ミゾラム

2019年09月24日

インド北東部にJ-Popバンドがいた!? ミゾラム州のAvora Records!

今回は久しぶりにインド北東部のバンドを紹介します。

これまで何度も紹介してきた通り、モンゴロイド系の民族が暮らす北東部は、キリスト教などの欧米から伝わった文化の影響が強く、インドのなかではかなり以前からロックミュージックが盛んだった土地だ。
今回紹介するのは、インド北東部のなかではいちばん南、ミャンマーとバングラデシュに挟まれたミゾラム州の州都Aizawl(アイゾール)出身のポップロックバンド、Avora Records.
インド北東部

彼らのことを知ったのは、昨年のZiro Festivalのラインナップでその名前を見かけた時だった。
それ以来、彼らの確かなポップセンスがずっと気になっていたのだ。
彼らが昨年リリースした"Sunday"という曲を聴いてみよう。

いきなり出てくる「日曜日」という漢字にまずびっくり。
さらに、少しチープでカラフルなミュージックビデオからは、どことなく90年代の日本のバンドのような雰囲気が感じられ、自然と親しみがわいてしまう。

北東部出身の彼らの見た目が我々日本人に似ていることもあって、彼らに対しては、「インド人だけどどこか日本のバンドっぽいバンド」という印象を持っていた。
それから約1年。
最近になって、Avora Recordsについて書かれたインドの記事を読んで、非常にびっくりすることがあった。
彼らは、なんと「J-Popバンド」だったというのだ。

例えば、インド北東部のカルチャーを紹介するウェブサイト、Roots And Leisureの記事にはこんなふうに書かれている。

An all-boy band creating quite the rave with their fun, upbeat J-Pop/rock and Indie music, this local-gig-favorite band from Aizawl, Mizoram, has shown the crowd that they are here to stay. 

楽しげでアップビートなJ-Pop/Rockやインディーミュージックで高い評価を受け、地元のライブシーンでも人気のあるこのミゾラム州アイゾール出身の男性バンドは、彼らがまさにここにいるという存在感を大衆に示した。


インドの大規模フェス'NH7 Weekender'のFacebookでも、こんなふうに紹介されている。


J-Popとアニメ・ミュージックをお届けするミゾラム州のAvora Recordsが、この11月に(フェスの会場となるメガラヤ州シロンの)丘を盛り上げる。


いったいこれはどういうことだろう?
彼らは、純然たるインドのバンドにもかかわらず、なぜかインドのメディアで「J-Popバンド」として紹介されている。
アニメ・ミュージックというのはよく意味が分からないが、「日本=アニメ」という印象なのだろうか。
それにしても、これは非常に面白い解釈だ。

J-Popというのは、日本人がやってるポップミュージックのことだとばっかり思っていた。
ところが、インドでは(少なくともインド北東部では)、インド人が演奏していても、歌詞が英語でも、日本のポップミュージックっぽい雰囲気があれば、J-Popなのだ。
彼らの楽曲"23:00"は、なんとApple MusicでもJ-Popのカテゴリーで登録されている。
スクリーンショット 2019-09-20 23.53.30

これは日本人としてはちょっと誇らしいことではないだろうか。
かつて、マージービートやウエストコーストロックやレゲエのような、特定の国や地域に根ざした欧米の音楽が日本のミュージシャンに大きな影響を与えたように、日本のJ-Popという音楽が、インド北東部にまで影響を及ぼしているというのだ。

例えばこの"23:00"のビデオを見てほしい。
ミュージックビデオの映像も、どことなく渋谷系のころの日本のバンドのプロモビデオを思い出させるところがある。
(光のあて方や色彩のせいだと思っていたが、モンゴロイド系のお洒落な女の子が出てくることが渋谷系っぽく見える最大の理由かもしれない)

メロウでスローテンポな曲調ながら、グルーヴ感をキープした演奏からは、彼らの高い実力を感じることもできる。

先日リリースされた新曲、長いタイトルの"If You're Not Sweating To This Then Honey You're Not 90's"は、ファンキーな曲調の90年代へのトリビュートだ。


