ダージリンティー
2018年03月30日
ダージリン茶園問題とグルカランド シッキムのラッパーUNBの問題提起!
今年もダージリンの茶園でのストライキのニュースがヤフーのトップニュースにも掲載されていた。
昨年も同様の報道があったのを覚えている人もいるかもしれないが、どうもここ日本では「ストライキのせいでダージリンティーが飲めなくなるかもしれない」という視点で報道されることが多く(今回の記事は背景や原因までしっかり書かれていて好感!)、あまり深いところまではなかなか報じられていないのだけれども、この問題は単なる労働問題ではなく、言語、民族、差別、教育、自治権といった様々な課題が複雑に絡み合っている。
そしてこの問題について物申している地元のラッパーなんかもちゃんといたりする。
まずは、インドの地図でダージリンがあるウエストベンガル州の位置を見てもらいましょう。
ウエスト(西)ベンガルっていう名前なのに、なんでインドの東部にあるかっていうと、もともとのベンガル地方の東半分は、現在はバングラデシュとして別の国になってるから。
バングラデシュのさらに東は、このブログではデスメタルが盛んだったり、ラッパーのBK(Borkung Hrankhawl)がいたりすることで有名な「インド北東部七姉妹州」Seven Sisters Statesだ。
イギリスによる植民地時代から、ヒンドゥー教徒の多い西ベンガルとムスリムの多い東ベンガルの分割統治が行われるようになり、結局1947年のインド独立のときに東ベンガルはインドには帰属せず、イスラム国家であるパキスタンの一部の東パキスタンにとして独立することを選んだ。
ところが同じ宗教を持っているとはいえ、距離も離れているし、言語も違う(パキスタンはウルドゥー語、バングラデシュはベンガル語)、文化も違う、経済の格差もあるってんで、結局は上手くいかず、東ベンガルはバングラデシュとして1971年に再独立することになる。
バングラデシュ独立時に発生した大量の難民を救うために、ジョージ・ハリスンが呼びかけて、クラプトン、リンゴ・スター、ボブ・ディラン、レオン・ラッセルなんかが参加したコンサートのアルバムがまた名盤だったりするのだけど、それはまた別のお話。
それでは今度はウエストベンガル州の地図を見てみましょう。
難民問題は大変だったろうけどヒンドゥー教徒の多いウエストベンガルがインドに帰属できてよかったね、と単純にならないのがインドの難しいところ。
ご覧のようにこのウエストベンガル州、南北に長い形をしています。
ウエストベンガル州の州都はこの地図上の南のほうにある、17番のコルカタ。昔の名前で言うとアタクシの苗字とおんなじカルカッタですな。
で、ダージリンはこの地図の一番上、最北の1番の場所。
このウエストベンガル州の北部には、グルカ(Gorkha)人と呼ばれる、この州のマジョリティーであるベンガル人とはまったく異なる民族が多く暮らしている。
彼らは、彫りの深いアーリア系のベンガル人よりも東洋的な顔立ちをしていて、ベンガル語ではなくてネパール語を話す。
大まかに言うと、彼らは傭兵として有名なネパールの「グルカ族」と同じ民族で(グルカと呼ばれる人たちも実際は様々な民族に分かれている)、ククリというナイフが彼らのシンボルとされている。
昨年報じられた大規模な茶園のストライキは、ウエストベンガル州のすべての教育を全てベンガル語で行うことにするという政策に、ネパール語を母語とするグルカ人たちが反対したために行われたもの。
まだちゃんと調べられていないのだけど、この政策は、州内のマジョリティーであるベンガル人への人気取り的な側面や、州のなかの分断を極力なくそうという意図があって行われたものではないかと思う。
その昨年のストライキで十分な茶葉の収穫ができず、信用や各付けも低下した農園は、労働者への給与の支払いに苦慮するようになり、その待遇に対する抗議として、また収穫期を前にしたストライキが行われている、というのが今年のストの背景のようだ。
そもそも昨年のストライキは地元のグルカ人による政党Gorkha Janmukhti Morcha(GJM)によって呼びかけられたものだ。
