シンガーソングライター

2020年10月29日

秋深し。女性シンガー特集!

日が落ちるのがすっかり早まり、木々の葉っぱも色づき始めてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!

このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。


最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。

彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。

デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。


続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。

歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
このミュージックビデオは、故郷ケーララに暮らす祖父のもとを尋ねるのんびりとしたロードムービー仕立てになっている。
全編にわたって心地よい秋の風が吹いているような1曲だ。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。

記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。



続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。

彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)



見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。

右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。

どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。



最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。

じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。

…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。





 


(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。


改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。

タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。

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goshimasayama18 at 21:25|PermalinkComments(0)

2020年09月05日

ムンバイの'First Class'シンガーソングライター、Raghav Meattle

インド人がよく使う英語のフレーズに、'First Class'という言葉がある。
要は「一流」という意味で、例えば、「生のタブラを聴いたことがある?」「ザキール・フセインのライブを見たことがあるよ」「彼はファースト・クラスね」みたいな使い方をする。
(実際に、この通りの会話をインド人としたことがある。)

同じようにインドで使われる言葉で、'World Class'という言葉もある。
「このような条件を満たして初めて、インド人はワールド・クラスの市民になれたと言えるだろう」とか「果たして彼はワールド・クラスな政治家だろうか?」なんていう文章を、インド人作家が書いているのを読んだことがある。
本日紹介するRaghav Meattleは、「ファースト・クラス」なシンガーソングライターだ。
ことと場合によっては、今後「ワールド・クラス」な評価を得ることもあるかもしれない。

これまで、インドのインディー音楽シーンを評して「インドにはあらゆる都市にラッパーがいる」と何度も書いてきたが、じつはインドには、相当な数のシンガーソングライターも存在している。
ラッパーたちが自分の生き様や社会的主張を吐き出しているように、シンガーソングライターたちは、都市の暮らしの孤独や、恋愛の喜びや悲しみを、自分の言葉とメロディーで歌っている。
率直に言って、「なかなかいい音楽」を作っているアーティストもいるのだが、この「なかなかいい」というのがくせ者で、要は「すごくいい」アーティストは少ないのだ。

彼らの音楽が居心地の良いカフェやショップで流れていたら、けっこう似合うだろうし、少なくとも雰囲気をぶち壊したりはしない。
メロディーは洗練されているし、英語の発音もこなれている。
でも、一度聴いて「いいな」と思ったとしても、何度も繰り返して聴きたいと思うほどの楽曲やアーティストはほとんどいない。
インドのシンガーソングライターは、率直に言うとそれくらいの微妙なレベルなのだ。

それでも、例えばレディー・ガガみたいにド派手だったりとか、歌詞のテーマやビジュアルにいかにもインドっぽい要素があったりとかすれば、それを切り口に記事にもしやすいのだが、困ったことに、インドのシンガーソングライターたちは、そろいもそろって、地味で無国籍な雰囲気なのである。
西洋的な都市生活をしている彼らが、自分の表現を追求すると、どうしてもそういう感じになってしまうのだろう。

そんななかで、この音楽なら紹介する価値があるだろう、と思わせてくれたのが、以前紹介したPrateek Khuhadや、本日の主役であるRaghav Maetlleである。
つまり、彼らが作っている音楽そのものの魅力が相当高いということだ。


現在はムンバイを拠点に活動しているRaghav Meattleは、なかなかの苦労人だ。
彼はもともとデリー出身で、名門St.Stephen's Collegeで歴史学を専攻しながら、音楽活動を始めたという。
彼はこれまで、プログレッシブロックバンドThe Uncertainty Principle(2013年に脱退)やMeattle and Malikというポップデュオで活動したり、ハイデラバードやバンガロールの企業で働いたりと、音楽活動のみならずさまざまな経験を重ねてきた。
2016年にインドのミュージシャン発掘番組"The Stage"に出演し、準決勝にまで進出したことで、音楽で生きていこうという決心をしたという。

