インドのロック
2023年12月24日
ポピュラー音楽にかけられたインドの魔法を解く一冊『インドとビートルズ シタール、ドラッグ&メディテーション』
今回はビートルズの話。
つまりインドのミュージシャンの話ではないのだが、ビートルズはインドの音楽シーンにも多大な影響を及ぼしており、そしてロックの世界にインドという国の存在を最初に知らしめたバンドでもある。
インド人の著者がビートルズとインドとの関係を詳細に掘り下げた本について、このブログで取り上げないわけにはいかないだろう。
取り上げるタイミングが大幅に遅くなってしまったが、昨年末に出版された『インドとビートルズ シタール、ドラッグ&メディテーション』(アジョイ・ボース著、朝日順子訳、青土社)という本が、めちゃくちゃ面白かった。
この本は、ビートルズに端を発するインド幻想を、気持ち良いほどに覚ましてくれる一冊だ。
ビートルズから始まったインド幻想とは何か。
ロックをはじめとする欧米のポピュラー音楽の世界では、インドは西洋の価値観に対するカウンターとしての役割を担ってきた。
瞑想とか神秘とか、そこから転じてサイケデリック(「ドラッグによる幻覚体験が精神を拡張する」みたいな)とか、そういうやつである。
西洋文明の過剰な功利主義によってもたらされた争いや心の荒廃。
その殺伐とした社会に、深い精神性を持つインドの思想や瞑想を取り入れることで、心の平安が訪れたり、高次の意識が覚醒したりする(ような気がする)。
そのためには、本来はヨガとかの本格的な修行が必要なのだろうけど、大変そうなのでとりあえずLSDでもキメながらインドっぽい雰囲気のロックでも演奏してみるか。
ラブ&ピース。
まるでアホである。
まあちょっと過剰に書き過ぎたかもしれないが、これがロックをはじめとするカウンターカルチャーにおけるインド幻想だ。
良くも悪くも、その先駆けとなったのがビートルズだった。
あらためて書くのがためらわれるくらい有名な話だが、ビートルズは1965年12月にリリースされたアルバム『ラバー・ソウル』へのシタール導入や、ジョージ・ハリスンとラヴィ・シャンカルとの出会いをきっかけに、インドへの傾倒を加速度的に強めていった。
ジョージはラヴィに弟子入りしてインド古典音楽風の曲を作り、ジョンはサンスクリット語で導師(グル)と神を讃える歌詞を書いた。
彼らのインド熱は、ビートルズ全員がインドの聖地リシケーシュを訪れ、精神指導者マハリシ・マヘシュ・ヨギのアーシュラム(ヨガや瞑想の道場)に滞在した1968年2月にピークに達し、その後急速に冷めてゆく(ジョージを除いて)。
その過程を丁寧に描き出したのが、この本である。
言葉を選ばずに言うと、この本に出てくる人物たちは、ビートルズのメンバーを含めて全員がまともではない。というか、ろくでもない。
ジョンとジョージは完全なヤク中で、ジョンに至っては「ヒンドゥー教や仏教の僧侶が長年の瞑想で到達する境地にLSDによって簡単に到達することができる」というバカなヒッピー丸出しの考えを持っていた。
(とはいえこの舐めきった思想から超名曲"Tomorrow Never Knows"を生み出してしまうのだからすごい)
ジョージはラヴィ・シャンカルの影響でドラッグを断ち、神についての哲学的な思想を深めるようになるのだが、まともになったというよりも、インドを過剰に礼賛する(よくいるタイプの)東洋かぶれの欧米人になったという感じだ。
ポールは比較的インドかぶれが薄かったようだが、それだけに瞑想や修行にはあまり興味がなく、マハリシに「インドのヘビ使いを呼んでほしい」とかアホな要求をしてみたり、修学旅行気分でアーシュラムで隠れてタバコを吸ったりしている。
まあそれでもインド滞在中に"Blackbird"とか"I Will"とか"Ob-La-Di, Ob-La-Da"みたいな名曲を書いているんだからやっぱり天才である。
ちなみにリンゴは終始あまり何も考えてなさそうで、お腹が弱くてインド料理が口に合わなかった。
しょうもないのはビートルズのメンバーだけではない。
ジョージが傾倒したラヴィ・シャンカルも相当ろくでもない人物だ。
彼が自分よりも音楽的才能が優れていると感じた妻に演奏を禁じたとか、結婚してすぐに10代の別の女性と不倫した(妻とはやがて離婚)とか、唖然とするほかないエピソードもこの本にはしっかり収められている。
その後、ジョージは結局、シタールの演奏は全人生をかけて取り組まなければならないほど難しいということに気づき、早々に習得を断念している。
稀代のトリックスター、マハリシ・マヘシュ・ヨギについては言うまでもないだろう。
物質的な豊かさや欲望を持ったまま至福に至ることができるという、その名も「超越瞑想」の普及のためにありとあらゆる手段を使おうとする彼は、精神指導者というよりはうさんくさい実業家で、彼はビートルズを今で言うところのインフルエンサーとして利用しようとしていた。
高名なグルの秘書から精神指導者として身を起こしたマハリシはインドではほとんど無名な存在だったが、新しい救いを求める欧米社会に目をつけ、影響力と富を得てゆく。
マハリシの「成り上がり」っぷりはこの本の読みどころのひとつだが、これまでも多くの批判に晒されてきた彼については、かなり中立的に書かれているという印象を受ける。
アーシュラムに集ったわがままな欧米セレブたちの心が彼から離れてゆく場面にいたっては、憐れみさえ感じさせられるほどだ。
物語の終盤には、マジック・アレックスという極めつけのいかさま師が登場。
彼は「夜空にかけるレーザーでできた人工の太陽」や「紙のように薄いステレオスピーカーでできた壁紙」を発明したと主張する人物で、こんなバカを信じる奴がいるのかと思っていたら、ジョンをはじめとするビートルズの面々はいともたやすく騙されている。
いくら時代背景が今とは違うとはいえ、間抜けすぎるだろう。
ここではいちいち挙げないが、脇役としてビートルズと一緒にリシケーシュに滞在していたミュージシャンや俳優たちも、傍若無人でろくでもないやつばかりだ。
ビートルズのメンバーを含めて、欧米人の登場人物には、インドをリスペクトしているようでいて、偏見と差別意識が感じられる言動が多々あって、インドとビートルズの両方が好きな私は、読んでいてちょっと切なくなってしまった。
まあ当時のインドやフィリピン、日本といったアジアの国々でも「ビートルズは自国の伝統文化を破壊する」みたいな言説が保守層に信じられていたようだから、偏見に満ちていたのは同じようなものだったのかもしれないが。
登場人物全員がろくでもないと書いたが、念のためにことわっておくと、この本は別に誰かを貶めるために書かれているわけではない。
誰も神格化することなく、彼らを人間としてフェアに描いているだけなのだ。
リバプールの労働者階級の若者だったビートルズのメンバーが、その才能ゆえにファンやメディアに追われ、自由を奪われてあらゆる諍いに巻き込まれてゆく様子を読めば、彼らが名声によって得たものは幸福ではなく苦痛だったのではないかと思えるし、その結果として彼らが傲慢でシニカルな人間になってしまうのも理解できる。
前述したラヴィ・シャンカルについても、ダメ人間として描くだけでなく、彼が傑出した演奏家であることにも十分すぎるくらい紙幅を割いている。
終始懐疑的に(であるがゆえに公正に)描かれているマハリシだって、インドが持つ神秘的な精神性を分かりやすく解釈し、経済的価値に置き換えたパイオニアとして見ることもできるだろう。
彼らは別に人としてダメなのではなく、単にどうしようもなく人間なのである。
インド人だろうがイギリス人だろうが(もちろん日本人も)、誰もが欲望やダメな部分を持った人間であり、この世の苦悩から逃れる近道は世界中のどこにもない。
ドラッグや瞑想で魔法のようにラクになれると嘯かれるよりも、その現実を淡々と提示してもらったほうがよっぽど救いになるというものだ。
70年代以降も、ロックにおけるインド幻想、すなわちアンチ欧米的物質主義の精神的な拠り所というインドのイメージは、かなり長い間続いていた。
90年代にはサイケデリック時代のビートルズの思想を継承するかのようなKula Shakerなんてバンドもいたし、トランスのシーンでは、00年代の初頭くらいまでインドっぽい要素が結構ありがたがられていたように思う。
音楽シーン以外でも、80年代にはソニーや京セラやIBMの研修にマハリシヨギの「超越瞑想」が取り入れられていたというから、ビートルズ発祥のインド幻想は、かなり長い期間影響を残していたのだ。
さすがに今日では、露骨なインド的サイケデリアを全面に出したアーティストを欧米や日本で見ることはほとんどなくなったが、2010年代以降に盛り上がりを見せているインドの音楽シーンでは、逆輸入されたインド幻想がけっこう根強く存在している。
この手のジャンルでは後進国であるインドのアーティストたちは、自国の文化がビートルズをはじめとする本場の先人たちに引用されたことによって、そのカウンターカルチャー的な正統性が担保されたと感じているのかもしれない。
ちょっと卑屈かもしれないが、同じアジア人としてその気持ちはよく分かる。
シニカルな書き方をしてしまったけれど、インドという国を誤解しながらも(ジョージに関しては過度に理想化しながらも)ビートルズが作り出した音楽が素晴らしかったように、その影響を逆輸入して作り上げた音楽もまた面白かったりもする。
ビートルズのインドに対する自分勝手な愛情に、インドのアーティストが真正面から取り組んで返答したアルバム"Songs Inspired by the Film the Beatles and India"なんていうかなり興味深い作品もあるので、ぜひこちらのリンクから聴いてみてほしい。
もちろん、今回書いたようなエキゾチック&サイケデリック目線でのなんちゃって瞑想ではなく、きちんとした伝統と理論に裏打ちされたヨガや瞑想の文化がインドに存在していることは言うまでもない。
ただ、それだってゴダイゴがガンダーラで歌ったみたいな浮世離れした桃源郷として存在しているわけじゃなくて、欲にまみれた現し世と地続きになっているのである。
カウンターカルチャー的なインド幻想はあくまでも幻に過ぎなかったが、その幻を追いかける過程で生まれた作品は、幻ではない本物の光を放ち続けている。
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goshimasayama18 at 18:34|Permalink│Comments(0)
2023年09月06日
意外なコラボレーション!Komorebi, Easy Wanderlings, Dhruv Visvanath, Blackstratbluesが共作したドリームポップ
インドの音楽シーンは、基本的には都市や言語ごとに形成されているのだが、地域や言語の垣根を越えた共演もたびたび行われている。
それがまたお気に入りのアーティストの共演だったりすると、意外な繋がりにうれしくなってしまう。
今回はそんな曲を紹介したい。
今回のお話の主役となるのは、デリーを拠点に活動するエレクトロポップアーティストKomorebi.
