来日
2019年11月16日
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その3)
1.「謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい」
2.「謎のインド人占い師 Yogi Singhの正体」
3.「あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?」
4.「ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)」
5.「ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)」
目の前に、ずっと探し求めていた相手がいる。
2時間ほど前に「イチさん」から送られて来た画像に写っていた、口まわりから耳元まで短いヒゲを生やしたダークカラーのスーツの南アジア系の男。
写真だとダークグレーに見えたスーツは、近くで見ると暗い色のチェック柄だ。
数日前から丸の内近辺に出没している「ヨギ・シン」(少なくとも3人いることが分かっている)は「あなたの顔からエネルギーが出ている」と声をかけてくるという報告を受けていた。
だが、彼が私に向かって発した第一声は、意外なことに「顔からエネルギー」ではなく、"How are you?"だった。
ここが肝心だ。
戸惑いを見せず、自分のペースを崩さず、話の主導権を握る必要がある。
インドの物売りや客引きが、観光客相手にそうするように。
彼が反射的に出した右手を握り返す。
図々しくもフレンドリーなインドの商売人と渡り合うなら、こちらも同じくらい図々しくネゴシエーションをする必要がある。
そうすれば、向こうも負けじと馴れ馴れしく接してくるはずだ。
「ああ、そうだ。私を知っているんだね。君の顔からエネルギーが出ているのを感じるよ」
そんな答えが来ることばかりを予想していた私は、次に彼が発した至極平凡な反応に、一瞬虚をつかれた。
「以前、会ったことがあったかな?」
まったく想定外の言葉だったが、ここは調子を合わせるしかない。
「ええ、私はあなたと会ったことがある」
意外にも、彼の顔に浮かんだのは、親密さではなく、わずかな困惑の表情だった。
「あなたはどこから来たんだ?いったい誰を探しているんだ?」
「ミスター・シン、私は日本人だ。あなたを探していたんだ」
「私といつ会った?」
彼は努めて平静を装っていたが、その口調からは焦りと困惑が高まっていることが感じられた。
「数日前に会ったじゃないか」
インドで初対面なのに「ハロー、フレンド」と話しかけてくる路上の人々のように。
彼の表情に警戒心が浮かぶ。
私には敵意も悪意も、金をだまし取ろうという気もない。
これ以上適当な嘘の続きも思いつかず、少しだけ正直に、こちらの意図を伝えることにした。
「実は、数日前に私の友達があなたに会ったんだ。あなたの話を聞いて、私もあなたに会いたいと思っていた。あなたは占い師のミスター・シンでしょう」
こう伝えれば、彼は警戒心を解いて、本来の占い師として私に接してくれるはずだった。
ところが、彼の反応はまたしても予想外のものだった。
「いや、私は違う。あなたは誰を探しているんだ?」
まさかの否定。
笑顔を崩さずに、さらに図々しくたたみかける。
「あなたは占い師のミスター・シンのはずだ。私の友人があなたに会っている。あなたは素晴らしい占い師だと聞いている」
「違う。私ではない」
彼が示しているのは、明確な「拒絶」。
この時点で、私はなお、自分に敵意がないこと、そして、彼の正体を知っていることを伝えれば、彼が心を開いて、話をしてくれるものと信じていた。
「聞いてくれ、私はあなたに敵意はない。あなたを占い師としてリスペクトしている。占い師のミスター・シン。話を聞かせてくれ」
「違う」
なんとしても引き止めなければ。
「聞いてほしい。私は警察ではないし、決してあなたが詐欺師だなんて思ってはいない。私はただ、あなたがたの文化について知りたいだけなんだ。私の友人からあなたのことは聞いている。あなたは占い師でしょう。これは、あなたでしょう」
私は、最後の手段として、イチさんからスマホに送られて来た、通行人に声をかける彼の画像を見せた。
彼の表情に驚きの色が浮かぶ。
しばらく私のスマホを凝視したのち、彼は目線を逸らして、ふたたびこう答えた。
あまりにも明確な拒絶に、私は立ち去る彼を呆然と眺めることしかできなかった。
それとも、彼はそもそもヨギ・シンではなかったのか。
立ち去る彼は、少なくとも角を曲がるまでは、携帯電話で誰かに連絡するようなそぶりは見せなかった。
捜索する通りを広げても、ターバンの男も、50歳くらいのインド人も全く見当たらない。
それならば、ダメモトでさっき会った男でもいい。
彼らが、自分たちのことを嗅ぎ回る人間に対して、慎重すぎるくらい慎重になるのは、考えれば分かることだった。
他の南アジア系の労働者のように、インド料理店で働いたり肉体労働をするよりも効率的なものなのだろうか(さすがにITやエンジニアのスキルがあれば、この辻占はやらないだろうが)。
今でも、自分が長年探し求めていた「彼」と東京で会えたということが信じられない。
だが、手元にあるイチさんから送られてきたターバン姿の「ヨギ・シン2」の画像と、「みょ」さんから送られてきた「彼」からもらったという黒い石の画像が、「彼」が実際に東京にいたという何よりの証拠だ。
(イチさんからは、私が遭遇した「ヨギ・シン3」の画像も送られてきているが、それはじかに接したときの彼の態度を考えて、公表は控える。ごくありふれたインド人の姿が写っている。)
最後に教訓。
もしあなたの住んでいる近くの街で、ヨギ・シンの出没情報があり、彼に会いに行こうと思ったら、
- それらしき人物を見つけても、決して自分から話しかけてはいけない
- 声をかけられるのを待つしかない
- 顔からエネルギーを出そうとする必要は、たぶんない(むしろ、信じやすそうな雰囲気を出した方が声をかけられやすいかもしれない)
- 「彼」のことを聞きたかったら、まずは何も知らないふりをして占いを受け、そのあとに少しずつ聞くのが良いだろう
- 詮索するような態度は見せない方が良い
- 彼はお金のためにやっているのだから、謝礼をはずむと言えば、何か教えてくれるかもしれない
自分の愚かさを痛感している。
これからも、「彼」については調べてゆきたいが、今回のヨギ・シン捜索記はひとまずこれまでとなるのではないかと思う。
続編が書けることを期待している。
追記:ヨギ・シンのトリックの秘密にせまった続編はこちらです。
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2019年11月14日
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)
1.「謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい」
2.「謎のインド人占い師 Yogi Singhの正体」
3.「あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?」
4.「ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)」
11月11日(月)、ブログに新たなヨギ・シンとの遭遇情報が寄せられた。
「タカノY」さんからの情報は、7日(木)にイチさんが二重橋付近で目撃したターバン姿の「ヨギ・シン2」と思われる男との遭遇報告だった。
昨日、14:30頃丸の内中通り明治生命本社裏で出会いました。上下黒のスーツにターバンといういでたちでヨギと名乗っていました。英会話は苦手ですが言ってることの内容はブログに書かれていることと同じ内容でした。私の場合は好きな色を当て、お金の話をされたので直感的にノーマネーを繰り返し足早に立ち去り被害には会いませんでした。満を持してと言うべきか、今回の一連の報告のなかで、初めて「彼」がその名前を明かしている。