英語詞であるせいもあって、欧米のバンドっぽい印象もあるが、楽曲のキャッチーさや、かっちりとしたアレンジは、やはりどこか日本のバンドを思い起こさせるところがある。

あと関係ないけど、サムネイルにも出てくる、ビデオの後半に登場する女の子、ものすごくかわいくないですか?
日本で女優をやっていても違和感がないくらいの美人。
インドにこういう日本的なかわいさの女の子がいるっていうのはあんまり想像したことがなかった。
"23:00"に出てきた娘もかわいかったし、ミゾの女の子、インド北東部の中でも美人が多いのかもしれない。

というわけで、謎が謎を呼ぶAvora Recordsにメールでインタビューを申し込んでみたところ、さっそく返信が来たので紹介します!

凡平「Avora Recordsについて教えてください。いつ、どんなふうに結成されたんですか?」

AR「2016年にバンドを結成したんだ。Avora Recordsっていうのは僕らがたむろしてたスタジオの名前だよ。僕らはヴォーカルのStephen, ドラムスのSanga, ベースのCK, ギターのRuataとKhosの5人組だ。
最初は、友達の何人かと2013年ごろにホームスタジオでデモを作ったりしていたんだ。正式に今のラインナップになったのが2016年で、それからライブをするようになった。」

彼らはまだ20代前半で、大学生のメンバーもいるみたいだから、ハイスクールの頃に結成されたバンドということのようだ。

凡平「インターネットの記事で、Avora RecordsがJ-Popバンドと言われていて驚きました。私もあなたがたのサウンドはちょっと日本のバンドっぽいなって感じてます。J-Popとかアニメみたいな日本のカルチャーだとか、K-Popみたいな東アジアの文化から影響を受けているのでしょうか?」

AR「僕たちはK-PopからJ-Popやインディーロックまで、様々な音楽を聴いてるよ。だから僕らはそれらのほとんど全部から影響を受けている。俺たちの音楽の基本的な部分に影響を与えたのは、僕らが育ってきた環境やカルチャーやルーツだね。
僕らは日本の信じられないほど素晴らしいJ-Popのバンドやアーティストをリスペクトしてるから、自分たちで自身をJ-Popとカテゴライズしたことはない。それに僕たちの音楽は、ローカルの要素や欧米の要素が多いから、J-Popという呼び方は合わないと思う。でも日本のカルチャーは僕らにとって馴染み深いものだよ。僕ら『ドラゴンボールZ』とか、『ポケモン』、『デジモン』、『ふしぎ遊戯』や『烈火の炎』みたいなクラシックな日本のアニメを見て育ってきた。ギタリストの二人は、今でもツアー中もポケモンのゲームをやっているよ」


確かに彼らの音楽は、洋楽風に聴こえる部分も大きく、日本のバンドっぽく思えたのは、彼らの見た目やミュージックビデオに出てくる女の子たちの印象が強かったからかもしれない。
ただ、いずれにしても、彼らが相当に日本のアニメに詳しいことは間違いないみたいだ。
恥ずかしながら『ふしぎ遊戯』と『烈火の炎』(それぞれ英語で"Curious Play","Flame of Recca"と書いていた)という作品は聞いたことがなかった。
以前ナガランドのアニメオタクについて書いたことがあったが、インド北東部で日本のカルチャーがそれなりに存在感を保っていることは間違いないのだろう。


結局、なぜ彼らがJ-Popと呼ばれているのかは最後まで分からなかったが、モンゴロイド系の民族が演奏しているクールでポップなバンドがJ-Popと呼ばれるのは、日本人としては素直にうれしい。(彼らはちょっと不本意なのかもしれないが)
日本の音楽をどうやって知ったのかと聞いたところ、YoutubeやSpotifyのレコメンドを手がかりにしているとのことだった。

彼らのポップでソリッドなバンドサウンドは、北東部のみならずインド全体を見ても、非常にユニークなものだ。
インド全体を見渡せば、ポピュラーなロックを奏でるバンドは、おしゃれインディーバンドのParekh and Singh(コルカタ)、英国フォーク色の強いWhen Chai Met Toast(コチ)、レイドバックしたEasy Wanderlings(プネー), ヒンディー語で歌うThe Local Train(デリー)などがいるが、ロックバンド色の強いAvora Recordsの個性とポップセンスは、こうしたバンドと比べてもまったく遜色がない。

彼らはインド北東部やインドという枠を超えて、もっともっと知られてほしいバンドだ。
10月にはデビューアルバムをリリース予定だそうで、日本でのプロモーションにも興味があるとのこと。
日本の各種媒体のみなさん、Avora Recordsの音楽はいかがですか?



