh Kaleが担当した。
作詞と作曲の両方に、この映画の音楽スーパーバイザーを務めたシンガーソングライターのAnkur Tewariの名前がクレジットされている。
アコースティックでメロウな曲調だが、R&Bっぽく仕上げずに、最近のボリウッドでよくあるバラード風にまとめたのは、一般的なインド人の音楽の嗜好を考慮してのことだろう。
ヒップホップと大衆性を両立させた見事なバランス感覚だ。

(今回は、若干ネタバレ的なことを書くので、未見でネタバレが嫌な方は、リリックまで読んだらお引き返しを)


KabSeKabTak1

KabSeKabTak2

KabSeKabTak3

餡子さんからのコメント:
この歌は映画本編で最後まで流して欲しかったです。そうすればもっとムラードのサフィーナに対する想いがわかったのに。前半の彼女、君はスカイ、後半の君はサフィーナを指していると解釈しています。
kab seは彼女とか君とか俺とかたくさん代名詞が出てきて、誰を指しているのか?
サフィーナだけじゃないような、と考えてました。
劇中では途中までのレコーディングしか描かれませんでしたが、この曲を最後まで歌い切ったとき、スカイは「ムラドはサフィーナなしに生きられないんだな」と思ったでしょうね、その様子をちょっと見てみたかったです。

餡子さんの解釈になるほどと唸りました。

ムラードは、彼に想いを寄せるスカイの気持ちを、なかなかうまく受け止めることができない。
理由の一つは、長くつきあってきたサフィーナへの愛情。
もう一つの理由は、豪邸に暮らし、アメリカに音楽留学できるほどに裕福なスカイが、なぜ貧しい彼に愛情を示すのか、全く分からないからだ。
ムラードやシェールにとっては、お金にならない音楽を学ぶために留学することも、音楽だけを教える大学が存在するということも、想像もつかないことだった。
古い価値観に縛られないスカイは、生まれや階級に関係なく、ムラードの才能に魅力を感じて彼に惹かれた。
だが、ムラードは、自分のことを完全に使用人(運転手)としてしか見なさない勤務先の裕福な一家と同じ階層にいるはずのスカイが、彼に恋愛感情を持つということが理解できない。
高級ホテルのようなスカイの家(ムラードは高級ホテルがどんな場所かも知らないかもしれないが)の洗面所で、ムラードがきれいに畳まれた真っ白なタオルに戸惑うシーンが印象的だ。

乗り越えるべき壁は、世間だけではなく、自分の中にもあるのだ。
ムラードが手に入れる自由は、貧困や偏見や束縛からの自由だけではなく、これまでの自分自身からの自由でもある。

恋に揺れるムラードは、結局は「自分がいちばん自分自身でいられる」相手を選ぶ。
この選択は、「自分が自分自身であることを誇る」ヒップホップの思想と、どこかつながっているはずだ。
物語の後半に向けて、ストーリーは加速してゆく。

次のリリック紹介は"Azadi".
お楽しみに!

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goshimasayama18 at 22:40|PermalinkComments(0)