クリケット
2019年06月01日
インドならではのGully Cricket Rap!そして日本ではなくインドで生まれたJ-Trapとは何か?
映画"Gully Boy"のヒットで、今やムンバイだけではなくインドを代表するラッパーとなったDivine.
最近ではPumaの新しい広告に起用されて、"SockThem"という楽曲でラップを披露している。
(インド映画史、音楽史に残るヒップホップ映画"Gully Boy"についてはこちらから「映画"Gully Boy"のレビューと感想」)
クリケットはインド最大の人気スポーツで、スター選手は30億円以上の年収を手にする国民的ヒーロー。
そのクリケットのインド代表選手でもあるVirat Kohli、女子クリケット選手のSushma Vermらをフィーチャーした、インドならではのコマーシャルビデオだ(ちなみに東アジア系の顔立ちの男女は、北東部マニプル州出身の女子ボクシングのチャンピオンMary Komと、同州出身のサッカー選手Dheeraj Singh Moirangthem)。
国民的スポーツであるクリケットを、ヒップホップに代表されるストリートカルチャーにも通じる「クールなもの」として扱ったこのCMは、インドでもスポーツウェアをファッションのひとつとして定着させようというPumaの戦略の一環として作成されたものだ。
(関連記事:「インドの音楽シーンと企業文化! 酒とダンスとスニーカー、そしてデスメタルにG-Shock!」)
ここで起用されたDivineは、ヒンディー語で「路地」を意味する'Gully'という言葉をインドの「ストリート」を象徴するものとしてヒップホップに導入した先駆者でもある。
大衆スポーツであるクリケットもまたあらゆる場所でプレイされており、路地のような広いスペースがない場所でも、ルールが簡略化された'Gully Cricket'なるものが楽しまれている(ヴァラナシのガンジス河のほとりの、火葬場のすぐ近くで子供達がクリケットに興じているのを見たときにはさすがに驚いた)。
つまり、この曲は、'Gully'というインドのストリート文化を象徴する言葉を軸にしてヒップホップとクリケットをつなげるという、非常にインド的かつ今日的なものになっているのだ。
"SockThem"というスペースのないタイトル表記も、ハッシュタグ文化や検索しやすさを意識した、とても今日的なものと言えるだろう。
"SockThem"のトラックを手がけているのは、Karan Kanchan.
ムンバイのヒップホップシーンで数多くのトラックを手がけている22歳の新進クリエイターだ。
代表的なところだと、"Gully Boy"の主人公のモデルになったNaezyが2017年にリリースした"Aane De"のトラックは彼によるもの。
当時若干20歳!
ムンバイのヒップホップシーンが若い才能によって活気づいていることが分かる。
Karan Kanchanの名前を最初に知ったのは、インドの媒体で彼がJ-Trapアーティストとして紹介されていたのを読んだ時だった。
Trapというのは、ヒップホップから派生した、あの重低音を強調した音楽ジャンルのトラップのことである。
では、接頭語の'J'は何なのかというと、驚くべきことに、それはJ-Popなどと同様に、日本、つまりJapanを表す'J'なのである。
調べてみたが、J-Trapなるジャンルは、日本国内には今のところ存在していないようだ。
いったいどういうことなのかというと、どうやら彼は、琴や三味線といった日本古来の楽器とトラップを融合して、J-Trapという全く新しいジャンルをインドで編み出したてしまったようなのだ。
インドのアーティストが、古典音楽と現代音楽を躊躇なく融合させているという話を先日書いたばかりだが、まさかインド人が日本の伝統音楽とトラップまで融合させているとは思わなかった。
さっそくそのサウンドを聴いてみよう。
"Kawaii Killer".
アタック感が強くてサステインの少ない三味線の音色が意外とトラップサウンドに合っている!
