2017
2018年01月17日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選(後編)
前回の続きです。
Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年のベストビデオ10選、今日は6位から10位を紹介!
このへんになるとなんか思わせぶりなアートっぽい?のが目立ってくる。
6. Sandunes: “Does Bombay Dream of NOLA” ムンバイ エレクトロニカ
叙情的なエレクトロニカに白黒のアニメ。
ニューオリンズの神秘主義(ヴードゥーみたいなやつか?)に基づいた世界観を表しているそう。
このサウンドにニューオリンズと来たか。
いろんなところから玉が飛んでくるな…。
7. Thaikkudam Bridge: “Inside My Head” コチ ロック
Thaikkudam Bridgeはいつかきちんと紹介しようと思っていたケララ出身のヘヴィーロックバンドで、これはいつもはマラヤラム語で歌っている彼らが英語で歌った一曲。
普段はもっとインドっぽい歌い回しが目立つバンドなんだけど、英語だと洋楽的メロディーラインが際立ってくるね。
使用言語によるメロディーラインへの影響ってのはインドの現代音楽の興味深いテーマかもしれない。
インドの言語で洋楽的メロディーっていうのは有りでも(3位のThe Local Train然り)、逆はまずないっていう。
あまりにも唐突な内容の映像だったので、思わず3回くらい見ちゃったのだけど、ジャングルを舞台にしたストーリーで登場人物は以下の4人。
男A:ジャングルの中を徘徊する若い男
男B:ナイフを持った男。男Aを見つけて尾行する
男C:毒蛇に首を咬まれた男
男D:男Cの連れ。なんとかして手当てをしないとって状況
4人とも、どうしてジャングルの中にいるのかとか、どういった関係なのかとかいったことは一切示されない。こういうの不条理っていうの?不親切っていうの?
この4人が極限的状況で、助け合ったり裏切ったり、といった内容のミュージックビデオ。
なかなか日本のバンドではできないセンスではある。
確かにプレデターみたいな密林の映像は緊張感があるし、密室劇的な面白さや、人間存在の本質を深く洞察した哲学的な部分(とか言ってみた)はあるかもだけど、いったい何?何故?という疑問は最後まで拭えず。
うーむ。深いのか、何なのか。
8. Black Letters: “Falter” バンガロール ロック
曲はアンビエント調だけど、自称オルタナティヴロックバンドということで、ジャンルはロックにしてみた。
海、人、魚の叙情的な映像だが、内陸部のバンドらしく海なのに魚は淡水魚(金魚)っていうこだわりの無さっぷりが気にならないこともない。
9. When Chai Met Toast: “Fight” コチ ロック
こちらもケララ出身のロックバンドで、曲によってはバンジョーが入る曲なんかもあって、無国籍な感じのポップをやっている。
映画にしろ何にしろ、インドの男性観ってマッチョだけどナイーヴという先入観があったのだけど、最近の音楽をやってる人たちだとこういうポップな感じもアリになってきたのか。
このビデオ、映像のセンスに関しては、なんとなくバンドブーム頃〜90年代初期の日本のバンドっぽいテイストって気もするなあ。
10. Chaos: “All Against All” ティルヴァナンタプラム スラッシュメタル
またケララ!そしてメタル!
このバンド名にしてこの曲名!
映像は泥の中で大勢の男たちがぶつかり合い、その近くで演奏するバンド!
無意味にビックリマークを多用してしまったが、理屈は抜きにしてメタルだぜこんちくしょう!っていう感じだけは強烈に伝わってくるじゃないですか。
この楽曲に合わせてどんなビデオを撮ろうかっていう打ち合わせの席で、「泥の中、100人くらいのほぼ裸の男達が左右から走ってきて、ぶつかり合い、取っ組み合うってのはどうでしょう?」「いいねー」っていうやり取りがあったんだろうか。
ちょと出オチ感のある内容ではある(途中で夜になったりはするけど)
はい、というわけで、今日は6位から10位までを見てみました。
こうやって続けて見てみると、やっぱりこれも媒体(Rolling Stone India)の特質なのかもだけど、極力インドっぽさを排した無国籍風な映像の作品が目立つという印象がする。
かつアーティスティックで内省的な作品ももてはやされる傾向があるんだな、と思いました。
イギリスからの独立後も、高級とされる場所だと英語こそが公用語っていう風潮のあったインドではあるけれども、こういうポップカルチャーの分野でも、非ドメスティックなものが高尚な趣味、みたいな、脱亜入欧って感じの価値観があるのかもしれない。
人様が作って、人様が選んだビデオを見ながら言いたいこと言ってアタクシはいったい何様なんでしょう?という気がしなくもないですが、ま、そんなことを思った次第でございます。
