ケトン食
2018年07月21日
Demonic Resurrectionによる驚愕のインド神話コンセプトアルバムの中身とは!
このブログでたびたび紹介しているムンバイのシンフォニック・デスメタルバンドDemonic Resurrection.
今回は、前回の記事で書いた通り、彼らによるインド以外ではありえない驚愕のコンセプト・アルバム"Dashavatar"を紹介します!
その前に、まずインド人の約8割が信仰するヒンドゥー教についておさらい!
ヒンドゥー教は、キリスト教やイスラム教のように特定の開祖を持つ一神教とは大きく異なる特徴を持つ。
ヒンドゥー教は紀元前2,000年〜1,500年頃に現在のイランあたりからインドに進入したアーリア人が起こした「バラモン教」をルーツとし、様々な土着の民間信仰を取り入れながら成立した。
こういった成立過程の宗教だから、輪廻と解脱の概念やカースト制度といった共通項はあるものの、様々な神様が崇められている多神教であり、時代や地域によって人気のある神様が変わったり、信仰する神様によって重要な神話(例えば宇宙の成立過程)が異なっていたりする。
そもそも、「ヒンドゥー」という名称からして、インド人が自ら名乗り始めたものではなく、ペルシア人たちが「インダス川の東に住む人々の信仰」という意味で呼び始めたものであり、単一の信仰を指すものでは無かった。
どちらかというと、仏教やキリスト教のような一神教よりも、「八百万の神」を信仰の対象とする日本の神道に近い成り立ちの宗教と言うことができるだろう。
そのヒンドゥー教で最も人気のある2大神様といえば、シヴァ神とヴィシュヌ神。
とくに、ヴィシュヌ神はさまざまな土着の信仰や神話と融合、合併し、今日では有名なものだけでも10のアヴァター(化身)を持つ神とされている。
この10のアヴァターをサンスクリット語で"Dashavatara"と呼ぶ。
そう、今回紹介するDemonic Resurrectionのアルバム、"Dashavatar"は、この10の化身ひとつひとつを楽曲の形に昇華した、壮大にして神話的なコンセプトアルバムだというわけだ。
それぞれの曲のタイトルが、ヴィシュヌ神の10の化身のひとつひとつを指していて、曲順もご丁寧にそれぞれの化身がこの世界に登場したと言われる順番になっている。
収録順に見ていくと、
1.Matsya(半人半魚)
伝説によれば、太陽神スーリヤの息子マヌ王が祖先の霊に水を捧げるべく川へ入ると、手の中に角を生やした小さな金色の魚マツヤが飛び込んで来て、大きな魚に食べられないよう守って欲しいと頼んできた。
マヌはその金色の魚を瓶の中に入れて育てたが、魚はすぐに大きくなった。
そのため池へ移されたが、すぐに成長して入りきらなくなるため、川へそして海へと次々に移されていった。
マツヤは7日後に大洪水が起こり全ての命を破壊することを予言した。
マヌは海にも入りきらなくなった巨大魚マツヤがヴィシュヌの化身であることに気づいた。彼に船を用意して七人の賢者と全ての種子を乗せるよう言うと魚は姿を消した。
やがて大洪水が起こり、マツヤ(ヴィシュヌ)は船に竜王ヴァースキを巻きつけてヒマラヤの山頂まで引張った。
こうしてマヌは生き残り人類の始祖となり、地上に生命を再生させた。(Wikipediaより。一部修正加筆。以下同)
2.Kurma(亀)
Kurmaは神話上の乳海攪拌の際、攪拌棒に用いられたマンダラ山を海底で支えた大亀。
今回は、前回の記事で書いた通り、彼らによるインド以外ではありえない驚愕のコンセプト・アルバム"Dashavatar"を紹介します!
その前に、まずインド人の約8割が信仰するヒンドゥー教についておさらい!
ヒンドゥー教は、キリスト教やイスラム教のように特定の開祖を持つ一神教とは大きく異なる特徴を持つ。
ヒンドゥー教は紀元前2,000年〜1,500年頃に現在のイランあたりからインドに進入したアーリア人が起こした「バラモン教」をルーツとし、様々な土着の民間信仰を取り入れながら成立した。
こういった成立過程の宗教だから、輪廻と解脱の概念やカースト制度といった共通項はあるものの、様々な神様が崇められている多神教であり、時代や地域によって人気のある神様が変わったり、信仰する神様によって重要な神話(例えば宇宙の成立過程)が異なっていたりする。
そもそも、「ヒンドゥー」という名称からして、インド人が自ら名乗り始めたものではなく、ペルシア人たちが「インダス川の東に住む人々の信仰」という意味で呼び始めたものであり、単一の信仰を指すものでは無かった。
どちらかというと、仏教やキリスト教のような一神教よりも、「八百万の神」を信仰の対象とする日本の神道に近い成り立ちの宗教と言うことができるだろう。
そのヒンドゥー教で最も人気のある2大神様といえば、シヴァ神とヴィシュヌ神。
とくに、ヴィシュヌ神はさまざまな土着の信仰や神話と融合、合併し、今日では有名なものだけでも10のアヴァター(化身)を持つ神とされている。
この10のアヴァターをサンスクリット語で"Dashavatara"と呼ぶ。
そう、今回紹介するDemonic Resurrectionのアルバム、"Dashavatar"は、この10の化身ひとつひとつを楽曲の形に昇華した、壮大にして神話的なコンセプトアルバムだというわけだ。
それぞれの曲のタイトルが、ヴィシュヌ神の10の化身のひとつひとつを指していて、曲順もご丁寧にそれぞれの化身がこの世界に登場したと言われる順番になっている。
収録順に見ていくと、
1.Matsya(半人半魚)
伝説によれば、太陽神スーリヤの息子マヌ王が祖先の霊に水を捧げるべく川へ入ると、手の中に角を生やした小さな金色の魚マツヤが飛び込んで来て、大きな魚に食べられないよう守って欲しいと頼んできた。
マヌはその金色の魚を瓶の中に入れて育てたが、魚はすぐに大きくなった。
そのため池へ移されたが、すぐに成長して入りきらなくなるため、川へそして海へと次々に移されていった。
マツヤは7日後に大洪水が起こり全ての命を破壊することを予言した。
マヌは海にも入りきらなくなった巨大魚マツヤがヴィシュヌの化身であることに気づいた。彼に船を用意して七人の賢者と全ての種子を乗せるよう言うと魚は姿を消した。
やがて大洪水が起こり、マツヤ(ヴィシュヌ)は船に竜王ヴァースキを巻きつけてヒマラヤの山頂まで引張った。
こうしてマヌは生き残り人類の始祖となり、地上に生命を再生させた。(Wikipediaより。一部修正加筆。以下同)
2.Kurma(亀)
Kurmaは神話上の乳海攪拌の際、攪拌棒に用いられたマンダラ山を海底で支えた大亀。
もともと『マハーバーラタ』ではマンダラ山を支えたのは長寿で知られる亀王アクーパーラで、ヴィシュヌ信仰とは関係がなかったが、『ラーマーヤナ』以降、ヴィシュヌ神の化身である亀とされるようになった。
(乳海攪拌とは、神話上の神々と悪魔との戦いの中で、神が霊薬「アムリタ」を得るために「乳の海」を攪拌したことを指す。広大な乳海をかき混ぜるために、海底の巨大亀Kurmaの上に大マンダラ山を置き、その山に巻きつけた龍王ヴァースキを引っ張ることで攪拌を行ったそうな。スケールが大きすぎるのとシュールすぎるのとで、だんだんわけが分からなくなってきたと思うけど、先は長いのであんまり気にしないように。あとさっきからロープ代わりに使われてる竜王ヴァースキの扱いが悪くてかわいそう。)