彼女の新作に、プネーのドリームポップバンドEasy Wanderlings、デリーのシンガーソングライター/ギタリストのDhruv Visvanath、さらにはムンバイのギタリストBlackstratbluesが参加していて、これがかなり良かった。
Komorebi "Watch Out"
Komorebiは日本語のアーティスト名からも分かる通り、アニメなどの日本のカルチャーに影響を受けている。
ビジュアルイメージにも日本的な要素がしばしば取り入れられていて、このミュージックビデオの冒頭には、パワーパフガールズみたいなアニメっぽいポップ&カワイイテイストのイラストが採用されている。
(パワーパフガールズはアメリカの作品だけど、日本のアニメや特撮のオマージュ的な要素が強い作品ということで。そういえばNewJeansのEP "GetUp" でもパワーパフガールズっぽいイメージが採用されていたが、そろそろああいうテイストが懐かしい感じになっていてきるのか)
Komorebiが2020年にリリースしたEPのタイトルは、日本語で"Ninshiki".
収録曲のミュージックビデオにもやっぱり日本っぽい要素がたくさん出てくる。
最後の方になると、中国とか他の東アジア的要素も出てくるが、まあ日本人もインドとアラビアあたりを誤解したりしがちなので、そこはお互いさまかな。
要は、リアルな日本というわけではなく、アニメの舞台のようなエキゾチックでフィクション的な日本のイメージを借用したいのだろう。
どうぞどうぞ。
Komorebi "Rebirth"
サウンド的にはノルウェーのエレクトロポップアーティストAURORAっぽいようにも感じるが、KomorebiもAURORAもスタジオジブリ作品のファンという点で共通している。
二人とも、電子音楽だけどどこか自然や神秘を感じさせる音作りにジブリ好きっぽさが出ているような気がするが、どうだろうか。
そういえばKomorebiの"Watch Out"に参加しているプネー(ムンバイにほど近い学園都市)のドリームポップバンドEasy Wanderlingsの中心メンバーSanyanth Narothも、以前インタビューでスタジオジブリのファンであると語っていた。
"Watch Out"の美しいメロディーとハーモニーを聴いた時、てっきり楽曲提供もSanyanthだと思ってしまったのだが、作詞作曲はKomorebiことTaranah Marwahで、Easy Wanderlingsの担当はコーラスとフルートとのこと。
ハーモニーのアレンジひとつでここまで曲の雰囲気が変わるのかと驚いた。
Easy Wanderlingsについてはこのブログで何度も紹介しているので、耳にタコの人もいるかもしれないが、念のためあらためて2曲ほど紹介しておく。
Easy Wanderlings "Beneath the Fireworks"
Easy Wanderlings "Enemy"
"Watch Out"にアコースティックギターで参加しているDhruv Visvanath(名前の発音は、たぶんドゥルーヴ・ヴィスワナートでいいはず)は、Komorebiと同じくデリー出身のシンガーソングライター。
ギタリストとしても評価が高く、2014年にアメリカの'Acoustic Guitar'誌で「30歳以下の最も偉大なギタリスト30人」に選出されている。
彼の新曲は、ジャック・ジョンソンみたいに始まって、重厚なコーラスが印象的なダンサブルなポップスに展開する曲で、中年男性の追憶を描いたミュージックビデオもいい感じだ。
Dhruv Visvanath "Gimme Love"
インドには彼のように上質な英語ポップスを作るアーティストが結構いるのだが、国内のリスナーは英語よりも母語(ヒンディー語とかタミル語とか)の曲を好み、海外のリスナーはインド人が歌う英語の曲にほとんど注目していない。
英語で歌うインドのアーティストは、適切なマーケットがないというジレンマを抱えている。
「インターネットで世界中の音楽が聴けるようになった」とか言われているが、情報の流通や受容、そしてリスナーの心の中には、まだまだたくさんの壁があるのだ。
Dhruv Visvanath "Write"
個人的にはDhruv Visvanathに関しては、ギターも曲作りも良いのだけど、スムースすぎて心に引っかかる部分がないのがネックなのかもしれないな、とちょっと思う。
彼の曲をもう一曲だけ紹介。
珍しくエレキギターをフィーチャーした"Fly"は、卵を主人公にしたコマ撮りアニメが面白い。
Dhruv Visvanath "Fly"
Dhruv Visvanathがアコースティックの名ギタリストなら、ギターソロを弾いているBlackstratbluesことWarren Mendonsaは、今どきジェフ・ベックとかデイヴ・ギルモアみたいな(例えが古くてすまん)スタイルのエレキギターの名ギタリストで、ムンバイを拠点に活動している。
Blackstratblues "North Star"
ちなみに彼はボリウッド映画の作曲トリオとして有名なShankar-Ehsaan-Loyの一人Loy Mendonsaの甥でもある。
それにしても、エレクトロポップのKomorebiの作品に、バンドサウンドを基調としたドリームポップのEasy Wanderlings, アコースティックなフォークポップのDhruv Visvanath, 70年代風ギターインストのBlackstratbluesというまったく異なる作風のアーティストが参加しているというのが面白い。
強いて共通点を挙げるとすれば、彼らが全員、洋楽的な、無国籍なサウンドを追求しているということだろうか。
デリー、ムンバイ、プネーというまったく別の土地(ムンバイとプネーは同じ州だけど)のアーティストの共演というのがまた意外性があって良かった。
こういうコラボレーションにはぜひ今後も期待したいところだ。
話をKomorebiの"Watch Out"に戻すと、この作品はニューアルバム"Fall"からの2曲目のシングルで、1曲目はこの"I Grew Up"という曲。
Komorebi "I Grew Up"
冒頭の字幕に出てくるCandylandというのは5年前の彼女の楽曲のタイトルだ(ストーリー的なつながりはなさそうだが)。
この一連のミュージックビデオで、彼女はKianeというキャラクターを演じている。
9月8日リリースのアルバムで、さらにストーリーが展開されてゆくのかもしれない。
Komorebiの新作はかなり良いものになりそうなので、大いに期待している。
もちろん、共演しているアーティストたちの今後の活躍にも期待大だ。
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2023年08月16日
なぜか今頃発表! The Indies Awards 2022
インドの優れたインディペンデント音楽のアーティストや作品に対して、2020年から表彰を行なっているThe Indies Awardsの2022年版が、先日唐突に発表された。
すでに2023年の8月後半にさしかかったこのタイミングでいったい何故?
もしかしてインドには日本でいうところの「年度」みたいな考え方があるの?(例えば2022年の8月から翌年の7月までを2022年度として扱うとか)
…と不思議に思ったものの、どうやらそういったことはいっさいなく、純粋に2022年以前にリリースされた作品のみが対象とされているようだし、単に選考に時間がかかっていたか、忘れていただけの模様。
インドのインディーズシーンは、まだまだみんなが手弁当で盛り上げているといった感じなので、おそらく選考委員のみなさんも本業を別に持っていたりして、きっと忙しくてこのタイミングになるまで手がつけられなかったんだろう。
なにしろ、ジャンル別アルバム・楽曲、パート別プレイヤー部門など全部で27部門もある本格的な賞なので、選考に時間がかかるのも分かる。
(…かと思ったら、後述の通り、どう考えても2021年にリリースされた作品がたくさん入っていたりして、なんだか訳がわからない)
個別の受賞者は上記のリンクを辿ってもらうとして、主要部門と気になる部門について、いくつか紹介してみたいと思います。
Artist of the Year: Seedhe Maut
アーティスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのはこのブログでも何度も紹介しているデリーのSeedhe Maut.