この"Torii"は、マンガやゲームなどのジャパニーズカルチャーの影響を受けたベトナム人トラップアーティストのTrickazが運営する'Otodayo Rocords'からリリースされた楽曲。
Karanによると、日本の戦争映画の音楽に影響を受けたとのことだが、完全にオリジナルな個性を持つサウンドに仕上がっている。
琴や三味線の音が入ると、結果的に「謎の村雨城」みたいな昔のゲームのBGMを思い出させる雰囲気もあって、それがまた面白い。(歳がバレますが)
日本カラーが少ない曲はこんな感じ。
以前、謎のジャンル「ターバン・トラップ」のアーティストとして紹介したGurbaxの楽曲のリミックスも。
ターバン・トラップとJ-トラップ、トラップミュージック界の日印タッグ結成!(どちらもインド人だけど)
ここ数年、世界中のアンダーグラウンド・シーンでオタクカルチャーとクラブミュージックの融合が進んでいて、ハードコアテクノから派生した日本のナードコアやヒップホップから派生したアメリカのナードコア、スムースなトラックに日本のアニメの映像を取り入れたローファイ・ビーツ/チルホップなど、様々なジャンルが誕生している。
このKaran KanchanのJ-Trapもその新しい一例として見ることができるだろう。
(参考:「日本とインドのアーティストによる驚愕のコラボレーション "Mystic Jounetsu"って何だ?」)
(参考サイト:面白外人イアンの謎の文化チガイ 第51回「入門ナードコア」)
その究極とも言えるトラックが、日本在住のアメリカ人Youtuber(現在ではすでに離日しているようだ)Nathalia Natchanとのコラボレーションであるこの"Trap Bandit".
カンちゃんとなっちゃんによるこの楽曲は、外国人によって作られた全く新しい「ジャパニーズ・ミュージック」だ。
こういう作品を聴くと、日本文化はもはや日本人だけのものではないことを改めて感じる。
かつて、イタリア人がマカロニ・ウエスタンを作り出し、日本人が数々の欧米文化を独自にアレンジしてきたように、日本文化も外からの目線で再構築される時代になったということなのだろう。
日本のリスナーにとって、これはかなり楽しいことである。
我々が知らない間に日本のカルチャーが、見たこともない「クールなもの」になっているというのは、最高にクールで面白いことではないか。
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goshimasayama18 at 19:53|Permalink│Comments(0)
2018年07月10日
インドのサッカー&クリケット事情!
FIFAワールドカップもいよいよ大詰め!
日本代表は善戦むなしくベルギーに敗れてしまったが、インドの人たちも同じアジアの日本代表を応援してくれていて、インドの友人やミュージシャンたちもSNSで日本代表の健闘を称える書き込みをたくさんしていた。
インドのサッカー事情はというと、代表チームのFIFAのランキングは97位と振るわないが、近年の著しい経済成長から国内のリーグは目覚しい発展を見せている。
選手としてデル・ピエロやフォルランが、指導者としてマテラッツィやジーコがインドのクラブチームに移籍したニュースを覚えているサッカーファンも多いだろう。(フォルランは現在は中国のクラブチームに所属)
ヨーロッパで活躍した名選手が多く国内のクラブチームに所属しているものの、代表チームのレベルは今ひとつという状況は、中国やJリーグ発足時の日本に似ていると言えるかもしれない。
ただ、何事も一筋縄ではいかないインド。
国内のサッカーリーグ事情もなかなかに複雑な状況になっている。
インドには、もともと2007年に発足したIリーグというプロサッカーのリーグがあった。
ところが、2014年にインドの大財閥リライアンスやインド最大のテレビ局のスターTVをスポンサーとしたインディアン・スーパーリーグ(ISL)という新たな別のリーグが発足。
ISLは豊富な資金力をもとにIリーグを上回る人気を博すようになり、先ほど名前を挙げた名選手、指導者たちも、IリーグではなくISLに所属している(あるいは、していた)。
両リーグ間の資金面や人気面の差は大きくなってきており、Iリーグから脱退してチームごとISLに移籍するクラブも出ている。
FIFAは1カ国1リーグ制を条件としているため、両リーグの統合が議論されているが、例によって交渉はうまくいっていないというのが現状のようだ。
そんなインドで国民的人気を集めるスポーツと言えば、クリケット。
インドに行けば、都会でも田舎でも、必ずクリケットをしている子どもたちを見かけるはずだ。
アタクシも、聖地ヴァラナシのガンジス河のほとりで遺体を焼いているすぐそばで、クリケットに興じている子どもたちを見たときには、ずいぶん驚いたものだった。
インド人にとって、クリケットは映画と並ぶ国民的な娯楽なのだ。
