2024年02月20日
インド農村部で突如発生したヒンドゥー・ハードコア・テクノとDJ Competitionという謎カルチャー
インドでは都市部の若者を中心にEDMなどのダンスミュージックの人気が高く、ゴアでは毎年、アジア最大とも世界で3番目の規模とも言われるSunburn Festivalというフェスが行われている。
かつてはヒッピー系の外国人ツーリストたちによるレイヴパーティーのメッカだったゴアは、今ではインドの若者が集まる大規模フェスの街になった。
日本ではあまり知られていないインドの一面だが、インド人たちは総じて踊ることが大好きなので、ここ数十年の経済成長やグローバリゼーションを考えれば、この変化は当然と言えるだろう。
Sunburn Festivalの原型は、もちろん欧米発祥のUltraやTomorrowlandのようなフェスなわけで、結局インドの音楽シーンはミドルクラス趣味の欧米の模倣に収斂していくのかと思うとつまらない気もするのだが、インドはそんなに単純ではない。
楽園ゴアを離れて、農業を主産業とする北インドの後進地域に目を向けると、そこでは伝統音楽とハードコアテクノを悪魔合体させたような音楽が生まれ、流行しているようなのである。
以前『燃えあがる女性記者たち』について書いたときの繰り返しになってしまうのだが、こうしたジャンルに気づいたのはじつは結構前で、2021年11月28日に行われたSOI48のパーティーにオンライン出演したDJ Tapas MTを見た時だった。
DJ Tapas MTは西ベンガル州の小さな街プルリア(Purulia)出身の超ローカルなDJだ。(どうやって探してきたのか本当に謎)
この頃はまだコロナ禍の真っ最中で、パーティーはネットで同時配信されていた。
その日は進行がかなり押していたのだが、そのことを知らないインドのファンたちが「Tapas MTを早く出せ」というコメントを大量に書き込んでいて、途中から配信のコメント欄は異様な雰囲気になっていた。
それも、「早く出演させろ」というセンテンスを投稿するのではなく、ひたすら「DJ Tapas MT」と名前だけが打ち込まれていくのが不気味で、しまいには「このイベントはDJ Tapas MTの名前を騙った詐欺イベントだ」と書きこむ人まで出てくる始末。
インドの片田舎のローカルDJが、日本でそんな集客力あるわけがないのに、彼らは「オラが村のTapas MTは日本でも人気者に決まってる」と思っていたのだろう。
インドの田舎には、面白いシーンがあるのだなあと思ったものだが、ネット上で調べても、こうしたジャンルを扱った記事はまったくヒットしない。
ただ、YouTube上にはそれなりの数の動画が上げられていて、またパーティー(というか祭)の様子を見る限り、相当盛り上がっているようである。
インドの田舎で、いったい何が起きているのだろうか。
Tapas MTがYouTubeに挙げている動画の一例を紹介してみる。
Jai Bholenath Competition Dj Sarzen 2024
DJ SarzenというのはTapas MTが所属しているDJクルーの名前らしい。
Jai Bolenathというのはシヴァ神を讃える言葉だが、その後にCompetitionとあるのは、この地域では、レゲエのサウンドクラッシュみたいにDJ同士がプレイで対決するというカルチャーがあるようで、そのための音源ということのようだ。
調べた限りでは、このDJコンペティションは、ウッタル・プラデーシュ州からジャールカンド、ビハール、オディシャ、西ベンガル州西部あたり(つまりインド北部から東側にかけて)で盛んなようで、インド中部にも若干見られ、南インドにはさほど存在していないようだ。
(インドの地図はこちらからどうぞ)
こちらはDJ Tapas MTが在籍するDJ SarzenとHappy DJなるグループ(個人?)のコンペティションの様子。
B2Bみたいな形式なのか、どうやって対決しているのかまったく分からないが、北インドの田舎は90年代のロッテルダムなのか?と思わせる、重くて激しくて品のないハードコアテクノ風の音像がすごい。
こちらはオディシャ州のDJコンペティションの様子。
激しいのは音だけじゃなくて、照明もとにかく下世話な派手さを追求、さらにサウンドシステムはデコトラとも融合している!(紙吹雪も舞う)
センスの良さなんかいっさい追求せず、アドレナリンを喚起する要素だけをひたすら増しまくったスタイルには感動すら覚える。
こっちは西のほう、マハーラーシュートラ州プネーで行われたコンペティションの様子(音楽が本格的に始まるのは2:40過ぎから)。
今度はド派手な照明だけじゃなくて花火も登場!
そして音はもうほとんどノイズ!
プネーはEasy Wanderlingsとかセンスのいいバンドも多いし、もっと垢抜けた街だと思っていたけど、この動画で私のプネー観が崩れました。
インドで最も貧しい州とされるビハール州でのDJ Competitionの様子。
ラッパ型のスピーカー(ただの飾り?)が大量についたサウンドシステムがイカす。
NH7 WeekenderとかVH1 Supersonicみたいな大規模フェスとは縁がない土地だが、それでもこの盛り上がりっぷり。
この動画は直接リンクができなくなっているが、東インドのベンガル語圏のどこからしい。
こちらはまったく盛り上がっていないが、これはこれで逆にリアルでまた良い。
再びDJ Tapas MTに戻って、こちらは女神サラスヴァティのお祭りでのDJの様子。
女神のお祭りだから女性が前の方に集まって踊っているが、画面のいちばん右手、スピーカーの目の前で、歪んだベースに合わせてばあさんも踊っているのが最高!
サラスヴァティは日本に伝わってきて七福神の弁財天になった女神だが、日本で弁天様のお祭りでこういう音を鳴らそうっていう発想はまず出ないし、やったらたぶんめちゃくちゃ怒られる。
伝統的な行事の祝祭的狂騒が、時代に合わせてちゃんとアップデートされているのが素晴らしいではないか。
この手のインディアン田舎ハードコアテクノは、ヒンドゥー教の神様やお祭りと結びつくことも多いようで、こちらはガネーシャ神のお祭りにあわせたコンペティション用音源らしい。
途中でガネーシャ(別名のGanapatiで呼ばれている)を讃える子どもの声が入ったり、伝統楽器をノイズ風に使ったり、謎の長いブレイクが入ったりするところが、よく分からないが味わい深い。
スタジオ録音を聴くと、ライブで音が歪みまくっているのはディストーションをかけているわけじゃなくて単にスピーカーの音が割れていただけということが分かる。
むしろ、ライブでは音が割れてナンボ、みたいな美学があるのだろう(単に許容量を超えたでかい音を出そうとしているだけの可能性もあるが)。
こう言ってはなんだが、めちゃくちゃ下世話で頭が悪そうな音なのに、結果的にそれがエクスペリメンタルでパンクで超オリジナルになっているのが最高に面白い。
欧米の模倣ではない、インドの大地から生まれた、スノッブさ皆無のリアルでタフな生活に密着した狂乱のリズムとノイズ。
しかし、そこには、もしかしたらインドならではの暗い影の部分があるのではないか、という話はまた次回。
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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goshimasayama18 at 22:56│Comments(0)│インドのエレクトロニック・ミュージック