これまで、同様のトリックを使うインド人占い師が海外でその名を名乗っていたことから、便宜上「ヨギ・シン」と呼んできたが、これで「彼」が正真正銘のヨギ・シンであることが判明した。
「彼」はヨギとしか名乗っていないが、シク教徒の男性は、必ず「シン」(Singh)という名前も持つことになっているからだ。
(例:タイガー・ジェット・シン、ランヴィール・シンなど。Singhは日本では通例シンと書かれるが、原音に近く書くならスィンもしくはスィンフ、スィング)
お金を払わずに立ち去ることができたという事例も初の報告だ。
聞けば、タカノYさんはかつて海外旅行中に現金を取られたことがあったそうで、今回も反射的に警戒心が働いたようだ。
ここで、これまでに報告のあった11月6日以降の7件の事例をA〜Fのアルファベットで地図にプロットしてみた。
A地点は、11月6日(水)に最初の遭遇報告があった場所で、「イチさん」がスーツ姿でターバン無しの「ヨギ・シン1」に声をかけられた東京国際フォーラム前だ。
B地点は、翌日7日(木)に「イチさん」が、スーツにターバン姿の「ヨギ・シン2」を目撃した二重橋付近。
C地点は、A地点と同じ国際フォーラム前で、「Nさん」が8日(金)に声をかけられている。
D地点は日生劇場前。
Nさんと同じ8日(金)に、TKさんが声をかけられた場所だ。
こちらもタイプ1か2かは不明だが、「あなたの顔からエネルギーが出ている」という声のかけ方はイチさんの報告と同様であり、タイプ1の可能性が高い。
今回の報告事例でもっとも南側での遭遇となる。
E地点は、10日(日)に「みょ」さんが遭遇した場所で、報告事例の中でもっとも北に位置している。
後のやりとりで、F地点のタカノYさんの報告と同様、ターバンを巻いたタイプ2であることが判明。
この事例では、「みょ」さんの機転で生まれた年を1年サバを読んで伝えると、「彼」は実際の誕生年ではなく、「みょ」さんが言った年を的中させたという。
これで、彼に真実を言い当てる超能力があるのではなく、発言した言葉を的中させているだけだということが分かった(それでも十分に不思議ではあるが)。
興味深いことに、「みょ」さんは占いのあとに「黒い石」をもらったという。
実は、「黒い石」については以前Twitter経由で複数の方から報告をいただいたことがある。
その時の報告によると、20年ほど前に、バンコクの安宿街カオサンの裏通りで、近親者の名前や数字を「彼」に次々と当てられたそうで、しかも、「彼」による予言(NYに行くことになる、恋人ができる、等)がその後実際に的中したそうだ。
その後、その石は紛失してしまったそうだが、もしかしたら「みょ」さんがもらったものと同じようなものだったのかもしれない。
(2019年5月19日のTweet参照)
F地点は、先ほど紹介した10日(日)にタカノYさんが「彼」と出会った場所。
この地図を見て分かる通り、これまでの遭遇情報は、すべて線路の西側である。
9日(土)の捜索では、八重洲、日本橋、銀座といった線路東側のエリアも回ってみたのだが、どうやら「彼」は線路の東側には一度も足を踏み入れていないようだ。
彼の出没範囲は、かなり狭いエリアに限られているということが分かった。
この範囲内を重点的に捜索すれば、おそらく確実に「彼」と出会えるはずだ。
ひとつめは、これまでおそらく(当事者以外)誰も知ることができなかった謎を、自分の手で解明してしまうかもしれないという緊張感。
そうした人々が秘密としてきたことを、(読者数の少ないブログとはいえ)自分なんかが興味本位で暴き、白日のもとに晒してしまってよいのだろうか。
一方で、私なりの考えもあった。
英語による海外でのヨギ・シン遭遇報告を読むと、ほとんどの報告で、「詐欺(scam)」という言葉が使われている。
「メルボルンでこういう手口の詐欺が頻発、気をつけて!」というように。
詐欺と呼ぶ側の気持ちも分かる。
最初に有料であることを提示せず、頼んでもいないサービスを提供したあとで料金を請求する(しかも、支払った金額では足りないと主張し、それ以上の料金を求める)という行為は、インドではよくある話でも、欧米や日本の感覚では詐欺と呼ばれても仕方がない。
けれども私は、ヨギ・シンの洗練された話術やテクニックに、単純に詐欺として片付けてしまうには惜しい何かを感じていた。
誰にも価値を認められぬまま消え去ろうとしている「伝統」とでも言うべきものが、そこにはある。
世界中のネット掲示板で、すでにヨギ・シンについては少なくない情報が書かれている。
(報告の件数の多さのわりに、書かれているのはその名前と不思議な手口くらいだが)
遅かれ早かれ、「彼」の存在はもっと広く知られ、その謎が暴かれる日が来るだろう。
それならば、「彼」をただの詐欺師として見ているのではなく、その洗練された技法にある種の敬意を持っている自分こそが、この仕事をやるべきなのではないだろうか。
そんなことを思いながら、私は再び丸の内に向かった。
その日は仕事の休みを取っており、ほぼ終日をヨギ・シン捜索に時間を費やすことができた。
メッセージには、通行人に声をかける30代〜40代くらいに見えるインド人風の男の写真が添付されていた。
その男は濃い色のスーツに身を包み、もみあげから口のまわりまで短い髭を生やしている。
「彼」に会ったら聞きたいことは、すでに心に決めていた。
「彼」のコミュニティーについて。
できれば、連絡先を交換したりもしたい。
例えば日本の「ナマステ・インディア」みたいなイベントに彼らが出演したら、「彼」は詐欺師扱いではなく、正当な敬意と称賛を得られるのではないだろうか。
そんなアイデアを「彼」に伝えられたら、そして、実際に日本でのイベントで、ヨギ・シンの占いの実演ができたら、どんなに素晴らしいだろう。
東京駅で電車を降り、丸の内南口から東京国際フォーラムを目指す。
線路沿いの道を南に歩くと、やがてガラス張りの国際フォーラムの威容が目に入る。
イチさんから送られて来た画像には、国際フォーラム周辺と思われる歩道で、通行人に声をかけている「彼」の姿が映っていた。
多くの人が行き交うフォーラム北側の通りに、「彼」の姿はない。
左に曲がり、フォーラム西側の道に入ると、人通りはぐっと少なくなる。
注意しつつ南下するが、ここにも「彼」はいない。
フォーラムの南側まで来たが、「彼」は見当たらなかった。
イチさんの報告から到着まで2時間あまり。
南側の通りから、東西二つの建物に別れた国際フォーラムの中庭に入る。
ここにはたくさんのベンチが並んでいて、人通りも多く、以前から「彼」がいてもおかしくないと思っていた場所だ。
この時も、中庭のベンチは半分ほどが埋まっており、フォーラム内のさまざまなホールやショップに向かう人々が行き交っていた。
慎重に、中庭全体に、視線を巡らせてゆく。
ふと、前方20メートルほどのところに、私と同じように、何かを探すかのように周囲を見渡しながら歩いている人物がいることに気がついた。
間違いない。
その男は、近くを歩いていた初老の男性に突然声をかけた。
呼びかけられた男性は、少し驚いた表情を見せた後、困惑したような笑みを見せながら、何かを断るしぐさをした。
もし急に見知らぬ外国人に「あなたの顔からエネルギーが出ている」とか「好きな色や数字を教えて欲しい」と声をかけられたら、きっとこんな反応をするはずだ。
あるいは、英語が得意でなく、分からないと答えたのかもしれない。
私はゆっくりと「彼」に近づいていった。
「彼」は拒否の姿勢を示した初老の男性を引き止めるのをあきらめ、再びこちらに向きを変えた。
そのとき、「彼」と私の目があった。
私はここぞとばかりに顔からエネルギーを出そうとした。
その気持ちが通じたかのように、「彼」がこちらに向かって歩いてくる。
5メートル、4メートル、3メートル…。
私は「彼」に敵意はないことを示すべく微笑みかけた。
「彼」はもう手を伸ばせば触れられそうな距離にいる。
その時、「彼」が口にしたのは、あのフレーズではなく意外な言葉だった。
"How are you?"