3.Varaha(猪)
(「純粋な猪」とか、「大地は猪の牙の間に握られていた」とか、最後の一文とか、よくわからない要素が増えてきたが、あんまり難しく考えずに次に進もう)
4.Vamana(小人)
(今ひとつ神話の内容が頭に入ってこない理由は、神話のストーリー展開が唐突なだけじゃなくて、名前が馴染みにくいってこともあるよね。「バリ(チャクラヴァルティ)」ってどういう意味か。a.k.a.みたいなことなのか。あと不思議なことに4曲めと5曲めだけ、神話と曲の順番が逆になっている。)
5.Narashimha(獅子面の人間)
6.Parashurama(聖仙)
斧を持ったリシ(聖仙)のアヴァターラ。一部のクシャトリヤ(戦士たち)が極端に力をもち、己の愉楽のために人々の財産を奪うようになった。斧をもったパラシュラーマが現れ、邪悪なクシャトリヤを滅ぼした。
(この曲はYoutubeになかったのでこちらからどうぞ)
7.Rama(王子)
大聖ヴィシュヴァーミトラの導きによって、ミティラーの王ジャナカを尋ね、そこで王の娘シーターと出会い、結婚する。
しかしバラタ王子の母カイケーイー妃によって、14年の間アヨーディヤを追放された。ダンダカの森でラーヴァナによってシーターを略奪され、これをきっかけにラークシャサ族との間に大戦争が勃発する。
(以前紹介したAnanda Bhaskar Collectiveの"Hey Ram"もこのラーマ神のことだ。とても人気のある神様なので、RamやRamaという名前は「神よ!」というような一般名詞的な呼びかけとしても使われている。)
8.クリシュナ(牛飼い)
ヒンドゥー教でも最も人気があり、広い地域で信仰されている神の1柱であり、宗派によってはクリシュナとして、あるいはヴィシュヌの化身(アヴァターラ)としてスヴァヤン・バガヴァーン(神自身)であるとみなされている。
(今度はラーマヤーナと並んで有名なインド古典の超大作文学、マハーバーラタの中の主要キャラクター、クリシュナ。細かく紹介するとあまりにも長くなるので割愛!)
9.Buddha(仏陀)
ヒンドゥー教の伝統の多くに於いては、ブッダをダシャーヴァターラ(神の十化身)として知られる最も重要な10の化身の最も新しい(9番目の)化身を演じさせている。これは大乗仏教の教義がヒンドゥー教に取り込まれ、ヒンドゥー教の1宗派として仏教が扱われるようになったためである。後述の通り、偉大なるヴェーダ聖典を悪人から遠ざけるために、敢えて偽の宗教である仏教を広め、人々を混乱させるために出現したとされた。
(Youtubeになかったのでこちらからどうぞ。そう、仏教の開祖である仏陀ことゴータマ・シッダールタは、ヒンドゥー教の中ではヴィシュヌ神の化身のひとつとされているのだ)
10.Kalki(汚辱の破壊者)
翼の生えた白馬とともに現れる最後のアヴァターラ。宇宙を更新するために悪徳の時代カリ・ユガの終わりに登場するとされる。白い駿馬に跨った英雄、あるいは白い馬頭の巨人の姿で現される。
(この曲もYoutubeになかったので、こちらからどうぞ。この世紀末的なKalkiはインド的神秘主義好きに好まれる存在のようで、同じ名前のフランスのサイケデリックトランスアーティストもいる)
と、ついつい全曲背景となる神話を紹介してしまったが、リリックビデオを見てもらえれば分かる通り、インド神話を知らないと何のことやら分からない単語がいっぱい出てくる、まさにインドならではのヘヴィーメタルなのだ。
例えば3曲目のVarahaの歌い出しはこんな感じだ。
”新たなカルパ(劫=宇宙単位の長い時間)の夜明けに
ブラフマー(インド神話の創造神)がその創造物を作り上げたとき
ブーミデヴィ(地母神)は波の上に投げつけた… "
と、独特の固有名詞が多すぎて、インド神話の予備知識が無いと何のことだか全然わからない。
いや、インド神話を調べてみたうえで訳してみても、やっぱり難解であることに代わりはないのだけど、なんとなく神話的な雰囲気で楽しめるようにはなってくると思う。
まあとにかく、Demonic Ressurectionのシンフォニック・デスメタルサウンドは、この途方もなく壮大なインド神話の世界を雄弁に語っているわけだ。
このヴィシュヌの10の化身こと"Dashavatara"、インド国民どれくらい深く親しまれているかというと、こんなアメリカのヒーローものみたいなテイストのアニメ映画が作られていたりもする。
こんなアルバムを作るなんて、Demonstealerなんて凶々しい名前を名乗ってるけど、きっと敬虔なヒンドゥー教徒なんだなあー。
と思って尋ねてみたら、彼の回答はこんなだった。
「いや、俺は無神論者で、いかなる神も信じていない。俺は宗教はとにかく大っ嫌いで、人間が作り出した最悪のものだと思ってる。神や宗教は人々をコントロールするためのただの道具だね。ヒンドゥー教にいたっては宗教ですらなくて、ただの生活様式だよ。俺に言わせればヒンドゥーはただの馬鹿な連中が信じてる教訓めいた物語で、偶像を作っては崇めてるのさ」
と、気持ちいいほどの全否定っぷり。
考えてみれば、料理番組で牛肉をがんがん料理している彼が敬虔なヒンドゥー教徒なわけがない。
それならば、いったいどうしてこんなヒンドゥー神話をテーマにしたアルバムを作ったのだろう。
「そうは言っても、神話の物語時代は面白いし、俺にとって興味深いものなんだ。実際のところ、俺はこういう物語をすごく笑えるくだらない形で見て育ったんだ。地元のテレビで神話のドラマをやってたんだけど、すごく変だったから、全然興味が持てなかった。でも俺のかみさんがナラシンハ(獅子男)の物語を話してくれた時、それがすごくクールだったから、それ以来はまっちゃったってわけさ」
このDashavatar、ヘヴィーメタルのコンセプトアルバムとしての完成度もとても高く、純粋に音楽としてもっと評価されるべき一枚だと思う。
でも、それにも増して、ヘルシー料理のインドにおけるパイオニアにして、あらゆる宗教を否定する無神論者が、奥さんから教わったヒンドゥー神話をもとに作ったデスメタルのコンセプトアルバムって、もうそれだけで面白すぎる要素が盛りだくさんだ。
神話と無神論、ヒンドゥー教と牛肉食も辞さない健康食、背徳的なデスメタルと愛妻っぷりという矛盾する要素が違和感なく1人の表現者、1枚のアルバムの中に収まっている。
Demonic Resurrectionの"Dashavatar"は、音楽的な内容だけでなく、こうしたバックグラウンドをとってみても、現代インドの価値観の多様性を象徴するアルバムになっているのだ。
続いてSahilは、その子どものころみていたというヒンドゥー神話に関するテレビ番組について教えてくれた。
「俺が言っていることはこの番組の様子を見れば分かるはずだよ。アルバムに入ってるのと同じヴィシュヌの化身(Avatar)がどんなに馬鹿げた感じになってるかってね。」
うーん、人様が信仰の対象にしているものをおちょくるようなことは基本的にはしたくないのだが、10分くらいからの、生身の人間が演じているヴィシュヌ神なんかはやっぱりちょっと無理があるように思うなあ。
さらに続きはもっと凄い。コントの西遊記みたいなことになってる。
途中、何かに配慮してか、モザイクみたいなのも入るけど、気にせず見続けて欲しい。
ヴィシュヌの化身たる聖なる魚、Matsyaが出てきてからが(1:30あたりから)本当にヤバい!