2018年01月15日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選
Rolling Stone Indiaが2017年のベストアルバムに続いて、2017年のベストミュージックビデオを発表した。(記事はこちら)
選考基準は、映画の映像をそのまま使用した挿入歌・主題歌は除く楽曲ということのようだ。
ミュージシャン名と都市・ジャンルを添えて紹介します。
1. Run Pussy Run: “Roaches” プネー ロック
同じくプネーのLMB Production所属の映像作家Anurag Ramgopalによる作品とのこと。
Rolling Stone Indiaによると「freak funk group」だそうで、他の曲もリズミカルでセンス良さげな歌と演奏のバンドだ。
ゴキブリっていえば、昔コルカタの安宿のドミトリーで、バックパックにものすごく大きなゴキブリがとまってたのを見つけて、サンダルで横から引っぱたいたら、びゅーんって飛んでって、少し離れたところの欧米人のリュックにくっついた。
荷物の持ち主が連れと談笑してたので、言いだすのもなんだな、と思って様子を見てたら、しばらくして気がついて「ギャーオ!コックローチ!」て大騒ぎしてた。
ゴキブリって国籍を問わずこの扱いなんだなあと思ったものです。
記事に、この昆虫が苦手な人は見ないでね、みたいなことが書いてあったけど、インドでもゴキブリ嫌い、虫嫌いって人がいるんだなあ、としみじみ。
2. Blushing Satellite: “Who Am I?” バンガロール ロック
アイデンティティの危機をテーマにしたビデオとのことで、正直、他の国のミュージックビデオで似たようなものを見たことがあるような気がするけど、こういう「イギリスかアメリカのバンドみたいな内省的なロックのサウンドで『自分とは何者か』という問いかけを歌う文化圏」にインドも入っているのだなあ、と再びしみじみ。
3. The Local Train: “Khudi” デリー ロック
ヒンディーロックと言っているけれど、言葉がヒンディー語なだけでサウンドは英米風の爽快なロックだ。
バイクが好きで自分のバイクでいろんなところを旅したいと思っているデリバリーのアルバイトが、仕事の合間に聞いたこのバンドの音楽と、ちょっとした事故をきっかけに、仕事を投げ出して自由に走り始める、というストーリーと思われる。
曲のブレイクと映像を合わせる小技も効いている。
クオリティの高い映像はVijesh Rajanという映画監督による作品で、India Film Project Awardsのミュージックビデオ部門で‘Platinum Film of the Year 2017’ を獲得したとのこと。
4. Parekh & Singh: “Ghost” コルカタ ポップ
コルカタのバンドはこのブログ始めて以来初なのではないだろうか。とはいえ無国籍風の幻想的ポップソング。
Peacefrogっていうロンドンのレーベルと契約しているこのバンドは、すでに日本での注目もそれなりにされているようで(ごめんよおじさんこの手の音楽に詳しくなくて)、こちらのサイトに詳しい。
なるほど、アタクシ映像にも詳しくないのだけど(何にも詳しくない笑)、このビデオはウェス・アンダーソン(ロイヤル・テネンバウムズとかダージリン急行の人か!)監督へのオマージュとのこと。
Rolling Stone Indiaによるとペットの犬を失った少女がいかに悲しみを乗り越えるかというストーリーとのこと。見ていて全然気づかなかった。(最初に持ってるのが犬の首輪だったのね)
自分の理解力の無さにだんだん心配になってきた…。
5. Pakshee: “Raah Piya” デリー フュージョンロック(インド音楽とのフュージョンね)
Rolling Stoneにしては珍しくインド色の強いバンドを扱っている。
ジャズ、フュージョン風な演奏とインド古典なヴォーカルの融合、と思っていたら途中でラップも入ってきてビックリ。
二人のヴォーカルはヒンドゥスターニーとカルナーティックというインドの北と南それぞれの伝統音楽のスタイルで歌っている。
映像に関しては、きれいだけど単にいろんな自然の中で演奏してるだけなんじゃ、という気がしないでもない。
それにしてもインドのバンドは6弦ベースが好きだなあ。
ベストアルバムと同様、映像のほうも極力インド的要素(ボリウッド的に大勢で舞い踊るみたいな)を排した、欧米的アーティスティックな作品が目立つセレクトとなっている。
長くなりそうなのでまずはこのへんで!
2018年01月13日
Rolling Stone Indiaによる2017年ベスト・アルバム!
Rolling Stone India誌が選ぶ2017年のベストアルバム10枚が発表された。
昨年はロック、ポップス、ヒップホップともにインドのインディーズ(略して印ディーズ)始まって以来の豊作だったとのこと。
記事はこちら。
順位は以下のとおり。
各ミュージシャンの出身地とジャンルも添えて紹介します!