(つづく、またはintermission)
つづきはこちら
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2019年11月12日
ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)
その2「(100回記念企画)謎のインド人占い師 Yogi Singhの正体」
その3「あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?」
あの謎のインド人占い師集団、「ヨギ・シン」が東京に来ている。
水、木、金と3日続けてヨギ・シン遭遇の報告を受けた私は、11月のある土曜日、「彼」との遭遇情報があった丸の内〜有楽町エリアに捜索に行くことにした。
休日だったが、「彼」に上客だと思われるために、カジュアルな服装は避け、丸の内のビジネスマンっぽく見えるようジャケットを着て出かけた。
小脇には洋書のペーパーバックを抱え、英語ができる人間だと思わせる演出もしてみた。
ここまで準備をして言うのもなんだが、もし「彼」を見つけたら、声をかけてもらうまで待っているつもりはない。
自分から近寄って行って話しかけるつもりだ。
「彼」にどう話しかけるか、何を聞くかについてはすでに考えていた。
まず、最初に「あなたは高名な占い師のヨギ・シンではないか。ぜひあなたの話が聞きたい」と声をかける。
百戦錬磨のインド人占い師相手にどこまでできるか分からないが、先制攻撃をしかけて、できれば話の主導権を握りたい。
彼が占いをしてくれるのであれば、その技術をじっくり拝見させてもらおう。
手の中に渡された紙をすぐに開いて見るようなことはしない。
日本でも多くのマジシャンが行っている、心の中を的中させるマジックのタネが知りたいわけではないのだ。
彼が占いをしてくれたとしても、話が全て終わるまで、お金は払わない。
一度お金を払ってしまえば、「続きを聞きたいならもっと払え」という無限ループに陥ってしまうだろう。
そうなってしまっては、なんとしても話を聞きたい自分に勝ち目はない。
逆に、相手を焦らし、「もう少し話せばお金がもらえるかもしれない」という状況を作り出すのがこちらの作戦だ。
そのためには、焦らずに、羽振りの良い鷹揚な感じを演出しなければならない。
まず知りたいのは、「彼」のコミュニティについてだ。
「カースト」や「ジャーティ」(カーストに基づく職業集団)という言葉はデリケートだから使わない方が良いだろう。
彼のコミュニティはもともとこういう占いを生業にしているのか。
そのコミュニティには何人くらいいるのか。
同じコミュニティの占い師は海外には何人くらいいるのか。そして、どこにいるのか。
インド国内にはこの手の占い師は何人くらいいるのか。
家族についても聞いてみたい。
父も、その父も同じように占いを仕事をしていたのか。
子どもや兄弟は何人いて、そのうち何人が占いをしているのか。
家族は海外にも暮らしているのか。
女も占いをするのか。
そして、彼個人についても聞きたいことがたくさんある。
占いは誰に習ったのか。
この占いを誰かに教えたのか。
これまでどんな国に行ったことがあるのか。
日本にはなぜ来たのか。
日本に知り合いは住んでいるのか。
どこに滞在しているのか。
順調に話を聞くことができたとして、「彼」にいったいいくら支払ったら良いだろうか。
何しろ相手は百戦錬磨。
うっかり口車に乗らないように、財布の中身はあらかじめ少なめにしておこう。
観光客相手のインドの商売人の常で、いくら支払っても、必ず「それでは少ない」と言ってくるのは分かっている。
と、そんなことを考えながら、東京駅についたのはちょうどお昼時だった。
丸の内中央改札を出て、行幸通りを二重橋のほうに向かう。
イチさんからの報告では、ターバン姿の「ヨギ・シン2」にはお昼の時間帯に二重橋に行けば会えるとあった。
企業が休みである土曜日に「彼」が「出勤」しているのかどうか分からないが、私にできるのは彼に会えることを祈ることだけだ。
だが、二重橋に近づいてみると、いつもの土曜日とはまるで様子が違うことに気がついた。
翌日に天皇陛下即位パレードを控え、道路上には数十メートルおきに警備の警察官が立っていた。
皇居に近づけば近づくほど警察官の数は増え、地下鉄二重橋駅の近くはほとんど数メートル間隔で警察官の姿がある。
さらに、この日は即位記念の祭典が行われており、各地から集まったかなりの数の祭半纏姿の男女が、皇居方面を目指して歩いていた。
端的に言うと、丸の内のビジネスマン相手に英語で占いを行ってきた「彼」の顧客にはあまりなりそうもない人たちばかりだ。
二重橋駅近辺を何度か往復してみたが、「彼」と思われる姿はなかった。
皇居のお堀に面した日比谷通りから1本離れ、歩行者天国になっている中通りも歩いてみたが、やはり「彼」の姿はない。
そしてここにも多くの警察官が配置されている。
ずっと同じ場所で警備をしている警察官に、このあたりで不思議な占いをしているインド人を見かけなかったか聞こうとしたが、やっぱりやめた。
国民的な大イベントを前に怪しいやつだと思われたらたまったものではないし、何より「彼」の情報を警察に伝えることで、「彼」の今後の商売を邪魔するようなことはしたくない。
買い物客や祝典に向かう人々でごった返す丸の内エリアの全ての通りを回っても、「彼」の気配を見つけることはできず、今度は喧騒を避けて、丸の内の北側から大手町のエリアに向かうことにした。
丸善が入っているOAZOを越えると、人通りは一気に少なくなる。
皇居から離れるせいか警察官の姿も減り、お祭りに来た人々もいない。
「彼」が人気の少ない大手町エリアに場所を移し、休日出勤してきた数少ないビジネスマンを今日のターゲットすると考えても不思議ではない。
ここでも各ブロックを歩き回ってみたが、やはり「彼」の気配はなかった。
土曜日の大手町は、秋の日差しに輝くガラス張りのビルが墓標のように並び、首都高速の日陰になったベンチでホームレスが昼寝をしているだけだった。
残る希望はイチさんとNさんが「ヨギ・シン1」と遭遇した有楽町エリアだが、その前にひとつ確かめておきたいことがあった。
もし、二重橋付近で占いをしていた「ヨギ・シン2」が警備と喧騒を逃れて別の場所に行くとしたら、それは東京駅の反対側、皇居から離れた八重洲側ではないだろうか。
念のため、八重洲も捜索してみたい。
そう考えた私は、丸ノ内駅北口の東西自由通路を通って、八重洲側に出た。
ぴかぴかのオフィスビルや高級ショップが並ぶ丸の内側と比べて、居酒屋やカラオケが立ち並ぶ雑然とした雰囲気の八重洲は、いかにも怪しげな辻占がいそうなエリアだ。
碁盤の目状になっている区画をくまなく回る。
だが、やはりここにもインド人の姿はない。
八重洲まで来たついでに、日本橋まで足を伸ばしてみることにした。
高島屋や三越といった高級百貨店があるこのエリアは、土曜ともなればヨギ・シンにとって良い客筋の人々が多く集まってくる。
高級百貨店の周辺を中心に、歩いている人々に目をこらす。
だが、ここも空振り。
こうなったら、残されているのは2件の「ヨギ・シン」遭遇情報が寄せられた有楽町側に向かうしかない。
重点的に捜索すべきエリアは、2回の遭遇報告がある国際フォーラム周辺だ。
私は東京駅と有楽町の間の高架をくぐり、情報が寄せられた地点へと向かった。
国際フォーラムの中庭は、話をするのに最適のベンチも多く、とくに念入りに調べた。
ビックカメラには外国人観光客も多い。
彼らも「彼」の顧客になり得るだろう。
だが、ここにもインド人占い師の影も形もない。
有楽町駅の改札を出たところでは、ネルシャツにサングラス姿の中年の男が地べたに座り、フォークギターをかき鳴らしながら浜田省吾を熱唱していた。
しだいにむなしさが募ってくる。
だが、これで帰るわけにはいかなかった。
最後にもう1箇所、どうしても見ておきたいところがある。
それは、銀座だ。
土日には歩行者天国が設けられ、デパートや高級ショップが連なる銀座であれば、通行者に声をかけやすく、客筋も良い。