「このメイク、衣装、見た目、すべてが馬鹿げててくだらないだろ」
とサヒールは言うが、う、うん。思いっきり同意するしかないね。
さて、そんな彼らは自分たちをどうカテゴライズしているのだろうか。
ヒンドゥー神話をテーマにしたヴェーディックメタルというカテゴリーもあるわけだが。
(乳海攪拌とは、神話上の神々と悪魔との戦いの中で、神が霊薬「アムリタ」を得るために「乳の海」を攪拌したことを指す。広大な乳海をかき混ぜるために、海底の巨大亀Kurmaの上に大マンダラ山を置き、その山に巻きつけた龍王ヴァースキを引っ張ることで攪拌を行ったそうな。スケールが大きすぎるのとシュールすぎるのとで、だんだんわけが分からなくなってきたと思うけど、先は長いのであんまり気にしないように。あとさっきからロープ代わりに使われてる竜王ヴァースキの扱いが悪くてかわいそう。)
3.Varaha(猪)
Varahaはヒンドゥー教における猪の姿をしたヴィシュヌ神の第3のアヴァターラ(化身)である。大地(プリティヴィー)を海の底へ沈めた、恐ろしきダイティヤ族の王ヒラニヤークシャを打ち破るために遣わされ、1000年にも及ぶ戦いの末、勝利を収める。
ヴァラーハは純粋な猪、もしくは擬人化され、猪の頭を持つ男の姿で描かれた。
後にそれは4本の腕を持ち、2本で車輪と法螺貝、残りの手で矛、剣あるいは蓮を持ち、あるいは祈りの姿勢をとる姿で描写された。
大地は猪の牙の間に握られていた。
このアヴァターラはプララヤ(洪水)からの蘇生及び新しいカルパ(周期)の確立を象徴し、それゆえ創造神話を構成すると考えられる。後にそれは4本の腕を持ち、2本で車輪と法螺貝、残りの手で矛、剣あるいは蓮を持ち、あるいは祈りの姿勢をとる姿で描写された。
大地は猪の牙の間に握られていた。
(「純粋な猪」とか、「大地は猪の牙の間に握られていた」とか、最後の一文とか、よくわからない要素が増えてきたが、あんまり難しく考えずに次に進もう)
4.Vamana(小人)
ヴァーマナはヴィシュヌの化身である矮人で、デーヴァの敵、バリ(チャクラヴァルティ)から天と地を全て騙し取った。
ヴァーマナはバラモンの乞食少年を装って3歩歩いた分だけの土地を要求し、バリは師のアスラグル・スクラチャリヤの警告にもかかわらず、それを認めた。ヴァーマナは巨大化し、1歩目で大地を跨ぎ、2歩目で天を踏み、地底世界(パーターラ)はバリのために残しておいた。しかしバリは約束が履行されない事を望まなかった。そのためヴァーマナは3歩目でマハーバリの頭を踏み付けて地底世界へ押し付けることで同意した。バリは不死身にされ、今も地底世界に棲むと言われる。 (今ひとつ神話の内容が頭に入ってこない理由は、神話のストーリー展開が唐突なだけじゃなくて、名前が馴染みにくいってこともあるよね。「バリ(チャクラヴァルティ)」ってどういう意味か。a.k.a.みたいなことなのか。あと不思議なことに4曲めと5曲めだけ、神話と曲の順番が逆になっている。)
5.Narashimha(獅子面の人間)
ヒンドゥー教におけるヴィシュヌの第4のアヴァターラで、ライオンの獣人(Nara=人, simha=ライオン)である。アスラ族のヒラニヤカシプを退治したといわれる。
ヒラニヤカシプは苦行をブラフマーに認められ、1つの願いを叶えてもらった。その際に願ったのは「神とアスラにも、人と獣にも、昼と夜にも、家の中と外にも、地上でも空中でも、そしてどんな武器にも殺されない体」という念の入ったものだった。ヴィシュヌは実質不死身の体を得たヒラニヤカシプを倒すため、彼の息子でヴィシュヌ信者のプラフラーダに、夕方の時刻に玄関までヒラニヤカシプを誘導してもらい、ヒラニヤカシプが調子に乗って割った柱の中からライオンの頭をした人間の姿、すなわちナラシンハとして飛び出し、地上でも空中でもない彼の膝の上で、ヒラニヤカシプの体を素手で引き裂いて殺した。
(この曲だけちゃんとしたミュージックビデオ風だが、B級映画に出てくる獣人みたいなのがイカす!)6.Parashurama(聖仙)
斧を持ったリシ(聖仙)のアヴァターラ。一部のクシャトリヤ(戦士たち)が極端に力をもち、己の愉楽のために人々の財産を奪うようになった。斧をもったパラシュラーマが現れ、邪悪なクシャトリヤを滅ぼした。
(この曲はYoutubeになかったのでこちらからどうぞ)
7.Rama(王子)
インドの叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公。シーターを妃とした。
神話上、特にヴァイシュナヴァ派では、ヴィシュヌのアヴァターラ(化身)であるとされる。
ダシャラタ王と妃カウサリヤーとの間に生まれ、異母兄弟にバラタ、ラクシュマナ、シャトルグナがいる。『ラーマーヤナ』によると、彼ら4兄弟はいずれもラークシャサ(羅刹)の王ラーヴァナを倒すために生まれたヴィシュヌ神の4分身であるという。大聖ヴィシュヴァーミトラの導きによって、ミティラーの王ジャナカを尋ね、そこで王の娘シーターと出会い、結婚する。
しかしバラタ王子の母カイケーイー妃によって、14年の間アヨーディヤを追放された。ダンダカの森でラーヴァナによってシーターを略奪され、これをきっかけにラークシャサ族との間に大戦争が勃発する。
(以前紹介したAnanda Bhaskar Collectiveの"Hey Ram"もこのラーマ神のことだ。とても人気のある神様なので、RamやRamaという名前は「神よ!」というような一般名詞的な呼びかけとしても使われている。)
8.クリシュナ(牛飼い)
ヒンドゥー教でも最も人気があり、広い地域で信仰されている神の1柱であり、宗派によってはクリシュナとして、あるいはヴィシュヌの化身(アヴァターラ)としてスヴァヤン・バガヴァーン(神自身)であるとみなされている。
(今度はラーマヤーナと並んで有名なインド古典の超大作文学、マハーバーラタの中の主要キャラクター、クリシュナ。細かく紹介するとあまりにも長くなるので割愛!)