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goshimasayama18 at 20:35|PermalinkComments(0)

2019年01月09日

Meraki Studiosが選ぶ2018年インド北東部のベストミュージックビデオ18選!

改めまして、軽刈田 凡平です。
Meraki Studiosが選出した2018年のインド北東部のインディーアーティストによるベストミュージックビデオが発表されたので、今回はそのなかでいくつか印象的だったものを紹介します。
このMeraki Studios、正直に言うと私もどんなところかよく知らないのだけど、彼らのウェブサイトによると、どうやらマニプル州インパールを拠点に広告、デザイン、録音、撮影、アーティストのブッキングとマネジメント、服飾販売などを手がけているところらしい。

詳細はリンクを参照してもらうこととして、選ばれた楽曲は以下の18本。
アーティスト名、曲名、ジャンル、出身地(活動拠点?)の順に紹介します。


・Pelenuo Yhome  'Build A Story'   フォーク / ナガランド州コヒマ
・Fame The Band  'Autumn'   ロック / メガラヤ州(現在はムンバイを拠点に活動)
・Lik Lik Lei  'Eshei'   ポップ / マニプル州インパール
・The Twin Effect  'Chasing Shadows'   ポップ / ナガランド州ディマプル
・Avora Records  'Sunday'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Fireflood  'Rain'  ロック / ナガランド州ディマプル
・Tali Angh  'City Of Lights'  ポップ / ナガランド州コヒマ
・Lucid Recess  'Blindmen'  オルタナティブ / アッサム州グワハティ
・Featherheadds  'Haokui'  フュージョン・ロック / マニプル州ウクルル 
・Big-Ri And Meba Ofilia  'Done Talking'  R&B / メガラヤ州シロン
・Avora Records  '23:00'  ロック / ミゾラム州アイゾウル
・Lo! Peninsula  'Another Divine Joke'  ポストロック / マニプル州インパール
・Lateral  'Hepaah'  ポップ / アッサム州グワハティ
・Sacred Secrecy  'Shitanagar'  デスメタル / アルナーチャル・プラデーシュ州イタナガル
・Blue Temptation  'Blessing'  ロック / メガラヤ州シロン
・Lily  'Unchained'  EDM  / メガラヤ州シロン
・Matilda & The Quest  'Thinlung Hliam'  ポップ / ミゾラム州アイゾウル
・Joshua Shohe & Zonimong Imchen  'Never Let You Down'   ポップ / ナガランド州


まず目につくのはロック系の多さ!
ジャンル分けは独断かつ適当だが、それを差し引いても、ヒップホップ系やエレクトロニカ系はほとんどいなくて、ロック系が大半を占めている。
北東部はもともとロックが盛んな土地で、メガラヤ州シロンは「インドのロックの首都」とも言われている街だ(今回もシロンから3バンドが選出されている)。
ロック系の中でもFirefloodみたいなハードロック系からAvora Recordsみたいなギターポップ系、Blue Temptationみたいなブルースロック系、さらにはポストロックやデスメタルまで多様なタイプのバンドが揃っている。

そしてもうひとつ気になったのはナガランドのバンドの多さ!
州別に言うと、ナガランドが5バンド、メガラヤが4バンド、マニプルが3バンド、ミゾラムとアッサムが2バンドずつ、アルナーチャル・プラデーシュ州が1バンド。
これまでもナガランドについてはいろいろと書いてきたけど(全3回のナガランド特集はこちらから)、改めてナガの地の音楽カルチャーの強さを感じさせられた。

