2018年02月02日
トリプラ州の"コンシャス"ラッパー Borkung Hrankhawl その2
前回、EDM/ロック的なトラックにポジティブ言葉を乗せてラップするBorkung Hrankhawlの音楽と彼の故郷トリプラ州について書いたので、今回はBorkungその人に迫ってみたいと思います。
そう、わざわざ2回に分けて書くってことは、これは相当面白い(とアタクシが勝手に思ってる)ってことでございます。
さて、Borkung Hrankhawl.
彼はトリプラ民族主義を掲げる政党”Indigenous Nationalist Party of Twipra”(トリプラ先住民民族主義党)の党首、Bijoy Kumar Hrangkhawlの一人息子として生まれた。父はトリプラ人の権利のための武力闘争を経て政治家になった人物で、Borkungにも大きな影響を与えた。
2つのサイト(HindusthanTimes, FirstPost)のインタビューから、Borukungの半生と音楽観、人生観を見てみよう。
彼のラップ同様、インタビューで語る言葉も熱くストレートだ。
「クラブや酒や女性についてラップするのは好みじゃない。ラップは神様からの贈り物なんだ。僕はラップを使って世の中をより良くしたい」
トリプラ先住民のために尽力する父を見て育った彼は、ラップを通してトリプラ人のことや彼らをとりまく環境を伝えたいという意識を持っている。
「トリプラの人々は人口が少ないせいで無視されてきた。僕たちはトリプラ人としての権利が得たいんだ。暴力や、人間性を脅かすようなことを煽るんじゃなく、僕はただ、平等と平和を広めたいんだ」
ここでは「トリプラの人々」と訳したけど、彼はTribal people in Tripuraという言葉を使っている。
インドでTribalという言葉は、一般的にはインドの主な宗教や文化とは別の伝統のもとに暮らす先住民族や少数民族のことを表している。
そして、彼らの多くは今なお被差別的・後進的な生活を強いられている。
前回も触れたように、都市部で差別的な扱いを受け、ときに命を落とす北東部出身者も後を絶たない。
Borkungもまた、学生時代にデリーでネパール人と間違えられて強盗にあった経験があると語る。
北東部出身の人間がデリーで暮らすうえで、このような危険は常にあるという。
多くの北東部の州で、ときにテロリズムにまで及ぶ独立運動が行われているのには、こうした背景がある。
だが、暴力ではなく平和を訴える彼は、こうした差別や無理解に対してこう語る。
「僕たちはみんな同じインド人だ。僕はこのギャップを埋める架け橋が必要だと感じたんだ。彼ら(大多数のインド人)は僕たちの文化を知らないだけで、他の点では彼らはいい人たちなんだよ」
彼のデビュー曲の名は”The Roots”。
より直接的に差別反対とトリプラ人の権利を主張し、自身のルーツを誇る楽曲だ。
いくつかの印象的なリリックを書き出してみる。
(しかも調子に乗って途中まで訳でも韻を踏んでみた)
I ain’t no politician though I’m vicious 俺は凶暴だけど政治家じゃない
Never worshipped on a path of a wrath 怒りへの道を崇めたりしない
I’m from Tripura you fakers 俺はトリプラ生まれだ イカサマ師たち
That’s the first thing you ought know これは最初に覚えとけお前たち
I did grow from Dhalai district and I need no passport インドに来るのにパスポートはいらない ダライ地区育ち
TNV and INPT could be the last soul TNVとINPTが最期の魂
(TNV,INPTは彼の父が率いていた武装組織と政党の名前)
How can you feed the poor when you bribe what has been reissued? 与えられたものを賄賂にしてしまうならどうやって貧しい人たちを食わせる?
All the rights given to us were misused 俺たちに与えられた権利はすべて悪用されてる
'Cause we the indigenous people have been spoofed out of our own land 俺たち先住民は自分たちの土地を追い出されてる
Though we minority, we hold hands マイノリティーでも手を携える
You ain't a component to extinct our clan 我々一族を絶やすことはできない
We fight till accomplishment 俺たちは成し遂げるまで戦う
I gotta give it, a salute to my roots yo. I gotta lift it up and never loose my roots yo.
さあ、俺は自分のルーツを讃える、絶対にルーツを失ったりしない
さらにメッセージ色の強いこのフリースタイルも非常に印象的だ。
ライムになっているだけでなく、全体が起承転結のある素晴らしいメッセージになっている全文はYoutubeの「もっと見る」から読むことができるので、ぜひチェックしてほしい。
ちなみに最後に出てくるRichard Loitam、Danna Sangma、Reingamphi Awungshi、Nido Taniaの4人は、いずれもデリーやバンガロールといった大都市で死に追いやられ、満足な捜査さえも行われなかった北東部出身の学生の名前だ。
リアルでストレートな表現と主張。あまり軽薄な言葉は使いたくないが、ものすごくかっこいい。
本物の表現者だなって感じる。
小さい頃からラップに夢中だった彼は、ライムしながらメッセージを伝えることが何よりも好きだったようだ。
ラッパーとしては、EminemやFat Joe、Fort Minorに大きな影響を受けたという。
極めてシリアスな表現者でありながら、ポップな曲への参加にも抵抗がないようで、意外なところではデリーの城みちるみたいなポップシンガーの曲にゲスト参加していたりもする。
インタビューで今後の目標を聴かれた彼は、グラミー賞を取ることだと答えた。
「僕は仲間を代表して、インドを代表してグラミーを勝ち取ってこう言いたいんだ。僕はトリプラ人だ。僕はインド人だと。自分がどこから来たのかを、自分のストーリーを伝えたいんだ」
こう言ってはなんだけど、ポップミュージックの辺境インドの中のさらに辺境の北東部のインディーズアーティストが、こんな大きな夢とメッセージを持っているということに、なんというか、またしてもぐっと来てしまった。
こないだのデスメタルバンドのTanaもそうだけど、インド北東部の人、ちょっとぐっと来させすぎじゃないか。
「インドのメインランド(主流文化地域)の友達もたくさんいるよ。彼らはみんないい人たちで親切だ。そうじゃないごく一部の人は、北東部のことを知らないだけなんだと思う。一度人間として受け入れられれば、優しい心の人たちがたくさんいる。僕が言いたいのは、必要なのは親密さを増すことだってこと。北東部とメインランドの親密さを育んでいく責任が僕らにはあるんだ」
人間性への揺るぎない信頼。それこそが彼のポジティブさの根底にある信念なのだろう。
彼はトリプラの人々だけでなく、インド全体の人々にメッセージが届けられるように、英語やヒンディーでラップすることを選んでいるというが、彼の表現の普遍性は、インド北東部や国境を越えて心に響くものがあるように感じる。大げさに言えば、ボブ・マーリーのように。
過酷な環境にも折れないポジティブさは、いつだって音楽を音楽以上のものにしてくれる。