9.Buddha(仏陀)
ヒンドゥー教の伝統の多くに於いては、ブッダをダシャーヴァターラ(神の十化身)として知られる最も重要な10の化身の最も新しい(9番目の)化身を演じさせている。これは大乗仏教の教義がヒンドゥー教に取り込まれ、ヒンドゥー教の1宗派として仏教が扱われるようになったためである。後述の通り、偉大なるヴェーダ聖典を悪人から遠ざけるために、敢えて偽の宗教である仏教を広め、人々を混乱させるために出現したとされた。
(Youtubeになかったのでこちらからどうぞ。そう、仏教の開祖である仏陀ことゴータマ・シッダールタは、ヒンドゥー教の中ではヴィシュヌ神の化身のひとつとされているのだ)
10.Kalki(汚辱の破壊者)
翼の生えた白馬とともに現れる最後のアヴァターラ。宇宙を更新するために悪徳の時代カリ・ユガの終わりに登場するとされる。白い駿馬に跨った英雄、あるいは白い馬頭の巨人の姿で現される。
(この曲もYoutubeになかったので、こちらからどうぞ。この世紀末的なKalkiはインド的神秘主義好きに好まれる存在のようで、同じ名前のフランスのサイケデリックトランスアーティストもいる)
と、ついつい全曲背景となる神話を紹介してしまったが、リリックビデオを見てもらえれば分かる通り、インド神話を知らないと何のことやら分からない単語がいっぱい出てくる、まさにインドならではのヘヴィーメタルなのだ。
例えば3曲目のVarahaの歌い出しはこんな感じだ。
”新たなカルパ(劫=宇宙単位の長い時間)の夜明けに
ブラフマー(インド神話の創造神)がその創造物を作り上げたとき
ブーミデヴィ(地母神)は波の上に投げつけた… "
と、独特の固有名詞が多すぎて、インド神話の予備知識が無いと何のことだか全然わからない。
いや、インド神話を調べてみたうえで訳してみても、やっぱり難解であることに代わりはないのだけど、なんとなく神話的な雰囲気で楽しめるようにはなってくると思う。
まあとにかく、Demonic Ressurectionのシンフォニック・デスメタルサウンドは、この途方もなく壮大なインド神話の世界を雄弁に語っているわけだ。
このヴィシュヌの10の化身こと"Dashavatara"、インド国民どれくらい深く親しまれているかというと、こんなアメリカのヒーローものみたいなテイストのアニメ映画が作られていたりもする。
こんなアルバムを作るなんて、Demonstealerなんて凶々しい名前を名乗ってるけど、きっと敬虔なヒンドゥー教徒なんだなあー。
と思って尋ねてみたら、彼の回答はこんなだった。
「いや、俺は無神論者で、いかなる神も信じていない。俺は宗教はとにかく大っ嫌いで、人間が作り出した最悪のものだと思ってる。神や宗教は人々をコントロールするためのただの道具だね。ヒンドゥー教にいたっては宗教ですらなくて、ただの生活様式だよ。俺に言わせればヒンドゥーはただの馬鹿な連中が信じてる教訓めいた物語で、偶像を作っては崇めてるのさ」
と、気持ちいいほどの全否定っぷり。
考えてみれば、料理番組で牛肉をがんがん料理している彼が敬虔なヒンドゥー教徒なわけがない。
それならば、いったいどうしてこんなヒンドゥー神話をテーマにしたアルバムを作ったのだろう。
「そうは言っても、神話の物語時代は面白いし、俺にとって興味深いものなんだ。実際のところ、俺はこういう物語をすごく笑えるくだらない形で見て育ったんだ。地元のテレビで神話のドラマをやってたんだけど、すごく変だったから、全然興味が持てなかった。でも俺のかみさんがナラシンハ(獅子男)の物語を話してくれた時、それがすごくクールだったから、それ以来はまっちゃったってわけさ」
このDashavatar、ヘヴィーメタルのコンセプトアルバムとしての完成度もとても高く、純粋に音楽としてもっと評価されるべき一枚だと思う。
でも、それにも増して、ヘルシー料理のインドにおけるパイオニアにして、あらゆる宗教を否定する無神論者が、奥さんから教わったヒンドゥー神話をもとに作ったデスメタルのコンセプトアルバムって、もうそれだけで面白すぎる要素が盛りだくさんだ。
神話と無神論、ヒンドゥー教と牛肉食も辞さない健康食、背徳的なデスメタルと愛妻っぷりという矛盾する要素が違和感なく1人の表現者、1枚のアルバムの中に収まっている。
Demonic Resurrectionの"Dashavatar"は、音楽的な内容だけでなく、こうしたバックグラウンドをとってみても、現代インドの価値観の多様性を象徴するアルバムになっているのだ。
続いてSahilは、その子どものころみていたというヒンドゥー神話に関するテレビ番組について教えてくれた。
「俺が言っていることはこの番組の様子を見れば分かるはずだよ。アルバムに入ってるのと同じヴィシュヌの化身(Avatar)がどんなに馬鹿げた感じになってるかってね。」
彼が教えてくれた、Matsya(半魚人)の物語の番組はこんな感じ。
うーん、人様が信仰の対象にしているものをおちょくるようなことは基本的にはしたくないのだが、10分くらいからの、生身の人間が演じているヴィシュヌ神なんかはやっぱりちょっと無理があるように思うなあ。
さらに続きはもっと凄い。コントの西遊記みたいなことになってる。
途中、何かに配慮してか、モザイクみたいなのも入るけど、気にせず見続けて欲しい。
ヴィシュヌの化身たる聖なる魚、Matsyaが出てきてからが(1:30あたりから)本当にヤバい!