ソロデビューは2018年。
現時点での彼の最新作は、今年4月にリリースされたこの"City Life"だ。

ムンバイの日常をアナログカメラで撮影した映像は、ロックダウン前に制作されたものと思われるが、コロナウイルスですっかり暮らしが変わってしまった今見ると、胸にぐっと迫ってくる。
この曲は、街での暮らしの中で、少しずつ自分を見失ってしまい、居場所を探すのに苦労している人のための曲とのこと。
彼のメロディーや歌声には、そっと心に寄り添ってくれるような優しさがある。

映画音楽以外の音楽シーンがまだまだ発展途上のインドでは、インディーミュージシャンが音楽だけで暮らしてゆくことは難しい。
まして、イベントにお客の集まりやすいダンスミュージックではなく、ギター1本で歌うシンガーソングライターであればなおさらだ。
それでもRaghavはこう語っている。

「他の選択肢はなかったんだ。ギターを弾くのを覚えて、詩を音楽に乗せる。それだけさ。(電子音楽ではなくて)ずっとバンドが演奏する音楽を聴いてきたし、今でも生のサウンドに夢中なんだよ」

実際、彼は今もソニーが立ち上げた非映画音楽のためのレーベル'Big Bang Music'で働いており、映画『ガリーボーイ』のモデルになったストリートラッパー、Naezyのマネジメントなどを手掛けているようだ。

彼のファーストアルバムは、2018年にリリースされたこの"Songs from Matchbox".
このアルバムは、インドの新進アーティストの常套手段であるクラウドファンディングによって集めた資金によって、ロンドンのアビーロードスタジオでマスタリングが施されている。

このアルバムのなかで個人的に気に入っているのは、妹の結婚式のために書かれたというこの"She Can"だ.

穏やかに始まり、美しいメロディーが次々にたたみかけてくるフォークポップの佳曲。

"I'm Always Right"は、アーティストを目指すインドの若者がいつも感じる不安を歌ったものだという。

RaghavはJohn MayerやGeorge Ezra、Damien Riceといった現代のシンガーソングライターの影響を受けていると語っているが、この曲ではポール・マッカートニーのようなメロディーラインが印象的だ。
エンジニアのような手堅い仕事につくようにというプレッシャーや、男女交際に反対する親たちに対するメッセージが込められている。

"Songs from the Matchbox"に収録された"Bar Talk"は、インドの同性愛カップルを描いたミュージックビデオが先日発表されたばかり。

彼はこのミュージックビデオに「これは(単に)ビタースウィートな関係にある2組のカップルの物語。今こそ、ずっと前から受け入れるべきだったストーリーから、センセーショナリズムのベールを取り払う時だ」というコメントを寄せている。



最近ではNetflix制作のドラマに楽曲を提供したり、またナイキのキャンペーンに起用されるなど、活躍の場をますます広げつつあるRaghav Meattle.
またInstagramなどのソーシャルメディアをうまく活用して、より多くの人にアプローチできるよう取り組んでいるという。

彼は、Parekh & Singhや、F16s, Peter Cat Recording Co.といった国内アーティストや、Lucy RoseやBen Howardなどの海外のアーティストとのコラボレーションを夢見ているそうだが、彼の才能を持ってすれば、国内のアーティストとの共演はすぐにでも実現しそうだ。
きっかけさえあれば、世界的に高い評価を得ることも夢ではないだろう。

インターネットによって世界中がつながった今も、音楽シーンの「地元主義」は根強く、またそれが地域ごとに個性あふれるシーンを作り出しているのも事実だが、彼のように普遍的な優れたポップミュージックを作り出す才能を、インドのインディーシーンだけにとどめておくのはあまりにも惜しい。
彼の音楽がワールド・クラスの評価を受ける日がくることを願うばかりだ。


参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-recording-new-album-musician-ive-grown-100-times/

https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-captures-mumbai-of-yesteryear-in-city-life-music-video/

https://queenmobs.com/2019/08/interview-raghav-meattle/

https://www.indulgexpress.com/culture/music/2020/apr/10/raghav-meattle-speaks-about-his-soulful-new-song-city-life-and-the-music-video-shot-entirely-on-reel-23949.html

https://ahummingheart.com/features/interviews/raghav-meattle-on-city-life-day-job-and-music-marketing/




