インドの音楽

2018年02月01日

トリプラ州の“コンシャス”ラッパー Borkung Hrangkhawl その1

バックパッカーの言葉で、旅の途中でひとつの場所についつい長逗留してしまうことを「沈没」というが、どうやらこのブログもインド北東部に沈没してしまったみたいだ。

正直、インドの中でもあんまり知らないエリアではあったのだけど、面白い音楽が出てくる出てくる。

ってなわけで、今回はデスメタルから離れて、インド北東部トリプラ州のラッパーを紹介します。

それではまず聴いてみてちょうだい。
"Never Give Up"


 

彼の名はBorkung Hrangkhawl.

と紹介してはみたものの、……読めない…。

ボルクン・ランコウルって感じで良いのかな?

彼の名前はインドの人たちにとってもやっぱり読みにくいようで、BKというシンプルなステージネームも使っている。

まず切れ味のよい英語のラップのスキルにびっくり。

それからヒップホップというよりもロックやEDM色の強いミクスチャー的なトラックも印象的で、ちょっとLinkin Parkにも似た感じがする。

北東部ゆえかインド臭がまったくしないサウンドだ。

 

Borkungはビデオにも出ているトラックメーカーのDJ InaとギタリストのMoses Raiとのトリオで活動しており、リリックにもRap with EDMとかTrying to blend hip hop with a new musicなんて言葉が出てくるので、かなり意図的にこの音楽性を作り上げているのだろう。

そんでサビだ。
 

I am not giving up

My dreams, my life, my struggle no, not anymore.

I am not giving in

my dreams, my life not anything it’s never too late I know, 

Never give up.

 

夢も人生も戦いもあきらめないぜ!遅すぎるなんてことはないんだ!絶対にあきらめるな!となんだかやたらにポジティブで力強い言葉が並ぶ。
Borkung、熱い男のようだ。 

 

続いての曲をどうぞ。"Fighter"

 

それにしても、ムンバイのDIVINEのビデオクリップは地元下町を練り歩くやつばかりだったけど、自然豊かなトリプラで育った彼になると、大自然の中を練り歩くのばかりになるってのは、やはりヒップホップの「レペゼン地元」って感覚によるものなんだろうか。

 

次はもう少し古い2013年の曲。"Journey"

なんか曲名のセンスがどれもちょっとハウンドドッグみたいではあるけれど、気にせず聴いてみてください。


この曲のサビも「The journey goes on till I make it」とあくまでもポジティブ全開。最後のヴァースはヒンディーで歌われているんだが、その前のヴァースの英語のリリックも印象深い。

 

Hitting hip hop scene of North East city, No retreat, No surrender, in this life of treachery

Misery is a part of it, to admit that my life was ruined

But look at me now haters! I'm smooth like a fluid

Blessed out beat so thick, with blip music, being Aesthetic

Blinked out the whole crowd and Rap Critics

That's why I opted, I opted

 

「俺は後退も降伏もしない」「憎しむものたちよ(Haters) 俺を見ろ!音楽でぶちかますぜ なぜなら俺は決めたんだから」と、またしても逆境に負けないポジティブな言葉が続く。

ところで、ここで出てくる”Haters”とは誰を指すのだろうか。

そして、このポジティブ野郎ことBorkung Hrankhawlとはどんなバックグラウンドを持った人物なのか。

 

彼の出身地であるトリプラ州は、古来からトリプラ王国が栄えた土地で、現在では360万人程度が暮らしている(インド全体の人口の0.3%)。

地図を見てみると、インド北東部の「セブン・シスターズ」の中でもバングラデシュに突き出すような場所に位置しているのが分かるだろう。(ミゾラムから東側はミャンマー)

 インド北東部

言語的には、周辺地域で使われるベンガル語とは全く異なるコクバラ語を話し、独自の文化を保ってきた地域である。

ちょっとどんなところか見てみよう。

 

今では博物館になっているかつての王宮。

Tripura_State_Museum_29122015

自然が豊かな地域もあり、野生の象も見られる。

gumti-wildlife-sanctuary-tripura-tourism-places1

人々はこんな感じ。顔はいわゆるインドの人たちよりも、ぐっと東アジア。

Culture-tripura

こんな遺跡も。
tripura遺跡

それでいて、州都のアガルタラはそれなりに栄えているようでもある。

hgb-road-agartala

なかなかいいところそうじゃないの。

 

しかしながら、周辺の諸地域同様に、トリプラの多くの人々も、インド社会の中で軽視され、差別的な扱いをされていると感じているようだ。

実際に、近年になっても、デリーやバンガロールといった都市部では、北東部出身の学生が不審な死を遂げたにも関わらず十分な捜査が行われなかったり、差別的な扱いに耐えかねて命を絶ったりという悲惨な事件が何件も発生している。

たまたまこないだ読んだウダイ・プラカーシの「黄色い日傘の女」という小説でも、地元のマフィアにリンチされて死を選ぶ北東部出身の学生の様子が生々しく描かれていた。今もなお、北東部の人々がインドの中心的地域への反発を抱くのには十分な理由と背景があるのだ。

そうした感情を持つ人々の一部は、以前から「トリプラ民族解放戦線(NLFT)」を組織してゲリラ的な活動を行っており、インド政府によりテロ組織にも指定されている。


そう、この地域が豊かな自然と文化にもかかわらず、ツーリストにあまり馴染みがなかった理由の一つとして、各州の独立派テロリストの活動が長く盛んだったことが挙げられる。

 

長くなってきたので今回はここまで!

