デスメタル
2018年10月10日
インドのデスメタルバンド、Gutslit初来日!超ハードなツアーの感想は?
以前書いたように私は見に行けなかった訳だが、twitterを見る限りだと、「すげえ良かった」とか「くそかっこよかった」といった賛辞が並んでいたので、素晴らしいライブだったものと思う。

メンバーがテレビの「Youは何しにニッポンに?」の取材を受けていたという情報もあり、インドのデスメタルバンドの初来日公演にしてTVデビューなんてことにもなるのかもしれない。

そして、ご覧のように毎日のように国境を越えたこの過酷なツアーも10月7日(日)のタイ・バンコク公演で無事終了!
彼らのFacebookにツアーを終えての感想が投稿されていた。


一緒にツアーしていたドイツのブルータルデスメタルバンド、Stillbirthとの1枚。ベーシストのGurdipはやっぱりターバン姿!
「やったぜ!ついにやり遂げた!
バンコクはこの容赦無く最高で肉体的にはメチャクチャ消耗するツアーの最終地として完璧だ。地球の向こう側からやってきた最高の仲間、Stillbirthと一緒じゃなかたらできなかったかもしれない。
俺たちは泣いているんじゃない。お前たちが泣いているんだ。
16日間で、11の国で13回のショー。
俺たちはやってきて、ぶちかまして、成し遂げた!ライブに来てくれたり、グッズを買ってくれたりしたみんなにお礼を言うよ。」
(その後、肉屋がどうしたとか書いてあるけど、タイマッサージ以外は何言ってるんだか分かんねえ)
とのこと。
よくもまあこんなに激しい音楽なのにこんなにタイトなスケジュールでツアーを組んだものだと思っていたけど、やっぱりキツかったのね。
インドのデスメタルのレベルの高さは何度も書いている通り。
次に来日するとしたら、キャッチーでインド的な要素も多く、ヨーロッパツアーの経験もあるDemonic Ressurectionあたりか。
北東部にもレベルの高いバンドが多く、以前インタビューに協力してくれたThird SovereignやSacred Secrecyもぜひ見てみたい。
引き続きインドのエクストリーム・メタルには注目していきたいと思います!
では。
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2018年09月19日
本当に来日!インドのデスメタルバンドGutslit!
調べてみたら、今年の4月30日のことだった。
Gutslitは、最新アルバムAmputheatreが2017年のRolling Stone Indiaが選ぶアルバムベスト6に選ばれたインド屈指の実力派ブルータルデスメタルバンドだ。
いつも黒ターバンでキメているベーシストのGurdip Singh Narangが中心メンバーを務めている。

そのときの計画だと、彼らの公演は休み無しでほぼ毎日違う国を回るという、彼らの音楽同様に超ハードかつヘヴィーなスケジュールで、しかもツアーの資金はこれからクラウドファンディングで調達するという無計画っぷり。
前回の記事を書いた時点では、まだクラウドファンディングは目標の1割程度しか集まっておらず、その後も遅々として資金集めは進んでいないようだった。
私は、彼らのこの見切り発車かつ出たとこ勝負なツアー計画に非常に心を動かされながらも、ああ、今回彼らが日本に来てくれることは無いのかもしれないな、と心のどこかで思っていた。
これがそのときに掲載したツアーのフライヤーとスケジュールで、これを見ればいくらなんでもムチャなスケジュールであることが分かるだろう。

これ、ライブしないで普通に回るだけでも、相当ぐったりするような行程だ。
まして、連日、この地球上で最も激しい音楽であるデスメタルの演奏を各地で繰り広げながらツアーするなんて、完全に自殺行為なんじゃないだろうか。
たとえ計画倒れに終わってしまうとしても、遠く離れた国でエクストリームメタルを愛し奏でる2つのバンドが、東アジアの同好の士に自分たちの音楽を届けるべく、こんなムチャクチャなツアーを企画していると考えると、なんだかちょっと胸が熱くなるのも確かなのだった。
でも、いくらなんでもこりゃさすがに無理。
金も体力も続くわけがないって。
来日公演の会場決定!みたいな続報を書くこともなく、このまま忘れ去られてゆくだろうなあ、と思っていた。
実際、インド人の音楽ジャーナリストも、当時こんな見切り発車の計画を行う彼らに呆れ果てていて、「面白いじゃん、これぞロックンロール」みたいなことを言っていた私は「そうは言っても、ツアーを信じてなけなしのお金をクラウドファンディングにつぎ込む真剣なファンのことを考えてみたら、こんなことすべきじゃないって」とたしなめられたものだった。
ところがだ。
Gutslitさん、本当にごめんなさい。
ちょっとナメていたのかもしれません。
あなたの誠実さを疑っていた私が間違っていました。
彼らの来日公演が本当に決まりました。
これが証拠のフライヤーです。

例によって触ったらケガしそうなトゲトゲしたロゴは読めないが、日本のデスメタルバンドWorld End ManとStrangulationの共同企画によるライブイベントで、彼らとInfested Malignancyが日本からGutslitとStillbirthを迎え撃つ。
場所は西荻窪flat
小さなライブハウスみたいだけど、会場の大きさの問題じゃねえんだ!
日本のエクストリームメタルバンドとしては、兀突骨とDefieledがインドツアーを成功させているが、インドのメタルバンドの来日はおそらく初めて!
記念すべきインディアンメタル初来日公演というわけなのです!
ちなみに最新のツアースケジュールをチェックしてみたところ、多少の変更はあったようで、ツアー前半では9/27のカンボジア、9/29〜10/1までの未決定だったところはキャンセルになったようだ。
ツアー後半でもフィリピンは結局10/3のマニラ公演だけになり、日本の翌日10/6の韓国公演もキャンセルになった模様。
でもよかったよ。これくらいじゃないと本当に死んじゃうよ。
デスメタルってそういう意味じゃないから。
とはいえ、日本公演はフィリピン、台湾と続く3カ国3日連続公演の3日目!
疲労困憊であろう彼らがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、Gutslitの命がけのライブを見逃すな!
と、力を込めてみたところで水を差すようでなんなんですが、FacebookでGutslitが作っているイベントページによると、どうもここ日本のライブだけ、明らかに興味を持ってる人が少ないみたいなんですな。


日本以外だと台湾も少ないけど、この2カ国って、メタルシーンがわりと内向きなんだろうか。
遠路はるばる来ていただくのに、これじゃあさすがに申し訳ない。
せっかくのインドのメタルバンドの初来日公演、ぜひみなさんで盛り上げて行きたいところです。
じゃあ当然お前も行くんだよな、という声が聞こえてきそうだけど、じつはその日は私、仕事でどうしても職場に貼り付いていなければならない用事があり…モゴモゴ(本当)。
大変残念なことに、涙を飲んで参戦保留。
くーっ、久しぶりに暴れたかった!
どなたか行かれる(あるいはイカレる)人がいらっしゃったら、ぜひレポートをお待ちしています!
以上、軽刈田 凡平でした。
2018年07月21日
Demonic Resurrectionによる驚愕のインド神話コンセプトアルバムの中身とは!
今回は、前回の記事で書いた通り、彼らによるインド以外ではありえない驚愕のコンセプト・アルバム"Dashavatar"を紹介します!
その前に、まずインド人の約8割が信仰するヒンドゥー教についておさらい!
