ストリートフード
2021年03月15日
ヒップホップで食べ歩くインドの旅
インドのヒップホップを聴いていて、気がついたことがある。
それは、「インドのラッパーは、やたらと地元の食べ物のことを扱う」ということだ。
ヒップホップにはレペゼンというカルチャーがあり、生まれ育った街やストリート、そして仲間たちを誇り、自慢するのが流儀とされているが、普通、食べ物はあんまり出てこない。
日本のヒップホップで例えるなら、愛知県出身のAK-69が味噌煮込みうどんやきしめんのことをラップしたり、横浜出身のMACCHO(OZROSAURUS)が崎陽軒のシウマイや家系ラーメンについてラップしたりするなんてことはまずないだろう。
本場アメリカでも、ニューヨークのJay-ZやNASとシカゴのカニエ・ウエストやコモンが「俺の街のピザのほうがうまい」とビーフを繰り広げるなんてことはありえないわけだが(当たり前だ)、インドのラッパーたちは、やたらと地元の食べ物のことをラップし、ミュージックビデオに登場させるのである。
まずは、私がこれまで見てきたなかでの「ベスト食べ歩きビデオ」に認定できる作品、ベンガルールのラッパーNEX(2021.12.15追記。このブログの記事を書いた時はNEXというアーティスト名だったのだが、のちにPasha Bhaiに改名したようだ)の"Kumbhakarna"のミュージックビデオを見てほしい。
ソフトウェア企業のビルが立ち並ぶ国際都市としてのベンガルールではなく、庶民が集う飲食街を活写した映像は、インドの下町の食レポとしても十分に楽しめる。
ケバブ系の焼き物や、よくわからない炒め物、揚げ物などの屋台から始まり、味のあるカフェでタバコを燻らせながらチャイを飲む。
撮影場所はストリートフードの店が軒を連ねるShivaj Nagarという場所。
Twitterでこの曲を紹介したところ、なんと近所に住んでいるという方からリアクションがあった。
「ゴキブリと猫とネズミだらけだけど旨い」
…なかなかに気合の入ったエリアだ。
牛肉料理をふんだんに提供しているということ、イスラームの装束に身を包んだ人の姿が多く見られることから、この地域自体もムスリムが多く暮らす場所のようである。食べ物屋以外にも、雑貨屋や生地屋など、下町のリアルな空気感がびんびん伝わってくる。
このNEX、よほどストリートフードが好きなようで、この'Eid Ka Chaand'では、牛の足を調理しているシーンから始まる。
Shivaj Nagar情報を教えてくれたBari Bari Bari Kosambariさんに伺ったところ、牛の足の煮込み「ビーフ・パヤ」の仕込みではないかとのこと。
ビーフ・パヤは「まだ日の出ぬ内から仕込んで市場の人が朝に食べる定番というイメージ」だそうで、こちらもリアルな地元感がたまらない。
3:20頃からは、今度は鶏肉を調理している様子が映される。
2本とも南アジアのイスラーム庶民の肉食文化の豊かさが感じられ、つい食べ物にばかり目が行ってしまうが、どちらもビートもラップもかなりかっこいい。
NEX, 今後もミュージックビデオともども注目のラッパーだ。
次の食べ歩きの舞台はハイデラーバード。
映画『バーフバリ』で有名になったテルグー語圏の中心都市で、インド料理好きにはビリヤニ(ビリヤーニー)の街として知られている。
この街のラッパーのミュージックビデオに登場するのももちろんビリヤニだ。
まず紹介するのは、Nawab Gangという地元のクルーから、AsurA, Lil Gunda, P$Ychloneの3人による"Flirt With Hyd".
いかにもハイデラーバードらしいイスラーム建築が目立つ街並みを練り歩き、リクシャーにハコ乗りしながらラップするビデオは地元感覚満載!
撮影場所にヒップホップっぽいアメリカ的な「ストリート」ではなく、本当の意味で地元をレペゼンする場所を選ぶインドのラッパーたちのセンスにはいつもながら敬服する。
2:00過ぎからはピザ・ドーサ、2:30過ぎからはニハーリー(肉の煮込み)といったストリートフードの屋台が映され、3:10には満を持してビリヤニが登場!
