AlienGods

2018年01月28日

デスメタルバンドから返事が来た!Alien Godsのギタリストが語るインド北東部の音楽シーン

こんばんは、軽刈田凡平です。


こないだのブログで、インド北東部7州「セブン・シスターズ」にどうやら多くのデスメタルバンドがいるらしい、ということを取り上げた。

インドの中でも辺境とされ、自然豊かなこの地域で、どうしてそんなに激しい音楽が流行っているのか。

探ってみるためにいくつかのバンドにメッセージを送ってみたところ、Top 10 Indian Death Metal Band9位の、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsからさっそく返事が来た!


メッセージをくれたのはギタリストのTana Doni.

「俺たちに興味を持ってくれてありがとう。どんな方法でも喜んで協力するよ」

と、なんかいい奴っぽい。

ではさっそく、インタビューの様子をお届けします。

 

凡「まず最初に、Youtubeやなんかを見ていて、インド北東部にたくさんのメタルバンドがいることに驚いたんだけど」

Tana「アルナーチャルには他にもいいバンドがたくさんいるよ。よかったら紹介するよ」

と教えてくれたバンドは、

プログレッシブ・ブラックメタルとのふれこみのLunatic Fringe


マスロックバンドのSky Level. 
 

現代的なヘヴィーロックで、なかなか面白いギターを弾いている。


ロック系ギターインストのAttam. 彼は近々アルバムを出すという。

 

凡「イーターナガルとかアルナーチャル・プラデーシュ州のメタルシーンについて教えてくれる?」

Tana「正直言って、シーンはアンダーグラウンドなものだよ。北東部にはいろんなジャンルが好きな人がいるから。でもマニプル州は他の北東部の州よりシーンが発展しているかな」

凡「どんなところで演奏してるの?」

TanaGovermental hall(公民館のようなところか)とか、Community Ground(屋外の公共の場所か)とか」

なんと。田舎ながらもシーンがあって、愛好家が集うライブハウスみたいなものがあるのかと思ったら、本当に好きな人たちがなんとか場所を借りて続けている状況のようだ。

 

凡「Alien Godsはブルータルなサウンドが印象的だけど、どんなバンドに影響を受けたの?」

Tana「実は俺は3枚目のアルバムができてから加入したから、よく分からないんだよね。今のメンバーでオリジナルメンバーはボーカルだけなんだ」

またしてもびっくり。でもそれって代わりになるレベルのプレイヤーが身近にいるってことだよね。アングラとはいえそれなりにプレイヤー人口はいる様子。

凡「じゃあ、あなた自身はどう?いつ、どんなふうにこういう音楽と出会ったの?」

Tana「最初はパンクロッカーだった。2007年、高校生の頃のことさ。Blink182Sum41が好きだった。それからハードコア・パンクに興味を持つようになったんだ」

凡「へえー!でもインドってあんまりパンクが盛んじゃないように思うけど」

Tana「インドにもいい感じのアンダーグラウンドのパンクシーンがある。”The Lightyears Explode”はチェックすべきだよ。彼らとは地元のフェスで共演したんだ」

 

The Lightyears Explodeはこんなバンド。
 

ポップなサウンドに内向的な歌詞。なかなかいいじゃないですか。

インドだと、メタルバンドはだいたいがとことんヘヴィーなデスメタル系なのに、パンクになるとポップになる傾向があるのかな。

 

凡「じゃあ、ポップ・パンクからハードコア・パンク、そこからデスメタルって感じなんだね」

Tana「デスメタルの前はブラックメタルだったよ。これが俺の最初のバンドなんだ」


ギターがメロディアスで、日本のメタル好きにも人気が出そうなサウンドだ。

Tana「それからAlien Godsに加入して、今ではSacred Sacrecyっていうバンドもやっている」


Sacred Secrecyはよりブルータルかつテクニカルな感じのバンドのようだ。
 

凡「好きなバンドとか、好きなギタリストは?」

Tana「いくつか挙げるなら、Cradle of Filth, Dimmu Borgir, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Cattle Description, Strapping Young Ladかな」

凡「どれもデスメタルとかブラックメタルの大御所だね。実は僕、Strapping Young Ladのデヴィン(ヴォーカル/ギター。Steve VaiSex & Religionというアルバムでヴォーカリストを務めた)はヴァイと一緒のツアーで見たことがあるよ」

Tana「へえ!それはすごくラッキーだね!俺、Strapping Young Ladのコンサートを見るためだったら何でもするよ。彼はまさにレジェンドだね。ところで、マキシマム・ザ・ホルモンってバンドは知ってる?」

凡「もちろん、日本のバンドだよね。日本じゃヘヴィーな音楽はアンダーグラウンドだけど、彼らはすごく人気があるよ」

Tana「だろうね。だからこそ俺が住む北東インドまで彼らの音楽が届いてるんだと思う。彼らのスタイルは好きなんだ。すごく興味をそそるよ。いくつか日本のバンドでお勧めを教えてくれたらうれしいんだけど」