「このメイク、衣装、見た目、すべてが馬鹿げててくだらないだろ」
とサヒールは言うが、う、うん。思いっきり同意するしかないね。
さて、そんな彼らは自分たちをどうカテゴライズしているのだろうか。
ヒンドゥー神話をテーマにしたヴェーディックメタルというカテゴリーもあるわけだが。
「俺たちは自分たちのことをシンフォニック・デスメタルにカテゴライズしたいね。でも俺たちの音楽の根本にあるのはデスメタルだ。今ではそこにインドの要素が加わってるかもね。昔の作品はもっとストレートなシンフォニック・デスメタルだったんだ」
とのこと。
まあ、そりゃ無神論者だしそうなるわな。
今回紹介したDashavatarのみならず、Demonic DesurrectionやDemonstealerについては、いろんなアルバムがネット上でも聴くことができるので、興味のある人はぜひチェックを!
さて、今回のインタビューに協力してくれたDemonstealerことSahil、ケトン料理研究家としてもますます活躍しており、最近ではこんな本も出版した模様!
そして本業の音楽でも(もはやどっちが本業か分からないが)イギリスの大規模野外メタルフェス、Bloodstockへの出演が決定した模様!
ヘヴィーメタルという枠組みを越えて、国際的な活躍をするアーティストとして、これからも注目してゆきたいと思います。
さらに、彼にはもうひとつ別の顔があり、それはレーベルオーナー。
自身の名を冠したDemonstealer Recordsから、自身のバンドDemonic ResurrectionやThird Sovereign、Albatrossといったインドのメタルバンドだけではなく、Dimmu Borgir、Behemothといった海外の大御所バンドのアルバムもディストリビュートしている。
インドのメタルシーンと健康食シーンという、正反対の二分野で比類なき活躍を続けるSahil Makhija、又の名をDemonstealer.
バンドもますます世界的な評価を得てきていて、やがて来日公演なんかもしてくれるかもしれない。
(してくれたらいいなあ)
その時には、ケトン食で健康的になった体で暴れに行くぜ!
といったところで、また!
--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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とのこと。
まあ、そりゃ無神論者だしそうなるわな。
今回紹介したDashavatarのみならず、Demonic DesurrectionやDemonstealerについては、いろんなアルバムがネット上でも聴くことができるので、興味のある人はぜひチェックを!
さて、今回のインタビューに協力してくれたDemonstealerことSahil、ケトン料理研究家としてもますます活躍しており、最近ではこんな本も出版した模様!
そして本業の音楽でも(もはやどっちが本業か分からないが)イギリスの大規模野外メタルフェス、Bloodstockへの出演が決定した模様!
ヘヴィーメタルという枠組みを越えて、国際的な活躍をするアーティストとして、これからも注目してゆきたいと思います。
さらに、彼にはもうひとつ別の顔があり、それはレーベルオーナー。
自身の名を冠したDemonstealer Recordsから、自身のバンドDemonic ResurrectionやThird Sovereign、Albatrossといったインドのメタルバンドだけではなく、Dimmu Borgir、Behemothといった海外の大御所バンドのアルバムもディストリビュートしている。
インドのメタルシーンと健康食シーンという、正反対の二分野で比類なき活躍を続けるSahil Makhija、又の名をDemonstealer.
バンドもますます世界的な評価を得てきていて、やがて来日公演なんかもしてくれるかもしれない。
(してくれたらいいなあ)
その時には、ケトン食で健康的になった体で暴れに行くぜ!
といったところで、また!
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goshimasayama18 at 23:11|Permalink│Comments(0)
2018年06月27日
メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!
ここのところちょっと重めの(内容の濃い)記事が続いたので、今回は軽めの内容で行きたいと思います。
軽めといっても音楽的には重め!
今回は北東部ミゾラム州のデスメタルバンド、我らが Third Sovereignが出演している謎の音楽番組を紹介します!
Third Sovereignに関しては、こちらの彼らへのインタビュー記事をどうぞ。
デスメタルというコアな音楽性ながら、このブログ史上最多の「いいね!」を獲得した人気記事となっております。
インドの音楽シーンを見ていくうえで非常に大事なことを語っているので、メタルなんか聴かないよという人も是非ご一読を!
さて、本日紹介する番組は、その名も「Headbanger's Kitchen」
内容はというと、「ヘビーメタル・クッキングショー」という、かなりシュールというか意味不明なもので、メタラーっぽい料理人が大真面目に料理の作り方を披露するという訳のわからなさ。
毎回インド国内や海外のいろんなミュージシャンを招いて料理とメタルを紹介するという、おそらく世界でも唯一無二の番組だ。
インドでも、メタルという過激で暴力的な音楽を、料理という日常的で家庭的なものと対比させて面白がる、っていうメタ的な楽しみ方が成立するほどに、音楽の聴き方が成熟しているってわけだ。
Third Sovereignがゲストとして出演しているこの回で紹介される料理は「Necro Chili Con Carne」(暗黒チリ・コン・カルネ)とのこと。
なんじゃいそりゃ、と思うけど、その模様はこちらからどうぞ。
見てもらうと分かるが、このネクロ・チリ・コン・カルネ、別にThird Sovereignにちなんだ料理というわけでもなく、バンドのメンバーがいっしょに料理をするというわけでもなく、もっぱら司会の男性が一人で進行。
意外にも料理のコーナーはこれといったおふざけもなく、肝心のメタルの要素もないまま極めてまっとうに進んでゆく。
で、料理のコーナーが終わると今度はいよいよ司会の男性によるThird Sovereignへのインタビューが始まる(11:05頃から)のだが、このインタビューも、作った料理を食べながらするわけでもなく、好きな食べ物の話題が出るでもなく、今度は料理のことなんか忘れてしまったかのように普通のインタビューが始まり、ますますわけのわからなさが募る展開となっている。
インタビューでいちばん右に座っているインド訛りの少ない流暢な英語を話している男性が、このサイトでインタビューさせてもらったVedant.
この映像を見て、アタクシのインタビューのときは分かりやすいようにずいぶんゆっくり話をしてくれていたんだなあ、と再認識した。
彼はそういう気配りがさりげなくできる男です。
気になって調べてみたところ、この司会の男性はなんとムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionのヴォーカリストを務めるSahilという人物だということが判明!
