2018年03月17日
インド古典音楽とラップ!インドのラップのもうひとつのルーツ
以前、Raja Kumariについて書いた記事の最後で、インドの伝統的なリズムに言葉を乗せることでラップになる!という彼女の大発見を紹介した。
ここ数年、ラップの人気が非常に高まってきているインドだが、インドとラップの関係というのは、米国由来のヒップホップ側からの一方的な影響だけではなく、彼女が発見したようにインドの伝統側からのアプローチというのもあって、そのぶつかったところで音楽的に面白いことになっている、というのが今日のお話でございます。
まずはそのRaja Kumariのインタビュー映像をもっかい見てみましょう。
注目は1:20頃から。
幼い頃から習ってきた伝統的なインドのリズムに英語を乗せることで、(他のどこにもない)ラップになる!というとてもエキサイティングな話。
インド系アメリカ人である彼女はカリフォルニアでインド古典のリズムとラップの共通性を発見したわけだけど、同じようなことをインド国内で発見した人たちもいる。
まずはパーカッショニストのViveick RajagopalanがヒップホップユニットのSwadesiと共演した"Ta Dhom"!
このViveik RajagopalanとSwadesiはインド伝統のリズムとラップを融合するプロジェクトをやっていて、この曲の、Viveickが口でリズムを刻むところにラッパーが言葉を重ねてくるというアプローチは、Raja Kumariと全く同じ。
期せずして同じ「発見」がインド国内でも起きていたということになる。
続いてお聴きいただくのは、古典パーカッショニストのMayur Narvekarと、Nucleya名義での活動で有名なトラックメイカーUdyan SagarによるユニットであるBandish Projektが、MC MawaliとMC Tod Fodという二人のラッパーをフィーチャーして発表したKar Natakという曲。
ビデオ自体はストリート&社会派色の強い非常にヒップホップ的なものだが、ラップのフロウそのものはヒップホップというよりも全体的にインドのリズムっぽくなっていて、2:40あたりから例の口リズムが始まる!
MC MawaliとMC Tod Fodはその前のビデオで紹介したSwadesiの一員。
Swadesiという名前は、かのマハートマー・ガーンディーが独立運動の中で提唱した「英国製のものではなく国産品を愛用しよう」っていうスワデシ運動(Swadeshi)と、インド系の移民等を表すときに使われる言葉"desi"をかけたネーミングで、"desi"という言葉はヒップホップの世界ではインド系ヒップホップを表す"Desi Hip hop"という用語でよく使われる。
"Desi Hip Hop"はかつては英国や米国在住のインド系アーティストによるヒップホップを指していたが、最近ではインド国内のラッパーもこの言葉の範疇に含めることが多いようだ。
彼らの"Swadesi"って、こういう音楽をやるにはこれ以上ないほどぴったりのネーミングじゃないかと思う。
続いて、これもViveick Rajagopalanが関わっているライブ。
ドラムスと打ち込みとインドのパーカッションのムリガンダムによるリズムに、古典声楽のヴォーカルとラップが乗っかっている。
3分過ぎからは例のスキャット的な口リズムが、テクノ系の音楽のヴォコーダーがかかったサウンドのようなニュアンスで入ってきて、ここまで来ると、もうどこまでがインド音楽で、どこからが西洋音楽なのかが完全に分からなくなってくる。
さて、それじゃあ、こんなふうにいろんなアプローチがされている「インド風ラップ」のもとになったインド音楽の伝統的な部分っていうのはどんなものなんだろうか。
古典音楽の知識は全然無いのだけど、知る限りでいくつか紹介してみたいと思います。
まずフィラデルフィアのインド系アメリカ人Jomy Georgeさんという人がやっていることに注目。
この、口でリズムを表現したあとにタブラで同じリズムを叩くという方法。これはじつは伝統的なタブラの教え方でもある。
タブラの音は「タ」とか「ダ」とか「ナ」とか、全て音で表されるようになっていて、口で表現したリズムをそのまま叩くというのは、まさに伝統的なタブラのレッスン方法。
インド古典音楽のコンサートでも、タブラ奏者のソロパートで「口でリズムを言って、その通り叩く」というパフォーマンスがよく行われる。
これはタブラ界の大御所中の大御所、Zakir Hussainが若い頃に父のAlla Rakhaと共演したライブ映像で、1:05くらいから始まるリズム対決に注目!