日本では全く人気も知名度もないクリケットだが、実はサッカーに次ぐ世界2位の競技人口を誇るスポーツであり、インドのみならずパキスタン、バングラデシュ、スリランカといった南アジア諸国やオーストラリア、ニュージーランド(つまり、旧イギリス植民地)でも人気を博している。
クリケットのワールドカップは世界中で数億人に視聴される一大イベントとなっているそうだが、人口10億人のインドで大人気だったら、まあそうなるわな。
とくにインドで盛り上がるのはナショナルチームの対パキスタン戦。
カシミール地方の領有権問題をはじめ、政治、宗教など様々な面で対立するパキスタンとの一戦は、試合会場の警備にロケット・ランチャーが配備されるほどの真剣勝負の一大イベントだ。
インド・パキスタン戦でのパキスタンの勝利を祝っていた人が逮捕されたこともあるという、もはや完全にスポーツの枠を超えた戦いになっているのだ。
インドのクリケットのリーグ、インディアン・プレミア・リーグ(IPL)にはデリー、コルカタ、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールといったインド各地の大都市の9チームが所属し、世界最大のクリケットリーグとなっている。(八百長問題で出場停止処分を受けているチームもあるというのがなんともインドらしいが)
日本とインドの合作で、「巨人の星」をインドのクリケットに翻案した「Suraj the Rising Star」というアニメが2012年に作られたときには、日本でもそれなりに話題になったので覚えている人もいるんじゃないかと思う。
このアニメで、原作での長嶋茂雄に相当するキャラクター、サミール(Samir)のモデルになっているのが、ムンバイ出身の大スター選手、サチン・テンドルカール(Sachin Tendulkar)。
彼の名前は、以前紹介したムンバイのラッパー、DIVINEの地元レペゼンソング「Yeh mera Bombay」にも地元の誇りとして登場している。
彼を扱ったドキュメンタリー映画の楽曲を担当したのは、インド現代音楽界の超ビッグネーム、A.R.Rahman.
インドの国民的作曲家による国民的スポーツ・ヒーローへのトリビュート・ソングがこの「Sachin Sachin」だ。
同じイギリス発祥のクリケットがここまで人気があるのに、サッカー(ラグビーも)が弱いのは何でだろうと思っていたけど、インドの友人に聞いたところ、「単に国が金をかけていないからだよ」とのこと。
コンタクトの多いスポーツなので、汚れの概念とかそういうのが関係しているのかと思ってた。
インドでもワールドカップのような世界トップレベルのサッカー観戦は人気があるみたいだし(そういえば、「ベッカムに恋して」っていうインド系イギリス人の映画もあった)、国内リーグも盛り上がっている。
スポーツは宗教や民族の多様性を抱えるインドがひとつになれる数少ない要素だ。
世界中で人気のあるサッカーであれば、いろいろな対戦国があるし、クリケットのようにパキスタン戦ばかりに注目が集まることもないだろう。
国としての一体感を高めるためにも、もっとサッカーにお金をかけても良いように思うんだけど。
インド国内のサッカー事情に関しては、以下の2本の記事がよくまとまっていて面白い。
・ムンバイのクラブチームとそのファンを追った記事。
VICE『クリケットの街から眺めるインドサッカー界の未来』
・インドのサッカーブームと2つのリーグについての記事
サッカーダイジェスト『歪な国内リーグとU-17W杯に6万超の観衆。空前のサッカーブームに湧くインドの現実』
最後に、以前紹介したデリーのレゲエ・バンド、Reggae RajahsのGeneral Zoozがソロの名義で出したこの曲を。
Champions.
では今日はこのへんで。
日本代表は善戦むなしくベルギーに敗れてしまったが、インドの人たちも同じアジアの日本代表を応援してくれていて、インドの友人やミュージシャンたちもSNSで日本代表の健闘を称える書き込みをたくさんしていた。
インドのサッカー事情はというと、代表チームのFIFAのランキングは97位と振るわないが、近年の著しい経済成長から国内のリーグは目覚しい発展を見せている。
選手としてデル・ピエロやフォルランが、指導者としてマテラッツィやジーコがインドのクラブチームに移籍したニュースを覚えているサッカーファンも多いだろう。(フォルランは現在は中国のクラブチームに所属)
ヨーロッパで活躍した名選手が多く国内のクラブチームに所属しているものの、代表チームのレベルは今ひとつという状況は、中国やJリーグ発足時の日本に似ていると言えるかもしれない。
ただ、何事も一筋縄ではいかないインド。
国内のサッカーリーグ事情もなかなかに複雑な状況になっている。
インドには、もともと2007年に発足したIリーグというプロサッカーのリーグがあった。