Demonic Resurrectionはなかなか個性的なバンドで「いつか紹介したいアーティスト」のリストに入れていたのだけど、こんなところでこんな形で会ってしまうとは…。
でもせっかくなので紹介すると、彼らはドイツの有名なメタル系フェス、ヴァッケン・オープンエアにも出たことがあり、この5月にも英国ツアーを成功させた国際的にも高く評価されているバンドだ。
ヴァッケン出演時の模様がこちら。
この番組紹介の映像で、「キート、キート(Keto)」と連呼しているので何かと思って調べてみたら、どうやらこれは日本では「ケトン食」と呼ばれている健康食のことらしい。
「ケトン食」とは、もともと小児難治性てんかんの治療のために開発された食事法で、糖や炭水化物の摂取を大きく制限してエネルギーの多くを脂肪やたんぱく質から取るというもの。
日本でも流行った「低炭水化物ダイエット」「ロカボ」にも似たもののようだが、検索すると、日本でも「ケトン食ががんを消す」とか、「奇跡の食事療法」といった本も出版されており、世界中に熱心なファンがいる健康法のようだ。
で、その熱心なファンのインド代表がこのDemonic ResurrectionのヴォーカリストのSahilということのようで、この番組は単なるメタルと料理のミスマッチを狙ったバラエティー番組ではなく、このケトン料理のレシピを視聴者の健康のために紹介するという、非常に真面目な使命を持ったもの(にメタルアーティストのインタビューも入っている)なのだ。
インド料理はチャパティーや米、ジャガイモなどで炭水化物過多になりやすいと言われているのだが、まさかデスメタルバンドのヴォーカリストが食事療法を通してインドの健康状況改善に取り組んでいるとは思わなかった。
インドのデスメタルシーン、奥が深すぎる…。
さらに謎なのは、Sahilが紹介しているレシピがチリ・コン・カルネだということ。
チリ・コン・カルネは米南部テキサス州からメキシコあたりで食べられている、いわゆる「テックスメックス」料理で、英語風にチリ・コン・カンと呼ばれることもある。
そのメキシコ料理(と番組では紹介されている)のチリ・コン・カルネを、サヒールさん、インドでは手に入りづらいと言いながらアボカドを使ったワカモレを作ったり、かなり本格的な作り方でクッキングしているではないか。
食に関しては一様に保守的と言われているインドで、何故に遠く離れたメキシコの料理なのか。
謎を解くカギは、「新版 インドを知る辞典」(山下博司・岡光信子著)という本の中に見つかった。
この本の中の最近のインドの夕食事情についての記述で、こんなことが書かれていた。
「都会の裕福な家庭では、インド料理だけでなく、時には中華料理、メキシコ料理、タイ料理、西洋料理なども並べられる」
なんと、家庭でよく食べられる外国料理の2番目にメキシコ料理が来ているではないか!
1番目が地理的にも近く、世界的にも美食とされている中華料理なのは分かるとして、その次に遠く離れたメキシコ料理。
これは日本でいうとイタリア料理あたりのポジションということだろうか。
でもよく考えてみたらインド料理で欠かせない唐辛子も、サモサ等でよく使われるジャガイモも、もともとは中南米原産。
香辛料をたくさん使うという共通点もあるし、メキシコ料理はじつはインド人にとってかなり馴染みやすいものなんじゃないだろうか。
と思ってデリーやムンバイのメキシカンレストランをググってみたら、あるわあるわ。
しかも、メキシコ料理専門店だけじゃなくて、「インド料理とメキシコ料理」とか、「イタリアンとメキシコ料理」みたいなお店がたくさんヒットする。
ムンバイに暮らすインド人の友人に聞いてみたところ、「ナチョスやケサディーヤ、タコスやブリトーは一般的だよ。インド風に料理されたものだけどね。裕福な人は専門店で本物のメキシコ料理を食べてるんじゃないかなあ」とのこと。
おお!インド風にアレンジまでされているなんて、まさに日本でいうところのイタリアン、たらこスパゲッティーやナポリタンを彷彿とさせるじゃないか!
ちなみに大航海時代に中南米原産の唐辛子(チリ)がインドに渡ってきて料理が発展していった様子は「インドカレー伝」(リジー・コリンガム著、東郷えりか訳)という本に詳しい。
食に関しては戒律や浄・不浄の概念のせいで保守的と言われるインド人だが、じつはとっくの昔に食のグローバリゼーションを成し遂げていた、とも言えるわけだ。
さらに余談だが、メキシコで伝統的なコーヒーの飲み方の「カフェ・デ・オジャ」といえば、コーヒーにシナモンを入れたもののことを指す。
シナモンは南アジア原産の香辛料。
中南米原産の唐辛子がインドの料理で、南アジア原産のシナモンがメキシコの飲み物でそれぞれ欠かせないものになっている、っていうものなかなかに面白い話なのではないかと思う。
話を番組に戻すと、もうひとつ驚いたのは、このレシピに牛肉が使われていること。
ご存知のとおり、インドでは人口の8割がヒンドゥー教を信仰している。
ヒンドゥー教において牛は「聖なる動物」とされており、殺したり食べたりすることに対する忌避意識は相当に強いものがある。
とくに、ヒンドゥーナショナリズム的な傾向が高まっている昨今では、牛の屠殺を禁じる法律が州議会で可決されたり、牛肉を所持していたイスラム教徒が集団リンチにあったりするという事件も起きている。
田舎だけではなく、Demonic Resurrectionの本拠地、大都会のムンバイでも起きていることだ。
その中で、あえて(それもさも普通のことのようにしれっと)牛肉を使った料理を紹介するっていうのは、じつはすごく勇気がいることなんじゃないだろうか。
この「チリ・コン・カルネ(chili con carne)」はもともとはスペイン語で、conは英語のwith、carneはmeatを意味している。
このカルネは本場メキシコやテキサスでも必ずしも牛肉である必要はなく、鶏肉でも良いとされている。
何故そこを、あえてそこを牛肉で行くのか?
もちろん、牛肉のほうが美味しい(少なくとも、Sahilにとっては)ということなのだろうが、本当にそれだけだろうか。
これは完全に想像だが、Third SovereignのVedant がインタビューで言っていたように、彼らメタルミュージシャンにとってはヘヴィーメタルこそが宗教というか信念の拠り所であって、既存の宗教による規範になんてとらわれねえぞ!という意識が働いているの可能性はないだろうか。
Sahilが所属するDemonic Resurrectionの曲の中には、こんなふうに冒頭で神の実在や慈悲を否定しているものもある。
(男塾の民明書房風に書くと、この曲はマツヤというタイトルだが、牛丼をテーマにした歌ではなく、だから番組でも牛肉を食べているのでないことは言うまでもない)
冒頭の語りに続いて始まるシタールとメタルサウンドの融合がシビれる!
しかもそれが単なる意外性だけで終わらずに、ドラマチックな曲調の中で非常にうまく使われているのが印象的だ。
冒頭で神の権威を否定している一方で、歌詞にはヒンドゥー教的な単語もずいぶん出てくる。
が、大事なのはダルマ(Dharma=法、理ことわり)であって、様々な神々はその多様な側面を表したものに過ぎない、というのもまたインドの哲学の一部。
これはこれで非常にインド的なメタルと言えるのではないだろうか。
また別の曲では、ヒンドゥーの神々がばんばん出てきて、もう完全にヴェーディックメタル!
