スヌープ・ドッグ! カイリー・ミノーグ! Akon! Nas! 世界的スターを起用したボリウッド映画の曲を紹介こんな本が読みたかった!『デスメタル・インディア』

2023年03月20日

インド映画音楽いろいろ!(2023年度版)


Radikoのタイムフリーで聞ける期間も終わった頃なので、こないだのJ-WAVEの'SONAR MUSIC'のインド映画音楽特集で紹介した音楽を改め紹介しておきます。

最初に自分の立ち位置をはっきりさせておくと、私はインドのインディー音楽シーンを追いかけている人間なので、メインストリームである娯楽映画に対しては、そのエンタメとしての途方もないパワーに敬意を抱きつつも、なんつうか、ちょっとアンビバレンツな感情を抱いていた。
音楽は映画の奴隷じゃねえぞ、みたいなね。
(注:インド映画というカルチャーをディスるつもりは全くないです。「ミュージシャンが自主的に表現しているものこそが音楽」という先入観に囚われた人間の断末魔として捉えてください)

とはいえ、インディー文化を語るにはメインストリームも知っておかないといけない、と思ってチェックしてみると、映画音楽には、欧米のトレンドを躊躇なく取り入れて、見事にインディアナイズした面白くてかっこいい曲がたくさんある。
さすが巨大産業。

そもそも、誰もが表現者になれるこのご時世、メジャーな枠組みのなかで真摯な表現を追求している人もいれば、完全にインディペンデントでもマーケティング的にバズりを狙っている人もいるのはあたり前な話で、メインストリームとかインディペンデントとか分けて考えること自体が無意味なのかもしれない。
たぶん、自分は「どこで誰かどんな音を鳴らしているか」にこだわり過ぎていたのだ。
単純に音としてカッコいいものを味わうことを忘れていたのかもしれない。

というわけで、だいたい2000年以降のインド映画の音楽からピックアップしたカッコよかったり面白かったりする曲を紹介してみます。

諸般の事情でオンエアすることができなかった曲もたくさんあるので、それはまた別の機会に紹介したい(本当はサウスの曲をもっと入れたかった)。

後半が最近の曲になっています。



映画:『ガリーボーイ』("Gully Boy"/2018年/ヒンディー語)
曲名:"Mere Gully Mein"



このブログで何度も書いている通り、『ガリーボーイ』のこの曲は「映画のために作られた専門の作曲家/作詞家による曲」ではなく、映画のモデルとなったラッパーのDIVINEとNaezyのオリジナル曲。
ストリートラッパーの曲がほぼそのままの形でボリウッド映画に起用されるというのは、前列のない事件だった。

この映画バージョンでは、オリジナル音源で主人公ムラドのモデルNaezyがラップしていたパートを主役を務めたランヴィール・シン自らがラップしている。
相棒のMCシェールのパートは、モデルとなったDIVINEのラップにシッダーント・チャトゥルヴェーディがリップシンク。
アメリカで生まれたヒップホップという文化がインドの階級社会の中でどんな意味を持ち得るのか、それを大衆娯楽であるボリウッドの中で、それをどう表現できるのかという点に果敢に挑んだ意欲作だ。



映画:『カーラ 黒い砦の闘い』("Kaara"/2018年/タミル語)
曲名:"Semma Weightu"



『ガリーボーイ』と同じ年に公開されたタミル語作品で、舞台も同じムンバイのスラム街ダラヴィ。
主演はタミル映画の「スーパースター」ラジニカーントで、監督は自らもダリット(被差別階級)出身のPa. Ranjith.
彼は反カーストをテーマにしたフュージョンラップグループCasteless Collectiveの発起人でもある。
ダラヴィといえばヒップホップという共通認識があるのか、特段ヒップホップ要素のないこの作品でも、サウンドトラックはラップの曲が多く採用されていて、実際にダラヴィ出身のタミル系ラッパーがミュージカルシーンにも出演している。
タミル映画となると、同じダラヴィが舞台のラップでもボリウッド(ヒンディー語作品)と違って、映像も音楽もこんなに濃くなる。



映画:『君が気づいていなくても』"Jaane Tu Ya…Jaane Na"(2008年/ヒンディー語)
曲名:"Pappu Can't Dance" 


映画音楽特集ということで、現代インド映画音楽の最大の偉人、A.R.ラフマーンの曲を何かひとつ紹介したいと思って選曲したのがこの曲。
ラフマーンといえば、1997年に日本で大ブームを巻き起こした『ムトゥ 踊るマハラジャ』の音楽を手掛けたタミル出身の音楽家で、ミック・ジャガー、ダミアン・マーリー、ジョス・ストーン、デイヴ・スチュアート(元Eurhythmics)と結成したプロジェクトSuperheavyを覚えている人もいるだろう。