GJMはウエストベンガル州からの「ゴルカランド州」の独立を目指している政党だ。
インドはご存知のように極めて多様な民族、言語、宗教、文化を抱えた国家で、州の線引きは(ウエストベンガルのような例外もあるけれども)基本的には言語の違いによってされてきた。
インドの「州」にはかなりの自治権が認められているので、いろんな州内で独立運動(国家としてじゃなくて、州としての独立を望む運動)が行われているのだけど、新しい州の独立は、21世紀に入ってからはずっと認められていなかった。
インドの政治がアイデンティ・ポリティクス(住民が自身の所属するカースト等のコミュニティーの利益を代表する政党を支持する)化した今日、それを認めてしまうと、あらゆる州の独立闘争を刺激して収拾がつかなくなってしまうからだ。
ところが、2013年に当時の中央政府がインド南部のアーンドラ・プラデーシュ州(バンガロールに並ぶIT産業の中心地ハイデラバードを州都とする)から、内陸部のテランガナ州の独立を認めてしまう。
どちらもテルグー語(映画「バーフバリ」の言語)が母語ではあるのだが、伝統的に異なる文化を持った地域で、旺盛な独立運動に応えてのことだった。
この独立は中央政権の人気取り的な側面があったとも言われている。
そして、予想通り、この独立以降、インド各地で州の独立運動が活性化する。
州の中のマジョリティーとは異なる文化、民族、カースト、言語を持つ人々にとって、現実はともかく、州としての独立を勝ち取るこそが、雇用やインフラ、教育等の問題をすべて解決する特効薬であるかのように捉えられるようになった。
今回のストライキやゴルカランド独立運動の背景には、このテランガナ州の独立が影響しているわけだ。
(テランガナ州独立についてはこのブログに詳しいです)
今日は前置きが長かったなあ。
で、このウエストベンガル州最北部のダージリンのさらに北に「シッキム州」という州がある。
シッキム州は、もともとは「シッキム王国」というインドとは別の国家だった地域。
チベット仏教の色合いの濃いまた独特の文化を持ち、やはりグルカ系の住民の多い地域だ。
シッキム州の州都、ガントク出身のラッパーのUNB(本名Ugen Namgyal Bhutia)は、このゴルカランド独立運動をラップにして発表している。
"Jai Jai Khukhuri(Gorkhaland Anthem)"聴いてみてください。
”Jai”は「勝利を!」という意味、「Khukhuri」はグルカのシンボルであるククリ刀のこと。
ネパリ語なので内容は分からないけど、独立闘争を映したビデオといい、ゴルカランド独立への強い思いが伝わって来る。
こうした社会運動と連動した政治色が強いラップも、数多くの問題を抱えつつも「世界最大の民主主義国」であるインドのシーンならでは。
各州の運動の背景はそれぞれ異なるが、以前BKを紹介した際にも触れた通り、ことインド北東部に関してはメインランド(インド中心部)からの差別的な扱いを長く受けている、というのことが根底にある。
そうした状況がよくわかる曲。UNBの"Call Me Indian".
同じインド人なのに、見た目がアーリア系やドラヴィダ系ではないというだけで、まるで外国人であるかのように扱われる。
BKと同様に、非常にストレートなメインランドへの感情を吐露した一曲だ。
またこうしたテーマは日印ハーフのラッパー、Big Dealのラップの内容とも重なるところがある。
インドの人気作家Chetan Bhagatは、times of India紙に寄稿したエッセイで、独立自体は良いことだとしても、州が独立しても実際に多くの問題が解決するわけではないし、独立に至るプロセスでの暴力行為や損失こそが憂慮すべき問題であると指摘している。
まあ、そんなこんなで結論があるわけではないけど、っていうか、アタクシごときに結論が出せるようだったらそもそもこんなに揉めてるわけないのだけど、今回はダージリンのストライキ、ゴルカランド独立問題と、その闘争を扱ったラッパーUNBを紹介してみました!