外国人観光客も多いから、日本語が苦手な日本人だけをターゲットにすることもない。
もし、私が「彼」で土曜日も「仕事」をするとしたら、この近辺なら間違いなく銀座を選ぶ。
私は三たび線路をくぐり、銀座へと向かった。
並木通り、レンガ通り、ガス燈通り、そして広々とした歩行者天国になっている中央通り。
さすがに日が落ちてきたので、本日の捜索はここで終了。
帰宅前に、有楽町駅から国際フォーラムのエリアを改めて一周したが、やはり彼の姿はなかった。
すっかり暗くなった国際フォーラムの中庭では、大ホールへの入場を待つ大勢の人たちが列を作って並んでいる。
自分より年上の男女が多いが、何かコンサートがあるのだろう。
するとその行列から少し離れたところから、並んでいる人たちに向かって、昼間見かけたネルシャツにサングラス姿の男がギターをかき鳴らし、ハマショーの歌を歌っているのが目に入った。
そうか、今夜は国際フォーラムで浜田省吾のコンサートがあるのだ。
男は「悲しみは雪のように」を熱唱しているが、列に並んだ人々は見向きもしない。
そりゃそうだ。
これから本物を見るというのに、どこの誰とも分からない男が歌うハマショーを聴いてどうする。
だが、私はとてもこの男を笑う気にはなれなかった。
ハマショーファンは、彼に気づいても、誰も彼の歌を聴いてはいなかった。
こうして土曜日の捜索が終わった。
スマホに入っている歩数計のアプリは、2万6千歩を超える数値を示していた。
さすがにくたびれた。
私も昨日遭遇しました。-----夕方、日比谷駅から銀座に向かうところ、日生劇場の前でスーツの外国の方(おそらくインド?)と目が合う。道迷ったかな?と思ったら、「キミの顔から良いエネルギーがでてる」「来年の一月、キミは仕事で昇進するよ」と言われ、(そこで怪しいと思えばよかったのですが)突然彼はメモを書き、クシャクシャにして僕に手渡しました。「好きな色は?」「うーん、黒かな?赤かな?」「ひとつに決めて」「じゃ、赤」「好きな数字は?」「うーん、9かなぁ、、」彼はまたメモにサラサラと書き、「いまキミが望むことは?」「家族の幸せ」「キミの手元のクシャクシャのメモと、いま私が書いたメモが一緒だったら、その夢は叶うよ」と言われ開いてみると、、なんと「Red」「9」と書いてある!!と思ったら、最後に「金くれ」「いやいや、小銭じゃなくてペパーマネーだよ」「1000円じゃなくて、3000円」と言われ、1000円だけ渡して去りました。。
日生劇場前というのは、これまでの目撃地点ではもっとも南側だが、やはりこれまで報告のある丸の内、有楽町からの徒歩圏内。
帝国ホテルにも近く、やはり「上客」が見込める場所だ。
やはり、「彼」は確実にこのエリアを徘徊しているのだ。
時間さえあれば、いつか必ず会える。
一夜明けて、日曜日。
さすがに昨日の疲れが残っているので、今日は家でゆっくり休むことにする。
この土日は警察官も多いし、「彼」の顧客になりそうなビジネスマンは少ない。
きっと「彼」も休日にしているのだろう。
「会えなかった」というネタで1本書くのもしんどいな、と思っていると、ブログに新しいコメントが寄せられた。
「みょ」さんという方からのコメントは、またしても心拍数が高まるようなものだった。
はじめまして。一時間ほど前にその方に突然占われ?ました。大手町のみずほビルのあたりです。最後に黒い石を渡されたのが印象的でした。
今日は休日。
私は慌てて身支度を整えると、再び大手町に向かった。
東京駅に到着した頃には、即位パレードは終了していたが、それでも多くの警察官が警備にあたっていた。
丸の内北口改札から、大手町へ。
ついさっきまで、ここに「彼」がいたのだと思うと、高揚感と緊張感で自然と背筋が伸びる。
たぶん顔からエネルギーも出ているはずだ。
まずは周囲に目をこらしながら、敷地周辺の歩道を一周する。
「彼」の姿はない。
ビルの警備員が外に立っていたので、怪しまれないように、待ち合わせを装って「このあたりで50歳くらいのインド人の姿を見かけなかったか」と聞いてみたが、記憶にないとのこと。
周囲の歩道をもう一周。
さらに、隣接する大手町ファーストスクエアとの間にある中庭のようなスペースも歩いて見たが、やはり「彼」はいない。
「みょ」さんの遭遇から報告まで1時間。
さらに、私の到着までにもう1時間くらい経過している。
さすがに「彼」もずっとここにとどまってはいないのだろう。
捜索する区画を1ブロックずつ広げてみるが、やはり彼の姿はない。
最後にもう一度、目撃情報頻発地帯である国際フォーラム周辺を捜索したが、手がかりなし。
TKさんからの報告のあった日生劇場前も確認してみたかったが、あいにくとっぷりと日が落ち、とても外で手品ができる明るさではなくなってきたので、本日も捜索終了。
またしても会えなかった。
国際フォーラムの近くに、なぜか今日も浜田省吾の弾き語りをしていた男がいて、仲間と談笑していた。
今日はハマショーのコンサートは無いだろうに、まだいたのか、と思ったが、自分のやっていることを考えると、やはり彼をバカにする気持ちにはなれなかった。
好きなアーティストの歌を気持ちよく歌っている彼と、得体の知れないインド人を探して土日を無駄にし、歩き疲れて疲労困憊の自分、どっちがバカかは考えるまでもなく明らかだからだ。
有楽町駅から電車に乗り、Spotifyで浜田省吾を聴きながら家路についた。
疲れ切った心と体に、ハマショーの歌声が沁みた。
(つづく)
つづきはこちら
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2019年11月10日
あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?
だが、ヨギ・シンは、私にとってはU2より、レディー・ガガよりも来日が待たれていた「伝説のインド人」なのだ。
ヨギ・シンは100年近く前から世界中でその存在が報告されているインド人の占い師だ。
シク教徒と思われる「彼」は、東南アジア、オセアニア、北米、ヨーロッパ、そしてもちろんインドなど、さまざまな地域で、手品のような不思議なテクニックを使い、人の心の中を的中させて、その対価としてお金を払わせてゆく。
その時代背景や出現地域の多彩さから考えると、どうやらこの奇妙な占いを生業にしているシク教徒の国際的なグループがいるようなのである。
「彼」については以前ブログにその正体の推測を含めてかなり詳しく書いたので、興味を持った方はぜひこちらを読んでいただきたい。
詐欺師まがいと言ってしまえばそれまでだが、神出鬼没で巧みなトリックと話術を使う「彼」の存在は好奇心を駆り立ててやまない。
ヨギ・シンの出現地域はおもに英語が通じる地域に限られており、私の知る限り、ここ日本ではこれまでに「彼」との遭遇が報告されたことはなかった。
「彼」とじかに会って、その不思議な技術をまぢかで見ること、そして「彼」らについて詳しく話を聞くことは、私の悲願の一つだった。
ヨギ・シンの記事を書いてから1年が経とうとしていた2019年11月6日。
事態は大きく動き始める。
ヨギ・シンの記事は、2018年の11月に、ブログの100本目の記念として書いたものだったが、この古い記事に「イチさん」という方から、こんなコメントがついたのだ。
短いながらも、衝撃的な言葉が並んでいる。いま東京丸の内で会いました。丸めた黄色い紙を使っていました。8000円支払いました。あの人は何者だろうとググってここに辿り着きました。
なんということだろう。
あの「彼」が東京にいるというのだ!
私はにわかには信じられなかった。
「彼」に会う願ってもいないチャンスだが、ブログのコメントには、イチさんの連絡先情報は何も書かれておらず、こちらからコンタクトを取ることはできない。
私はイチさんが読んでくれることを祈りつつ、コメント欄にもっと詳しい情報を知りたいという旨の返信を書いた。
すると翌日、イチさんが、詳細な遭遇の様子を報告してくれた。
おそらく、これが日本初のヨギ・シン遭遇記である。
