Advaita

2020年09月22日

ロック好きにお勧めしたいインド風ロック特集!Advaita, Sabculture, Pakshee


今から20年以上前、バックパッカーとして初めてインドを訪れたとき、自分はロック好きの19歳だった。
1ヶ月後、初めての海外一人旅から帰ってきた頃には、すっかりインドにかぶれてしまい、インドとロックが融合したような音楽はないものか、と探し回ったものだった。

ところが、これがなかなか見つからない。
Big Brother and Holding Co.とかJefferson Airplaneみたいに、ヒッピー・ムーブメントの流れでインドっぽい格好をしている60年代のサンフランシスコあたりのバンドはいるんだけど、彼らは別に音がインドっぽいわけではない。
イギリスに目を向ければ、ジョージ・ハリスンがラヴィ・シャンカルに弟子入りしたり、ストーンズがシタールを導入したりもしていたけれど、インドという濃すぎる原液の上澄みのような感じがして、あまり夢中になれなかった。
当時(90年台後半)、リアルタイムでは、インドかぶれバンドのクーラ・シェイカーが流行っていて("Tattva"とか"Govinda"とか、いかにもなタイトルの曲をやっていた)、結構好きだったけど、結局のところ彼らも「欧米人から見たインド」の域を超えているようには思えなかったんだな。

ロックのエナジーとインド音楽の深遠を、もっとうまく融合する方法があるんじゃないかと思って、当時の私はどこか満たされない気持ちを抱えていた。

欧米にいなければ、インドにいいロックバンドはいないものか…と思ってみたものの、インターネットも一般的ではなかった当時、インドのロックを探す方法もなく、次のインド渡航時にやっと見つけたと思ったら800ルピー騙し取られた!なんていうこともあった。(こちらを参照)

その後、ネットの普及などによってさまざまな情報が入手できるようになって、本場インドの「いかにもインドっぽいロック」もいろいろ見つけることができた。
インドでは、古典音楽と西洋のロックが融合した音楽を「フュージョン・ロック」と呼ぶ。
日本でフュージョンと言えば、1980年代頃に流行ったジャズとロックが融合したような音楽を指すが、インドでフュージョンと言うと、それは古典音楽と現代音楽の融合のことなのだ。

ところが、このフュージョン・ロックがまたくせもので、インド(南アジア)の要素は異常に濃いのにロックの部分が雑でダサかったり、インドっぽいのは確かなんだけど、独特すぎてロック的感覚からすると違和感が大きかったり、なかなか納得できるものは見当たらないのである。
それも当然で、彼らはべつに日本や欧米のロックファンのために曲を作っているわけではなく、あくまでローカルのリスナー向けに曲を作っているのだ。
当時の私は、本格的インドカレーにボンカレーやククレカレーの味を求めていたようなものだったのだろう。

それでも、フュージョン・ロックを聴き込むうちに、欧米のロックに馴染んだ耳にも、素直にかっこよく思えるバンドを何組か見つけることができた。
というわけで、今回はフュージョン・ロックの中でも、一般的なロックファンにも聴きやすいものを選んでお届けしたいと思います。


まずはじめに紹介したいのが、2004年にデリーで結成されたAdvaita.
バンド名の意味は「不二一元論」。
正直何だかよく分からないが、インドかぶれの心をぐっとつかむ哲学的なバンド名ではある。

サーランギー(北インドの擦弦楽器)の響きに導かれて始まる"Dust"は2012年にリリースされた彼らのセカンド・アルバム"The Silent Sea"のオープニングナンバー。

曲が始まってみれば意外にも普通のロックで、間奏部分で再び導入されるサーランギーも、舌に馴染んだ和風カレーにアクセントとして加えられた本格的インドスパイスといった風情だ。

Bol(古典音楽の口で取るリズム)のイントロが印象的な"Mo Funk"は、うってかわって古典音楽風のヴォーカルだが、そこまで癖が強くないのが聴きやすさのポイントか。

この曲は、18〜19世期の南インドの詩人Muthuswami Dikshitarの宗教詩がもとになっているとのこと。
やはりよく分からないが、「インドっぽい深遠さ」幻想をしっかり満たしてくれていてポイント高い。
謎の荷物を運ぶ男をワンショットで撮影したミュージックビデオは…衝撃の結末!(謎すぎて)

2009年リリースの"Grounded in Space"の収録曲、"Gates of Dawn"は、おごそかなタンプーラのイントロに続いて、Nirvana的なメロディーがインド風サウンドに乗せて歌われる。
(そういえば、Nirvanaというバンド名も「涅槃」を意味するサンスクリット語だ)。


彼らは8人のメンバーからなる大所帯バンドで、ロック・スタイルとヒンドゥスターニー・スタイルの2人のヴォーカリストと、ギター、ドラム、キーボード、ベース、タブラ、サーランギーのプレイヤーがいる。
8人がそれぞれ異なる音楽的バックグラウンドを持っているとのことで、曲によってインド古典にもロックにも自在に変化するサウンドはまさに「不二一元論」というバンド名にふさわしい。
近年はロック色の薄いアンビエント/ニューエイジ的な方向性に進んでしまっているようなのが少し残念だ。


最近のバンドでは、同じくニューデリーのバンドSabcultureがロックとインド音楽の心地よい融合を聴かせてくれている。

彼らは、以前は在籍していたカレッジの学校の名前を取ってHansRaj Projektを名乗っていたが、卒業にともなって改名。
2018年にデビューアルバムをリリースした。

彼らもやはり古典音楽とロックスタイルの2人のヴォーカリストを擁していて、このアコースティックバラード"Cycle Song"では、二人のヴォーカルのコール&レスポンスのようなアレンジが印象的だ。


ここまで聴いてきて分かる通り、フュージョン・ロックは、古典音楽風のヴォーカルが入ると、インドらしさが急増する。
より本格的なフュージョンになるのと同時に、ロックファンには少しとっつきにくくなってしまう気もするのだが、古典音楽のヴォーカルを活かしながらも、タイトなロックサウンドとの絶妙な融合を聴かせてくれるバンドがPaksheeだ。
Paksheeの場合、ロック風と古典風ではなく、二人の異なる古典音楽、つまり、北インドのヒンドゥスターニー音楽(彼は北インドからインド中部で広く話されているヒンディー語で歌う)と、南インドのカルナーティック音楽のヴォーカリスト(彼は南インド・ケーララ州の言語であるマラヤーラム語で歌う)が在籍していて、しかも英語のラップまでこなすというユニークさだ。

ジャズやファンクの要素のあるタイトな演奏も心地よく、彼らはフュージョンの新しいスタイルを確立したと言って良いだろう。
彼らについては、過去に特集記事を書いているので、興味のある方はこちらも参照してほしい。


今回紹介したバンドは、あくまでフュージョン・ロックの導入編。
もっと「濃い」バンドや、大胆すぎて真面目なんだかイロモノなんだか分からないバンドもたくさんいて、それぞれに良さがあるのだが、それは改めて紹介することとして、今日のところはこのへんで!

参考サイト:
https://en.wikipedia.org/wiki/Advaita_(band)
https://dailyjag.com/featured/an-interview-with-advaita-an-emerging-eclectic-fusion-band-from-india/




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goshimasayama18 at 21:43|PermalinkComments(0)