ベースミュージック
2018年04月29日
謎のターバン・トラップ!Gurbax
といっても、また面白いやつ(とアタクシは思っている)を載せまっせー。
今回紹介するのは、記念すべき第1回目のSu Real以来のトラップ・ミュージック。
このブログで紹介するくらいなので、もちろんインド色強めのやつだ!
まずは1曲、聴いてみてください。
Gurbaxで、"Boom Shankar"
サードゥー(世捨て人的な生き方をするヒンドゥー教の行者)の集団がサイケなペイントの車に乗り込んでレイヴ会場に繰り出すっていう、強烈な内容!
Gurbaxはクラウドファウンディングで集めた資金をもとに、この曲と同名のBoom Shankar Festivalというイベントをバンガロールで開催している。
この曲のビデオについてのインタビューによると、「リシケシュ(ガンジス源流近くの聖地)のサードゥーたちが仲間とリラックスして楽しんでいるいるところ(ガンジャを吸ったりしているイメージかな)」という明確なビジョンのもとに作られたとのこと。
やがて、サードゥーたちがコンサートの熱狂に触れたらどうなるか、というアイデアに発展し、最終的にはこういうシロモノになったそうだ。
「街でいちばんヤバいサードゥーで不思議なパワーの化身であるBoom Shankarを、Gurbaxが彼の名前のフェスティヴァルに呼び出した。Boom Shankarとその信者が巡礼に使っていたバンはステージへと変化し、その上でプレイするGurbax。熱狂する観客。やがてBoom Shankarもステージに上がり、火吹きを披露してその場をパワーで満たす」
…なんだかよく分からないが、この手のダンスミュージックへのヒンドゥー神秘主義の導入は、90年代末頃の欧米や日本のレイヴ・カルチャーによく見られたもの。
このビデオはそうした文化の逆輸入版とも言えそうだ。
GurbaxことKunaal Gurbaxaniは、バンガロールでパンクやスラッシュメタルのバンドのギタリストとして音楽活動を始めた。
大学進学で進んだ米国アトランタでベースミュージックに出会い、DJ/クリエイターとしてのキャリアをスタートさせたようで、彼もまたおなじみの海外で触れた音楽をインドに導入して活躍しているパターンだ。
先ほどのBoom Shankarのような、インド的要素を取り入れたベースミュージックは"Turban Trap"というくくりで紹介されるているのだが(YoutubeのチャンネルやFacebookのページもある)、このターバントラップという概念、ジャンルなんだかレーベルなんだかちょっとよく分からない。
GurbaxがMr.Dossと共演しているターバントラップの曲。"Aghori"
調べてみたところAghoriというのはサードゥーの一派のことらしい。
ターバントラップのサイトには"Sikhest trap music"とあるが(Sickest=最もヤバい、とシク教のSikhをかけた表現)、シク教というよりはヒンドゥー的な要素が入っている楽曲が多いようで、この音楽ジャンルの宗教的バックグラウンドがどんなものなのか、シリアスなものなのかはちょっとよく分からない。
いずれにしても「ターバントラップ」には他にも面白いアーティストがいるので、調べてみてまた紹介たいと思います。
さてこのGurbax、インド的な要素のないトラックもたくさん手がけていて、これがもうインドとか国籍とか関係なく普遍的にかっこいい。
"Get it"
"Lucid Fuck"
彼の2017年の活動をまとめた動画がこちら。
インドのパリピのみなさんが熱い!
電気や水道の通っていない環境で暮らす人も多いインドだが、これもまたインドの一側面。
とくに電子系ダンスミュージック界隈の垢抜けっぷりにはいつも驚かされる。
こういう人たちでも、ダンスミュージックに宗教的恍惚感(トランス的要素)を加えるためにヒンドゥーの伝統的な要素を加えてみるんだなあ、と思うとしみじみする。
それとも信仰心なんてもう全然なくて、単にシャレでやってるのだろうか。
インド的なサウンドから欧米的、無国籍なサウンドまで躊躇なく行き来することができるのもインドのアーティストの魅力の一つ。
我々日本人が昼は蕎麦食って夜はパスタなんてことがあるのと同じようなものかもしれないけどね。
それではまた!
