『響け!情熱のムリダンガム』トークの補足! インド・フュージョン音楽特集インド製カントリーポップの世界! (インドは日本の100倍くらいアメリカだった)

2022年10月25日

インドの最新ラテン・ポップ事情!


ずいぶん前にも書いたことがあるのだが、不思議なことに、「インド」と「ラテン」の組み合わせってやつは、妙に相性が良い。


掘りが深い顔立ちに、やたらとダンスが好きな国民性、感情表現がストレートなところ、ノリがいいようでいて保守的なところ、根拠不明な自信がありそうなところ、男性は前髪を4センチくらい立てたうえでオールバックにする、みたいな髪型が好きなところ、などなど、例を挙げればキリがない。(思いっきりステレオタイプな表現になってしまっていて申し訳ない)

スペイン(アンダルシア地方)のフラメンコを生み出したとされるロマの人たちのルーツはインドのラージャスターンあたりだというし、そのルーツの一端をスペインに持つカリブ〜北米地域のヒスパニック系音楽とインドが繋がるのも分からなくもない…なんて無理やりなこじつけもできそうだが、本当のところは分からない。
たぶん、当のインド人たちもどうしてそんなにラテン系の音楽が好きなのかわかっていないのだと思う。
とにかく、その相性の良さは実際に聴いて(映像を見て)みれば一発で分かるはず。
というわけで、今回は、インドでもてはやされるラテン風音楽を紹介してみたい。

まずはパンジャービー系パーティーラップの雄Badshahから。
今年4月にリリースした"Voodoo"では、コロンビア出身のレゲトン・シンガーJ Balvinとのコラボレーションを実現。
J Balvinは米国をはじめ世界各地のアーティストとコラボレーションしているが、スペイン語以外では絶対に歌わないという一本筋の通ったシンガーだ。
Badshahが意図的に本格的ラテン風味を取り入れようとしたことが分かる人選である。

Badshah, J Balvin, Tainy "Voodoo"


タイトルの通り、ハイチ発祥のヴードゥー(ゾンビの元ネタになった信仰)をテーマにしたミュージックビデオだが、ヴードゥー的な演出がインドのサドゥー(ヒンドゥーの世捨て人的な修行者)っぽくも見えるのが面白い。

こちらは最近Badshahが関わったまた別の曲。

AJWAVY, Badshah, Anirudh Ravichander, Diljit Dosanjh, Aastha Gill, Dhanush "Desi Bop"


こちらもまた四つ打ちのレゲトン・ポップ的な曲調。
JP THE WAVY(日本のラッパーね)みたいな名前のAJWAVYはインスタ出身のインフルエンサーだそうで、このチャラいダンスポップがばっちりはまっている。
モダン・バングラーの人気シンガーDiljit Dosanjhや、ポップス系シンガーソングライターのAastha Gillなど、共演陣がやたらと豪華だが、これはインドの軽薄系インディーカルチャーが、旧来のメインストリームを飲み込むほどの勢いを持っていることを意味しているのだろう。
冒頭で使われている気だるい雰囲気の曲は、タミル映画界のスターDhanushが歌って大ヒットを記録した2012年の映画 "3" の挿入歌 "Why This Kolaveri Di".
Dhanushの名前もこの楽曲にクレジットされている。


ダンスポップ系ではなく、珍しく生バンドでラテン音楽をやっているのが、ヒンディー・ロックバンドのApricot.