ヒンドゥー教は、キリスト教やイスラム教のように特定の開祖を持つ一神教とは大きく異なる特徴を持つ。
ヒンドゥー教は紀元前2,000年〜1,500年頃に現在のイランあたりからインドに進入したアーリア人が起こした「バラモン教」をルーツとし、様々な土着の民間信仰を取り入れながら成立した。
こういった成立過程の宗教だから、輪廻と解脱の概念やカースト制度といった共通項はあるものの、様々な神様が崇められている多神教であり、時代や地域によって人気のある神様が変わったり、信仰する神様によって重要な神話(例えば宇宙の成立過程)が異なっていたりする。
そもそも、「ヒンドゥー」という名称からして、インド人が自ら名乗り始めたものではなく、ペルシア人たちが「インダス川の東に住む人々の信仰」という意味で呼び始めたものであり、単一の信仰を指すものでは無かった。
どちらかというと、仏教やキリスト教のような一神教よりも、「八百万の神」を信仰の対象とする日本の神道に近い成り立ちの宗教と言うことができるだろう。
そのヒンドゥー教で最も人気のある2大神様といえば、シヴァ神とヴィシュヌ神。
とくに、ヴィシュヌ神はさまざまな土着の信仰や神話と融合、合併し、今日では有名なものだけでも10のアヴァター(化身)を持つ神とされている。
この10のアヴァターをサンスクリット語で"Dashavatara"と呼ぶ。
そう、今回紹介するDemonic Resurrectionのアルバム、"Dashavatar"は、この10の化身ひとつひとつを楽曲の形に昇華した、壮大にして神話的なコンセプトアルバムだというわけだ。
それぞれの曲のタイトルが、ヴィシュヌ神の10の化身のひとつひとつを指していて、曲順もご丁寧にそれぞれの化身がこの世界に登場したと言われる順番になっている。
収録順に見ていくと、
1.Matsya(半人半魚)
伝説によれば、太陽神スーリヤの息子マヌ王が祖先の霊に水を捧げるべく川へ入ると、手の中に角を生やした小さな金色の魚マツヤが飛び込んで来て、大きな魚に食べられないよう守って欲しいと頼んできた。
マヌはその金色の魚を瓶の中に入れて育てたが、魚はすぐに大きくなった。
そのため池へ移されたが、すぐに成長して入りきらなくなるため、川へそして海へと次々に移されていった。
マツヤは7日後に大洪水が起こり全ての命を破壊することを予言した。
マヌは海にも入りきらなくなった巨大魚マツヤがヴィシュヌの化身であることに気づいた。彼に船を用意して七人の賢者と全ての種子を乗せるよう言うと魚は姿を消した。
やがて大洪水が起こり、マツヤ(ヴィシュヌ)は船に竜王ヴァースキを巻きつけてヒマラヤの山頂まで引張った。
こうしてマヌは生き残り人類の始祖となり、地上に生命を再生させた。(Wikipediaより。一部修正加筆。以下同)
2.Kurma(亀)
Kurmaは神話上の乳海攪拌の際、攪拌棒に用いられたマンダラ山を海底で支えた大亀。
(乳海攪拌とは、神話上の神々と悪魔との戦いの中で、神が霊薬「アムリタ」を得るために「乳の海」を攪拌したことを指す。広大な乳海をかき混ぜるために、海底の巨大亀Kurmaの上に大マンダラ山を置き、その山に巻きつけた龍王ヴァースキを引っ張ることで攪拌を行ったそうな。スケールが大きすぎるのとシュールすぎるのとで、だんだんわけが分からなくなってきたと思うけど、先は長いのであんまり気にしないように。あとさっきからロープ代わりに使われてる竜王ヴァースキの扱いが悪くてかわいそう。)
3.Varaha(猪)
後にそれは4本の腕を持ち、2本で車輪と法螺貝、残りの手で矛、剣あるいは蓮を持ち、あるいは祈りの姿勢をとる姿で描写された。
大地は猪の牙の間に握られていた。
(「純粋な猪」とか、「大地は猪の牙の間に握られていた」とか、最後の一文とか、よくわからない要素が増えてきたが、あんまり難しく考えずに次に進もう)
4.Vamana(小人)
(今ひとつ神話の内容が頭に入ってこない理由は、神話のストーリー展開が唐突なだけじゃなくて、名前が馴染みにくいってこともあるよね。「バリ(チャクラヴァルティ)」ってどういう意味か。a.k.a.みたいなことなのか。あと不思議なことに4曲めと5曲めだけ、神話と曲の順番が逆になっている。)
5.Narashimha(獅子面の人間)
6.Parashurama(聖仙)
斧を持ったリシ(聖仙)のアヴァターラ。一部のクシャトリヤ(戦士たち)が極端に力をもち、己の愉楽のために人々の財産を奪うようになった。斧をもったパラシュラーマが現れ、邪悪なクシャトリヤを滅ぼした。
(この曲はYoutubeになかったのでこちらからどうぞ)
7.Rama(王子)
大聖ヴィシュヴァーミトラの導きによって、ミティラーの王ジャナカを尋ね、そこで王の娘シーターと出会い、結婚する。
しかしバラタ王子の母カイケーイー妃によって、14年の間アヨーディヤを追放された。ダンダカの森でラーヴァナによってシーターを略奪され、これをきっかけにラークシャサ族との間に大戦争が勃発する。
(以前紹介したAnanda Bhaskar Collectiveの"Hey Ram"もこのラーマ神のことだ。とても人気のある神様なので、RamやRamaという名前は「神よ!」というような一般名詞的な呼びかけとしても使われている。)
8.クリシュナ(牛飼い)
ヒンドゥー教でも最も人気があり、広い地域で信仰されている神の1柱であり、宗派によってはクリシュナとして、あるいはヴィシュヌの化身(アヴァターラ)としてスヴァヤン・バガヴァーン(神自身)であるとみなされている。
(今度はラーマヤーナと並んで有名なインド古典の超大作文学、マハーバーラタの中の主要キャラクター、クリシュナ。細かく紹介するとあまりにも長くなるので割愛!)
9.Buddha(仏陀)
ヒンドゥー教の伝統の多くに於いては、ブッダをダシャーヴァターラ(神の十化身)として知られる最も重要な10の化身の最も新しい(9番目の)化身を演じさせている。これは大乗仏教の教義がヒンドゥー教に取り込まれ、ヒンドゥー教の1宗派として仏教が扱われるようになったためである。後述の通り、偉大なるヴェーダ聖典を悪人から遠ざけるために、敢えて偽の宗教である仏教を広め、人々を混乱させるために出現したとされた。
(Youtubeになかったのでこちらからどうぞ。そう、仏教の開祖である仏陀ことゴータマ・シッダールタは、ヒンドゥー教の中ではヴィシュヌ神の化身のひとつとされているのだ)
10.Kalki(汚辱の破壊者)
翼の生えた白馬とともに現れる最後のアヴァターラ。宇宙を更新するために悪徳の時代カリ・ユガの終わりに登場するとされる。白い駿馬に跨った英雄、あるいは白い馬頭の巨人の姿で現される。
(この曲もYoutubeになかったので、こちらからどうぞ。この世紀末的なKalkiはインド的神秘主義好きに好まれる存在のようで、同じ名前のフランスのサイケデリックトランスアーティストもいる)
と、ついつい全曲背景となる神話を紹介してしまったが、リリックビデオを見てもらえれば分かる通り、インド神話を知らないと何のことやら分からない単語がいっぱい出てくる、まさにインドならではのヘヴィーメタルなのだ。
例えば3曲目のVarahaの歌い出しはこんな感じだ。
”新たなカルパ(劫=宇宙単位の長い時間)の夜明けに
ブラフマー(インド神話の創造神)がその創造物を作り上げたとき
ブーミデヴィ(地母神)は波の上に投げつけた… "
と、独特の固有名詞が多すぎて、インド神話の予備知識が無いと何のことだか全然わからない。
いや、インド神話を調べてみたうえで訳してみても、やっぱり難解であることに代わりはないのだけど、なんとなく神話的な雰囲気で楽しめるようにはなってくると思う。
まあとにかく、Demonic Ressurectionのシンフォニック・デスメタルサウンドは、この途方もなく壮大なインド神話の世界を雄弁に語っているわけだ。
このヴィシュヌの10の化身こと"Dashavatara"、インド国民どれくらい深く親しまれているかというと、こんなアメリカのヒーローものみたいなテイストのアニメ映画が作られていたりもする。
こんなアルバムを作るなんて、Demonstealerなんて凶々しい名前を名乗ってるけど、きっと敬虔なヒンドゥー教徒なんだなあー。
と思って尋ねてみたら、彼の回答はこんなだった。
「いや、俺は無神論者で、いかなる神も信じていない。俺は宗教はとにかく大っ嫌いで、人間が作り出した最悪のものだと思ってる。神や宗教は人々をコントロールするためのただの道具だね。ヒンドゥー教にいたっては宗教ですらなくて、ただの生活様式だよ。俺に言わせればヒンドゥーはただの馬鹿な連中が信じてる教訓めいた物語で、偶像を作っては崇めてるのさ」
と、気持ちいいほどの全否定っぷり。
考えてみれば、料理番組で牛肉をがんがん料理している彼が敬虔なヒンドゥー教徒なわけがない。
それならば、いったいどうしてこんなヒンドゥー神話をテーマにしたアルバムを作ったのだろう。
「そうは言っても、神話の物語時代は面白いし、俺にとって興味深いものなんだ。実際のところ、俺はこういう物語をすごく笑えるくだらない形で見て育ったんだ。地元のテレビで神話のドラマをやってたんだけど、すごく変だったから、全然興味が持てなかった。でも俺のかみさんがナラシンハ(獅子男)の物語を話してくれた時、それがすごくクールだったから、それ以来はまっちゃったってわけさ」
このDashavatar、ヘヴィーメタルのコンセプトアルバムとしての完成度もとても高く、純粋に音楽としてもっと評価されるべき一枚だと思う。
でも、それにも増して、ヘルシー料理のインドにおけるパイオニアにして、あらゆる宗教を否定する無神論者が、奥さんから教わったヒンドゥー神話をもとに作ったデスメタルのコンセプトアルバムって、もうそれだけで面白すぎる要素が盛りだくさんだ。
神話と無神論、ヒンドゥー教と牛肉食も辞さない健康食、背徳的なデスメタルと愛妻っぷりという矛盾する要素が違和感なく1人の表現者、1枚のアルバムの中に収まっている。
Demonic Resurrectionの"Dashavatar"は、音楽的な内容だけでなく、こうしたバックグラウンドをとってみても、現代インドの価値観の多様性を象徴するアルバムになっているのだ。
続いてSahilは、その子どものころみていたというヒンドゥー神話に関するテレビ番組について教えてくれた。
「俺が言っていることはこの番組の様子を見れば分かるはずだよ。アルバムに入ってるのと同じヴィシュヌの化身(Avatar)がどんなに馬鹿げた感じになってるかってね。」
うーん、人様が信仰の対象にしているものをおちょくるようなことは基本的にはしたくないのだが、10分くらいからの、生身の人間が演じているヴィシュヌ神なんかはやっぱりちょっと無理があるように思うなあ。
さらに続きはもっと凄い。コントの西遊記みたいなことになってる。
途中、何かに配慮してか、モザイクみたいなのも入るけど、気にせず見続けて欲しい。
ヴィシュヌの化身たる聖なる魚、Matsyaが出てきてからが(1:30あたりから)本当にヤバい!
