2024年08月15日
インドのヒップホップが世界に知られる日が来たのか? "Big Dawgs"大ヒット中のHanumankindを紹介!
まさかの事態が起きている。
Def Jam India所属のラッパーHanumankindが7月9日にリリースしたシングル"Big Dawgs"が、SpotifyやApple Musicなどの大手サブスクのグローバルチャートで軒並みTop20に入る世界的にヒットを記録しているのだ。
Hanumankind "Big Dawgs" ft. Kalmi
この曲がリリースされてすぐに、私もその異様なかっこよさにシビれて「そろそろインドのラップは世界で聴かれるべき」とツイートしたのだが、まさか本当にこんなビッグヒットになるとは思わなかった。
やばいなー!
— 軽刈田 凡平 (@Calcutta_Bombay) July 10, 2024
その名もHanumankind、インドの英語ラップはそろそろ世界で聴かれるべき。
頭蓋骨を内側から引っ掻くようなビート、インドらしさとヤバさを両立させたMV、冒頭の老人の肖像はヨギ・シンが写真を見せてくることもある初代サイババ。見どころ聴きどころ多すぎる!https://t.co/OxYdnWcnOb
"Big Dawg"は8月14日現在、SpotifyのグローバルTop50で7位にランクインしている。
インド人は人口が多いので、インドでだけ盛り上がっているのが数の論理でチャート上位に食い込んでいるだけなんじゃないのか、と思う人もいるかもしれないが、この曲はUSトップ50でも現在13位。
本物の世界的バイラルを巻き起こしているのだ。
HanumankindことSooraj Cherukatはインド最南部の西側、ケーララ州にルーツを持つ両親のもとに生まれた。
幼い頃に父の仕事の都合で米国に引っ越し、20歳までをテキサス州で過ごしたのち、帰国してタミルナードゥ州の大学に入学。
ゴールドマン・サックスでインターンシップを経験するなど、エリートのキャリアを歩んでいたようだが、その後ITシティとして有名なベンガルールを拠点にラッパーとしての本格的な活動を始めた。
ベンガルールのシーンにはBrodha VやSmokey the Ghost, SIRIなど他にも英語でラップするラッパーが多く、英語でラップするHanumankindにとっても好都合だったのかもしれない。
彼のような帰国子女アーティストはインドのインディーズシーンでたびたび見かけることがある。
とくにインターネットが普及する以前、彼らは海外の最新のサウンドをインド国内に紹介する役割を担っていた。
メインストリームの映画産業を含めて、サウンドに関しては欧米の流行への目配りが効いているインドの音楽シーンだが、いっぽうで歌詞については保守的で、英語の曲がヒットすることは稀だ。
日本のヒット曲が日本語のポップスばかりなのと同様に、インドでも売れるのは地元言語の曲ばかり。
もっぱら英語でラップするHanumankindは、DIVINEやEmiway Bantaiのようなヒンディー語でラップして数千万から数億回の再生回数を叩き出すラッパーと比べると、コアなヒップホップファンに支えられた通好みなラッパーという印象だった。
つまり、「英語でラップする」という彼の(本場っぽく聞こえると言う意味では)強みでもあり、(地元をレペゼンする音楽として受け入れられにくいという)弱みでもある点は、国内でのセールスという点では圧倒的不利に働いていたのだ。
それが、ここにきて世界的マーケットでのまさかの大逆転というわけである。
"Big Dawgs"の印象的なビートはKalmiによるプロデュース。
Kalmiはアーンドラ・プラデーシュ州の海辺の街ヴィシャーカパトナム出身で、現在はテランガナ州のハイデラーバードを拠点に活動している。
いろんな地名が出てきて分かりづらいと思うが、Hanumankindの生まれ故郷ケーララやタミルナードゥ、活動拠点のベンガルールを含めて、ここまで出てきた地名は全て南インドだということだけ覚えてもらえればOKだ。
インドという国は、人口規模や経済規模から、ムンバイやデリーといった北インドの文化・人々が幅を利かせている傾向があるのだが、サウスの人々は総じてそうした状況への反発心が強く、自分たちの文化に誇りを持っている。
"Big Dawgs"のリリックに'The Southern Family gon' carry me to way beyond'というラインがあるが、これは彼が育ったアメリカ南部のことではなく、南インドのことを言っているのである(ダブルミーニングかもしれない)。
まあともかく、同じサウス仲間のKalmiはこれまでもHanumankindと何度も共演していて、この"Rush Hour"のブルースっぽいビートなんて、かなりかっこいい。
Hanumankind "Rush Hour" (Prod. By Kalmi)
この曲のリリックにはWWEの名レスラー、ミック・フォーリーの名前が出てくる。
HanumankindというMCネームは、猿の姿をしたヒンドゥー教の神ハヌマーンとMankind(人類)という英単語を合わせたものだが、マンカインドはミック・フォーリーの別名(別キャラクターとしてのリングネーム)でもあり、おそらく彼が意図したのはこのリングネームのほうだろう。