昨日(11月6日)13時30分ごろ、私は友人と東京駅の近くでランチを済ませた後、リモコンの電池を買うために有楽町ビックカメラに行き、それから職場(丸の内)に戻ろうと国際フォーラムの横を歩いていると、50歳くらいのスーツを着たインド人にexcuse meと呼び止められました。私は道でも訊かれるのだろうと思ったところ、「あなたの眉間からエナジーが溢れている、正直な人だ、でもネガティブに考えると事態は悪い方に行く、ポジティブに考えるように」とアドバイスを受けました。私は転職したてなので貴重なアドバイスだと思って、感謝を伝えると、彼はパンジャブ出身であり、ヨガを勉強していると話してくれました。何を今成し遂げたいか、と訊かれたので転職したてなので新しい仕事でうまく行くと好いと思っている旨話すと、彼は黄色い小さい紙を黒革の財布から取り出し、何か書いて丸め、私に握らせました。そして彼はブルー以外で私の好きな色を尋ね、また10から20までの数字で好きな数字を選ぶように云いました。私はイエローかグリーン、祖母の命日の13、と答えると、彼は色は一つを選べ、と云いました。私はグリーンと答えました。
「彼」に間違いない。
シク教徒はパンジャーブ州に多く、「ヨギ」とはヨガ行者を意味する言葉だ。
「あなたはラッキーな顔をしている」ではなく、「あなたの眉間からエナジーが溢れている」云々という言葉や、ブルー以外で好きな色を選ばせるということ、10〜20という条件のなかで好きな数字を選ばせるというのは新しいパターンだ。
私は高鳴る鼓動を感じながら、イチさんからの報告を読み進めた。
彼は私の手から丸めた紙を取ると、それを開き、そこにはgreen 13と書かれていました。何が起こるのか予測していなかったので、私はそこにすり替えの余地があったのか確認はしていませんでしたし、彼の動作を正確には記憶していません。私が驚くと彼は黒革の財布をひろげ、そこには古い写真や多数の黄色い紙など入っていましたが、そこにお金を入れるように私に言いました。彼はバンクーバーに行かねばならないのでその為だと云っていました。私はズボンの後ろポケットに手を入れ、ランチで一万円札で払ったお釣りの紙幣のうち、いちばん外側にあった5千円札を彼の財布に入れました。触ったのが千円札ならよかったのに、と少し後悔しました。彼は次に私のパートナーの頭文字を云うよう命じました。私はWと答えました。妻は中国系アメリカ人であり本名では頭文字はSだったので、私は本名か通名かで違うと云うと、彼は「そうだろう、本名を云いなさい、だから混乱したんだ」と云いました。実は私の妻は今年7月に他界しており、私はその旨彼に伝えると、そうか、彼女は現世に未練があり、まだここにいる、と云いました。彼は、私にはMの頭文字の女性二人が現れ、一人は悪い方に、もう一人は良い方に私に作用する、と云いました。一人は何となく心当たりがあるといえばありますが、良い方か悪い方かは見当つきません。彼はこれらの会話中もずっと小さな紙にメモを取ったりしており、そのうち一枚の紙を丸めて私に握らせました。私は14時15分から会議があったので、そろそろ行かねばならないと彼に伝えると、彼は予め書いてあった10項目の願望の中から重要なものを3つ選べ、あと3つの花の名前から好きなものを選べ、と云い、私は仕事の成功、家族の平安、子供の幸せ、あとroseを選ぶと彼は私が握っていた紙を開くように、と云いました。そこにはrose 2と書いてあり、彼はその2は子供の数だ、と云いました。この時は絶対にすり替えが起こらないよう、私は手の中の紙に注意を払っていました。(子供は2人です)私は会議に行かねばならなかったので、礼を云ってそこを去ろうとすると、彼はバンクーバーに行かねばならないので3万円払え、このお金は将来、何倍にもなって私に返ってくる、と云いました。私は3万円も持ってないと答えると、そんな筈はないと彼は云いました。(実は定期入れの中に2万円くらい入っていました)面倒だった私は、ランチのお釣りの8千円のうち、残りの3千円を彼の黒革の財布に入れると、彼は自分の顔を覚えておくように、と云い、少し見つめ合った後、彼はそこを去りました。私は14時15分からの会議の後、似た経験のある人はいないか調べたくなり、ネットで検索して貴ページに辿り着いたものです。占い詐欺だったのかもしれませんが、日本において英語であの遣り取りをするのは決して容易ではないと思われ、割には合わないと思います。以上、ご参考になれば。
読み終わった私は興奮を抑えることができなかった。
いつもながらの鮮やかな手口も見過ごせないが、何よりも「彼」が日本向けにその話術をアレンジしてきていることに興味を惹かれた。
海外の事例では、自分の所属する教団や慈善団体への寄付としてお金を請求するパターンが多いようだが、今回は「バンクーバーに行かねばならないので3万円払え、このお金は将来、何倍にもなって返ってくる」 と発言している。
寄付文化が一般的でない日本では、馴染みのない団体への寄付を募るよりも、単純に困っていることを訴えた方が効果的だろう。
それに、「このお金は将来何倍にもなって返ってくる」という言葉もよく考えられている。
このフレーズには、現世利益的であるだけではなく、言外に金銭に対する超自然的な力を持っていることを匂わせ「もし払わなかったらこの何倍もの経済的損失があるかもしれない」という感情を起こさせる。
あくまでも聞き手が勝手に思うことであって、まったく脅迫めいたことは言っていないというのもポイントだ。
さらに言えば、丸の内という場所のセレクトも的確である。
イチさんも指摘している通り、英語で占いを行うヨギ・シンは、英会話が苦手な人が多い日本では、なかなか商売を行うことは難しいだろう。
東京が国際的な大都市でありながらも、これまで「彼」との遭遇が報告されてこなかったのは、物価の高さ(最近はそうでもないようだが)や、彼の拠点となるパンジャーブ人コミュニティーが発展していないためだけでなく、「英語があまり通じない」という理由があったからではないかと思う。
ところが、大企業の多い丸の内なら、国際的なビジネスマンも多く、占いだけでなくスピリチュアルな内容の会話にも応じられる高い英語力が期待できる。
裕福な人も多いだろうから、丸の内は彼らにとって、東京のなかでもかなり「客筋が良い」街と言えるだろう。
渋谷や新宿ほどごみごみしておらず、声をかけるのに適度なスペースがあるのも良い。
イチさんの報告を最初に読んだ時、占い師なのに伝統的な格好ではなくスーツ姿だというのを意外に感じたが、この街に溶け込み、怪しまれないためにはスーツ姿が最適だ。
ヨギ・シンはここ日本でも高い情報収拾能力と適応力を発揮しているようだ。
在日パンジャーブ人コミュニティーとも繋がっているのだろうか。
イチさんからの報告を読んで、私は一刻も早く丸の内に行きたくて仕方がなかった。
お昼時に改めてお礼を書き込むと、イチさんからさらなる驚くべきコメントがあった。
実は私はインドとは縁浅からぬものがあり、大学の卒業旅行はインド、仕事もインドと深い関わりがあったこともあり、数年前にはインド人に騙されて、相当に嫌な思いをしたこともあります。アガスティアの葉を自身で経験したインド駐在員からは、あれは絶対に本物だ、と、そう信じるべき理由も含め聞いたこともあり、今回のことはどう理解すべきか正直迷っています。あの人通りの中から、私を見つけて話しかけて来た、あのインド人、まったくの偶然とも思えないのですよ。
と書き込んで、オフィスに戻る途中、私が会ったインド人とは別のターバン巻いたインド人が、インド人の通行人に例の占いをしてるのを発見しました。写真撮りました。よかったら二重橋前に昼に来れば会えますよ!ということで、やはりインチキだった模様。写真のターバンの人物は、私の八千円とは違う人物です。このターゲットのインド人はこの後、走って逃げてました。
しかも、「彼」は一人ではなかった。
イチさんが前日に出会った50歳くらいの男と、それとは別のターバンの男の、少なくとも2人が東京に来ている!