それでは!
昨年も同様の報道があったのを覚えている人もいるかもしれないが、どうもここ日本では「ストライキのせいでダージリンティーが飲めなくなるかもしれない」という視点で報道されることが多く(今回の記事は背景や原因までしっかり書かれていて好感!)、あまり深いところまではなかなか報じられていないのだけれども、この問題は単なる労働問題ではなく、言語、民族、差別、教育、自治権といった様々な課題が複雑に絡み合っている。
そしてこの問題について物申している地元のラッパーなんかもちゃんといたりする。
まずは、インドの地図でダージリンがあるウエストベンガル州の位置を見てもらいましょう。
ウエスト(西)ベンガルっていう名前なのに、なんでインドの東部にあるかっていうと、もともとのベンガル地方の東半分は、現在はバングラデシュとして別の国になってるから。
バングラデシュのさらに東は、このブログではデスメタルが盛んだったり、ラッパーのBK(Borkung Hrankhawl)がいたりすることで有名な「インド北東部七姉妹州」Seven Sisters Statesだ。
イギリスによる植民地時代から、ヒンドゥー教徒の多い西ベンガルとムスリムの多い東ベンガルの分割統治が行われるようになり、結局1947年のインド独立のときに東ベンガルはインドには帰属せず、イスラム国家であるパキスタンの一部の東パキスタンにとして独立することを選んだ。
ところが同じ宗教を持っているとはいえ、距離も離れているし、言語も違う(パキスタンはウルドゥー語、バングラデシュはベンガル語)、文化も違う、経済の格差もあるってんで、結局は上手くいかず、東ベンガルはバングラデシュとして1971年に再独立することになる。
バングラデシュ独立時に発生した大量の難民を救うために、ジョージ・ハリスンが呼びかけて、クラプトン、リンゴ・スター、ボブ・ディラン、レオン・ラッセルなんかが参加したコンサートのアルバムがまた名盤だったりするのだけど、それはまた別のお話。
それでは今度はウエストベンガル州の地図を見てみましょう。
難民問題は大変だったろうけどヒンドゥー教徒の多いウエストベンガルがインドに帰属できてよかったね、と単純にならないのがインドの難しいところ。
ご覧のようにこのウエストベンガル州、南北に長い形をしています。
ウエストベンガル州の州都はこの地図上の南のほうにある、17番のコルカタ。昔の名前で言うとアタクシの苗字とおんなじカルカッタですな。
で、ダージリンはこの地図の一番上、最北の1番の場所。
このウエストベンガル州の北部には、グルカ(Gorkha)人と呼ばれる、この州のマジョリティーであるベンガル人とはまったく異なる民族が多く暮らしている。
彼らは、彫りの深いアーリア系のベンガル人よりも東洋的な顔立ちをしていて、ベンガル語ではなくてネパール語を話す。
大まかに言うと、彼らは傭兵として有名なネパールの「グルカ族」と同じ民族で(グルカと呼ばれる人たちも実際は様々な民族に分かれている)、ククリというナイフが彼らのシンボルとされている。
昨年報じられた大規模な茶園のストライキは、ウエストベンガル州のすべての教育を全てベンガル語で行うことにするという政策に、ネパール語を母語とするグルカ人たちが反対したために行われたもの。
まだちゃんと調べられていないのだけど、この政策は、州内のマジョリティーであるベンガル人への人気取り的な側面や、州のなかの分断を極力なくそうという意図があって行われたものではないかと思う。
その昨年のストライキで十分な茶葉の収穫ができず、信用や各付けも低下した農園は、労働者への給与の支払いに苦慮するようになり、その待遇に対する抗議として、また収穫期を前にしたストライキが行われている、というのが今年のストの背景のようだ。
そもそも昨年のストライキは地元のグルカ人による政党Gorkha Janmukhti Morcha(GJM)によって呼びかけられたものだ。
GJMはウエストベンガル州からの「ゴルカランド州」の独立を目指している政党だ。