ところが、2014年にインドの大財閥リライアンスやインド最大のテレビ局のスターTVをスポンサーとしたインディアン・スーパーリーグ(ISL)という新たな別のリーグが発足。
ISLは豊富な資金力をもとにIリーグを上回る人気を博すようになり、先ほど名前を挙げた名選手、指導者たちも、IリーグではなくISLに所属している(あるいは、していた)。
両リーグ間の資金面や人気面の差は大きくなってきており、Iリーグから脱退してチームごとISLに移籍するクラブも出ている。
FIFAは1カ国1リーグ制を条件としているため、両リーグの統合が議論されているが、例によって交渉はうまくいっていないというのが現状のようだ。
そんなインドで国民的人気を集めるスポーツと言えば、クリケット。
インドに行けば、都会でも田舎でも、必ずクリケットをしている子どもたちを見かけるはずだ。
アタクシも、聖地ヴァラナシのガンジス河のほとりで遺体を焼いているすぐそばで、クリケットに興じている子どもたちを見たときには、ずいぶん驚いたものだった。
インド人にとって、クリケットは映画と並ぶ国民的な娯楽なのだ。
日本では全く人気も知名度もないクリケットだが、実はサッカーに次ぐ世界2位の競技人口を誇るスポーツであり、インドのみならずパキスタン、バングラデシュ、スリランカといった南アジア諸国やオーストラリア、ニュージーランド(つまり、旧イギリス植民地)でも人気を博している。
クリケットのワールドカップは世界中で数億人に視聴される一大イベントとなっているそうだが、人口10億人のインドで大人気だったら、まあそうなるわな。
とくにインドで盛り上がるのはナショナルチームの対パキスタン戦。
カシミール地方の領有権問題をはじめ、政治、宗教など様々な面で対立するパキスタンとの一戦は、試合会場の警備にロケット・ランチャーが配備されるほどの真剣勝負の一大イベントだ。
インド・パキスタン戦でのパキスタンの勝利を祝っていた人が逮捕されたこともあるという、もはや完全にスポーツの枠を超えた戦いになっているのだ。
インドのクリケットのリーグ、インディアン・プレミア・リーグ(IPL)にはデリー、コルカタ、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールといったインド各地の大都市の9チームが所属し、世界最大のクリケットリーグとなっている。(八百長問題で出場停止処分を受けているチームもあるというのがなんともインドらしいが)
日本とインドの合作で、「巨人の星」をインドのクリケットに翻案した「Suraj the Rising Star」というアニメが2012年に作られたときには、日本でもそれなりに話題になったので覚えている人もいるんじゃないかと思う。
このアニメで、原作での長嶋茂雄に相当するキャラクター、サミール(Samir)のモデルになっているのが、ムンバイ出身の大スター選手、サチン・テンドルカール(Sachin Tendulkar)。
彼の名前は、以前紹介したムンバイのラッパー、DIVINEの地元レペゼンソング「Yeh mera Bombay」にも地元の誇りとして登場している。
彼を扱ったドキュメンタリー映画の楽曲を担当したのは、インド現代音楽界の超ビッグネーム、A.R.Rahman.
インドの国民的作曲家による国民的スポーツ・ヒーローへのトリビュート・ソングがこの「Sachin Sachin」だ。
同じイギリス発祥のクリケットがここまで人気があるのに、サッカー(ラグビーも)が弱いのは何でだろうと思っていたけど、インドの友人に聞いたところ、「単に国が金をかけていないからだよ」とのこと。
コンタクトの多いスポーツなので、汚れの概念とかそういうのが関係しているのかと思ってた。
インドでもワールドカップのような世界トップレベルのサッカー観戦は人気があるみたいだし(そういえば、「ベッカムに恋して」っていうインド系イギリス人の映画もあった)、国内リーグも盛り上がっている。
スポーツは宗教や民族の多様性を抱えるインドがひとつになれる数少ない要素だ。
世界中で人気のあるサッカーであれば、いろいろな対戦国があるし、クリケットのようにパキスタン戦ばかりに注目が集まることもないだろう。
国としての一体感を高めるためにも、もっとサッカーにお金をかけても良いように思うんだけど。
インド国内のサッカー事情に関しては、以下の2本の記事がよくまとまっていて面白い。
・ムンバイのクラブチームとそのファンを追った記事。
VICE『クリケットの街から眺めるインドサッカー界の未来』
・インドのサッカーブームと2つのリーグについての記事
サッカーダイジェスト『歪な国内リーグとU-17W杯に6万超の観衆。空前のサッカーブームに湧くインドの現実』
最後に、以前紹介したデリーのレゲエ・バンド、Reggae RajahsのGeneral Zoozがソロの名義で出したこの曲を。
Champions.
では今日はこのへんで。
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