仮に、イチさんが出会ったほうを「ヨギ・シン1」、ターバンのほうを「ヨギ・シン2」と呼ぶことにする。
タフなネゴシエーションをすることで知られるインド人が走って逃げ出したということにも、ただならぬものを感じる。
世界中の報告事例(おもにインド人以外によるものが多い)では、「彼」らから暴力や脅迫めいた気配を感じたとされるものはなかった。
逃げ出したインド人は、「彼」から、同じ文化圏で育った者だけが感じられる何か超自然的な脅威を感じたのだろうか。(ただ急いでいただけの可能性もあるが)
これが、イチさんが撮影に成功した「ヨギ・シン2」の写真である。
右側がインド人を相手に占いを行なっている「ヨギ・シン2」だ。
ターバンを巻いたスーツ姿の男性のヒゲには白髪が多く、少なくとも50歳は超えているように思える。
ターバンは言うまでもなくシク教徒のシンボルで、彼がまぎれもなく「ヨギ・シン」であることの証明だ。
(最近はターバンを巻かないシクの男性も多いので、「ヨギ・シン1」がシク教徒でないということにはならない)
よく見ると、財布のようなものを手にして、2枚目ではペンを持っているのが分かる。
これは、イチさんのコメントにある「古い写真や多数の黄色い紙」 が入っていたという財布と同じものだろう。
2枚目のペンは、「彼はこれらの会話中もずっと小さな紙にメモを取ったりしており」という報告と合致する。
2枚目の写真は、もとの画像をかなり拡大したものなのだが、2枚とも絶妙な角度や粗さで「彼」の顔をうかがい知ることができない。
このミステリアスさがさらなる好奇心を刺激する。
(念のためお伝えしておくと、イチさんからは顔に目線を入れることを勧められたのだが、角度や画質から明確に個人を特定できるものではないと判断して、「彼」と思われる人物についてはそのまま掲載することにした)
イチさんは「やはりインチキだった模様」と書いているが、これを完全に「インチキ」と呼んでよいのかどうか、私には判断できない。
ご夫人を亡くし、転職したばかりの局面で、これまで様々な縁があったインドの占い師に偶然声をかけられたイチさんが、そこに何かを感じたということも、その直後に別の占い師が同じトリックをしているのを見かけてやはりインチキだと思ったということも、十分に理解できる。
心の中を紙に書いて的中させるトリックは、同じことをマジシャンがやっているのを見たことがあるので、なんらかのテクニックを使えばできることなのだろう。
だが、だからといって彼をインチキだと言ってしまったら、科学的な根拠のない占いは、全て詐欺ということになってしまう。
あのサイババも、彼が手からビブーティー(聖灰)を出すトリックを暴いた映像が公開されたことがあったが、それでも彼のことを崇拝する信者が減ったようには思えない。
もし、「彼」がトリックを使って人を騙し、お金を取ることしか考えていなかったとしても、「彼」のテクニックや話術には、人の心に強い印象を残す、極めて洗練された何かがあることは間違いない。
「真実」ではないかもしれないが、完全に「偽り」だと言うことができない領域に、ヨギ・シンはいる。
それは例えば、プロレスが純粋な格闘技ではないとしても、それでもなお、そこには見る人の心を強く動かす何かがあるというのと、よく似ている。
イチさんが「ヨギ・シン1」と遭遇したのが水曜日、「ヨギ・シン2」を目撃したのが木曜日だ。
この時点で、私は週末になったら丸の内にヨギ・シンを探しに行くことを決意していた。
かみさんは訳のわからないインド人にうつつを抜かす私を不気味そうに見ているが、構うことはない。
長年の間、ずっと会いたかった「彼」、いつどこに行けば会えるのかけっして分からなかった「彼」、そして、日本に来ることはまずないだろうと思っていた「彼」が東京に来ているのだ。
こんなチャンスは二度とない。
そして、ヨギ・シン捜索を翌日に控えた金曜日には、Facebookのページに、また別の方からこんなコメントが寄せられた。
一時間前、有楽町で話しかけられました。私も、話しかけられた後気になり、ブログにたどり着きました。コメントされていた方と同じく、スーツのインド人でした。話された内容もコメントの方と同じく片方の女性はどうのとの内容で、ラッキーナンバーと好きな色を聞かれ、当てられました。手品としても価値があったと思い、1000円渡したところ、5000円欲しい!と言われ、結局断り握手して帰りました。帰り道、財布を見てみると、現金の所持金がちょうど渡したのも含めて5000円だったので驚きました。危険な感じは全くありませんでした。メンタリストダイゴとかテレビで見ててやらせだろとか思っていたので、実際自分が当てられてびっくりしています。ブログを拝見して、もっと真剣に聞いてみれば良かったと後悔しております。是非体験してみてください。その際はup 楽しみにしてます。ちなみに国際フォーラム出入口、グレーのスーツです。
「片方の女性はどうの」というのは、イチさんの報告にあった「Mの頭文字の女性二人が現れ、一人は悪い方に、もう一人は良い方に私に作用する」と同じ言葉だろう。
国籍を問わず、Mから始まる名前は多い。
これも誰にでも当てはまる、じつによくできた名文句だ。
「彼」はイチさんに対しても、今回報告してくれたNさんに対しても、所持金をほぼぴたりと当てている。
最初に5,000円を出したイチさんには30,000円といい、1,000円を出したNさんには5,000円と言っているから、最初に出した金額の5〜6倍を言うことにしているのだろうが、これを瞬時に自然に言えるということは、この「彼」がかなり話術に長けているということがうかがえる。
Nさんがコメントしてくれた時刻から考えると、「彼」との遭遇は金曜日の午後4時から5時くらいの時間帯だったようだ。
「彼」らが丸の内から有楽町のエリアで、水、木、金と3日間にわたって活動をしていたことは間違いない。
「彼」は確実に東京にいる。
待ってろよ、ヨギ・シン。
(つづく)
つづきはこちら
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2019年07月30日
インドのメタルバンドが知らないうちに来日して帰国していた件。そして一方インドでは…
来日したのは、2018年にデビューしたAmorphiaという3ピースバンドで、大阪で開催された'True Thrash Festival'への出演を含む5公演を行ったらしい。
(と、'Rolling Stone India'の記事にあったが、調べた限りでは2/9の江坂Museでの'True Thrash Festival', 2/16高円寺DeLive, 2/17両国Sunrizeの3公演の情報しか見つけることができなかった。まあとにかく、大阪と東京でライブを行ったことは間違いない)
新鋭バンドにもかかわらず、彼らは'Old School Thrash Metal'を自称しており、1980年代〜90年ごろを彷彿とさせるサウンドを信条としているようだ。
インドのメタルバンドはそれなりにチェックしていたつもりだったのだが、正直に言うと彼らのことは全く知らなかった。
大阪で行われたスラッシュメタルのイベントTrue Thrash Festivalでは、オーストラリアのHidden Intent, 中国のAncestor, フィンランドのBonehunter, そして主催者でもある日本のRivergeらと共演。
しれっと書いたが、またしても正直に言うと、ここにも知っているバンドはひとつもない。
スラッシュ/デスメタルやハードコアパンクは、どこの国でも決してメインストリームではないが、根強いファンが必ず一定数はいるジャンルだ。
ロック以外では、レゲエやサイケデリックトランスなどにも同様の傾向があるように思う。
記号的とも言えるほどに特徴的なスタイルやリズムを持つ音楽ジャンルは、歌詞ではなくサウンドを重視するファンが多いため、国境や言語を超えた受容がされやすい。
(逆に、国境を超えたヒットが最も難しいジャンルが、国内に十分な大きさのマーケットがあり、歌詞の内容が大きな意味を持つ非英語圏のポップスやヒップホップではないだろうか)
Amorphiaの日本ツアーの様子を記録したこの映像を見ると、ステージダイブが続出する熱いライブを繰り広げながらも、オフにはたこ焼きを食べたり、奈良を観光したり、アイドルのフリーライブを楽しんだりと日本滞在を満喫したようだ。
ホテルの浴衣を着てふざけている姿が微笑ましい。
日本ツアーのライブの中から、スラッシュ・メタル界を代表するバンドで、つい先ごろ引退を表明したSlayerのカバー曲"Black Magic".
ところで、ベーシストが見当たらないけど、どこにいるのだろうか。
知られざるメタル大国、インドにはスラッシュメタルバンドも大勢おり、有名どころでは同郷ケーララのChaosや、ベテランのBrahma(現在の活動状況は不明)らがいるが、今回のAmorphiaの来日公演はこうした先輩バンドに先がけてのものとなった。
実際、ツアー中の彼らの様子を見ると、じつに正しくアンダーグラウンドロッカー然としていて、見てくれ以外に彼らがインド人だと感じさせられる場面は全くない。
(唯一、11:40あたりから、ペットボトルに口をつけずに飲むインド人独特の飲み方をしているところ以外は!)
そういえば、こういうブログを始める前は、私もメタルやエレクトロニック系の音楽を聴くときにはアーティストの国籍はあんまり気にしていなかった。
それなのに、インドの音楽シーンにばかり注目しているうちに、無意識のうちに「国籍フィルター」をかけて見るようになっていたらしい。
どういうことかと言うと、「インドのメタルバンドはレベルは高いけど、日本での知名度は低いし、来日はまずないだろう。もし来日するなら必ず自分のアンテナに引っかかるはず」という妙な思い込みがあったのだ。
ところが、一般的な知名度なんか関係なく、Amorphiaの音楽を評価して招聘した人がいて、きちんとライブも盛り上がっていたのだから、スラッシュメタルファンの情報網と慧眼には恐れ入った。
彼らのライブを見れば分かる通り「分かるやつだけ分かればいいが、分かるやつには必ず分かる」クオリティーが彼らにはあり、ファンもそれを熱狂的に受け入れていた。
これで昨年のデスメタルバンドGutslitに続いて、2年連続でインドのエクストリーム・メタル勢が来日したことになる。
いずれにしても、インドもまた、ヨーロッパや南北アメリカ、オセアニアや東アジアのように、いつハードコアなジャンルの優れたアーティストが出てきても不思議ではない時代に入ったということなのだろう。
一方で、インドでは7月25〜28日にかけて、日本人音響アーティストのYosi Horikawaがデリー、ハイデラバード、バンガロール、ムンバイの4都市を巡るツアーを行ったばかり。
彼は、自然や日常のサウンドを再構築して音楽を組み立てているアーティストで、やはりメインストリームの音楽からは大きく離れた活動をしている。
(音楽的にほぼ様式化されているスラッシュメタルとは、全く異なるジャンルだが)
これまでも、MonoやDaisuke Tababe, DJ Nobu, Wata Igarashiなど、一般的な知名度ではなく、それぞれのジャンルで国際的な評価の高い日本人アーティストの招聘を行ってきたインドの音楽業界だが、今回もそのセンスの良さを改めて見せつけられた。
このYosi Horikawaも、「日本の音楽シーンを代表するアーティストとして」というより、「世界的に活躍する先鋭的なアーティストとして」インドでの公演を行ったはずである。
国籍に関係なく、こうした実験的かつ個性的な音楽のリスナーがきちんとインドにいて、招聘するプロモーターがいるということに、インドのシーンの成熟を改めて感じさせられた。
(ちなみにメタルバンドでは、数年前に埼玉のデスメタルバンド兀突骨がインド・ネパールツアーを行ったことが記憶に新しい)
今回紹介したのは、まさに音楽のグローバリゼーションを感じさせられる事例だが、こうした国境や国籍を無意味化するような流れの一方で、インドのローカルなシーンがよりユニークに発展してきているというのは、いつもこのブログで紹介している通り。
インドの音楽シーンは、グローバル化の影響を受けて、ますます面白いことになってきているのだ。
次はインドから誰が来日して、日本から誰がインドツアーを行うのか、非常に楽しみだ。
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2019年07月24日
インドのアカペラ・グループVoctronicaが来日!Aditi Rameshもメンバーの一人です
(参考「インド映画音楽 リミックス&カバーの世界!」)
Voctronicaは、男女6人からなるアカペラ・グループ。
インド現代音楽界の巨匠A.R.Rahmanの曲を時代順に追った"Ecolution of A.R.Rahman".