確かに2022年のSeedhe Mautはインドを代表するヒップホッププロデューサーSez on the Beatと久しぶりに共作した傑作アルバム"Nayaab"をリリースし、インドのヒップホップの新境地を切り開く大活躍をしていた。
さらに彼らはHiphop/ Rap Song of the Year部門もこの"Namastute"で受賞している。
アレ?この曲、もう1作前のアルバムの曲だけど、リリースいつだっけ?と思って調べてみたら、2021年の2月。
なにがなんだかよくわからなくなって来たけど、名作なのは間違いないのでまあ良しとしよう。
Song of the Year: Sunflower Tape Machine "Sophomore Sweetheart"
やはり2021年の6月にリリースされているこの曲がなぜ2022年のベストソングに選ばれているのかは謎だが、洋楽的なインディーミュージックとしてよくできた曲なことに異論はない。
Sunflower Tape MachineはチェンナイのアーティストAryaman Singhのソロプロジェクトで、この曲は2021年のRolling Stone Indiaが選ぶベストシングルの2位にもランクインされていた。
Sunflower Tape MachineはThe Indies AwardsでもEmerging Artist of the Yearとのダブル受賞。
リリースする楽曲ごとに作風が変わる彼らの魅力は、近々特集して紹介したいところだ。
Album of the Year: Saptak Chatarjee "Aaina"
彼はこれまで知らなかったアーティストだった。
どうもこのThe Indiesは、Rolling Stone Indiaあたりと比べると、いわゆるフュージョン的な、インドの要素を多く含んだ音楽を評価する傾向があるようで、彼も本格的な古典音楽を歌ったりもするシンガーソングライター。
Saptak Chatarjeeはデリーとムンバイを拠点にしているようで、YouTubeでチェックする限り、その実力は間違いなさそうだ。
Music Video of the Year: The F16s "Easy Bake, Easy Wake"
F16sはチェンナイ出身のロックバンド。
ふざけた名前のLendrick Kumar(説明するのも野暮だが、たぶんインドによくいるKumarという名前を、Kendrick Lanarのアナグラム風にしている)によるミュージックビデオは、独特のユーモアと世界観が魅力的。
この曲が収録された"Is It Time to Eat the Rich Yet?"は、Rock / Blues / Alternative Album Of The Yearも受賞している。
ちなみにこのアルバムもやはり2021年の11月にリリースされたもの。
前回のThe Indies Awardsは2022年の12月に発表されているので、ぎりぎりのタイミングだったのかもしれないが、たまに2021年前半の作品が含まれているのが解せない。
他のチェンナイ勢では、フジロックでの来日も記憶に新しいJATAYUの"Moodswings"がInstrumental Music Album Of The Yearを受賞している。
Artwork Of The Year: Midhaven "Of The Lotus & The Thunderbolt"
Metal/Hardcore Song of the Year: Midhaven "Zhitro"アートワーク部門とメタル・ハードコア部門の楽曲賞を両方を受賞したのが、このMidhavenというムンバイのアーティストだった。
不勉強ながらこれまで知らなかったバンドで、先日出版された『デスメタル・インディア』にも掲載されていない新鋭バンドのようだ。
アートワーク部門での受賞となったのがこのサムネイルのイラストで、やはりこの媒体がインド的な要素を嗜好していることを感じさせられるセレクトだ。
楽曲はミドルテンポのよくあるメタルで、それなりにレベルの高いインドのメタルシーンでこれといって特筆すべき部分は感じられなかった。
Electronic/Dance Album of the Year: MojoJojo "AnderRated"
伝統音楽をポップな感覚でダンスミュージックと融合するムンバイのプロデューサーMojoJojoが2021年の10月のリリースしたアルバム。
RitvizやLost Storiesなど、いわゆる印DM(インド的EDM)ではいろんなスタイルで活躍しているアーティストがいるが、彼はちょっとラテンポップっぽい要素があるところが独特だろうか。
ちなみに楽曲部門(Electronic / Dance Song Of The Year)では、ラージャスターンの民謡とエレクトロニックを融合するというコンセプトで活動するBODMASの"Camel Culture"(やっぱり2021年のリリース)が選出されている。
インドのエレクトロニックシーンの評価基準をフュージョンという点に置いているのだとしたら、なかなか興味深いセレクトである。
Folk-Fusion Song Of The Year: Abhay Nayampally "Celebration (feat. Bakithi Kumalo, Hector Moreno Guerrero & King Robinson Jr)"
このAbhay Nayampallyというギタリストもこれまで聴いたことがなかったが、やっている音楽はかなり面白くて、ラテン・カルナーティック・フュージョンとでも呼ぶべき音楽性の一曲。
南アフリカのベーシスト、アメリカのドラマー、ドミニカのキーボーディストが参加しているようで、まさに大陸をまたいだ興味深いコラボレーションを実現している。
もっと多くの音楽ファンに聴かれてほしい曲である。
Pop Song Of The Year: Ranj "Attached"
英語で歌うベンガルールの女性シンガーの作品で、センスよくまとまったポップスとしての完成度はインド基準ではかなり高い。
Rolling Stone Indiaが好みそうな音楽性だと思ったが、Rolling Stone Indiaの2021年のベストシングルには選ばれていなかった。
以前も書いたことがあるが、この手のミドルクラス的ポップスで良質な作品をリリースしているアーティストはインドにそれなりにいるのだが、彼らがターゲットにしているリスナー層は主に洋楽を聴いており、そんなに聴かれていないのが、ちょっともったいない。
他にこのブログで紹介したことがあるアーティストでは、やはりどちらも2021年の作品だが、Easy Wanderlingsの"Enemy"がRock / Blues / Alternative Song Of The Yearに、Prabh Deepの"Tabia"がHip-Hop / Rap Album Of The Yearに選出されている。
それにしてもこんなに2021年の作品が多く選ばれている理由はなんでだろう。
前回(第2回)の選出は2021年の12月に行われているようなので、ほとんどの作品が前回の対象にもなっているんじゃないかと思うのだが…。
なんにせよ、こうして新しいアーティストを知ることができたり、自分が取り上げて来たアーティストがインド国内でも高く評価されていることを知れたりするのはいい機会だった。
来年の発表はいつになるのかさっぱり分からないが、今後も注目してゆきたい音楽賞ではある。
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2023年07月21日
今年のフジロックで来日するインドのバンドJATAYUを紹介! メンバーへのインタビュー
先月インドのヘヴィメタルバンドBloodywoodが大盛況の単独来日公演を成し遂げたが、彼らがここ日本で大きな注目を集めたきっかけは言うまでもなく昨年のフジロックフェスティバルだった。
あれから1年。
Foo FightersやLizzoといった大物アーティストの影に隠れてあまり話題になっていないが、今年のフジロックにもインドのバンドが出演する。
2日目の7月29日にオーガニック/ジャムバンド/ワールドミュージックなどの色彩が強いField of Heavenのステージに3番手として出演するJATAYUである。
JATAYU "Sundowner By The Beach"
インドの大叙事詩ラーマーヤナに登場する鳥の王からバンド名をとったJATAYUは、インド南部タミルナードゥ州チェンナイ出身のインストゥルメンタルバンド。
メンバーは、ギターとカンジーラ/ムリダンガム(後2つはどちらも南インドの伝統的な打楽器)を演奏するShylu Ravindran, ギターとアレンジを手がけるSahib Singh, ベースのKashyap Jaishankar, ドラムス担当で、ときに南インドのカルナーティック古典声楽も披露するManu Krishnanの4人で構成されている。
彼らの音楽は、南インドの古典音楽であるカルナーティック音楽を大胆に導入したギター主体のインストゥルメンタルロックで、一般的にはジャズロックバンドと紹介されることが多いようだ。
確かにジャズっぽい要素もあるし、カルナーティック由来の複雑なリズムはプログレッシブロック的でもあるが、柔らかくて芯のあるギターサウンドとリラックスしたグルーヴは、Steve Kimockのようなギター主体のジャムバンドのようにも感じられる。
JATAYU "Salad Days"
フジロックでは彼らの音楽を初めて聴くオーディエンスも多いと思うが、あたたかみのあるギターと人懐っこいグルーヴに、すぐに体を揺らしたくなることだろう。
じつは彼らは昨年9月に関西地方の4か所での来日公演を行なっていて、日本人ピアニスト矢吹卓との共演も果たしている。
JATAYU "No Visa Needed (feat Taku Yabuki)"
彼らの独特の音楽はどこから生まれたのか?
来日公演やフジロックに出演することになった経緯は?
まだまだ謎が多い彼らにインタビューを申し込んだところ、ギターとアレンジを手がけるSahibから二つ返事で快諾の回答があった。
というわけで、フジロックの隠れた目玉アーティスト、JATAYUに、音楽のこと、地元の音楽シーンのこと、フジロック出演のきっかけなど、たっぷりと聞いてみました。
ーまず、バンドについて紹介してもらえますか?
「JATAYUはShylu(ギター/カンジーラ/ムリダンガム)と僕のベッドルーム・プロジェクトとして始まった。2017年に今のラインナップになるまでに、いろいろな変化を経てきたよ。
バンドメンバーは、リードギターのShylu Ravindran、リズムギターのSahib Singh、ベースのKashyap Jaishankar、ドラムのManukrishnan Uだ。」
ーとてもユニークな音楽性ですが、どんなミュージシャンやジャンルから影響を受けたのでしょうか?
ジャズやカルナーティック音楽はもちろん、Grateful Deadのようなジャムバンドやトランスの影響を感じる部分もあるように感じます。
「JATAYUの音楽は、メンバーの多様な背景や音楽的経験の影響が、魅力的に融合したものだと言える。Shyluはカルナーティック音楽に深く根ざした家族の出身で、Mahavishnu Orchestra, John Scofield, そして伝説的なU Shrinivas(カルナーティック音楽のマンドリン奏者)からインスピレーションを受けている。
彼のギターはカルナーティックの深遠さとモダンジャズの要素のユニークな融合を聴かせてくれる。
Mark Knopfler, Red Hot Chili Peppers, Tom Mischに影響を受けた僕(Sahib)は、ファンクやロックやモダンなインディー音楽のスタイルを融合して、ギターにダイナミックでエネルギッシュなアプローチをもたらしている。
ベースのKashyapの音楽的影響にはThe Beatles, Hyatus Kaiyote、そしてRobert Glasperの革新的なジャズのスタイルが含まれている。彼のグルーヴィーなベースラインは、JATAYUの音楽にスムースでメロディックな感触を加えているね。
Manukrishnanの音楽経歴には、カルナーティックのヴォーカルとムリダンガムの鍛錬が含まれていて、最終的にドラマーになったんだ。彼は、Meshuggahのような偉大なプログレッシブメタルバンドや、ムリダンガム奏者のPalghat TS Mani Iyer, そしてアヴァンギャルド・ジャズのPeter Brotzmannから影響を受けているよ。
こうした個人的な影響が合わさって、ジャンルやスタイルの調和がとれた融合が達成されているんだ。」
JATAYUを育んだチェンナイは、古典音楽の都としても知られているが、彼らのようなインディー音楽のシーンはどのようになっているのだろうか。
ーみなさんの地元であるチェンナイの音楽シーンはどんな感じですか?
F16sやSkratのようなバンドや、Arivuのようなラッパーなど、才能あるアーティストがいるようですが。
「チェンナイのインディペンデント音楽シーンは活気に満ちていて、多くの才能あるアーティストがオリジナリティのあるサウンドで活動しているよ。でも、僕らが直面している課題のひとつは、自分たちの音楽をプロモーションしたり、演奏したりする場が限られているってことなんだ。ムンバイやベンガルール、ハイデラバードみたいなコンサート会場や演奏機会の多い都市に行くこともよくある。
こういった困難な状況だけど、チェンナイのインディー音楽コミュニティの絆は固くて、アーティストたちは互いに支え合って、協力し合っている。
僕とマヌ(ドラムのManukrishnan)は、ArivuとCasteless Collectiveというバンドでコラボレーションしているし、ManuはF16s(4人編成だがドラマーはいない)のアルバムでドラムを披露しているよ。」
続いて、彼らの音楽を特徴づけている南インドの古典であるカルナーティック音楽について聞いてみた。
ーロックとカルナーティックを融合したミュージシャンといえば、元MotherjaneのBaiju Dharmajanがいますね。カルナーティック・プログレッシブ・ロックのAgamも良いバンドです。
カルナーティックとロックの融合にもいろいろなスタイルがあるようですが、インドには他にもカルナーティックとロックを融合したバンドはいるのでしょうか?
「Baiju DharmajanとAgamはロックとカルナーティック音楽の融合に影響を与えた。彼らのユニークなスタイルは、このジャンルの発展に貢献しているね。彼らの他にも、Karnatriixや、Project Mishramのようなアーティストも、カルナーティックとロックを独自のアプローチで融合している。
他に注目すべき存在としては、ヴォーカリストのShankar Mahadevanと古典楽器ヴィーナの奏者Rajesh Vaidhyaもカルナーティック・フュージョンを実践しているミュージシャンだ。」
JATAYUの音楽が気に入った人は、リンク先からぜひそれぞれのアーティストの音楽を聴いてみてほしい。
めくるめくカルナーティック・フュージョンの世界が広がっている。
ちなみにSahibが名前を挙げたShankar Mahadevanはボリウッド映画の作曲家トリオShankar-Ehsaan-Loyの一人としても知られている。
古典音楽からインドのメインストリーム・ポップスである映画音楽、そして実験的なフュージョン(インドでは、古典音楽と西洋音楽や現代音楽を融合したものをこう呼ぶ)をひとりのアーティストの中で共存しているというのもインドならではである。
ーカルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するとしたら、どのように紹介しますか?