「このメイク、衣装、見た目、すべてが馬鹿げててくだらないだろ」
とサヒールは言うが、う、うん。思いっきり同意するしかないね。
さて、そんな彼らは自分たちをどうカテゴライズしているのだろうか。
ヒンドゥー神話をテーマにしたヴェーディックメタルというカテゴリーもあるわけだが。
とのこと。
まあ、そりゃ無神論者だしそうなるわな。
今回紹介したDashavatarのみならず、Demonic DesurrectionやDemonstealerについては、いろんなアルバムがネット上でも聴くことができるので、興味のある人はぜひチェックを!
さて、今回のインタビューに協力してくれたDemonstealerことSahil、ケトン料理研究家としてもますます活躍しており、最近ではこんな本も出版した模様!

そして本業の音楽でも(もはやどっちが本業か分からないが)イギリスの大規模野外メタルフェス、Bloodstockへの出演が決定した模様!
ヘヴィーメタルという枠組みを越えて、国際的な活躍をするアーティストとして、これからも注目してゆきたいと思います。
さらに、彼にはもうひとつ別の顔があり、それはレーベルオーナー。
自身の名を冠したDemonstealer Recordsから、自身のバンドDemonic ResurrectionやThird Sovereign、Albatrossといったインドのメタルバンドだけではなく、Dimmu Borgir、Behemothといった海外の大御所バンドのアルバムもディストリビュートしている。
インドのメタルシーンと健康食シーンという、正反対の二分野で比類なき活躍を続けるSahil Makhija、又の名をDemonstealer.
バンドもますます世界的な評価を得てきていて、やがて来日公演なんかもしてくれるかもしれない。
(してくれたらいいなあ)
その時には、ケトン食で健康的になった体で暴れに行くぜ!
といったところで、また!
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2018年06月27日
メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!
軽めといっても音楽的には重め!
今回は北東部ミゾラム州のデスメタルバンド、我らが Third Sovereignが出演している謎の音楽番組を紹介します!
Third Sovereignに関しては、こちらの彼らへのインタビュー記事をどうぞ。
デスメタルというコアな音楽性ながら、このブログ史上最多の「いいね!」を獲得した人気記事となっております。
インドの音楽シーンを見ていくうえで非常に大事なことを語っているので、メタルなんか聴かないよという人も是非ご一読を!
さて、本日紹介する番組は、その名も「Headbanger's Kitchen」
内容はというと、「ヘビーメタル・クッキングショー」という、かなりシュールというか意味不明なもので、メタラーっぽい料理人が大真面目に料理の作り方を披露するという訳のわからなさ。
毎回インド国内や海外のいろんなミュージシャンを招いて料理とメタルを紹介するという、おそらく世界でも唯一無二の番組だ。
インドでも、メタルという過激で暴力的な音楽を、料理という日常的で家庭的なものと対比させて面白がる、っていうメタ的な楽しみ方が成立するほどに、音楽の聴き方が成熟しているってわけだ。
Third Sovereignがゲストとして出演しているこの回で紹介される料理は「Necro Chili Con Carne」(暗黒チリ・コン・カルネ)とのこと。
なんじゃいそりゃ、と思うけど、その模様はこちらからどうぞ。
見てもらうと分かるが、このネクロ・チリ・コン・カルネ、別にThird Sovereignにちなんだ料理というわけでもなく、バンドのメンバーがいっしょに料理をするというわけでもなく、もっぱら司会の男性が一人で進行。
意外にも料理のコーナーはこれといったおふざけもなく、肝心のメタルの要素もないまま極めてまっとうに進んでゆく。
で、料理のコーナーが終わると今度はいよいよ司会の男性によるThird Sovereignへのインタビューが始まる(11:05頃から)のだが、このインタビューも、作った料理を食べながらするわけでもなく、好きな食べ物の話題が出るでもなく、今度は料理のことなんか忘れてしまったかのように普通のインタビューが始まり、ますますわけのわからなさが募る展開となっている。
インタビューでいちばん右に座っているインド訛りの少ない流暢な英語を話している男性が、このサイトでインタビューさせてもらったVedant.
この映像を見て、アタクシのインタビューのときは分かりやすいようにずいぶんゆっくり話をしてくれていたんだなあ、と再認識した。
彼はそういう気配りがさりげなくできる男です。
気になって調べてみたところ、この司会の男性はなんとムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionのヴォーカリストを務めるSahilという人物だということが判明!
Demonic Resurrectionはなかなか個性的なバンドで「いつか紹介したいアーティスト」のリストに入れていたのだけど、こんなところでこんな形で会ってしまうとは…。
でもせっかくなので紹介すると、彼らはドイツの有名なメタル系フェス、ヴァッケン・オープンエアにも出たことがあり、この5月にも英国ツアーを成功させた国際的にも高く評価されているバンドだ。
ヴァッケン出演時の模様がこちら。
この番組紹介の映像で、「キート、キート(Keto)」と連呼しているので何かと思って調べてみたら、どうやらこれは日本では「ケトン食」と呼ばれている健康食のことらしい。
「ケトン食」とは、もともと小児難治性てんかんの治療のために開発された食事法で、糖や炭水化物の摂取を大きく制限してエネルギーの多くを脂肪やたんぱく質から取るというもの。
日本でも流行った「低炭水化物ダイエット」「ロカボ」にも似たもののようだが、検索すると、日本でも「ケトン食ががんを消す」とか、「奇跡の食事療法」といった本も出版されており、世界中に熱心なファンがいる健康法のようだ。
で、その熱心なファンのインド代表がこのDemonic ResurrectionのヴォーカリストのSahilということのようで、この番組は単なるメタルと料理のミスマッチを狙ったバラエティー番組ではなく、このケトン料理のレシピを視聴者の健康のために紹介するという、非常に真面目な使命を持ったもの(にメタルアーティストのインタビューも入っている)なのだ。
インド料理はチャパティーや米、ジャガイモなどで炭水化物過多になりやすいと言われているのだが、まさかデスメタルバンドのヴォーカリストが食事療法を通してインドの健康状況改善に取り組んでいるとは思わなかった。
インドのデスメタルシーン、奥が深すぎる…。
さらに謎なのは、Sahilが紹介しているレシピがチリ・コン・カルネだということ。
チリ・コン・カルネは米南部テキサス州からメキシコあたりで食べられている、いわゆる「テックスメックス」料理で、英語風にチリ・コン・カンと呼ばれることもある。
そのメキシコ料理(と番組では紹介されている)のチリ・コン・カルネを、サヒールさん、インドでは手に入りづらいと言いながらアボカドを使ったワカモレを作ったり、かなり本格的な作り方でクッキングしているではないか。
食に関しては一様に保守的と言われているインドで、何故に遠く離れたメキシコの料理なのか。
謎を解くカギは、「新版 インドを知る辞典」(山下博司・岡光信子著)という本の中に見つかった。
この本の中の最近のインドの夕食事情についての記述で、こんなことが書かれていた。
「都会の裕福な家庭では、インド料理だけでなく、時には中華料理、メキシコ料理、タイ料理、西洋料理なども並べられる」
なんと、家庭でよく食べられる外国料理の2番目にメキシコ料理が来ているではないか!