父が自分の叩くリズムを口で表現した後に、息子が同じく自分のリズムを口で表現、次に一緒に叩くリズムを一緒に口で表して、実際にその通りに叩くというセッションが続く。
これはまるで意味から解放されたリズムとフロウのみのフリースタイルバトルのよう!
これとは別に、南インドには伝統的なスキャットのような歌唱法、Konnakolというのもあって、これがまた凄い。
もうスキャットマン・ジョンも裸足で逃げ出す驚愕のスキャット!
凄いのは分かるけど、他の楽器でも一般的な歌い方でもなく、彼らはなぜこれをひたすら練習して極めようと思ったのか、もう何が何だか分からない。
何が言いたいかというと、インドでは昔からこんなふうに、ポリリズムが入ったような複雑なリズムを口で表すという伝統があったということで、これがこの時代になって、ラップと融合するのはもう当然というか必然なんじゃないでしょうか、っていうこと。
さらにはインドの伝統の中には韻文形式の詩や経文、それに音楽をつけた宗教歌もあるわけで、インドで短期間のうちにラップがこれだけ受け入れられるようになっている深層には、こうした伝統文化の影響というものも少なからずあるのではないかな、というのがなかば妄想を交えたアタクシの考えってわけです。
そういえば、以前紹介したBrodha Vの"Aigiri Nandini"もヒンドゥーの賛歌とラップの融合だった。
この曲のYoutubeの動画のトップのコメントにはこんなことが書かれている。
"you all gotta accept one thing, all the ancient Slokas were like rap music. So technically we bharatiyas invented rap music :)."
「みんなが受け入れなきゃいけないことが一つある。古いシュローカ(8音節×4行で表される韻文詩)ってみんなラップミュージックみたいだ。だから、技術的には俺たちインド人がラップを発明したってことになるのさ。」
ちなみにインドの楽器、タブラとラップの融合を試みている人たちは日本にもいて、例えばこんな楽曲がある。
U-ZhaanとKAKATO(環ROY & 鎮座DOPENESS)のTabla'n'Rapという曲。
これはこれで、タブラを使いながらもインド風味ではなく日本のセンスでかっこよく仕上がっているんじゃないでしょうか。
それでは今日はこのへんで!
ここ数年、ラップの人気が非常に高まってきているインドだが、インドとラップの関係というのは、米国由来のヒップホップ側からの一方的な影響だけではなく、彼女が発見したようにインドの伝統側からのアプローチというのもあって、そのぶつかったところで音楽的に面白いことになっている、というのが今日のお話でございます。
まずはそのRaja Kumariのインタビュー映像をもっかい見てみましょう。
注目は1:20頃から。
幼い頃から習ってきた伝統的なインドのリズムに英語を乗せることで、(他のどこにもない)ラップになる!というとてもエキサイティングな話。
インド系アメリカ人である彼女はカリフォルニアでインド古典のリズムとラップの共通性を発見したわけだけど、同じようなことをインド国内で発見した人たちもいる。
まずはパーカッショニストのViveick RajagopalanがヒップホップユニットのSwadesiと共演した"Ta Dhom"!
このViveik RajagopalanとSwadesiはインド伝統のリズムとラップを融合するプロジェクトをやっていて、この曲の、Viveickが口でリズムを刻むところにラッパーが言葉を重ねてくるというアプローチは、Raja Kumariと全く同じ。
期せずして同じ「発見」がインド国内でも起きていたということになる。
続いてお聴きいただくのは、古典パーカッショニストのMayur Narvekarと、Nucleya名義での活動で有名なトラックメイカーUdyan SagarによるユニットであるBandish Projektが、MC MawaliとMC Tod Fodという二人のラッパーをフィーチャーして発表したKar Natakという曲。
ビデオ自体はストリート&社会派色の強い非常にヒップホップ的なものだが、ラップのフロウそのものはヒップホップというよりも全体的にインドのリズムっぽくなっていて、2:40あたりから例の口リズムが始まる!