おすすめのミュージシャンがいたら教えてください。
「カルナーティック音楽を聴いたことがない人に紹介するなら、M.S. Subbulakshmi(声楽), D.K. Pattammal(声楽), K.V. Narayanaswamy(声楽), M.D. Ramanathan(声楽), Lalgudi Jayaraman(ヴァイオリン)、Palghat T.S. Mani Iyer(ムリダンガム)といった伝説的なアーティストの作品を探求することをお勧めするよ。
こうしたアイコニックな音楽家たちは、カルナーティック音楽の伝統に多大な貢献をしてきたんだ。現代の音楽シーンでも、T.M. Krishna(声楽)がソウルフルな演奏でカルナーティック音楽の真髄を見事に表現している。彼らの音楽は、カルナーティックの豊かな伝統と美しさを垣間見せてくれるはずだよ」
先ほどのフュージョン音楽と比べると、ガチの古典音楽なのでとっつきにくいところもあるかもしれないが、彼らが歌い奏でる音ひとつひとつの深みや、技巧に満ちたリズムとフレーズが織りなす美しさをぜひ味わってみてほしい。
ーすでに2022年に来日公演をしていますが、これはどういった経緯で決まったことなのでしょうか?
「COVID-19によるロックダウンで、最初は打ちひしがれていたんだけど、僕らは自分たちの音楽を国境を超えて広めてみようと決意した。僕らは積極的に機会を探していて、日本の関西ミュージックカンファレンス(2009年から続く、日本と海外のミュージシャンをつなぐための企画)を見つけたときは興奮したよ。
僕らはそこに応募して、フェスティバルに参加することが決まったんだ。僕らは日本でのパフォーマンスに合わせて、タイでのツアーも計画した。ちょうどそのときに、シンガポールからASEAN Music Showcase Festivalへの出演オファーを受けたんだよ。このイベントへの参加を通じて築いた人々とのつながりが、僕らに新しい扉を開いてくれた。」
ー"No Visa Needed"で共演している矢吹卓と知り合ったきっかけは?
「彼とはオンラインで知り合って、プログレッシブ・ジャズが大好きだっていう共通点から、この曲でコラボレーションすることを決めた。彼とこの曲を作るのはとても簡単だったから、"No Visa Needed"と名付けた。来週、東京で彼と初めて直接会う予定なんだ。フジロックでこの曲を初披露できることを楽しみにしているよ。
ーフジロックへの出演はどのように決まったのでしょうか?
「フジロックのオーガナイザーが、シンガポールで開催されたASEAN Music Showcase Festivalでのパフォーマンスを見て、僕らの音楽を見つけてくれたのがきっかけだった。僕らは自分たちの音楽をより多くのオーディエンスと共有して、世界の音楽シーンのアイコニックなイベントに参加できるチャンスだと思った。フジロック出演を決めたのは、新しいオーディエンスを獲得して、日本の活気ある音楽カルチャーを体験したいっていう僕らの情熱によるものだよ」
ーフジロックでは、昨年デリーのメタルバンドのBloodywoodが大人気を博しました。彼らについてはどう思っていますか?
「インドで彼らの衝撃的なライブパフォーマンスを目撃する機会があった。彼らのエネルギッシュなショーは見るべきだね。彼らのようなインドのインディーズ・バンドが世界で旋風を巻き起こしていることに、僕らは興奮している。インドの音楽シーンが成長して知られてゆく過程を目の当たりにできるのは刺激的だし、僕らもこのエキサイティングなシーンの一部でいられることを光栄に思っている。」
ーあなた方のライブについて伺います。即興演奏の要素は多いのでしょうか?
スタジオバージョンとは異なるものになるのでしょうか?
「スタジオ録音では、それぞれの曲のエッセンスと形式をとらえて、まとまりのある形で表現することを目指している。でもライブパフォーマンスでは、曲の全体像はそのままに、メンバーそれぞれの表現や、曲を進化させる余地を作るようにしているんだ。即興的な部分やソロを取り入れて、演奏に個性的なフレイバーを加えているよ。
さらに、会場の雰囲気や環境も僕らのセットのダイナミズムに大きな影響を与える。僕らはテンポやエネルギーの出し方を調整して、さまざまな雰囲気を作ってオーディエンスにいろんな体験をさせるんだ」
ーフジロックで見ることを楽しみにしているアーティストはいますか?
「フジロックの信じられないようなラインナップを見て興奮は高まる一方だよ。Cory WongやCory Henryみたいな、僕らのバンド全員が尊敬している有名ミュージシャンのパフォーマンスを心待ちにしている。
Foo Fighters, GoGo Penguin, Black Midi, Ginger Root, 他にも数えきれないほどの才能あるアーティストたちの魅力的なパフォーマンスがこのフェスを彩ることに感激しているよ。多様なジャンルと素晴らしい才能が見られるフジロックは、参加した人全員にとって忘れられない音楽の旅になるだろうね」
ーJATAYUが出演するField of Heavenはフジロックで最も美しいステージだと思います。
フジロックであなた方のライブを見る観客に何かメッセージをください。
「Field of Heavenの音楽ファンのみんな、この素晴らしいフェスティバルに参加できて光栄です。才能豊かな日本人アーティストの矢吹卓とのコラボレーション"No Visa Needed"を含む特別なパフォーマンスができることにワクワクしている。みんなと音楽を分かち合うのが待ちきれないよ。See you soon!」
現在彼らは来日前に台湾をツアー中。
それにもかかわらず、全ての質問にたっぷりと丁寧に答えてくれた。
彼らのファンキーなグルーヴに乗せたカルナーティックギターサウンドが、Field of Heavenのステージから苗場の大空に響き渡ったら、最高に気持ちいいことだろう。
去年のBloodywood同様に、JATAYUもインドのインディペンデント音楽シーンの素晴らしさとユニークさを、日本のオーディエンスに存分に知らしめてくれるに違いない。
個人的にも、彼らの柔らかいグルーヴとGoGo Penguinの機械的で硬質なグルーヴが続く2日目のヘヴンは、今年のフジロックの見どころのひとつだと思う。
フジロックのオーディエンスには、まだ見ぬ素晴らしい音楽を体験することを楽しみにしている人が多いことと思うが、それならばこのJATAYUは絶対に見逃せないバンドである。
JATAYU "Marugelara"
追記:
カルナーティック音楽の魅力と世界観を味わうには、ムリダンガム奏者を主人公としたタミル語映画"Sarvam Thaala Mayam"もおすすめだが、今のところ日本語字幕版は配信プラットフォームに入っていないようなので、本文中では触れなかった。
同作は、2018年の東京国際映画祭で『世界はリズムで満ちている』というタイトルで公開されたのち、『響け!情熱のムリダンガム』というタイトルで劇場公開されている。
機会があったら是非見てみてほしい。
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goshimasayama18 at 22:57|Permalink│Comments(0)
2023年04月12日
こんな本が読みたかった!『デスメタル・インディア』
4月14日にパブリブから出版される『デスメタルインディア スリランカ・ネパール・パキスタン・バングラデシュ・ブータン・モルディヴ』(水科哲哉 著)がめちゃくちゃ面白い。
出オチ感満載のタイトルに反して、これはヘヴィメタルの伝播というグローバリゼーションと南アジアのローカル文化の邂逅を描いた良質な比較文化論であり、決してメインストリームではないヘヴィメタルというジャンルが南アジアでどんな意味を持つのかを扱ったサブカルチャー論でもある。
そしてもちろん、この本がきわめて稀有な音楽ガイドでもあることは言うまでもない。
タイトルに「デスメタル」を冠しているものの、オールドスクールなハードロックやパワーメタルから、よりエクストリーム/エクスペリメンタルなものまで、およそメタルと名のつくジャンルを包括的にカバーしていて、収録アーティストは南アジア全域から657組、レビューした作品は737作にも及ぶ。
その中には、欧米のバンドと変わらないような王道スタイルのバンドもいれば、シタールの導入や古典音楽との融合を図っている「フュージョン・メタル」のアーティストもいる。
要するに、可能な限り広く深くシーンを掘り下げているということだ。
インタビュー記事も充実している。
例えば、南インド・ケーララ州のダリット(カースト最下層の被差別民)によるバンドWilluwandiへのインタビューでは、もともと欧米で過激な反キリスト教主義を標榜するジャンルだったブラックメタルを、彼らがヒンドゥー教に基づくカースト制度の否定や、北インドへの反発を表現する手段として使っている背景を丁寧に聞き出している。
(彼らのユニークなアプローチはこのブログでも4年ほど前に取り上げている。リンクはこちらから)
スリランカのバンドStigmataへのインタビューでは、シンハラ人とタミル人、仏教とヒンドゥーとイスラームという、ときに激しく対立し合うコミュニティの構成員がひとつのバンドを構成し、ヘヴィメタルという文化を通して調和・共存している様子が伝わってくる。
いずれも、音を聴くだけでは分からない、彼らの魂が伝わってくる貴重なインタビューである。
これは以前から感じていたことだが、南アジアでは、メタルやヒップホップといった欧米由来の新しい音楽カルチャーが、保守的な価値観や宗教的な束縛から逃れるための一種のアジールとして機能しているところがある。
そうした状況をリアルに知ることができる媒体は、手前味噌ながら、これまでこのブログくらいしかなかったように思うが、強力な仲間を見つけた気分だ。
丁寧なインタビューに加えて、それぞれの国や地域の歴史、文化、宗教、社会などの情報も充実している。
要するに、単なる音楽ガイドの枠を超えて、対象地域へのリスペクトがしっかりとしているということだ。
インドとか周辺地域のヘヴィメタルというだけで、いくらでもキワモノ的な切り口で書くこともできたと思うが、そういうことはいっさいせずに、真摯に対象を扱っている姿勢には、大変好感が持てる。
作品レビューに関しては、歯に衣着せずに正直に書いているところがいい。
これだけのバンド/作品をレビューするとなれば、当然駄作にも多くぶちあたるわけだが、そんなときは「曲調も平板で、プロダクションも劣悪」とか「歌唱が不安定かつ調子外れ」とか「曲としての体をなしているとは言い難い」とか「出来栄えは著しくチープ」とか、手加減無用でぶった斬っている。
ただでさえ無名のメタル後進国のバンドに対してこんなふうに書いたら、誰も聴かなくなるんじゃないかと思うのだが、これは正しいスタンスだろう。
音楽ガイドとしての信憑性を保つには、音楽面での評価はあくまでもフェアに行う必要がある。
そこを手加減するのはかえって失礼というものだ。
なんだか全体的に褒めすぎのような気もするが、さらに望みたかった点を挙げるとすれば、各バンドが導入している固有の文化的、音楽的な要素に対する記述がもう少し具体的であっても良かったかな、ということだ。
さまざまな伝統音楽、古典音楽を導入したサウンドに対して、軒並み「土着色が濃厚」といった表現が使われているのだが、もう少し深く書くこともできたのではないかと思う。
ただ、文字数の都合もあるだろうし、この本はあくまで「南インド音楽文化入門」ではなくて「メタル系作品ガイド」なので、致し方ないところではあるだろう。
ヘヴィメタルのリスナーに対して「カルナーティックの要素を導入したフレーズ」とか「マニプル州のメイテイ人の伝統音楽を取り入れたヴォーカル」とか言ってもイメージできないだろうし、ここでは掘り下げるべきポイントではないのだ。
この本を出版しているパブリブは、以前からどこにニーズあるのか分からないマニアックな本を出しまくっているのだが(褒め言葉)、今作も、はたして自分以外に喜んで手に取る人がどれくらいいるのか、ちょっと謎ではある。
だが、繰り返しになるが、南アジア文化と音楽(メタルじゃなくてもいい)のどちらかに興味があれば、相当楽しめる内容だし、もし両方に興味があるならば、絶対に読むべき一冊だ。
インドのインディペンデント音楽を紹介している一人として、こういう本が出版されたということが、本当にうれしい。
最後に、この本で取り上げられているバンドのいくつかをこのブログで書いたときのリンクを貼っておく。
どっちを先に読んでも楽しめると思う。
単独来日公演も決まったBloodywoodについて、去年のフジロックでの初来日が決まる前に書いた記事。
この頃はまさか日本のTwitterのトレンドに彼らの名前が入る日が来るとは思わなかった。
ムンバイのシンフォニックデスメタルバンド、Demonic Resurrectionについては、当ブログでもインタビューを含めて何度か取り上げている。
まだ初期のブログで、適切な分量が分からなかった頃に書いたもので(今もそうだが)、ひたすら文字数が多いので、お暇なときにどうぞ。
Sahilに教えてもらった、あまりにも安っぽいインド神話のテレビドラマの映像はリンク切れで見れなくなっていた。
ケーララのダリット(非差別民)によるアンチカースト・ブラックメタルバンド、Willuwandiについて書いた記事。
彼らは先日京都の南インドレストラン、ティラガさんでのトークイベントで紹介した際にも、非常に評判が良かった。
インド北東部、シッキム州のハードロックバンド、Girish & Chroniclesには、インタビューも敢行。
独自の文化を持つインド北東部のメタルシーンについても、インタビュー含めてごく初期にいくつかの記事を書いている。
この2つのデスメタルバンドへのインタビューを通して、インドの音楽シーンについての見方が一段と深まった、個人的に非常に思い入れの強い記事である。
これもごく初期に、ヴェーディック・メタルについて書いた記事。
その後、まったくメタルっぽくない音楽性になってしまったせいか、『デスメタルインディア』には掲載されていなかったが、「サウンドトラックメタル」と名付けたFriends from Moonも面白いバンド。
コルカタの社会派ブラックメタル/グラインドコアバンド、Heathen Beastについては、インドの社会問題を扱った全曲をレビュー。
メタルを聴けばインドの社会が分かる。
またこのブログでもインドのメタルについて書いてみたいと思います!