1番目が地理的にも近く、世界的にも美食とされている中華料理なのは分かるとして、その次に遠く離れたメキシコ料理。
これは日本でいうとイタリア料理あたりのポジションということだろうか。
でもよく考えてみたらインド料理で欠かせない唐辛子も、サモサ等でよく使われるジャガイモも、もともとは中南米原産。
香辛料をたくさん使うという共通点もあるし、メキシコ料理はじつはインド人にとってかなり馴染みやすいものなんじゃないだろうか。
と思ってデリーやムンバイのメキシカンレストランをググってみたら、あるわあるわ。
しかも、メキシコ料理専門店だけじゃなくて、「インド料理とメキシコ料理」とか、「イタリアンとメキシコ料理」みたいなお店がたくさんヒットする。
ムンバイに暮らすインド人の友人に聞いてみたところ、「ナチョスやケサディーヤ、タコスやブリトーは一般的だよ。インド風に料理されたものだけどね。裕福な人は専門店で本物のメキシコ料理を食べてるんじゃないかなあ」とのこと。
おお!インド風にアレンジまでされているなんて、まさに日本でいうところのイタリアン、たらこスパゲッティーやナポリタンを彷彿とさせるじゃないか!
ちなみに大航海時代に中南米原産の唐辛子(チリ)がインドに渡ってきて料理が発展していった様子は「インドカレー伝」(リジー・コリンガム著、東郷えりか訳)という本に詳しい。
食に関しては戒律や浄・不浄の概念のせいで保守的と言われるインド人だが、じつはとっくの昔に食のグローバリゼーションを成し遂げていた、とも言えるわけだ。
さらに余談だが、メキシコで伝統的なコーヒーの飲み方の「カフェ・デ・オジャ」といえば、コーヒーにシナモンを入れたもののことを指す。
シナモンは南アジア原産の香辛料。
中南米原産の唐辛子がインドの料理で、南アジア原産のシナモンがメキシコの飲み物でそれぞれ欠かせないものになっている、っていうものなかなかに面白い話なのではないかと思う。
話を番組に戻すと、もうひとつ驚いたのは、このレシピに牛肉が使われていること。
ご存知のとおり、インドでは人口の8割がヒンドゥー教を信仰している。
ヒンドゥー教において牛は「聖なる動物」とされており、殺したり食べたりすることに対する忌避意識は相当に強いものがある。
とくに、ヒンドゥーナショナリズム的な傾向が高まっている昨今では、牛の屠殺を禁じる法律が州議会で可決されたり、牛肉を所持していたイスラム教徒が集団リンチにあったりするという事件も起きている。
田舎だけではなく、Demonic Resurrectionの本拠地、大都会のムンバイでも起きていることだ。
その中で、あえて(それもさも普通のことのようにしれっと)牛肉を使った料理を紹介するっていうのは、じつはすごく勇気がいることなんじゃないだろうか。
この「チリ・コン・カルネ(chili con carne)」はもともとはスペイン語で、conは英語のwith、carneはmeatを意味している。
このカルネは本場メキシコやテキサスでも必ずしも牛肉である必要はなく、鶏肉でも良いとされている。
何故そこを、あえてそこを牛肉で行くのか?
もちろん、牛肉のほうが美味しい(少なくとも、Sahilにとっては)ということなのだろうが、本当にそれだけだろうか。
これは完全に想像だが、Third SovereignのVedant がインタビューで言っていたように、彼らメタルミュージシャンにとってはヘヴィーメタルこそが宗教というか信念の拠り所であって、既存の宗教による規範になんてとらわれねえぞ!という意識が働いているの可能性はないだろうか。
Sahilが所属するDemonic Resurrectionの曲の中には、こんなふうに冒頭で神の実在や慈悲を否定しているものもある。
(男塾の民明書房風に書くと、この曲はマツヤというタイトルだが、牛丼をテーマにした歌ではなく、だから番組でも牛肉を食べているのでないことは言うまでもない)
冒頭の語りに続いて始まるシタールとメタルサウンドの融合がシビれる!
しかもそれが単なる意外性だけで終わらずに、ドラマチックな曲調の中で非常にうまく使われているのが印象的だ。
冒頭で神の権威を否定している一方で、歌詞にはヒンドゥー教的な単語もずいぶん出てくる。
が、大事なのはダルマ(Dharma=法、理ことわり)であって、様々な神々はその多様な側面を表したものに過ぎない、というのもまたインドの哲学の一部。
これはこれで非常にインド的なメタルと言えるのではないだろうか。
また別の曲では、ヒンドゥーの神々がばんばん出てきて、もう完全にヴェーディックメタル!
(ヴェーディックメタルについてはこちらをどうぞ)
デス声以外の部分も多く、ドラマティックにインド神話の世界創造を歌った壮大すぎるテーマのメタル組曲だ。
思うに、彼らは曲を書くにあたって、ヘヴィーメタルにふさわしい題材として、インドの伝統であるヒンドゥーの神話世界を扱ってはいるものの、ヒンドゥー教という宗教を生活の規範にしようというつもりはさらさらない、というスタンスで活動しているのではないだろうか。
それから、つい歌詞や背景の分析が長くなってしまったけど、ブルータルだったりテクニカルだったりするデスメタルバンドが多いインドのメタルバンドの中で、Demonic Resurrectionのドラマチックかつシンフォニックなサウンドは非常に個性的で面白い。
楽曲もよくできていて、演奏レベルも非常に高く、欧米でツアーができるほどに人気があるのもうなづける。
日本でももっと人気が出てよいタイプのサウンドじゃないだろか。
それにしても、この動画のトップ画像を見ていたら、最近ちょっと太り気味のアタクシもケトン食やってみようかな…という気持ちになってきてしまった(内容は、体重の数字だけじゃなくて、トータルの健康に気を配れ、っていうみんなが言うやつなんだけど)。
糖質や炭水化物の摂取をやめると初めのうちはイライラすると聞くが、そんなときに彼らのデスメタルを聴けば気分もすっきりするかもしれない。
余計怒りが込み上げてきて何かを破壊したくなるかもしれないが。
ああ、今回も軽い話題のつもりがずいぶん長くなってしまった。
楽しんで読んでもらえたら良いのだけど。
それでは今日はこのへんで!
2018年06月09日
アルナーチャルのメタル・ブラザー、Tana Doniの新曲!

当時はAlien Godsというバンドのギタリストとしてインタビューに答えてくれたが、現在は自らがギターとヴォーカルを務めるこのSacred Secrecyというバンドでライブを重ねており、Sacred Secrecyのスタジオレコーディング音源としてはどうやらこれが最初のリリースとなる模様。
今回リリースした曲は、"Leech" (見慣れない単語なので調べてみたら、意味は"蛭")と"Shitanagar".
どちらもブルータルでグルーヴィーなデスメタル!
速さやテクニカルに走るバンドが多い中で、このスタイルは逆に新鮮に響くのではないだろうか。
"Shitanagar"
曲はこちらのサイトReverbNationから視聴&無料ダウンロード可能なので、メタルヘッズのみなさんはぜひ聴いてみてください。
"Shitanagar"は、彼のホームタウンのイタナガル(Itanagar)にクソのShitを合わせたタイトルで、無理やり訳せば「クソナガル」か。
辺境の田舎町で暮らさざるを得ない彼の気持ちが歌われており(というか咆哮されており)、以前聞いたところによると、
俺たちはクソの川から水を飲む…
気づかないままクソまみれの穴の中で暮らす…
クソの上で転がっているのに幸せだと思っている連中…
ブタのほうがまだ清潔なくらいだ…
クソナガル…
といった歌詞。
ワタクシからはさすがに行ったこともない街をここまでディスるのは憚られるが、閉鎖的な田舎の小さな街でデスメタルみたいなコアな音楽を演奏する彼の焦燥感やある種の絶望感は想像に難くなく、むしろパンク的なアティテュードの曲だと言える。
厭世的な歌詞を極端に激しいサウンドに乗せることで憂鬱をぶっとばす、というのはパンクロック以降に発明された退屈への特効薬だ。
こういうタイプの(まあ表現はずいぶん過激だが)屈折した故郷への感情は、かえって国や地域を問わない普遍的なものなんじゃないだろうか。
ところで手前味噌でなんだけど、Tanaへのインタビューに至る、インド北東部のメタル事情を巡る一連の記事は結構面白いと思うので、改めてリンクを貼っておきます。
まずはイントロダクション。インド固有?の神話メタル、ヴェーディック・メタルについてはこちらから
インド北東部はもしやメタルが盛んなのでは?という疑惑と推論の記事はこちらから
記念すべき当ブログインタビュー第一弾、Tanaへのインタビューはこちらから
やはりインドの北東部はメタルが盛んみたいだ、という統計と分析はこちらから
忘れた頃に返事が来た、ミゾラム州のメタルブラザーVedantのバンド、Third Sovereignについてはこちらから
Third SovereignのVedantへのインタビューはこちらから
デスメタルばっかりじゃないぜ。シッキム州のハードロックバンド、Girish and the Chroniclesの紹介はこちらから
そのGirishへのインタビューはこちらから
うわ、こんなに書いてたのか。
たぶん、インド北東部のメタル事情に関しては、俺が日本でいちばん詳しいんじゃないかと思うよ。
これからも、こんなもの好きなこのブログをヨロシクお願いします。
2018年04月30日
なんと!インドのデスメタルバンドが来日!
