クラウドファウンディング
2019年04月14日
日本と関わりのあるインドのアーティストの新曲情報と、インディーミュージシャンの懐事情
宮崎駿などの日本のアニメに影響を受けている女性エレクトロニカ・アーティストのKomorebiことTarana Marwahは、2017年のアルバム"Soliloquy"から"Little Ones"のビデオを発表した。
コマ撮りが印象的なこのビデオは、インドのアーティスト向けクラウドファンディングプラットフォーム'Wishberry'を活用して製作されている。
彼女によるとこの曲は自身の弟に捧げられたパーソナルな内容のものとのこと。
叙情的な映像は、Parekh and Singhのミュージックビデオでウェス・アンダーソンへのオマージュ的な画を撮っていたことも記憶に新しいMisha Ghoseによるもの。
今作でもTaranahのノスタルジーと心象風景を美しく映像化することに成功している。
印象的なギターはムンバイのブルースバンドBlackstratbluesで活躍するWarren Mendosaで、ジャンルを超えた心地よい音の共演が実現した。
続いて紹介するのは、日本語の歌詞を持つ"Natsukashii"をリリースしたシンガー・ソングライターのSanjeeta Bhattachrya.
(「バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya」)
彼女もまたWishberryを通じたクラウドファンディングで製作した"You Shine"を発表した。
今までのオーガニックソウルやカルナーティック的なルーツを感じさせる楽曲ではなく、ジャジーでメランコリックなこの曲は、2017年に命を絶ったLinkin ParkのChester Benningtonと、やはり同じ年にムンバイで死去したバンガロール出身の若手キーボードプレイヤー、Karan Josephに捧げられたもの。
ミュージックビデオは華やかなショウビズの世界とその裏側の孤独、そこから立ち直るための親しい人々との絆がテーマになっている。
Karan Josephについては日本ではほとんど知られていないと思うが、Sanjeetaと同じくボストンのバークリー音楽院で学んだ若手有望キーボーディストだった。
この動画を見れば彼がいかに才能豊かなミュージシャンであったかが少しでも伝わると思う。
彼の死は自殺とされているが、その背景にはムンバイの有力プロモーターとの確執があるとされ、スキャンダル的な話題にもなったようだ。
いずれにしても、成長著しいインドのミュージックシーンで今後ますます活躍したであろう若い才能の死はあまりにも惜しい。
インドのインディーミュージックは、多くのアーティストの熱意と表現衝動に支えられて急成長をしている最中だが、SanjeetaやKaran Josephのように海外で一流の音楽を学んだミュージシャンがきちんと評価され、活躍できる環境が整備されているとはまだまだ言い難い。
SanjeetaがWishberryのサイトでクラウドファンディングを募るために語っていた内容が興味深いので、ここで少し紹介したい。
「私はインディーミュージックの世界ではやっと1歳になったばかり。毎日素晴らしいミュージシャンや人々に会っているわ。彼らはみんな音楽にハートとソウル、時間やお金やたくさんの努力をつぎ込んでいるの。インディーミュージックシーンは急成長しているけど、もっと大勢の人に注目される必要があるし、もっと多くのスポンサー、後援、リスナーやサポートも必要だわ。あまりにも長い間、インディーミュージックは隅に追いやられていて、ミュージシャンたちは(自分の表現したいものではなくて)大衆が喜ぶような、ラジオでかかるようなコマーシャルな音楽を演奏しなければならなかった。もし誰かアーティストの心の声を聴いてくれる感受性と勇気のある人がいたら、その声をみんなに広めて欲しいの。
私の音楽と同じくらい素晴らしいミュージックビデオを作るためには友達や家族やリスナーのみなさんの協力が必要で、だからクラウドファンディングを募ることを選んだの。今までにやったことはないけど、何だって初めてってことはあるし、これが将来より多くの人たちに音楽を聴いてもらう助けになることを願っているわ。私はインディーミュージシャンだからいつも資金不足に悩んでいるし、これがミュージックビデオを完成させるためにできる最良の方法だと思うの。」
映画音楽や古典音楽以外の音楽マーケットが十分に成長する前にインターネットの時代を迎えたインドでは、インディー・ミュージックを支える構造(レコード会社、プロモーター、演奏の場など)が十分に整備される前に、誰もが動画サイトや音楽ストリーミングサイトを通して自分の演奏したい音楽を発表できる環境が整ってしまった。
優れた楽曲を制作しても、それを収入に結びつけるシステムが圧倒的に不足しているのだ。
そのため、本来はカウンターカルチャーであるはずのロックやクラブミュージックのアーティストも、裕福な若者たちばかりという状況になってしまっている(これは富の不均衡の問題でもあるが)。
このブログで紹介しているように素晴らしいアーティストもたくさんいるのだが、彼らとていつまでも情熱だけで音楽を続けてゆけるわけではない。
作り手の才能をファンの良心が支えるクラウドファンディングは、こうしたインドのインディーミュージックシーンの現状が生み出した新しいサポートの方法だと言える。
(そういえば、昨年来日公演を含むアジアツアーを行ったムンバイのデスメタルバンドGutslitも、ツアーの資金集めにクラウドファンディングを活用していた)
音楽ストリーミングや動画サイトの普及によって、誰もが音楽を自由に発表できるかわりに、音楽はほぼ無料で楽しめるという傾向は、世界中でますます加速してゆくだろう。
インドのインディーミュージックシーンを取り巻く状況は、一週遅れのようでいて、実は世界でもっとも新しいものなのかもしれない。
最後に、Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"をもう一度。
この日本語を大々的にフィーチャーしたポップチューンはもっと日本で聴かれるべきだと思う。
国境を超えてお気に入りのインディーアーティストをサポートしあう世界が、もうすぐそこまで来ている。
凡平自選の2018年度のおすすめ記事はこちらからどうぞ!