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goshimasayama18 at 15:46|PermalinkComments(0)

2020年07月12日

卓越したポップセンスで世界を目指すシンガーソングライター Prateek Kuhad


これまでこのブログではあまり取り上げてこなかったが、インドには優れたシンガーソングライターがたくさんいる。

「インドの社会と音楽」というテーマで記事を書くことが多いので、どうしても社会的な内容を扱うラップやロックがメインになってしまい、より内面的で普遍的な歌詞を歌うシンガーソングライターについてはこれまでほとんど書いてこなかったのだが、今回は、満を持してインドを代表するシンガーソングライターを紹介したい。

彼の名前はPrateek Kuhad.
「風の宮殿」で有名な「ピンク・シティ」として知られるジャイプルで生まれ育った彼は、ニューヨーク大学で数学と経済学を学んだのちに、デリーに拠点を移して本格的な音楽活動を始めた。

まずは、彼の最新のリリースである"Kasoor"(ヒンディー語で「あやまち」とか「罪」という意味)を聞いてもらおう。

恋愛に関するさまざまな瞬間を彼のファンたちに思い出してもらい、そのリアクションのみで構成したミュージックビデオがとてもドラマチック。
コロナウイルス禍で外出が制限された中で制作されたものと思われるが、このアイデアは素晴らしい。
この曲の歌詞は、どうしようもなく恋をしてしまった気持ちを歌ったもの。

Prateekの特徴は、曲によってヒンディー語と英語の歌詞を使い分けていることだ。
2つの言語を自由に使いこなす彼にとって、これは特別なことではないようで、彼はインタビューで、両方の言語で話し、考えているのだから、どちらでも曲を作るのはごく自然なことだと答えている。
こちらは英語で歌う彼の代表曲"Cold/Mess"


ボリウッドに詳しい人であれば、このミュージックビデオに出演しているのが、『パドマーワト(Padmaavat)』や『サンジュ(Sanju)』にも出演していた俳優のジム・サルブ(Jim Sarbh)であることに気づいただろう。
(彼は最初に紹介した"Kasoor"のミュージックビデオにも出演している)

彼の音楽的ルーツは非常に多様で、ルイ・アームストロングやフランク・シナトラのような「歴史上の」アーティストから、フランク・オーシャンやカニエ・ウエストのような現代のポップスターまで、幅広いミュージシャンをフェイバリットに挙げているが、プロのミュージシャンを目指すきっかけとなったのは、ニューヨーク大学在学中に知ったエリオット・スミスだったようだ。
海外留学で欧米のカルチャーに触れたのちに、洗練されたポップミュージックをインド国内に紹介する役割を担うミュージシャンは多く、Parekh and SinghのNischay Parekhや、Easy WanderlingsのSanyanth Narothもアメリカ留学を経験している。

Prateekは帰国後の2015年にデビュー作の"In Token & Charmes"をリリース。
一躍インディーシーンの人気アーティストの仲間入りを果たす。
彼はこれまでにMTV Europe Music AwardsのBest Indian Act、iTuneのIndie Album of the Year, バンガロールのFM曲によるRadio City Freedom Awardなど、国内外で高い評価を受けており、インドのSpotifyで最も多くストリーミングされているミュージシャンの一人でもある。
(インドでは、Jio Saavnという国内のストリーミングサービスが圧倒的なシェアを占めており、ボリウッドなど映画音楽系のヒット曲のファンはほぼJio Saavnを利用している。Spotifyでのストリーミングが多いということは、一般的な人気ではなく、コアな音楽ファンの評価が高いということを意味している。)

特筆すべきはこの"Cold/Mess"で、この曲はオバマ元大統領による'Favorite Music of 2019'リストに入ったことがインドの音楽メディアで大きく報じられた。

彼の最大の魅力は、その卓越したメロディーセンスと、主に恋愛(とくに失恋)を扱った歌詞だろう。
本人は、「いい曲を書いて、レコーディングとプロダクションに全力を尽くすだけだよ」「他のみんなと比べて特別な経験をしているわけじゃない。いいアートを作るには、きちんと訓練して、全力を尽くすことさ」とあくまでも「ポップミュージック職人」的な態度を崩さないが、その楽曲は誰の心も動かしうる普遍的な魅力にあふれている。