そのツアーには、なんとここ日本も含まれている!
インドのメタルバンドとしては、いや、ひょっとしたらロックバンドとしても初の来日公演ではないだろうか?
"Amputheatre"収録の彼らの曲を改めて紹介します。"Scaphism"
わりと古典的なデスメタルのスタイルだけど、演奏もタイトでめちゃくちゃレベル高い!
あとベーシストがシク教徒なのだろうが、しっかりとターバンをかぶっているのだけど、音楽性に合わせて色は黒!というところもかっこいい。
今回の来日はドイツのデスメタルバンドStillbirthとのスプリットツアーとなるようで、その名も"Gutted at Birth"ツアー!(Cannibal Corpseの名盤"Butchered at Birth"のパロディか?いずれにしてもジャンルに違わない悪趣味さ!)
ツアー先は、ドバイ、母国インド、ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、そして日本と韓国での公演が予定されている!

彼らのFacebookページによると、日程は以下のとおり。
21st September Friday - DUBAI
22nd September Saturday - TBA
23rd September Sunday - MUMBAI, INDIA
24th September Monday - DELHI, INDIA
25th September Tuesday - NEPAL
27th September Thursday - CAMBODIA
28th September Friday - Ho Chi Minh, VIETNAM
29th September Saturday - TBA
30th September Sunday - TBA
1st October Monday - TBA
2nd October Tuesday - Manila, THE PHILIPPINES
3rd October Wednesday - Cebu, THE PHILIPPINES
4th October Thursday - TAIWAN
5th October Friday - Tokyo, JAPAN
6th October Saturday - SOUTH KOREA
7th October Sunday - Bangkok, THAILAND日本公演は10月5日、東京のみ。
それはそれとして、おいおい、いくらなんでも日程、タイト過ぎないか?
現時点で未定のところを含めて、17日間で16公演!
これ、演奏無しで移動だけでも結構きついスケジュールだと思うが、さらに各地で激しいライヴを繰り広げるって、なんだかほとんど自殺行為って気が…。
彼ら自身もそれは分かっているようで、バンド創設メンバーのベーシスト、Gurdip Singh Narang(黒ターバンでキメていた彼だ!)はRolling Stone Indiaのインタビューに、
「こんなにタイトな日程でスケジュールを組むなんて、俺たちはキンタマがすわってるだろ。ちゃんと全ての国に機材と一緒に降り立ってプレイできるように、いろんな国の航空会社を信頼するってことさ」
と語っている。
どうやらヨーロッパツアーを終えて自信をつけたようで、Gurdip曰く、
「なぜって、俺はプロモーターを信用してるし、俺は100%有言実行だ。いつもと同じように、考えに考えて計画した通りにやるだけさ」とのこと。
自信満々、頼もしい。かっこいい。
と思ったら、このツアーはクラウドファンディングで成り立っていて、見てみたらまだ予定の金額の10%くらいしか集まっていないみたい…。
大丈夫か?とちょっと心配になるところだが、正直に言うと、超過密なツアースケジュールといい、資金面での見切り発車といい、こういう行き当たりばったりな感じ、理屈抜きでもう最高!って思ったよ。
海外にツアーするようなバンドになると、万が一の間違いもないように綿密に計画されたスケジュールで動きそうなものだけど、本来、ロックンロールバンド(彼らはデスメタルだけど、あえてこう言わせてもらう)のツアーなんてこういうものでもいいんじゃないだろうか。
自分の大好きな音楽をいろんな場所で演奏するために、楽器をバンに詰めてひたすらドサ回り。
海外ツアーだからって姿勢は変わらない、そのバンが飛行機になっただけ。
やるほうは大変だろうけど、なんていうか、こう、夢があるよな。
ボロボロになるかもしれないけど、これがやりたいんだ!っていう熱さがびんびん伝わってくる。
もちろん「そんなのはきれいごと。各地で待つファンをがっかりさせないよう、最高のパフォーマンスをするためには無理は禁物!」っていう意見もあるだろう。
でもさあ、これだけいろんなことがきっちりしちゃってる世の中で、こういう行き当たりばったり&気合で乗り切る!みたいなツアーをするバンドがいるって、ものすごく素晴らしいことなんじゃないだろうか。
いつもインドのロックバンドのことを「インドじゃ楽器買えるのは富裕層だけ」みたいに書いているけど、生半可な根性じゃこんなツアーできないよね。
確かに彼らは裕福な家庭に生まれたのかもしれないけど、その環境に甘えて音楽をやっているような連中じゃない(演奏レベルを見てもそれは一目瞭然)。
彼らの音楽へのハンパない情熱に最大限の敬意を表したいよ。
彼らのことを意気に感じて、ぜひ応援したい!という方はこちらから!
Gutslitのみなさんにコンタクトしてみたところ、あとちょっとでライブ会場やなんかがはっきりするので、インタビューにも応じてくれるとのこと。
乞うご期待!
(このブログ、インタビューの告知ばっかでなかなか掲載されないけど、どうなってんの?とお思いの方もいるかもしれないけど、気長に待って頂きたく。そんなもんよ。インドも人生も…)
インドの今までにインタビューしてきたインドのメタルアーティストのThird SovereignのVedantも、Alien Nation(Sacred Secrecy)のTanaも、日本でのライブが夢だと語ってくれていた。
何度も書いているように、こういったコアな音楽ほど国境は無い。
今回のGutslitの来日でインドのメタルバンドのレベルの高さが知れ渡り、彼らにも道が開けたら良いなと思います。
2018年02月23日
インドNo.1デスメタルバンド 北東部ミゾラム州のThird Sovereign
根拠となったYouTubeはこちら。
突然ではありますが、この度、このランキングで見事1位に輝いたデスメタルバンド、やはり北東部のミゾラム州出身のThird Sovereignにインタビューをすることになったので、直前特集をお届けします。

ミゾラム州の場所はこちら。
以前インタビューしたTanaのいるAlien Godsのアルナーチャル・プラデーシュ州は北東部の最北部、ブータンや中国に接する地域だが、ミゾラム州は北東部の最南端、東をミャンマー、西をバングラデシュに接する山間の森林地帯だ。
「ミゾ」はこの地域に暮らす先住民「ラム」は土地を表し、つまり「ミゾ人の土地」という意味の州ってわけだ。
で、なんでそのインドいちのデスメタルバンドにインタビューすることになったかっていうと、ちょうど1ヶ月ほど前、アタクシは、この記事でも書いた通り、なぜインドの中でも辺境とされる北東部にこんなにたくさんのデスメタルバンドがいるのか、知りたくて知りたくてたまらなかったんである。
そこで、 いくつかの北東部出身のバンドにSNSを通じてメッセージを送った。
なぜ複数のバンドにメッセージを送ったか。
それは、以前とあるミュージシャン(まだこのブログには取り上げていない)に取材依頼をしたところ、まったく音沙汰がなく記事にできなかったことがあり、今回はそんなことがないようにと4つのバンドにメッセージを送ったんである。
そしたら、先日記事にした通り、Alien Gods(Sacred Secrecy)のTanaがさっそく返事をしてくれて、いやな顔ひとつせずに(顔は合わせてないからわからないけど)インタビューに答えてくれた。
本当にいいやつだ。
こういうコアな音楽に国境は無いんだということもあらためて感じた。良かった。
ああ、よかった。
これでインド北東部のメタルミュージシャンの記事が書ける。
やっぱり何人か連絡すれば一人くらいリアクションくれるものなんだな。
という微妙なタイミングの時に、Third Sovereignのメンバーから連絡が来た。
「やあ。インタビューに協力できたらうれしいよ」
お、おう。
ちょっと遅かったけど、せっかくだからいろんなバンドに話を聞かせてもらいたい。
さっそくインタビューの日時を設定。
指定の時間にメッセージを送ってみたけど、あれ?返事がない…。
どうしたんだろう…と思っていたら、その日の夜になって「ゴメン!出かけてた。今からやろう」との連絡が。
北東部とはいえさすがインド人、そういうこともあるよな…。
ずいぶん遅い時間だったので、「俺もう寝るからまたにしよう」って伝えて、すっかりそのままになっていたのだが、先日久しぶりに連絡があった。
「こないだはゴメン、で、インタビューだけどいつにする?」って。
というわけで、今週末、あらためてインタビューの機会を設けることになりました。
さて、前置きが長くなったけど、Third Sovereignの音楽、聴いてみてください。"Sarcofaga"
なんかどういうことになっているんだか分からないけど、ジャケがすごいな…。
おお!