一瞬だが、リリックでも確かに「チキン・ビリヤーニー、マトン・ナハーリー(ニハーリー)」と言っている。
彼らのユニット名の'Nawab'はかつて南アジアを支配していたイスラーム王朝の「太守」を意味する言葉だ。
ムガール帝国、ニザーム王国といったイスラーム王朝の都市だったこの街にふさわしい名前で、ロゴマークはムンバイのDIVINEのGully Gangを意識しているようでもある。
ハイデラーバードからビリヤニ・ラップをもう1曲。
Ruhaan Arshadというラッパーの"Miya Bhai Hyderabad".
チャイから始まり、ニハーリー(0:45頃)、そしてビリヤニは1:58頃に登場。(そのすぐ後にはケバブも出てくる)
これまでのミュージックビデオとはうってかわって、陽気な地元の兄ちゃんたちが盛り上がってるって感じの垢抜けない映像がほほえましい。
タイトルの'miya bhai'は'my brother'という意味の仲間に呼びかけるスラングらしい。(ウルドゥー語。ここまで紹介したラッパーが使用している言語は、よく分からんけどおそらくデカン高原一帯のムスリムに話されているデカン・ウルドゥーと思われる)
「みーや、みーや、みーやばーい」というサビが印象に残るこの曲は、2018年にリリースされて以来、なんと4億4000回以上も再生されている。
ハイデラーバードの人口が700万人弱であることを考えると、異常なまでの愛されっぷりだ。
たしかに耳の残る曲ではあるが、インド人の心を掴む特別な何かが込められているのだろうか…。
続いては、インド東岸、オディシャ州の海辺の町プリー。
これまでもたびたび紹介している日印ハーフのラッパーBig Dealによる世界初のオディア語(オディシャ州の言語)ラップ"Mu Heli Odia".
内陸部のベンガルールやハイデラーバードとはぐっと異なる、ひなびた海辺の街ならではの風景が楽しめる。
また、近くにジャガンナート寺院という大きなヒンドゥー寺院があるからか、サドゥー(ヒンドゥーの世捨て人的な行者)の姿が目立つのも印象的だ。
注目してほしいのは、2:20過ぎからの'Let 'em know that Rosogolla is from Odisha'(Rosogollaはオディシャで生まれたものだとやつらに分らせてやれ)という英語字幕で表されているリリック。
ここでRosogolla(おそらくオディア語の表記)と呼ばれているのは、ヒンディー語ではラスグッラー(Rasgulla)として知られている牛乳と小麦粉と砂糖で作られた甘いお菓子のこと。
初めてこのミュージックビデオを見た時から「地元の菓子をラップで自慢するなんて、いかにもインドらしいなあ」と思っていたのだが、小林真樹さんの『食べ歩くインド 北・東編』を読んで、ここには単なる郷土自慢以上の意味が込められていることに気づいた。
このラスグッラーの発祥をめぐって、オディシャ州とウエストベンガル州との間で裁判になるほどの論争があったというのだ。
ラスグッラーは一般的にはウエストベンガル州コルカタのKC Dasという菓子店によって有名になったとされているが、オディシャ州側は、もともとはプリーのジャガンナート寺院の供物として作られていたものだと主張(古くは15世紀の文献にRasagolaという菓子の記述があるという)。
ウエストベンガル側も、今日のラスグッラーは19世紀にDasが改良して普及したものだと主張し、一歩も譲らなかった。
結果、2017年にラスグッラーはウエストベンガル州に帰属する(ただし、オディシャ州でも製造方法や独自の特徴を明記すればラスグッラーの名称を使用可能とする)という判決が下されたという。
この曲がリリースされたのはその判決が出る直前で、つまりBig Dealはこのリリックを通じてラスグッラーの正統なルーツを主張していたのだ。
これに対してコルカタのラッパーが「ラスグッラーは俺たちのものだ」とアンサーしたりするとなお面白かったのだが、今のところそうした動きはない模様。
コルカタ愛の強いCizzyあたりに、ぜひ仕掛けてもらいたいものである。
続いては、インド西部に足を延ばし、タール砂漠が広がるラージャスターン州を食べ歩こう。
こちらも以前紹介したことがある曲だが、青く塗られた石造りの家が立ち並ぶ「ブルーシティ」ことジョードプルのラップユニットJ19 Squadによる"Mharo Jodhpur".