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goshimasayama18 at 21:37|Permalink│Comments(0)
2023年02月21日
2022〜23インド冬フェスシーズン 最も多くの出演したのは?
夏フェスがポピュラーな日本とは異なり、インドの音楽フェスティバルのシーズンは冬。
インドのインディペンデント系音楽メディアSkillboxに、2022〜23年のシーズンに最も多くフェスに出演したインディーアーティスト・トップ10を紹介する記事がアップされていた。
これがなかなか面白かったので紹介したい。
(元記事はこちら)
この記事によると、1位に輝いたのは、プネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsで、8つのフェスに出演したとのこと。
出演したフェスの内訳は、Bacardi NH7 Weekender (プネー), Bloom In Green (クリシュナギリ), Echoes Of Earth (ベンガルール), Idli Soda (チェンナイ), India Bike Week (ゴア), Lollapalooza India (ムンバイ), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ)。
南インドのチェンナイやベンガルールから、北東部の最果てアルナーチャル・プラデーシュ州のジロまで、まさにインド全土を股にかけたということになる。
クリシュナギリという地名は初めて聴いたが、南インドタミルナードゥ州(州都はチェンナイ)の地方都市だ。
その郊外で行われたBloom in Greenは、人力トランスバンドや無国籍風ワールドミュージックアーティストが出演したオーガニック系の自然派フェスティバルだったようだ。
これまで南インドのフェスはあまり取り上げていなかったが、改めて調べてみると、結構面白そうなイベントが開催されている。
今シーズンのフェス出演映像は見つからなかったので、2017年のNH7 Weekender出演時の様子をご覧いただきたい。
このブログでも何度も取り上げてきたEasy Wanderlingsは、曲良し、歌良し、演奏良しの素晴らしいバンドで、彼らが1位というのは納得できる。
野外で彼らのオーガニックなサウンドを聴けたら最高だろう。
日本でもフジロックか朝霧JAMあたりで見てみたい。
冬フェス出演回数2位には、6組のアーティストが該当している。
それぞれの出演フェスティバルも合わせて紹介すると、
- Anuv Jain
Bacardi NH7 Weekender (プネー), Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Vh1 Supersonic (プネー), Zomaland (ハイデラーバード), Zomato Feeding India (ムンバイ) - Bloodywood
Bacardi NH7 Weekender (プネー), Indiegaga (コチ), Lollapalooza India (ムンバイ), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Oddball Festival (ベンガルール、デリー), Rider Mania (ゴア), The Hills Festival (シロン) - Peter Cat Recording Co.
Gin Explorers Club (ベンガルール), India Cocktail Week (ムンバイ), Jaipur Music Stage (ジャイプル), LiveBox Festival (ベンガルール), Rider Mania (ゴア), Vh1 Supersonic (プネー), Ziro Festival of Music (ジロ) - Thaikkudam Bridge
GIFLIF Indiestaan (ボーパール), Idli Soda (チェンナイ), Indiegaga (ベンガルール、コーリコード), Mahindra Independence Rock (ムンバイ), Rider Mania (ゴア), Signature Green Vibes (ハイデラーバード), South Side Story (ニューデリー) - The Yellow Diary
Beat Street (ニューデリー), Doon Music Festival (デラドゥン), LiveBox Festival (ムンバイ), Lollapalooza India (ムンバイ), Oktoberfest (ムンバイ), SteppinOut Music Festival (ベンガルール), Zomaland (アーメダーバード、ハイデラーバード、ニューデリー) - When Chai Met Toast
India Cocktail Week (ベンガルール), Indiegaga (コチ), International Indie Music Festival (コヴァーラム), North East Festival (New Delhi), Parx Music Fiesta (Mumbai), SpokenFest (Mumbai), Toast Wine and Beer Fest (Pune)
詳細はアーティスト名のところからリンクを辿っていただくとして、ここではこれまでこのブログで取り上げたことがない人たちを紹介したい。
Anuv Jainはパンジャーブ出身の主にヒンディー語で歌うアーバン・フォーク系シンガー。
2018年のデビュー曲の"Baarishein"で一気に注目を集め、この曲、まったく絵が動かないシンプルなリリックビデオにもかかわらず、YouTubeで5,000万回以上も再生されている。
歌詞はわからなくても、彼の非凡なメロディーセンスが理解できるだろう。
ヒンディー語がとっつきにくいという人は、こちらの英語曲"Ocean"をどうぞ。
アレンジに関しては、弾き語りというか、最小限のバッキング以外は入れない方針っぽいのが潔くもあるし、少しもったいない気もする。
The Yellow Diaryはムンバイ出身のインド・フュージョンっぽいポップバンドで、2021年にリリースしたこの"Roz Roz"という曲のYouTubeでの再生回数は1,000万回を超えている。
ちなみにこの後には8位タイとして、6つのフェスに出演したParvaaz(ベンガルール出身のヒンディー語で歌うインディーロックバンド)、Taba Chake(北東部アルナーチャル・プラデーシュ出身のウクレレ・シンガーソングライター)、The F16s(チェンナイ出身のロックバンド)、T.ill Apes(ベンガルール出身のファンク/ヒップホップバンド)の4組が名を連ねている。
元記事を書いたAmit Gurbaxaniは、この統計を取るために50以上のフェスティバルを調べたとのこと。
そのうち2つ以上のフェスにラインナップされていたアーティストは70組以上。
オーガナイザーの話では、出演者選定の理由は、
- 人気があること
- ストリーム数、動員、ソーシャルメディアの活躍
- 開催地が地元の場合、しっかりとしたファン基盤があること
- ヘッドライナーのアーティストとの相性を考慮
だそうで、まあこれは世界中共通だろう。
典型的なメタルバンドはラインナップしづらいけど、Bloodywoodみたいな個性のある面白いバンドは例外とのことで、なるほど、彼らは日本でいうところのマキシマム・ザ・ホルモンみたいな存在なのだろう。
それにしてもBloodywoodは欧米でも日本でも母国でも、フェス人気がかなり高いようだ。
DIVINE、Prateek Kuhad、Ritvizといった人気アーティストの出演が少ないのは、独自のツアーが忙しいからだそうで、これも世界共通の傾向だろう。
典型的なメタルバンドはラインナップしづらいけど、Bloodywoodみたいな個性のある面白いバンドは例外とのことで、なるほど、彼らは日本でいうところのマキシマム・ザ・ホルモンみたいな存在なのだろう。
それにしてもBloodywoodは欧米でも日本でも母国でも、フェス人気がかなり高いようだ。
DIVINE、Prateek Kuhad、Ritvizといった人気アーティストの出演が少ないのは、独自のツアーが忙しいからだそうで、これも世界共通の傾向だろう。
最後に今シーズンのフェスの映像をいくつか紹介してみたい。
まずは、南インド各地で行われた巡回型フェスティバルIndiegagaから、ケーララ州コチ会場のBloodywoodのライブのアフタームービー。
続いて同じIndiegagaでも、こちらはコーリコード会場から、地元ケーララのThaikkudam Bridgeのライブの模様。
ベンガルールで行われたOddball Festivalのアフタームービー。
プネーの大型フェスNH7 Weekenderから、When Chai Met Toastのライブの様子。
今回紹介したのはロック系のフェスが中心になってしまったが、EDMやヒップホップが優勢に感じられるインドで、ロックも根強い人気を保っていることが確認できた。
インドのフェス、ほんとそろそろ遊びに行きたいんだよなあ。
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goshimasayama18 at 21:36|Permalink│Comments(0)
2023年01月31日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のミュージックビデオTop10
1月も終わりかけの時期に去年の話をするのもバカみたいだが、毎年定点観測していることなので一応書いておくことにする。
この「Rolling Stone Indiaが選ぶその年のTop10」シリーズ、急成長が続くインドのインディー音楽シーンを反映したのか、2022年はベストシングルが22曲、ベストアルバムが15枚(アルバムの数え方は今も「枚」でいいのか)も選ばれていたのだが、今回お届けするミュージックビデオ編はきっちり10作品だった。
単に選者が適当なのか、それともそこまで名作が多くなかったのか。(元記事)
10作全部チェックするヒマな人もあんまりいないと思うので、そうだな、3曲挙げるとしたら、音的にも映像的にも、6位と3位と2位がオススメかと思います。
それではさっそく10位から見てみましょう。
10. Disco Puppet "Speak Low"
ベンガルールのドラマーでシンガーソングライターのShoumik Biswasによるプロジェクト。
かつては前衛的な電子音楽だったが、気がついたらアコースティックな弾き語り風の音楽になっていた。
インドではローバジェットなアニメのミュージックビデオが多いが、影絵風というのはこれまでありそうでなかった。
音も映像も後半で不思議な展開を見せる。
映像もDisco PuppetことShoumikの手によるもの。
多才な人だな。
9. Rono "Lost & Lonely"
ムンバイのシンガーソングライターによる、日常を描いたリラクシングな作品。
なんかこういう自室で踊り狂うミュージックビデオは、洋楽や邦楽で何度か見たことがあるような気がする。
8. Aarifah "Now She Knows"
ベストシングル部門でも11位にランクインしていたムンバイのシンガーソングライター。
これまた日常や自然の中でのどうってことのない映像。
インドはこの手の「ワンランク上の日常」みたいな作風が多いような気がするが、よく考えたら日本を含めてどこの国でもそんなものかもしれない。
7. Parekh & Singh
コルカタが誇るドリームポップデュオのSNSをテーマにしたミュージックビデオ。
ウェス・アンダーソン趣味丸出しだった以前ほど手が込んだ作品ではないが、それでも色調の美しさは相変わらず。
6. Kanishk Seth, Kavita Seth & Jave Bashir "Saacha Sahib"
いかにもインド的な「悟り」を表現したようなモノクロームのアニメーションが美しい。
Rolling Stone Indiaの記事によると「グルーヴィーなエレクトロニック・フュージョン」とのこと。
インド的なヴォーカルの歌い回し、音使いと抑制されたグルーヴの組み合わせが面白い(と思っていたら終盤に怒涛の展開)。
クレジットによると、歌われているのは15〜16世紀の宗教家カビール(カーストを否定し、イスラームやヒンドゥーといった宗教の差異を超えて信仰の本質を希求した)による詩だそうだ。
都市部の若者の「インド観」に、欧米目線のスピリチュアリズムっぽいものが多分に含まれていることを感じさせる作品でもある。
5. Serpents of Pakhangba "Pathoibi"
インド北東部のミャンマーに程近い場所に位置するマニプル州のメイテイ族の文化を前面に打ち出したフォーク/アヴァンギャルド・メタルバンド(活動拠点はムンバイ)。
少数民族の伝統音楽の素朴さとヘヴィな音圧の融合が、呪術的な雰囲気を醸し出している。
ミュージックビデオのテーマは呪術というよりも社会問題としての児童虐待?