Alien Godsのミドルテンポ主体のグルーヴィーなスタイルもかっこいいが、速くて激しくてタイト!さすがインドNo.1デスメタルバンド!
そして演奏が滅茶苦茶上手い!
この曲では、イントロにミゾラム州の昔話の語りが入ってる!
他の媒体のインタビューによると、音楽性にミゾ人としてのルーツも関わっているみたいで、これはなにやら面白そう!
トレモロリフが入るところがブラックメタル風でもあるし、ドラムの固く締まったサウンドはパンテラのヴィニー・ポールみたいな音像で、いろんなヘヴィーミュージックの要素が詰まっている。
というわけで、最近は久しぶりにこういう音楽にどっぷり浸かっているのです。
インタビューの模様は次回でお届けします。
お楽しみに!
2018年01月28日
デスメタルバンドから返事が来た!Alien Godsのギタリストが語るインド北東部の音楽シーン
こないだのブログで、インド北東部7州「セブン・シスターズ」にどうやら多くのデスメタルバンドがいるらしい、ということを取り上げた。
インドの中でも辺境とされ、自然豊かなこの地域で、どうしてそんなに激しい音楽が流行っているのか。
探ってみるためにいくつかのバンドにメッセージを送ってみたところ、Top 10 Indian Death Metal Bandで第9位の、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsからさっそく返事が来た!
メッセージをくれたのはギタリストのTana Doni.
「俺たちに興味を持ってくれてありがとう。どんな方法でも喜んで協力するよ」
と、なんかいい奴っぽい。
ではさっそく、インタビューの様子をお届けします。
凡「まず最初に、Youtubeやなんかを見ていて、インド北東部にたくさんのメタルバンドがいることに驚いたんだけど」
Tana「アルナーチャルには他にもいいバンドがたくさんいるよ。よかったら紹介するよ」
と教えてくれたバンドは、
プログレッシブ・ブラックメタルとのふれこみのLunatic Fringe
マスロックバンドのSky Level.
現代的なヘヴィーロックで、なかなか面白いギターを弾いている。
ロック系ギターインストのAttam. 彼は近々アルバムを出すという。
凡「イーターナガルとかアルナーチャル・プラデーシュ州のメタルシーンについて教えてくれる?」
Tana「正直言って、シーンはアンダーグラウンドなものだよ。北東部にはいろんなジャンルが好きな人がいるから。でもマニプル州は他の北東部の州よりシーンが発展しているかな」
凡「どんなところで演奏してるの?」
Tana「Govermental hall(公民館のようなところか)とか、Community Ground(屋外の公共の場所か)とか」
なんと。田舎ながらもシーンがあって、愛好家が集うライブハウスみたいなものがあるのかと思ったら、本当に好きな人たちがなんとか場所を借りて続けている状況のようだ。
凡「Alien Godsはブルータルなサウンドが印象的だけど、どんなバンドに影響を受けたの?」
Tana「実は俺は3枚目のアルバムができてから加入したから、よく分からないんだよね。今のメンバーでオリジナルメンバーはボーカルだけなんだ」
またしてもびっくり。でもそれって代わりになるレベルのプレイヤーが身近にいるってことだよね。アングラとはいえそれなりにプレイヤー人口はいる様子。
凡「じゃあ、あなた自身はどう?いつ、どんなふうにこういう音楽と出会ったの?」
Tana「最初はパンクロッカーだった。2007年、高校生の頃のことさ。Blink182やSum41が好きだった。それからハードコア・パンクに興味を持つようになったんだ」
凡「へえー!でもインドってあんまりパンクが盛んじゃないように思うけど」
Tana「インドにもいい感じのアンダーグラウンドのパンクシーンがある。”The Lightyears Explode”はチェックすべきだよ。彼らとは地元のフェスで共演したんだ」
The Lightyears Explodeはこんなバンド。
ポップなサウンドに内向的な歌詞。なかなかいいじゃないですか。
インドだと、メタルバンドはだいたいがとことんヘヴィーなデスメタル系なのに、パンクになるとポップになる傾向があるのかな。
凡「じゃあ、ポップ・パンクからハードコア・パンク、そこからデスメタルって感じなんだね」
Tana「デスメタルの前はブラックメタルだったよ。これが俺の最初のバンドなんだ」
ギターがメロディアスで、日本のメタル好きにも人気が出そうなサウンドだ。
Tana「それからAlien Godsに加入して、今ではSacred Sacrecyっていうバンドもやっている」
Sacred Secrecyはよりブルータルかつテクニカルな感じのバンドのようだ。
凡「好きなバンドとか、好きなギタリストは?」
Tana「いくつか挙げるなら、Cradle of Filth, Dimmu Borgir, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Cattle Description, Strapping Young Ladかな」
凡「どれもデスメタルとかブラックメタルの大御所だね。実は僕、Strapping Young Ladのデヴィン(ヴォーカル/ギター。Steve VaiのSex & Religionというアルバムでヴォーカリストを務めた)はヴァイと一緒のツアーで見たことがあるよ」
Tana「へえ!それはすごくラッキーだね!俺、Strapping Young Ladのコンサートを見るためだったら何でもするよ。彼はまさにレジェンドだね。ところで、マキシマム・ザ・ホルモンってバンドは知ってる?」
凡「もちろん、日本のバンドだよね。日本じゃヘヴィーな音楽はアンダーグラウンドだけど、彼らはすごく人気があるよ」
Tana「だろうね。だからこそ俺が住む北東インドまで彼らの音楽が届いてるんだと思う。彼らのスタイルは好きなんだ。すごく興味をそそるよ。いくつか日本のバンドでお勧めを教えてくれたらうれしいんだけど」
さて、困った。最近のこの手のジャンルは全然知らない。
凡「日本じゃメタルだともっとメロディアスなやつが人気なんだよ。X Japanとか、知ってる?」
Tana「うん。ってか知らない奴いる?」
あ、そうなの。日本の皆さん、インド北東部でもXは有名です。
彼にいくつか日本のバンドを教えてあげる。タナはかなりコアなメタルファンのようで、たとえば日本の老舗ブラックメタルバンドのSighも聴いたことがあると言っていた。
凡「それじゃあ、最後の質問。ミュージシャンとしての夢を教えてくれる?」
Tana「ワールドツアーだよ。俺はステージプレイヤーなんだ。スタジオに座ってるより、ツアーをしていたい」
凡「ありがとう。いつか日本でライブが見られたらうれしいな。またニュースがあったらぜひ教えて」
と、かいつまんで書くとこんな感じのインタビューだった。
インタビューを終えて、いくつかのことについて分かったし、いくつかのことについて反省もした。
まず分かったのは、セブン・シスターズ諸州では、けっしてデスメタルが盛んなわけではなく、世界中の他のあらゆる地域と同じように、メタルはアングラな音楽で、でも根強いファンがいるということ。
それから、ポップなパンクからハードコア・パンクに進み、そこからだんだんよりヘヴィーでテクニカルな音楽が好きになっていったという彼の音楽キャリアは、日本でも欧米でも、世界中のどこにでもあり得るようなものだということ。
反省したというのは、自分の中のどこかに、こんなに辺鄙なところで(失礼)デスメタルをやってるなんて、なにかすごく面白い秘密があるんじゃないだろうか、と無意識に思ってたということだ。
そもそもデスメタルのミュージシャンにインタビューすること自体初めてだったけど、彼とやり取りをしていて、アルナーチャル・プラデーシュという、自分が全く行ったことがない場所の人と話しているという気が全然しなかった。
っていうか、まるでこの手の音楽が好きな日本の後輩と話しているような気さえした。
インターネットで世界中が繋がったこのご時世、ネットがつながる環境さえあれば、世界中のどこにでも、同じようなものに惹かれる人たちがいる。
流行っているポップミュージックは国によって違っても、コアな音楽には国境はない。彼と話をしていて、改めてそう認識した。
また、以前書いたように、インド北東部の人々は、インドのマジョリティーと文化的なバックグラウンドを共有しないがゆえに、よりダイレクトに欧米のカルチャーの影響を受けるのだろう。おそらくはそれがこの地域でデスメタルが盛んなように見える理由だ。
それから、「Strapping Young Ladのライブを見るためだったら何でもするよ」という彼の言葉と、ライブハウスが無いから公民館みたいな施設を借りてライブをやっているということにも、なんというかこう、ぐっと来た。