それでは、この18曲を聴いてとくに印象に残ったビデオをいくつか紹介します。

Lik Lik Leiは、日本軍の悪名高いインパール作戦で有名なマニプル州インパールのバンド。
このデビュー曲の'Eshei'はマニプルの映画、その名も'Iriguchi(入り口)'のサウンドトラックからの1曲。

ミュージックビデオを見て分かる通り、日本軍の兵士が残した秘密の箱を見つけた現代のマニプリの若者が主人公の映画のようだ。
映画の背景にある重い歴史(大戦後、マニプル州はナガランドと同様に過酷な独立闘争を経験している)と、ビデオに出てくる現代的な若者、そしてウクレレを使った軽やかな音楽の対比が面白い。

アッサムのLucid Recessは2004年結成のベテラン・オルタナティブメタルバンド。

この曲ではサウンドガーデンやニルヴァーナを思わせるグランジ的なサウンドを聴かせている。

Featherheadsはマニプル州の小さな街、ウクルルのバンド。
ウクルルも日本軍の悲劇的な激戦地となった場所だ。

個人的には、今回のリストの中でいちばん強烈に印象に残ったビデオだ。
音楽的にはおそらく地元部族の伝統音楽とロックとのフュージョンということになるのだろう。
注目すべきは彼らの衣装で、なんと地元の民族衣装にインディアンの民族衣装を大胆に合わせている。
ここで言うインディアンはインド人ではなくアメリカ先住民のいわゆるネイティブアメリカンのこと。
インド人(インディアン)のなかでは周縁的な存在であることを余儀なくされている北東部マニプル州の彼らが、同じ「インディアン」と呼ばれながらも、やはり国家の中で周縁的な立場に置かれているアメリカ先住民の格好をしているというわけだ。
そしてマニプリとアメリカ先住民は「追いやられた先住民族」という点で共通している。
なにやら非常にややこしいが、おそらく彼らはそこに共感と皮肉を見出してこの格好をしているのではないか。
って、単にファッションとして取り入れているだけかもしれないけど、いずれにしても興味深い一致ではある。

同じくマニプル州のLo! Peninsulaはシューゲイザー、ドリームポップ、サイケロックを標榜するバンドで、曲によってはポストロック的な響きを持つ演奏をすることもある(このへんはジャンルのボーダーが曖昧な部分ではあるけれども)。

さっきのFeatherheadsとはうってかわって、とてもインドの山奥から出てきたとは思えない(失礼!)サウンド!
彼らはシアトルのカレッジラジオ局KEXPで紹介されたこともあるようだ。
ポストロックというジャンル字体はもはや世界中のどこでも珍しいものではなくなっているけれども、それでも今回紹介する北東部のバンドの中で彼らの存在感は群を抜いている。
他にも尖っているバンドはあるが、彼らだけは世界中の別の時空と共鳴しているかのような印象を受けた。

ナガランドのJosua Shohe & Zonimong Imochenの'Never Let You Down'はZonimongのヒューマンビートボックスが全編にフィーチャーされた曲。

歌もちょっと弱いし、とりあえず地元で撮ったみたいなビデオも適当な印象だけど、意欲的な試みではある。


すでに紹介してきたバンドたちもおさらい。
日本のMonoがトリを務めたZiro Festivalにも出演したAvora Recordsは2曲でノミネート。
'Sunday'はどことなく1990年代の日本のバンドを思わせるミュージックビデオだ。


同じくZiro Festivalにも出演していたBlue Temptationはレニー・クラヴィッツみたいなシブいブルースロック!


MTV EMA2018のベストインド人アーティストに選ばれたBig-Ri& Meba Ofiliaも当然ランクイン。


このブログ最初のインタビューにも協力してくれたTana Doni率いるSacred Secrecyが地元イタナガルを強烈にディスっているブルータル・デスメタル'Shitanagar'でノミネート!


少々の荒削りさとびっくりするようなセンスが共存している北東部のシーン、今後も注目していきたいと思います!

そして今年は北東部が先になってしまったけど、メインランドの2018年を代表する曲やアルバムもまた紹介します!
それでは!



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