ラフマーンはインド古典音楽から西洋クラシック、クラブミュージックまで幅広い音楽的素養のある人で、映画の内容によってその作風は千変万化する。
今回はとくにインドに興味のないリスナーの方にも面白いと思ってもらえそうな曲を選んでみた。
この曲は2008年の映画に使われた曲で、お聴きいただいて分かる通り、ビッグビート的なテクノサウンドをインド映画音楽に違和感なく導入した、彼の才能と大衆性が伝わる一曲だと思う。
2008年といえば、日本ではPerfumeの『ポリリズム』がヒットした頃で、J-Popにクラブミュージックを取り入れる方法論が提示された年でもあったわけだが、同じようなことがじつはインドでも起こっていたのだ。
ローカルな音楽シーンにクラブミュージック的な高揚感を導入する様式が確立する時代だったのか。
他の地域に関しては分からんけど。

この曲が使われた"Jaane Tu Ya...Jaane Na"は、今現在(2023年3月)Netflixで『君が気づいていなくても』という邦題で日本語字幕で見られるようなので、興味がある方はチェックしてみてください。
アーミル・カーンの甥のイムラーン・カーン主演のロマンチック・コメディとのこと。



映画:"Gangubai Kathiawadi"(2022年/ヒンディー語) 曲名:"Dholida"


番組後半からは、最近の映画の曲を厳選して紹介しています。
前半で紹介したのがヒップホップとかエレクトロニック系の曲ばかりだったので、オールドスクールなインドっぽい曲を紹介しようと思って選んだのがこの曲。
欧米のダンスミュージックを取り入れなくても、インドの伝統的なパーカッションと歌だけでこんなにかっこいいグルーヴが出せるということを示したかった。
インド音楽的には、ベースが入っているところとコーラスがハーモニーになっているところが現代的なアレンジと言えるだろうか。
インドの音楽にはもともと通奏低音や和声といった概念がなく、例えば90年代頃でも、伝統的なアレンジの映画音楽にはベースが入っていなかった。

映画はNetflix制作の"Gangbai Kathiawadi".
『RRR』や『ガリーボーイ』でもヒロインを務めていたアーリヤー・バットが実在したムンバイの娼館の女ボスを演じている。
映画としては、主人公を性産業で働く女性たちの権利のために立ち上がる存在として描いているところに現代的な味付けがあると言えるか。
Netflixの言語設定を英語にすると英語字幕で見ることができる。



映画:『ダマカ テロ独占生中継』(2021年/ヒンディー語) 曲名:"Kasoor (Acoustic)"


こちらもNetflix映画の曲で、この作品(『ダマカ テロ独占中継』)は日本語字幕で見ることができる。
面白いのは、この映画が韓国映画の『テロ、ライブ』という作品のリメイクだということ。
それが、海外資本によるネット配信作品として公開されるという、新しいタイプのインド映画だと言えるだろう。
この曲はインドのインディー音楽シーンで最高のシンガーソングライターと言っても過言ではないPrateek Kuhadの既発曲で、映画のために作られた曲ではなくて既存の曲が起用されたという点でも新しい。
"Kasoor"はこのブログでも何度も紹介してきた名曲中の名曲。
映画に使用されているのはそのアコースティックバージョンだ。



映画:"Pathaan"(2023年/ヒンディー語) 曲名:"Besharam Rang"


EDM的かつラテン的という近年のボリウッドのトレンドをばっちり取り入れた曲ということで選んだのがこの曲。
ヒンディー語の歌以外のトラック部分は、欧米のヒットチャートに入っていても全く違和感のない音作りで、そういう意味では日本よりも「進んでいる」とも言える。
ヨーロッパロケのミュージカルシーンも、ディーピカー・パードゥコーンが披露するヒップホップ的な挑発的セクシーさも、今のボリウッド現代劇を象徴しているかのようだ。

音楽を手掛けているのは2000年代以降のボリウッドに洋楽的な洗練を持ち込んだ二人組Vishal-Shekhar.
メンバーのVishal Dadlaniは1994年に結成されたインダストリアル・メタルバンドPentagramでのメンバーでもあった。

映画は今年1月に公開されたシャー・ルク・カーン4年ぶりの主演作である国際スパイ・アクション"Pathaan".
(3月27日追記:2月に公開、5年ぶりと書いてしまってましたが、コメント欄でご指摘いただいて修正しました)
日本公開が待たれる作品である

今回紹介できなかった曲は、また改めて書きたいと思ってます!




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goshimasayama18 at 23:32│Comments(2)インド映画 

この記事へのコメント

1. Posted by パターンの表記がちがいます。   2023年03月27日 14:46
公開は1月25日、シャールクは4年ぶりですね。
2. Posted by 軽刈田 凡平   2023年03月27日 22:03
ご指摘ありがとうございます

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