インドでは総じてプロレス(というかアメリカのWWE)の人気が高い。
だいぶ前にインドでのプロレス人気について記事を書いているので、興味のある方はこちらをどうぞ。(この記事に書いたインドのプロレス団体Ring Ka Kingはその後あえなく消滅)
また話がそれた。
このKalmi、8ビットっぽいサウンドの曲をリリースしていたり、Karan KanchanとJ-Trapの曲でコラボしていたりと、ヒップホップのビートメーカーだけがやりたいタイプではなくて、どちらかというとエレクトロニック畑のアーティストらしい。
Karan Kanchan然り、こうした出自のアーティストがヒップホップのビートを数多く手掛けているところが、インドのヒップホップをビートの面から見た時の面白さと言えるかもしれない。
せっかくなのでHanumankindの他の曲もいくつか紹介してみる。
個人的に非常に好きなのが、タイトルからして最高なこの曲。
Hanumankind x Primal Shais "Beer and Biriyani"
ヘヴィなビートに合わせて、「ビールとビリヤニは最高」というリリック、そしてただビールを飲んでビリヤニを食べるだけのミュージックビデオ、本当に最高じゃないか。
(ちなみに彼が食べているのは故郷のケーララ風のビリヤニ)
この曲をプロデュースしているPrimal Shaisもサウスのケーララ出身。
彼もまたHanumankindとよくコラボレーションしていて、KalmiとともにHanumankindのシグネチャースタイルともいえるミドルテンポのヘヴィなビートを作り上げた一人である。
Hanumankind "Go To Sleep" ft. Primal Shais
HanumankindとPrimal ShaisはベンガルールでのBoiler Roomセッションもやっていて、こちらもかなりかっこいいので、興味がある方はこちらのリンクからぜひどうぞ。
Boiler Roomパフォーマンスを見る限り、Primal Shaisもヒップホップのビートメーカーというよりはエレクトロニックをルーツとして持つプロデューサーのようだ。
HanumankindはBoilerroomでも「南インド最高!」みたいなMCを繰り返していて、やっぱりサウス独特のプライドというかレペゼン意識があるんだなあと再認識。
こちらはまた別の曲。
Hanumankind "Skyline"
彼には珍しいメロウなビートに乗せたラップもなかなかかっこいい。
ところで、Hanumankindのことを最初に知ったのは6年前のこのミュージックビデオだった。
若き日のHanumankindがスーパーマリオの曲に合わせてラップしている。
この曲を見つけた時は、ビートルズのTシャツを着たちょっとナードな雰囲気のラッパーがこんなに変わるとは思わなかった。
このスーパーマリオラップもキュートで最高だけどね。
Hanumankindをきっかけにインドのラッパーが世界で聴かれる時代が来るのか?
国籍の壁の次に、言語の壁が破られる時代は来るのか?
インドだけじゃない、世界の音楽シーンもどんどん面白くなっている。
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この記事へのコメント
1. Posted by 情報古い 2024年08月25日 10:02

まさかの事態が起きている??????
ちゃんと世界の音楽チャート追っていますか?
インドのラップがグローバルチャートに入ることなんて最近珍しくありません。
それに映画の曲自体が最近ヒップホップになっていてそれが上位に常にランクインしている状態です。
世界がインドのラップを聴いていることなどかなり前からの話ですしアメリカではインドのヒップホップ(だけに限らず)アーティストのライブが毎週のように行われています。
全体的に感覚と情報が古いです。
KDivaに気づいたのもかなり古かったです。
TwitterでKDivaについて触れていましたが、その1年以上前から記事化されています。何の番組か忘れましたがラジオ番組でも紹介されていました。
2. Posted by 軽刈田 凡平 2024年08月28日 01:13
おっしゃる通りだな、というところと、ちょっと違うかな、というところがありますね。
インドのラップがグローバルチャートに入ることに関しては、インド人または在外インド系の人たちが主なリスナーなのか、それともそれ以外の層にも聴かれているのかという点がポイントかなと思っています(本文にも触れた通りです)。
Hanumankindは明らかに後者なので、この点は特筆すべきだろうというのが私の視点です。
(在外南アジア系アーティストでルーツに関係ない音楽性で活動している人はまた別の話)
インド映画の曲にラップが多いことはもちろん存じ上げています。私の興味は映画のために作られた音楽ではなく、もっとインディーズ的な様式の音楽なので、ふだんとくに触れておりませんが。(映画に関しては詳しい方がごまんといるので、誰か他に適切な紹介者の人がいるだろうなと思っています)