さて、困った。最近のこの手のジャンルは全然知らない。

凡「日本じゃメタルだともっとメロディアスなやつが人気なんだよ。X Japanとか、知ってる?」

Tana「うん。ってか知らない奴いる?」

あ、そうなの。日本の皆さん、インド北東部でもXは有名です。

彼にいくつか日本のバンドを教えてあげる。タナはかなりコアなメタルファンのようで、たとえば日本の老舗ブラックメタルバンドのSighも聴いたことがあると言っていた。

凡「それじゃあ、最後の質問。ミュージシャンとしての夢を教えてくれる?」

Tana「ワールドツアーだよ。俺はステージプレイヤーなんだ。スタジオに座ってるより、ツアーをしていたい」

凡「ありがとう。いつか日本でライブが見られたらうれしいな。またニュースがあったらぜひ教えて」

 

と、かいつまんで書くとこんな感じのインタビューだった。

インタビューを終えて、いくつかのことについて分かったし、いくつかのことについて反省もした。

まず分かったのは、セブン・シスターズ諸州では、けっしてデスメタルが盛んなわけではなく、世界中の他のあらゆる地域と同じように、メタルはアングラな音楽で、でも根強いファンがいるということ。

それから、ポップなパンクからハードコア・パンクに進み、そこからだんだんよりヘヴィーでテクニカルな音楽が好きになっていったという彼の音楽キャリアは、日本でも欧米でも、世界中のどこにでもあり得るようなものだということ。 

反省したというのは、自分の中のどこかに、こんなに辺鄙なところで(失礼)デスメタルをやってるなんて、なにかすごく面白い秘密があるんじゃないだろうか、と無意識に思ってたということだ。

そもそもデスメタルのミュージシャンにインタビューすること自体初めてだったけど、彼とやり取りをしていて、アルナーチャル・プラデーシュという、自分が全く行ったことがない場所の人と話しているという気が全然しなかった。

っていうか、まるでこの手の音楽が好きな日本の後輩と話しているような気さえした。

インターネットで世界中が繋がったこのご時世、ネットがつながる環境さえあれば、世界中のどこにでも、同じようなものに惹かれる人たちがいる。

流行っているポップミュージックは国によって違っても、コアな音楽には国境はない。彼と話をしていて、改めてそう認識した。

また、以前書いたように、インド北東部の人々は、インドのマジョリティーと文化的なバックグラウンドを共有しないがゆえに、よりダイレクトに欧米のカルチャーの影響を受けるのだろう。おそらくはそれがこの地域でデスメタルが盛んなように見える理由だ。

それから、「Strapping Young Ladのライブを見るためだったら何でもするよ」という彼の言葉と、ライブハウスが無いから公民館みたいな施設を借りてライブをやっているということにも、なんというかこう、ぐっと来た。

セブン・シスターズ出身の別のデスメタルバンドが、デリーでライブをやったときのインタビューでこんなふうに答えていた。

(地元でのライブとデリーでのライブの違いはどう?という質問に対して)「地元じゃ誰もヘッドバンギングなんかしないで、みんな座ってじっと見ているんだ。こっちだと音楽に合わせて体を動かしてくれて、デリーのほうがずっといいよ」

おそらく彼らは本当にこういう音楽が好きで、観客が盛り上がってくれなくても、演奏をすること自体の喜びを糧にして演奏を続けているのだろう。

もちろん自分だって、こういうブログをやるくらいだから、音楽は好きなつもりだ。でも「彼らのライブを見るためだったら何でもする」とまで言えるほど好きなミュージシャンがいるだろうか。

ミュージシャン目線で見ても、日本にはいくらでも演奏する場所がある。もし無かったら、自分たちでどこか場所を借りてまで演奏したい、自分たちでシーンを作りたい、自分たちのやっている音楽が理解されなくても、ずっと演奏を続けていたい、そこまで思っているバンドマンが日本にどれくらいいるだろう。

 

「ぼくが今生きてるのが世界の片隅なのか どこを探したってそんなところはない」と歌ったのはブルーハーツだったが、まさしくその通り。

音楽の世界に中心も片隅もなく、あるのは演奏する人、聴く人の心だけだ。セブン・シスターズのメタルバンドたちは、間違いなくヘヴィーミュージックのど真ん中で演奏を続けている。

Alien GodsのフロントマンSaidはこう語る。

「俺たちはただ音楽が好きなだけなんだ。俺たちは名誉や金のために音楽をやっているわけじゃない。すぐれた音楽を演奏する喜びを感じたくてやっているんだ…」

彼らの音楽が好みじゃないって人たちも、この言葉には感じるところがあるんじゃないかな。



goshimasayama18 at 22:47|PermalinkComments(0)