インドはご存知のように極めて多様な民族、言語、宗教、文化を抱えた国家で、州の線引きは(ウエストベンガルのような例外もあるけれども)基本的には言語の違いによってされてきた。
インドの「州」にはかなりの自治権が認められているので、いろんな州内で独立運動(国家としてじゃなくて、州としての独立を望む運動)が行われているのだけど、新しい州の独立は、21世紀に入ってからはずっと認められていなかった。
インドの政治がアイデンティ・ポリティクス(住民が自身の所属するカースト等のコミュニティーの利益を代表する政党を支持する)化した今日、それを認めてしまうと、あらゆる州の独立闘争を刺激して収拾がつかなくなってしまうからだ。
ところが、2013年に当時の中央政府がインド南部のアーンドラ・プラデーシュ州(バンガロールに並ぶIT産業の中心地ハイデラバードを州都とする)から、内陸部のテランガナ州の独立を認めてしまう。
どちらもテルグー語(映画「バーフバリ」の言語)が母語ではあるのだが、伝統的に異なる文化を持った地域で、旺盛な独立運動に応えてのことだった。
この独立は中央政権の人気取り的な側面があったとも言われている。
そして、予想通り、この独立以降、インド各地で州の独立運動が活性化する。
州の中のマジョリティーとは異なる文化、民族、カースト、言語を持つ人々にとって、現実はともかく、州としての独立を勝ち取るこそが、雇用やインフラ、教育等の問題をすべて解決する特効薬であるかのように捉えられるようになった。
今回のストライキやゴルカランド独立運動の背景には、このテランガナ州の独立が影響しているわけだ。
(テランガナ州独立についてはこのブログに詳しいです)
今日は前置きが長かったなあ。
で、このウエストベンガル州最北部のダージリンのさらに北に「シッキム州」という州がある。
シッキム州は、もともとは「シッキム王国」というインドとは別の国家だった地域。
チベット仏教の色合いの濃いまた独特の文化を持ち、やはりグルカ系の住民の多い地域だ。
シッキム州の州都、ガントク出身のラッパーのUNB(本名Ugen Namgyal Bhutia)は、このゴルカランド独立運動をラップにして発表している。
"Jai Jai Khukhuri(Gorkhaland Anthem)"聴いてみてください。
”Jai”は「勝利を!」という意味、「Khukhuri」はグルカのシンボルであるククリ刀のこと。
ネパリ語なので内容は分からないけど、独立闘争を映したビデオといい、ゴルカランド独立への強い思いが伝わって来る。
こうした社会運動と連動した政治色が強いラップも、数多くの問題を抱えつつも「世界最大の民主主義国」であるインドのシーンならでは。
各州の運動の背景はそれぞれ異なるが、以前BKを紹介した際にも触れた通り、ことインド北東部に関してはメインランド(インド中心部)からの差別的な扱いを長く受けている、というのことが根底にある。
そうした状況がよくわかる曲。UNBの"Call Me Indian".
同じインド人なのに、見た目がアーリア系やドラヴィダ系ではないというだけで、まるで外国人であるかのように扱われる。
BKと同様に、非常にストレートなメインランドへの感情を吐露した一曲だ。
またこうしたテーマは日印ハーフのラッパー、Big Dealのラップの内容とも重なるところがある。
インドの人気作家Chetan Bhagatは、times of India紙に寄稿したエッセイで、独立自体は良いことだとしても、州が独立しても実際に多くの問題が解決するわけではないし、独立に至るプロセスでの暴力行為や損失こそが憂慮すべき問題であると指摘している。
まあ、そんなこんなで結論があるわけではないけど、っていうか、アタクシごときに結論が出せるようだったらそもそもこんなに揉めてるわけないのだけど、今回はダージリンのストライキ、ゴルカランド独立問題と、その闘争を扱ったラッパーUNBを紹介してみました!
それでは!
goshimasayama18 at 23:58|Permalink│Comments(0)