ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』について長々と語る在外インド系アーティストによるルーツへの愛があふれるミュージックビデオ (カリフォルニア編)

2023年09月06日

意外なコラボレーション!Komorebi, Easy Wanderlings, Dhruv Visvanath, Blackstratbluesが共作したドリームポップ



インドの音楽シーンは、基本的には都市や言語ごとに形成されているのだが、地域や言語の垣根を越えた共演もたびたび行われている。
それがまたお気に入りのアーティストの共演だったりすると、意外な繋がりにうれしくなってしまう。
今回はそんな曲を紹介したい。


今回のお話の主役となるのは、デリーを拠点に活動するエレクトロポップアーティストKomorebi.
彼女の新作に、プネーのドリームポップバンドEasy Wanderlings、デリーのシンガーソングライター/ギタリストのDhruv Visvanath、さらにはムンバイのギタリストBlackstratbluesが参加していて、これがかなり良かった。

Komorebi "Watch Out"


Komorebiは日本語のアーティスト名からも分かる通り、アニメなどの日本のカルチャーに影響を受けている。
ビジュアルイメージにも日本的な要素がしばしば取り入れられていて、このミュージックビデオの冒頭には、パワーパフガールズみたいなアニメっぽいポップ&カワイイテイストのイラストが採用されている。
(パワーパフガールズはアメリカの作品だけど、日本のアニメや特撮のオマージュ的な要素が強い作品ということで。そういえばNewJeansのEP "GetUp" でもパワーパフガールズっぽいイメージが採用されていたが、そろそろああいうテイストが懐かしい感じになっていてきるのか)



Komorebiが2020年にリリースしたEPのタイトルは、日本語で"Ninshiki".
収録曲のミュージックビデオにもやっぱり日本っぽい要素がたくさん出てくる。
最後の方になると、中国とか他の東アジア的要素も出てくるが、まあ日本人もインドとアラビアあたりを誤解したりしがちなので、そこはお互いさまかな。
要は、リアルな日本というわけではなく、アニメの舞台のようなエキゾチックでフィクション的な日本のイメージを借用したいのだろう。
どうぞどうぞ。


Komorebi "Rebirth"


サウンド的にはノルウェーのエレクトロポップアーティストAURORAっぽいようにも感じるが、KomorebiもAURORAもスタジオジブリ作品のファンという点で共通している。
二人とも、電子音楽だけどどこか自然や神秘を感じさせる音作りにジブリ好きっぽさが出ているような気がするが、どうだろうか。

そういえばKomorebiの"Watch Out"に参加しているプネー(ムンバイにほど近い学園都市)のドリームポップバンドEasy Wanderlingsの中心メンバーSanyanth Narothも、以前インタビューでスタジオジブリのファンであると語っていた。



"Watch Out"の美しいメロディーとハーモニーを聴いた時、てっきり楽曲提供もSanyanthだと思ってしまったのだが、作詞作曲はKomorebiことTaranah Marwahで、Easy Wanderlingsの担当はコーラスとフルートとのこと。
ハーモニーのアレンジひとつでここまで曲の雰囲気が変わるのかと驚いた。
Easy Wanderlingsについてはこのブログで何度も紹介しているので、耳にタコの人もいるかもしれないが、念のためあらためて2曲ほど紹介しておく。

Easy Wanderlings "Beneath the Fireworks"


Easy Wanderlings "Enemy"



"Watch Out"にアコースティックギターで参加しているDhruv Visvanath(名前の発音は、たぶんドゥルーヴ・ヴィスワナートでいいはず)は、Komorebiと同じくデリー出身のシンガーソングライター。
ギタリストとしても評価が高く、2014年にアメリカの'Acoustic Guitar'誌で「30歳以下の最も偉大なギタリスト30人」に選出されている。

彼の新曲は、ジャック・ジョンソンみたいに始まって、重厚なコーラスが印象的なダンサブルなポップスに展開する曲で、中年男性の追憶を描いたミュージックビデオもいい感じだ。

Dhruv Visvanath "Gimme Love"


インドには彼のように上質な英語ポップスを作るアーティストが結構いるのだが、国内のリスナーは英語よりも母語(ヒンディー語とかタミル語とか)の曲を好み、海外のリスナーはインド人が歌う英語の曲にほとんど注目していない。
英語で歌うインドのアーティストは、適切なマーケットがないというジレンマを抱えている。
「インターネットで世界中の音楽が聴けるようになった」とか言われているが、情報の流通や受容、そしてリスナーの心の中には、まだまだたくさんの壁があるのだ。


Dhruv Visvanath "Write"


個人的にはDhruv Visvanathに関しては、ギターも曲作りも良いのだけど、スムースすぎて心に引っかかる部分がないのがネックなのかもしれないな、とちょっと思う。
彼の曲をもう一曲だけ紹介。
珍しくエレキギターをフィーチャーした"Fly"は、卵を主人公にしたコマ撮りアニメが面白い。

Dhruv Visvanath "Fly"



Dhruv Visvanathがアコースティックの名ギタリストなら、ギターソロを弾いているBlackstratbluesことWarren Mendonsaは、今どきジェフ・ベックとかデイヴ・ギルモアみたいな(例えが古くてすまん)スタイルのエレキギターの名ギタリストで、ムンバイを拠点に活動している。

Blackstratblues "North Star"


ちなみに彼はボリウッド映画の作曲トリオとして有名なShankar-Ehsaan-Loyの一人Loy Mendonsaの甥でもある。

それにしても、エレクトロポップのKomorebiの作品に、バンドサウンドを基調としたドリームポップのEasy Wanderlings, アコースティックなフォークポップのDhruv Visvanath, 70年代風ギターインストのBlackstratbluesというまったく異なる作風のアーティストが参加しているというのが面白い。
強いて共通点を挙げるとすれば、彼らが全員、洋楽的な、無国籍なサウンドを追求しているということだろうか。
デリー、ムンバイ、プネーというまったく別の土地(ムンバイとプネーは同じ州だけど)のアーティストの共演というのがまた意外性があって良かった。
こういうコラボレーションにはぜひ今後も期待したいところだ。


話をKomorebiの"Watch Out"に戻すと、この作品はニューアルバム"Fall"からの2曲目のシングルで、1曲目はこの"I Grew Up"という曲。

Komorebi "I Grew Up"


冒頭の字幕に出てくるCandylandというのは5年前の彼女の楽曲のタイトルだ(ストーリー的なつながりはなさそうだが)。
この一連のミュージックビデオで、彼女はKianeというキャラクターを演じている。
9月8日リリースのアルバムで、さらにストーリーが展開されてゆくのかもしれない。

Komorebiの新作はかなり良いものになりそうなので、大いに期待している。
もちろん、共演しているアーティストたちの今後の活躍にも期待大だ。



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