MC MawaliとMC Tod Fodはその前のビデオで紹介したSwadesiの一員。
Swadesiという名前は、かのマハートマー・ガーンディーが独立運動の中で提唱した「英国製のものではなく国産品を愛用しよう」っていうスワデシ運動(Swadeshi)と、インド系の移民等を表すときに使われる言葉"desi"をかけたネーミングで、"desi"という言葉はヒップホップの世界ではインド系ヒップホップを表す"Desi Hip hop"という用語でよく使われる。
"Desi Hip Hop"はかつては英国や米国在住のインド系アーティストによるヒップホップを指していたが、最近ではインド国内のラッパーもこの言葉の範疇に含めることが多いようだ。
彼らの"Swadesi"って、こういう音楽をやるにはこれ以上ないほどぴったりのネーミングじゃないかと思う。
続いて、これもViveick Rajagopalanが関わっているライブ。
ドラムスと打ち込みとインドのパーカッションのムリガンダムによるリズムに、古典声楽のヴォーカルとラップが乗っかっている。
3分過ぎからは例のスキャット的な口リズムが、テクノ系の音楽のヴォコーダーがかかったサウンドのようなニュアンスで入ってきて、ここまで来ると、もうどこまでがインド音楽で、どこからが西洋音楽なのかが完全に分からなくなってくる。
さて、それじゃあ、こんなふうにいろんなアプローチがされている「インド風ラップ」のもとになったインド音楽の伝統的な部分っていうのはどんなものなんだろうか。
古典音楽の知識は全然無いのだけど、知る限りでいくつか紹介してみたいと思います。
まずフィラデルフィアのインド系アメリカ人Jomy Georgeさんという人がやっていることに注目。
この、口でリズムを表現したあとにタブラで同じリズムを叩くという方法。これはじつは伝統的なタブラの教え方でもある。
タブラの音は「タ」とか「ダ」とか「ナ」とか、全て音で表されるようになっていて、口で表現したリズムをそのまま叩くというのは、まさに伝統的なタブラのレッスン方法。
インド古典音楽のコンサートでも、タブラ奏者のソロパートで「口でリズムを言って、その通り叩く」というパフォーマンスがよく行われる。
これはタブラ界の大御所中の大御所、Zakir Hussainが若い頃に父のAlla Rakhaと共演したライブ映像で、1:05くらいから始まるリズム対決に注目!
父が自分の叩くリズムを口で表現した後に、息子が同じく自分のリズムを口で表現、次に一緒に叩くリズムを一緒に口で表して、実際にその通りに叩くというセッションが続く。
これはまるで意味から解放されたリズムとフロウのみのフリースタイルバトルのよう!
これとは別に、南インドには伝統的なスキャットのような歌唱法、Konnakolというのもあって、これがまた凄い。
もうスキャットマン・ジョンも裸足で逃げ出す驚愕のスキャット!
凄いのは分かるけど、他の楽器でも一般的な歌い方でもなく、彼らはなぜこれをひたすら練習して極めようと思ったのか、もう何が何だか分からない。
何が言いたいかというと、インドでは昔からこんなふうに、ポリリズムが入ったような複雑なリズムを口で表すという伝統があったということで、これがこの時代になって、ラップと融合するのはもう当然というか必然なんじゃないでしょうか、っていうこと。
さらにはインドの伝統の中には韻文形式の詩や経文、それに音楽をつけた宗教歌もあるわけで、インドで短期間のうちにラップがこれだけ受け入れられるようになっている深層には、こうした伝統文化の影響というものも少なからずあるのではないかな、というのがなかば妄想を交えたアタクシの考えってわけです。
そういえば、以前紹介したBrodha Vの"Aigiri Nandini"もヒンドゥーの賛歌とラップの融合だった。
この曲のYoutubeの動画のトップのコメントにはこんなことが書かれている。
"you all gotta accept one thing, all the ancient Slokas were like rap music. So technically we bharatiyas invented rap music :)."
「みんなが受け入れなきゃいけないことが一つある。古いシュローカ(8音節×4行で表される韻文詩)ってみんなラップミュージックみたいだ。だから、技術的には俺たちインド人がラップを発明したってことになるのさ。」
ちなみにインドの楽器、タブラとラップの融合を試みている人たちは日本にもいて、例えばこんな楽曲がある。
U-ZhaanとKAKATO(環ROY & 鎮座DOPENESS)のTabla'n'Rapという曲。
これはこれで、タブラを使いながらもインド風味ではなく日本のセンスでかっこよく仕上がっているんじゃないでしょうか。
それでは今日はこのへんで!