2018年04月30日
なんと!インドのデスメタルバンドが来日!
そのツアーには、なんとここ日本も含まれている!
インドのメタルバンドとしては、いや、ひょっとしたらロックバンドとしても初の来日公演ではないだろうか?
"Amputheatre"収録の彼らの曲を改めて紹介します。"Scaphism"
わりと古典的なデスメタルのスタイルだけど、演奏もタイトでめちゃくちゃレベル高い!
あとベーシストがシク教徒なのだろうが、しっかりとターバンをかぶっているのだけど、音楽性に合わせて色は黒!というところもかっこいい。
今回の来日はドイツのデスメタルバンドStillbirthとのスプリットツアーとなるようで、その名も"Gutted at Birth"ツアー!(Cannibal Corpseの名盤"Butchered at Birth"のパロディか?いずれにしてもジャンルに違わない悪趣味さ!)
ツアー先は、ドバイ、母国インド、ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、そして日本と韓国での公演が予定されている!
彼らのFacebookページによると、日程は以下のとおり。
21st September Friday - DUBAI
22nd September Saturday - TBA
23rd September Sunday - MUMBAI, INDIA
24th September Monday - DELHI, INDIA
25th September Tuesday - NEPAL
27th September Thursday - CAMBODIA
28th September Friday - Ho Chi Minh, VIETNAM
29th September Saturday - TBA
30th September Sunday - TBA
1st October Monday - TBA
2nd October Tuesday - Manila, THE PHILIPPINES
3rd October Wednesday - Cebu, THE PHILIPPINES
4th October Thursday - TAIWAN
5th October Friday - Tokyo, JAPAN
6th October Saturday - SOUTH KOREA
7th October Sunday - Bangkok, THAILAND日本公演は10月5日、東京のみ。
それはそれとして、おいおい、いくらなんでも日程、タイト過ぎないか?
現時点で未定のところを含めて、17日間で16公演!
これ、演奏無しで移動だけでも結構きついスケジュールだと思うが、さらに各地で激しいライヴを繰り広げるって、なんだかほとんど自殺行為って気が…。
彼ら自身もそれは分かっているようで、バンド創設メンバーのベーシスト、Gurdip Singh Narang(黒ターバンでキメていた彼だ!)はRolling Stone Indiaのインタビューに、
「こんなにタイトな日程でスケジュールを組むなんて、俺たちはキンタマがすわってるだろ。ちゃんと全ての国に機材と一緒に降り立ってプレイできるように、いろんな国の航空会社を信頼するってことさ」
と語っている。
どうやらヨーロッパツアーを終えて自信をつけたようで、Gurdip曰く、
「なぜって、俺はプロモーターを信用してるし、俺は100%有言実行だ。いつもと同じように、考えに考えて計画した通りにやるだけさ」とのこと。
自信満々、頼もしい。かっこいい。
と思ったら、このツアーはクラウドファンディングで成り立っていて、見てみたらまだ予定の金額の10%くらいしか集まっていないみたい…。
大丈夫か?とちょっと心配になるところだが、正直に言うと、超過密なツアースケジュールといい、資金面での見切り発車といい、こういう行き当たりばったりな感じ、理屈抜きでもう最高!って思ったよ。
海外にツアーするようなバンドになると、万が一の間違いもないように綿密に計画されたスケジュールで動きそうなものだけど、本来、ロックンロールバンド(彼らはデスメタルだけど、あえてこう言わせてもらう)のツアーなんてこういうものでもいいんじゃないだろうか。
自分の大好きな音楽をいろんな場所で演奏するために、楽器をバンに詰めてひたすらドサ回り。
海外ツアーだからって姿勢は変わらない、そのバンが飛行機になっただけ。
やるほうは大変だろうけど、なんていうか、こう、夢があるよな。
ボロボロになるかもしれないけど、これがやりたいんだ!っていう熱さがびんびん伝わってくる。
もちろん「そんなのはきれいごと。各地で待つファンをがっかりさせないよう、最高のパフォーマンスをするためには無理は禁物!」っていう意見もあるだろう。
でもさあ、これだけいろんなことがきっちりしちゃってる世の中で、こういう行き当たりばったり&気合で乗り切る!みたいなツアーをするバンドがいるって、ものすごく素晴らしいことなんじゃないだろうか。
いつもインドのロックバンドのことを「インドじゃ楽器買えるのは富裕層だけ」みたいに書いているけど、生半可な根性じゃこんなツアーできないよね。
確かに彼らは裕福な家庭に生まれたのかもしれないけど、その環境に甘えて音楽をやっているような連中じゃない(演奏レベルを見てもそれは一目瞭然)。
彼らの音楽へのハンパない情熱に最大限の敬意を表したいよ。
彼らのことを意気に感じて、ぜひ応援したい!という方はこちらから!
Gutslitのみなさんにコンタクトしてみたところ、あとちょっとでライブ会場やなんかがはっきりするので、インタビューにも応じてくれるとのこと。
乞うご期待!
(このブログ、インタビューの告知ばっかでなかなか掲載されないけど、どうなってんの?とお思いの方もいるかもしれないけど、気長に待って頂きたく。そんなもんよ。インドも人生も…)
インドの今までにインタビューしてきたインドのメタルアーティストのThird SovereignのVedantも、Alien Nation(Sacred Secrecy)のTanaも、日本でのライブが夢だと語ってくれていた。
何度も書いているように、こういったコアな音楽ほど国境は無い。
今回のGutslitの来日でインドのメタルバンドのレベルの高さが知れ渡り、彼らにも道が開けたら良いなと思います。