(何度かメンバーの変遷があり、この時期は5人組だった)
「ヴォーカルのみのインストゥルメンタル・ナンバー」というコンセプトの"Dis Place"
この2つの動画を見れば、彼らの実力がお分かりいただけるだろう。
今回の来日は、8月9〜12日にかけて香川県高松市で開催される"2019 Vocal Asia Festival(ボーカルアジアフェスティバル)"のなかで開催される"2019 Asian Cup A Cappella Competition"に参加するためのもの。
このイベントは毎年アジア各国で場所を変えて開催されており、今年は高松での開催となる。
このコンペティションには、彼ら以外に日本、中国、韓国、香港、フィリピンの代表グループが参加する。
優勝賞金は3,000ドルで、優勝チームは来年上海で行われるアカペラ・フェスティバルへの出演が約束されるそうだ。
Voctronicaは海外での活躍が続いており、先日もモスクワで開催されたMoscow Spring Acapella Festivalに出演したばかり。
そこで披露した「ビートルズ・メドレー」の様子がこちら。
いきなり"I Want You(She's So Heavy)"から始まり、シブイなー!と思ったら1曲が超短い!
現在のメンバーは、Avinash Tewari, Arjun Nair, Warsha Easwar, Clyde Rodrigues, Nagesh Reddy, Aditi Rameshの6人。
それぞれが、ロックや古典など異なるバックグラウンドを持つシンガーで、2人のビートボクサーのうちの1人、Nageshはムンバイの老舗ヒップホップクルー、Mumbai's Finestの元メンバーでもある。
Aditi Rameshは、以前このブログでも紹介した、元法律家という異色の経歴を持つ女性ジャズ/ブルースシンガーで、ソロアーティストとしては先日ニューEPの"Leftovers"をリリースしたばかり。
彼女はもともと南インドの伝統音楽カルナーティック音楽を学んでいた経験があり、ソロEPのオープニングナンバーの"Origin"では、カルナーティックとジャズのスキャットを自在に行き来するヴォーカルを聴かせている。
他のメンバーも、心理療法士や音楽ディレクター、声優などとして活躍しているようで、音楽以外でも多彩な才能を持つアーティストが集まったグループだ。
Voctronicaからもう1曲。
QueenへのトリビュートとしてYoutubeで披露した、"Bycicle Race"。
今回の来日のために、彼らはクラウドファンディングで資金集めをしているとのこと。
この動画は彼らの自己紹介も兼ねており、国内のファンにインド代表として支援を募っている。
https://www.ketto.org/fundraiser/help-voctronica-represent-india-at-vaf-2019-japan
高松近辺にお住まいの方は、ぜひ彼らの来日公演をチェックしてみてほしい。
チケットは無料!
いかにもアカペラ的なボーカルハーモニーだけではなく、楽器の音なども声だけでリアルに再現することがモットーだというVoctronica.
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2018年10月10日
インドのデスメタルバンド、Gutslit初来日!超ハードなツアーの感想は?
以前書いたように私は見に行けなかった訳だが、twitterを見る限りだと、「すげえ良かった」とか「くそかっこよかった」といった賛辞が並んでいたので、素晴らしいライブだったものと思う。
メンバーがテレビの「Youは何しにニッポンに?」の取材を受けていたという情報もあり、インドのデスメタルバンドの初来日公演にしてTVデビューなんてことにもなるのかもしれない。
そして、ご覧のように毎日のように国境を越えたこの過酷なツアーも10月7日(日)のタイ・バンコク公演で無事終了!
彼らのFacebookにツアーを終えての感想が投稿されていた。
一緒にツアーしていたドイツのブルータルデスメタルバンド、Stillbirthとの1枚。ベーシストのGurdipはやっぱりターバン姿!
「やったぜ!ついにやり遂げた!
バンコクはこの容赦無く最高で肉体的にはメチャクチャ消耗するツアーの最終地として完璧だ。地球の向こう側からやってきた最高の仲間、Stillbirthと一緒じゃなかたらできなかったかもしれない。
俺たちは泣いているんじゃない。お前たちが泣いているんだ。
16日間で、11の国で13回のショー。
俺たちはやってきて、ぶちかまして、成し遂げた!ライブに来てくれたり、グッズを買ってくれたりしたみんなにお礼を言うよ。」
(その後、肉屋がどうしたとか書いてあるけど、タイマッサージ以外は何言ってるんだか分かんねえ)
とのこと。
よくもまあこんなに激しい音楽なのにこんなにタイトなスケジュールでツアーを組んだものだと思っていたけど、やっぱりキツかったのね。
インドのデスメタルのレベルの高さは何度も書いている通り。
次に来日するとしたら、キャッチーでインド的な要素も多く、ヨーロッパツアーの経験もあるDemonic Ressurectionあたりか。
北東部にもレベルの高いバンドが多く、以前インタビューに協力してくれたThird SovereignやSacred Secrecyもぜひ見てみたい。
引き続きインドのエクストリーム・メタルには注目していきたいと思います!
では。
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2018年09月19日
本当に来日!インドのデスメタルバンドGutslit!
調べてみたら、今年の4月30日のことだった。
Gutslitは、最新アルバムAmputheatreが2017年のRolling Stone Indiaが選ぶアルバムベスト6に選ばれたインド屈指の実力派ブルータルデスメタルバンドだ。
いつも黒ターバンでキメているベーシストのGurdip Singh Narangが中心メンバーを務めている。
そのときの計画だと、彼らの公演は休み無しでほぼ毎日違う国を回るという、彼らの音楽同様に超ハードかつヘヴィーなスケジュールで、しかもツアーの資金はこれからクラウドファンディングで調達するという無計画っぷり。
前回の記事を書いた時点では、まだクラウドファンディングは目標の1割程度しか集まっておらず、その後も遅々として資金集めは進んでいないようだった。
私は、彼らのこの見切り発車かつ出たとこ勝負なツアー計画に非常に心を動かされながらも、ああ、今回彼らが日本に来てくれることは無いのかもしれないな、と心のどこかで思っていた。
これがそのときに掲載したツアーのフライヤーとスケジュールで、これを見ればいくらなんでもムチャなスケジュールであることが分かるだろう。
これ、ライブしないで普通に回るだけでも、相当ぐったりするような行程だ。
まして、連日、この地球上で最も激しい音楽であるデスメタルの演奏を各地で繰り広げながらツアーするなんて、完全に自殺行為なんじゃないだろうか。
たとえ計画倒れに終わってしまうとしても、遠く離れた国でエクストリームメタルを愛し奏でる2つのバンドが、東アジアの同好の士に自分たちの音楽を届けるべく、こんなムチャクチャなツアーを企画していると考えると、なんだかちょっと胸が熱くなるのも確かなのだった。
でも、いくらなんでもこりゃさすがに無理。
金も体力も続くわけがないって。
来日公演の会場決定!みたいな続報を書くこともなく、このまま忘れ去られてゆくだろうなあ、と思っていた。
実際、インド人の音楽ジャーナリストも、当時こんな見切り発車の計画を行う彼らに呆れ果てていて、「面白いじゃん、これぞロックンロール」みたいなことを言っていた私は「そうは言っても、ツアーを信じてなけなしのお金をクラウドファンディングにつぎ込む真剣なファンのことを考えてみたら、こんなことすべきじゃないって」とたしなめられたものだった。
ところがだ。
Gutslitさん、本当にごめんなさい。
ちょっとナメていたのかもしれません。
あなたの誠実さを疑っていた私が間違っていました。
彼らの来日公演が本当に決まりました。
これが証拠のフライヤーです。
例によって触ったらケガしそうなトゲトゲしたロゴは読めないが、日本のデスメタルバンドWorld End ManとStrangulationの共同企画によるライブイベントで、彼らとInfested Malignancyが日本からGutslitとStillbirthを迎え撃つ。
場所は西荻窪flat
小さなライブハウスみたいだけど、会場の大きさの問題じゃねえんだ!