後半のヴォーカルにびっくりする。
4. Ritviz "Aaj Na"
インド的EDM(勝手に印DMと命名)の代表的アーティスト、Ritvizが2022年にリリースしたアルバムMimmiからの1曲。
テーマはメンタルヘルスとのことで、心の問題を乗り越える親子の絆が描かれている。
アルバムにはKaran Kanchanとの共作曲も含まれている。
3. Seedhe Maut x Sez on the Beat "Maina"
Seedhe Mautが久しぶりにSez on the Beatと共作したアルバムNayaabの収録曲。
インドNo.1ビートメーカー(と私が思っている)、Sezの繊細なビートが素晴らしい。
これまで攻撃的でテクニカルなラップのスキルを見せつけることが多かったSeedhe Mautにとっても新境地を開拓した作品。
ミュージックビデオのストーリーも美しく、タイトルの意味は「九官鳥」。
昨年急逝された麻田豊先生(インドの言語が分からない私にいつもいろいろ教えてくれた)に歌詞の意味を教えてもらったのも、個人的には忘れ難い思い出だ。
2. F16s "Sucks To Be Human"
チェンナイを拠点に活動するロックバンドのポップな作品で、宇宙空間でメンバーが踊る映像が面白い。
どこかで見たことがあるような感じがしないでもないが、年間トップ10なんだから全作品これくらいのクオリティが欲しいよな。
ミュージックビデオの制作は、いつも印象的な作品を作るふざけた名前の映像作家、Lendrick Kumar.
1. Sahirah (feat. NEMY) "Juicy"
ムンバイを拠点に活動するシンガーソングライターの、これまたオシャレな日常系の作品。
ラップになったところでアニメーションになるのが若干目新しい気がしないでもないが、このミュージックビデオが本当に2022年の年間ベストでいいんだろうか。
そこまで特別な作品であるようには思えないのだが…。
印象的なアニメーションは、以前F16sの作品なども手がけたDeepti Sharmaによるもの。
というわけで、全10作品を見てみました。
毎年ここにランキングされている作品を見ると、「上質な日常系」「現代感覚の伝統フュージョン系」「ポップな色彩のアニメーション系」といった大まかな系統に分けられることに気づく。
インドのインディー音楽シーンが急速に拡大すると同時に、少なくとも映像においては、その表現様式が類型化するという傾向も出てきているようだ。
もはやインディー音楽もミュージックビデオも、「インドにしてはレベルが高い」という評価をありがたがる時代はとっくに過ぎている。
この壁を突き破る作品が出てくるのか、といった部分が今後の注目ポイントだろう。
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2023年01月08日
(後編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 さらなる多様なポップミュージックたち
前回に続いて、Rolling Stone Indiaが選んだ2022年のベストシングル22選の後編、Top10を一言レビュー付きで紹介する。
22〜11位同様、アコースティック系ポップを基調としつつも、Top10にはさらに多様性にあふれた曲が集まっている。
10位 MS Krsna “Odathey Oliyathey”
ミズ・クリシュナという女性アーティストかと思ったら男性だった。
デリーのベテランラッパーKR$NAとも関係がない、チェンナイのシンガーソングライターだ。
使っている楽器こそアコースティックギターだが(途中からバスドラの4つ打ちが入る)そのフレーズや歌メロは洋楽的というよりはタミル的。
タミルらしい個性を感じさせる面白いアーティストだ。
9位 The Colour Compound “Holding On To The Hope”
アメリカっぽいカントリー系ロックチューンかと思ったら、この曲も4つ打ちのバスドラが入ってくる。
さわやかでポップなメロディーが印象的。
ムンバイの3ピースロックバンドだそうで、海沿いの道をドライブしたら気持ちよさそうな曲だ。
どうでもいいが、colourの綴りにイギリス領だった面影を感じさせられる。
8位 Friends from Moon “Rebellion Road”
過去にはあまりにも壮大なオーケストレーションを導入したデス/ブラックメタル(以前の記事で「サウンドトラックメタル」と命名させてもらった)を演奏していたデリーのRitwik ShivamのソロプロジェクトFriends from Moonが、気がついたらプログレメタルっぽい要素のあるポップなロックバンドに様変わりしていた。
もはやデスメタル的なグロウル(いわゆるデス声)は完全に聴かれなくなり、YouTubeの静止画もこのかわいらしさだ。
今っぽい音ではないが、Burrn!で結構いい点数取りそうな感じというか、これはこれで上質な音楽だ。
一昨年のハロウィン(ジャーマンメタルではなく、10月末の)にはビートルズのCome Togetherのインダストリアル的カバーを披露したりもしていて、予想のつかない音楽性で今後も楽しませてくれそうなアーティストだ。
7位 Meba Ofilia “Feelings”
インド北東部メガラヤ州の州都シロン(古くから「インドのロックの首都」と言われている街だ)のR&Bシンガー/ラッパーのMeba Ofiliaの新曲は、ヒップホップ的な要素のないR&Bバラードだ。
北東部のミュージシャンはブルースや80年代など、古めの洋楽を好む傾向が強いが、この曲も音楽性としては90年代くらいの感じ。
6位 Vaisakh Somanath “Death of January”
マラヤーラム語を中心に多言語で楽曲を発表するシンガーソングライターVaisakh Somanathが今は亡き母を偲んで書いた曲。
シンプルだが美しいメロディーで始まり、静かに盛り上がってゆく構成が胸に沁みる。
歌い回しとラップから、マラヤーラム語の響きの心地よさを存分に感じることができる曲だ。
せっかくインドのランキングなのだから、こういう曲がもっと聴きたいよな。
5位 Lucky Ali “Intezaar”
Lucky Aliはボリウッド映画の曲なども歌うメインストリーム寄りのシンガーだが、どういうわけかインディペンデント系の音楽を推す傾向が強いRolling Stone Indiaにも取り上げられることが多い。
プレイバックシンガーという出自にふさわしく、この曲もポップな分かりやすさと洋楽的な方向の洗練をうまく融合させたアレンジが素晴らしい。
後半の間奏でウォール・オブ・サウンド的なコーラスが出てきたときには思わず唸ってしまった。
ミュージックビデオも映画的な美しさがある。
4位 Shikhar “Moonbrain”
憂を帯びたキャッチーな歌メロと、アルペジオとカッティングを織り交ぜたギターのバッキングが素晴らしい。
インド中部マディヤ・プラデーシュ州の州都ボーパール出身だそうで、こう言ってはなんだが、かなり地味な都市からこれだけの洗練されたシンガーソングライターが出てきたことに驚かされた。
タイトルの意味は、簡単なことも疎かになってしまうようなぼーっとした精神状態を指す言葉だそうだ。
3位 Dhruv Visvanath “Suffocation”
Dhruv VisvanathはアメリカのAcoustic Guitar Magazineで30歳以下の偉大なギタリスト30名に選ばれたこともあるという、ニューデリーを拠点に活躍する活動するシンガーソングライター。
この曲もアコースティックギターのパーカッシブな奏法が印象的(こういうのは生演奏を見ないと今ひとつ盛り上がらないんだよな…とも思うが)。
演奏だけでなく、歌メロにはフックがあるし、ファルセットのサビにも色気があるし、曲自体も非常によくできている。
さすがにトップ3の曲になるとクオリティが高い。
2位 Reble x kbjj “Talk of the Town”
KbjjというのはヴォーカルのEmma ChallamとプロデューサーのErick Frankyからなるポップデュオ、途中でRableというのはこの曲でコラボレーションしているフィメールラッパー。
全員が北東部メガラヤ州の州都シロン出身のミュージシャンたちだ。
これまでインドのアーティストでは聴いたことがない音楽性で、強いていうならば(ネオ)カワイイの要素を大幅に減じたCHAI(インドの話題だけれども、日本のバンドのほうのね)みたいな感じ?