1:00頃に出てくる料理に注目。
真ん中に置かれたボール状の食べ物が置かれたターリーは、ダール・バーティーと呼ばれるもので、チャパティと同じ生地を団子状にして加熱したバーティーと豆カレーのダールを合わせたもの(リリックでも確かに「ダール・バーティー」とラップしている)。
この地方を代表する料理で、「食べ歩くインド 北・東編」によると、大量の乾燥牛糞を燃やした中にバーティーの生地を投入してローストし、灰や土で蓋をして焼き上げ、最後にギー(精製した発酵バター)をくぐらせて作るこの地方独特の食べ物だという。
その後に出てくるのはミルチ・バダと呼ばれるジョードプル名物のストリートフードで、青唐辛子とジャガイモやカリフラワーをスパイスやバターを合わせた生地でくるんで揚げたものだ。
J19 Squadは他のミュージックビデオでは銃をぶっぱなしたりしているかなりコワモテな連中だが、やはり地元の食べ物には人一倍の誇りを持っているのだろう。
探せばまだまだありそうだが、今回の食べ歩きの旅はここまで。
地域や食文化はさまざまだが、いずれの楽曲からも、「これが俺たちの血や肉を作っているんだ」という誇りと自負が感じられるのがお分かりいただけただろう。
他にも、ヒップホップではないが、ケーララ州には地元の名物料理の名前を冠したAvialというバンドもいるし、とにかくインドのミュージシャンの地元料理愛には驚かされるばかり。
コロナ禍でなかなか旅に出られない状況が続くけれど、また面白い食べ歩きミュージックビデオがあったら紹介してみたい。
ところで、今回の記事を書くにあたって、どんなにタイトルを考えても、小林真樹さんの名著「食べ歩くインド」(旅行人)に似てしまって仕方なかったので、この際リスペクトを込めて、思いっきりパクらせていただきました。
南アジアの食文化を、ここまで広く、深く、そして面白く紹介した本は世界中を探しても他にないはず。
ジャンルは違えどインドのカルチャーを掘る者としても、大いに刺激をいただいた一冊です。
未読の方は、ぜひ。
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それは、「インドのラッパーは、やたらと地元の食べ物のことを扱う」ということだ。
ヒップホップにはレペゼンというカルチャーがあり、生まれ育った街やストリート、そして仲間たちを誇り、自慢するのが流儀とされているが、普通、食べ物はあんまり出てこない。
日本のヒップホップで例えるなら、愛知県出身のAK-69が味噌煮込みうどんやきしめんのことをラップしたり、横浜出身のMACCHO(OZROSAURUS)が崎陽軒のシウマイや家系ラーメンについてラップしたりするなんてことはまずないだろう。
本場アメリカでも、ニューヨークのJay-ZやNASとシカゴのカニエ・ウエストやコモンが「俺の街のピザのほうがうまい」とビーフを繰り広げるなんてことはありえないわけだが(当たり前だ)、インドのラッパーたちは、やたらと地元の食べ物のことをラップし、ミュージックビデオに登場させるのである。
まずは、私がこれまで見てきたなかでの「ベスト食べ歩きビデオ」に認定できる作品、ベンガルールのラッパーNEX(2021.12.15追記。このブログの記事を書いた時はNEXというアーティスト名だったのだが、のちにPasha Bhaiに改名したようだ)の"Kumbhakarna"のミュージックビデオを見てほしい。
ソフトウェア企業のビルが立ち並ぶ国際都市としてのベンガルールではなく、庶民が集う飲食街を活写した映像は、インドの下町の食レポとしても十分に楽しめる。
ケバブ系の焼き物や、よくわからない炒め物、揚げ物などの屋台から始まり、味のあるカフェでタバコを燻らせながらチャイを飲む。
撮影場所はストリートフードの店が軒を連ねるShivaj Nagarという場所。
Twitterでこの曲を紹介したところ、なんと近所に住んでいるという方からリアクションがあった。
あら!プロモに出てくるShivaji Nagarはうちから歩いていける距離でSavera CafeもHamza Hotelも何度か行ったことある。辺りの屋台料理はインドだけど牛肉がほとんどで、マトンパヤはゴキブリと猫とネズミだらけだけど旨い。 ヤバい空気がたっぷりで最高。Makkah cafeはRichmond townな。ノンベジ。 https://t.co/vMP2XVSQIX