(ヴェーディックメタルについてはこちらをどうぞ)
デス声以外の部分も多く、ドラマティックにインド神話の世界創造を歌った壮大すぎるテーマのメタル組曲だ。
思うに、彼らは曲を書くにあたって、ヘヴィーメタルにふさわしい題材として、インドの伝統であるヒンドゥーの神話世界を扱ってはいるものの、ヒンドゥー教という宗教を生活の規範にしようというつもりはさらさらない、というスタンスで活動しているのではないだろうか。
それから、つい歌詞や背景の分析が長くなってしまったけど、ブルータルだったりテクニカルだったりするデスメタルバンドが多いインドのメタルバンドの中で、Demonic Resurrectionのドラマチックかつシンフォニックなサウンドは非常に個性的で面白い。
楽曲もよくできていて、演奏レベルも非常に高く、欧米でツアーができるほどに人気があるのもうなづける。
日本でももっと人気が出てよいタイプのサウンドじゃないだろか。
それにしても、この動画のトップ画像を見ていたら、最近ちょっと太り気味のアタクシもケトン食やってみようかな…という気持ちになってきてしまった(内容は、体重の数字だけじゃなくて、トータルの健康に気を配れ、っていうみんなが言うやつなんだけど)。
糖質や炭水化物の摂取をやめると初めのうちはイライラすると聞くが、そんなときに彼らのデスメタルを聴けば気分もすっきりするかもしれない。
余計怒りが込み上げてきて何かを破壊したくなるかもしれないが。
ああ、今回も軽い話題のつもりがずいぶん長くなってしまった。
楽しんで読んでもらえたら良いのだけど。
それでは今日はこのへんで!
軽めといっても音楽的には重め!
今回は北東部ミゾラム州のデスメタルバンド、我らが Third Sovereignが出演している謎の音楽番組を紹介します!
Third Sovereignに関しては、こちらの彼らへのインタビュー記事をどうぞ。
デスメタルというコアな音楽性ながら、このブログ史上最多の「いいね!」を獲得した人気記事となっております。
インドの音楽シーンを見ていくうえで非常に大事なことを語っているので、メタルなんか聴かないよという人も是非ご一読を!
さて、本日紹介する番組は、その名も「Headbanger's Kitchen」
内容はというと、「ヘビーメタル・クッキングショー」という、かなりシュールというか意味不明なもので、メタラーっぽい料理人が大真面目に料理の作り方を披露するという訳のわからなさ。
毎回インド国内や海外のいろんなミュージシャンを招いて料理とメタルを紹介するという、おそらく世界でも唯一無二の番組だ。
インドでも、メタルという過激で暴力的な音楽を、料理という日常的で家庭的なものと対比させて面白がる、っていうメタ的な楽しみ方が成立するほどに、音楽の聴き方が成熟しているってわけだ。
Third Sovereignがゲストとして出演しているこの回で紹介される料理は「Necro Chili Con Carne」(暗黒チリ・コン・カルネ)とのこと。
なんじゃいそりゃ、と思うけど、その模様はこちらからどうぞ。
見てもらうと分かるが、このネクロ・チリ・コン・カルネ、別にThird Sovereignにちなんだ料理というわけでもなく、バンドのメンバーがいっしょに料理をするというわけでもなく、もっぱら司会の男性が一人で進行。
意外にも料理のコーナーはこれといったおふざけもなく、肝心のメタルの要素もないまま極めてまっとうに進んでゆく。
で、料理のコーナーが終わると今度はいよいよ司会の男性によるThird Sovereignへのインタビューが始まる(11:05頃から)のだが、このインタビューも、作った料理を食べながらするわけでもなく、好きな食べ物の話題が出るでもなく、今度は料理のことなんか忘れてしまったかのように普通のインタビューが始まり、ますますわけのわからなさが募る展開となっている。
インタビューでいちばん右に座っているインド訛りの少ない流暢な英語を話している男性が、このサイトでインタビューさせてもらったVedant.
この映像を見て、アタクシのインタビューのときは分かりやすいようにずいぶんゆっくり話をしてくれていたんだなあ、と再認識した。
彼はそういう気配りがさりげなくできる男です。
気になって調べてみたところ、この司会の男性はなんとムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionのヴォーカリストを務めるSahilという人物だということが判明!
Demonic Resurrectionはなかなか個性的なバンドで「いつか紹介したいアーティスト」のリストに入れていたのだけど、こんなところでこんな形で会ってしまうとは…。
でもせっかくなので紹介すると、彼らはドイツの有名なメタル系フェス、ヴァッケン・オープンエアにも出たことがあり、この5月にも英国ツアーを成功させた国際的にも高く評価されているバンドだ。
ヴァッケン出演時の模様がこちら。
この番組紹介の映像で、「キート、キート(Keto)」と連呼しているので何かと思って調べてみたら、どうやらこれは日本では「ケトン食」と呼ばれている健康食のことらしい。
「ケトン食」とは、もともと小児難治性てんかんの治療のために開発された食事法で、糖や炭水化物の摂取を大きく制限してエネルギーの多くを脂肪やたんぱく質から取るというもの。
日本でも流行った「低炭水化物ダイエット」「ロカボ」にも似たもののようだが、検索すると、日本でも「ケトン食ががんを消す」とか、「奇跡の食事療法」といった本も出版されており、世界中に熱心なファンがいる健康法のようだ。
で、その熱心なファンのインド代表がこのDemonic ResurrectionのヴォーカリストのSahilということのようで、この番組は単なるメタルと料理のミスマッチを狙ったバラエティー番組ではなく、このケトン料理のレシピを視聴者の健康のために紹介するという、非常に真面目な使命を持ったもの(にメタルアーティストのインタビューも入っている)なのだ。
インド料理はチャパティーや米、ジャガイモなどで炭水化物過多になりやすいと言われているのだが、まさかデスメタルバンドのヴォーカリストが食事療法を通してインドの健康状況改善に取り組んでいるとは思わなかった。
インドのデスメタルシーン、奥が深すぎる…。
さらに謎なのは、Sahilが紹介しているレシピがチリ・コン・カルネだということ。
チリ・コン・カルネは米南部テキサス州からメキシコあたりで食べられている、いわゆる「テックスメックス」料理で、英語風にチリ・コン・カンと呼ばれることもある。
そのメキシコ料理(と番組では紹介されている)のチリ・コン・カルネを、サヒールさん、インドでは手に入りづらいと言いながらアボカドを使ったワカモレを作ったり、かなり本格的な作り方でクッキングしているではないか。
食に関しては一様に保守的と言われているインドで、何故に遠く離れたメキシコの料理なのか。
謎を解くカギは、「新版 インドを知る辞典」(山下博司・岡光信子著)という本の中に見つかった。
この本の中の最近のインドの夕食事情についての記述で、こんなことが書かれていた。
「都会の裕福な家庭では、インド料理だけでなく、時には中華料理、メキシコ料理、タイ料理、西洋料理なども並べられる」
なんと、家庭でよく食べられる外国料理の2番目にメキシコ料理が来ているではないか!