こちらも英語で歌われた曲、"With You/For You"


彼はこれまでに、毎年テキサス州オースティンで行われている将来有望なアーティストの祭典SXSW(South by South West)に出演したり、北米ツアーを行うなど、アメリカ市場を見越した活動にも力を入れている。

米Billboard.comのインタビューによると、彼はアメリカでの成功を、世界的なミュージシャンになるための不可欠なプロセスと考えているようだ。
興味深いのは、彼がこのインタビューで、インド人としてのルーツを武器にするのではなく、楽曲の力のみでアメリカ市場で勝負したいと語っていることだ。
白人でも黒人でもラティーノでもない彼は、アメリカの音楽市場では正真正銘のマイノリティーだが(南アジア系は「ブラウン」と呼ばれることもある)、インド出身というエキゾチックさはあえて出さずに、曲の魅力そのもので国際的な評価を得たいと考えているという。

アメリカのメジャーシーンで成功するには彼の出自は決して有利ではないだろうし、インディーシーンで評価されるには彼の楽曲はオーセンティックすぎる気がするが、それは分かったうえでの発言だろう。
インド系であるというルーツを全面に打ち出したフィーメイル・ラッパーのRaja Kumariとは正反対のスタンスだ。
個人的には、アメリカよりもインド系移民の多いイギリスやカナダのほうが成功しやすいと思うのだが、彼は自身の留学先でもあったアメリカに強い思い入れがあるようだ。

インド国内では、すでに女性ファンを中心に根強い支持を得ており、ライブでもこれだけ多くの人が集まっている。
  

インドのそのへんの兄ちゃんっぽい雰囲気なのに、びっくりするほど美しいヴォーカルとメロディーを聴かせてくれるギャップが人気の秘密なのかもしれない。
最近ではボリウッド作品の音楽を手がけることもあり、インド国内での存在感をますます増しているPrateek Kuhad.
彼の名前を全米チャートの上位で目にすることができる日が来るのだろうか。



参考サイト:
https://www.huffingtonpost.in/entry/prateek-kuhad-interview_in_5e06f239e4b0843d36068603

https://indianexpress.com/article/lifestyle/art-and-culture/prateek-kuha-music-fashion-interview-tour-winter-tour-songs-cold-mess-jim-sarbh-zoya-hussain-6171442/

https://www.billboard.com/articles/news/international/8528159/prateek-kuhad-interview-india-changing-music-scene

https://www.vogue.in/culture-and-living/content/prateek-kuhad-exclusive-interview-concert-dates-december-2019-mumbai-bengaluru-delhi




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2018年12月26日

新世代R&Bクイーン、Anushqa!

このブログを始めてちょうど1年が経ったのだけれども、少し困っていることがある。
紹介するアーティストに、インド古典音楽の要素と欧米のロックの要素が入り混じったバンドが増えてきたので、先日記事のカテゴリーに新しく「フュージョン・ロック」というのを増やしたのだけど、ここに来て、今度はR&Bの分野でも、インド古典の要素を取り入れたアーティストが結構いることに気がついてしまったのだ。

ここはひとつ、新たに「フュージョンR&B」というカテゴリーを作るべきだろうか。
でもそれをやり始めると、「フュージョン・ エレクトロニカ」も「フュージョン・レゲエ」も作らなきゃいけなくなって、きりが無くなってしまうんだよなあ。
どうしたものか。

今回紹介するAnushqaは、まさにフュージョンR&Bと言えるサウンドを作り上げているアーティストだ。
まずは彼女のデビューシングル"Ecstacy"を聴いてみてください。

彼女の場合、インド的な要素は主にトラックのみで、歌唱についてはほぼインドの要素ナシというタイプだけど、ラップの部分のフロウには若干のインドらしさが感じられる(ような気がする)。