日本のエクストリームメタルバンドとしては、兀突骨とDefieledがインドツアーを成功させているが、インドのメタルバンドの来日はおそらく初めて!
記念すべきインディアンメタル初来日公演というわけなのです!
ちなみに最新のツアースケジュールをチェックしてみたところ、多少の変更はあったようで、ツアー前半では9/27のカンボジア、9/29〜10/1までの未決定だったところはキャンセルになったようだ。
ツアー後半でもフィリピンは結局10/3のマニラ公演だけになり、日本の翌日10/6の韓国公演もキャンセルになった模様。
でもよかったよ。これくらいじゃないと本当に死んじゃうよ。
デスメタルってそういう意味じゃないから。
とはいえ、日本公演はフィリピン、台湾と続く3カ国3日連続公演の3日目!
疲労困憊であろう彼らがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、Gutslitの命がけのライブを見逃すな!
と、力を込めてみたところで水を差すようでなんなんですが、FacebookでGutslitが作っているイベントページによると、どうもここ日本のライブだけ、明らかに興味を持ってる人が少ないみたいなんですな。
日本以外だと台湾も少ないけど、この2カ国って、メタルシーンがわりと内向きなんだろうか。
遠路はるばる来ていただくのに、これじゃあさすがに申し訳ない。
せっかくのインドのメタルバンドの初来日公演、ぜひみなさんで盛り上げて行きたいところです。
じゃあ当然お前も行くんだよな、という声が聞こえてきそうだけど、じつはその日は私、仕事でどうしても職場に貼り付いていなければならない用事があり…モゴモゴ(本当)。
大変残念なことに、涙を飲んで参戦保留。
くーっ、久しぶりに暴れたかった!
どなたか行かれる(あるいはイカレる)人がいらっしゃったら、ぜひレポートをお待ちしています!
以上、軽刈田 凡平でした。
2018年04月30日
なんと!インドのデスメタルバンドが来日!
そのツアーには、なんとここ日本も含まれている!
インドのメタルバンドとしては、いや、ひょっとしたらロックバンドとしても初の来日公演ではないだろうか?
"Amputheatre"収録の彼らの曲を改めて紹介します。"Scaphism"
わりと古典的なデスメタルのスタイルだけど、演奏もタイトでめちゃくちゃレベル高い!
あとベーシストがシク教徒なのだろうが、しっかりとターバンをかぶっているのだけど、音楽性に合わせて色は黒!というところもかっこいい。
今回の来日はドイツのデスメタルバンドStillbirthとのスプリットツアーとなるようで、その名も"Gutted at Birth"ツアー!(Cannibal Corpseの名盤"Butchered at Birth"のパロディか?いずれにしてもジャンルに違わない悪趣味さ!)
ツアー先は、ドバイ、母国インド、ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、そして日本と韓国での公演が予定されている!
彼らのFacebookページによると、日程は以下のとおり。
21st September Friday - DUBAI
22nd September Saturday - TBA
23rd September Sunday - MUMBAI, INDIA
24th September Monday - DELHI, INDIA
25th September Tuesday - NEPAL
27th September Thursday - CAMBODIA
28th September Friday - Ho Chi Minh, VIETNAM
29th September Saturday - TBA
30th September Sunday - TBA
1st October Monday - TBA
2nd October Tuesday - Manila, THE PHILIPPINES
3rd October Wednesday - Cebu, THE PHILIPPINES
4th October Thursday - TAIWAN
5th October Friday - Tokyo, JAPAN
6th October Saturday - SOUTH KOREA
7th October Sunday - Bangkok, THAILAND日本公演は10月5日、東京のみ。
それはそれとして、おいおい、いくらなんでも日程、タイト過ぎないか?
現時点で未定のところを含めて、17日間で16公演!
これ、演奏無しで移動だけでも結構きついスケジュールだと思うが、さらに各地で激しいライヴを繰り広げるって、なんだかほとんど自殺行為って気が…。
彼ら自身もそれは分かっているようで、バンド創設メンバーのベーシスト、Gurdip Singh Narang(黒ターバンでキメていた彼だ!)はRolling Stone Indiaのインタビューに、
「こんなにタイトな日程でスケジュールを組むなんて、俺たちはキンタマがすわってるだろ。ちゃんと全ての国に機材と一緒に降り立ってプレイできるように、いろんな国の航空会社を信頼するってことさ」
と語っている。
どうやらヨーロッパツアーを終えて自信をつけたようで、Gurdip曰く、
「なぜって、俺はプロモーターを信用してるし、俺は100%有言実行だ。いつもと同じように、考えに考えて計画した通りにやるだけさ」とのこと。
自信満々、頼もしい。かっこいい。
と思ったら、このツアーはクラウドファンディングで成り立っていて、見てみたらまだ予定の金額の10%くらいしか集まっていないみたい…。
大丈夫か?とちょっと心配になるところだが、正直に言うと、超過密なツアースケジュールといい、資金面での見切り発車といい、こういう行き当たりばったりな感じ、理屈抜きでもう最高!って思ったよ。
海外にツアーするようなバンドになると、万が一の間違いもないように綿密に計画されたスケジュールで動きそうなものだけど、本来、ロックンロールバンド(彼らはデスメタルだけど、あえてこう言わせてもらう)のツアーなんてこういうものでもいいんじゃないだろうか。
自分の大好きな音楽をいろんな場所で演奏するために、楽器をバンに詰めてひたすらドサ回り。
海外ツアーだからって姿勢は変わらない、そのバンが飛行機になっただけ。
やるほうは大変だろうけど、なんていうか、こう、夢があるよな。
ボロボロになるかもしれないけど、これがやりたいんだ!っていう熱さがびんびん伝わってくる。
もちろん「そんなのはきれいごと。各地で待つファンをがっかりさせないよう、最高のパフォーマンスをするためには無理は禁物!」っていう意見もあるだろう。
でもさあ、これだけいろんなことがきっちりしちゃってる世の中で、こういう行き当たりばったり&気合で乗り切る!みたいなツアーをするバンドがいるって、ものすごく素晴らしいことなんじゃないだろうか。
いつもインドのロックバンドのことを「インドじゃ楽器買えるのは富裕層だけ」みたいに書いているけど、生半可な根性じゃこんなツアーできないよね。
確かに彼らは裕福な家庭に生まれたのかもしれないけど、その環境に甘えて音楽をやっているような連中じゃない(演奏レベルを見てもそれは一目瞭然)。
彼らの音楽へのハンパない情熱に最大限の敬意を表したいよ。
彼らのことを意気に感じて、ぜひ応援したい!という方はこちらから!
Gutslitのみなさんにコンタクトしてみたところ、あとちょっとでライブ会場やなんかがはっきりするので、インタビューにも応じてくれるとのこと。
乞うご期待!
(このブログ、インタビューの告知ばっかでなかなか掲載されないけど、どうなってんの?とお思いの方もいるかもしれないけど、気長に待って頂きたく。そんなもんよ。インドも人生も…)
インドの今までにインタビューしてきたインドのメタルアーティストのThird SovereignのVedantも、Alien Nation(Sacred Secrecy)のTanaも、日本でのライブが夢だと語ってくれていた。
何度も書いているように、こういったコアな音楽ほど国境は無い。
今回のGutslitの来日でインドのメタルバンドのレベルの高さが知れ渡り、彼らにも道が開けたら良いなと思います。