Apricot "Nazrana"


曲は0:48くらいから。
昔、野口五郎がカバーしてたサンタナの曲("Smooth"だっけか)みたいな曲調にラテン風味満載のこのミュージックビデオ。
ケレン味たっぷりのラテン的かっこつけ方がインド人に超似合ってる!
だんだんメキシコとインドの境い目が分からなくなってくる一曲だ。


ムンバイの女性シンガー、Andi Starの"In Love With You"のギター・アレンジも哀愁ポップ系のラテン全開でめちゃくちゃ気持ちいい。

Andi Star "In Love With You"


彼女はまだほぼ無名の存在だが、激甘ポップなメロディを書くことに関しては非凡なセンスを持っているようだ。(この"Last Night"という曲にはやられた!)
これからも注目してゆきたいシンガーだ。


ところで、インドのラテン系音楽はパンジャーブからムンバイあたりにかけて存在しているものとなんとなく思っていた。
パンジャーブの豪放さが陽気なラテンのイメージと重なり、北インドのエンタメの中心地であるムンバイもまた、いい味で軽薄なラテンポップのノリと繋がるイメージがあるからだろう。
ところが、ラテンポップはパンジャーブ/ムンバイのみならず、インド全土にがっつり根付いているようなのだ。

意外なところでは、文化的地方都市の印象が強いコルカタを拠点に活動しているDJ/音楽プロデューサーのREICKことKoushik Mukherjeeも、こんなラテンポップ的な曲をリリースしている。

REICK ft. Jimmy Burny "Good Love"


共演しているJimmy Burnyはブラジル人で、世界中のいろいろなアーティストの曲で客演しているシンガーだ。
おそらくREICKともインターネットを通してつながったものと思われるが、こうした海外のミュージシャンとの共演も、EDMをはじめとする「グローバル」な音楽性のインドのアーティストによく見られる傾向だ。

インドらしさ皆無のミュージックビデオはどこかの映像素材だろうか。
無国籍な雰囲気を出したかったのだろうけど、個人的には、音楽性は無国籍でも、映像はどこかインドっぽいほうが好みではある。


All OK "Mallige Hoova"


ラテン系音楽の波はもちろん南インドにも達していて、この曲はカンナダ語のレゲトン風ナンバー。
ロケ地はシンガポールとのこと。
All OKはカンナダ語圏の人気ラッパーで、9月にリリースしたこの動画のYouTubeでの再生回数は200万回を超えており、他の曲も軒並み数百万から数千万再生されるほどの人気っぷり。

カンナダ語圏はレゲトンと親和性が高いのか、3年ほど前だがこんな曲もあった。

ViRaj Kannadiga ft Ba55ick "Juice Kudithiya"


「(飲んでるのは酒じゃなくて)ジュースですぜー」というコミックソングで、このそこはかとないダサさがたまらない。
何が言いたいのかというと、北も南も、インドは全面的にラテンポップが人気だということなのである。
もしかしたら、特段ラテンなサウンドに惹かれているわけではなく、単にUSヒットチャートの上位にあるようなサウンドを模倣しているだけという可能性もあるが、それにしたってヒスパニックとはまったく異なるルーツを持つ彼らが、ここまでラテンな曲を作っているというのは、やはり何かがあるような気がする。


さっき、パンジャーブ的な豪放さとラテンの陽気なイメージが重なる、と書いたが、ひとまず他の地域やスタイルの音楽は置いておいて、バングラーとレゲトンに注目して見てみると、両者を融合したリミックスや「踊ってみた」系の動画が結構ヒットする。
(バングラーはインド北西部からパキスタンにかけて位置するパンジャーブ地方の伝統音楽/ダンスで、イギリスや北米に移住したパンジャーブ人たちは、この郷土のリズムをヒップホップやダンスミュージックと融合して、今日のインドにおける現代的ダンスポップの礎を築いた…という話は何度も書いているが、一応改めて付記しておく)








結構無理矢理な感じのものもあるが、やはりインド(少なくともパンジャーブ)とラテンはどこか根底的なところで繋がっているんじゃないか、と改めて感じる。

例によってこれといった結論はないのだけど、バングラー的ラテンポップに関しては、パンジャーブ系移民が多いイギリスあたりから、そろそろ世界的に注目される面白いものが出てきてもいいんじゃないか、と思うんだけど、さて、どうだろうか。


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goshimasayama18 at 23:17│Comments(0)

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