— Bari Bari Bari Kosambari (@nekoyamashingo) March 11, 2021
「ゴキブリと猫とネズミだらけだけど旨い」
…なかなかに気合の入ったエリアだ。
牛肉料理をふんだんに提供しているということ、イスラームの装束に身を包んだ人の姿が多く見られることから、この地域自体もムスリムが多く暮らす場所のようである。
このNEX、よほどストリートフードが好きなようで、この'Eid Ka Chaand'では、牛の足を調理しているシーンから始まる。
Shivaj Nagar情報を教えてくれたBari Bari Bari Kosambariさんに伺ったところ、牛の足の煮込み「ビーフ・パヤ」の仕込みではないかとのこと。
ビーフ・パヤは「まだ日の出ぬ内から仕込んで市場の人が朝に食べる定番というイメージ」だそうで、こちらもリアルな地元感がたまらない。
3:20頃からは、今度は鶏肉を調理している様子が映される。
2本とも南アジアのイスラーム庶民の肉食文化の豊かさが感じられ、つい食べ物にばかり目が行ってしまうが、どちらもビートもラップもかなりかっこいい。
NEX, 今後もミュージックビデオともども注目のラッパーだ。
次の食べ歩きの舞台はハイデラーバード。
映画『バーフバリ』で有名になったテルグー語圏の中心都市で、インド料理好きにはビリヤニ(ビリヤーニー)の街として知られている。
この街のラッパーのミュージックビデオに登場するのももちろんビリヤニだ。
まず紹介するのは、Nawab Gangという地元のクルーから、AsurA, Lil Gunda, P$Ychloneの3人による"Flirt With Hyd".
いかにもハイデラーバードらしいイスラーム建築が目立つ街並みを練り歩き、リクシャーにハコ乗りしながらラップするビデオは地元感覚満載!
撮影場所にヒップホップっぽいアメリカ的な「ストリート」ではなく、本当の意味で地元をレペゼンする場所を選ぶインドのラッパーたちのセンスにはいつもながら敬服する。
2:00過ぎからはピザ・ドーサ、2:30過ぎからはニハーリー(肉の煮込み)といったストリートフードの屋台が映され、3:10には満を持してビリヤニが登場!
一瞬だが、リリックでも確かに「チキン・ビリヤーニー、マトン・ナハーリー(ニハーリー)」と言っている。
彼らのユニット名の'Nawab'はかつて南アジアを支配していたイスラーム王朝の「太守」を意味する言葉だ。
ムガール帝国、ニザーム王国といったイスラーム王朝の都市だったこの街にふさわしい名前で、ロゴマークはムンバイのDIVINEのGully Gangを意識しているようでもある。
ハイデラーバードからビリヤニ・ラップをもう1曲。
Ruhaan Arshadというラッパーの"Miya Bhai Hyderabad".
チャイから始まり、ニハーリー(0:45頃)、そしてビリヤニは1:58頃に登場。(そのすぐ後にはケバブも出てくる)
これまでのミュージックビデオとはうってかわって、陽気な地元の兄ちゃんたちが盛り上がってるって感じの垢抜けない映像がほほえましい。
タイトルの'miya bhai'は'my brother'という意味の仲間に呼びかけるスラングらしい。(ウルドゥー語。ここまで紹介したラッパーが使用している言語は、よく分からんけどおそらくデカン高原一帯のムスリムに話されているデカン・ウルドゥーと思われる)
「みーや、みーや、みーやばーい」というサビが印象に残るこの曲は、2018年にリリースされて以来、なんと4億4000回以上も再生されている。
ハイデラーバードの人口が700万人弱であることを考えると、異常なまでの愛されっぷりだ。
たしかに耳の残る曲ではあるが、インド人の心を掴む特別な何かが込められているのだろうか…。
続いては、インド東岸、オディシャ州の海辺の町プリー。
これまでもたびたび紹介している日印ハーフのラッパーBig Dealによる世界初のオディア語(オディシャ州の言語)ラップ"Mu Heli Odia".
