ギター

2018年06月15日

ジャールカンドの突然変異! The Mellow Turtle

前回、ジャールカンド州ラーンチー出身のラッパー、Tre Essを紹介した。
貧しく保守的な地域だと思っていたジャールカンドから本格的なラッパーが出てきたことに大いに驚いたものだが、驚きはこれだけでは終わらなかった。

Tre Essと頻繁に共演している同じくラーンチー出身のギタリスト、The Mellow TurtleことRishabh Lohia .
ブルースをベースにしつつ、トリップホップやエレクトロニカの要素もある楽曲の数々は、これまたジャールカンド離れした驚愕のサウンド!
まずはぜひ聴いてみてください。

昨年リリースされたセカンドアルバム"Dzong"から、"Minor Men"


Tre Essと共演した曲"Lake Dive"

アルバムタイトルの"Dzong"とは、ブータンの言語「ゾンカ語」のことだが、ブータンからは距離のあるジャールカンドで、どういう意味が込められているのだろうか。

ファーストアルバムではよりルーツ的なサウンドを聴かせている!
静止画と字幕、フリー素材だけで作ったみたいなビデオが微笑ましいぞ。
地元の写真なのだろうか。

これは何だろう、ローファイ・ヘヴィー・ブルース・ロックとでも呼ぶべきか。
途中で入ってくるラップがG.Love的な雰囲気も醸し出している。

インド古典を使った"Laced"もセンスが良い!


何なんでしょう。この、古いものも新しいものもセンスよくミックスしたオリジナリティー溢れるサウンドは。
ジャールカンドや周辺地域の後進性については前回の記事でも触れたが、デリーやムンバイといった大都市ではなく、ラーンチーからこのサウンドが生み出されるということは、インドに詳しくない人のために分かりやすく説明すると、東京に例えるとすれば足立区からコーネリアスが出てきたくらいのインパクトがある。

彼のFacebookのページによると、お気に入りのミュージシャンとして、Tom MischやFKJといった、ルーツミュージックを現代的な方法で再構築しているアーティストに加えて、B.B. KingやMuddy Watersのような昔ながらのブルースアーティストを挙げている。
ちなみにインドのアーティストでは、お気に入りとしてこのブログでも取り上げたSka Vengersの名前が挙がっていた。
同ページには、The Mellow Turtleは起業家、社会活動家としての顔も持っていると紹介されていたが、彼もまたSka VengersのTaruのような啓蒙活動をしているのだろうか。
ぜひ本人に聞いてみたいところだ。

これまでこのブログで見てきたインドのミュージシャンは、ロックならロック、ラップならラップとひとつのジャンルからの影響しか表現しないアーティストばかりだった。
中には、インドの伝統音楽や映画音楽など、地元の文化と欧米の音楽との融合を試みているミュージシャンはいたが、彼のように西洋音楽の中の異なるジャンルを、それも時代をまたいでセンスよく融合させるという、言ってみればBeck的なセンスを持ち合わせたミュージシャンというのはインドでは本当に稀有。
いったいどうやってジャールカンドでこのセンスが育まれたのだろう。

Tre EssとThe Mellow Turtle.
ジャールカンドが生んだ突然変異。
ラーンチーにはいったいどんなシーンがあるのか。
彼らの音楽的センスはどのように育まれたのか。
二人にメッセージを送って確かめてみたいと思います。
返事がもらえるといいなあ。 


追記:
The Mellow TurtleとTre Essのコラボレーションで最も気に入っているのがここで聴けるアルバム「Blues off the Ashtray」からの楽曲。
https://soundcloud.com/nrtya/sets/tre-ess-x-the-mellow-turtle
以前聞いて「おおっ!」と思ったものの記事を書いているときに見つけられなかったのだけど、再び発見したので改めて載せておきます。
ブルースとヒップホップ、黒人音楽の始まりと現在地がまさかインドで違和感なく融合するとは。 

goshimasayama18 at 00:19|PermalinkComments(0)

2018年05月21日

説明不要!新世代の天才!Rhythm Shaw他若き才能たち!

インドのコンテンポラリー・ミュージックを聴いているといろいろな意味で驚かされることが多いのだけど、その驚きは大きく分けて2つの種類に分けられる。
ひとつ目は「さすがインド!こんなふうにインドの要素を入れてきたか!」っていうタイプのもの。
今まで紹介してきた中だと、Brodha VとかAnand Bhaskar Collectiveなんかがこれにあたる。
二つ目は「国籍とか関係なく、単純にスゲエ!」というタイプのもの。
インドのデスメタルポストロックのレベルの高さは今まで紹介してきた通りだ。
今回紹介するのは典型的な後者!
インドの若手凄腕ミュージシャンを紹介します。

最初に紹介するのはウエストベンガル州コルカタ出身、若干 22歳のギタリスト、その名もRhythm Shaw.
まずはそのプレイを聴いてみてください。


この若さにしてアコギもエレキも信じられない上手さ!
しかも凄いのはこれだけではない。
ギタリストと紹介したけど彼は実はマルチプレイヤーで、一人で全パートをプレイしているセッションなんかも凄い(ドラムだけはサンプリングパッドを叩いているが)。


彼のプロフィールを見てみると、影響を受けたミュージシャンとしてスティーヴ・ヴァイらと並んでNepal Shawという名前が出てくるが、調べてみたところこれは彼のお父さんらしく、幼少期からタブラをはじめとする各種楽器の英才教育を受けてきたようだ。
わずか11歳のときのタブラの演奏の様子がこれ。
地元のテレビ番組に出た時の映像で、演奏は25秒くらいから。スゲー!


こっちはお父さんとの共演! 
最初は古典的なスタイルで叩いているが、後半でお父さんのギターがスタイルを変えると、それに合わせていろんな叩き方を披露する器用さもすでに身につけている!
ギターとベースとキーボードだけでも十分びっくりなのに、そこに古典のセンスや技量が入ってくるともう誰も太刀打ちできない領域だ。
あとどうでもいいけど、小さい頃からRhythmと名乗っているところを見ると、どうやらリズムって本名(!)みたい。お父さんのネパールっていう国名が名前なのもびっくりしたけど(インドだと自然な名前なんだろうか)、珍名親子か。

他にもインドの若手天才プレイヤーは数多く、例えば若干21歳のベーシストMohini Dey.


スティーヴ・ヴァイとの共演も(演奏は1:00あたりから)!

こちらは24歳のフィンガースタイル・ギター(とこういうのを言うらしい)の気鋭Manan Gupta.


ニューアルバムでは歌も披露。インドのラウル・ミドンか。

彼らはいずれもプレイヤーとしては超一級品だが、その高すぎる技量ゆえに、テクニックばかりに耳を奪われてしまって、表現者・アーティストとしての評価には少し時間がかかるかもしれない。
ただいずれにせよ、彼らが若くしてその類い稀な才能を開花させていることに疑いの余地はない。
ふと思ったけど、タブラの超大御所ザキール・フセインのお父さんもまたタブラ・プレイヤーだし、シタールのシャンカール一家も然りだし、インドって子どもの頃からの音楽英才教育の伝統があるのかもしれないね。
それが古典音楽のみならず、現代音楽の世界にも広がってきているとも考えられる。
そのうちIT産業がそうなったみたいに、世界の音楽シーンのバックミュージシャンがほとんどインド人なんてことになるのかも。

それでは今日はこのへんで!

goshimasayama18 at 00:14|PermalinkComments(0)