ACHARYA
2024年07月04日
インドの最近のヒップホップで気になった曲
気がつけば6月は1本しか記事を書いていなかった。
書きたいネタはたくさんあるのだけど、ここのところ忙しくてじっくり書く時間がない。
そんなことを言っても進化し続けているインドの音楽シーンは待ってくれないので、今回はあんまり深掘りせずに、最近かっこいいなあと思ったインド各地のヒップホップを何曲か紹介してみます。
Wazir Patar "Udda Adda"
まずはこれぞインドなバングラー・ラップから。
パンジャーブ州アムリトサル出身のWazir Patarは、90'sのUSギャングスタラップの影響を受けたラッパーで、2019年頃から本格的に音楽活動をしているようだ。
2021年に射殺された伝説的バングラー・ラッパーSidhu Moose Walaに見出されて複数の曲で共演し、死の2週間前にも遺作となった"The Last Ride"でのコラボレーションを果たした。
Sidhuの死後は彼の音楽的遺産を引き継ぐべく活動しているという。
ミュージックビデオではシク教徒のギャングスタ風若者グループが、バスケのボール、金属バット、でかいラジカセ、銃を持ってウエストサイドストーリーみたいに煽りあっているが、いったいどういう状況なのだろうか。
クリケット大国インドで野球のバットが出てくるというのは珍しい。
この曲ではバングラー的なアクの強さはだいぶ抑えられ、かなりヒップホップ化したフロウを披露している。
聴きやすいとも言えるし、もっと濃いほうがいいような気もする、飲みやすい芋焼酎みたいな曲。
Yashraj "Kaayda / Faayda"
ムンバイ出身のYashrajは若手らしからぬ貫禄の持ち主で、2022年のアルバム"Takiya Kalaam"で注目を集め、一気に人気ラッパーの仲間入りをした。
最近ではNetflix制作の映画"Murder Mubarak"のサウンドトラックに参加するなど活躍の幅を広げている。
この曲はフロウといい、70年代和モノグルーヴみたいなビートといい、どこか日本のヒップホップ(田我流の"Straight Outta 138"とか)を思わせる雰囲気がある。
ヒンディー語はたまに日本語っぽく聞こえる時がある言語だが、その謎の親和性はラップでも健在っぽい。
Frappe Ash "Chai Aur Meetha"
「イノキ・ボンバイエ」みたいなビートは、今紹介したYashrajの"Kaayda / Faayda"にも通じるが、こういう16ビートっぽいリズムはインドのヒップホップでは珍しい。
もしDJをやってたら繋げてプレイしてみたいところ。
タイトルの意味は「チャイと菓子」。
Frappe Ashはウッタラカンド州のルールキー(Roorkee)という小さな街出身のラッパーで、私は最近発見したのだけど、じつは2011年(当時17歳!)からキャリアを重ねているというから、インドのヒップホップシーンではかなりのベテランに入るキャリアの持ち主。
ルールキーという街は聞いたことがなかったが、調べてみるとアジアで最初の工科大学が設立された街らしい。
インドでは、デラドゥンとか、それこそプネーとか、大学や有名な学校がある街にはセンスの良いミュージシャンが多い印象で、充実した若者文化があるってことなのだろうか。
Frappe Ashは現在はデリーを拠点に活動中。
やはりここ数年でよく名前を聞くようになったアンダーグラウンドラッパーのYungstaとFull Powerというユニットを結成している。
例えばSeedhe Mautであるとか、名ビートメーカーSez on the Beatまわりの人脈との交流が深いようだ。
Frappe Ashが今年6月にリリースした"Junkie"は、一時期ほどコワモテじゃなくなった今のデリーの雰囲気が分かる良作で、ヒップホップアルバムとして高い完成度を保ちつつ、1曲目が思いっきり古典フュージョンで最高。
Frappe Ash "Ishqa Da Jahan"
力強く波打つような古典のヴォーカルからリズミカルに刻むラップへの展開が最高にスリリング!
2番目のヴァースはデリーを代表するラップデュオSeedhe Mautの一人Encore ABJをゲストに迎えている。
Dhanji, Siyaahi, ACHARYA, Full Power "Vartamaan"
グジャラート州アーメダーバード(最近カナ表記アフマダーバードが多いかも)の新進ラッパーDhanji, SiyaahiとプロデューサーのACHARYAが共作したアルバム"Amdavad Rap Life: 2 Heavy On 'Em, Vol. 2"もなかなか良い作品だった。
この曲にはさっき紹介したばかりのFrappe Ashが所属するFull Powerが参加。
この曲はフロウにヒンディー語(グジャラート語?)らしさを残しつつ、パーカッシブに子音の発音を強調して、ラップとして非常にかっこよく仕上げているのが痺れるポイント。
Dhanjiは音楽的影響としてFunkadelic(ジョージ・クリントン)やIce Cubeを挙げていて、この曲はもろにP-Funk風。
Dhanji, Circle Tone, Neil CK "THALTEJ BLUES"
この曲が収録されている"Ruab"はRolling Stone Indiaが選ぶ昨年のベストアルバムにも選出されている。
インスピレーションの源となるアートは?との質問には「プッシー、インターネット、ルイCK(米コメディアン)、LSD、ドストエフスキー、そして野心」と回答するセンスの持ち主で、LSDに関しては「ごく普通のやつ。第3の目を開いてくれる」とのこと。
シニカルさ、不良性、文学性、インドらしさが混在した満点の回答じゃないだろうか。
シニカルさ、不良性、文学性、インドらしさが混在した満点の回答じゃないだろうか。
Dhanjiとの共演が多い同じくアーメダーバード出身のビートメーカーAcharyaを調べてみたところ、再生回数が多かったのがこの曲。
GRAVITY x Acharya "Matchstick"
2021年の5月にリリースされているので、最近の曲というわけではないけど、このシンプルかつ深みのあるビートは、Acharyaのビートメーカーとしての実力が分かる一曲だと思う。
ラッパーはムンバイのGravity.
彼もキャリアの長いラッパーだが、近年めきめき評価を上げている。
最後に英語のラップを紹介。
ゴアの若手、Tsumyokiという不思議なMCネームは日本語(何?)から取られているそうで、略称はYokiらしい。
Tsumyoki "HOUSEPHULL!"
ムンバイのDIVINEのレーベルGully Gangと契約するなど、評価も注目も十分だが、インド国内では地元言語ほど聞かれない英語ラップでどこまで一般的な人気を得ることができるか。
彼くらいラップが上手ければ、もっと海外で注目されても良さそうなものだが、ヒップホップという音楽が基本的にローカルを指向するものだからか、インドのラッパーの海外進出(インド系移民以外への人気獲得)というのはなかなかハードルが高いのが現状だ。
Tsumyoki "WORK4ME!"
Tsumyokiはビートメイクも自身で手がける才人。
最新EPの"Housephull"では、ビートにインド的な要素を取り入れたり、多彩なセンスを見せつけている。
EPにはさっき紹介したAcharyaと共演していたムンバイのGravityも参加していて、新しい世代のラッパーは横のつながりも強いみたいだ(まあ全員インドの北から西の方ではあるけど)。
どんどん若手ラッパーがインドの音楽シーン。
今年も半年が過ぎたが、すでに大豊作で、年末にはベスト10を選ぶのに悩むことになるだろう。
まあでも、DIVINEが出てきてスゲーと思った頃の衝撃をちょっと懐かしく思ったりしないでもない。
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goshimasayama18 at 23:11|Permalink│Comments(0)