1番目が地理的にも近く、世界的にも美食とされている中華料理なのは分かるとして、その次に遠く離れたメキシコ料理。
これは日本でいうとイタリア料理あたりのポジションということだろうか。
でもよく考えてみたらインド料理で欠かせない唐辛子も、サモサ等でよく使われるジャガイモも、もともとは中南米原産。
香辛料をたくさん使うという共通点もあるし、メキシコ料理はじつはインド人にとってかなり馴染みやすいものなんじゃないだろうか。
と思ってデリーやムンバイのメキシカンレストランをググってみたら、あるわあるわ。
しかも、メキシコ料理専門店だけじゃなくて、「インド料理とメキシコ料理」とか、「イタリアンとメキシコ料理」みたいなお店がたくさんヒットする。
ムンバイに暮らすインド人の友人に聞いてみたところ、「ナチョスやケサディーヤ、タコスやブリトーは一般的だよ。インド風に料理されたものだけどね。裕福な人は専門店で本物のメキシコ料理を食べてるんじゃないかなあ」とのこと。
おお!インド風にアレンジまでされているなんて、まさに日本でいうところのイタリアン、たらこスパゲッティーやナポリタンを彷彿とさせるじゃないか!
ちなみに大航海時代に中南米原産の唐辛子(チリ)がインドに渡ってきて料理が発展していった様子は「インドカレー伝」(リジー・コリンガム著、東郷えりか訳)という本に詳しい。
食に関しては戒律や浄・不浄の概念のせいで保守的と言われるインド人だが、じつはとっくの昔に食のグローバリゼーションを成し遂げていた、とも言えるわけだ。
さらに余談だが、メキシコで伝統的なコーヒーの飲み方の「カフェ・デ・オジャ」といえば、コーヒーにシナモンを入れたもののことを指す。
シナモンは南アジア原産の香辛料。
中南米原産の唐辛子がインドの料理で、南アジア原産のシナモンがメキシコの飲み物でそれぞれ欠かせないものになっている、っていうものなかなかに面白い話なのではないかと思う。
話を番組に戻すと、もうひとつ驚いたのは、このレシピに牛肉が使われていること。
ご存知のとおり、インドでは人口の8割がヒンドゥー教を信仰している。
ヒンドゥー教において牛は「聖なる動物」とされており、殺したり食べたりすることに対する忌避意識は相当に強いものがある。
とくに、ヒンドゥーナショナリズム的な傾向が高まっている昨今では、牛の屠殺を禁じる法律が州議会で可決されたり、牛肉を所持していたイスラム教徒が集団リンチにあったりするという事件も起きている。
田舎だけではなく、Demonic Resurrectionの本拠地、大都会のムンバイでも起きていることだ。
その中で、あえて(それもさも普通のことのようにしれっと)牛肉を使った料理を紹介するっていうのは、じつはすごく勇気がいることなんじゃないだろうか。
この「チリ・コン・カルネ(chili con carne)」はもともとはスペイン語で、conは英語のwith、carneはmeatを意味している。
このカルネは本場メキシコやテキサスでも必ずしも牛肉である必要はなく、鶏肉でも良いとされている。
何故そこを、あえてそこを牛肉で行くのか?
もちろん、牛肉のほうが美味しい(少なくとも、Sahilにとっては)ということなのだろうが、本当にそれだけだろうか。
これは完全に想像だが、Third SovereignのVedant がインタビューで言っていたように、彼らメタルミュージシャンにとってはヘヴィーメタルこそが宗教というか信念の拠り所であって、既存の宗教による規範になんてとらわれねえぞ!という意識が働いているの可能性はないだろうか。
Sahilが所属するDemonic Resurrectionの曲の中には、こんなふうに冒頭で神の実在や慈悲を否定しているものもある。
(男塾の民明書房風に書くと、この曲はマツヤというタイトルだが、牛丼をテーマにした歌ではなく、だから番組でも牛肉を食べているのでないことは言うまでもない)
冒頭の語りに続いて始まるシタールとメタルサウンドの融合がシビれる!
しかもそれが単なる意外性だけで終わらずに、ドラマチックな曲調の中で非常にうまく使われているのが印象的だ。
冒頭で神の権威を否定している一方で、歌詞にはヒンドゥー教的な単語もずいぶん出てくる。
が、大事なのはダルマ(Dharma=法、理ことわり)であって、様々な神々はその多様な側面を表したものに過ぎない、というのもまたインドの哲学の一部。
これはこれで非常にインド的なメタルと言えるのではないだろうか。
また別の曲では、ヒンドゥーの神々がばんばん出てきて、もう完全にヴェーディックメタル!
(ヴェーディックメタルについてはこちらをどうぞ)
デス声以外の部分も多く、ドラマティックにインド神話の世界創造を歌った壮大すぎるテーマのメタル組曲だ。
思うに、彼らは曲を書くにあたって、ヘヴィーメタルにふさわしい題材として、インドの伝統であるヒンドゥーの神話世界を扱ってはいるものの、ヒンドゥー教という宗教を生活の規範にしようというつもりはさらさらない、というスタンスで活動しているのではないだろうか。
それから、つい歌詞や背景の分析が長くなってしまったけど、ブルータルだったりテクニカルだったりするデスメタルバンドが多いインドのメタルバンドの中で、Demonic Resurrectionのドラマチックかつシンフォニックなサウンドは非常に個性的で面白い。
楽曲もよくできていて、演奏レベルも非常に高く、欧米でツアーができるほどに人気があるのもうなづける。
日本でももっと人気が出てよいタイプのサウンドじゃないだろか。
それにしても、この動画のトップ画像を見ていたら、最近ちょっと太り気味のアタクシもケトン食やってみようかな…という気持ちになってきてしまった(内容は、体重の数字だけじゃなくて、トータルの健康に気を配れ、っていうみんなが言うやつなんだけど)。
糖質や炭水化物の摂取をやめると初めのうちはイライラすると聞くが、そんなときに彼らのデスメタルを聴けば気分もすっきりするかもしれない。
余計怒りが込み上げてきて何かを破壊したくなるかもしれないが。
ああ、今回も軽い話題のつもりがずいぶん長くなってしまった。
楽しんで読んでもらえたら良いのだけど。
それでは今日はこのへんで!
goshimasayama18 at 23:11|Permalink│Comments(0)