このAnushqaは、2015年にヴォーカリスト発掘をテーマにしたテレビ番組'The Stage'のシーズン1のファイナリストに残ったことをきっかけに音楽の世界に入ったという経歴の持ち主。
本名のAnushka Shahaneyとしてボリウッド映画のプレイバックシンガー(つまり女優が口パクで演じるミュージカルシーン専用の歌手)としても活躍していて、インドのベストセラー小説家チェタン・バガット(Chetan Bhagat)原作の映画、'Half Girlfriend'の挿入歌でその名を上げた。
映画を離れてソロのシンガーソングライターとして活動するときには、名前のkをqに変えて、Anushqaという名義を使っているようだ。
このユニークな綴りは、インドではよくあるアヌーシュカという名前をより識別されやすくするためだろう(ネット検索のときも便利!)。

こうした経歴からもわかるとおり、彼女はこのブログでいつも紹介しているインディーズ系のミュージシャンとは一線を画す、インドのショービジネスのかなりメインストリームに近いところで活動をしているアーティストということになる。

彼女のデビューのきっかけとなったようなオーディション番組は、インドでもかなりの人気を集めているようで、Slumdog Millionaireの原作者でもあるヴィカス・スワループの小説'Accidental Apprentice'でも、主人公の美人の妹がテレビのオーディションに出演するエピソードが出てくる。
オーディション番組でスター歌手になるというサクセスストーリーは、ちょうど70年代日本の「スター誕生!」みたいに、インドの新しい世代の憧れとして認識されているのだろう。
先天的な美貌がないと務まらない役者の世界と違って、「歌さえ上手ければ…」という夢を見させてくれるところも人気の秘密なのではないかと思う。
(その小説では、オーディション番組の裏側はセクハラやパワハラが横行するずいぶんとダーティーな世界として描かれていたけれど、実際のところはどうなんだろう。秋元康プロデュースのムンバイのMUM48も、プロジェクトが発表されたのち全く音沙汰がないが、インド芸能界のこうした闇の部分によって頓挫してしまっているのだろうか)

話をAnushqaに戻そう。
彼女は幼少期からムンバイで(西洋の)クラシック音楽を学んで育った。
インドの先進的ミュージシャンの常で、彼女もまた海外への留学を経験している。
カナダの大学で心理学を学んでいたそうだが、音楽のキャリアを追求したいという気持ちが強くなり、'The Stage'へのエントリーへとつながったようだ。

彼女のインターナショナル・デビューとなったのはこの曲、'Something in Common'.

おそらくは海外のマーケットを意識してエキゾチックな雰囲気のビデオにしたのだろうが、ここで見られるエキゾチックさはインド独自のものではなく、イメージ優先のなんちゃってエキゾチック(だと思う。ちょっとどこかの部族の民族衣装っぽくも見えるけど、監督はイギリス人のようなのでそこまで意識していなさそう)。
結果的にMajor Lazer & DJ Snake feat. MØの'Lean On'にそっくりになっているんじゃないかっていう指摘もされているようだが、インドらしさでいえばむしろ'Lean On'のほうが上だ('Lean On'のほうはロケ地もインドのどっかのお城だし)。

とはいえエキゾチックなのはビデオだけで、彼女の歌唱については、今回もインドらしさよりも直球のR&Bテイストで勝負している。
このあたり、カルナーティック音楽をルーツにもつRaja KumariAditi Rameshとの明確な違いと言ってよいだろう。

映画'Half Girlfriend'の挿入歌'Stay A Little Longer'.
 
この曲は作詞は彼女が手がけているけど作曲は別の人。
バラード調の曲調に、サーランギーっぽい擦弦楽器の音が絶妙なインド風味を醸し出している。
お聴きの通りインドの映画挿入歌、すなわちメインストリームポップスもここ数年で大きく変わってきていて、一昔前のYo Yo Honey SinghやBadshahみたいなクサイ(もっとストレートに言うとちょっとださい)曲調からだいぶ垢抜けてきた。

このAnushqa、これからもシンガーソングライターとプレイバックシンガーの二足のわらじを続けるのかどうかは不明だが、いずれにしても新しい時代のインドの歌姫として活躍していくことと思う。
日本での公開が増えてきているインド映画でもその歌声を聴く機会があるかもしれないので、要注目です。

今回はここまで。
それでは!


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