2017年12月25日
愛は心の抵抗です!Su Realのベースミュージック
デリーを拠点に活躍しているEDM/ベースミュージックのサウンドクリエイターでございます。
まずはこちらの曲を聴いてみておくんなまし。
Su Real "Soldiers"
曲もビデオもかっこいい!
日本じゃクリスマスってんで、ジングルベルジングルベルって老いも若きも大変な楽しみようなんでございますが、インドなんかだとヒンドゥー原理主義ってんですか?
西洋の文明がインドに入ってくるのを快く思わない人ってのがいるんですね。
クリスマスなんかお祝いしてると、原理主義が強い地域だと警察に捕まったりする。
毎年バレンタインデーが近くなると、バレンタインデー排斥運動というのが起こって、バレンタインのディスプレイをしているお店が襲撃されたりするってのが毎年のように報じられてます。
別にもてないからってわけじゃなくて、西洋的な価値観や自由な恋愛がインドを堕落させるっていう考え方なわけでございます。
外でキスをしたり抱き合ったりしているだけで「風紀を乱す」的なことで逮捕されることもあるってわけで、この曲はそういう状況に対して、よりモダンな価値観を持った者たちからのプロテストという内容になっているんでございます。
歌詞を訳してみるとこんな感じ。
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警告 警告 全ての愛の戦士たちよ準備せよ
愛の軍隊とともに、怒りを込めてぶっ放せ
この辺をパトロールしているが状況はひどくなるばかり
警察がやってくる音が聞こえる
通りで抱き合ったりキスをしたってだけで刑務所に入れられる
政治家や聖職者の皮をかぶった獣たちの声が聞こえる
過剰な抑圧が攻撃性を呼ぶ
過剰な弾圧が表現を呼び起こす
これは公共の場での愛の表現
ゴアからグワハティまで、愛こそが使命
私たちは愛の戦士 憎しみをもつ者たちは気をつけろ
私たちがキスするのを見ていても構わない
昼でも夜でも 私たちがすべきことをしているのをみていても構わない
私たちは楽しみに来ただけ 彼らが何を言おうと気にしないで盛り上がろう
戦士たちがダンスフロアにやって来た 場所を空けて
ブースのDJ ベースをぶちかまして
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糾弾の対象に「政治家や聖職者」とあるのは、古い価値観の象徴であるヒンドゥーの聖職者と、そうした価値観を持つ者に迎合的な政治家のこと。
現在の政権与党BJP(インド人民党)はヒンドゥー的な考え方を至上とする原理主義組織RSSと強いつながりを持っていることが知られています。
旧弊な価値観に対して愛をもって対抗しようというのがこの曲の趣旨ってえわけだ。
「ゴアからグワハティまで」のゴアは大航海時代から長くポルトガル領だった南インドの都市。グワハティはインドの中でも独特の文化を持つ北東部アッサム州(紅茶で有名なとこ)の州都。
インドの地理的、文化的な広がりを意識したフレーズなわけです。
ついでに言うと、この曲は、ケララ州で発生した「Kiss of Love運動」に触発されて書いた曲とのこと。
このへんでSu Realさんの紹介を。
本名はSuhrid Manchanda.
ニューデリー出身でUAEとマレーシアで育ち、大学はカナダのマギル大学に通ったという。その後、MBAの勉強をしに行ったニューヨークでレコードレーベルで働くようになったことから音楽制作を始め、今ではデリーを拠点に活動しています。
レゲエパートのヴォーカルを担当しているのはGeneral Zooz.
こちらもデリーを拠点に活動しているレゲエバンド「Reggae Rajahs」のヴォーカリストです。
Reggae Rajahsも素晴らしいグループなのでいずれ紹介したいと思います。
こういう音楽が単なるパーティーミュージックではなくて、真摯なメッセージを含んでるってことがとても素晴らしいと感じた次第でございます。
“Soldiers”は2016年に発表のアルバム「Twerkistan」の収録曲。
パキスタンとかの国名につく「-stan」と、ダンスの一種のTwerkをかけたアルバムタイトルで、インドの伝統音楽やカッワーリーとベースミュージックの融合が試みられている曲も多くて、それがまた素晴らしい。
Jay-Zとカニエ・ウエストの「Niggas in Paris」のパロディのこんな曲も入ってます。
それでは今日はこのへんで!