セブン・シスターズ出身の別のデスメタルバンドが、デリーでライブをやったときのインタビューでこんなふうに答えていた。
(地元でのライブとデリーでのライブの違いはどう?という質問に対して)「地元じゃ誰もヘッドバンギングなんかしないで、みんな座ってじっと見ているんだ。こっちだと音楽に合わせて体を動かしてくれて、デリーのほうがずっといいよ」
おそらく彼らは本当にこういう音楽が好きで、観客が盛り上がってくれなくても、演奏をすること自体の喜びを糧にして演奏を続けているのだろう。
もちろん自分だって、こういうブログをやるくらいだから、音楽は好きなつもりだ。でも「彼らのライブを見るためだったら何でもする」とまで言えるほど好きなミュージシャンがいるだろうか。
ミュージシャン目線で見ても、日本にはいくらでも演奏する場所がある。もし無かったら、自分たちでどこか場所を借りてまで演奏したい、自分たちでシーンを作りたい、自分たちのやっている音楽が理解されなくても、ずっと演奏を続けていたい、そこまで思っているバンドマンが日本にどれくらいいるだろう。
「ぼくが今生きてるのが世界の片隅なのか どこを探したってそんなところはない」と歌ったのはブルーハーツだったが、まさしくその通り。
音楽の世界に中心も片隅もなく、あるのは演奏する人、聴く人の心だけだ。セブン・シスターズのメタルバンドたちは、間違いなくヘヴィーミュージックのど真ん中で演奏を続けている。
Alien GodsのフロントマンSaidはこう語る。
「俺たちはただ音楽が好きなだけなんだ。俺たちは名誉や金のために音楽をやっているわけじゃない。すぐれた音楽を演奏する喜びを感じたくてやっているんだ…」
彼らの音楽が好みじゃないって人たちも、この言葉には感じるところがあるんじゃないかな。
2018年01月26日
インド北東部でいったい何が!? Death Metal from “7 Sisters States”
前回、「インドのペイガン・メタル」なんていう濃いものを書いてしまったので、今回は軽くて洒落ているものを書こうと思っていたら、ああ、なんたること、また濃くてむさ苦しいネタを見つけてしまった…。
「インド北東部7州」といってピンと来る人は、相当インドが好きな人かインド人くらいだと思うので、まずはインドの地図をごらんください。
この菱形に近いインドの地図の東側のコルカタのさらに東、ちょうどバングラデシュに抉られるようになった東の端の、ちぎれてしまいそうな部分。
ここに、英語で”Seven Sisters”と呼ばれる7つの州がある。
アルナーチャル・プラデーシュ州、アッサム州、メーガーラヤ州、マニプル州、ミゾラム州、ナガランド州、トリプラ州の7つの州のことだ。
いずれの州も北インドのアーリア系とも、南インドのドラヴィダ系とも違うモンゴロイド系の民族が暮らしていて、インドの大部分とはまったく違う文化や言語を持った地域だ。
それぞれの州ごとに、異なる言語や文化があり、さながらこの地域は民族のモザイクのような様相となっている。
気候の面でも、どちらかというと乾燥したインドの大地とは異なり、密林が広がる山岳地帯が多く、メーガーラヤ州のマウシンラムという村は年間で最も雨が降った場所(1985年。26,000mm)とされている。
この地域は中国、バングラデシュ、ミャンマー、ブータンと国境を接していて、私がよくインドに行っていた’90年代後半〜’00年代初頭頃は外国人の立ち入りが禁止されていた、まさしくインドの辺境中の辺境。
ちょっと景色や人々を見てみると、こんな感じだ。
メガラヤ州の絶景
マニプル州の谷間の街
ミゾラム州の州都、アイザウル
ナガランドの人々
アッサムの茶畑。まるで静岡みたい。
それぞれ独自の文化を保った人たちが豊かな大自然の中で暮らすのどかな地域っといった印象を受けるね。
Seven Sistersはインド辺境の古き良き文化が残る純朴な7姉妹といったイメージだ。
ところがしかし。
前回の記事を書いている時に、YoutubeのThrashDeath Assaultという物騒な名前のユーザー(どうやらインドのヘヴィーメタル愛好家のようだ)が、Top 10 Indian Death Metal Bandという動画を挙げているのが目についたので、なんとなく見てみることにした。
それがこちら。
ちゃんとバンド名といっしょに出身都市の名前が出てくる親切仕様になっていて、アタクシのような人間にはありがたい。
へえ、インドにそんなにたくさんデスメタルバンドっているんだ、ムンバイとかバンガロールみたいな大都市、国際都市のバンドがたくさん出てくるのかなあ、と思ったて見ていたら、さにあらず。
耳慣れない地名が次から次へと出てくる。しかも、明らかにモンゴロイド系の顔のメンバーがいるバンドが出てくる出てくる。
紹介されているバンド名、出身都市、出身州を並べてみるとこんな感じ。
1. IIIrd Sovereign アイゾール(ミゾラム州)
2. Gutslit : Mumbai ムンバイ(マハーラーシュトラ州)
3. Plague Throat シロン(メーガーラヤ州)
4. Demonic Resurrection ムンバイ(マハーラーシュトラ州)
5. Godless ハイデラバード(アーンドラ・プラデーシュ州)
6. Sycorax ダージリン(ウエスト・ベンガル州)
7. Agnostic グワハティ(アッサム州)
8. Killibrium ムンバイ(マハーラーシュトラ州)
9. Alien Gods イーターナガル(アルナーチャル・プラデーシュ州)
10. Wired Anxiety ムンバイ(マハーラーシュトラ州)
と、なんと例のインド北東部、セブン・シスターズ出身のバンドが4つも入っている。6位のSycoraxの出身地である紅茶で有名なダージリンも、州こそ違うが地理的にはかなり近いところにあり、じつに10バンド中半分がインド北東部出身ということになる。
9位のAlien Godsの出身地イーターナガルなんて、調べてみたら、人口35,000人のこんな町だ。
いったい何故、こんなにのどかな地方でデスメタルを?
しかも、全部、メロディアスだったりシンフォニックだったりしないゴリゴリの骨太な感じのやつだ。
ひょっとするとこれは選んだ人がこのへんの地方の人で、恣意的なランキングなんじゃないかと、今度は、www.toptens.comというサイトの「Top 10 Metal Band in India」という記事を見てみた。
Top 10といいながら144位までランキングされていて、まずそもそもインドにそんなにメタルバンドがいるってことに驚いた(最後のほうは「High School Band」とかも出てくるからなんとも言えないが)んだが、このランキング(デスメタルに限らない)でも、東北7州のバンドはTop10入りこそ逃したものの、100位までで21組もいる。
参考までに書くと、セブン・シスターズの人口は4,500万人。インド全土の人口の3.7%に過ぎない。州のGDP、一人当たりGDPも比較的低い州ばかりだ。
豊かな自然や独自の文化があり、楽器なんかもそうそう流通してなさそうな(買うお金だってバカにならないし)これらの州で、いったいなぜデスメタルが流行っているのか。
ナガランドなんかは、昔は首刈りの風習があって、一人前の大人の男と認められるには余所者の首を刈ってこないといけない、っていう習慣があったところなので、なんかこう、残虐性に惹かれる文化があるのだろうか。
それとも、この地域は歴史的にゲリラ的な独立闘争運動が盛んだったことから、インド政府に隷属せざるを得ない怒りのようなものが蓄積されているのだろうか。
ひとまず、どんなバンドがいるのか見ながら考えてみようか。
とはいえ、あんまり動く映像があるバンドが多くないんだよなあ。
まずは、インドのデスメタルバンド10選の3位、メーガーラヤ州のPlague Throatをどうぞ。
このバンドはドイツのフェスティバルでの演奏経験もあるようだ。
しっかし、デスメタルとはこういう音楽と分かっていながら、どうしても酒を飲みすぎて猛烈な頭痛と吐き気を催し、トイレでのたうちまわっている状態のように聴こえてしまって仕方がない。
デスメタルだなあ!とは思うけど、あまりにも類型的すぎてなんとも言えないなあ。まあ、それだけ良くできているとも言えるが。
続いては、インドのデスメタルバンド10選の9位、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsのコルカタでのライブの様子がこちら。
あんなのどかなところ出身なのに、なぜこんなことに。
田舎のお母さん、心配してるよ。まあそれ言ったらSlipknotの故郷のアイオワだってど田舎なわけだから言いっこなしかもだけど。
今度はデスメタルから離れまして、インドのメタルバンド100選から18位のバンド、アッサム州のXontrax.