1. Prabh Deep: Class-Sikh デリー ヒップホップ
アルバムタイトルを見てわかる通りシク教徒のラッパーで、これがデビューアルバム。
10月のリリース以来、大きな話題になっている作品。
デリーのヒップホップシーンはボリウッド系の華やかな(軽薄な)印象が強いけど、こうしたよりリアルな題材を扱ったシーンもちゃんとある。
知的かつ叙情的なトラックはデリーのトラックメーカーSez on the Beatによるもの。
2曲ほど紹介してみます。
2. Blackstratblues: The Last Analog Generation ムンバイ ロック(インスト)
その名に違わぬ、ポストロックや打ち込みの要素を一切含まない70年代風ギターインスト!
2017年のアルバムからのビデオがないので、こちらで聴いてみてください。
一音一音に心地よさのあるギターがジェフ・ベックを思わせる、最近いないタイプのギタリスト。
3位のTejasがゲスト参加している曲「Love Song To The Truth」もAOR風で、まったく「今」を感じさせないこのアルバムが2位っていうのも凄い!
3. Tejas: Make It Happen ムンバイ ロック(シンガーソングライター)
70年代的な要素に現代的・都会的なニュアンスもあるロック。
レニー・クラヴィッツとかMaroon5とかSuchmosあたりを思わせるところがある。
4. Skrat: Bison チェンナイ ロック
こちらもニューアルバムからのビデオがなかったのでこちらから音をどうぞ。
オルタナっぽかったり、例えばニュージーランドのDatsunsみたいな70年代ハードロックリバイバル的な雰囲気のある曲も。
5. Menwhopause: Neon Delhi ニューデリー ロック
これも最新アルバムからビデオになっている曲があんまり良くなかったので、こちらから音だけ聴いてみてください。
例えばFranz FerdinandやRadioheadっぽいUK色が強い曲、流麗なピアノソロがある曲、ちょっとプログレっぽい曲など。
6. Gutslit: Amputheatre ムンバイ デスメタル
来た!ブルータル・デスメタルバンド!演奏も上手い!ドラムとかやばいよ。
シーク教徒のベーシスト(6弦ベース!)はメタルらしくターバンも黒で決めてる!
こんな常識や世間体なんかクソ喰らえみたいな音楽やってるのに、戒律を守ってターバンはちゃんと巻くんだなあとしみじみ。
インドのデスメタルは結構盛んらしく、他にも面白いバンドがいるのでいずれ紹介します。
7. Kraken: LUSH デリー ロック
なんと日本のアニメや文化から影響を受けているバンドとのこと。
デリーには他にも日本文化に影響を受けたTarana Marwahというエレクトロニカのミュージシャンもいる。
なにかと欧米志向の印象が強いインドでも日本のサブカルチャーは一定の存在感を放っているみたいだ。
ビデオも日本のジブリの森?
8. Joshish: Ird Gird ムンバイ ロック
ポスト・プログレ(post-prog)バンドとして紹介されていて、そういうジャンル名は聞いたことがないけど、ポスト・ロックと呼ぶにはプログレ色が強くて、そう呼ぶのがいちばんしっくりくるバンド。
リズムチェンジや変わったコード感のバッキングが印象的。
9. Disco Puppet: Princess This バンガロール エレクトロニカ
インドのエレクトロニカは他のジャンルと比べてもかなりレベルが高いと思っているのだけど、これまた素晴らしく不思議な雰囲気のバンド。
アンビエントっぽかったり、ドラムンベースっぽいところがあったり。
中心人物のShoumik Biswasは同じくバンガロールのポストロックバンドSpace Behind The Yellow RoomのドラマーとカルカッタのポップロックバンドMonkey In Meのドラマーも勤めているとのこと。
カルカッタってずいぶん遠いけど大丈夫なのか。
10. Aswekeepsearching: Zia アーメダーバード ポストロック
個人的にこのバンドは凄く良いと思うなあ。10位じゃなくてもっと上でいいのに!
心地よい静かなパートから激しい部分まで、詩的かつ映像的なサウンドが素晴らしい。インドはポストロックが結構盛んなようだけど、酒も飲めないグジャラート州にこんなバンドがいるなんて!
Rolling Stoneという媒体の性質なんだろうけど、無国籍というかインド色の薄いものが多い中、社会派の1位と日本風味の7位が際立っているというのがアタクシの印象。
それにしてもヒップホップから70年代ロック、デスメタル、ポストロックまでというバラエティーの広さは凄い。
世界的な視点で見たときに、各バンドのサウンドに圧倒的なオリジナリティーや革新性があるかと言われるとそういうわけでもないけど、日本でもよくあるように、「まるで本場」みたいなサウンドが評価されてのランクインと思われる。
あんまりインド色の強いサウンドは敬遠してみました、みたいなね。
あとなんか頭が良さそうなバンドが多いよね。
バカです!ロックです!みたいなのは少なくともこの中にはいない。
Rolling Stone Indiaの好みなのか、インドでロックはけっこう上流説を裏付けるものなのか。
面白いバンドにもたくさん出会えたので、そのうち細かく紹介したいと思います!