内陸部のベンガルールやハイデラーバードとはぐっと異なる、ひなびた海辺の街ならではの風景が楽しめる。
また、近くにジャガンナート寺院という大きなヒンドゥー寺院があるからか、サドゥー(ヒンドゥーの世捨て人的な行者)の姿が目立つのも印象的だ。
注目してほしいのは、2:20過ぎからの'Let 'em know that Rosogolla is from Odisha'(Rosogollaはオディシャで生まれたものだとやつらに分らせてやれ)という英語字幕で表されているリリック。
ここでRosogolla(おそらくオディア語の表記)と呼ばれているのは、ヒンディー語ではラスグッラー(Rasgulla)として知られている牛乳と小麦粉と砂糖で作られた甘いお菓子のこと。
初めてこのミュージックビデオを見た時から「地元の菓子をラップで自慢するなんて、いかにもインドらしいなあ」と思っていたのだが、小林真樹さんの『食べ歩くインド 北・東編』を読んで、ここには単なる郷土自慢以上の意味が込められていることに気づいた。
このラスグッラーの発祥をめぐって、オディシャ州とウエストベンガル州との間で裁判になるほどの論争があったというのだ。
ラスグッラーは一般的にはウエストベンガル州コルカタのKC Dasという菓子店によって有名になったとされているが、オディシャ州側は、もともとはプリーのジャガンナート寺院の供物として作られていたものだと主張(古くは15世紀の文献にRasagolaという菓子の記述があるという)。
ウエストベンガル側も、今日のラスグッラーは19世紀にDasが改良して普及したものだと主張し、一歩も譲らなかった。
結果、2017年にラスグッラーはウエストベンガル州に帰属する(ただし、オディシャ州でも製造方法や独自の特徴を明記すればラスグッラーの名称を使用可能とする)という判決が下されたという。
この曲がリリースされたのはその判決が出る直前で、つまりBig Dealはこのリリックを通じてラスグッラーの正統なルーツを主張していたのだ。
これに対してコルカタのラッパーが「ラスグッラーは俺たちのものだ」とアンサーしたりするとなお面白かったのだが、今のところそうした動きはない模様。
コルカタ愛の強いCizzyあたりに、ぜひ仕掛けてもらいたいものである。
続いては、インド西部に足を延ばし、タール砂漠が広がるラージャスターン州を食べ歩こう。
こちらも以前紹介したことがある曲だが、青く塗られた石造りの家が立ち並ぶ「ブルーシティ」ことジョードプルのラップユニットJ19 Squadによる"Mharo Jodhpur".
1:00頃に出てくる料理に注目。
真ん中に置かれたボール状の食べ物が置かれたターリーは、ダール・バーティーと呼ばれるもので、チャパティと同じ生地を団子状にして加熱したバーティーと豆カレーのダールを合わせたもの(リリックでも確かに「ダール・バーティー」とラップしている)。
この地方を代表する料理で、「食べ歩くインド 北・東編」によると、大量の乾燥牛糞を燃やした中にバーティーの生地を投入してローストし、灰や土で蓋をして焼き上げ、最後にギー(精製した発酵バター)をくぐらせて作るこの地方独特の食べ物だという。
その後に出てくるのはミルチ・バダと呼ばれるジョードプル名物のストリートフードで、青唐辛子とジャガイモやカリフラワーをスパイスやバターを合わせた生地でくるんで揚げたものだ。
J19 Squadは他のミュージックビデオでは銃をぶっぱなしたりしているかなりコワモテな連中だが、やはり地元の食べ物には人一倍の誇りを持っているのだろう。
探せばまだまだありそうだが、今回の食べ歩きの旅はここまで。
地域や食文化はさまざまだが、いずれの楽曲からも、「これが俺たちの血や肉を作っているんだ」という誇りと自負が感じられるのがお分かりいただけただろう。
他にも、ヒップホップではないが、ケーララ州には地元の名物料理の名前を冠したAvialというバンドもいるし、とにかくインドのミュージシャンの地元料理愛には驚かされるばかり。
コロナ禍でなかなか旅に出られない状況が続くけれど、また面白い食べ歩きミュージックビデオがあったら紹介してみたい。
ところで、今回の記事を書くにあたって、どんなにタイトルを考えても、小林真樹さんの名著「食べ歩くインド」(旅行人)に似てしまって仕方なかったので、この際リスペクトを込めて、思いっきりパクらせていただきました。
南アジアの食文化を、ここまで広く、深く、そして面白く紹介した本は世界中を探しても他にないはず。
ジャンルは違えどインドのカルチャーを掘る者としても、大いに刺激をいただいた一冊です。
未読の方は、ぜひ。
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goshimasayama18 at 20:41|Permalink│Comments(0)