今回は正直言って予告編。

次回はこのトリプラの地でポジティブな言葉を吐く男、Borkung Hrankhawlの人となりに迫ってみます!



goshimasayama18 at 20:02|PermalinkComments(0)

2018年01月17日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選(後編)

前回の続きです。

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年のベストビデオ10選、今日は6位から10位を紹介!

このへんになるとなんか思わせぶりなアートっぽい?のが目立ってくる。

 

6. Sandunes: “Does Bombay Dream of NOLA” ムンバイ エレクトロニカ
 

叙情的なエレクトロニカに白黒のアニメ。

ニューオリンズの神秘主義(ヴードゥーみたいなやつか?)に基づいた世界観を表しているそう。

このサウンドにニューオリンズと来たか。

いろんなところから玉が飛んでくるな…。

 

7. Thaikkudam Bridge: “Inside My Head” コチ ロック
 

Thaikkudam Bridgeはいつかきちんと紹介しようと思っていたケララ出身のヘヴィーロックバンドで、これはいつもはマラヤラム語で歌っている彼らが英語で歌った一曲。

普段はもっとインドっぽい歌い回しが目立つバンドなんだけど、英語だと洋楽的メロディーラインが際立ってくるね。

使用言語によるメロディーラインへの影響ってのはインドの現代音楽の興味深いテーマかもしれない。

インドの言語で洋楽的メロディーっていうのは有りでも(3位のThe Local Train然り)、逆はまずないっていう。

あまりにも唐突な内容の映像だったので、思わず3回くらい見ちゃったのだけど、ジャングルを舞台にしたストーリーで登場人物は以下の4人。

A:ジャングルの中を徘徊する若い男

B:ナイフを持った男。男Aを見つけて尾行する

C:毒蛇に首を咬まれた男

D:男Cの連れ。なんとかして手当てをしないとって状況

4人とも、どうしてジャングルの中にいるのかとか、どういった関係なのかとかいったことは一切示されない。こういうの不条理っていうの?不親切っていうの?

この4人が極限的状況で、助け合ったり裏切ったり、といった内容のミュージックビデオ。

なかなか日本のバンドではできないセンスではある。

確かにプレデターみたいな密林の映像は緊張感があるし、密室劇的な面白さや、人間存在の本質を深く洞察した哲学的な部分(とか言ってみた)はあるかもだけど、いったい何?何故?という疑問は最後まで拭えず。

うーむ。深いのか、何なのか。

 

8. Black Letters: “Falter” バンガロール ロック
 

曲はアンビエント調だけど、自称オルタナティヴロックバンドということで、ジャンルはロックにしてみた。

海、人、魚の叙情的な映像だが、内陸部のバンドらしく海なのに魚は淡水魚(金魚)っていうこだわりの無さっぷりが気にならないこともない。

 

9. When Chai Met Toast: “Fight” コチ ロック
 

こちらもケララ出身のロックバンドで、曲によってはバンジョーが入る曲なんかもあって、無国籍な感じのポップをやっている。

映画にしろ何にしろ、インドの男性観ってマッチョだけどナイーヴという先入観があったのだけど、最近の音楽をやってる人たちだとこういうポップな感じもアリになってきたのか。

このビデオ、映像のセンスに関しては、なんとなくバンドブーム頃〜90年代初期の日本のバンドっぽいテイストって気もするなあ。

 

10. Chaos: “All Against All” ティルヴァナンタプラム スラッシュメタル
 

またケララ!そしてメタル!
 このバンド名にしてこの曲名!
映像は泥の中で大勢の男たちがぶつかり合い、その近くで演奏するバンド!
無意味にビックリマークを多用してしまったが、理屈は抜きにしてメタルだぜこんちくしょう!っていう感じだけは強烈に伝わってくるじゃないですか。

この楽曲に合わせてどんなビデオを撮ろうかっていう打ち合わせの席で、「泥の中、100人くらいのほぼ裸の男達が左右から走ってきて、ぶつかり合い、取っ組み合うってのはどうでしょう?」「いいねー」っていうやり取りがあったんだろうか。
ちょと出オチ感のある内容ではある(途中で夜になったりはするけど)
 

 

はい、というわけで、今日は6位から10位までを見てみました。

こうやって続けて見てみると、やっぱりこれも媒体(Rolling Stone India)の特質なのかもだけど、極力インドっぽさを排した無国籍風な映像の作品が目立つという印象がする。
かつアーティスティックで内省的な作品ももてはやされる傾向があるんだな、と思いました。

イギリスからの独立後も、高級とされる場所だと英語こそが公用語っていう風潮のあったインドではあるけれども、こういうポップカルチャーの分野でも、非ドメスティックなものが高尚な趣味、みたいな、脱亜入欧って感じの価値観があるのかもしれない。


人様が作って、人様が選んだビデオを見ながら言いたいこと言ってアタクシはいったい何様なんでしょう?という気がしなくもないですが、ま、そんなことを思った次第でございます。



goshimasayama18 at 22:40|PermalinkComments(0)