音は激しいけど、なんか短髪のメンバーがすごく真面目そう。
邪悪な感じがあんまりしないな…。もっともてそうな音楽やれよ、って言いたくなる感じ。
続いて、インドのメタルバンドベスト100の41位、ミゾラム州のComora、お聴きください。
おお、ちゃんとした(?)ミュージックビデオだ。
こちらもサウンドは激しいけど、なんかすっげえ朴訥。山の中で民族衣装を着て演奏してる…。なぜこのシチュエーション、この格好でこの音楽なのか。
続いて、メタルバンドベスト100の58位、首刈りがかつて行われていたというナガランドのIncipitというバンド。
これ、メタルじゃないじゃん。なんかジャーニーみたいな爽やか感じのロック。
メンバーやっぱり朴訥としてるなあ。
うーん、ランキング下位のバンドになってくると、朴訥ばかりが気になって、なにが彼らをメタルに駆り立てているのか、映像を見てもよく分からない。
ここから先は完全にアタクシの推測。
高野秀行の「西南シルクロードは密林に消える」って本によると、2002年ごろのナガランド州ディマプルという町の様子はこんなふうだったという。
何よりも意外だったのは、その若者たちのファッションだ。Tシャツか派手な柄のシャツをだらっと着流し、下は膝小僧が見え隠れするくらいの長さのハーフパンツ。頭にはバンダナを巻くかアポロキャップをかぶり、素足にジョギングシューズをはいている。いわゆるヒップ・ホップ系のストリート・ファッションというやつだ。
女の子もまちがってもサリーなど着ておらず、茶髪が多く、服装もTシャツにジーンズなどで、これまた日本の今時の若い子と変わらない。
(中略)
「ナガ人はクリスチャンだから、インド人よりずっとアメリカナイズされているんだ」
そう、インド全体では2%に満たないキリスト教徒だが、セブン・シスターズ諸州では人口の2割ものクリスチャンがいる。人口規模が圧倒的に多いアッサム州にヒンドゥー教徒が多いので、地域全体では2割にとどまっているが、ナガランド、ミゾラムでは9割、メーガーラヤでは7割以上がクリスチャンだ。
歴史的にヒンドゥー文化圏外だったこの地域では、もともとはヒンドゥー信仰よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった。
そこに、西洋の宣教師たちがこぞって布教に訪れたことで、住民の多くがクリスチャンに改宗し、現在に至っている。
セブン・シスターズ諸州では、キリスト教への改宗によって精神的な面での欧米化が早くから進んでおり、かつ文化的にもいわゆるインド的なものへの共感がしづらい文化的背景であることから、ボリウッドの影響も少なかったと思われる。
おそらくだが、インターネットの発展などで、同時代の欧米の文化に接することができるようになったとき、セブン・シスターズの若者たちは、インドのポップカルチャーであるボリウッド的なものよりも、アメリカを始めとする欧米の文化のほうに魅力を感じたのではないだろうか。
その中の一部の若者たちはデスメタルのような激しいサウンドに惹かれ、結果的にインドの他の地域よりも、デスメタルバンドの数が顕著に多い、ということになった、とは言えないだろうか。
ちなみにこの地域、他国と国境を接する軍事上の要衝でもあるため、道路や電気といったインフラは意外と整備されているようで、楽器(エレキギターとかね)の入手や演奏は以外と容易だったのかもしれない。
とはいえ、やっぱりこの推論にはちょっと無理があるような感じもする。
こうなったら、便利なこのご時世、SNSを通じて直接彼らに聞いてみたいと思います。
いったいどんな返事が返ってくるのか、乞う御期待!
2018年01月13日
Rolling Stone Indiaによる2017年ベスト・アルバム!
Rolling Stone India誌が選ぶ2017年のベストアルバム10枚が発表された。
昨年はロック、ポップス、ヒップホップともにインドのインディーズ(略して印ディーズ)始まって以来の豊作だったとのこと。
記事はこちら。
順位は以下のとおり。
各ミュージシャンの出身地とジャンルも添えて紹介します!
1. Prabh Deep: Class-Sikh デリー ヒップホップ
アルバムタイトルを見てわかる通りシク教徒のラッパーで、これがデビューアルバム。
10月のリリース以来、大きな話題になっている作品。
デリーのヒップホップシーンはボリウッド系の華やかな(軽薄な)印象が強いけど、こうしたよりリアルな題材を扱ったシーンもちゃんとある。
知的かつ叙情的なトラックはデリーのトラックメーカーSez on the Beatによるもの。
2曲ほど紹介してみます。
2. Blackstratblues: The Last Analog Generation ムンバイ ロック(インスト)
その名に違わぬ、ポストロックや打ち込みの要素を一切含まない70年代風ギターインスト!
2017年のアルバムからのビデオがないので、こちらで聴いてみてください。
一音一音に心地よさのあるギターがジェフ・ベックを思わせる、最近いないタイプのギタリスト。
3位のTejasがゲスト参加している曲「Love Song To The Truth」もAOR風で、まったく「今」を感じさせないこのアルバムが2位っていうのも凄い!
3. Tejas: Make It Happen ムンバイ ロック(シンガーソングライター)
70年代的な要素に現代的・都会的なニュアンスもあるロック。
レニー・クラヴィッツとかMaroon5とかSuchmosあたりを思わせるところがある。
4. Skrat: Bison チェンナイ ロック
こちらもニューアルバムからのビデオがなかったのでこちらから音をどうぞ。
オルタナっぽかったり、例えばニュージーランドのDatsunsみたいな70年代ハードロックリバイバル的な雰囲気のある曲も。
5. Menwhopause: Neon Delhi ニューデリー ロック
これも最新アルバムからビデオになっている曲があんまり良くなかったので、こちらから音だけ聴いてみてください。
例えばFranz FerdinandやRadioheadっぽいUK色が強い曲、流麗なピアノソロがある曲、ちょっとプログレっぽい曲など。
6. Gutslit: Amputheatre ムンバイ デスメタル
来た!ブルータル・デスメタルバンド!演奏も上手い!ドラムとかやばいよ。
シーク教徒のベーシスト(6弦ベース!)はメタルらしくターバンも黒で決めてる!
こんな常識や世間体なんかクソ喰らえみたいな音楽やってるのに、戒律を守ってターバンはちゃんと巻くんだなあとしみじみ。
インドのデスメタルは結構盛んらしく、他にも面白いバンドがいるのでいずれ紹介します。
7. Kraken: LUSH デリー ロック
なんと日本のアニメや文化から影響を受けているバンドとのこと。
デリーには他にも日本文化に影響を受けたTarana Marwahというエレクトロニカのミュージシャンもいる。
なにかと欧米志向の印象が強いインドでも日本のサブカルチャーは一定の存在感を放っているみたいだ。
ビデオも日本のジブリの森?
8. Joshish: Ird Gird ムンバイ ロック
ポスト・プログレ(post-prog)バンドとして紹介されていて、そういうジャンル名は聞いたことがないけど、ポスト・ロックと呼ぶにはプログレ色が強くて、そう呼ぶのがいちばんしっくりくるバンド。
リズムチェンジや変わったコード感のバッキングが印象的。
9. Disco Puppet: Princess This バンガロール エレクトロニカ
インドのエレクトロニカは他のジャンルと比べてもかなりレベルが高いと思っているのだけど、これまた素晴らしく不思議な雰囲気のバンド。
アンビエントっぽかったり、ドラムンベースっぽいところがあったり。
中心人物のShoumik Biswasは同じくバンガロールのポストロックバンドSpace Behind The Yellow RoomのドラマーとカルカッタのポップロックバンドMonkey In Meのドラマーも勤めているとのこと。
カルカッタってずいぶん遠いけど大丈夫なのか。
10. Aswekeepsearching: Zia アーメダーバード ポストロック
個人的にこのバンドは凄く良いと思うなあ。10位じゃなくてもっと上でいいのに!
心地よい静かなパートから激しい部分まで、詩的かつ映像的なサウンドが素晴らしい。インドはポストロックが結構盛んなようだけど、酒も飲めないグジャラート州にこんなバンドがいるなんて!
Rolling Stoneという媒体の性質なんだろうけど、無国籍というかインド色の薄いものが多い中、社会派の1位と日本風味の7位が際立っているというのがアタクシの印象。
それにしてもヒップホップから70年代ロック、デスメタル、ポストロックまでというバラエティーの広さは凄い。
世界的な視点で見たときに、各バンドのサウンドに圧倒的なオリジナリティーや革新性があるかと言われるとそういうわけでもないけど、日本でもよくあるように、「まるで本場」みたいなサウンドが評価されてのランクインと思われる。
あんまりインド色の強いサウンドは敬遠してみました、みたいなね。
あとなんか頭が良さそうなバンドが多いよね。
バカです!ロックです!みたいなのは少なくともこの中にはいない。
Rolling Stone Indiaの好みなのか、インドでロックはけっこう上流説を裏付けるものなのか。
面白いバンドにもたくさん出会えたので、そのうち細かく紹介したいと思います!