こんな本が読みたかった!『デスメタル・インディア』インドのパーティーラップとストリートラップ、融解する境界線

2023年04月19日

(ほとんど)誰も知らない天才インディーポップアーティスト、Topshe

ウェブ版TRANSITのためにベンガルのインディペンデント音楽のプレイリストを作っていたときに、そうだ、Topsheの曲を入れようと思い立った。

Topsheというのは、コルカタ在住らしい男性シンガーソングライターだ。
10年近いキャリアがあるものの、それ以の情報はほとんどない。
率直に言うと、まだ無名であるがゆえに、メディアへの露出も少ないからだ。

ところが、彼はその無名っぷり反して、かなり質の高いインディーポップを作っている(と思う)。
例を挙げると、彼のキャッチーで品のあるメロディーセンスに最初に衝撃を受けたこの曲。

Topshe "The Best Time"


シュールというか意味不明なミュージックビデオに気を取られてしまうが、ここは楽曲自体の質の高さに注目してほしい。
サビの最後に女性ヴォーカルになるところなんてもう、やられた!って感じがする。

この曲も素晴らしい。

Topshe "1000 AQI"


ミュージックビデオはあいかわらず酷いが、アレンジも、後半のウォールオブサウンド的なコーラスワークも、すごくセンスがいい。
ベルベットのような心地よいサウンドは、同郷のドリームポップデュオで、海外での評価も高いParekh & Singhに勝るとも劣らない。
ところが、このTopshe、冒頭に書いたとおり、全然話題になっていないのである。

"The Best Time"のYouTubeでの再生回数は、なんとたったの773回、"1000AQI"でも1,953回に過ぎない。(いずれも2023年4月18日時点)
友達や親戚しか聴いてないのか?

Topsheが素晴らしいのは、いろいろなタイプの曲を書いていて、そのいずれもがとてもポップだということである。

Topshi "Language"


この曲の再生回数は1,170回。(2023年4月18日時点)
楽曲の質の高さは言うまでもないが、低予算すぎるミュージックビデオはあいかわらず謎。
ここまで紹介した3曲は、すべて2019年にリリースされた"Never A Romantic"というアルバムに収録されている。
ベースとバックヴォーカル以外は、全てTopsheによる演奏だそうで、マルチプレイヤーとしても安定した力量を持っていることが分かる。

それなのに、なぜこんなにもTopsheは無視され続けているのか。
ここまで無名だと、もしかして、彼の音楽を素晴らしいと思う自分の感覚のほうがおかしいんじゃないかという気すらしてくる。
歌が若干脱力系なのと、超安っぽいミュージックビデオのせいで、その感覚はより増幅される。
(狙ってるのか天然なのかは分からないが、おそらくは予算がなくて、なかばヤケクソで作ったのではないかと思う)

でも、今回改めて聴いてみて確信した。
Topshe、やっぱり、めちゃくちゃ良い(よね?)。

だいたい、ベンガルのアーティストは、その才能に比べて再生回数が伸びない傾向がある。
イギリスのPeacefrog Recordsとの契約を持ち、毎回お金のかかったミュージックビデオを制作するParekh & Singh(実家が大金持ち)は別として、ポップなメロディーを書くことに関しては非凡な才能を持つSayantika Ghoshだって、名曲"Extraordinary Love"のYouTube再生回数はたったの11,000回程度に過ぎない。
インドのインディペンデント音楽には、地域や言語による厳然とした格差が存在していて、例えばムンバイやデリーあたりのシンガーがヒンディー語で歌う楽曲と比べると、地方都市コルカタのアーティストによる、しかも英語で歌われる曲はかなり分が悪いのだ。
(ちなみにコルカタのインディーポップでも、この地域の公用語であるベンガル語で歌われる楽曲はより聴かれやすい傾向がある。例えばSayantika Ghoshのベンガル語曲"Aami Banglar"はYouTubeで40,000回以上再生されている。それでも、人気アーティストならインディーズ系でもすぐに100万再生くらいは超えてしまうヒンディー語圏の都市部とは比べるべくもないが)


シンプルなインディーロック風の曲も素晴らしいが、電子音楽系のプロデューサーPhiltersoupと共演した楽曲では、さらにポップなサウンドを披露している。

Topshe feat. Philtersoup "All I Want"


今回もまともなミュージックビデオを撮るお金はなかったようで、今度は猫ちゃん。
あいかわらず意味不明だけど、かわいいじゃねえか。
終盤の80年代っぽいギターとコーラスが入ってくるところなんて、もう抱きしめたくなってしまう素晴らしさだ。

Topshe feat. Philtersoup "Always Ends This Way"

この曲もたまらない。
Topshe、君は天才なんじゃないか。
Philtersoupくんもいい仕事してくれてありがとう。

現時点で最も再生回数の多い曲が、この"Meant To Be".

Topshe "Meant To Be"


2023年4月18日時点で、YouTubeで6,284回。
Spotifyでは19,183回。
派手な曲の少ない彼の曲の中でも、かなり地味な曲だと思うのだけど、どうしてこの曲が一番人気なのだろう。
いつものミュージックビデオもないし。

Topsheは、インドのインディーズシーンに数多いるもっともっとたくさんの人に聴かれて、評価されるべきアーティストの最右翼だ。
彼の才能は、生まれた場所やその土地の母語に関係なく、普遍的なポピュラー音楽(もっともマーケットの大きい英語で歌われる西洋的ポップスという意味で)の作家として讃えられるべきだろう。

でも、いつか彼が音楽で大金を手にして、予算はかかっているけどつまらないミュージックビデオを撮るようになったら、さみしい気持ちになるんだろうなあ。

音楽面の素晴らしいセンス同様に、そのわけのわからない映像センスもどうかそのままでいてほしい。





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goshimasayama18 at 21:56│Comments(0)

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