インディーズ系のアーティストがとくに配信系の映画にかなり進出していることには注目していて、あとタミルあたりだとインディーズ系のラッパーと映画音楽の垣根もほぼなかったりするのも面白いなと感じています。
インドのアーティストのライブが欧米・オセアニアの英語圏やドバイあたりで多いことも把握していますが、現地で見ていないので推測ではあるものの、オーディエンスは南アジア系が多いという印象です。
たとえばバラク・オバマがお気に入りに挙げたPrateek Kuhadのようなアーティストでも、現地のライブ映像を見るとそういった傾向が強いようです。
Sidhuあたりは知名度はありそうですが、いわゆるグローバルな人気と言えるかは、ちょっと疑問視しています。
インドのラップがグローバルチャートに入ることに関しては、インド人または在外インド系の人たちが主なリスナーなのか、それともそれ以外の層にも聴かれているのかという点がポイントかなと思っています(本文にも触れた通りです)。
Hanumankindは明らかに後者なので、この点は特筆すべきだろうというのが私の視点です。
(在外南アジア系アーティストでルーツに関係ない音楽性で活動している人はまた別の話)
インド映画の曲にラップが多いことはもちろん存じ上げています。私の興味は映画のために作られた音楽ではなく、もっとインディーズ的な様式の音楽なので、ふだんとくに触れておりませんが。(映画に関しては詳しい方がごまんといるので、誰か他に適切な紹介者の人がいるだろうなと思っています)
インディーズ系のアーティストがとくに配信系の映画にかなり進出していることには注目していて、あとタミルあたりだとインディーズ系のラッパーと映画音楽の垣根もほぼなかったりするのも面白いなと感じています。
インドのアーティストのライブが欧米・オセアニアの英語圏やドバイあたりで多いことも把握していますが、現地で見ていないので推測ではあるものの、オーディエンスは南アジア系が多いという印象です。
たとえばバラク・オバマがお気に入りに挙げたPrateek Kuhadのようなアーティストでも、現地のライブ映像を見るとそういった傾向が強いようです。
Sidhuあたりは知名度はありそうですが、いわゆるグローバルな人気と言えるかは、ちょっと疑問視しています。
3. Posted by 軽刈田 凡平 2024年08月28日 01:16
(続き)
感覚が古いことはお察しの通りで、もちろん自覚してますよ。
新しい切り口の感覚で紹介してくれる人がいたらいいなとも思っています。
KDiva然り、気づくのがかなり遅くなることがあることもその通りです。
ご存知の通りインドは広く、インド中の音楽を常にリアルタイムでチェックできているのかといえば、全くできていないですし。
「軽刈田凡平」がいわゆる本業ではないので、どうしても時間的制約もあるので。
私がツイートしたりどこかに書いた時点でどなたかが紹介していることもあると思います。
そのことに気づいていれば触れたいですが、存じ上げなかった場合はすみません。
私が取り上げたアーティストをあとから別の方が知らずに「こんな人見つけた」と思って紹介することもあるでしょうし、十分に知られていない人であれば、いろんな方がいろんな切り口でどんどん紹介すれば良いんじゃないかな、というのが私の考えです。
「自覚的なパクり」みたいなことはもちろんしませんが。
前述の通り感覚の古さは分かっているので、インドの音楽を新しい感覚で見ていらっしゃる方ならとても興味あります。
お名前教えていただければ、SNS等フォローして勉強させてください。
(すでにフォローしているかもしれませんが、情報処理能力の関係でミュートにさせてもらっていることもあるかもしれないのでその場合はご容赦を。ご一報いただければ幸いです)
感覚が古いことはお察しの通りで、もちろん自覚してますよ。
新しい切り口の感覚で紹介してくれる人がいたらいいなとも思っています。
KDiva然り、気づくのがかなり遅くなることがあることもその通りです。
ご存知の通りインドは広く、インド中の音楽を常にリアルタイムでチェックできているのかといえば、全くできていないですし。
「軽刈田凡平」がいわゆる本業ではないので、どうしても時間的制約もあるので。
私がツイートしたりどこかに書いた時点でどなたかが紹介していることもあると思います。
そのことに気づいていれば触れたいですが、存じ上げなかった場合はすみません。
私が取り上げたアーティストをあとから別の方が知らずに「こんな人見つけた」と思って紹介することもあるでしょうし、十分に知られていない人であれば、いろんな方がいろんな切り口でどんどん紹介すれば良いんじゃないかな、というのが私の考えです。
「自覚的なパクり」みたいなことはもちろんしませんが。
前述の通り感覚の古さは分かっているので、インドの音楽を新しい感覚で見ていらっしゃる方ならとても興味あります。
お名前教えていただければ、SNS等フォローして勉強させてください。
(すでにフォローしているかもしれませんが、情報処理能力の関係でミュートにさせてもらっていることもあるかもしれないのでその場合はご容赦を。ご一報いただければ幸いです)