インド北東部の独自性と、「インドのロックの首都」と言われる当地の面白さの両方が感じられるアーティストだ。
1位 Chirag Todi (ft. Ramya Pothuri & RANJ) “Love Nobody”
Chirag TodiはHeat Sinkというジャズロックバンドのメンバーで、Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストシングルの1位にも選ばれたアーティスト。
この"Love Nobody"も、2020年に選ばれていた"Desire"で共演していたムンバイの「プログレッシブ・ドリームポップ」ユニットSecond SightのPushkar Srivatsalが今作をプロデュース。
Karan Kanchanはじめさまざまなアーティストとの共演で知られるRamya Pothuri、女性ラッパーのRANJとのコラボレーションによる「ラップ入りシティポップ」的な小洒落たサウンドはいかにもRolling Stone India好みだ。
と、全体的に洋楽的ポップアーティストとしての質の高さを誇示しつつも、随所にインドならではの個性が感じられるシングルTop22でした。
来年はTop23になるのかと思うと今から目眩がするぜ。
全体的にロック/R&B色が強くて、EDM系が少なく、ヒップホップが全くないのが昨今のインドのシーンを考えるとちょっと不思議な選曲ではあったけど、そこは媒体の傾向ってことなのかな。
過去のTop10と聴き比べてみるのも一興です。
昨年いきなり1位にランクインした実力派ジャズ/R&BのVasundhara Veeはその後ボリウッドのプレイバックシンガーとして活躍しているようだ。
2020年はより小洒落た感じで揃えてきていた感じがある。
そう考えると、やはり20曲くらい選んだ方が個性が感じられて良いのかな。
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goshimasayama18 at 14:15|Permalink│Comments(0)
2023年01月05日
(前編)Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストシングルTop22 インドのインディー音楽はここまで来た
例年このブログで特集している「Rolling Stone Indiaが選ぶベスト○○Top10」シリーズ。
前回特集したベストアルバム部門が、例年と違って15作品選ばれていてびっくりしたのだが、そのあとに発表されたベストシングル部門はなんと22作品!
例年の倍以上!
もちろんこれはインドのインディー音楽シーンが急成長していることを端的に表しているのだが、いい作品が多かったらその中から厳選して10作品選ぶのではなく、躊躇なく15作品とか22作品とか選んでしまうところがいかにもインドらしい。
というわけで、今年は大盤振る舞い。
2回に分けてその22作品をすべて紹介する。
はじめに結論から言ってしまうと、このランキングに選ばれた曲は、Rolling Stone Indiaという媒体の性格を反映して、洋楽的な意味での「よい曲」が並んでいる。
何も言わずに聴かせたらインドのアーティストだとは思えない曲ばかりで、インドの音楽シーンもここまでグローバルになってきたのかと思うと感慨深い。
いっぽうで、それは海外のアーティストと比較したときに没個性という意味でもあるわけで、今日のポピュラー音楽としての洗練された響きを維持しつつ、インド的な特徴も融合した音楽をどう作るかという点が、今後のインドのインディー音楽の発展のひとつの鍵となるのだろう。
能書きはともかくさっそく紹介に移ります。
22位 BeBhumika, Katoptris “Pareshaan”
Ritvizマナーの男女ヴォーカルのヒンディー語EDM(いわゆる'印DM')。
インド的アイデンティティと現代的なポップサウンドの両立という点では、この曲は上位ランクの楽曲よりもがんばっている。
ただインド国内ではこの手のサウンドは珍しくなくなってきており、インドのシーンの中で今後オリジナリティをどう出してゆくのかというまた別の課題がありそうだ。
Ritvizフォロワーにとどまらない次の展開を期待したい。
21位 The Runway "Find Me, Find You"
このブログでも何度も紹介している、インド北東部のナガランド州から登場したバンド。
聴いての通り80年代リバイバル風のポップなロックだが、北東部のバンドにありがちな80〜90年代趣味が、結果的に今の時代の懐古的エモさ嗜好にばっちりはまっているように思える。
2022年は、ナガランドからこれまた80年代趣味全開なAbout Usというすごいハードロックバンドも登場しており、しばらくナガのシーンから目が離せなくなりそうだ。
20位 Mali “Ashes”
Maliはムンバイ出身のマラヤーリー系(ケーララ系)シンガーソングライター。
彼女のいつものスタイルであるやわらかいアコースティックなサウンドとやさしいヴォーカルの1曲。
そういえば、彼女はコロナ前に日本でミュージックビデオを撮ることを計画していたようだが、その後どうなったのだろうか。
19位 Kenneth Soares “Cigarettes”
イントロのパーカッション使いやレイドバックした雰囲気など、70年代アメリカンロックを思わせるインドでは珍しいタイプの曲。
しいて近い雰囲気を挙げるとしたら13位のTejasだろうか。
ムンバイのシンガーソングライターだそうだ。
18位 Tanmaya Bhatnagar “kyun hota hai?”
ニューデリーのシンガーソングライターによる歌ものヒンディー・エレクトロポップ。
全体的に柔らかめのサウンドが心地よい。
この手のエレクトロポップ勢は本当に増えてきた。
17位 Gaya "Qisse"
品の良いアコースティックなアーバンフォーク。
声質や歌い回しに、北インドっぽい節回しが顔を出すのがチャーミングだ。
ムンバイだろうか、下町を叙情的に撮影したミュージックビデオも美しい。
北インドの人かと思ったら、チェンナイ生まれ、ドバイ育ちとのこと。
16位 Raghav Meattle “Am I Overthinking This?”
2020年にリリースした"City Life"が記憶に新しいムンバイのシンガーソングライターRaghav Meattleの新曲は、こちらもアコースティックなフォークだが、英語詞ということもあり、洋楽的なサウンドが印象的。
しみじみと感じ入る曲だが、ややシンプルすぎるようにも思う。
15位 Anoushka Maskey “So Long, Already. Again.”
インド北東部シッキム州のシンガーソングライターによる、これまたアコースティックな曲。
彼女の歌声にはなんとも形容し難い寂寥感があって、どこか日本のフォークソングを思わせる雰囲気がある。
インドに数多い女性シンガーソングライターのなかでも、声に個性が感じられるアーティストだ。
14位 Kamakshi Khanna and Sanjeeta Bhattacharya “Swimming”
デリーのシンガーソングライター2人によるコラボレーション。
これもおだやかなバラードだが、歌声ひとつで空気を変える力があるKamakshi Khannaと実力派シンガーSanjeeta Bhattacharyaの共演となると、さすがに聴きごたえがある。
ミュージックビデオの「女の園」的な世界観も独特だ。
ところで、さいきんのSanjeetaのミュージックビデオは、一昨年の"Khoya Sa"もそうだったが同性愛的なテーマで作られているときが多くてなんかドギマギする。
13位 Tejas “As I’m Getting Older”
ムンバイのシンガーソングライター(どうでもいいけどこのランキングはムンバイとデリーのSSWばっかりだな)Tejasの新作は、いつも通りのダンサブルなポップチューン。
いつも通りよくできているのだが、ちょっとマンネリ感があるかな。
12位 Aanchal Bordoloi “Whiskey Blues”
北東部アッサム州出身、ベンガルールを拠点に活動しているシンガーソングライターによる曲。
タイトル通りアメリカっぽい曲調のアーバンフォークだが、いかに大都市ベンガルールとはいえ、まだまだ保守的なインドで女性がWhisley Bluesというタイトルの曲を発表するのはどういう受け止められ方をするのだろうか。
リベラルな性質の媒体なので、そのあたりの時代性というか先進性もランキングに影響しているのだろうか。
11位 Aarifah “Now She Knows”
ムンバイ出身の女性シンガーソングライターのデビューシングル。
深みのある声で歌われる洋楽的アコースティックバラード。
歌もメロも後半盛り上がってゆくアレンジも悪くないのだが、ここまでちょっと同系統の曲が多すぎるような気がしないでもない。
選者の好みなのだろうか。
というわけで、ここまで12曲を紹介してみました。
上位10曲はまた次回!
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goshimasayama18 at 22:53|Permalink│Comments(0)
2022年12月29日
Rolling Stone Indiaが選ぶ2022年のベストアルバムTop15
毎年定点観測しているRolling Stone Indiaが年間選ぶベストアルバム。
アルバム10枚聴くのって結構大変なんだよなー、と思っていたら、今年はなんと15枚!
例年のことながら、いつもチェックしている媒体にもかかわらず、これまでまったく取り上げられていなかったアーティストのアルバムが入っていたりして、今年も何が何だか分かりませんが、今年も良作揃い!
そして、今年は過去最高に自分のセレクトとRolling Stone Indiaのセレクトが重なっていた!
おかげでアルバムを聴く手間も大幅に省けたので、ついでに1枚ずつの紹介はせずに、何枚かまとめてのコメントとさせてもらいます。
1. Bloodywood "Rakshak"
Rolling Stone Indiaでも1位を飾ったのはBloodywoodだった。
バンド名を含めてステレオタイプをネタにしたような彼らがこのRolling Stoneのテイストに合うかどうか心配していたのだが、杞憂だったようだ。
確かにサウンドの個性とヘヴィロックとしてのクオリティはピカイチだし、他のインド出身のバンドがなし得なかったほどに世界的な注目を集めているという点では、納得の1位だ。
2. Parekh & Singh – The Night Is Clear
ブログでも特集した、そして軽刈田選出のTop10にもピックアップしたParekh & Singhがこの位置にランクイン。
1位のBloodywoodとの落差がすごいが、これが今のインドのシーンの多様性と言えるし、両極端を敬遠せずにきちんと取り上げているRolling Stone Indiaを褒めたい。
Parekh & Singhが新作をリリースした年には、必ずこのランキングの上位に食い込んできている印象。
まあ実際それだけ安定したクオリティの作品を作り続けているし、洋楽的洗練を重視するこの媒体が彼らを高く評価するのも頷ける。
今作では、これまであまり重視してこなかったグルーヴを意識したアレンジが見られる。
3. Ankit Dayal – Tropical Snowglobe (Side A)
4. Raman Negi – Shakhsiyat
5. Girls On Canvas – Frequency
6. Derek & The Cats – Derek & The Cats
媒体のカラーなのか、例年ロック系が強いこのランキングだが、今年の3位から6位も広義のロックっぽい作品が優勢。
3位のAnkit Dayalはムンバイ出身で、ロックバンドSpud in the Boxのメンバー。
この作品に関してはR&Bと呼んだ方が適切だろうか。Phishのようなジャムバンドやダブの浮遊感も感じさせる不思議なサウンド。
4位のRaman Negiは古式ゆかしいハードロックにウルドゥー語?のヴォーカルが乗る。
5位のGirls On CanvasはムンバイのバンドPentagramなどで活躍するギタリストのRandolph Correiaによるプロジェクトで、この並びのなかでは唯一の電子音楽で、ドラムンベース的だったり、歌ものエレクトロニカ風だったりする音楽性はけっこう実験的だ。
6位のDerek & The Catsはまさかのインスト。
これまでのインドにはなかったタイプの音楽だが、これがSeedhe MautやPrateek Kuhadより上かと言われるとやはり疑問符が頭をよぎる。
7. Ali Saffudin "Wolivo"
1位から7位までを占めたロック系の作品の中でうならされたのはこのカシミール出身のシンガーAli Saffudin.
70年代ロック風の骨太なリフと民謡風の歌い回しの融合はありそうでなかった組み合わせで、2022年らしさこそないものの、かなり独特で、存在感がある。
ちなみに歌詞は弾圧が続くカシミールの現状を反映したものらしく、そういった意味での現代性は十分にあるようだ。
発売元はなんとデリーのヒップホップレーベルAzadi Recordsで、もちろんロックアルバムのリリースはレーベル創設以来初めてのことだ。
13位にランクインしたAhmer同様に、レーベルのカシミール問題に対する関心の高さがうかがえる。
8. DIVINE "Gunehgar"
ようやくここにきてヒップホップのアルバムが顔を出してきた。
軽刈田のトップ10には入れなかったDIVINE.
最近の彼のスタイルに関しては、以前から書いているように必ずしも好意的に見ているわけではないのだが、こうして聴いてみると、トラックは粒揃いだし、インドのストリートの泥臭さを残した彼のラップもやっぱりいいもんだ、と思えてくる。
9. FILM "FILM"
ニューデリーのSanil Sudanによるプロジェクト。
ジャンルでいうと若干エクスペリメンタルなエレクトロニカということになるのだと思うが、この手の音楽性のアーティストが多い中で彼が選ばれた理由は、類型的なアンビエントではないという部分が評価されてのことだろう。
10. Seedhe Maut x Sez on the Beat "Nayaab"
11. Prabh Deep "Bhram"
12. Prateek Kuhad "The Way That Lovers Do"
この辺はブログでも詳しく書いたので繰り返さないが、10位と11位にはデリーのAzadi Records所属のラッパーが続いてランクイン。
音響面でインドのヒップホップを新しくし続けているアーティストたちである。
12位にはインド随一のシンガーソングライターPrateek Kuhadが米エレクトラレコードからリリースした英語アルバムが入った。
13. Ahmer "AZLI"
彼もまたAzadi Records所属のラッパー。
カシミールの社会状況とヒップホップの関わりについては大阪大学の拓徹さんが詳しく、先日オンラインで行われたワークショップでも、Azadi Recordsの紹介のなかで、MC KASHから連なるカシミーリープロテストラップの系譜についても触れられていた。
Azadi Recordsからはこのトップ15に4作品もランクインしていることになる。
14. Rushaki "She Speaks"
ムンバイとプネーを拠点にする女性アーティストによるダークな印象のポップミュージック。
内容は不安との戦いなど、内面的なものだそうだ。
15. The Anirudh Varma Collective "Homecoming"
このランキングで最大の見つけものと言えそうなのが、このThe Anirudh Varma Collective.
デリー出身のピアニストによる古典音楽とコンテンポラリーを融合したいわゆるフュージョンだが、古典部分の腕の確かさと、西洋音楽的な解釈が際立っている(若干ベタなところがあるのはご愛嬌か)。
リズム面のアレンジや楽曲ごとの楽器のセレクトも素晴らしく、心地よさとエキサイティングさが両立している。
自分のような、ふだんからインドの古典音楽に親しんでいるわけではない人間にとっても入りやすい作品。
というわけで15作品を紹介してみました。
同誌が選んだ過去の年間ベスト10と比較してみるのも一興でしょう。
15作品を聴き終えて、ほっとため息をついてRolling Stone IndiaのWebサイトを見てみたら、毎年10曲選出されている年間ベストシングルが今年は22曲もある!
マジかよ…
というわけで次回はたぶんそのネタです。
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アルバム10枚聴くのって結構大変なんだよなー、と思っていたら、今年はなんと15枚!
例年のことながら、いつもチェックしている媒体にもかかわらず、これまでまったく取り上げられていなかったアーティストのアルバムが入っていたりして、今年も何が何だか分かりませんが、今年も良作揃い!
そして、今年は過去最高に自分のセレクトとRolling Stone Indiaのセレクトが重なっていた!
おかげでアルバムを聴く手間も大幅に省けたので、ついでに1枚ずつの紹介はせずに、何枚かまとめてのコメントとさせてもらいます。
1. Bloodywood "Rakshak"
Rolling Stone Indiaでも1位を飾ったのはBloodywoodだった。
バンド名を含めてステレオタイプをネタにしたような彼らがこのRolling Stoneのテイストに合うかどうか心配していたのだが、杞憂だったようだ。
確かにサウンドの個性とヘヴィロックとしてのクオリティはピカイチだし、他のインド出身のバンドがなし得なかったほどに世界的な注目を集めているという点では、納得の1位だ。
2. Parekh & Singh – The Night Is Clear
ブログでも特集した、そして軽刈田選出のTop10にもピックアップしたParekh & Singhがこの位置にランクイン。
1位のBloodywoodとの落差がすごいが、これが今のインドのシーンの多様性と言えるし、両極端を敬遠せずにきちんと取り上げているRolling Stone Indiaを褒めたい。
Parekh & Singhが新作をリリースした年には、必ずこのランキングの上位に食い込んできている印象。
まあ実際それだけ安定したクオリティの作品を作り続けているし、洋楽的洗練を重視するこの媒体が彼らを高く評価するのも頷ける。
今作では、これまであまり重視してこなかったグルーヴを意識したアレンジが見られる。
3. Ankit Dayal – Tropical Snowglobe (Side A)
4. Raman Negi – Shakhsiyat
5. Girls On Canvas – Frequency
6. Derek & The Cats – Derek & The Cats
媒体のカラーなのか、例年ロック系が強いこのランキングだが、今年の3位から6位も広義のロックっぽい作品が優勢。
3位のAnkit Dayalはムンバイ出身で、ロックバンドSpud in the Boxのメンバー。
この作品に関してはR&Bと呼んだ方が適切だろうか。Phishのようなジャムバンドやダブの浮遊感も感じさせる不思議なサウンド。
4位のRaman Negiは古式ゆかしいハードロックにウルドゥー語?のヴォーカルが乗る。
5位のGirls On CanvasはムンバイのバンドPentagramなどで活躍するギタリストのRandolph Correiaによるプロジェクトで、この並びのなかでは唯一の電子音楽で、ドラムンベース的だったり、歌ものエレクトロニカ風だったりする音楽性はけっこう実験的だ。
6位のDerek & The Catsはまさかのインスト。
これまでのインドにはなかったタイプの音楽だが、これがSeedhe MautやPrateek Kuhadより上かと言われるとやはり疑問符が頭をよぎる。
いずれもセンスの良い洋楽的なスタイルの作品だが、これらを「インドのバンドにしては良作」という以上の評価ができるかというと微妙なところ。
佳作であることは間違いないのだが、世界中のアーティストと肩を並べた上で、手放しで傑作と呼べるほどの作品かと問われるなら、答えは厳しいものになりそうだ。
7. Ali Saffudin "Wolivo"
1位から7位までを占めたロック系の作品の中でうならされたのはこのカシミール出身のシンガーAli Saffudin.
70年代ロック風の骨太なリフと民謡風の歌い回しの融合はありそうでなかった組み合わせで、2022年らしさこそないものの、かなり独特で、存在感がある。
ちなみに歌詞は弾圧が続くカシミールの現状を反映したものらしく、そういった意味での現代性は十分にあるようだ。
発売元はなんとデリーのヒップホップレーベルAzadi Recordsで、もちろんロックアルバムのリリースはレーベル創設以来初めてのことだ。
13位にランクインしたAhmer同様に、レーベルのカシミール問題に対する関心の高さがうかがえる。
8. DIVINE "Gunehgar"
ようやくここにきてヒップホップのアルバムが顔を出してきた。
軽刈田のトップ10には入れなかったDIVINE.
最近の彼のスタイルに関しては、以前から書いているように必ずしも好意的に見ているわけではないのだが、こうして聴いてみると、トラックは粒揃いだし、インドのストリートの泥臭さを残した彼のラップもやっぱりいいもんだ、と思えてくる。
9. FILM "FILM"
ニューデリーのSanil Sudanによるプロジェクト。
ジャンルでいうと若干エクスペリメンタルなエレクトロニカということになるのだと思うが、この手の音楽性のアーティストが多い中で彼が選ばれた理由は、類型的なアンビエントではないという部分が評価されてのことだろう。
10. Seedhe Maut x Sez on the Beat "Nayaab"
11. Prabh Deep "Bhram"
12. Prateek Kuhad "The Way That Lovers Do"
この辺はブログでも詳しく書いたので繰り返さないが、10位と11位にはデリーのAzadi Records所属のラッパーが続いてランクイン。
音響面でインドのヒップホップを新しくし続けているアーティストたちである。
12位にはインド随一のシンガーソングライターPrateek Kuhadが米エレクトラレコードからリリースした英語アルバムが入った。
13. Ahmer "AZLI"
彼もまたAzadi Records所属のラッパー。
カシミールの社会状況とヒップホップの関わりについては大阪大学の拓徹さんが詳しく、先日オンラインで行われたワークショップでも、Azadi Recordsの紹介のなかで、MC KASHから連なるカシミーリープロテストラップの系譜についても触れられていた。
Azadi Recordsからはこのトップ15に4作品もランクインしていることになる。
14. Rushaki "She Speaks"
ムンバイとプネーを拠点にする女性アーティストによるダークな印象のポップミュージック。
内容は不安との戦いなど、内面的なものだそうだ。
15. The Anirudh Varma Collective "Homecoming"
このランキングで最大の見つけものと言えそうなのが、このThe Anirudh Varma Collective.
デリー出身のピアニストによる古典音楽とコンテンポラリーを融合したいわゆるフュージョンだが、古典部分の腕の確かさと、西洋音楽的な解釈が際立っている(若干ベタなところがあるのはご愛嬌か)。
リズム面のアレンジや楽曲ごとの楽器のセレクトも素晴らしく、心地よさとエキサイティングさが両立している。
自分のような、ふだんからインドの古典音楽に親しんでいるわけではない人間にとっても入りやすい作品。
というわけで15作品を紹介してみました。
同誌が選んだ過去の年間ベスト10と比較してみるのも一興でしょう。
15作品を聴き終えて、ほっとため息をついてRolling Stone IndiaのWebサイトを見てみたら、毎年10曲選出されている年間ベストシングルが今年は22曲もある!
マジかよ…
というわけで次回はたぶんそのネタです。
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